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  • 特開2017066264-研磨用組成物 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-66264(P2017-66264A)
(43)【公開日】2017年4月6日
(54)【発明の名称】研磨用組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20170317BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20170317BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20170317BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20170317BHJP
【FI】
   C09K3/14 550Z
   H01L21/304 622D
   B24B37/00 H
   C09G1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-192833(P2015-192833)
(22)【出願日】2015年9月30日
(71)【出願人】
【識別番号】000116127
【氏名又は名称】ニッタ・ハース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【弁理士】
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100112715
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【弁理士】
【氏名又は名称】坂根 剛
(72)【発明者】
【氏名】杉田 規章
(72)【発明者】
【氏名】松下 隆幸
【テーマコード(参考)】
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158CA04
3C158DA02
3C158DA17
3C158EA11
3C158EB01
3C158ED10
3C158ED21
3C158ED26
5F057AA02
5F057AA14
5F057BA11
5F057BB03
5F057CA12
5F057DA03
5F057EA01
5F057EA21
5F057EA23
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ウェーハの表面粗さ、及びウェーハの形状を低下させることなく、優れた研磨速度で研磨可能な研磨用組成物の提供。
【解決手段】アミノ酸と、無機アルカリ化合物と、キレート剤と、砥粒と、を含む研磨用組成物。好ましくは、研磨用組成物中のアミノ酸は、塩基性荷電アミノ酸であり、L−アルギニン、L−リシン塩酸塩、またはL−ヒスチジンである研磨用組成物。好ましくは、研磨用組成物中に、無機アルカリ化合物が2種類配合されており、水酸化カリウム及び炭酸カリウムであり、好ましくは、更に、水溶性高分子を含む研磨用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸と、
無機アルカリ化合物と、
キレート剤と、
砥粒と、
を含む、研磨用組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の研磨用組成物において、
前記アミノ酸は、塩基性荷電アミノ酸である、研磨用組成物。
【請求項3】
請求項2に記載の研磨用組成物において、
前記塩基性荷電アミノ酸は、L−アルギニン、L−リシン塩酸塩、またはL−ヒスチジンである、研磨用組成物。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の研磨用組成物において、
前記無機アルカリ化合物は、2種類配合されている、研磨用組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の研磨用組成物において、
前記2種類の無機アルカリ化合物は、水酸化カリウム及び炭酸カリウムである、研磨用組成物。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の研磨用組成物において、
