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特開2017-65991ぺロブスカイト系黒色粉末、その製造方法及びこれを用いた樹脂組成物
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  • 特開2017065991-ぺロブスカイト系黒色粉末、その製造方法及びこれを用いた樹脂組成物 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-65991(P2017-65991A)
(43)【公開日】2017年4月6日
(54)【発明の名称】ぺロブスカイト系黒色粉末、その製造方法及びこれを用いた樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C01G 51/00 20060101AFI20170317BHJP
   C01G 45/00 20060101ALI20170317BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20170317BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20170317BHJP
【FI】
   C01G51/00 B
   C01G51/00 A
   C01G45/00
   C08K3/22
   C08L101/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-195085(P2015-195085)
(22)【出願日】2015年9月30日
(71)【出願人】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】川上 徹
(72)【発明者】
【氏名】本田 泰平
(72)【発明者】
【氏名】土居 誠司
(72)【発明者】
【氏名】林 孝三郎
【テーマコード(参考)】
4G048
4J002
【Fターム(参考)】
4G048AA05
4G048AB02
4G048AC04
4G048AC05
4G048AC08
4G048AD03
4G048AD08
4J002AA001
4J002DE096
4J002FD096
(57)【要約】
【課題】3種以上の構成元素を含む無機材料からなるぺロブスカイト型の結晶構造をとる複合酸化物を、乾式製法で得た粉末と比べて柔らかく、しかも、従来の湿式沈殿製法で得たよりも1次粒径が格段に大きい、一次粒径が1μm以上に結晶成長した、機能性に優れる材料となるぺロブスカイト系黒色粉末、該粉末の製造方法の提供。
【解決手段】構成元素として、希土類元素及び/又はアルカリ土類金属元素と、Cr、Mn及び元素周期律表8族元素から選択されたいずれかの元素とを含み、且つ、少なくとも3種の元素からなるぺロブスカイト型或いはそれに類似の柔軟な結晶構造を有する、一次粒径が1μm以上に結晶成長した複合酸化物であることを特徴とするぺロブスカイト系黒色粉末、ペロブスカイト系黒色粉末の製造方法及びこれを分散・含有した樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成元素として、希土類元素及び/又はアルカリ土類金属元素と、Cr、Mn及び元素周期律表8族元素から選択されたいずれかの元素とを含み、且つ、少なくとも3種の元素からなるぺロブスカイト型或いはそれに類似の柔軟な結晶構造を有する、一次粒径が1μm以上に結晶成長した複合酸化物であることを特徴とするぺロブスカイト系黒色粉末。
【請求項2】
前記一次粒径が、2μm以上10μm以下である請求項1に記載のぺロブスカイト系黒色粉末。
【請求項3】
前記希土類元素がランタンであり、前記アルカリ土類金属元素がストロンチウムであり、前記元素周期律表の8族元素が、鉄、コバルト及びマンガンである請求項1又は2に記載のぺロブスカイト系黒色粉末。
【請求項4】
前記アルカリ土類金属元素がストロンチウムであり、該ストロンチウムの含有量が化学量論組成における含有量の90〜100%である請求項1又は2に記載のぺロブスカイト系黒色粉末。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のペロブスカイト系黒色粉末の製造方法であって、前記少なくとも3種以上の構成元素の塩の混合塩水溶液と、析出用水溶液であるアルカリ水溶液とを、沈殿用水に同時に滴下して、pH6超〜pH8未満の条件下で沈殿混合物を合成し、得られた沈殿混合物を、濾過、水洗、乾燥して黒色粉末の前駆体を得、更に、該前駆体を焼成して、一次粒径が1μm以上に結晶成長した複合酸化物を得ることを特徴とするペロブスカイト系黒色粉末の製造方法。
【請求項6】
前記pHが、6.5以上7.5以下である請求項5に記載のペロブスカイト系黒色粉末の製造方法。
【請求項7】
前記沈殿混合物を合成する際の温度が、室温〜70℃の範囲内である請求項5又は6に記載のペロブスカイト系黒色粉末の製造方法。
【請求項8】
前記前駆体の焼成温度が、900℃〜1300℃である請求項5〜7のいずれか1項に記載のペロブスカイト系黒色粉末の製造方法。
【請求項9】
樹脂中に、請求項1〜4のいずれか1項に記載のぺロブスカイト系黒色粉末が、分散・含有してなることを特徴とする樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ぺロブスカイト系黒色粉末、その製造方法及び樹脂組成物に関する。より詳しくは、特有の無機材料を、特有の湿式沈殿混合法を利用して調製したことで、ぺロブスカイト型或いはそれに類似の柔軟な結晶構造を有し、しかも従来の湿式法では調製できていなかった、一次粒径が1μm以上に結晶成長したものであることから、樹脂に対しての濡れ性に優れ、形成成分にもよるが、酸素等の各種成分に対する高い吸着性を示すものや、高い導電性を示すもの等の諸機能を実現できる、湿式沈殿混合調製されたぺロブスカイト系黒色粉末を提供する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、黒色顔料や導電性材料として有用なカーボンブラック等に替わり得る複合酸化物系黒色粉末の開発がされている。例えば、無機材料からなるぺロブスカイト型の結晶構造をとる複合酸化物として、特許文献1では、希土類、アルカリ土類金属及び鉄を構成元素とする複合酸化物系黒色顔料が提案されており、これによって、着色剤として使用可能な色相や着色力、分散性、耐熱性、耐水性、耐薬品性等の諸適性が、カーボンブラック等の従来の黒色顔料と比肩し得るものになるとしている。また、特許文献2では、高い黒色度と優れた耐熱性を示すストロンチウム鉄酸化物粒子粉末についての提案がされている。また、特許文献3では、黒色度と耐薬品性に優れたストロンチウム鉄酸化物からなる黒色粒子粉末についての提案がされている。
