【解決手段】本発明は、透明基材の表面に位置する単レンズ群からなるマイクロレンズアレイ型の拡散板であって、前記単レンズ群を構成するそれぞれの単レンズが有する開口径及び曲率半径は、前記単レンズ群全体としてばらつきがあり、かつ、前記それぞれの単レンズの頂点位置は、不規則に配置されており、前記単レンズ群を透過する光のエネルギー分布が、所定の拡散角度範囲で略均一である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0030】
(本発明の実施形態に係る拡散板の概要)
本発明の実施形態に係る拡散板について詳細に説明するに先立ち、本発明の実施形態に係る拡散板の概要について、以下で簡単に言及しておく。
【0031】
以下で詳述する本発明の実施形態に係る拡散板は、光の均質拡散及び光学開口の均質拡大機能を備えた、マイクロレンズアレイ型の拡散板である。かかる拡散板の有する光学体(すなわち、マイクロレンズ)は、光拡散機能を有する凸面又は凹面が、互いに異なる形状であり、かつ、各レンズの境界輪郭部が異なる曲線により隣接するレンズと接することを特徴とする構造体である。
【0032】
上記特許文献1及び特許文献2に開示されているような、従来のマイクロレンズアレイ構造による光学体の場合、一般的なガウシアン状の光拡散機能及び画像機器におけるモアレ抑制機能を付加し得るのみであり、均質なエネルギー分布の拡散特性を満足することが難しいという問題があった。つまり、可視光領域のコリメート光や、コリメート性のある主光線を有して一定の開口を持つテレセントリック光に対して、一定領域における角度成分内でエネルギー分布の均質性が非常に高く、この角度成分の一定領域を超過するとエネルギーが急激に減少し得る光学機能(以下、「トップハット型拡散」ともいう。)に関する課題を解決できていないという問題があった。
【0033】
以下で詳述する本発明の実施形態に係る拡散板は、マイクロレンズアレイを構成する各単位セルの配置、曲率半径、及び、円形開口径に摂動(換言すれば、ばらつき)を持たせることで、相互に異なる湾曲及び曲面の領域を複数持ち、かかる領域境界が相互に異なる曲面であり、接線方位が相互に異なる俯瞰投影軌跡が異なる曲線を以って区切られる多数の湾曲及び曲面からなる光学体を有する。これにより、上記のような課題を解決し、高均質拡散機能を持った光学体を実現することが可能となる。
【0034】
以下で詳述する拡散板の特徴の要旨は、以下の通りである。
1)各マイクロレンズの曲面部は、球面体、又は、非球面体である。
2)マイクロレンズアレイを構成するマイクロレンズの配置は、周期配列からランダムに摂動した配置とすることが可能である。この場合、基本となる格子の位置をPとし、摂動幅(ばらつき幅)をΔPとすると、ΔP/P≠0が成立する。
3)上記2)の場合に、基準配列(基本となる格子)は、例えば六方格子とすることが可能である。かかる場合に、基準配列におけるマイクロレンズの基準開口径及び基準曲率半径を、それぞれφ及びRとし、最大摂動量をM/2とすると、摂動比率(M/2)×2/(φ
2+R
2)
0.5は、0.12以上である。
4)マイクロレンズアレイにおいて、基準開口径φと摂動幅Δφとの比率|Δφ/φ|は、5%以上25%以下である。
5)マイクロレンズアレイにおいて、基準曲率半径Rと摂動幅ΔRとの比率|ΔR/R|は、5%以上70%以下である。
6)マイクロレンズアレイを構成するマイクロレンズの配置は、上記2)のように周期配列を基準とするのではなく、ランダム配列とすることが可能である。かかるランダム配列の場合に、マイクロレンズの基準開口径をφとし、基準曲率半径をRとし、マイクロレンズ間の最大重複量(重なり幅の最大値)をO
vとすると、摂動比率O
v/(φ
2+R
2)
0.5は、0.12以上である。
7)マイクロレンズアレイにおいて、アレイを構成する各マイクロレンズの頂点間の最大高低差をΔZ
maxとし、頂点の最大高さをZとすると、比率ΔZ
max/Zは、0.015以上である。
8)マイクロレンズアレイを構成するマイクロレンズが有する、隣接するマイクロレンズとの各境界は、相互に異なる湾曲形状である。
9)マイクロレンズが配置された光学体(拡散板)の平坦部は、10%未満である。
【0035】
以下では、以上のような特徴を有する本発明の実施形態に係る拡散板について、詳細に説明する。