さらに、水溶性高分子を含む、研磨用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハの研磨処理に用いる研磨用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体シリコンウェーハを研磨する工程においては、研磨用組成物が用いられている。研磨用組成物に求められる特性として、研磨速度や、研磨後のウェーハの表面特性等が挙げられる。
【0003】
特許文献1には、水、研磨材、ならびに添加剤として、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の炭酸水素塩、第四級アンモニウム化合物、過酸化物、およびペルオキソ酸化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種類の化合物を含んだ研磨用組成物が開示されている。そして、特許文献1の研磨用組成物によれば、抵抗率が0.1Ω・cm以下である低抵抗シリコンウェーハの研磨加工において、凹凸のない極めて平滑な研磨表面を形成することができ、研磨速度が大きく、循環使用した場合でも研磨速度の低下が小さいと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−3036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、ウェーハの研磨速度を向上させるために、研磨用組成物にアミン化合物を配合することが行われている。しかしながら、アミン化合物の配合量が過剰になると、ウェーハ表面の特性が低下する虞がある。
【0006】
そこで、この発明は、ウェーハの表面粗さ、及びウェーハの形状を低下させることなく、優れた研磨速度で研磨可能な研磨用組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決する本発明の研磨用組成物は、アミノ酸と、無機アルカリ化合物と、キレート剤と、砥粒と、を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、研磨用組成物がアミノ酸、無機アルカリ化合物、キレート剤及び砥粒を含むので、ウェーハの表面粗さ、及びウェーハの形状を低下させることなく、優れた研磨速度での研磨を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1(a)は、研磨後のウェーハのロールアップの状態を示すウェーハの断面図であり、図1(b)は、研磨後のウェーハのロールオフの状態を示すウェーハの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
この発明の実施の形態による研磨用組成物COMPは、アミノ酸と、無機アルカリ化合物と、キレート剤と、砥粒とを含む。研磨用組成物COMPは、シリコンウェーハの研磨に用いられる。
【0011】
アミノ酸としては、正電荷または負電荷を有する荷電アミノ酸が好ましい。荷電アミノ酸としては、例えば、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、アルギニン(Arg)、リシン(Lys)、ヒスチジン(His)等が挙げられる。これらの中でも、アミノ酸としては、アルギニン、リシン、ヒスチジン等の塩基性アミノ酸が好ましい。アミノ酸としては、これらのうち1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。荷電アミノ酸の配合量は、2.0重量%以下が好ましく、1.5重量%以下がより好ましい。荷電アミノ酸の配合量が2.0重量%より大きいと、pHが大きくなり、砥粒の溶解する虞がある。
【0012】
無機アルカリ化合物としては、例えば、アルカリ金属またはアルカリ土類金属元素の水酸化物、その炭酸塩またはその炭酸水素塩等が挙げられる。具体的には、無機アルカリ化合物としては、炭酸カリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。
【0013】
無機アルカリ化合物の配合量は、2.5重量%以下が好ましく、2重量%以下がより好ましい。無機アルカリ化合物の配合量が2.5重量%より大きいと、研磨用組成物の長期安定性が悪くなり、砥粒が凝集しやすくなる虞がある。
【0014】
無機アルカリ化合物としては、1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよいが、2種類を併用することが好ましい。配合する2種類の無機アルカリ化合物の組としては、例えば、水酸化カリウム及び炭酸カリウムが好ましい。
【0015】
