特開2017-6832(P2017-6832A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人神奈川大学の特許一覧
特開2017-6832水銀イオン捕捉材及びその製造方法、並びに処理対象の水から水銀イオンを除去する方法
<>
  • 特開2017006832-水銀イオン捕捉材及びその製造方法、並びに処理対象の水から水銀イオンを除去する方法 図000057
  • 特開2017006832-水銀イオン捕捉材及びその製造方法、並びに処理対象の水から水銀イオンを除去する方法 図000058
  • 特開2017006832-水銀イオン捕捉材及びその製造方法、並びに処理対象の水から水銀イオンを除去する方法 図000059
  • 特開2017006832-水銀イオン捕捉材及びその製造方法、並びに処理対象の水から水銀イオンを除去する方法 図000060
  • 特開2017006832-水銀イオン捕捉材及びその製造方法、並びに処理対象の水から水銀イオンを除去する方法 図000061
  • 特開2017006832-水銀イオン捕捉材及びその製造方法、並びに処理対象の水から水銀イオンを除去する方法 図000062
  • 特開2017006832-水銀イオン捕捉材及びその製造方法、並びに処理対象の水から水銀イオンを除去する方法 図000063
  • 特開2017006832-水銀イオン捕捉材及びその製造方法、並びに処理対象の水から水銀イオンを除去する方法 図000064
  • 特開2017006832-水銀イオン捕捉材及びその製造方法、並びに処理対象の水から水銀イオンを除去する方法 図000065
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-6832(P2017-6832A)
(43)【公開日】2017年1月12日
(54)【発明の名称】水銀イオン捕捉材及びその製造方法、並びに処理対象の水から水銀イオンを除去する方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/26 20060101AFI20161216BHJP
   C02F 1/28 20060101ALI20161216BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20161216BHJP
   B01J 39/04 20170101ALI20161216BHJP
   B01J 39/20 20060101ALI20161216BHJP
   C08F 8/30 20060101ALI20161216BHJP
【FI】
   B01J20/26 E
   C02F1/28 C
   B01J20/30
   B01J39/04
   B01J39/20
   C08F8/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【全頁数】39
(21)【出願番号】特願2015-123393(P2015-123393)
(22)【出願日】2015年6月19日
(71)【出願人】
【識別番号】592218300
【氏名又は名称】学校法人神奈川大学
(74)【代理人】
【識別番号】100151183
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】小野 晶
(72)【発明者】
【氏名】實吉 尚郎
【テーマコード(参考)】
4D624
4G066
4J100
【Fターム(参考)】
4D624AA01
4D624AB18
4D624BA17
4D624BB01
4D624BC04
4G066AC14B
4G066AC33B
4G066BA09
4G066CA47
4G066DA07
4G066FA11
4J100AB02P
4J100AB07Q
4J100BA08Q
4J100BA29Q
4J100CA04
4J100HA15
4J100HA33
4J100HA61
4J100HC33
4J100HC63
4J100HE13
4J100JA15
4J100JA18
(57)【要約】
【課題】水処理において簡便に使用することができ、かつ水銀イオンに対して高い選択性を備えた水銀イオン捕捉材、及びそれを用いた水処理の方法を提供すること。
【解決手段】側鎖の末端に下記一般式(1)で表される構造を備え、水と接触することにより質量増加をするポリマーからなる水銀イオン捕捉材を用いる。

(上記一般式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に、上記一般式(2)で表される一価の基であり、L及びLは、それぞれ独立に、鎖中に酸素原子又は窒素原子を含んでもよい炭素数1〜10の2価の鎖状基である。上記一般式(2)中、Aで表される環構造は、5員環から8員環の環構造であり、半円で表した環の部分構造に含まれる原子から延びる化学結合により上記一般式(1)におけるL又はLに結合する。)
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
側鎖の末端に下記一般式(1)で表される構造を備え、水と接触することにより質量増加をするポリマーからなる、水銀イオン捕捉材。
【化1】
(上記一般式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に、下記一般式(2)で表される一価の基であり、L及びLは、それぞれ独立に、鎖中に酸素原子又は窒素原子を含んでもよい炭素数1〜10の2価の鎖状基である。)
【化2】
(上記一般式(2)中、Aで表される環構造は、5員環から8員環の環構造であり、半円で表した環の部分構造に含まれる原子から延びる化学結合により上記一般式(1)におけるL又はLに結合する。)
【請求項2】
上記一般式(2)で表される一価の基が下記一般式(3)又は(4)で表される、請求項1記載の水銀イオン捕捉材。
【化3】
(上記一般式(3)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基である。上記一般式(4)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基である。)
【請求項3】
前記一般式(1)で表される構造が下記一般式(5)、(6)又は(7)で表される、請求項1又は2記載の水銀イオン捕捉材。
【化4】
(上記一般式(5)中、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基であり、nは、2〜10の整数であり、mは、2〜10の整数である。上記一般式(6)中、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基であり、pは、2〜10の整数であり、qは、2〜10の整数である。上記一般式(7)中、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基である。)
【請求項4】
前記ポリマーは、主鎖がポリスチレン骨格からなるポリスチレンビーズであり、ポリスチレン骨格のフェニル基から延びた側鎖の始点から前記一般式(1)、(5)、(6)又は(7)で表される前記側鎖の末端までの間に、1のエチレングリコール鎖又はそれが2以上繰り返された構造を含む二価の鎖状基を備えたものである、請求項1〜3のいずれか1項記載の水銀イオン捕捉材。
【請求項5】
前記側鎖が下記一般式(8)、(9)又は(10)で表される、請求項1〜4のいずれか1項記載の水銀イオン捕捉材。
【化5】
(上記一般式(8)中、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基であり、nは、2〜10の整数であり、mは、2〜10の整数であり、Lは、1のエチレングリコール鎖又はそれが2以上繰り返された構造を含む二価の鎖状基であり、Lは、二価の鎖状基であり、鉤括弧を付した末端のPhは、ポリスチレン骨格のフェニル基を意味する。上記一般式(9)中、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基であり、pは、2〜10の整数であり、qは、2〜10の整数であり、Lは、1のエチレングリコール鎖又はそれが2以上繰り返された構造を含む二価の鎖状基であり、Lは、二価の鎖状基であり、鉤括弧を付した末端のPhは、ポリスチレン骨格のフェニル基を意味する。上記一般式(10)中、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基であり、Lは、1のエチレングリコール鎖又はそれが2以上繰り返された構造を含む二価の鎖状基であり、Lは、二価の鎖状基であり、鉤括弧を付した末端のPhは、ポリスチレン骨格のフェニル基を意味する。)
【請求項6】
前記側鎖が下記一般式(11)、(12)又は(13)で表される、請求項1〜5のいずれか1項記載の水銀イオン捕捉材。
【化6】
(上記一般式(11)中、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基であり、nは、2〜10の整数であり、mは、2〜10の整数であり、Lは、1のエチレングリコール鎖又はそれが2以上繰り返された構造を含む二価の鎖状基であり、鉤括弧を付した末端のPhは、ポリスチレン骨格のフェニル基を意味する。)
【化7】
(上記一般式(12)中、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基であり、pは、2〜10の整数であり、qは、2〜10の整数であり、Lは、1のエチレングリコール鎖又はそれが2以上繰り返された構造を含む二価の鎖状基であり、鉤括弧を付した末端のPhは、ポリスチレン骨格のフェニル基を意味する。)
【化8】
(上記一般式(13)中、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基であり、pは、2〜10の整数であり、qは、2〜10の整数であり、Lは、1のエチレングリコール鎖又はそれが2以上繰り返された構造を含む二価の鎖状基であり、鉤括弧を付した末端のPhは、ポリスチレン骨格のフェニル基を意味する。)
