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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-64243(P2017-64243A)
(43)【公開日】2017年4月6日
(54)【発明の名称】生体監視システム及び生体監視方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/11 20060101AFI20170317BHJP
   A61B 5/00 20060101ALI20170317BHJP
【FI】
   A61B5/10 310A
   A61B5/00 102A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-195770(P2015-195770)
(22)【出願日】2015年10月1日
(71)【出願人】
【識別番号】516355667
【氏名又は名称】澤田 栄夫
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】澤田 栄夫
【テーマコード(参考)】
4C038
4C117
【Fターム(参考)】
4C038VA04
4C038VB31
4C038VC20
4C117XA01
4C117XB02
4C117XD22
4C117XD23
4C117XD24
4C117XD26
4C117XE26
4C117XE52
(57)【要約】
【課題】処理回路(プロセッサ)の負担を軽減して消費電力の低減を図り、かつ、監視対象の状態を迅速に把握することができる生体監視システム及び生体監視方法を提供する。
【解決手段】監視空間に電波センサ10を設置し、その検出信号に基づいて監視対象が活発に動いているか否かを判断する。肯定結果であれば監視対象は正常な状態であると判定する。否定結果であれば検出信号に基づいて監視対象が呼吸しているか、又は呼吸が極めて穏やかかを判断する。前者であれば監視対象は正常な状態と判定し、呼吸数を計測する。後者であれば検出信号に基づいて監視対処の心拍が動いているか否かを判定する。肯定結果であれば監視対象が正常な状態であり、否定結果であれば監視対象が異常な状態であると判定して、異常である旨を通報する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波を生体に照射し、その反射波を利用して生体の動きを感知する電波センサと、
前記電波センサから出力された検出信号を処理する信号処理装置と、を備え、
前記信号処理装置は、
前記電波センサから出力された前記検出信号の振幅が、解析しようとする対象部位に基づく体動信号より、10倍〜100倍以上大きい値を示す場合には、当該対象部位の体動信号を解析することなく監視対象が正常であると判定する生体監視システム。
【請求項2】
電波を生体に照射し、その反射波を利用して生体の動きを感知する電波センサと、
前記電波センサから出力された検出信号を処理する信号処理装置と、を備え、
前記信号処理装置は、
前記電波センサから出力された前記検出信号の振幅が、微小な心拍に基づく体動より、10倍〜100倍以上大きな呼吸に基づく体動を示す場合には、心拍に基づく体動を解析することなく監視対象が正常であると判定する生体監視システム。
【請求項3】
請求項1あるいは請求項2に基づく簡素化監視処理により、微細で詳細な生体情報の解析に要する処理回路の負荷を軽減する生体監視システム。
【請求項4】
請求項3に基づき、軽減された処理回路の負荷を他の電波センサ、あるいは他の日常生活監視センサの処理に振り向ける生体監視システム。
【請求項5】
請求項4に基づき、軽減された処理回路の負荷を監視対象者の行動監視ないし状態確認が可能な他のセンサ処理に振り向けて、前記センサから得られる情報により監視対象者の状態の再確認を行うことにより、単一の電波センサによる生体監視での過剰検出や誤検出の割合を低減し、精密な監視情報を提供する生体監視システム。
【請求項6】
電波を生体に照射し、その反射波を利用して生体の動きを感知する電波センサと、
前記電波センサから出力された検出信号を処理する信号処理装置と、を備えた生体監視システムにおける生体監視方法であって、
前記信号処理装置は、
前記電波センサから出力された前記検出信号の振幅が、微小な呼吸や心拍に基づく体動より、10倍〜100倍以上大きな体動を示す場合には、呼吸や心拍に基づく体動を解析することなく監視対象が正常であると判定する生体監視方法。
【請求項7】
電波を生体に照射し、その反射波を利用して生体の動きを感知する電波センサと、
前記電波センサから出力された検出信号を処理する信号処理装置と、を備えた生体監視システムにおける生体監視方法であって、