【0003】
当該分野で行われている無機材料の製造法としては、酸化物、炭酸塩、水酸化物等、構成金属元素を含有する物質を、所定量論量で、乾式或いは湿式で均一に粉砕混合し、これを焼成して目的とする複合酸化物を得るのが一般的である。より具体的には、固体の原料化合物を粉砕混合するか、原料金属を含有する混合液を用いて湿式混合し、これらの混合物を焼成して複合酸化物を得ている。一方、湿式沈殿製法では、沈殿浴中に、原料元素を含む塩の混合水溶液とアルカリ水溶液を添加し、水酸化物の沈殿を析出させて得た、湿式沈殿混合物を濾過、水洗、乾燥を行って得られた前駆体を焼成することで、所望の複合酸化物を得ている。上記した特許文献1、3の実施例では、製法を限定することなく、乾式製法或いは湿式沈殿製法を利用して、複合酸化物からなる黒色粉末をそれぞれ得ている。また、上記した特許文献2では、湿式粉砕を利用して、上記複合酸化物を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4056826号公報
【特許文献2】特許第4399886号公報
【特許文献3】特許第4223784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した状況下、本発明者らは鋭意検討した結果、所望する無機材料からなる複合酸化物を得るためには、その構成元素を適宜に選択することに加え、乾式製法と湿式沈殿製法とでは、得られる複合酸化物の特性に大きな違いがあり、例えば、樹脂に対する濡れ性や、酸素吸着量や導電性等の複合酸化物の特性に影響を及ぼすことを見出して本発明に至ったものである。より具体的には、例えば、アルカリ土類金属元素を含有した系における、乾式製法で得られた複合酸化物は、高温下で焼成することによる焼結に加え、アルカリ土類金属の溶融が起こりやすく、粒子が固く粗大になり易い。この場合、粉砕することで所望の粒径の複合酸化物材料を得ることができるが、本発明者らの検討によれば、構成成分の紛末の混合材料を焼成して焼結体としているため、用途によっては粒子径が不揃いであったり、大き過ぎたり、場合によっては硬過ぎて扱いづらいという課題があった。また、乾式製法で得られた粒子は、樹脂に分散させて使用する場合に必要となる、樹脂に対する濡れ性に劣るという課題があった。
【0006】
一方、湿式沈殿製法で得られる複合酸化物は、一般に反応性が高いため、より低温で焼成可能で、乾式製法によって得られる粒子に比べて、柔らかく、樹脂に対する濡れ性も良好なものになる。しかし、本発明者らの検討によれば、従来の湿式沈殿製法によって得られる複合酸化物は、粒子径が細かくなりすぎる傾向があり、大きくても一次粒径が0.5μm以下程度と微小であり、樹脂に分散させて着色剤として使用する場合等の用途では、数μmの粒子、特に3μm超が必要になるため、利用できないという課題があった。更に、本発明者らの検討によれば、従来の湿式沈殿製法では、析出させた沈殿粒子が小さくなり、沈殿速度も速くなるため、凝集しやすく、焼成前の前駆体において1次粒子が大きくなり易いことがわかった。また、従来の湿式沈殿製法では、各構成成分の沈殿物の大きさも不揃いになり易く、焼成した場合の反応性に劣り、焼成することで大きな粒子を形成できたとしても、本発明で目的とするような結晶が得られないことがわかった。
【0007】
無機材料からなるぺロブスカイト型の結晶構造をとる複合酸化物は、その柔軟な結晶構造から、導電性、各種成分の吸着等の色々な機能性を発揮し易いという特性を有するが、本発明者らは、その高い機能性を十分発揮させ、広範な利用に供するためには、特に、ペレット化や分散体、樹脂組成物として使用する際に、樹脂中に分散させた場合に、その特性がより良好な状態に発現する構成の複合酸化物材料を提供できる技術の開発が必要であるとの認識を持つに至った。
【0008】
したがって、本発明の目的は、3種以上の構成元素を含む無機材料からなるぺロブスカイト型の結晶構造をとる複合酸化物を、乾式製法で得た粉末と比べて柔らかく、しかも、従来の湿式沈殿製法で得たよりも1次粒径が格段に大きい、一次粒径が1μm以上に結晶成長した、機能性に優れる材料となるぺロブスカイト系黒色粉末及び該粉末の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した従来技術の課題は、以下の本発明によって解決される。すなわち、本発明は、構成元素として、希土類元素及び/又はアルカリ土類金属元素と、Cr、Mn及び元素周期律表8族元素から選択されたいずれかの元素とを含み、且つ、少なくとも3種の元素からなるぺロブスカイト型或いはそれに類似の柔軟な結晶構造を有する、一次粒径が1μm以上に結晶成長した複合酸化物であることを特徴とするぺロブスカイト系黒色粉末を提供する。
【0010】
上記ぺロブスカイト系黒色粉末の好ましい形態としては、下記のものが挙げられる。前記一次粒径が、2μm以上10μm以下であること;前記希土類元素がランタンであり、前記アルカリ土類金属元素がストロンチウムであり、前記元素周期律表の8族元素が、鉄、コバルト及びマンガンであること;前記アルカリ土類金属元素がストロンチウムであり、該ストロンチウムの含有量が化学量論組成における含有量の90〜100%であること;が挙げられる。
【0011】