【請求項7】
側鎖中に1のエチレングリコール鎖又はそれが2以上繰り返された構造を含む二価の鎖状基を含み、その末端にアミノ基を有するポリスチレンに、下記一般式(14)で表される化合物を反応させる工程を備えた、水銀イオン捕捉材の製造方法。
【化9】
(上記一般式(14)中、R及びRは、それぞれ独立に、下記一般式(2)で表される一価の基であり、L及びLは、それぞれ独立に、鎖中に酸素原子又は窒素原子を含んでもよい炭素数1〜10の2価の鎖状基であり、Lは、鎖中に酸素原子、窒素原子、硫黄原子、カルボニル基、又は−NHC(=O)−を含んでもよい炭素数1〜10の2価の鎖状基であり、Eは、求核置換反応における脱離基となる基である。)
【化10】
(上記一般式(2)中、Aで表される環構造は、5員環から8員環の環構造であり、半円で表した環の部分構造に含まれる原子から延びる化学結合により上記一般式(1)におけるL又はLに結合する。)
【請求項8】
前記一般式(2)で表される一価の基が下記一般式(3)又は(4)で表される、請求項7記載の水銀イオン捕捉材の製造方法。
【化11】
(上記一般式(3)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基である。上記一般式(4)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基である。)
【請求項9】
前記一般式(14)で表される化合物が下記一般式(15)、(16)又は(17)で表される、請求項7又は8記載の水銀イオン捕捉材の製造方法。
【化12】
(上記一般式(15)中、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基であり、nは、2〜10の整数であり、mは、2〜10の整数であり、Eは、求核置換反応における脱離基となる基である。上記一般式(16)中、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基であり、pは、2〜10の整数であり、qは、2〜10の整数であり、Eは、求核置換反応における脱離基となる基である。上記一般式(17)中、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基であり、Eは、求核置換反応における脱離基となる基である。)
【請求項10】
前記一般式(14)、(15)、(16)又は(17)におけるEが、ペンタクロロフェノキシ基である、請求項7〜9のいずれか1項記載の水銀イオン捕捉材の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれか1項記載の水銀イオン捕捉材を容器に充填し、水銀イオンを含み、処理対象となる水を前記容器に通過させることを特徴とする、処理対象の水から水銀イオンを除去する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水銀イオン捕捉材及びその製造方法、並びにその捕捉材を用いて処理対象の水から水銀イオンを除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水銀は非常に毒性の強い金属の一つである。溶液中の水銀化合物は、食物連鎖を経て体内に蓄積し、蓄積濃度が20〜30ppm以上になると、知覚障害や運動障害といった中毒症状がみられるようになる。そのため、水銀による環境汚染を防止し、人の健康の保護及び生活環境の保全を図るため、環境関連法制度に基づく様々な対策がある。例えば、排水中における水銀化合物の量は厳しく規制されている。その一方で、水銀は、人類の活動によらずとも自然界にも一定量が存在し、その多くが火山活動から生まれてくるとされている。地中のマグマに含まれる水銀が火山活動によって地上に噴出し、硫黄と反応して硫化水銀を形成する。また、地殻活動によって気化した水銀蒸気は石炭層にもしみ込み、石炭にも水銀が含まれる。したがって、石炭を燃焼させるとそこに含まれる水銀が気化し、排煙と一緒に大気中に排出される。このように水銀による環境汚染は続いているので、水銀イオン(Hg(II)イオン)を検出したり除去したりする技術の開発は、環境のモニターや保全に役立つといえる。
【0003】
昨今、水銀イオンを結合することのできる種々の高分子化合物が開発され、市販されている。このような高分子化合物の一例として、キレート樹脂であるダイヤイオン(登録商標)CRやイオン交換樹脂であるDOWEX(登録商標)等がある。これらの金属イオン結合性高分子は、水銀イオンと強く結合するが、同時に他の金属イオンとも結合し、水銀イオンに対する選択性が低い。
【0004】
このような状況の中、近年、本発明者らによってDNAの二本鎖中のチミン−チミン(T−T)塩基対に水銀イオンが選択的に結合し、二個のチミン塩基が水銀により架橋された構造(T−Hg−T)となることが見出されている(非特許文献1及び2を参照)。また、チミンはウラシルの5位がメチル基で置換された5−メチルウラシルであるが、この5位のメチル基を水素、ハロゲン、シアノ基等で置換したウラシル類もまた水銀イオンを結合し得ることも本発明者らによって報告されている(非特許文献3)。さらに、こうした選択性を利用し、ピレンのようなエキシマー形成可能な蛍光性基を鎖中に含んだ特定配列の一本鎖DNAによる水銀イオンの蛍光センサーが提案されている(特許文献1を参照)。この蛍光センサーに含まれるチミンが水銀により分子間架橋(T−Hg−T)されると、架橋された蛍光センサー分子に含まれる蛍光性基同士が互いに接近してエキシマー発光を示すので、そのエキシマー発光の強度により水銀イオンを選択的に検出することができるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−210250号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Yoko Miyake et al., J. Am. Chem. Soc., 128, 2172-2173 (2006).
【非特許文献2】Yoshiyuki Tanaka et al., J. Am. Chem. Soc., 129, 244-245 (2007).
【非特許文献3】Itaru Okamoto et al., Angew. Chem. Int. Ed., 48, 1648-1651(2009).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、チミンやウラシルのような核酸塩基が水銀イオンに対して高い選択性をもって結合することを利用し、水銀イオンに対して高い選択性を備えたセンサーが提案されてはいるが、例えば、水処理においてイオン交換樹脂のように簡便に利用することができ、かつ水銀イオンに対して高い選択性を備えた水銀イオンの捕捉材は未だ提案されていない。
【0008】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、水処理において簡便に使用することができ、かつ水銀イオンに対して高い選択性を備えた水銀イオン捕捉材、及びそれを用いた水処理の方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、以上の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、二本に分岐した鎖構造の末端にチミンやウラシル又はその類縁体を持つ部分構造を側鎖の末端に備え、かつ水に対して十分な親和性を備えたポリマーを用いることにより上記の課題が解決されることを見出した。本発明は、以上の知見により完成されたものであり、以下のようなものを提供する。
【0010】
(1)本発明は、側鎖の末端に下記一般式(1)で表される構造を備え、水と接触することにより質量増加をするポリマーからなる、水銀イオン捕捉材である。
【化1】
(上記一般式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に、下記一般式(2)で表される一価の基であり、L及びLは、それぞれ独立に、鎖中に酸素原子又は窒素原子を含んでもよい炭素数1〜10の2価の鎖状基である。)
【化2】
(上記一般式(2)中、Aで表される環構造は、5員環から8員環の環構造であり、半円で表した環の部分構造に含まれる原子から延びる化学結合により上記一般式(1)におけるL又はLに結合する。)
【0011】
(2)また本発明は、上記一般式(2)で表される一価の基が下記一般式(3)又は(4)で表される、(1)項記載の水銀イオン捕捉材である。
【化3】
(上記一般式(3)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基である。上記一般式(4)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基である。)
【0012】
(3)また本発明は、上記一般式(1)で表される構造が下記一般式(5)、(6)又は(7)で表される、(1)項又は(2)項記載の水銀イオン捕捉材である。
【化4】
(上記一般式(5)中、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基であり、nは、2〜10の整数であり、mは、2〜10の整数である。上記一般式(6)中、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基であり、pは、2〜10の整数であり、qは、2〜10の整数である。上記一般式(7)中、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基である。)
【0013】