前記信号処理装置は、
前記電波センサから出力された前記検出信号の振幅が、微小な心拍に基づく体動より、10倍〜100倍以上大きな呼吸に基づく体動を示す場合には、心拍に基づく体動を解析することなく監視対象が正常であると判定する生体監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生体監視システム及び生体監視方法に係り、特に電波センサを用いて非接触により生体の状態を監視する生体監視システム及び生体監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、監視対象である人や動物などの生体の生体情報(呼吸、心拍等)を電波センサにより非接触により検出し、監視対象(生体)の状態を監視する生体監視装置が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
電波センサは、監視対象に電波を照射してその反射波を検出し、検出した信号を解析することで監視対象の動き等を検出するものであり、特にその検出原理としてドプラ効果を利用したドプラセンサが一般的に知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3057438号公報
【特許文献2】特開2009−060989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の生体監視装置は、監視対象がどのような状態であっても、電波センサから得られた検出信号に基づいて予め決められた全ての生体情報についての解析を行うため、監視対象の状態によっては解析困難又は解析不要な生体情報の解析まで行うものとなっている。そのため、処理回路の負荷が不要に大きいことから消費電力が大きく、また、監視対象の状態の把握が遅延してしまうという問題もあった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、処理回路(プロセッサ)の負担を軽減して消費電力の低減を図り、かつ、監視対象の状態を迅速に把握することができる生体監視システム及び生体監視方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一態様に係る生体監視システムは、電波を生体に照射し、その反射波を利用して生体の動きを感知する電波センサと、電波センサから出力された検出信号を処理する信号処理装置と、を備え、信号処理装置は、電波センサから出力された検出信号の振幅が、解析しようとする対象部位に基づく体動信号より、10倍〜100倍以上大きい値を示す場合には、当該対象部位の体動信号を解析することなく監視対象が正常であると判定する。
【0008】
本態様によれば、解析する生体情報をできるだけ少なくして監視対象が正常か否かを把握することができ、かつ、解析困難な生体情報の解析を行わないようにすることができる。
【0009】
即ち、検出信号の振幅が微小な呼吸や心拍に基づく体動より、10倍〜100倍以上大きな体動を示す場合には、監視対象の体動(全体的な動き)が大きいことから監視対象が活発に動いていると判断することができ、監視対象が正常な状態であると判定される。
【0010】
電波を生体に照射して得られる反射波の振幅は、概ね(生体)対象部の動きのある部分の表面積に比例し、一般的に活発に体を動かしている時の動きの体積は、呼吸や心拍に伴う体の動きの体積の概ね100倍から10万倍ほどの違いがあり、このとき、呼吸や心拍に関する生体情報については情報取得や解析が困難で、多くの処理時間を要する場合がある。また、活発に体を動かしている時には、呼吸と心拍も当然に行われていると想定され、他の部屋への移動動作の最中なども想定されることから、監視対象が正常か否かの判断等においては呼吸や心拍に関する生体情報の解析は不要である。
【0011】
このようなことから、検出信号の振幅が微小な呼吸や心拍に基づく体動より、10倍〜100倍以上大きな体動を示す場合には、呼吸や心拍に関する生体情報の解析が行われないため、処理回路の負担が軽減され、また、監視対象の状態が迅速に把握される。
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の他の態様に係る生体監視システムは、電波を生体に照射し、その反射波を利用して生体の動きを感知する電波センサと、電波センサから出力された検出信号を処理する信号処理装置と、を備え、信号処理装置は、電波センサから出力された検出信号の振幅が、微小な心拍に基づく体動より、10倍〜100倍以上大きな呼吸に基づく体動を示す場合には、心拍に基づく体動を解析することなく監視対象が正常であると判定する。
【0013】
