【実施例】
【0023】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
【0024】
(研磨用組成物)
以下の実施例1〜実施例10及び比較例1〜比較例2の研磨用組成物を作製した。
【0025】
実施例1の研磨用組成物は、6.0重量%のコロイダルシリカ、1.00重量%の水酸化カリウム(KOH)、0.50重量%の炭酸カリウム(K
2CO
3)、0.02重量%のジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、及び0.5重量%のL−アルギニン(Arg)を水に配合して全体で100重量%としたものである。なお、コロイダルシリカとしては、BET法による平均一次粒子径が35nm、平均二次粒子径が70nmの砥粒を用いた。水酸化カリウム及び炭酸カリウムは、無機アルカリ化合物として配合した。DTPAは、キレート剤として配合した。ここで示す「重量%」は、研磨用組成物(原液)全体に対する重量%を示す。以下の実施例及び比較例においても同様である。
【0026】
この研磨用組成物(原液)を脱イオン水で10倍希釈し、研磨液としてウェーハの研磨を行った。
【0027】
実施例2の研磨用組成物(原液)は、L−アルギニンの配合量を1.0重量%としたことを除いて、実施例1と同一の組成を有する。
【0028】
実施例3の研磨用組成物(原液)は、炭酸カリウムを配合しないことを除いて、実施例2と同一の組成を有する。
【0029】
実施例4の研磨用組成物(原液)は、水酸化カリウムの配合量を0.62重量%とし、さらに、炭酸カリウムの配合量を0.88重量%としたことを除いて、実施例2と同一の組成を有する。ただし、水酸化カリウムの配合量と水酸化カリウムの配合量の合計は、実施例2と同じである。
【0030】
実施例5〜実施例7の研磨用組成物(原液)は、L−アルギニンの配合量をそれぞれ0.5重量%、1.0重量%、及び1.5重量%としたことを除いて、実施例4と同一の組成を有する。
【0031】
実施例8及び実施例9の研磨用組成物(原液)は、L−アルギニンの代わりに、それぞれ、0.5重量%のL−リシン塩酸塩(Lys塩酸塩)及び0.5重量%のL−ヒスチジン(His)を配合したことを除いて、実施例5と同一の組成を有する。
【0032】
実施例10の研磨用組成物(原液)は、実施例2の研磨用組成物に、さらに、0.005重量%のポロキサミン(エチレンジアミンテトラポリオキシエチレンポリオキシプロピレン)及び0.010重量%のヒドロキシエチルセルロース(HEC)を配合したことを除いて実施例2と同一の組成を有する。なお、ポロキサミンとしては、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの質量比EO/POが、EO/PO=40/60であり、分子量が6900であるものを用いた。HECの重量平均分子量は800000であった。
【0033】
比較例1の研磨用組成物(原液)は、L−アルギニンを配合しないことを除いて実施例4と同一の組成を有する。
【0034】
比較例2の研磨用組成物(原液)は、L−アルギニンを配合しないことを除いて実施例10と同一の組成を有する。
【0035】
(研磨の方法)
実施例1〜実施例10及び比較例1〜比較例2の研磨用組成物原液を20倍に希釈して、以下の条件でシリコンウェーハの研磨を行った。研磨装置(SPP800S片面研磨機、岡本工作機械製作所製)を用い、スエードからなる研磨パッドに研磨用組成物を0.6L/分の割合で供給し、かつ、直径12インチのシリコンウェーハに120gf/cm
2の圧力をかけながら研磨定盤を43rpmの回転速度で回転させ、キャリアを40rpmの回転速度で回転させながら、4分間、研磨を行なった。また、用いたシリコンウェーハは、伝導型がP型、結晶方位が<100>、抵抗率が0.1Ω・cm以上且つ100Ω・cm未満であった。
【0036】
(研磨速度の評価)
研磨終了後、研磨によって除去されたシリコンウェーハの厚みの差をウェーハ用平坦度検査装置(Nanometro 300TT−A、黒田精工株式会社製)を用いて測定した。研磨速度は、単位時間当たりに研磨によって除去されたシリコンウェーハの厚み(μm/分)で評価した。
【0037】
また、研磨レートの値に応じて、以下の記号「◎」、「○」及び「△」によって研磨レートの特性を評価した。
◎: 0.20μm/min以上
○: 0.15μm/min以上0.20μm/min未満
△: 0.15μm/min未満
【0038】
(表面粗さの評価)
表面粗さRaの評価として、非接触表面粗さ測定機(Wyko NT9300、Veeco社製)を用いて、実施例1〜実施例10及び比較例1〜比較例2による研磨用組成物を用いてシリコンウェーハを研磨した後の各ウェーハの表面の粗さを測定した。
【0039】
また、表面粗さの値に応じて、以下の記号「◎」、「○」及び「△」によって表面粗さの特性を評価した。