炭酸カリウムは水酸化カリウムよりも砥粒が凝集しやすい性質を有するので、無機アルカリ化合物として水酸化カリウムを含んでいることが好ましい。また、無機アルカリ化合物として、水酸化カリウムに加えて、炭酸カリウムを配合することにより、水酸化カリウムの配合量を増加しても、電離平衡が移動し、pHの変化が抑制される。そのため、無機アルカリ化合物の配合量を増加してもpHが高くなりにくく、砥粒が溶けるのを抑制することができる。
【0016】
無機アルカリ化合物として、水酸化カリウムと炭酸カリウムを配合する場合、研磨用組成物の長期安定性の観点からは、無機アルカリ化合物に対する炭酸カリウムの割合が80重量%未満であることが好ましく、70重量%未満であることがより好ましい。
【0017】
砥粒としては、この分野で常用されるものを使用でき、例えば、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ、コロイダルアルミナ、ヒュームドアルミナ、酸化セリウム、炭化ケイ素、窒化シリコン等が挙げられる。これらのうち、砥粒としては、コロイダルシリカが好適に用いられる。
【0018】
キレート剤としては、例えば、アミノカルボン酸キレート剤および有機ホスホン酸系キレート剤が挙げられる。アミノカルボン酸キレート剤には、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン5酢酸(DTPA)、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、トリエチレンテトラミン六酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸(NTA)、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸アンモニウム、およびトリエチレントリアミン五酢酸(TTHA)などが含まれる。有機ホスホン酸系キレート剤には、2−アミノエチルホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン−1,1−ジホスホン酸、エタン−1−ヒドロキシ−1,1,2−トリホスホン酸、エタン−1,2−ジカルボキシ−1,2−ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、および2−ホスホノブタン−1,2−ジカルボン酸などが含まれる。
【0019】
研磨用組成物COMPは、この他、アミン等の有機アルカリ化合物、pH調整剤、界面活性剤等の、研磨用組成物の分野で一般に知られた配合剤を任意に配合することができる。
【0020】
研磨用組成物COMPは、アミノ酸、無機アルカリ化合物、キレート剤、砥粒、及びその他の配合材料を適宜混合して水を加えることによって作製される。あるいは、研磨用組成物COMPは、アミノ酸、無機アルカリ化合物、キレート剤、砥粒、及びその他の配合材料を、順次、水に混合することによって作製される。これらの成分を混合する手段としては、ホモジナイザー、および超音波等、研磨用組成物の技術分野において常用される手段が用いられる。
【0021】
以上説明した研磨用組成物COMPは、適当な濃度となるように水(例えば、脱イオン水)で希釈した後、シリコンウェーハの研磨処理に用いられる。
【0022】
研磨用組成物COMPにおいて、無機アルカリ化合物を2種類配合することは、必須の構成ではない。研磨用組成物COMPに配合された無機アルカリ化合物が1種類の場合でも、ウェーハの表面粗さ、及びウェーハの形状を低下させることなく、優れた研磨速度で研磨することができる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
【0024】
(研磨用組成物)
以下の実施例1〜実施例10及び比較例1〜比較例2の研磨用組成物を作製した。
【0025】
実施例1の研磨用組成物は、6.0重量%のコロイダルシリカ、1.00重量%の水酸化カリウム(KOH)、0.50重量%の炭酸カリウム(KCO)、0.02重量%のジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、及び0.5重量%のL−アルギニン(Arg)を水に配合して全体で100重量%としたものである。なお、コロイダルシリカとしては、BET法による平均一次粒子径が35nm、平均二次粒子径が70nmの砥粒を用いた。水酸化カリウム及び炭酸カリウムは、無機アルカリ化合物として配合した。DTPAは、キレート剤として配合した。ここで示す「重量%」は、研磨用組成物(原液)全体に対する重量%を示す。以下の実施例及び比較例においても同様である。