一般的に呼吸による体の動きの体積は、心拍に伴う体の動きの体積の概ね100倍以上の違いがあり、このとき、心拍に関する生体情報については、情報取得に困難さが伴い解析は困難である。また、心拍も当然に行われていると想定されることから、監視対象が正常か否かの判断等においては心拍に関する生体情報の解析は不要である。
【0014】
このようなことから、検出信号の振幅が微小な心拍に基づく体動より10倍〜100倍以上大きな呼吸に基づく体動を示す場合には、心拍に関する生体情報の解析が行われないため、呼吸数の計測に対して、さらに平行に処理すべき次のデータ採取と解析、他センサとの通信や他の処理装置などとの連携処理に対して処理回路の処理能力の多くが割り当てられて高精度かつ迅速に呼吸数の計測を行うことができ、また、監視対象の状態が迅速に把握される。
【0015】
本発明の他の態様に係る生体監視システムにおいて、上記の簡素化監視処理により、微細で詳細な生体情報の解析に要する処理回路の負荷を軽減する態様とすることができる。
【0016】
また、本発明の他の態様に係る生体監視システムにおいて、軽減された処理回路の負荷を他の電波センサ、あるいは他の日常生活監視センサの処理に振り向ける態様とすることができる。
【0017】
また、本発明の他の態様に係る生体監視システムにおいて、軽減された処理回路の負荷を監視対象者の行動監視ないし状態確認が可能な他のセンサ処理に振り向けて、センサから得られる情報により監視対象者の状態の再確認を行うことにより、単一の電波センサによる生体監視での過剰検出や誤検出の割合を低減し、精密な監視情報を提供する態様とすることができる。
【0018】
また、上記目的を達成するため、本発明の一態様に係る生体監視方法は、電波を生体に照射し、その反射波を利用して生体の動きを感知する電波センサと、電波センサから出力された検出信号を処理する信号処理装置と、を備えた生体監視システムにおける生体監視方法であって、信号処理装置は、電波センサから出力された検出信号の振幅が、微小な呼吸や心拍に基づく体動より、10倍〜100倍以上大きな体動を示す場合には、呼吸や心拍に基づく体動を解析することなく監視対象が正常であると判定する。
【0019】
また、上記目的を達成するため、本発明の一態様に係る生体監視方法は、電波を生体に照射し、その反射波を利用して生体の動きを感知する電波センサと、電波センサから出力された検出信号を処理する信号処理装置と、を備えた生体監視システムにおける生体監視方法であって、信号処理装置は、電波センサから出力された検出信号の振幅が、微小な心拍に基づく体動より、10倍〜100倍以上大きな呼吸に基づく体動を示す場合には、心拍に基づく体動を解析することなく監視対象が正常であると判定する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、処理回路(プロセッサ)の負担を軽減して消費電力の低減を図り、かつ、監視対象の状態を迅速に把握することができ、平行に処理すべき次のデータ採取と解析、他センサとの通信や他の処理装置などとの連携処理が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明が適用される生体監視システムの概略構成図
図2】本発明が適用される生体監視システムの内部構成図
図3】生体監視システムにおける信号処理装置が実施する処理の処理手順を示したフローチャート
図4】生体監視システムにおける信号処理装置が実施する処理の処理手順を示したフローチャート
図5】電波センサから得られる検出信号を周波数スペクトルで表したグラフ
図6】電波センサから得られる検出信号を例示した図
図7】電波センサから得られる検出信号から呼吸領域の周波数成分のみを抽出した第1抽出信号を例示した図
図8】電波センサから得られる検出信号から心拍領域の周波数成分のみを抽出した第2抽出信号を例示した図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について詳説する。
【0023】
図1は、本発明が適用される生体監視システムの概略構成図である。
【0024】
同図に示す生体監視システム1は、監視対象である人(人体)や動物等の生体の動作(移動)、生体情報(呼吸、心拍等)を監視対象の状態を示す状態情報として非接触により検出し、監視者(監視対象本人や監視対象の家族等)が監視対象の状態を監視できるようにした装置である。
【0025】
生体監視システム1は、電波を監視対象である生体に照射し、その反射波を利用して監視対象の動きを感知する電波センサ10と、電波センサ10からの検出信号を処理し、監視対象の状態の判別や監視者等に提供する情報の生成などを行う信号処理装置12と、監視対象の状態に関する情報の出力等(表示、印刷等)を行う情報出力装置14とを有する。
【0026】