◎: 0.30nm未満
○: 0.30nm以上0.35nm未満
△: 0.35nm以上
【0040】
(ウェーハ形状評価:形状悪化量)
研磨後のウェーハ形状を評価するために、ウェーハ用平坦度検査装置(Nanometro 300TT−A、黒田精工株式会社製)を用いてGBIR(Global Backside Ideal Range)を測定した。このGBIRは、ウェーハの表側の面全体について、裏側の面を基準とする理想平面と実際の表面との差を測定し、これらの偏差の範囲を計算したものであり、定義すべきエッジ除外領域を除いたウェーハ表面の全体的平坦度の指標として扱うことができる。
【0041】
そして、以下の式により算出される値を形状悪化量として評価した。なお、式中の「研磨取り代(A)」は、上記のウェーハ用平坦度検査装置により測定した研磨前後におけるウェーハの平均厚みの差により得られる値である。形状悪化量の値については、数値が小さいほど良好な特性を有すると判断することができる。
[形状悪化量]=[GBIR]/[研磨取り代(A)]
【0042】
また、形状悪化量の値に応じて、以下の記号「◎」、「○」及び「△」によって形状悪化量の特性を評価した。
◎: 0.6未満
○: 0.6以上0.8未満
△: 0.8以上
【0043】
(ウェーハ形状評価:ロールオフ量(RoA))
さらに、上記のウェーハ用平坦度検査装置を用いて、ウェーハの外周から10mmの場所における研磨取り代(以下、「研磨取り代D1」とも表記する。
図1を参照)、及び、ウェーハの外周から1mmの場所における研磨取り代(以下、「研磨取り代D2」とも表記する。
図1を参照)を測定した。そして、研磨取り代D1と研磨取り代D2の差を、ロールオフ量(Roll Off Amount:RoA)として評価した。
[RoA]=[研磨取り代D1]−[研磨取り代D2]
【0044】
図1(a)及び
図1(b)は、それぞれ、RoAの値の評価について説明するウェーハWの断面図である。
図1(a)及び
図1(b)において、破線で示した領域は、研磨によって除去された部分Pを示す。斜線を付した領域は、研磨後のウェーハWの断面を示す。RoAの値については、RoAが正の値をとるとき(つまり、研磨取り代D1の値が研磨取り代D2の値より大きいとき)、ウェーハWの最終形状としては、周縁部が跳ね上がったロールアップの形状となる。逆に、RoAが負の値をとるとき(つまり、研磨取り代D1の値が研磨取り代D2の値より小さいとき)、ウェーハWの最終形状としては、周縁部が内方よりも多く研磨されたロールオフの形状となる。換言すると、RoAの値が0であるとき、ウェーハWの周縁部において、研磨が理想的に均一に行われていることを意味している。なお、必要とされるウェーハWの形状によって、好ましいRoAの大きさが異なる。例えば、周縁部において平坦なウェーハWが必要とされる場合には、RoAの値が0に近いことが好ましい。また、周縁部においてロールアップまたはロールオフとなった形状のウェーハWが必要とされる場合には、各々、RoAは正または負の値となっていることが好ましい。
【0045】
(評価結果)
実施例1〜実施例10及び比較例1〜比較例2の研磨用組成物の成分、並びに、研磨速度(RR)、表面粗さ(Ra)、形状悪化量、及びロールオフ量(RoA)についての測定結果を、表1及び表2に示す。なお、表1及び表2の研磨用組成物の成分の表示において、各成分の重量%は、研磨用組成物(原液)全体に対する重量%を表す。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
アミノ酸を含む実施例1〜3と、アミノ酸を含まない比較例1とを比較すると、実施例1〜実施例3によれば、表面粗さを維持して研磨速度と形状悪化量を著しく改善できていることが分かる。
【0049】
また、アミノ酸を含む実施例4と、アミノ酸を含まない比較例1とを比較すると、実施例4によれば、表面粗さ、研磨速度を維持して形状悪化量を改善できていることが分かる。
【0050】
さらに、アミノ酸を含む実施例5〜7と、アミノ酸を含まない比較例1とを比較すると、実施例5〜7によれば、表面粗さを維持して研磨速度と形状悪化量を大きく改善できていることが分かる。
【0051】
それぞれL−アルギニン酸、L−リシン塩酸塩、及びL−ヒスチジンを含む実施例5、8及び9と、アミノ酸を含まない比較例1とを比較すると、アミノ酸を含む実施例5、8及び9は、比較例1と同等の表面粗さを維持し、比較例1と同等または優れた研磨速度となり、且つ、比較例1よりも形状悪化量が大きく向上していることが分かる。ロールオフ量については、アミノ酸を含む実施例5,8及び9の研磨用組成物によれば、比較例1の研磨用組成物による場合よりも、ロールアップのウェーハが得られる傾向となっている。研磨用組成物にアミノ酸を配合することにより、表面粗さが維持され、且つ、優れた研磨速度及び形状悪化量が得られるのは、ピペラジン等の一般的なアミン化合物に比べて、アミノ酸のシリコンに対するエッチング性が低いことが理由であると考えられる。アミノ酸のシリコンに対するエッチング性が低いので、アミノ酸の添加量を増加させても、研磨速度の増加率は大きくない反面、表面粗さを維持し、且つ、形状悪化量を改善できていると考えられる。