本発明は、別の実施形態として、上記いずれかのペロブスカイト系黒色粉末の製造方法であって、前記少なくとも3種以上の構成元素の塩の混合塩水溶液と、析出用水溶液であるアルカリ水溶液とを、沈殿用水に同時に滴下して、pH6超〜pH8未満の条件下で沈殿混合物を合成し、得られた沈殿混合物を、濾過、水洗、乾燥して黒色粉末の前駆体を得、更に、該前駆体を焼成して、一次粒径が1μm以上に結晶成長した複合酸化物を得ることを特徴とするペロブスカイト系黒色粉末の製造方法を提供する。
【0012】
上記ぺロブスカイト系黒色粉末の製造方法の好ましい形態としては、下記のものが挙げられる。前記pHが、6.5以上7.5以下であること;前記沈殿混合物を合成する際の温度が、室温〜70℃の範囲内であること;前記前駆体の焼成温度が、900℃〜1300℃であること;が挙げられる。
【0013】
本発明は、別の実施形態として、樹脂中に、上記いずれかのぺロブスカイト系黒色粉末が、分散・含有してなることを特徴とする樹脂組成物を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のぺロブスカイト系黒色粉末は、少なくとも3種の構成元素を、特有の条件下での湿式沈殿混合することによって、ミクロな析出物による沈殿混合を達成し、黒色粉末の良好な前駆体を得たことで焼成時の反応性をアップさせ、この沈殿混合物を焼成して調製されたものであることから、下記の効果を発揮できるものになる。すなわち、本発明のぺロブスカイト系黒色粉末は、従来のペロブスカイト型結晶構造を有する複合酸化物材料が示す、例えば、導電性や、酸素成分に対する吸着といった特性において、従来の材料では達成できていなかったより高い性能を発揮するものにでき、また、同様の構成元素を乾式混合調製して得た材料に比べて柔らかく、樹脂に対して良好な濡れ性を示し、例えば、樹脂に分散含有させた場合に、良好に混合・分散でき、混合・分散装置等に対する摩耗を抑制できるので、広範に利用されているカーボンブラックに代替し得る黒色顔料として極めて有用である。具体的には、本発明のぺロブスカイト系黒色粉末は、例えば、黒色顔料として、塗料、インキ、プラスチックスへの着色剤として利用できる。更に、本発明のぺロブスカイト系黒色粉末は、使用する構成元素にもよるが、例えば、電気導電性が高いことを利用して、燃料電池における電解質や空気極などの各種導電性材料として利用でき、また、酸素を結晶格子内に蓄える性質を利用した酸素吸蔵材として、例えば、酸素供給装置、窒素供給装置、酸素製造装置、純窒素製造装置、酸化触媒等への応用が期待できる、広範な分野での利用可能な機能性に優れる材料となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施例1の湿式沈殿製法で合成したSr−Co−Feのぺロブスカイト系黒色粉末の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、好ましい実施形態を挙げて本発明を詳細に説明する。本発明では、まず、構成金属元素を特定のものに限定した。上記したように、無機材料で、ぺロブスカイト型の結晶構造をとる複合酸化物は、その柔軟な結晶構造から、導電性、各種成分の吸着など色々な機能性を発揮し易いが、本発明では、そうした結晶構造をとる構成元素の中で、希土類元素及び/又はアルカリ土類金属元素と、元素周期率表第4周期のCr、Mn及び元素周期律表8族元素の遷移金属から選択されたいずれかの元素を含む、少なくとも3種の元素を主成分とするものとした。より好ましくは、上記において、希土類元素がランタンであり、アルカリ土類金属元素がストロンチウムであり、これらのいずれかの元素或いは両方の元素と、元素周期率表第4周期のCr、Mn及び8族元素の鉄、コバルト及びマンガンから選択したいずれかの元素を含む、少なくとも3種の元素から構成したぺロブスカイト系黒色粉末が挙げられる。
【0017】
本発明者らの検討によれば、下記に述べる理由から、特に、ストロンチウムの含有量が、化学量論組成における含有量の90〜100%の範囲になるように調整することが好ましい。すなわち、このように構成することで、例えば、酸素吸蔵性や導電率などの特性をアップさせることができる。ペロブスカイト型結晶構造は、AサイトとBサイトに異なる金属を含有し、Aサイトはストロンチウムやランタンなどが入り、Bサイトは主に遷移金属が入り酸素とのチャージバランスを保っている。しかし、Aサイトのストロンチウムは2価しか取れないため、ストロンチウム含有量に応じて酸素欠損になりやすく、この空いたサイトが、酸素吸蔵性や導電率などの特性をアップさせる要因となると考えられる。そのため、ストロンチウム含有量をやや少なくすることが特性アップにつながり、具体的には、ストロンチウムの含有量を90〜100%の範囲に調整することで、特性アップが期待できるものになる。一方、ストロンチウムの含有量が少な過ぎると結晶性低下などの要因となり、多過ぎると過剰のストロンチウムが阻害要因となり、特性の悪化を生じる場合があるので好ましくない。上記したような条件を勘案しつつ湿式調製することで、本発明のペロブスカイト型及びその類似結晶構造をとる複合酸化物材料のもつ機能性をアップさせることができ、更に、複合酸化物でありながら、樹脂に対する濡れ性に優れるものとなる。
【0018】
本発明のぺロブスカイト系黒色粉末の製造方法は、上記したような、希土類元素及び/又はアルカリ土類金属元素と、Cr、Mn及び元素周期律表8族元素から選択された元素の、少なくとも3種の元素を構成元素とし、各構成元素の塩の混合塩水溶液と、析出用水溶液であるアルカリ水溶液、例えば、ソーダ灰の水溶液を同時に沈殿用水に滴下して、pH6超〜pH8未満の条件下で沈殿物を合成せしめ、沈殿物を濾過、水洗、乾燥して黒色粉末の前駆体を得、更に、該前駆体を焼成して、一次粒径が1μm以上に結晶成長した複合酸化物を得ることを特徴とする。
【0019】