電波センサ10は、監視対象が生活する部屋などの監視空間の天井や壁などに設置される。また、図1では1つの部屋に1つの電波センサ10が設置される形態を示すが、複数の電波センサ10が1又は複数の部屋(監視空間)に設置され、それらが1つの信号処理装置12に接続される形態としてもよい。
【0027】
信号処理装置12は、監視空間や監視空間以外の所望の場所に設置され、例えば所定の部屋の設置されるパーソナルコンピュータにより構成される。
【0028】
情報出力装置14は、監視者や監視対象の本人が所持する例えばスマートフォンのような携帯端末を示し、信号処理装置12と通信可能に接続される。
【0029】
なお、情報出力装置14と信号処理装置12との接続は、インターネット、携帯電話回線等の任意の通信回線を介したものとすることができる。
【0030】
図2は、生体監視システム1の内部構成を示したブロック図である。
【0031】
本実施の形態では同図の電波センサ10は、無変調CW(Continuous Wave)方式とFMCW(Frequency-Modulated Continuous Wave)方式とに動作モードの切替えが可能な例えばマイクロ波センサであり、前者の動作モード(以下、無変調CWモードという)時には監視対象の動きの速度に対応した周波数成分の信号を含む検出信号を出力し、後者の動作モード(以下、FMCWモード(距離計測モード)という)時には監視対象までの距離に対応した周波数成分の信号を含む検出信号を出力する。
【0032】
その電波センサ10は、同図に示すように所定の周波数の送信信号を生成する発振器32と、発振器32からの送信信号を電波である送信波に変換して監視空間に送波する送信アンテナ34と、送信アンテナ34から送波されて監視空間において反射された反射波を受波して電気信号である受信信号に変換する受信アンテナ36と、受信アンテナ36からの受信信号に発振器32からの送信信号を混合する混合器38と、混合器38により得られた混合信号に基づいて電波センサ10から出力する検出信号を生成するセンサ出力部40と、を有する。
【0033】
発振器32は、無変調CWモード時には一定周波数fc0の正弦波信号を送信信号として出力し、FMCWモード時には周波数fc0の正弦波信号に対して所定の周波数変調幅Δf、所定の周期TのFM変調をかけたFM変調信号を送信信号として出力する。
【0034】
混合器38は、受信アンテナ36からの受信信号に発振器32からの送信信号を混合することにより、受信信号の周波数と送信信号の周波数との差分周波数を周波数成分として含む混合信号を生成する。
【0035】
センサ出力部40は、例えばローパスフィルタや増幅器を含み、混合器38により出力された混合信号からローパスフィルタにより所定の遮断周波数よりも低い低周波成分の信号を抽出し、抽出した信号を所定の倍率で増幅する。これによって、受信アンテナ36からの受信信号と発振器32からの送信信号との差分周波数を周波数成分とする検出信号が生成され、その検出信号が電波センサ10の出力信号として出力される。
【0036】
従って、無変調CWモードにおいて電波センサ10から出力される検出信号は、監視対象の動く速度に応じた周波数(ドプラ周波数)で振動し、動く部分の体積が大きいほど大きな振幅になるという特性を示す。
【0037】
一方、FMCWモードにおいて電波センサ10から出力される検出信号は、電波センサ10から監視対象までの距離に応じた周波数で振動するという特性を示す。
【0038】
なお、電波センサ10は、検出信号として相互に位相が90度異なるIn−phase(同相)のIチャンネル信号とQuadrature−phase(直交相)のQチャンネル信号とをセンサ出力部40から出力する態様のものであってもよい。その場合において、本実施の形態では監視対象の動きの方向を考慮しないことから、Iチャンネル信号とQチャンネル信号の両方は不要であるため、Iチャンネル信号とQチャンネル信号のいずれか一方を検出信号として用いてもよいし、Iチャンネル信号とQチャンネル信号とから上記特性を有する検出信号を生成するようにしてもよい。
【0039】
また、電波センサの動作モードを切り替えるのではなく、無変調CWモードで動作する電波センサとFMCWモードで動作する電波センサとを別々に備えていてもよい。
【0040】
信号処理装置12は、電波センサ10から出力された検出信号をアナログ信号からデジタル信号に変換して取り込むA/D変換器52と、A/D変換器52により取り込まれた検出信号に基づいて監視対象の状態を判別し、判別結果に応じた処理(解析)等を行う解析部56と、電波センサ10及び信号処理装置12の統括的な制御を行う統括部58と、解析部56の解析結果や監視対象の異常の通報などの情報出力装置14に出力する情報を生成する出力情報生成部60と、情報出力装置14と信号処理装置12(出力情報生成部60)とを通信可能に接続する通信部62とを有する。