【0036】
(拡散板について)
以下では、
図1〜
図12を参照しながら、本発明の第1の実施形態に係る拡散板1について詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る拡散板の構成を模式的に示した説明図である。
図2及び
図3は、本実施形態に係る拡散板が有する単レンズについて説明するための説明図である。
図4〜
図5Bは、本実施形態に係る拡散板が備える単レンズ群の一例を上方から見た電子顕微鏡写真である。
図6A〜
図7Bは、本実施形態に係る拡散板が備える単レンズ群の配置方法について説明するための説明図である。
図8A〜
図9Bは、本実施形態に係る拡散板が備える単レンズ群の一例を上方から見た電子顕微鏡写真である。
図10は、本実施形態に係る拡散板を透過した光のエネルギー分布を模式的に示した説明図である。
図11は、本実施形態に係る拡散板を透過した光のエネルギー分布について説明するための説明図である。
図12は、本実施形態に係る拡散板の幾何光学的拡散特性の一例を示した説明図である。
【0037】
本実施形態に係る拡散板1は、基材上に複数のマイクロレンズ(以下、「単レンズ」とも称する。)が配置された、マイクロレンズアレイ型の拡散板である。かかる拡散板1は、
図1に模式的に示したように、透明基材10と、透明基材10の表面に形成された単レンズ群20と、を有している。
【0038】
<透明基材10について>
透明基材10は、本実施形態に係る拡散板1に入射する光の波長帯域において、透明とみなすことが可能な材質からなる基材である。かかる透明基材10は、フィルム状のものであっても良いし、板状のものであっても良い。かかる基材の材質については、特に限定するものではないが、例えば、ポリメチルメタクリレート(polymenthyl methacrylate:PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(Polyethylene terephthalate:PET)、ポリカーボネート(polycarbonate:PC)、環状オレフィン・コポリマー(Cyclo Olefin Copolymer:COC)等といった公知の樹脂を透明基材10として用いることも可能であるし、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、白板ガラス等といった公知の光学ガラスを用いることも可能である。
図1では、透明基材10が矩形である場合を例に挙げて図示を行っているが、透明基材10の形状は矩形に限定されるものではなく、例えば拡散板1が実装される表示装置、投影装置、照明装置等の形状に応じて、任意の形状を有していても良い。
【0039】
<単レンズ群20について>
透明基材10の表面には、複数の単レンズ21からなる単レンズ群20が形成されている。本実施形態に係る拡散板1において、単レンズ群20は、
図1に模式的に示したように、複数の単レンズ21が互いに隣接するように(換言すれば、単レンズ21間に隙間(平坦部)が存在しないように)形成されることが好ましい。透明基材10上に単レンズ21を隙間なく配置させる(換言すれば、単レンズの充填率が100%となるように配置させる)ことで、入射光のうち拡散板表面で散乱せずにそのまま透過してしまう成分(以下、「0次透過光成分」ともいう。)を抑制することが可能となる。その結果、複数の単レンズ21が互いに隣接するように配置された単レンズ群20では、拡散性能を更に向上させることが可能となる。
【0040】
また、本実施形態に係る単レンズ群20では、
図1に模式的に示したように、各単レンズ21は、規則的に配置されているのではなく、不規則に(ランダムに)配置されている。ここで、「不規則」とは、拡散板1における単レンズ群20の任意の領域において、単レンズ21の配置に関する規則性が実質的に存在しないことを意味する。従って、任意の領域での微小領域において単レンズ21の配置にある種の規則性が存在したとしても、任意の領域全体として単レンズ21の配置に規則性が存在しないものは、「不規則」に含まれるものとする。なお、本実施形態に係る単レンズ群20における単レンズ21の不規則な配置方法については、以下で改めて詳述する。
【0041】
