(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-68904(P2017-68904A)
(43)【公開日】2017年4月6日
(54)【発明の名称】アルカリ電池用電池缶およびインサイドアウト型アルカリ電池
(51)【国際特許分類】
H01M 2/02 20060101AFI20170317BHJP
H01M 6/08 20060101ALI20170317BHJP
【FI】
H01M2/02 E
H01M6/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-189295(P2015-189295)
(22)【出願日】2015年9月28日
(71)【出願人】
【識別番号】503025395
【氏名又は名称】FDKエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 拓也
(72)【発明者】
【氏名】國谷 繁之
(72)【発明者】
【氏名】後藤 聡希
【テーマコード(参考)】
5H011
5H024
【Fターム(参考)】
5H011AA17
5H011CC06
5H011KK01
5H011KK02
5H024CC02
5H024CC14
5H024DD02
5H024EE01
5H024HH13
(57)【要約】
【課題】正極合剤の圧入時に内面のニッケルメッキが傷つけられることがなく、インサイドアウト型のアルカリ電池に使用したときにニッケルメッキの下地となる鉄の露出に起因するガスの発生を防止することができるアルカリ電池用電池缶を提供する。
【解決手段】正極集電体を兼ねる有底円筒状の電池缶2aであって、ニッケルメッキされた鋼鈑からなり、当該正極缶の円筒軸100方向を上下方向とするとともに底部を下方として、正極合剤3の収納空間として底部から一定の内径を有して上方に延長する胴部22と、胴部より拡径された上方開口端23から下方に延長するステップ部24と、胴部の上端22uからステップ部の下端24dまで徐々に拡径しつつ胴部とステップ部を連続させる接続部25とを有し、胴部の上端位置に内方に突出して肉厚となる偏肉部40が内面21を周回して形成されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インサイドアウト型アルカリ電池の正極集電体を兼ねる有底円筒状の電池缶であって、
ニッケルメッキされた鋼鈑からなり、
当該正極缶の円筒軸方向を上下方向とするとともに底部を下方として、
前記正極合剤の収納空間として底部から一定の内径を有して上方に延長する胴部と、
当該胴部より拡径された上方開口端から下方に延長するステップ部と、
前記胴部の上端から前記ステップ部の下端まで徐々に拡径しつつ当該胴部と当該ステップ部を連続させる接続部と、
を有し、
前記胴部の上端位置に内方に突出して肉厚となる偏肉部が内面を周回して形成されている、
ことを特徴とするアルカリ電池用電池缶。
【請求項2】
請求項1において前記胴部の内径をφ、前記偏肉部の高さをhとして、当該内径φに対する前記高さhの割合h/φが0.10%以上0.15%以下であることを特徴とするアルカリ電池用電池缶。
【請求項3】
請求項1または2に記載の前記電池缶内に環状に成形された正極合剤が装填されていることを特徴とするインサイドアウト型アルカリ電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルカリ電池用電池缶とインサイドアウト型アルカリ電池に関する。具体的には、インサイドアウト型アルカリ電池の電池缶に含まれる鉄材と正極合剤と空気との化学反応に起因する漏液防止技術の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ電池は、正極合剤、セパレーター、負極ゲルからなるアルカリ発電要素が有底円筒状の金属製電池缶に収容されているとともに、その電池缶の開口部が樹脂製のガスケットを用いて封止されている。
図1にアルカリ電池の一般的な構造を示した。
図1(A)は、LR6型の円筒形アルカリ電池1を円筒軸100の延長方向を縦方向としたときの縦断面図であり、
図1(B)は封口前の電池缶2の形状を示す縦断面図である。
【0003】
図1(A)に示したように、アルカリ電池1は、所謂インサイドアウト型と呼ばれる構造を有し、有底筒状の金属製電池缶(以下、正極缶2とも言う)、環状に成型された正極合剤3、この正極合剤3の内側に配設された有底円筒状のセパレーター4、亜鉛または亜鉛合金を含んでセパレーター4の内側に充填される負極ゲル5、この負極ゲル5中に挿入された負極集電子6、負極端子板7、ガスケット8などにより構成される。この構造において、正極合剤3、セパレーター4、負極ゲル5が、電解液の存在下でアルカリ電池1の発電要素を形成する。
【0004】
電池ケースを兼ねる正極缶2は、ニッケルメッキされた鋼鈑を素材とし、底面側を下方として底面外面に下方に突出する正極端子9を備えるともに、内面21にて正極合剤3の外周側面31と直接接触することによって正極集電体として機能する。正極合剤3は、電解二酸化マンガン(EMD)などの正極活物質、導電材としての黒鉛、ポリアクリル酸などのバインダー、40wt%KOH水溶液からなる電解液を所定の質量比(例えば、EMD:黒鉛:バインダー:電解液=91.4:6.0:0.1:2.5)で混合し、この混合体をコンパクティング、解砕、造粒等の工程によって、所定の粒度に調整された粉体状の造粒物(合剤粒)を作製するとともに、その合剤粒を金型を用いて環状の成型体にすることで得られる。