【0041】
また、解析部56は、第1制御部56A〜第4制御部56D、距離検出部56Eを有し、統括部58は、判定部58A、異常通報部58B、モード切替部58Cとを有する。
【0042】
以下において、生体監視システム1の作動中において信号処理装置12が繰り返し実施する一連の処理の処理手順を示した図3及び図4のフローチャートを用いて信号処理装置12の解析部56、統括部58等の具体的な処理内容について説明する。なお、生体監視システム1の作動中において図3及び図4の処理が終了すると、所定の条件が満たされたとき、例えば他の処理が終了したときや一定時間が経過したとき等に図3の処理が再度実施される。
【0043】
まず、ステップS10では、統括部58のモード切替部58Cは、電波センサ10の動作モードをFMCWモード(距離計測モード)に設定する。そして、解析部56の距離検出部56Eは、電波センサ10からの検出信号に基づいて電波センサ10から監視対象(体動重心)までの距離D1を検出(測定)する。例えば、FMCWモードの電波センサ10からの検出信号には、上述のように電波センサ10から監視対象までの距離D1に応じた周波数成分の信号が含まれており、検出信号をFFT等により周波数解析することで距離D1が求められる。
【0044】
そして、距離D1の測定が終了すると、統括部58のモード切替部58Cは、電波センサ10の動作モードを無変調CWモード(ドプラセンサモード)に切り替える。
【0045】
なお、ステップS10は所定時間間隔ごと(例えば5秒ごと)に実施され、最も新しく求められた距離をD1とすると、1回前に求められた距離D1を距離D2として記憶する。
【0046】
ステップS12では、解析部56の第1制御部56Aは、電波センサ10からの検出信号が暗ノイズより大きいか否かを判定する。即ち、検出信号の振幅が所定の閾値よりもよ大きいか否かを判定する。
【0047】
その結果、NOと判定した場合には、監視対象(生体)が存在しないと判定して以下の処理を実施せずに本フローチャートの処理を終了する。
【0048】
一方、YESと判定した場合には、監視対象が存在すると判定してステップS14に移行する。
【0049】
ステップS14では、解析部56の第1制御部56Aは、電波センサ10からの検出信号の振幅Sと事前に決められた所定の第1閾値T1とを比較し、振幅Sが第1閾値T1より大きい(S>T1)か否かを判定する。なお、以下において振幅という場合には一定時間内における信号の最大値と最小値との差を示すものとする。
【0050】
その結果、図6(A)の検出信号のようにS>T1が満たされてYESと判定した場合には、ステップS16に移行し、監視対象が活発に動いている状態と判別する。そして、ステップS42に移行する。
【0051】
一方、図6(B)の検出信号のようにS>T1が満たされずにNOと判定した場合には、ステップS18に移行し、監視対象の体動が穏やかな状態と判別する。そして、ステップS20に移行する。
【0052】
ステップS20では、解析部56の第2制御部56Bは、電波センサ10からの検出信号を所定の増幅率(例えば10〜100倍程度)で増幅する。そして、検出信号から呼吸領域の周波数帯域である第1周波数帯域の信号成分を抽出して第1抽出信号を生成し、ステップS22に移行する。
【0053】
ここで、検出信号の増幅は所期の増幅率となるように解析部56において実施してもよいし、電波センサ10のセンサ出力部40における増幅器の利得を変更してもよい。
【0054】
また、電波センサ10からの検出信号は、フーリエ変換によって周波数スペクトルで表すと、例えば図5のようなグラフを示す。なお、同図の横軸は周波数、縦軸は各周波数の信号の強さ(振幅)を示す。
【0055】
同図に示すように検出信号には、0(Hz)から所定周波数fmax(Hz)までの周波数成分の信号が含まれるとして、その周波数領域0〜fmaxにおいて、呼吸に対する胸部及び腹部の動きに起因する第1周波数領域(呼吸領域)の信号が低周波側に存在し、心拍に対する心臓付近の動きに起因する第2周波数領域(心拍領域)の信号が高周波側に存在する。
【0056】
呼吸領域の周波数帯域である第1周波数帯域をf1〜f2とし、心拍領域の周波数帯域である第2周波数帯域をf3〜f4とすると、0≦f1<f2<f3<f4≦fmaxの関係を有する。
【0057】
ステップS22では、解析部56の第2制御部56Bは、ステップS20において検出信号の第1周波数帯域f1〜f2から抽出した第1抽出信号の振幅S1と事前に決められた所定の第2閾値T2とを比較し、振幅S1が第2閾値T2より大きい(S1>T2)か否かを判定する。
【0058】