(4)また本発明は、上記ポリマーが、主鎖がポリスチレン骨格からなるポリスチレンビーズであり、ポリスチレン骨格のフェニル基から延びた側鎖の始点から上記一般式(1)、(5)、(6)又は(7)で表される前記側鎖の末端までの間に、1のエチレングリコール鎖又はそれが2以上繰り返された構造を含む二価の鎖状基を備えたものである、(1)項〜(3)項のいずれか1項記載の水銀イオン捕捉材である。
【0014】
(5)また本発明は、上記側鎖が下記一般式(8)、(9)又は(10)で表される、(1)項〜(4)項のいずれか1項記載の水銀イオン捕捉材である。
【化5】
(上記一般式(8)中、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基であり、nは、2〜10の整数であり、mは、2〜10の整数であり、Lは、1のエチレングリコール鎖又はそれが2以上繰り返された構造を含む二価の鎖状基であり、Lは、二価の鎖状基であり、鉤括弧を付した末端のPhは、ポリスチレン骨格のフェニル基を意味する。上記一般式(9)中、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基であり、pは、2〜10の整数であり、qは、2〜10の整数であり、Lは、1のエチレングリコール鎖又はそれが2以上繰り返された構造を含む二価の鎖状基であり、Lは、二価の鎖状基であり、鉤括弧を付した末端のPhは、ポリスチレン骨格のフェニル基を意味する。上記一般式(10)中、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基であり、Lは、1のエチレングリコール鎖又はそれが2以上繰り返された構造を含む二価の鎖状基であり、Lは、二価の鎖状基であり、鉤括弧を付した末端のPhは、ポリスチレン骨格のフェニル基を意味する。)
【0015】
(6)また本発明は、上記側鎖が下記一般式(11)、(12)又は(13)で表される、(1)項〜(5)項のいずれか1項記載の水銀イオン捕捉材である。
【化6】
(上記一般式(11)中、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基であり、nは、2〜10の整数であり、mは、2〜10の整数であり、Lは、1のエチレングリコール鎖又はそれが2以上繰り返された構造を含む二価の鎖状基であり、鉤括弧を付した末端のPhは、ポリスチレン骨格のフェニル基を意味する。)
【化7】
(上記一般式(12)中、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基であり、pは、2〜10の整数であり、qは、2〜10の整数であり、Lは、1のエチレングリコール鎖又はそれが2以上繰り返された構造を含む二価の鎖状基であり、鉤括弧を付した末端のPhは、ポリスチレン骨格のフェニル基を意味する。)
【化8】
(上記一般式(13)中、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基であり、pは、2〜10の整数であり、qは、2〜10の整数であり、Lは、1のエチレングリコール鎖又はそれが2以上繰り返された構造を含む二価の鎖状基であり、鉤括弧を付した末端のPhは、ポリスチレン骨格のフェニル基を意味する。)
【0016】
(7)また本発明は、側鎖中に1のエチレングリコール鎖又はそれが2以上繰り返された構造を含む二価の鎖状基を含み、その末端にアミノ基を有するポリスチレンに、下記一般式(14)で表される化合物を反応させる工程を備えた、水銀イオン捕捉材の製造方法でもある。
【化9】
(上記一般式(14)中、R及びRは、それぞれ独立に、下記一般式(2)で表される一価の基であり、L及びLは、それぞれ独立に、鎖中に酸素原子又は窒素原子を含んでもよい炭素数1〜10の2価の鎖状基であり、Lは、鎖中に酸素原子、窒素原子、硫黄原子、カルボニル基、又は−NHC(=O)−を含んでもよい炭素数1〜10の2価の鎖状基であり、Eは、求核置換反応における脱離基となる基である。)
【化10】
(上記一般式(2)中、Aで表される環構造は、5員環から8員環の環構造であり、半円で表した環の部分構造に含まれる原子から延びる化学結合により上記一般式(1)におけるL又はLに結合する。)
【0017】
(8)また本発明は、上記一般式(2)で表される一価の基が下記一般式(3)又は(4)で表される、(7)項記載の水銀イオン捕捉材の製造方法である。
【化11】
(上記一般式(3)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基である。上記一般式(4)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基である。)
【0018】
(9)また本発明は、上記一般式(14)で表される化合物が下記一般式(15)、(16)又は(17)で表される、(7)項又は(8)項記載の水銀イオン捕捉材の製造方法である。
【化12】
(上記一般式(15)中、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基であり、nは、2〜10の整数であり、mは、2〜10の整数であり、Eは、求核置換反応における脱離基となる基である。上記一般式(16)中、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基であり、pは、2〜10の整数であり、qは、2〜10の整数であり、Eは、求核置換反応における脱離基となる基である。上記一般式(17)中、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基であり、Eは、求核置換反応における脱離基となる基である。)
【0019】
(10)また本発明は、上記一般式(14)、(15)、(16)又は(17)におけるEが、ペンタクロロフェノキシ基である、(7)項〜(9)項のいずれか1項記載の水銀イオン捕捉材の製造方法である。
【0020】
(11)また本発明は、(1)項〜(6)項のいずれか1項記載の水銀イオン捕捉材を容器に充填し、水銀イオンを含み、処理対象となる水を上記容器に通過させることを特徴とする、処理対象の水から水銀イオンを除去する方法でもある。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、水処理において簡便に使用することができ、かつ水銀イオンに対して高い選択性を備えた水銀イオン捕捉材、及びそれを用いた水処理の方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、実験例1において、水銀イオンの添加量を増加させた際の化合物20の蛍光スペクトルの変化を示したものであり、(a)は、水銀イオンの添加に伴う蛍光スペクトルの変化を示した図であり、(b)は、水銀イオンの添加量を変化させた際の485nmにおける蛍光強度の変化をプロットした図である。
図2図2は、実験例2にて比較例2のポリマーを用いた場合において、上澄み液の添加量を増加させた際の化合物20の蛍光スペクトルの変化を示したものであり、(a)は、上澄み液の添加に伴う蛍光スペクトルの変化を示した図であり、(b)は、上澄み液の添加量を増加させた際の485nmにおける蛍光強度の変化をプロットした図である。
図3図3は、実験例2にて比較例1のポリマーを用いた場合において、上澄み液の添加量を増加させた際の化合物20の蛍光スペクトルの変化を示したものであり、(a)は、上澄み液の添加に伴う蛍光スペクトルの変化を示した図であり、(b)は、上澄み液の添加量を増加させた際の485nmにおける蛍光強度の変化をプロットした図である。
図4図4は、実験例2にて実施例1のポリマーを用いた場合において、上澄み液の添加量を増加させた際の化合物20の蛍光スペクトルの変化を示したものであり、(a)は、上澄み液の添加に伴う蛍光スペクトルの変化を示した図であり、(b)は、上澄み液の添加量を増加させた際の485nmにおける蛍光強度の変化をプロットした図である。
図5図5は、実験例3にて比較例2のポリマーを用いた場合において、上澄み液の添加量を増加させた際の化合物20の蛍光スペクトルの変化を示したものであり、(a)は、上澄み液の添加に伴う蛍光スペクトルの変化を示した図であり、(b)は、上澄み液の添加量を増加させた際の485nmにおける蛍光強度の変化をプロットした図である。
図6図6は、実験例3にて実施例1のポリマーを用いた場合において、上澄み液の添加量を増加させた際の化合物20の蛍光スペクトルの変化を示したものであり、(a)は、上澄み液の添加に伴う蛍光スペクトルの変化を示した図であり、(b)は、上澄み液の添加量を増加させた際の485nmにおける蛍光強度の変化をプロットした図である。
図7図7は、実験例4にて比較例2のポリマーを用いた場合において、上澄み液の添加量を増加させた際の化合物20の蛍光スペクトルの変化を示したものであり、(a)は、上澄み液の添加に伴う蛍光スペクトルの変化を示した図であり、(b)は、上澄み液の添加量を増加させた際の485nmにおける蛍光強度の変化をプロットした図である。
図8図8は、実験例4にて実施例1のポリマーを用いた場合において、上澄み液の添加量を増加させた際の化合物20の蛍光スペクトルの変化を示したものであり、(a)は、上澄み液の添加に伴う蛍光スペクトルの変化を示した図であり、(b)は、上澄み液の添加量を増加させた際の485nmにおける蛍光強度の変化をプロットした図である。
図9図9は、実験例4にて実施例1のポリマーを用い、そのポリマーの量を図8のときよりも増加させた場合において、上澄み液の添加量を増加させた際の化合物20の蛍光スペクトルの変化を示したものであり、(a)は、上澄み液の添加に伴う蛍光スペクトルの変化を示した図であり、(b)は、上澄み液の添加量を増加させた際の485nmにおける蛍光強度の変化をプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の水銀イオン捕捉材の一実施形態、水銀イオン捕捉材の製造方法の一実施態様、及び処理対象の水から水銀イオンを除去する方法の一実施態様をそれぞれ説明する。なお、本発明は、以下の実施形態又は実施態様に限定されるものではなく、本発明の範囲において適宜変更を加えて実施することができる。