【0026】
この研磨用組成物(原液)を脱イオン水で10倍希釈し、研磨液としてウェーハの研磨を行った。
【0027】
実施例2の研磨用組成物(原液)は、L−アルギニンの配合量を1.0重量%としたことを除いて、実施例1と同一の組成を有する。
【0028】
実施例3の研磨用組成物(原液)は、炭酸カリウムを配合しないことを除いて、実施例2と同一の組成を有する。
【0029】
実施例4の研磨用組成物(原液)は、水酸化カリウムの配合量を0.62重量%とし、さらに、炭酸カリウムの配合量を0.88重量%としたことを除いて、実施例2と同一の組成を有する。ただし、水酸化カリウムの配合量と水酸化カリウムの配合量の合計は、実施例2と同じである。
【0030】
実施例5〜実施例7の研磨用組成物(原液)は、L−アルギニンの配合量をそれぞれ0.5重量%、1.0重量%、及び1.5重量%としたことを除いて、実施例4と同一の組成を有する。
【0031】
実施例8及び実施例9の研磨用組成物(原液)は、L−アルギニンの代わりに、それぞれ、0.5重量%のL−リシン塩酸塩(Lys塩酸塩)及び0.5重量%のL−ヒスチジン(His)を配合したことを除いて、実施例5と同一の組成を有する。
【0032】
実施例10の研磨用組成物(原液)は、実施例2の研磨用組成物に、さらに、0.005重量%のポロキサミン(エチレンジアミンテトラポリオキシエチレンポリオキシプロピレン)及び0.010重量%のヒドロキシエチルセルロース(HEC)を配合したことを除いて実施例2と同一の組成を有する。なお、ポロキサミンとしては、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの質量比EO/POが、EO/PO=40/60であり、分子量が6900であるものを用いた。HECの重量平均分子量は800000であった。
【0033】
比較例1の研磨用組成物(原液)は、L−アルギニンを配合しないことを除いて実施例4と同一の組成を有する。
【0034】
比較例2の研磨用組成物(原液)は、L−アルギニンを配合しないことを除いて実施例10と同一の組成を有する。
【0035】
(研磨の方法)
実施例1〜実施例10及び比較例1〜比較例2の研磨用組成物原液を20倍に希釈して、以下の条件でシリコンウェーハの研磨を行った。研磨装置(SPP800S片面研磨機、岡本工作機械製作所製)を用い、スエードからなる研磨パッドに研磨用組成物を0.6L/分の割合で供給し、かつ、直径12インチのシリコンウェーハに120gf/cmの圧力をかけながら研磨定盤を43rpmの回転速度で回転させ、キャリアを40rpmの回転速度で回転させながら、4分間、研磨を行なった。また、用いたシリコンウェーハは、伝導型がP型、結晶方位が<100>、抵抗率が0.1Ω・cm以上且つ100Ω・cm未満であった。
【0036】
(研磨速度の評価)
研磨終了後、研磨によって除去されたシリコンウェーハの厚みの差をウェーハ用平坦度検査装置(Nanometro 300TT−A、黒田精工株式会社製)を用いて測定した。研磨速度は、単位時間当たりに研磨によって除去されたシリコンウェーハの厚み(μm/分)で評価した。
【0037】
また、研磨レートの値に応じて、以下の記号「◎」、「○」及び「△」によって研磨レートの特性を評価した。
◎: 0.20μm/min以上
○: 0.15μm/min以上0.20μm/min未満
△: 0.15μm/min未満
【0038】
(表面粗さの評価)
表面粗さRaの評価として、非接触表面粗さ測定機(Wyko NT9300、Veeco社製)を用いて、実施例1〜実施例10及び比較例1〜比較例2による研磨用組成物を用いてシリコンウェーハを研磨した後の各ウェーハの表面の粗さを測定した。
【0039】
また、表面粗さの値に応じて、以下の記号「◎」、「○」及び「△」によって表面粗さの特性を評価した。
◎: 0.30nm未満
○: 0.30nm以上0.35nm未満
△: 0.35nm以上
【0040】
(ウェーハ形状評価:形状悪化量)
研磨後のウェーハ形状を評価するために、ウェーハ用平坦度検査装置(Nanometro 300TT−A、黒田精工株式会社製)を用いてGBIR(Global Backside Ideal Range)を測定した。このGBIRは、ウェーハの表側の面全体について、裏側の面を基準とする理想平面と実際の表面との差を測定し、これらの偏差の範囲を計算したものであり、定義すべきエッジ除外領域を除いたウェーハ表面の全体的平坦度の指標として扱うことができる。
【0041】