本実施形態において、単レンズ群20を構成する単レンズ21は、凸レンズとなっている。また、本実施形態に係る単レンズ群20では、各単レンズ21の表面形状は、特に限定されるものではなく、球面成分のみを含むものであっても良いし、非球面成分が含まれていてもよい。
【0042】
また、本実施形態に係る単レンズ群20では、上記のような各単レンズ21の配置のみならず、各単レンズ21の開口径及び曲率半径についても、単レンズ群20全体でばらつきを有している。
【0043】
複数の単レンズ21が互いに隣接するように設けられ、単レンズ21が透明基材10上に不規則に形成され、かつ、各単レンズ21の開口径及び曲率半径にばらつき(ランダム性)を持たせることで、それぞれの単レンズ21の外形は、互いに同一の形状とはならず、
図1に模式的に示したように様々な形状を有するようになり、対称性を有しなくなるものが多くなる。
【0044】
このような場合、
図2に模式的に示したように、単レンズAでは曲率半径がr
Aであるのに対し、単レンズBでは曲率半径がr
B(≠r
A)となるという状況も多く生じるようになる。隣接する単レンズの曲率半径が異なる場合、隣接する単レンズ間の境界は直線のみで構成されるのではなく、その少なくとも一部に曲線を含むようになり、
図3に模式的に示したように、単レンズ21の外形(単レンズ21を俯瞰した場合の外形の投影軌跡)は、互いに異なる複数の湾曲及び曲面の境界で構成されるようになる。単レンズ間の境界の少なくとも一部に曲線が含まれることで、単レンズ間の境界での配置の規則性が更に崩れることとなり、回折成分を更に低減することが可能となる。
【0045】
図4は、本実施形態に係る拡散板における単レンズ群20の一部を、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)により上方から観察した場合のSEM写真である。
図4から明らかなように、単レンズ群20を構成する単レンズ21の外形(俯瞰投影軌跡)は、様々な形状を有しており、単レンズ21の開口径も互いに相違していることがわかる。
【0046】
<単レンズ21の配置方法について>
以下では、以上説明したような単レンズ21の配置方法について、具体的に説明する。
本実施形態に係る拡散板1において、上記のような特徴を有する複数の単レンズ21が配置された単レンズ群20は、主に以下の2つの配置方法により実現することが可能である。
【0047】
一つの配列方法は、基準となる形状を有する単レンズ21を規則的に配列させた基準となる状態(以下、「初期配列状態」ともいう。)をひとまず設定した上で、かかる初期配列状態から、単レンズ21の形状(すなわち、開口径及び曲率半径)と、配置位置(より詳細には、単レンズ21の頂点位置)と、をばらつかせる(摂動させる)方式である。以下、この配置方法を、「基準配置方法」ともいう。この配置方法では、規則的な単レンズ21の配列を経たうえで、単レンズ21の形状及び配置にランダム性を持たせるため、
図5Aに示した、実際の単レンズ群20の配置の様子を示したSEM写真から明らかなように、ある程度マクロ的に単レンズ群20を俯瞰すると、初期配列状態をある程度推定できるような配置となっている。
【0048】
もう一つの配置方法は、基準となる形状を有する単レンズ21を、初めからランダムに配置していく配置方法である。以下、この配置方法を、「ランダム配置方法」ともいう。この配置方法では、基準となる形状を有する単レンズ21をランダムに配置した上で、単レンズ21の形状(すなわち、開口径及び曲率半径)をばらつかせる(摂動させる)。そのため、
図5Bに示した、実際の単レンズ群20の配置の様子を示したSEM写真から明らかなように、ある程度マクロ的に単レンズ群20を俯瞰した場合であっても、単レンズ21の配置に規則性を見出すことはできない。
【0049】
[基準配置方法について]
以下、
図6A及び
図6Bを参照しながら、基準配置方法の流れについて、簡単に説明する。
図6Aに示したように、基準配置方法では、まず、基準となる初期配列状態をまず設定する。単レンズ21の規則的な配列状態は、特に限定するものではなく、単レンズ21の頂点位置が正方形状に配置される四角配置や、正六角形の頂点及び正六角形の中心に対応する位置に単レンズ21の頂点位置が配置される六角配置等を適宜利用すればよい。この際、基準配置方法を実施した後の単レンズ群20に、なるべく平坦部を生じさせないようにするために、規則的な配列状態は、六方最密格子等のような最密配列状態にすることが好ましい。