【0024】
<水銀イオン捕捉材>
まずは、本発明に係る水銀イオン捕捉材の一実施形態について説明する。本発明に係る水銀イオン捕捉材は、側鎖の末端に下記一般式(1)で表される構造を備え、水と接触することにより質量増加をするポリマーからなる、水銀イオン捕捉材である。
【化13】
(上記一般式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に、下記一般式(2)で表される一価の基であり、L及びLは、それぞれ独立に、鎖中に酸素原子又は窒素原子を含んでもよい炭素数1〜10の2価の鎖状基である。)
【化14】
(上記一般式(2)中、Aで表される環構造は、5員環から8員環の環構造であり、半円で表した環の部分構造に含まれる原子から延びる化学結合により上記一般式(1)におけるL又はLに結合する。)
【0025】
既に述べたように、二分子のチミン−チミン(T−T)ペアが存在すると、この塩基対に水銀イオンが選択的に結合し、下記式に示すように、この水銀により二個のチミン塩基が架橋された構造(T−Hg−T)が形成される。この架橋反応は、金属イオンが水銀イオンである場合に特異的に生じるものであり、他の金属イオンではこのような化学反応は生じない。
【0026】
【化15】
【0027】
また、チミンの5位に存在するメチル基が水素原子であるウラシルでも、下記化学式に示すように、水銀イオンに対して同様の反応性を示すことが知られている。そして、同様の化学反応は、ウラシルの5位がメチル基のようなアルキル基である場合だけでなく、ハロゲン、シアノ基、アシル基、−C(=O)NH−R(Rは、炭素数1〜5のアルキル基である。)、シアノ基等であっても生じるとされる。
【0028】
【化16】
【0029】
さらに、tRNA等で観察される特殊な核酸塩基として知られるシュードウラシルも、下記化学式に示すように、水銀イオンに対して同様の反応性を示す。
【0030】
【化17】
【0031】
以上のことから理解できるように、−C(=O)NHC(=O)−という部分構造を備えた二つの環状構造が、その部分構造を互いに対向可能なように配置されることにより水銀イオンに対して選択的に結合する能力を獲得するということができる。それゆえ、本願発明の水銀イオン捕捉材は、側鎖の末端に上記一般式(1)で表される構造を備えたポリマーからなる。上記一般式(1)では、二股に分岐した後に結合基であるL及びLを介して、−C(=O)NHC(=O)−という部分構造を備えた一般式(2)で表される二つの環状基R及びRがそれぞれ結合されている。これら二つの環状基が存在することにより、水銀イオンを選択的に補足することが可能になる。
【0032】
上記のように、一般式(1)におけるL及びLは、それぞれ独立に、鎖中に酸素原子又は窒素原子を含んでもよい炭素数1〜10の2価の鎖状基である。つまり、L及びLは、水銀イオンを結合させるためのR及びRを上記のような対向可能に配置させることができるために、柔軟な鎖状構造であることが望ましい。より好ましくは、L及びLは、それぞれ独立に、酸素原子又は窒素原子を含んでもよい炭素数3〜8で原子数4〜8の2価の鎖状基であることが好ましく、炭素数3〜6で原子数5〜7の2価の基であることがより好ましい。
【0033】
上記一般式(2)で表される一価の環状基は、Aで表される5員環から8員環の環構造を備える。この環構造Aには、上記のように、水銀イオンを結合させるための−C(=O)NHC(=O)−という構造が含まれ、それ以外の部分(環構造Aのうち半円で示した部分)を構成する原子については、特に限定されないが、置換基を備えてもよい炭素原子又は窒素原子が好ましく挙げられる。そして、環構造Aのうち半円で示した部分に含まれるいずれかの原子からは、上記一般式(2)に示すように、L又はLに結合するための結合子となる化学結合が延びている。なお、ここでいう化学結合とは、単結合、二重結合等、原子と原子とを結合させる何らかの結合であればよい。
【0034】
一般式(2)で表される一価の環状基としては、下記一般式(3)又は(4)で表される基を好ましく挙げられる。下記一般式(3)で表される基は、ウラシル若しくはチミン、又はその類縁体である。下記一般式(4)で表される基は、シュードウラシル又はその類縁体である。これらの基が水銀イオンを選択的に結合できることは、既に述べた通りである。
【0035】
【化18】
【0036】
上記一般式(3)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基である。また、上記一般式(4)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基である。つまり、上記一般式(3)及び(4)において、特に重要なのは−C(=O)NHC(=O)−という構造であり、環に含まれる他の原子には各種の置換基が結合していてもよい。
【0037】
上記一般式(1)で表される構造として、より具体的には、下記一般式(5)、(6)又は(7)で表されるものを好ましく例示できる。下記一般式(5)、(6)又は(7)で表される構造においては、グリセリンに含まれる二つの水酸基を用いて二股に分岐する鎖状基を形成させている。後述するが、このような構造は、アセトンをグリセリンでアセタール化した化合物である市販の2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノールから好ましく形成させることができる。
【0038】
【化19】
【0039】
上記一般式(5)中、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基であり、nは、2〜10の整数であり、mは、2〜10の整数である。m及びnは、互いに同一であっても異なってもよい。m及びnは、それぞれ独立に2〜7の整数であることが好ましく、それぞれ独立に4〜6の整数であることがより好ましく、いずれも5であることがさらに好ましい。
【0040】
上記一般式(6)中、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基であり、pは、2〜10の整数であり、qは、2〜10の整数である。p及びqは、互いに同一であっても異なってもよい。p及びqは、それぞれ独立に2〜7の整数であることが好ましく、それぞれ独立に4〜6の整数であることがより好ましく、いずれも5であることがさらに好ましい。
【0041】
上記一般式(7)中、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基である。
【0042】
本発明の水銀イオン捕捉材は、側鎖の末端にこれまで説明した構造(一般式(1)等に関連する構造)を備えたポリマーである。この構造は、上記の通り、ポリマーの側鎖において水銀イオンを補足するという重要な機能を果たすためのものであるが、さらに、ポリマー自身にも重要な要件がある。それは、ポリマーの親水性である。ポリマーの側鎖に水銀イオンを補足するための上記構造を備えていたとしても、ポリマー自身が親水性を備えていないと、この構造が水銀イオンを含んだ被処理水に接触することができず十分な水銀イオンの捕捉性能を発現することはできない。ここでいう、ポリマーの親水性とは、ポリマーが水に対する濡れ性を備えることを意味する。なお、上記一般式(1)で表される構造は、上記のように一般式(5)、(6)、(7)等で表すこともできるが、これらの構造を総括して「一般式(1)等」という表現を用いるものとする。
【0043】
そこで、本発明の水銀イオン捕捉材となるポリマーは、水と接触することにより質量増加をするポリマーが選択される。これは、水に対して膨潤性を備えたポリマーであることを意味する。このことはポリマーが水に対して十分な親和性を備え、水に対する十分な濡れ性を備えることの証でもある。他に、水に対する濡れ性を備えることの証としては、例えば、ポリマーを水中に投入した際にポリマーの表面に空気の層が形成されないことも挙げられる。例えば、ポリマーがビーズ状をしている場合には、水に対する濡れ性が不足していると、そのポリマーはその表面に空気が多く付着して水に浮いたり、光散乱により不透明に見えたりするようになる。一方、ビーズ状のポリマーが水に対する十分な濡れ性を備えている場合には、ポリマー表面には空気が付着せず水に沈み、空気が付着することによる光散乱もないので透明に見える。そのため、ポリマーがビーズ状である場合には、水中に投入したときに沈むものを選択すれば上記の条件を満たすことができる。
【0044】
水銀イオン捕捉材となるポリマーは、側鎖に上記一般式(1)等で表される構造を備えればよく、そのようなポリマーは、上記一般式(1)等に相当する構造のR及びR側とは反対側の末端に重合性基(このような例としてエチレン性の不飽和結合を備えた基等が挙げられる。)を備えた化合物を重合して得ることもできるし、既にポリマーとなっている化合物に対し修飾を行って、上記一般式(1)等で表される構造を側鎖として導入してもよい。後者の場合、側鎖への化学修飾を行うための足掛かりとなる置換基を備えたポリスチレンビーズが市販されているので、それを用いるのが簡便である。
【0045】
そのようなポリスチレンビーズでは、主鎖であるポリスチレンのフェニル基に上記のような足掛かりとなる置換基が導入されている。足掛かりとなる置換基としては、アミノ基等各種のものが挙げられるが、本発明においては、アフィニティーカラムクロマトグラフィー用として水への親和性を考慮した修飾のされた置換基を備えたポリスチレンビーズが好ましく例示される。このような置換基を備えたポリスチレンビーズは、水に対する親和性が高く、水と接触することにより膨潤し質量増加を示す。こうしたポリスチレンビーズの一例として、Rapp Polymer GmbH製のTentaGel S−NHを好ましく挙げることができる。このポリスチレンビーズは、ポリスチレン骨格のフェニル基にポリエチレングリコール鎖を含んだ側鎖が結合され、さらにその側鎖の末端にアミノエチレンオキシ基(NHCHCHO−)を備えるので、末端に存在するアミノ基を足掛かりに所望の基を導入することができる。このアミノ基を足掛かりとして上記一般式(1)等の構造を導入した場合、導入された上記一般式(1)等の構造が側鎖の末端となり、ポリスチレン骨格のフェニル基から延びた側鎖の始点から上記一般式(1)等で表される末端までの間に、ポリエチレングリコール鎖を含んだ二価の鎖状基を備えることになる。このポリエチレングリコール鎖の存在により、ポリマーは、その親水性が著しく向上し、水に対する膨潤性を示すようになる。