そして、以下の式により算出される値を形状悪化量として評価した。なお、式中の「研磨取り代(A)」は、上記のウェーハ用平坦度検査装置により測定した研磨前後におけるウェーハの平均厚みの差により得られる値である。形状悪化量の値については、数値が小さいほど良好な特性を有すると判断することができる。
[形状悪化量]=[GBIR]/[研磨取り代(A)]
【0042】
また、形状悪化量の値に応じて、以下の記号「◎」、「○」及び「△」によって形状悪化量の特性を評価した。
◎: 0.6未満
○: 0.6以上0.8未満
△: 0.8以上
【0043】
(ウェーハ形状評価:ロールオフ量(RoA))
さらに、上記のウェーハ用平坦度検査装置を用いて、ウェーハの外周から10mmの場所における研磨取り代(以下、「研磨取り代D1」とも表記する。図1を参照)、及び、ウェーハの外周から1mmの場所における研磨取り代(以下、「研磨取り代D2」とも表記する。図1を参照)を測定した。そして、研磨取り代D1と研磨取り代D2の差を、ロールオフ量(Roll Off Amount:RoA)として評価した。
[RoA]=[研磨取り代D1]−[研磨取り代D2]
【0044】
図1(a)及び図1(b)は、それぞれ、RoAの値の評価について説明するウェーハWの断面図である。図1(a)及び図1(b)において、破線で示した領域は、研磨によって除去された部分Pを示す。斜線を付した領域は、研磨後のウェーハWの断面を示す。RoAの値については、RoAが正の値をとるとき(つまり、研磨取り代D1の値が研磨取り代D2の値より大きいとき)、ウェーハWの最終形状としては、周縁部が跳ね上がったロールアップの形状となる。逆に、RoAが負の値をとるとき(つまり、研磨取り代D1の値が研磨取り代D2の値より小さいとき)、ウェーハWの最終形状としては、周縁部が内方よりも多く研磨されたロールオフの形状となる。換言すると、RoAの値が0であるとき、ウェーハWの周縁部において、研磨が理想的に均一に行われていることを意味している。なお、必要とされるウェーハWの形状によって、好ましいRoAの大きさが異なる。例えば、周縁部において平坦なウェーハWが必要とされる場合には、RoAの値が0に近いことが好ましい。また、周縁部においてロールアップまたはロールオフとなった形状のウェーハWが必要とされる場合には、各々、RoAは正または負の値となっていることが好ましい。
【0045】
(評価結果)
実施例1〜実施例10及び比較例1〜比較例2の研磨用組成物の成分、並びに、研磨速度(RR)、表面粗さ(Ra)、形状悪化量、及びロールオフ量(RoA)についての測定結果を、表1及び表2に示す。なお、表1及び表2の研磨用組成物の成分の表示において、各成分の重量%は、研磨用組成物(原液)全体に対する重量%を表す。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
アミノ酸を含む実施例1〜3と、アミノ酸を含まない比較例1とを比較すると、実施例1〜実施例3によれば、表面粗さを維持して研磨速度と形状悪化量を著しく改善できていることが分かる。
【0049】
また、アミノ酸を含む実施例4と、アミノ酸を含まない比較例1とを比較すると、実施例4によれば、表面粗さ、研磨速度を維持して形状悪化量を改善できていることが分かる。
【0050】
さらに、アミノ酸を含む実施例5〜7と、アミノ酸を含まない比較例1とを比較すると、実施例5〜7によれば、表面粗さを維持して研磨速度と形状悪化量を大きく改善できていることが分かる。
【0051】
それぞれL−アルギニン酸、L−リシン塩酸塩、及びL−ヒスチジンを含む実施例5、8及び9と、アミノ酸を含まない比較例1とを比較すると、アミノ酸を含む実施例5、8及び9は、比較例1と同等の表面粗さを維持し、比較例1と同等または優れた研磨速度となり、且つ、比較例1よりも形状悪化量が大きく向上していることが分かる。ロールオフ量については、アミノ酸を含む実施例5,8及び9の研磨用組成物によれば、比較例1の研磨用組成物による場合よりも、ロールアップのウェーハが得られる傾向となっている。研磨用組成物にアミノ酸を配合することにより、表面粗さが維持され、且つ、優れた研磨速度及び形状悪化量が得られるのは、ピペラジン等の一般的なアミン化合物に比べて、アミノ酸のシリコンに対するエッチング性が低いことが理由であると考えられる。アミノ酸のシリコンに対するエッチング性が低いので、アミノ酸の添加量を増加させても、研磨速度の増加率は大きくない反面、表面粗さを維持し、且つ、形状悪化量を改善できていると考えられる。
【0052】