【0050】
かかる基準配置方法では、
図6A左側中段の図に示したように、格子間隔(
図6Bにおける基準格子ピッチG)をパラメータとする。その上で、
図6A左側下段の図に示したように、パラメータである格子間隔を、最密パターンに対応する値から小さくしていく。これにより、
図6A右側上段の図に示したように、各単レンズが重なりあうようになり、平坦部が無くなる。
【0051】
その後、
図6A右側中段の図に示したように、各単レンズ21のレンズ中心(頂点位置)を、格子点からランダムに動かしていく。具体的には、格子点からの最大移動距離をパラメータとし(
図6Bにおける最大摂動量M)、0〜1の乱数と最大移動距離との積を移動距離として、個々に決定していく。また、移動角度についても、乱数を用いて決定していく。これにより、
図6A右側下段の図に示したように、最終的な単レンズ21の配置パターンが決定することとなる。
【0052】
その後、
図6Bに示したような単レンズ21の開口径φや曲率半径Rをパラメータとして更に摂動させることにより、ランダムな形状を有する単レンズ21を、ランダムに配置させることが可能となる。
【0053】
以上のような基準配置方法において、単レンズ群20における最大の移動量(
図6Bにおける最大摂動量)をMとし、単レンズ群20の基準開口径をφとし、単レンズ群20の基準曲率半径をRとしたときに、以下の式(101)が成立することが好ましい。また、単レンズ群20における初期配列からの移動量をΔrとし、単レンズ群20の基準開口径をφとしたときに、Δr/φ≠0が成立することが好ましい。
【0055】
上記式(101)の左辺で表わされる摂動比率が0.12未満である場合には、ランダム配置を実現するためのパラメータのばらつき度合いが不十分となり、十分なランダム性を実現することが困難となる。また、Δr/φ≠0が成立するということは、全ての単レンズ21の頂点位置を、規則的な頂点位置から変位させることを意味している。このようにすることで、単レンズ群20における単レンズ21の配置に関して、より確実に不規則性を導入することが可能となる。
【0056】
[ランダム配置方法について]
次に、
図7A及び
図7Bを参照しながら、基準配置方法の流れについて、簡単に説明する。
ランダム配置方法では、
図7Aに示したように、レンズ配置位置をxy座標系で考えた場合に、レンズ配置位置のx座標及びy座標を、乱数で決定していく。この際、着目している単レンズ21について、既に配置されている各単レンズ21との距離を計算し、既に配置されている単レンズ21との重なり幅が、予め設定されている許容範囲内であれば、着目している単レンズ21を配置していくようにする。逆に、計算した重なり幅が許容範囲を超える場合には、着目している単レンズ21は配置しないようにする。このようにして、ランダム配置方法における初期配列が決定される。
【0057】
上記のような配置方法における許容範囲が、
図7Bに示した最大重ね合わせ量O
vである。この最大重ね合わせ量O
vは、互いに隣接する単レンズ21との重なり幅の最大値として捉えることが可能である。
【0058】
以上がランダム配置方法の概略であるが、より具体的なランダム配置方法のアルゴリズムは特に限定されるものではなく、例えば、特開2012−181816号公報に開示されているような公知の方法を利用することが可能である。
【0059】
以上のようにして初期配列を決定した後、
図7Bに示したような単レンズ21の開口径φや曲率半径Rをパラメータとして更に摂動させることにより、ランダムな形状を有する単レンズ21を、ランダムに配置させることが可能となり、平坦部の発生を抑制することが可能となる。
【0060】
以上のようなランダム配置方法において、単レンズ群20における、互いに隣接する単レンズとの重なり幅の最大値をO
vとし、単レンズ群20の基準開口径をφとし、単レンズ群20の基準曲率半径をRとしたときに、以下の式(103)が成立することが好ましい。
【0062】
上記式(103)の左辺で表わされる摂動比率が0.12未満である場合には、ランダム配置を実現するためのパラメータのばらつき度合いが不十分となり、十分なランダム性を実現することが困難となる。