【0046】
なお、エチレングリコール鎖自体にも親水性があるので、ポリスチレン骨格のフェニル基から延びた側鎖の始点から上記一般式(1)等で表される末端までの間に、1のエチレングリコール鎖(−OCHCHO−)又はそれが2以上繰り返された構造を含むものであれば親水性を示すことが期待される。こうした構造には、エチレングリコールが重合したポリエチレングリコール鎖、それよりも重合度の小さなオリゴエチレングリコール鎖、又は重合していないエチレングリコール鎖が含まれる。以下の説明では、これらをまとめて「ポリエチレングリコール鎖等」と呼ぶ。また、本発明においてポリスチレンの側鎖とは、ポリスチレン骨格のフェニル基に結合された基を意味するものとする。
【0047】
本発明では、ポリスチレン骨格のフェニル基から延びた側鎖の始点から上記一般式(1)等で表される末端までの間に、ポリエチレングリコール鎖等(上記のように、これには、ポリエチレングリコール鎖、オリゴエチレングリコール鎖、又は重合していないエチレングリコール鎖が含まれる。)が含まれるのが好ましい。つまり、ポリスチレン骨格のフェニル基から延びた側鎖の始点から上記一般式(1)等で表される末端までの間に、1のエチレングリコール鎖又はそれが2以上繰り返された構造を含む二価の鎖状基が含まれるのが好ましい。1のエチレングリコール鎖又はそれが2以上繰り返された構造を含む二価の鎖状基とは、その基の少なくとも部分構造として上記のポリエチレングリコール鎖等を含む二価の基という意味である。上記のポリエチレングリコール鎖等は、Xを正の整数として−O−(CH−CH−O)−の一般式で表される。本発明におけるポリエチレングリコール鎖等としては、左式におけるXが1以上の整数のものであればよく、左式におけるXが2以上の整数のものであることが好ましい。このような部分構造を側鎖として備えたポリスチレンは、例えば上記のRapp Polymer GmbH社からTentaGelシリーズとして入手可能であり、これらは水に対して膨潤性を示すなど高い親水性を備えること特徴とする。
【0048】
このようにポリエチレングリコール鎖等が側鎖に含まれ、かつその末端にアミノ基を備えたポリスチレンビーズに対して上記一般式(5)、(6)又は(7)で表される構造を導入すると、一例として、下記一般式(8)、(9)又は(10)のような側鎖を有するポリスチレンビーズが得られる。このポリスチレンビーズからなる水銀イオン捕捉材は、水と接触することにより質量増加、すなわち膨潤を示し、水銀イオンに対して高い親和性と選択性を備えたものになる。
【0049】
【化20】
【0050】
上記一般式(8)中、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基であり、nは、2〜10の整数であり、mは、2〜10の整数であり、Lは、1のエチレングリコール鎖又はそれが2以上繰り返された構造を含む二価の鎖状基である。Lは、二価の鎖状基であり、鉤括弧を付した末端のPhは、ポリスチレン骨格のフェニル基を意味する。なお、二価の鎖状基の途中には、酸素原子が分枝するカルボニル基、水素原子が分枝するアミノ基、種々の原子や原子団が分枝する2級、3級又は4級の炭素原子、等が含まれてもよい。
【0051】
上記一般式(9)中、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基であり、pは、2〜10の整数であり、qは、2〜10の整数であり、Lは、1のエチレングリコール鎖又はそれが2以上繰り返された構造を含む二価の鎖状基であり、Lは、二価の鎖状基であり、鉤括弧を付した末端のPhは、ポリスチレン骨格のフェニル基を意味する。なお、二価の鎖状基の途中には、酸素原子が分枝するカルボニル基、水素原子が分枝するアミノ基、種々の原子や原子団が分枝する2級、3級又は4級の炭素原子、等が含まれてもよい。
【0052】
上記一般式(10)中、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基であり、Lは、1のエチレングリコール鎖又はそれが2以上繰り返された構造を含む二価の鎖状基であり、Lは、二価の鎖状基であり、鉤括弧を付した末端のPhは、ポリスチレン骨格のフェニル基を意味する。なお、二価の鎖状基の途中には、酸素原子が分枝するカルボニル基、水素原子が分枝するアミノ基、種々の原子や原子団が分枝する2級、3級又は4級の炭素原子、等が含まれてもよい。
【0053】
上記一般式(8)、(9)又は(10)で表される側鎖のさらに具体的な例として、下記一般式(11)、(12)又は(13)で表される側鎖を挙げることができる。これらの側鎖は、上記Rapp Polymer GmbH製のTentaGel S−NHに対して上記一般式(5)、(6)又は(7)で表される末端構造を導入した場合のものである。
【0054】
【化21】
【0055】
上記一般式(11)中、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基であり、nは、2〜10の整数であり、mは、2〜10の整数であり、Lは、1のエチレングリコール鎖又はそれが2以上繰り返された構造を含む二価の鎖状基であり、鉤括弧を付した末端のPhは、ポリスチレン骨格のフェニル基を意味する。m及びnは、互いに同一であっても異なってもよい。m及びnは、それぞれ独立に2〜7の整数であることが好ましく、それぞれ独立に4〜6の整数であることがより好ましく、いずれも5であることがさらに好ましい。
【0056】
【化22】
【0057】
上記一般式(12)中、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基であり、pは、2〜10の整数であり、qは、2〜10の整数であり、Lは、1のエチレングリコール鎖又はそれが2以上繰り返された構造を含む二価の鎖状基であり、鉤括弧を付した末端のPhは、ポリスチレン骨格のフェニル基を意味する。p及びqは、互いに同一であっても異なってもよい。p及びqは、それぞれ独立に2〜7の整数であることが好ましく、それぞれ独立に4〜6の整数であることがより好ましく、いずれも5であることがさらに好ましい。
【0058】
【化23】
【0059】
上記一般式(13)中、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基であり、pは、2〜10の整数であり、qは、2〜10の整数であり、Lは、1のエチレングリコール鎖又はそれが2以上繰り返された構造を含む二価の鎖状基であり、鉤括弧を付した末端のPhは、ポリスチレン骨格のフェニル基を意味する。
【0060】
<水銀イオン捕捉材の製造方法>
次に、本発明の水銀イオン捕捉材の製造方法について説明する。この製造方法は、側鎖中に1のエチレングリコール鎖又はそれが2以上繰り返された構造(すなわちポリエチレングリコール鎖等)を含む二価の鎖状基を含み、その末端にアミノ基を有するポリスチレンに、上記一般式(1)等で表される構造を導入するものである。具体的には、例えば上記Rapp Polymer GmbH製のTentaGel S−NHのように、側鎖中にポリエチレングリコール鎖等を含み、その末端にアミノ基を備えたポリスチレンに対して、下記一般式(9)で表される化合物を反応させる工程を備えるものである。この製造方法により得られたポリマーは、側鎖にポリエチレングリコール鎖等を備えるので高い親水性を備えたものになる。
【0061】
【化24】
【0062】
上記一般式(14)中、R及びRは、それぞれ独立に、下記一般式(2)で表される一価の基であり、L及びLは、それぞれ独立に、鎖中に酸素原子又は窒素原子を含んでもよい炭素数1〜10の2価の鎖状基であり、Lは、鎖中に酸素原子、窒素原子、硫黄原子、カルボニル基、又は−NHC(=O)−を含んでもよい炭素数1〜10の2価の鎖状基であり、Eは、求核置換反応における脱離基となる基である。
【0063】
【化25】
【0064】
上記一般式(2)中、Aで表される環構造は、5員環から8員環の環構造であり、半円で表した環の部分構造に含まれる原子から延びる化学結合により上記一般式(1)におけるL又はLに結合する。この環構造については、水銀イオン捕捉材に関する上記説明で述べたものと同じであるので、ここでの詳しい説明は省略する。
【0065】
上記一般式(14)で表される化合物は、既に説明した上記一般式(1)におけるR及びRとは反対側の末端に結合基であるLと、カルボニル基を介してそれに結合した脱離基Eを備えたものである。つまり、一般式(14)で表される化合物と、アミノ基を側鎖の末端に備えたポリスチレンとを適切な条件で反応させると、そのアミノ基による求核置換反応により、一般式(14)で表される化合物のカルボニル基にアミノ基が結合し、脱離基Eが脱離する。その結果、ポリスチレンの側鎖の末端に、上記一般式(1)等で表される構造が導入される。なお、上記一般式(14)におけるL及びLについては、水銀イオン捕捉材に関する上記説明で述べたものと同じであるので、ここでの詳しい説明は省略する。
【0066】
脱離基Eとしては、一般の求核置換反応で脱離基として用いられる各種の基から選択され、一例としてハロゲン、トシル基、トリフル基、メシル基、ペンタクロロフェノキシ基(パークロロフェノキシ基とも呼ばれる。)等が挙げられる。これらの中でもペンタクロロフェノキシ基が好ましく挙げられる。