上記したように、本発明では、ぺロブスカイト系黒色粉末の機能性をより高めるために、従来より行われている通常の混合とは異なる特有の湿式沈殿混合法を採ることで、本発明の目的を達成している。具体的には、特定の3種類以上の構成元素の塩の水溶液を用い、pH6超〜pH8未満の条件下で、これらの元素を含む沈殿物を共沈させたことで、少なくとも3種の元素からなるミクロな沈殿混合物の合成を可能にし、これを前駆体としたことで、その後に行う沈殿物の焼成時における反応性をアップさせ、機能性に優れる複合酸化物を実現した。この結果、本発明のぺロブスカイト系黒色粉末は、従来行われている湿式沈殿混合では到底得ることができなかった、一次粒径が1μm以上に結晶成長した複合酸化物となり、その結晶構造は、ぺロブスカイト型或いはそれに類似する柔軟な、乾式調製した焼結体に比べて柔らかい粉体であり、高い機能性を実現できるものになる。上記のようにして得られる本発明のぺロブスカイト系黒色粉末は、種々の用途への適用が可能な、一次粒径が2μm以上10μm以下に結晶成長したものであることがより好ましい。
【0020】
以下、本発明に至った経緯について説明する。複数の無機材料から複合酸化物を得る分野で行われている当該無機材料の製造法としては、酸化物、炭酸塩、水酸化物等、構成金属元素を含有する物質を、所定量論量で、乾式或いは湿式で均一に混合し、焼成して目的とする結晶組成の無機材料を得るのが一般的である。しかし、この方法では、用いた原材料の粒子径によって混合物の均一性が規定されるので、その状態で混合物を焼成すると、得られる複合酸化物の特性に影響を及ぼす。すなわち、大きい粒子径の材料を用いた場合は、より大きな粒子同士が混合され、ミクロ的に見た場合、均一に混合されているとはいえないものになる。そこで、混合時に、乾式粉砕或いは湿式粉砕することにより、均一性を担保することも行われているが、十分であるとは言い難い。
【0021】
これに対し、焼成する混合物が不均一な状態であると、混合物を焼成して結晶化する際により大きなエネルギーを必要とし、焼成温度を上昇させることが必要になる。本発明者らの検討によれば、焼成温度のアップと焼結による粒子の不揃いなどは、通常、後工程として設けられる、粒子の、分散、練りこみ、成型、ペレット化等に悪影響を与える。また、大きな粒子を微細化する時、粉砕により結晶が壊れ、結晶化度低下の原因となり、このことに起因して材料特性に悪影響を与える。特に、構成元素が、本発明で使用する、希土類元素及び/又はアルカリ土類金属元素と、Cr、Mn及び8族元素から選択される少なくとも3元素を含有したペロブスカイト系材料の製造においては、焼成時において生じる未反応アルカリ土類金属の溶融等に起因して焼結し易くなったりすることで、材料特性の低下が問題となる。このような理由から、技術的な要望として、本発明で使用する3種以上の異種元素が、より均一に混合でき、混合物を焼成した場合に、結晶性が高く、しかも硬い焼結体になりにくく、上記した後工程での作業性が容易なぺロブスカイト系黒色粉末材料の提供が求められる。
【0022】
本発明者らは、上記した従来技術の課題に対し鋭意検討した結果、湿式沈殿混合を行うことが有効であり、更に、その際に、特有の条件で湿式沈殿混合を行うことで、上記した要望を満足する複合酸化物が合成できることを見出した。すなわち、本発明が目的とする機能性と実用性に優れるぺロブスカイト系黒色粉末は、以下のようにすることで、初めて得られる。まず、pH6超〜pH8未満の条件下で、各構成元素の金属塩を、アルカリ沈殿剤を用いてミクロ析出させて湿式沈殿混合物を得て、これを焼成する黒色粉末の前駆体とする構成とした結果、焼成時における反応性をアップさせることができる。その結果、焼成時に上記前駆体が結晶成長して、ぺロブスカイト型或いはそれに類似の柔軟な結晶構造を有し、且つ、従来の方法では到底得ることができなかった、その一次粒径が1μm以上に結晶成長した複合酸化物となる。
【0023】
複合酸化物を得る場合、乾式混合した原料粉末を焼成して焼結体として得ることが多いが、この場合は、原材料の粒子が大きいため、粉砕したとしても、その混合物の粒径はよくてもサブミクロン程度が限界であり、混合も、湿式沈殿法に比べると不均一になるため、目的とするペロブスカイト型結晶を得るためには、より高い焼成温度が必要になる。これに対し、黒色粉末の前駆体を湿式沈殿混合方式で得た場合は、生成する各金属の沈殿物は、沈殿として析出した瞬間は非常に微細で、所謂ナノメートル単位の微細な粒子となる。このため、微視的に見た場合、従来から行われている原料を粉砕して乾式混合する方法に比べて、はるかに微細で均一性のある混合が達成される。従って、湿式沈殿混合法を利用して製造されるペロブスカイト型結晶は、乾式混合法を利用した場合に比べて、より低温で焼成が可能であり、結晶性が高く、各種特性が高い材料が提供できるという利点がある。本発明のぺロブスカイト系黒色粉末は、特有の湿式沈殿混合製法を用いることで、より良好な黒色粉末の前駆体を合成することができ、これらの特性を更に高めた各種用途に有用な材料となる。
【0024】
アルカリ土類金属と希土類を用いた複合酸化物に関する従来技術としては、例えば、前記の特許文献1〜3が挙げられる。そして、特許文献1、3では、従来の乾式製法以外の方法として、構成元素が、希土類、アルカリ土類金属及び鉄とからなる複合酸化物系黒色顔料を製造する際に、上記の各元素の化合物の混合水溶液とアルカリ水溶液とにより上記各元素の水酸化物の混合沈澱物を生成させ、得られた沈澱物を焼成する方法が記載されている。しかしながら、この方法では、本発明と異なり、混合沈澱物を得る際に、各元素の化合物の混合水溶液とアルカリ水溶液を、沈澱pH8〜14で、好ましくはpH10以上の条件下で、撹拌しながら沈澱浴に添加している。その理由は、高いpH領域では沈殿粒子が小さくなり、小さい方が、着色力が向上することによる。このため、特許文献1、3の実施例で得られる黒色顔料は、0.2〜0.4μm程度の微細なものであり、本発明で目的とする1次粒子径が1μm以上に結晶成長した材料は得られていない。勿論、本発明のぺロブスカイト系黒色粉末によって初めて達成される材料の有用性についての記載もない。なお、特許文献2では、湿式粉砕によってストロンチウム鉄酸化物粒子粉末を得ており、本発明とは、その製法が全く異なる。