その結果、図7(A)の第1抽出信号のようにS1>T2が満たされてYESと判定した場合には、ステップS24に移行し、監視対象が呼吸している状態と判別する。そして、一定時間の間、第1抽出信号に基づいて呼吸数を計測する。呼吸数の計測が終了すると、ステップS42に移行する。
【0059】
一方、図7(B)の第1抽出信号のようにS1>T2が満たされずにNOと判定した場合には、ステップS26に移行し、監視対象の呼吸が極めて穏やかな状態と判別する。そして、ステップS28に移行する。
【0060】
ステップS28では、解析部56の第3制御部56Cは、電波センサ10からの検出信号を所定の増幅率(例えば1000〜10000倍程度)で増幅する。そして、検出信号から心拍領域の周波数帯域である第2周波数帯域f3〜f4(図5参照)の信号成分を抽出して第2抽出信号を生成し、ステップS30に移行する。
【0061】
ステップS30では、解析部56の第3制御部56Cは、ステップS28において抽出した第2抽出信号の振幅S2と事前に決められた所定の第3閾値T3とを比較し、振幅S2が第3閾値T3より大きい(S2>T3)か否かを判定する。
【0062】
その結果、図8(A)の第2抽出信号のようにS2>T3が満たされてYESと判定した場合には、ステップS32に移行し、監視対象の心拍が動いている状態と判別する。そして、一定時間の間、第2抽出信号に基づいて心拍数を計測する。心拍数の計測が終了すると、ステップS42に移行する。
【0063】
一方、図8(B)の第2抽出信号のようにS2>T3が満たされずにNOと判定した場合には、ステップS34に移行し、監視対象の心拍を確認できない状態と判別する。そして、ステップS36に移行する。
【0064】
ステップS36では、解析部56の第4制御部56Dは、電波センサ10からの検出信号(ステップS28で増幅した全周波数領域の検出信号)を判定信号としてその判定信号の振幅S3と事前に決められた所定の第4閾値T4とを比較し、振幅S3が第4閾値T4より大きい(S3>T4)か否かを判定する。
【0065】
その結果、YESと判定した場合には、ステップS42に移行する。
【0066】
一方、NOと判定した場合には、ステップS38に移行し、統括部58の判定部58Aは、監視対象が異常な状態と判定する。そして、ステップS40に移行する。
【0067】
なお、判定信号は、検出信号ではなく第1抽出信号であってもよい。また、第4閾値T4は、第3閾値T3と同じ値であってもよい。
【0068】
ステップS40では、統括部58の異常通報部58Bは、監視対象が異常である旨を示す通報情報を出力情報生成部60に生成させ、その通報情報を予め決められた情報出力装置14に通信部62を通じて送信させる。これによって監視対象の異常を事前に決められた監視者等の情報出力装置14に通報する。そして、本フローチャートの処理を終了する。
【0069】
ステップS14、ステップS22、ステップS30、又はステップS36においてYESと判定した場合に移行したステップS42では、統括部58の判定部58Aは、距離D2と距離D1との差が事前に決められた所定の閾値Dxより大きい(D2−D1>Dx)か否かを判定する。即ち、監視対象が短時間の間に大きく動いたか否かを判定する。
【0070】
その結果、NOと判定した場合には、ステップS44に移行し、監視対象が正常な状態と判定する。そして、本フローチャートの処理を終了する。
【0071】
一方、YESと判定した場合には、監視対象の転倒や落下が想定されるため、ステップS46に移行し、他のセンサで追加確認を行う。そして、本フローチャートの処理を終了する。
【0072】
ここで、ステップS14においてYESと判定してステップS44において監視対象が正常な状態であると判定するような場合には、検出信号において体動を示す信号の中に呼吸や心拍を示す信号が埋没してしまい、検出信号に基づいて呼吸や心拍に関する生体情報の解析を行うことが困難である。また、ステップS14においてYESと判定した場合には、呼吸と心拍も当然に行われていると想定され、他の部屋への移動なども想定されることから、監視対象が正常か否かの判断等においては呼吸や心拍に関する生体情報の解析は不要である。
【0073】
このようなことから、ステップS14においてYESと判定した場合には、呼吸や心拍に関する生体情報の解析が行われないため、信号処理装置12における処理負担を軽減することができ、また、監視対象の状態を迅速に把握することができる。
【0074】
また、ステップS22においてYESと判定してステップS44において監視対象が正常な状態であると判定するような場合には、検出信号において呼吸を示す信号の中に心拍を示す信号が埋没していまい、検出信号に基づいて心拍に関する生体情報の解析を行うことが困難である。また、ステップS22においてYESと判定した場合には、心拍も当然に行われていると想定されることから監視対象が正常か否かの判断等においては心拍に関する生体情報の解析は不要である。