【0067】
上記一般式(2)で表される一価の基は、下記一般式(3)又は(4)で表されるものであることが好ましい。これについては、水銀イオン捕捉材に関する上記説明で述べたものと同じであるので、ここでの詳しい説明は省略する。
【0068】
【化26】
【0069】
上記一般式(3)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基である。上記一般式(4)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基である。
【0070】
また、上記一般式(14)で表される化合物としては、下記一般式(15)、(16)又は(17)を好ましく例示できる。側鎖中にポリエチレングリコール鎖等を含み、その末端にアミノ基を有するポリスチレンと下記一般式(15)、(16)又は(17)で表される化合物とを反応させると、上記一般式(8)、(9)又は(10)、より具体的な例としては上記一般式(11)、(12)又は(13)に相当する構造の側鎖がポリスチレン骨格に導入される。
【0071】
【化27】
【0072】
上記一般式(15)中、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基であり、nは、2〜10の整数であり、mは、2〜10の整数であり、Eは、求核置換反応における脱離基となる基であり、既に説明したものと同様である。m及びnは、それぞれ独立に2〜7の整数であることが好ましく、それぞれ独立に4〜6の整数であることがより好ましく、いずれも5であることがさらに好ましい。
【0073】
上記一般式(16)中、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基であり、pは、2〜10の整数であり、qは、2〜10の整数であり、Eは、求核置換反応における脱離基となる基であり、既に説明したものと同様である。p及びqは、それぞれ独立に2〜7の整数であることが好ましく、それぞれ独立に4〜6の整数であることがより好ましく、いずれも5であることがさらに好ましい。
【0074】
上記一般式(17)中、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基、アシル基、−C(=O)NH−R、又はシアノ基であり、Rは、炭素数1〜5のアルキル基であり、Eは、求核置換反応における脱離基となる基である。
【0075】
次に、上記一般式(14)の化合物の一例となる化合物の合成方法について説明する。下記の合成経路は、R及びRとしてチミンを選択し、脱離基Eとしてペンタクロロフェニル基を選択した場合のものであるが、その他の選択を行った場合でも概ね同様の経路で合成することができる。なお、下記の合成経路において各化合物に付された化合物番号は、上記一般式に付された(1)〜(17)の番号とは無関係である。また、下記の合成経路において各化合物に付された化合物番号は、後述の実施例における化合物番号に対応する。また、下記の合成経路において、「Bn」とはベンジル基を、「Bz」とはベンゾイル基を、「DBU」とは1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセンを、「Bu」とはtert−ブチル基を、「DMF」とはN,N−ジメチルホルムアミドを、「Et」とはエチル基をそれぞれ意味する。このことは、後述の実施例でも同様である。
【0076】
【化28】
【0077】
上記の合成経路では、市販の2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノール4及びチミン1を出発原料とし、複数のステップで上記一般式(14)に相当する化合物13が得られる。このようにして得られた化合物13を、側鎖中にポリエチレングリコール鎖等を含み、その末端にアミノ基を有するポリスチレンビーズとN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)中で反応させることで、本発明の水銀イオン捕捉材が得られる。
【0078】
<処理対象の水から水銀イオンを除去する方法>
上記の水銀イオン捕捉材を容器に充填し、水銀イオンを含み、処理対象となる水を当該容器に通過させることを特徴とする、処理対象の水から水銀イオンを除去する方法も本発明の一つである。
【0079】
既に説明したように、本発明の水銀イオン捕捉材は、高い選択性で水中から水銀イオンを捕捉することができる。そのため、水銀イオンを含む処理対象水から水銀イオンを取り除く際に好ましく用いられる。具体的には、容器の中に本発明の水銀イオン捕捉材を充填し、その容器中へ処理対象水を通過させればよい。このような用途においては、ポリスチレンビーズの側鎖の末端に上記一般式(1)で表される構造を備えた水銀イオン捕捉材が、取り扱い性の面で好ましく用いられる。
【実施例】
【0080】
以下、実施例を示すことにより本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例において各化合物に付された化合物番号(括弧無しの番号)は、本明細書及び本願の特許請求の範囲にて一般式に付された(1)〜(14)の番号(括弧有りの番号)とは無関係である。
【0081】
[合成例1]上記一般式(9)に相当する化合物の合成
・4−((ベンジロキシ)メチル)−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン 5の合成
【化29】
【0082】
市販の2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−1−メタノール 4(6.0mmol、49mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)30mLに溶解させ、アルゴン雰囲気下、氷浴上で撹拌しながら水素化ナトリウム(2.32g、59mmol)、及びベンジルブロミド(5.8mL、49mmol)を加えた。その後、室温に戻し、4時間撹拌した。溶液にエタノール(6.0mL)を加え溶媒を減圧下で留去し、残渣をクロロホルムに溶解させ、水で1回、飽和塩化ナトリウム水溶液で1回洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた後、濾過し、溶媒を減圧下で留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲルC−60、ヘキサン:酢酸エチル=100:0で溶出)で精製し、黄色液状物質(7.28g、32.1mmol、収率67%)として目的物を得た。
得られた化合物5の各物性値は、以下の通りである。
H−NMR(500MHz、DMSO−d)δ(ppm):1.30(s,3H,CH),1.35(d,3H,J=0.5Hz,CH),3.52−3.44(m,2H,COBn),3.67−4.02(m,2H,CCHCHOBn),4.22−4.27(m,1H,CCHBn),4.52(s,2H,CPh),7.27−7.36(m,5H,Ph)
【0083】
・3−ベンジロキシプロパン−1,2−ジオール 6の合成
【化30】
【0084】
化合物5(7.02g、31.6mmol)に60%酢酸水溶液(90mL)を加え、65℃で2時間撹拌した。溶媒を減圧下で留去し、トルエンで2回共沸除去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(C−60,CHCl:メタノール=90:10で溶出)で精製し、淡黄色油状物質(5.65g、31.0mmol、収率98%)として目的物を得た。
得られた化合物6の各物性値は、以下の通りである。
H−NMR(500MHz、DMSO−d6)δ(ppm):3.40−3.53(m,4H,CCHCOBn,OCH),3.71−3.76(m,1H,CCHOBn),4.50−4.53(t,3H,J=7.0Hz,CCHCHOC),4.64−4.78(t,1H,J=34.8Hz,OCH),7.25−7.35(m,5H,Ph)
【0085】
・((2,3−ビス((5−ブロモペンチル)オキシ)プロポキシ)メチル)ベンゼン 7の合成
【化31】
【0086】
化合物6(990mg、34.5mmol)をピリジンで3回共沸脱水し、トルエンでピリジンを3回共沸除去した。残渣をアルゴン雰囲気下でDMF(10mL)に溶解させ、氷浴上で撹拌しながら水素化ナトリウム(710mg、16mmol)を加えた後に、1,5−ジブロモペンタン(7mL、54mmol)を加えた。反応溶液を室温に戻して撹拌し、一晩反応させた。その後、pH7のリン酸バッファー(10mM、5mL)を加え、残渣をクロロホルムに溶解させ、水で2回、飽和塩化ナトリウム水溶液で1回洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた後、濾過し、溶媒を減圧下で留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲルC−60,ヘキサン:酢酸エチル=95:5で溶出)で精製し、淡黄色液体物質(926mg、1.93mmol、収率35%)として目的物を得た。
得られた化合物7の各物性値は、以下の通りである。
H−NMR(500MHz、DMSO−d)δ(ppm):1.39−1.50(m,8H,BrCHCHCH),1.76−1.81(m,4H,BrCH),3.31−3.54(m,13H,BrCCHCHCHOC),4.48(s,2H,CPh),7.26−7.34(m,5H,Ph)
【0087】
・N−ベンジルチミン 3の合成
【化32】
【0088】