【0063】
以上、
図6A〜
図7Bを参照しながら、本実施形態に係る単レンズ21の配置方法について、具体的に説明した。
図8A及び
図8Bは、以上のようにして単レンズ21を配置させた場合の単レンズ群20の様子を、SEMにより観察した結果である。
図8Aは、単レンズ群20を上方から見た場合のSEM写真であり、
図8Bは、単レンズ群20を斜め方向から見下ろした場合のSEM写真である。
図8A及び
図8Bに示した単レンズ群20は、基準となる開口径(摂動前の開口径)φを30μmとし、基準となる曲率半径(摂動前の曲率半径)Rを20μmとした場合の例である。
【0064】
図8Aから明らかなように、各単レンズ21は、様々な外形を有してランダムに配置されていることがわかる。また、
図8Bから明らかなように、各単レンズ21のレンズ高さも様々に変動しており、隣り合う単レンズ21の境界は、曲面となっていることがわかる。これらのSEM写真を詳細に解析したところ、単レンズ21間の頂点位置の最大高低差は、約8μmであり、単レンズ21の頂点位置における表面粗さ(Ra)は、約6nmであった。
【0065】
<単レンズ群20の配置特性>
以上のような単レンズ21の配置方法により実現される、単レンズ群20の配置特性について、以下で簡単に説明する。
【0066】
以上のような配置方法により実現される単レンズ群20において、単レンズ群20の基準開口径(摂動前の開口径)をφとし、単レンズ群20における開口径のばらつき度合いである摂動幅をΔφとするとき、以下の式(105)が成立することが好ましい。
【0068】
|Δφ/φ|で表わされる比率が5%未満である場合には、開口径のばらつき度合いが不十分となり、結果として単レンズ21の配置のランダム性が不十分となるため、好ましくない。また、|Δφ/φ|で表わされる比率が25%超である場合には、
図9Aに|Δφ/φ|=25%である場合のSEM写真を示したように、単レンズ21そのものの構造や、単レンズ群20のマクロ構造の変形が急増してしまい、好ましくない。
【0069】
また、以上のような配置方法により実現される単レンズ群20において、単レンズ群20の基準曲率半径(摂動前の曲率半径)をRとし、単レンズ群20における曲率半径のばらつき度合いである摂動幅をΔRとするとき、以下の式(107)が成立することが好ましい。
【0071】
|ΔR/R|で表わされる比率が5%未満である場合には、曲率半径のばらつき度合いが不十分となり、結果として単レンズ21の配置のランダム性が不十分となるため、好ましくない。また、|ΔR/R|で表わされる比率が70%超である場合には、
図9Bに|ΔR/R|=70%である場合のSEM写真を示したように、単レンズ21そのものの構造や、単レンズ群20のマクロ構造の変形が急増してしまい、好ましくない。
【0072】
また、単レンズ群20を構成する単レンズ21間における頂点位置の最大高低差をΔZ
maxとし、単レンズ群20における最大の頂点高さをZとしたときに、以下の式(109)が成立することが好ましい。
【0074】
|ΔZ
max/Z|で表わされる比率が、0.015未満である場合には、各単レンズ21の頂点高さ(レンズ高さ)が一様となり過ぎ、均一な拡散角度分布特性を実現させることが困難となるため、好ましくない。
【0075】
また、以上説明したような単レンズ21が配置された単レンズ群20において、平坦部の割合(例えば、透明基材10の面積に対して、平坦部が存在する面積の割合)は、10%未満であることが好ましい。平坦部の割合が10%以上である場合には、0次透過光成分が増加してしまい、拡散角度分布特性が低下する場合があるため、好ましくない。
【0076】
なお、本実施形態に係る拡散板では、以上説明したような単レンズ群20の配置特性に、異方性を持たせても良い。
【0077】
<拡散板の透過光エネルギー分布について>
次に、
図10及び
図11を参照しながら、以上説明したような単レンズ群20を有する拡散板1の透過光エネルギー分布について、具体的に説明する。
【0078】
以上説明したような拡散板1に対して、可視光領域のコリメート光や、コリメート性のある主光線を有して一定の開口を持つテレセントリック光が入射すると、