【0025】
上記した従来技術に対し、本発明では、構成元素の組み合わせを特定の範囲から選択した3種以上とし、更に、湿式沈殿混合する際に、従来技術で行われていた範囲と異なるpH値の範囲に制御することで、良好な状態にミクロに析出し共沈した沈殿混合物を前駆体が得られ、その結果、ぺロブスカイト型或いはそれに類似の柔軟な結晶構造を有し、且つ、一次粒径が1μm以上に結晶成長した粒子が得られ、機能性に優れる複合酸化物の実現を可能にしている。
【0026】
本発明のペロブスカイト系黒色粉末の製造方法について、より具体的に説明する。本発明では、希土類元素及び/又はアルカリ土類金属元素と、Cr、Mn及び元素周期律表8族元素から選択された元素の、少なくとも3種の元素を構成元素としてなる複合酸化物を製造する際に、各構成元素の塩の混合塩水溶液と、析出用水溶液であるアルカリ水溶液とを同時に滴下して、pH6超〜pH8未満の条件下で、より好ましくはpHが、6.5以上7.5以下の条件下で沈殿混合物を合成せしめ、該沈殿混合物を、濾過、水洗、乾燥して黒色粉末の前駆体を得る。更に該前駆体を焼成して、一次粒径が1μm以上に結晶成長した複合酸化物であるぺロブスカイト系黒色粉末を得ている。以下、上記した本発明の製造方法について詳細に説明する。
【0027】
本発明のぺロブスカイト系黒色粉末を得る際に使用する各構成元素の金属塩は、市販されているものであればいずれも使用可能で、硝酸塩、塩化物、硫酸塩などが利用できる。ただし、混合塩水溶液中にストロンチウムが含有される場合、硫酸塩を使用すると硫酸ストロンチウムとして析出するため、硫酸塩の使用が制限される。混合塩水溶液を構成する各構成金属の塩は、析出用水溶液であるアルカリ水溶液(アルカリ沈殿剤)によって析出されるが、その際に使用するアルカリ沈殿剤としては、苛性ソーダ、ソーダ灰、重曹、アンモニア、尿素等が挙げられ、いずれも使用可能である。
【0028】
本発明で使用する構成元素の金属塩は、所望の複合酸化物に応じて所定の配合となるように配合され、溶解水に溶解して使用するが、この混合塩水溶液の濃度は5〜50質量%程度が適当である。沈殿材として使用するアルカリは、いずれの場合も、各構成金属の塩を析出できれば問題なく、5〜30質量%程度の範囲で使用可能である。
【0029】
本発明では、このようにして調製された少なくとも3種の構成元素の金属塩水溶液と、析出用水溶液であるアルカリ水溶液とを、pH6超〜pH8未満の範囲内で、より好ましくは、pH6.5以上7.5以下の範囲内で、撹拌しながら同時に沈殿槽に滴下することで、各元素の水酸化物や炭酸塩をミクロに析出させる。本発明者らの検討によれば、例えば、pH8以上の高いpH領域で析出させた場合は、沈殿粒子はより小さくなり、沈殿速度も速くなるため、かえって凝集しやすく、焼成前の前駆体において1次粒子は大きくなり易い。また、この場合は、各構成成分の沈殿物の大きさも不揃いになり易く、また、このことに起因して焼成した際の反応性が落ちる傾向になることもわかった。例えば、アルカリ土類金属としてストロンチウムを使用した場合、粒子が粗大化し易くなり、得られた前駆体を焼成することで大きい粒子ができたとしても、本発明で所望する「ぺロブスカイト型或いはそれに類似の柔軟な結晶構造を有する」結晶を得ることができないことがわかった。本発明では、pHを8未満に保ちながら、反応性に優れる沈殿混合物が合成されるように構成する。一方、あまり低いpH領域では、特に、原料に、ストロンチウムなどのアルカリ土類金属を使用した場合に析出させることが難くなるため、pHを6.0超とすることとした。
【0030】
本発明の製造方法において、上記の沈殿混合物を析出せしめる際における沈殿温度は、室温〜70℃の範囲であれば問題ない。本発明者らの検討によれば、沈殿温度が、上記範囲よりも低い場合は、構成元素である、例えば、アルカリ土類金属の沈殿が遅くなり、得られる3種以上の構成元素からなる黒色粉末の組成のブレの原因になる。一方、上記範囲よりも温度が高い場合は、経済的でないことに加えて、特に希土類金属の沈殿が速くなり、大粒子径のものができ易くなる。より好ましくは、40℃超の50℃程度の温度で析出させて複合酸化物の前駆体を合成すると、焼成後に、本発明で所望する、機能性に優れる結晶状態の材料を、より容易に安定して得ることができる。
【0031】
以上のようにして得られた沈殿混合物は、沈殿をより確実なものとするため、例えば、70℃程度の温度で、30分〜2時間程度放置し、熟成を行う。このようにして得られた沈殿スラリーは、ゆるく凝集した状態で存在し、沈降するため、デカンテーションによる水洗が可能である。本発明では、副生する残塩を除去するため、例えば、電導度が300μS/cm以下になるまで水洗し、水洗終了後、ヌッチェ(ブフナロート)で濾別して、例えば、120℃で12時間程度乾燥させて、黒色粉末前駆体(クルード)を得ることが好ましい。
【0032】
以上のようにして得られた黒色粉末の前駆体は無定形のため、本発明では、焼成により結晶化させて機能性を付与して、目的の「ぺロブスカイト型或いはそれに類似の柔軟な結晶構造を有する」黒色粉末を得る。この際の焼成条件は、900℃〜1300℃であり、この範囲よりも焼成温度が低いとペロブスカイト型結晶が得られない。より好適な焼成条件は、1000〜1200℃であり、乾式調製した場合と比べて低温で焼成できるという利点もある。また、上記した範囲よりも焼成温度が高すぎると焼結が激しくなるので好ましくない。焼結が激しくなると、後工程での分散、練りこみ、成型、ペレット化などが難しくなる。
【0033】
上記のような本発明の製造方法で得られた黒色粉末は、粉末X線回折測定結果から、非常に結晶性の高い、ぺロブスカイト型或いはそれに類似のペロブスカイト型の結晶構造を示すものとなるが、乾式製法で得た焼結型の結晶に比べて柔軟な柔らかいものとなる。また、従来の湿式沈殿混合法を利用して得た場合と異なり、1μmに満たない微細なものになったり、凝集して粗大化したりすることなく、一次粒径が1μm以上に結晶成長した、より好ましくは、一次粒径が2μm以上10μm以下に結晶成長したものとなる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、いずれも本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0035】