【0075】
このようなことからステップS22においてYESと判定した場合には、ステップS24で呼吸数の計測を行う一方、心拍に関する生体情報の解析を行わないため、呼吸数の計測に対して、さらに平行に処理すべき次のデータ採取と解析、他センサとの通信や他の処理装置などとの連携処理に対して、信号処理装置12の処理能力の多くを割り当てて高精度かつ迅速に呼吸数の計測を行うことができ、また、監視対象の状態を迅速に把握することができる。
【0076】
更に、ステップS30においてYESと判定してステップS44において監視対象が正常な状態であると判定するような場合には、検出信号において体動や呼吸を示す信号が穏やかでかつ規則性を確認出来る一方で、図5に示すf3〜f4領域の抽出により心拍に関する生体情報の解析が可能となる。
【0077】
このようなことからステップS30においてYESと判定した場合には、ステップS32で心拍の計測を行う一方、呼吸に関する生体情報の解析を行わないため、心拍の計測に対して信号処理装置12の処理能力の略全てを割り当てて高精度かつ迅速に心拍の計測を行うことができ、また、監視対象の状態を迅速に把握することができる。
【0078】
また、ステップS36においてYESと判定してステップS44において、監視対象が正常な状態であると判定するような場合には、検出信号において体動、呼吸、心拍の何れの信号も感知できなかったときでも、弱い体動により偶然的に感知できなかった可能性があり、監視対象が異常な状態であると判定してその旨の通報を行うと誤報となる可能性がある。
【0079】
このようなことからステップS36においてYESと判定した場合には、監視対象が異常であると判断しないことで、誤報を未然に防止することができ、通報の信頼性の向上を図ることができる。
【0080】
一方、ステップS42においてYESと判定して場合のステップS46の他のセンサでの追加確認は、例えば、画像センサによる撮影画像の解析や音センサによる収録音の解析に基づいて行う。
【0081】
撮影画像の解析は、例えば、監視対象が転倒又は落下している特殊事態の画像の有無を検出し、特殊事態の画像が有れば、ステップS38、及びステップS40と同様に監視対象が異常な状態と判定し、その旨を通報する。特殊事態の画像がなければステップS44と同様に監視対象が正常な状態と判定する。
【0082】
また、収録音の解析は、例えば、うめき声や救助を求める声などの特殊事態の音の有無を検出し、特殊事態の音が有れば、ステップS38、及びステップS40と同様に監視対象が異常な状態と判定し、その旨を通報する。特殊事態の音がなければステップS44と同様に監視対象が正常な状態と判定する。
【0083】
以上、上記図3及び図4のフローチャートの処理では記載されていないが、ステップS24で計測された呼吸数やステップS32で計測された心拍数の情報は、情報出力装置14からの要求などにより信号処理装置12から情報出力装置14に送信されて情報出力装置14により適宜確認することができる。
【0084】
また、ステップS14においてYESと判定してステップS16において監視対象が活発に動いている状態と判別し、ステップS44において監視対象が正常な状態と判定してフローチャートの処理を終了した場合には、信号処理装置12における処理負担が少ないため、図3及び図4のフローチャートの処理を次に開始する前に、他のセンサによるモニタ処理を行うようにしてもよい。他のセンサとして、例えば監視対象が日常生活を行う環境(温度、湿度、照度、衝撃、ドアの開閉、他の領域への移動等)を監視するセンサが考えられる。そして、図3及び図4のフローチャートの処理の非実行時においてそれらのセンサからの情報を収集することで、監視対象の生体情報だけでなく、周辺情報も含めた広範な監視を行うことができる。
【0085】
また、上記図3及び図4のフローチャートの処理において、ステップS20、ステップS28において検出信号の増幅率を変更しているが、検出信号の信号レベルを解析し易くするためであって、必ずしも増幅率を変更する必要はない。
【符号の説明】
【0086】
1…生体監視システム、10…電波センサ、12…信号処理装置、14…情報出力装置、32…発振器、34…送信アンテナ、36…受信アンテナ、38…混合器、52…A/D変換器、56… 解析部、56A…第1制御部、56B…第2制御部、56C…第3制御部、56D…第4制御部、56E…距離検出部、58…統括部、58A…判定部、58B…異常通報部、58C…モード切替部、60…出力情報生成部、62…通信部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8