図10に模式的に示したような、一定領域における角度成分内でエネルギー分布の均質性が非常に高く、この角度成分の一定領域を超過するとエネルギーが急激に減少する、トップハット型の拡散が実現する。
【0079】
ここで、
図10に示したように、エネルギー分布の均質性が高い領域の拡散角度幅をθ
topとし、かかるエネルギー分布の半値全幅をθ
FWHMとした場合に、比率θ
top/θ
FWHM(=a)を変化させた場合のエネルギー比の変動の様子を、市販の光線追跡シミュレーション用アプリケーションを利用して解析した。得られた結果を、
図11に示した。
【0080】
その結果、比率aが1/3以上となった場合に、明らかにガウシアン型の拡散ではなく、
図10に模式的に示したような均質な中心エネルギーが実現されることが明らかとなった。また、比率aが1/2以上となった場合に、均質領域の中心エネルギーは20%となり、集光機能のある拡散性が実現されることが明らかとなった。
【0081】
従って、本実施形態に係る拡散板1では、以下の式(111)が成立することが好ましい。
【0083】
<拡散板の幾何光学的拡散特性の具体例について>
次に、
図12を参照しながら、以上説明したような単レンズ群20を有する拡散板1の幾何光学的拡散特性について、具体的に説明する。
【0084】
本実施形態に係る拡散板1では、以上説明したような単レンズ群20を透明基材10上に形成することで、基準開口径φを30μmとし、基準曲率半径Rを20μmとした場合に、拡散角±35°というトップハット型の拡散を実現することが可能となる。このような拡散特性は、拡散板1から100mm離れた位置において、拡散板1に点で入射した光が、144mmの範囲まで拡散することを示している。
【0085】
以上、
図1〜
図12を参照しながら、本実施形態に係る拡散板1について、詳細に説明した。
【0086】
以上説明したような本実施形態に係る拡散板1は、単レンズ21の配置と、単レンズ21の形状(開口径及び曲率半径)と、にランダム性を持たせることにより、より均一な拡散角度分布特性を実現することが可能となる。また、本実施形態に係る拡散板1では、単レンズ21の開口径や曲率半径を制御することで、拡散板1を透過した光の拡散角を自由に設計することが可能となる。
【0087】
(拡散板の製造方法について)
以下では、
図13を参照しながら、本発明の第1の実施形態に係る拡散板1の製造方法の一例について、簡単に説明する。
図13は、本実施形態に係る拡散板の製造方法の流れの一例を示した流れ図である。
【0088】
本実施形態に係る拡散板の製造方法では、まず、基盤の洗浄が実施される(ステップS101)。かかる基盤は、例えば、ガラスロールのようなロール状のものであってもよく、ガラスウェハのような平板状のものであってもよい。
【0089】
次に、洗浄後の基盤に対して、レジスト(例えば、金属酸化物を用いたレジスト等)が形成される(ステップS103)。かかるレジストの形成処理は、ロール状の基盤に対しては、塗布処理又はディッピングにより実現され、平板状の基盤に対しては、各種のコーティング処理により実現される。
【0090】
その後、レジストの形成された基盤に対して、露光処理が実施される(ステップS105)。かかる露光処理は、グレースケールマスク等を利用した露光や、複数のグレースケールマスクの重ね合わせによる多重露光など、公知の露光方法を適宜適用することが可能である。
【0091】
その後、露光後の基盤をアルカリ現像する(ステップS107)ことにより、本実施形態に係る拡散板1を製造する際のマスター原盤(例えば、ガラスマスターやメタルマスター等)が完成する(ステップS109)。その後、完成したマスター原盤を用いて、ソフトモールドが製造される(ステップS111)。
【0092】
次に、製造されたソフトモールドを利用して、基板ガラスや基板フィルム等にインプリント処理を実施することで(ステップS113)、本実施形態に係る拡散板1が製造される。
【0093】
なお、
図13に示した製造方法の流れは、あくまでも一例であって、本実施形態に係る拡散板の製造方法が
図13に示した例に限定されるものではない。
【0094】
(拡散板の適用例)
次に、
図14を参照しながら、本実施形態に係る拡散板1の適用例について、簡単に説明する。
図14は、本実施形態に係る拡散板の適用例の一例を模式的に示した説明図である。