<実施例1>(湿式沈殿混合調製:Sr−Co−Fe)
塩化ストロンチウム6水塩(266.6g/mol)を495.7部(Sr;1.859mol)と、塩化コバルト6水塩(237.9g/mol)を331.8部(Co;1.395mol)と、塩化第1鉄4水塩(Fe;198.8g/mol)92.4部(0.465mol)とを、溶解水1800部に溶解し、混合塩水溶液を調製した。次いで、アルカリ水溶液として、ソーダ灰(無水炭酸ナトリウム)450部を、溶解水1400部に溶解して析出用水溶液を調製した。次に、上記で調製した塩混合水溶液とアルカリ水溶液とを滴下するための沈殿用ビーカーに、沈殿用水として、水3400部を秤り取り、沈殿用水の温度を50℃にアップして保持した。この状態で、上記で調製した塩混合水溶液とアルカリ水溶液とを同時に、pH6.6を保持しながら滴下して、混合スラリー溶液を得た。滴下終了後、混合スラリー溶液の温度を70℃に加温し、そのまま1時間放置して反応を終了した。
【0036】
その後、沈殿スラリー中にある副生した塩を除去するため、デカンテーションを行い、電導度が300μS/cm以下になるまで水洗を行った。次に、沈殿スラリーをヌッチェにて濾別し、得られたケーキを、120℃で12時間乾燥し、目的とする黒色粉末の前駆体を得た。
【0037】
次に、上記のようにして得られた黒色粉末の前駆体を、電気炉にて1050℃で焼成を行い、目的とする黒色粉末を得た。得られた黒色粉末は、図1のSEM写真に示したように、一次粒子径が1〜10μmの範囲に結晶成長したものであった。また、得られた黒色粉末は、粉末X線回折の測定から、非常に結晶性の高いペロブスカイト型の結晶構造をもつものであることが確認された。また、熱分析装置により、窒素中と空気中における酸素吸着量の違いから黒色粉末の酸素吸着量を測定したところ、5.0ml/gであった。以上のことから、上記で得られた黒色粉末は、酸素吸蔵材として高い性能を発揮するものであることが確認できた。なお、この例では、使用した原料の組成から算出したSrとCoとFeの割合は、Sr=100モルに対して、Coが75モル、Feが25モルである。
【0038】
<実施例2>(湿式沈殿混合調製:Sr−La−Co−Fe)
塩化ストロンチウム6水塩を446.2部(Sr;1.674mol)と、硝酸ランタン水溶液(酸化ランタンとしての純分19質量%)を159.1部(La;0.186mol)と、塩化コバルト6水塩を398.2部(Co;1.674mol)と、塩化第1鉄4水塩36.9部(Fe;0.186mol)とを、溶解水1800部に溶解し、塩混合水溶液を調製した。次いで、アルカリ水溶液として、ソーダ灰450部を溶解水1400部に溶解して、析出用水溶液を調製した。次に、上記で調製した塩混合水溶液と、アルカリ水溶液とを滴下するための沈殿用ビーカーに、沈殿用水として、水3400部を秤り取り、沈殿用水の温度を50℃にアップして保持した。この状態で、塩混合水溶液とアルカリ水溶液とを同時に、pH6.6を保持しながら滴下し、混合スラリー溶液を得た。滴下終了後、混合スラリー溶液の温度を70℃に加温し、そのまま1時間放置して反応を終了した。
【0039】
上記のようにして得られた混合スラリー溶液を、実施例1と同様の方法にて、水洗、濾過、乾燥して黒色粉末の前駆体を得た。次いで、この黒色粉末の前駆体を1100℃で焼成し、目的とする黒色粉末を得た。得られた黒色粉末は、実施例1の黒色粉末と同程度の粒子径に結晶成長したものであることを確認した。また、この黒色粉末は、粉末X線回折の測定から、非常に結晶性の高いペロブスカイト型の結晶構造をもつものであった。また、熱分析装置により窒素中と空気中における酸素吸着量の違いから、黒色粉末の酸素吸着量を測定したところ、4.7ml/gであった。以上のことから、上記で得た黒色粉末は、酸素吸蔵材として高い性能を発揮するものであることが確認できた。なお、使用した原料の組成から算出したSrとLaとCoとFeの割合は、Sr=100モルに対して、Laが11.1モル、Coが100モル、Feが11.1モルである。
【0040】
更に、上記構成において、ストロンチウム含有量の化学量論組成における含有量を90〜102%に変化させて、ストロンチウム含有量の違いによる酸素吸着量の違いを調べた。その結果、表2に示したように、ストロンチウムの含有量が90〜100%である場合に、酸素吸蔵材として高い性能を発揮するものになることを確認した。
【0041】
<実施例3>(湿式沈殿混合調製:Sr−La−Co)
塩化ストロンチウム6水塩を535.4部(Sr;2.009mol)と、硝酸ランタン水溶液(酸化ランタンとしての純分19質量%)を191.3部(La;0.223mol)と、塩化コバルト6水塩353.9部(Co;1.487mol)とを、溶解水1100部に溶かし、塩混合水溶液を調製した。次いで、アルカリ水溶液として、ソーダ灰500部を、溶解水1400部に溶解して析出用水溶液を調製した。次に、上記で調製した塩混合水溶液と、アルカリ水溶液とを滴下する沈殿用ビーカーに、沈殿用水として、水3400部を秤り取り、沈殿用水の温度を50℃にアップして保持した。この状態で、塩混合水溶液とアルカリ水溶液とを同時に、pH6.7を保持しながら滴下し、混合スラリー溶液を得た。滴下終了後、混合スラリー溶液の温度を70℃に加温し、そのまま1時間放置して反応を終了した。
【0042】