【0052】
アミノ酸(L−アルギニン酸)の配合量を変量した実施例4〜実施例7、及び実施例1〜実施例2によれば、アミノ酸の配合量が大きくなるほど、研磨速度が大きくなることがわかる。一方、アミノ酸の配合量が大きくなると、ロールオフ量が増加傾向となることが分かる。
【0053】
実施例5、8及び9、並びに比較例1の比較と同様、水溶性高分子(ポロキサミン及びHEC)を含む系である実施例10と比較例2との比較においても、アミノ酸を含む実施例10は、比較例2と同等の表面粗さを維持し、且つ、比較例2よりも研磨速度及び形状悪化量が大きく向上していることが分かる。また、ロールオフ量についても、アミノ酸を含む実施例10の研磨用組成物によれば、比較例2の研磨用組成物による場合よりも、ロールアップのウェーハが得られる傾向となっている。
【0054】
アミノ酸及び水溶性高分子を含む実施例10は、それらを含まない比較例1と比較して、研磨速度を維持して表面粗さを著しく改善し、形状悪化量を大きく改善できることが分かる。
【0055】
また、アミノ酸を含むが水溶性高分子を含まない実施例2と、アミノ酸及び水溶性高分子を含む実施例10とを比較すると、研磨用組成物が水溶性高分子を含むことにより、表面粗さ及びロールオフ量が著しく小さくなっていることが分かる。つまり、水溶性高分子は、研磨速度、形状悪化量を許容範囲で維持して表面粗さを著しく改善できる。このことから、ウェーハの端面の形状を制御するためには、研磨用組成物に配合する水溶性高分子の種類及び量を適宜調整し、要求される性能に応じた研磨用組成物とすることが考えられる。
【0056】
無機アルカリ化合物として2種類(水酸化カリウム及び炭酸カリウム)を配合した実施例2と、1種類(水酸化カリウム)を配合した実施例3とを比較すると、研磨速度、表面粗さ、形状悪化量は同程度の結果である一方、ロールオフ量においては、無機アルカリ化合物が1種類の場合には増加していることが分かる。
【0057】
無機アルカリ化合物を2種類配合した系において、水酸化カリウムと炭酸カリウムの配合割合を変化させる場合について検討する。水酸化カリウムの配合量が炭酸カリウムよりも多い(KOH>K
2CO
3)実施例1及び実施例2は、炭酸カリウムの配合量が水酸化カリウムよりも多い(KOH<K
2CO
3)実施例5及び実施例6と比較して、研磨速度を維持して、表面粗さ及び形状悪化量を大きく向上できる。したがって、水酸化カリウムの配合量は、炭酸カリウムの配合量よりも多いことが好ましい。
【0058】
水酸化カリウムの配合量は、炭酸カリウムの配合量よりも多いことが好ましい理由としては、以下が考えられる。炭酸カリウムは水酸化カリウムよりも砥粒が凝集しやすい性質を有するので、KOHに比べK
2CO
3の配合量の比率が大きくなっていくと、砥粒が凝集する傾向が強くなる。そのため、研磨用組成物の長期安定性も悪くなり、研磨性能(研磨速度、表面粗さ、形状悪化量)は悪化すると考えられる。
【0059】
なお、KOHに比べK
2CO
3の配合量の比率が大きくなっていくと凝集傾向が高くなる理由として、K
2CO
3はKOHよりも塩濃度が高い(等モル比で考えたとき、K
2CO
3はKOHよりもカリウムイオンが2倍となる)ことが挙げられる。K
2CO
3は塩 濃度が高いので、水中(アルカリ条件下)で静電反発により安定化している粒子同士間にカリウムイオン(電解質)が介在することにより粒子の電荷が遮蔽され、砥粒の凝集が起こりやすくなる。
【0060】
以上、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【0061】
この発明の本実施形態による研磨用組成物は、アミノ酸と、無機アルカリ化合物と、キレート剤と、砥粒と、を含む。
【0062】
この発明の本実施形態による研磨用組成物に含まれるアミノ酸は、好ましくは、塩基性荷電アミノ酸である。
【0063】
この発明の本実施形態による研磨用組成物に含まれるアミノ酸が塩基性荷電アミノ酸である場合、塩基性荷電アミノ酸は、好ましくは、L−アルギニン、L−リシン塩酸塩、またはL−ヒスチジンである。
【0064】
この発明の本実施形態による研磨用組成物には、好ましくは、2種類の無機アルカリ化合物が含まれる。
【0065】
この発明の本実施形態による研磨用組成物に2種類の無機アルカリ化合物が含まれる場合、無機アルカリ化合物は、水酸化カリウム及び炭酸カリウムであることが好ましい。
【0066】
この発明の本実施形態による研磨用組成物は、さらに、水溶性高分子を含んでいてもよい。