【0095】
以上説明したような本実施形態に係る拡散板1は、その機能を実現するために光を拡散させる必要がある装置に対して、適宜実装することが可能である。機能を実現するために光を拡散させる必要がある装置としては、例えば、各種のディスプレイ等の表示装置や、プロジェクタ等の投影装置を挙げることができる。
【0096】
また、本実施形態に係る拡散板1は、
図14の上段に示したように、液晶表示装置のバックライトに対して適用することも可能であり、
図14の中段に示したように、光整形の用途にも用いることが可能である。更に、
図14の下段に示したように、本実施形態に係る拡散板1は、各種の照明装置に対しても適用することが可能となる。
【0097】
なお、機能を実現するために光を拡散させる必要がある装置は、上記の例に限定されるものではなく、光の拡散を利用する装置であればその他の公知の装置に対しても、本実施形態に係る拡散板1を適用することが可能である。
【実施例】
【0098】
続いて、実施例及び比較例を示しながら、本発明に係る拡散板について、具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、あくまでも本発明に係る拡散板の一例にすぎず、本発明に係る拡散板が下記の例に限定されるものではない。
【0099】
(試験例)
以下では、市販の光線追跡シミュレーション用アプリケーションを利用して、単レンズ21を、基準配置方法、及び、ランダム配置方法のそれぞれで配置した場合の諸特性をシミュレートした。なお、以下のシミュレーションでは、単レンズ21を形成するレンズ材料を、透明樹脂又はガラスとした。
【0100】
<実施例1〜3>
実施例1〜3では、基準配置を六方最密格子とし、単レンズの形状(開口径φ、曲率半径R、各摂動量)と配置の間隔G、最大摂動量Mを、下記表1のような各条件に設定した。
【0101】
<比較例1>
比較例1では、開口径φ及び曲率半径Rの摂動量をゼロとした上で、下記表1のような各条件に設定した。
【0102】
<比較例2>
比較例2では、開口径φ及び曲率半径Rの摂動量を0.12未満とした上で、下記表1のような各条件に設定した。
【0103】
(評価方法)
なお、性能判断の基準は、下記の通りである。
◎:拡散光分布がトップハット形状であり、トップ部のエネルギー変化が20%以下
○:拡散光分布がトップハット形状であり、トップ部のエネルギー変化が20%超
×:拡散光分布がトップハット形状ではない(離散回折)
【0104】
得られた結果を、以下の表1にあわせて示した。実施例1〜3では、拡散分布がTOP幅の異なるトップハット形状となり、所望の特性が得られていることがわかる。
図15及び
図16に、実施例1に示した拡散板のシミュレーション結果を示した。特に
図16に示したエネルギー分布特性からも明らかなように、トップハット型の拡散特性が実現されていることがわかる。
【0105】
一方、比較例1及び比較例2では、拡散分布が離散回折の非トップハット形状となり、所望の光学特性が得られないことが明らかとなった。
【0106】
【表1】
【0107】
<実施例4〜11>
実施例4〜11では、基準配置をランダム配置とし、単レンズの形状(開口径φ、曲率半径R、各摂動量)と配置(E
x、O
v)を、下記表2のような各条件に設定した。
【0108】
<比較例3>
比較例3では、開口径φ及び曲率半径Rの摂動量を0.12未満とした上で、下記表2のような各条件に設定した。
【0109】
ここで、上記実施例4〜11及び比較例3において、性能の判断基準は、上記の通りである。
【0110】
得られた結果を、以下の表2にあわせて示した。実施例4〜11では、拡散分布がTOP幅の異なるトップハット形状となり、所望の特性が得られていることがわかる。
図17及び
図18に、実施例4に示した拡散板のシミュレーション結果を示した。特に
図18に示したエネルギー分布特性からも明らかなように、トップハット型の拡散特性が実現されていることがわかる。
【0111】
一方、比較例3では、拡散分布が離散回折の非トップハット形状となり、所望の光学特性が得られないことが明らかとなった。
【0112】
【表2】
【0113】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。