上記のようにして得られた混合スラリー溶液を、実施例1と同様の方法にて、水洗、濾過、乾燥して、黒色粉末の前駆体を得た。次いで、この黒色粉末の前駆体を1200℃で焼成し、目的の黒色粉末を得た。得られた黒色粉末は、実施例1の黒色粉末と同程度の粒子径に結晶成長したものであることを確認した。また、この黒色粉末は、粉末X線回折の測定から、層状ペロブスカイト型の結晶構造であることが確認された。また、熱分析装置により、窒素中と空気中における酸素吸着量の違いから黒色粉末の酸素吸着量を測定したところ、2.3ml/gであった。また、この黒色粉末の導電性を室温にて測定したところ、2.8×103S/cmであった。通常のペロブスカイト型酸化物の導電性は100〜10-3S/cm程度であるため、かなり導電性が高いことが分かった。このように他の材料と比べ導電性が高いことから、酸素吸着性のある耐熱性の導電性材料として使用可能である。なお、使用した原料の組成から算出したSrとLaとCoの割合は、Sr=100モルに対して、Laが11.1モル、Coが74モルである。
【0043】
<実施例4>(湿式沈殿混合調製:Sr−La−Mn)
塩化ストロンチウムを6水塩446.2部(Sr;1.674mol)と、硝酸ランタン水溶液(酸化ランタンとしての純分19質量%)を159.1部(La;0.186mol)と、塩化マンガン4水塩(Mn;197.8g/mol)367.9部(1.860mol)とを、溶解水1800部に溶解し、混合塩水溶液を調製した。次いで、アルカリ水溶液として、ソーダ灰450部を溶解水1400部に溶解して、析出用水溶液を調製した。次に、上記で得た混合塩水溶液とアルカリ水溶液とを滴下する沈殿用ビーカーに、沈殿用水として、水3400部を秤り取り、沈殿用水の温度を50℃にアップして保持した。この状態で、塩混合水溶液とアルカリ水溶液を同時に、pH6.6を保持しながら滴下し混合スラリー溶液を得た。滴下終了後、混合スラリー溶液の温度を70℃に加温し、そのまま1時間放置して反応を終了した。
【0044】
上記のようにして得られた混合スラリー溶液を、実施例1と同様の方法にて、水洗、濾過、乾燥して黒色粉末の前駆体を得た。次いで、この黒色粉末前駆体を、1100℃で焼成し、目的の黒色粉末を得た。得られた黒色粉末は、実施例1の黒色粉末と同程度の粒子径に結晶成長したものであることを確認した。また、この黒色粉末は、粉末X線回折の測定から、非常に結晶性の高いペロブスカイト型の結晶構造であることを確認した。
【0045】
また、上記で得られた黒色粉末の導電性を室温にて測定したところ、2.8×102S/cmであった。通常のペロブスカイト型酸化物の導電性は100〜10-3S/cm程度であるため、かなり導電性が高いことが分かった。このように他の材料と比べ導電性が高いことから、SOFC燃料電池空気極用材料や、耐熱性の導電性材料として使用可能である。また、熱分析装置により、窒素中と空気中における酸素吸着量の違いから黒色粉末の酸素吸着量を測定したところ、2.0ml/gであり、実施例1、2で得たものよりも低いものの、酸素吸着性があった。なお、使用した原料の組成から算出したSrとLaとMnの割合は、Sr=100モルに対して、Laが11.1モル、Mnが111.1モルである。
【0046】
<比較例1>(乾式混合調製:Sr−Co−Fe)
原料として、それぞれ固体の、炭酸ストロンチウム(147.6g/mol)を147.6部(Sr;1.0mol)と、塩基性炭酸コバルト(516.7g/mol)を77.5部(Co;0.75mol)と、酸化第2鉄(162.2g/mol)19.9部(Fe;0.25mol)とを秤取った。そして、メディアとして5mmのアルミナビーズを使用し、遊星型ボールミル(以下、遊星BMと略記)で1時間、粉砕混合した。その後、この一部をとってムライト製ルツボに入れ、電気炉にて昇温時間6時間で1200℃まで上げ、その温度にて120分保持し、乾式混合後に焼成した。このものはそのまま電気炉の中で自然放冷し、室温になったら取り出した。得られた黒色粉末は焼結しているが、少量の場合は粉砕可能で、乳鉢でザラツキがなくなるまで粉砕し、実施例で得たと同程度の粒子径の黒色粉末を得た。
【0047】
得られた黒色粉末は粉末X線回折の測定からペロブスカイト型の結晶構造であることが確認された。しかし、一部に不明の異相が存在した。かなり焼結しているため、大量粉砕の場合はクラッシャーなどで粗砕後、通常のブレード型粉砕機で粉砕する必要があった。このものを熱分析装置により、窒素中と空気中における酸素吸着量の違いから、黒色粉末の酸素吸着量を測定したところ、3.4ml/gであった。以上から、このものは酸素吸蔵材として使用が可能であるが、同様の構成元素からなる実施例1の黒色粉末に比べ、酸素吸着量は7割程度であった。なお、使用した原料の組成から算出したSrとCoとFeの割合は、Sr=100モルに対して、Coが75モル、Feが25モルである。
【0048】
<比較例2>(乾式混合調製:Sr−La−Co−Fe)
原料として、それぞれ固体の、酸化ランタン(325.8g/mol)16.3部(La;0.1mol)、炭酸ストロンチウム132.3部(Sr;0.90mol)、塩基性炭酸コバルト93.0部(Co;0.9mol)、酸化第2鉄8.0部(Fe;0.1mol)を秤り取り、メディアとして5mmのアルミナビーズを使用し、遊星BMで1時間、粉砕混合した。その後、この一部をとってムライト製ルツボに入れ、電気炉にて昇温時間6時間で1250℃まで上げ、その温度にて120分保持し、乾式焼成した。このものはそのまま電気炉の中で自然放冷し、室温になったら取り出した。得られた黒色粉末は焼結しているが、少量の場合は粉砕が可能で、乳鉢でザラツキがなくなるまで粉砕し、実施例で得たと同程度の数μmの粒子径の黒色粉末を得た。
【0049】
得られた黒色粉末は粉末X線回折の測定からペロブスカイト型の結晶構造であることが確認された。しかし、一部に不明の異相が存在した。かなり焼結しているため、大量粉砕の際はクラッシャーなどで粗砕後、通常のブレード型粉砕機で粉砕する必要があった。このものを熱分析装置により、窒素中と空気中における酸素吸着量の違いから、黒色粉末の酸素吸着量を測定したところ、3.2ml/gであった。以上から、このものは酸素吸蔵材として使用が可能であるが、同様の構成元素からなる実施例2の黒色粉末に比べ酸素吸着量は7割程度であった。なお、使用した原料の組成から算出したSrとLaとCoとFeの割合は、Sr=100モルに対して、Laが11.1モル、Coが100モル、Feが11.1モルである。
【0050】