市販のチミン 1(5.00g、40mmol)をピリジンで4回共沸脱水し、アルゴン雰囲気下でアセトニトリルに溶解させ、ピリジン(16mL)及び塩化ベンゾイル(23mL、200mmol)を加えて室温で撹拌し、一晩反応させた。20.5時間後に再び塩化ベンゾイル(9.1mL、80mmol)を加え、1.5時間撹拌した。溶媒を減圧下で留去し、残渣をクロロホルムに溶解させ、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で2回、飽和塩化ナトリウム水溶液で1回洗浄した。有機層を減圧下で留去し、1,4−ジオキサン(80mL)及び炭酸カリウム水溶液(0.5M、40mL)を加え、室温で4時間撹拌した。反応溶液に酢酸を加え、pHを4以下にした。溶媒を減圧下で留去し、残渣に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(100mL)を加え、1時間撹拌した。析出した白色固体を吸引濾過後、冷水及び冷エタノールで洗浄し、風乾後真空乾燥し、白色粉末(7.46g、32.4mmol、収率81%)として目的物を得た。
得られた化合物3の各物性値は、以下の通りである。
H−NMR(500MHz、DMSO−d)δ(ppm):1.80(s,3H,CH),7.52(s,1H,6−H),7.57−7.61(m,2H,H−Bz),7.75−7.78(m,1H,H−Bz),7.91−7.93(m,2H,H−Bz),11.4(s,1H,NH)
【0089】
・1,1’−(((3−(ベンジロキシ)プロパン−1,2−ジイル)ビス(オキシ))ビス(ペンタン−5,1−ジイル))ビス(3−ベンゾイル−5−メチルピリミジン−2,4(1H,3H)ジオン 8の合成
【化33】
【0090】
化合物3(458mg、2mmol)をピリジンで3回共沸脱水後、ピリジンをトルエンで3回共沸除去した。残渣をアルゴン雰囲気下でアセトニトリル(8mL)に溶解させ、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン(DBU)(450μL)、及び化合物7(475mg、1.0mmol)を加え室温で3日間撹拌した。溶媒を減圧下で留去し、残渣をクロロホルムに溶解させ、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で2回、飽和塩化ナトリウム水溶液で1回洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた後、濾過し溶媒を減圧下で留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲルC−60、ヘキサン:酢酸エチル=30:70で溶出)で精製し、淡黄色油状物質(401mg、0.515mmol、収率52%)として目的物を得た。
得られた化合物8の各物性値は、以下の通りである。
H−NMR(600MHz、DMSO−d)δ(ppm):1.26−1.32(m,4H,NCHCH),1.44−1.51(m,4H,NCHCHCH),1.58−1.64(m,4H,NCH),1.81−1.82(m,6H,C),3.34−3.67(m,13H,NCCHCHCHOC),4.45(s,2H,CPh),7.29−7.92(m,17H,6−H,Ph)
【0091】
・1,1’−(((3−ヒドロキシプロパン−1,2−ジイル)ビス(オキシ)ビス(ペンタン−5,1−ジイル)ビス(3−ベンゾイル−5−メチルピリミジン−2,4(1H,3H)−ジオン) 9の合成
【化34】
【0092】
化合物8(850mg、1.1mmol)を酢酸エチル(10mL)に溶解させ、10%Pd/C存在下で水素添加を行い、4時間撹拌した。反応溶液を濾過し、溶媒を減圧下で留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲルC−60、クロロホルム:メタノール=99:1−98:2で溶出)で精製し、白色泡状物質(510mg、0.76mmol、収率69%)として目的物を得た。
得られた化合物9の各物性値は、以下の通りである。
H−NMR(600MHz、DMSO−d)δ(ppm):1.24−1.31(m,4H,NCHCH),1.46−1.52(m,4H,NCHCHCH),1.62−1.64(t,4H,J=6.6Hz,NCH),1.83(s,6H,C),3.34−3.67(m,13H,NCCHCHCHOC),4.53(s,1H,OH),7.45−7.92(m,12H,6−H,Ph)
HRMS(ESI−MS)m/z:[M+Na]Calcd for C3744ONa:711.31,Found:711.30
【0093】
・tert−ブチル−2−(2,3−ビス((5−(3−ベンゾイル−5−メチル−2,4−ジオキソ−3,4−ジヒドロピリミジン−1(2H)−イル)ペンチル)オキシ)プロポキシ)アセテート 12の合成
【化35】
【0094】
化合物9(200mg、0.30mmol)をDMF(3mL)に溶解させ、アルゴン雰囲気下、氷浴上で撹拌しながら水素化ナトリウム(74mg、1.5mmol)を加えた後、2−ブロモ酢酸−tert−ブチル(220μL、1.5mmol)を加え室温に戻しながら30分間撹拌した。反応溶液に酢酸エチルを加え、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で2回、飽和塩化ナトリウム水溶液で1回洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた後、濾過し、溶媒を減圧下で留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲルC−60、ヘキサン:酢酸エチル=0:100で溶出)で精製し、白色泡状物質(161mg、0.20mmol、収率67%)として目的物を得た。
得られた化合物12の各物性値は、以下の通りである。
H−NMR(600MHz、DMSO−d)δ(ppm):1.24−1.35(m,4H,NCHCH),1.35−1.40(m,9H,C(C),1.44−1.51(m,4H,NCHCHCH),1.60−1.64(m,4H,J=6.6Hz,NCH),1.83(s,6H,C),3.33−3.70(m,13H,NCCHCHCHOCCHC),4.01−4.05(m,3H,NCHCHCHCHCHOCHCHCHOC),7.58−7.92(m,12H,6−H,Ph)
HRMS(ESI−MS)m/z:[M+Na]Calcd for C4354Na:825.40,Found:825.37
【0095】
/2−(2,3−ビス((5−(5−メチル−2,4−ジオキソ−3,4−ジヒドロピリミジン−1(2H)−イル)ペンチル)オキシ)プロポキシ)酢酸 11の合成
【化36】
【0096】
化合物12(200mg、0.25mmol)をトリエチルシラン(120μL、0.75mmol)及びジクロロメタン(750μL)に溶解させ、アルゴン雰囲気下、氷浴上で撹拌しながらトリフルオロ酢酸(1.5mL)を加え、室温に戻しながら18時間反応させた。溶媒を減圧下で留去し、トルエンで3回共沸除去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(C−60、クロロホルム:メタノール=96:4−94:6で溶出)で精製し、白色泡状固体(120mg、0.222mmol、収率89%)として目的物を得た。
得られた化合物11の各物性値は、以下の通りである。
H−NMR(600MHz、DMSO−d)δ(ppm):1.22−1.34(m,4H,NCHCH),1.44−1.62(m,8H,NCHCH),1.73(s,6H,C),3.33−3.66(m,13H,NCCHCHCHOC),7.51(s,2H,6−H),11.18(s,2H,NH),12.65(s,1H,COOH)
【0097】
・パークロロフェニル−2−(2,3−ビス((5−(5−メチル−2,4−ジオキソ−3,4−ジヒドロピリミジン−1(2H)−イル)ペンチル)オキシ)プロポキシ)アセテート 13の合成
【化37】
【0098】
化合物11(98mg、0.15mmol)をピリジンで3回共沸脱水した。残渣をアルゴン雰囲気下でDMF(10mL)に溶解させ、室温で撹拌しながらペンタクロロフェノール(51mg、0.19mmol)及びN,N−ジイソプロピルカルボジイミド(34μL、0.22mmol)を加えて、1.5時間反応させた。残渣を酢酸エチルに溶解させ、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で1回、飽和塩化ナトリウム水溶液で2回洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた後、濾過し、溶媒を減圧下で留去した。褐色泡状物質(99mg、0.10mmol、収率67%)として目的物を得た。
得られた化合物13の各物性値は、以下の通りである。
H−NMR(500MHz、DMSO−d)δ(ppm):1.22−1.62(m,12H,NCH),1.72(s.6H,C),3.34−3.68(m,13H,NCCHCHCHOC),4.63−4.66(d,2H,J=15Hz,NCHCHCHCHCHOCHCHCHOC),7.46−7.51(t,2H,J=12.5Hz,6−H),11.18(s,2H,NH)
【0099】
[合成例2]修飾ポリスチレン 14の合成
【化38】
【0100】
ビーズ状のアミノメチルポリスチレン(3.94g、NH当量10.6mmol)を2M塩酸:メタノール=1:1の混合溶液(100mL)で洗浄し、水:メタノール=1:1の混合溶液中でpHを7にした。次に、2M水酸化ナトリウム水溶液:メタノール=1:1の混合溶液(100mL)で洗浄し、水:メタノール=1:1の混合溶液中でpHを7にした。その後、メタノールで洗浄し、活性化させた後、真空乾燥させた。活性化させたアミノメチルポリスチレン(37mg、NH当量0.100mmol)と化合物13(101mg、0.101mmol)をピリジンで3回共沸脱水した。残渣をアルゴン雰囲気下でDMF(200μL)に溶解させ、50℃で2日間撹拌した。その後、ポリスチレンを濾過し、メタノールで洗浄した。ポリスチレンを真空乾燥させ、目的物である褐色のポリスチレンビーズ14(102mg)を得た。このポリスチレンビーズ14を比較例1のポリマーとした。
【0101】