アミノ酸(L−アルギニン酸)の配合量を変量した実施例4〜実施例7、及び実施例1〜実施例2によれば、アミノ酸の配合量が大きくなるほど、研磨速度が大きくなることがわかる。一方、アミノ酸の配合量が大きくなると、ロールオフ量が増加傾向となることが分かる。
【0053】
実施例5、8及び9、並びに比較例1の比較と同様、水溶性高分子(ポロキサミン及びHEC)を含む系である実施例10と比較例2との比較においても、アミノ酸を含む実施例10は、比較例2と同等の表面粗さを維持し、且つ、比較例2よりも研磨速度及び形状悪化量が大きく向上していることが分かる。また、ロールオフ量についても、アミノ酸を含む実施例10の研磨用組成物によれば、比較例2の研磨用組成物による場合よりも、ロールアップのウェーハが得られる傾向となっている。
【0054】
アミノ酸及び水溶性高分子を含む実施例10は、それらを含まない比較例1と比較して、研磨速度を維持して表面粗さを著しく改善し、形状悪化量を大きく改善できることが分かる。
【0055】
また、アミノ酸を含むが水溶性高分子を含まない実施例2と、アミノ酸及び水溶性高分子を含む実施例10とを比較すると、研磨用組成物が水溶性高分子を含むことにより、表面粗さ及びロールオフ量が著しく小さくなっていることが分かる。つまり、水溶性高分子は、研磨速度、形状悪化量を許容範囲で維持して表面粗さを著しく改善できる。このことから、ウェーハの端面の形状を制御するためには、研磨用組成物に配合する水溶性高分子の種類及び量を適宜調整し、要求される性能に応じた研磨用組成物とすることが考えられる。
【0056】
無機アルカリ化合物として2種類(水酸化カリウム及び炭酸カリウム)を配合した実施例2と、1種類(水酸化カリウム)を配合した実施例3とを比較すると、研磨速度、表面粗さ、形状悪化量は同程度の結果である一方、ロールオフ量においては、無機アルカリ化合物が1種類の場合には増加していることが分かる。
【0057】
無機アルカリ化合物を2種類配合した系において、水酸化カリウムと炭酸カリウムの配合割合を変化させる場合について検討する。水酸化カリウムの配合量が炭酸カリウムよりも多い(KOH>KCO)実施例1及び実施例2は、炭酸カリウムの配合量が水酸化カリウムよりも多い(KOH<KCO)実施例5及び実施例6と比較して、研磨速度を維持して、表面粗さ及び形状悪化量を大きく向上できる。したがって、水酸化カリウムの配合量は、炭酸カリウムの配合量よりも多いことが好ましい。
【0058】
水酸化カリウムの配合量は、炭酸カリウムの配合量よりも多いことが好ましい理由としては、以下が考えられる。炭酸カリウムは水酸化カリウムよりも砥粒が凝集しやすい性質を有するので、KOHに比べKCOの配合量の比率が大きくなっていくと、砥粒が凝集する傾向が強くなる。そのため、研磨用組成物の長期安定性も悪くなり、研磨性能(研磨速度、表面粗さ、形状悪化量)は悪化すると考えられる。
【0059】
なお、KOHに比べKCOの配合量の比率が大きくなっていくと凝集傾向が高くなる理由として、KCOはKOHよりも塩濃度が高い(等モル比で考えたとき、KCOはKOHよりもカリウムイオンが2倍となる)ことが挙げられる。KCOは塩 濃度が高いので、水中(アルカリ条件下)で静電反発により安定化している粒子同士間にカリウムイオン(電解質)が介在することにより粒子の電荷が遮蔽され、砥粒の凝集が起こりやすくなる。
【0060】
以上、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【0061】
この発明の本実施形態による研磨用組成物は、アミノ酸と、無機アルカリ化合物と、キレート剤と、砥粒と、を含む。
【0062】
この発明の本実施形態による研磨用組成物に含まれるアミノ酸は、好ましくは、塩基性荷電アミノ酸である。
【0063】
この発明の本実施形態による研磨用組成物に含まれるアミノ酸が塩基性荷電アミノ酸である場合、塩基性荷電アミノ酸は、好ましくは、L−アルギニン、L−リシン塩酸塩、またはL−ヒスチジンである。
【0064】
この発明の本実施形態による研磨用組成物には、好ましくは、2種類の無機アルカリ化合物が含まれる。
【0065】
この発明の本実施形態による研磨用組成物に2種類の無機アルカリ化合物が含まれる場合、無機アルカリ化合物は、水酸化カリウム及び炭酸カリウムであることが好ましい。
【0066】
この発明の本実施形態による研磨用組成物は、さらに、水溶性高分子を含んでいてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、研磨用組成物について利用可能である。
図1