<比較例3>(乾式混合調製:Sr−La−Co)
原料として、それぞれ固体の、酸化ランタン9.8部(La;0.06mol)、炭酸ストロンチウム79.7部(Sr;0.54mol)、塩基性炭酸コバルト41.3部(Co;0.4mol)を秤り取り、メディアとして5mmのアルミナビーズを使用し、遊星BMで1時間、粉砕混合した。その後、この一部をとってムライト製ルツボに入れ、電気炉にて昇温時間6時間で1250℃まで上げ、その温度にて120分保持し乾式焼成した。このものは、そのまま電気炉の中で自然放冷し、室温になったら取り出した。得られた黒色粉末は焼結しているが、少量の場合は粉砕が可能で、乳鉢でザラツキがなくなるまで粉砕し、実施例で得たと同程度の数μmの粒子径の黒色粉末を得た。
【0051】
得られた黒色粉末は粉末X線回折の測定から層状ペロブスカイト構造と通常ペロブスカイト構造の混晶で、一部異相が見られた。かなり焼結しているため、大量粉砕の際はクラッシャーなどで粗砕後、通常のブレード型粉砕機で粉砕する必要があった。このものを熱分析装置により、窒素中と空気中における酸素吸着量の違いから、黒色粉末の酸素吸着量を測定したところ、1.5ml/gであった。また、この黒色粉末の導電性を室温にて測定したところ、1.8×102S/cmであった。通常のペロブスカイト型酸化物の導電性は100〜10-3S/cm程度であるため、導電性が高いが、同様の構成元素からなる実施例3に比べかなり低い特性である。なお、使用した原料の組成から算出したSrとLaとCoの割合は、Sr=100モルに対して、Laが11.1、Coが75モルである。
【0052】
<比較例4>(乾式混合調製:Sr−La−Mn)
原料として、それぞれ固体の、酸化ランタンを4.9部(La;0.03mol)と、炭酸ストロンチウムを39.8部(Sr;0.27mol)と、二酸化マンガン(86.9g/mol)26.07部(Mn;0.30mol)とを秤り取り、メディアとして5mmのアルミナビーズを使用し、遊星BMで1時間、粉砕混合した。その後、この一部をとって、ムライト製ルツボに入れ、電気炉にて昇温時間6時間で1200℃まで上げ、その温度にて120分保持して乾式焼成した。このものは、焼成後、そのまま電気炉の中で自然放冷し、室温になったら取り出した。得られた黒色粉末は、焼結しているが、少量の場合は、粉砕は可能で、乳鉢での粉砕で、ザラツキがなくなるまで粉砕し、実施例で得たと同程度の数μmの粒子径の黒色粉末を得た。
【0053】
得られた黒色粉末は、粉末X線回折の測定から、ペロブスカイト型の結晶構造であることが確認されたが、一部不明の異相が存在した。かなり焼結しているため、大量粉砕の際は、クラッシャー等で粗砕後、通常のブレード型粉砕機で粉砕する必要があった。この黒色粉末の導電性を室温にて測定したところ、2.1×101S/cmであった。通常のペロブスカイト型酸化物の導電性は100〜10-3S/cm程度であるため、これよりもやや高いが、同様の元素を原料に用いてなる実施例4で得た黒色粉末に比べては、かなり低い特性であった。なお、使用した原料の組成から算出したSrとLaとMnの割合は、Sr=100モルに対して、Laが11.1、Mnが111.1モルである。
【0054】
<比較例5、6>(湿式沈殿混合調製:Sr−Co−Fe)
実施例1で調製したと同様の原料を用い、同様にして得た、塩混合水溶液とアルカリ水溶液とを用い、これらを同時に滴下して混合スラリー溶液を得たが、その際に、比較例5ではpHを8に保持し、比較例6ではpHを10に保持しながら滴下した。その他は、実施例1で行ったと同様にして黒色粉末を得た。この際の、沈殿後得られた黒色粉末前駆体は、比較例5、6とも沈降がとても速く、全体が大きな凝集体といった感じであり、比較例6は特に沈降が速かった。焼成後に得られた黒色粉末は、粗大化しており、X線回折から不明の異相が散見され、本発明が目的とする「ぺロブスカイト型或いはこれに類似の柔軟な結晶構造を有するもの」でなく、その反応性も乏しいものであった。
【0055】
<比較例7>(湿式沈殿混合調製:Sr−La−Co−Fe)
実施例2で調製したと同様の原料を用い同様にして得た、塩混合水溶液とアルカリ水溶液とを用い、これらを同時に滴下して混合スラリー溶液を得たが、その際に、pHを10に保持しながら滴下した。その他は、実施例2で行ったと同様にして黒色粉末を得た。この際の、沈殿後得られた黒色粉末前駆体は沈降がとても速く全体が大きな凝集体と言った感じであった。焼成後得られた黒色粉末は粗大化しており、X線回折から不明の異相が散見され、本発明が目的とする「ぺロブスカイト型或いはこれに類似の柔軟な結晶構造を有するもの」でなく、その反応性も乏しいものであった。
【0056】
[評価]
上記した実施例及び比較例の複合酸化物について、製造方法の条件と得られた複合酸化物についての特性その粒子径と硬さを下記の方法で調べて評価した。
【0057】
(1)硬さ
実施例の黒色粉末について、同様の構成成分からなる乾式製法で得た比較例の焼結体と比較して硬さの違いを確認すると同時に、実施例の各黒色粉末を相対的に評価して表1中に結果をまとめて示した。
【0058】
(2)1次粒径
得られた黒色粉末を電子顕微鏡で観察し、1次粒径を測定し、粒径の範囲を表1中にまとめて示した。
【0059】
(3)酸素吸着量
熱分析装置により、空気中と窒素中における酸素吸着量の違いから黒色粉末の酸素吸着量を測定した。具体的には、設定温度600℃、常圧下において流量100ml/分で空気(酸素21%、窒素79%)と窒素(100%)を交互に流し、空気下での酸素吸着による重量増と、窒素下で酸素が放出されることによる重量減の差を観測し、吸着量を測定した。表−1に実施例の結果をまとめてしめした。
【0060】
(4)電導度
300mlの三角フラスコに測定対象の黒色粉末5gを秤り取り、精製水又は純水(電導度2μs/cm以下)を100ml加え、加熱し、液が沸騰したら5分間保持する。冷却後、蒸発水分を補給して全体を100mlとし、顔料分を濾過し、濾液の電導度を電導計(横河電機社製)で測定する。得られた結果を表1中に示した。
【0061】
【0062】
図1