[合成例3]修飾ポリスチレン 15の合成
【化39】
(上記化学反応式において、Lは、ポリエチレングリコール鎖を含んだ二価の基である。)
【0102】
Rapp Polymer GmbH製のTentaGel S−NH 17(1.1g、NH当量0.28mmol;このポリマーは、側鎖中にポリエチレングリコール鎖を含み、その末端にアミノ基を有するポリスチレンのビーズである。)を酢酸:メタノール=1:9の混合溶液(100mL)で洗浄し、水中でpHを7にした。次に、アンモニア水:メタノール=1:1の混合溶液(100mL)で洗浄し、水:メタノール=1:1の混合溶液中でpHを7にした。その後、メタノールで洗浄し、活性化した後、真空乾燥させた。活性させたTentaGel S−NH(500mg、NH当量0.120mmol)と化合物13(120mg、0.121mmol)をピリジンで4回共沸脱水した。残渣をアルゴン雰囲気下でDMF(800μL)に溶解させ、50℃で26時間撹拌した。その後、ポリスチレンを濾過し、メタノールで洗浄した。これを真空乾燥させ、目的物である淡黄色のポリスチレンビーズ15(477mg)を得た。このポリスチレンビーズを実施例1のポリマーとした。
【0103】
[合成例4]修飾ポリスチレン 16の合成
合成例2で用いたビーズ状のアミノメチルポリスチレンを原料とし、化合物13に代えて塩化アセチルを用いたこと以外は合成例2と同様の手順で、ポリスチレンのアミノ基がアセチル化されたポリスチレンビーズ16を得た。このポリスチレンビーズを比較例2のポリマーとした。
【0104】
[合成例5]水銀イオンセンサーの合成
・蛍光部位としてピレンを有するデオキシシチジンアナログアミダイド19の合成
【化40】
【0105】
市販の2’−デオキシウリジン18を出発原料として、特開2010−210250の図1に記載されているのと同様の手順で、蛍光部位としてピレンを有するデオキシシチジンアナログアミダイド19を合成した。なお、上記の化合物19においてDMTrとの記載は、(4,4’−ジメトキシフェニル)メチル基を意味する。
【0106】
・水銀イオン蛍光センサーとなるオリゴヌクレオチド20の合成
化合物19及び各種デオキシリボヌクレオシドのアミダイドを用い、DNA自動合成機を用いたホスホロアミダイド法による固相合成法により、下記に示す配列を備えたオリゴデオキシヌクレオチドを合成した。この合成では通常のDNA自動合成のプロトコルを用いた。オリゴヌクレオチドの合成は、5’−末端のDMTr基を結合した状態で終了させ、その後、濃アンモニア水中、55℃で8時間処理することでオリゴデオキシヌクレオチドの樹脂からの切り出しと塩基部及びリン酸部の脱保護を行った。次いで精製を行い、オリゴヌクレオチド20(化合物20と呼ぶ。)を得た。なお、下記に示す配列において、「P」とは化合物19のアミダイドを用いて結合させた、ピレンを有するデオキシシチジンアナログを意味する。
【0107】
合成したオリゴデオキシヌクレオチド20(化合物20)の配列
5’−PTC CTT TCT TCC CCT TGT TTG GAP−3’
【0108】
化合物20は、水銀イオンと結合するチミン(T)塩基を5組備え、水銀イオンの存在下で下記模式図に示すようなヘアピン構造を形成することで両端に結合している一組のピレンが互いに接近する。すると、これら一組のピレンがエキシマー発光を示すようになるので、このエキシマー発光の程度を観察することで水銀イオンの存在量を調べることが可能になる。なお、ピレンモノマーの蛍光波長は400nm付近にあるのに対して、ピレンエキシマーの蛍光波長は500nm付近である。
【0109】
【化41】
【0110】
[実験例1]水銀イオンセンサーとしての化合物20の評価
10mMのMOPS(3−モルホリノプロパンスルホン酸)緩衝液(pH7.0)を含んだ100mMの過塩素酸ナトリウムバッファーに2μMの濃度になるように化合物20を溶解させた。この溶液に対して0μM〜13μMの水銀イオン(Hg(ClO)を加え、340nmの励起光による蛍光スペクトルを観察した。その結果を図1に示す。図1において、(a)は、水銀イオンの添加に伴う蛍光スペクトルの変化を示した図であり、(b)は、水銀イオンの添加量を変化させた際の485nmにおける蛍光強度の変化をプロットした図である。図1に示すように、水銀イオンの添加量10μMまで増加するにつれて、ピレンエキシマーの蛍光強度が増大するのが観察され、化合物20は高感度な水銀イオンセンサーとして使用可能であることが示された。
【0111】
[実験例2]水銀イオン結合性の評価1
水銀イオンを含む溶液に実施例1、比較例1又は比較例2のポリマーを加えて撹拌し、その上澄み液に含まれる水銀イオンの量を化合物20により調べることで、それぞれのポリマーの水銀イオン除去性能を評価した。具体的には、10mMのMOPS緩衝液(pH7.0)を含んだ100mMの過塩素酸ナトリウムバッファーの2.4mL中に1.2μmolの水銀イオンを含む溶液(つまり0.5mMとなる溶液)を調製し、これに、実施例1のポリマー(水銀イオン結合ユニット導入量として1.2μmolとなる量)、比較例1のポリマー(水銀イオン結合ユニット導入量として6.0μmolとなる量)、又は比較例2のポリマー(アセチル基導入量として6.0μmolとなる量)を添加して撹拌して上澄み液を採取した。つまり、実施例1のポリマーでは水銀イオン当量の水銀ユニット結合ユニットの添加量としたのに対して、比較例1及び2のポリマーでは水銀イオンの5倍量となる水銀イオン結合ユニットの添加量として実験を行った。一方、実験例1で調製したのと同じ濃度を有する化合物20の水溶液を調製し、この溶液(2mL)に対して、採取した上澄み液を4μLずつ加えて、その都度、蛍光スペクトルを測定した。そして、この蛍光スペクトルの変化をもとに、採取した上澄み液中に含まれる水銀イオンの量を推定した。その結果を図2(比較例2のポリマー)、図3(比較例1のポリマー)及び図4(実施例1のポリマー)にそれぞれ示す。なお、図2図4において、図1のときと同様に、(a)は、上澄み液の添加に伴う蛍光スペクトルの変化を示した図であり、(b)は、上澄み液の添加量を増加させた際の485nmにおける蛍光強度の変化をプロットした図である。
【0112】
比較例2のポリマー(図2)は、アセチル基で修飾されたポリスチレンで水銀イオン捕捉能は無いので、これをコントロールとして実施例1(図4)及び比較例1(図3)を比較した。その結果、実施例1では、上澄み液の添加に対する485nmにおける蛍光の増加の程度がコントロール(比較例2)に比べて著しく小さかったのに対して、比較例1では、上澄み液の添加に対する485nmにおける蛍光の増加の程度がコントロール(比較例2)と殆ど変わらない結果となった。特に比較例1では、実施例1に対して水銀イオン結合ユニットの量を5倍としていたが、殆ど水銀イオンを捕捉しない結果となった。このことから、側鎖中にポリエチレングリコール鎖等を含み、水に対して高い親和性を備えたポリマーを用いることが有用であることが理解される。
【0113】
[実験例3]水銀イオン結合性の評価2
上記実験例2では、0.5mMの水銀イオン溶液を用いて評価を行ったが、水銀イオンの濃度をさらに薄くしたときでも同様に水銀イオンを捕捉できるかどうかを確認した。この実験では、水銀イオンの濃度を0.01mMとし、用いる溶液の量を12mL(水銀イオンの量は0.12μmolである。)とした。この水銀イオン溶液に対して、10当量(1.2μmol)の水銀イオン結合ユニット量となる量の実施例1のポリマーを添加し、コントロールとして比較例2のポリマーを用い、実験例2と同様の手法で実験を行った。その結果を図5(比較例2のポリマー)及び図6(実施例1のポリマー)に示す。なお、図5及び図6において、図1のときと同様に、(a)は、上澄み液の添加に伴う蛍光スペクトルの変化を示した図であり、(b)は、上澄み液の添加量を増加させた際の485nmにおける蛍光強度の変化をプロットした図である。図5及び図6の対比から理解されるように、水銀イオンの濃度が希薄となった場合でも実施例1のポリマーは水銀イオンを捕捉可能であることがわかる。
【0114】
[実験例4]他の重金属イオンの影響評価
次に、水銀イオン以外の重金属イオンを含む場合でも、水銀イオンを捕捉することができるかどうかを評価した。10mMのMOPS緩衝液(pH7.0)を含んだ100mMの過塩素酸ナトリウムバッファーに、Hg(II)イオン、Cu(II)イオン、Cd(II)イオン、Pb(II)イオン、Zn(II)イオン、Ni(II)イオン、Mn(II)イオン及びCo(II)イオンをそれぞれのイオン濃度が0.05mMとなるように添加した。この混合金属イオン溶液を2mL(水銀イオンをはじめ、各金属イオンが0.1μmolずつ含まれる。)用い、実施例1のポリマー(0.6μmolの水銀イオン結合ユニット量とした。つまり水銀イオンに対して6当量である。)及びコントロールとして比較例2のポリマーを用いて、実験例2と同様の手法で実験を行った。図7に比較例2のポリマー(コントロール)を用いた結果を、図8に実施例1のポリマーを用いた結果をそれぞれ示す。なお、図7及び図8において、図1のときと同様に、(a)は、上澄み液の添加に伴う蛍光スペクトルの変化を示した図であり、(b)は、上澄み液の添加量を増加させた際の485nmにおける蛍光強度の変化をプロットした図である。
【0115】
図7(コントロール)に比べて図8(実施例1のポリマー)では、上澄み液中の水銀イオンの量が減少しており、実施例1のポリマーは、他の重金属イオンの存在下であっても選択的に水銀イオンを捕捉することが示された。さらに、実施例1のポリマーの量を12当量に増加させたところ、図9に示すように、上澄み液中の水銀イオンが殆ど消失する結果となった。
【0116】
以上のことから、本発明の水銀イオン捕捉材が、水処理において簡便に使用することができ、かつ水銀イオンに対して高い選択性を備えることが示された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9