【0005】
負極ゲル5中に挿入された棒状の金属製負極集電子6は、皿状の金属製負極端子板7の内面7iに溶接により立設固定されている。負極端子板7、負極集電子6およびガスケット8は、封口体としてあらかじめ一体に組み合わせられており、ガスケット8の外周部が正極缶2の開口縁部と負極端子板7の周縁部との間にかしめられるなどして挟持されて正極缶2が気密シールされる。なおガスケット8は樹脂の一体成形品であり、負極集電子6が挿通される中空円筒状のボス部81の外周から正極缶2の内面に密着する周縁部82までは膜状で、その膜状の領域の表面には溝83が形成されている。この溝83は、例えばボス部81を中心として膜面を周回するリング状に形成されている。そして溝83は、正極缶2内に多量のガスが発生した際に封口ガスケット8の他の領域に先行して破断することで正極缶2が破裂することを防止する安全弁として機能する。
【0006】
ところで上述したように、正極缶2は正極合剤3と直接接触することによって正極集電体として機能することから、正極缶2と正極合剤3との接触抵抗を可能な限り低減させる必要がある。すなわち正極缶2の内面21と正極合剤3の外周側面31を密着させる必要がある。そのため環状の正極合剤3は、その外径が正極缶2における正極合剤3の配置領域(以下、胴部22とも言う)の内径よりも若干大きく成形されており、胴部22内に圧入される。また胴部22の内面21側には導電塗料を塗布してなる導電膜が形成されており、この導電膜によっても接触抵抗の低減を図っている。導電塗料としては黒鉛をメチルエチルケトン(MEK)中に分散したものが使用される。
【0007】
封口前の正極缶2は、
図1(B)に示したように、開口23の内径φ1は胴部22の内径φ2よりも拡径されており(φ1>φ2)、その開口23から下方に向かって延長する領域(以下、ステップ部24とも言う)と、底面から内径φ2を維持して上方に延長する上記胴部22と、胴部22の上端位置22uから上方に向かって内径がφ2から徐々に拡径してステップ部24の下端24dに接続する領域(以下、接続部25とも言う)とを有している。そして胴部22の内径φ2よりも大きな外径を有する正極合剤3は、正極缶2の開口23側から下方に向けて挿入される際、接続部25を経て徐々に縮径されることで胴部22内に圧入される。なおステップ部24と接続部25は正極缶2が封口される際に縮径され、
図1(A)に示したようにガスケット8の外周がステップ部24における正極缶2の内面21と密着しつつ負極端子板7がこのガスケット8を介してステップ部24の領域に嵌着される。なおアルカリ電池の製造手順や構造などについては以下の非特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】FDK株式会社、”アルカリ乾電池のできるまで”、[online]、[平成27年9月9日検索]、インターネット<URL:http://www.fdk.co.jp/denchi_club/denchi_story/arukari.htm>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図1(A)に示したように正極合剤3の上端面32は胴部22の上端位置22uよりも下方にある。胴部22における正極合剤3の上方の空間は空気室11であり、空気室11は正極缶2の内部で放電反応に伴って発生するガスによる内圧上昇を吸収するための緩衝領域となる。したがって正極合剤3の上端面32は空気室11の空気に晒されていることになる。
【0010】
ところで正極缶2の素材となる鋼板に含まれる鉄は、酸化剤である二酸化マンガン(金属酸化物)および酸素(空気)が存在する環境に置かれると電解液(アルカリ溶液)に溶解する。アルカリ電池1において鉄が電解液中に溶解して鉄イオンになると、その鉄イオンがセパレーター4を透過して負極ゲル5側に至り、そこで負極活物質の亜鉛と反応してガスを発生させる。このガスは正極缶2内の内圧を上昇させ、漏液の原因となる。そのため正極缶2は、上述したようにニッケルメッキされた鋼板からできており、鉄材である下地の鋼板を露出させないようにしている。
【0011】
しかしながら従来のアルカリ電池1では、その製造過程で正極合剤3を正極缶2に圧入している。正極合剤3は圧入に際して欠けたり削れたりしないように硬く成形されているため、正極合剤3を圧入する際に胴部22におけるニッケルメッキが剥がれて下地の鉄材が露出し、その露出した鉄材に起因するガスが発生する可能性がある。ガスの発生は漏液に繋がる。とくに空気室11と正極合剤3の上端面32との境界領域でニッケルメッキが剥がれると、鉄、二酸化マンガン、酸素、および電解液が揃うことになり、上述したガスが発生するという問題が顕在化する。
【0012】
そこで本発明は、正極缶内への圧入に際して正極缶内面のニッケルメッキが剥がれることがなく、インサイドアウト型のアルカリ電池に使用した際にニッケルメッキの下地となる鉄の露出に起因するガスの発生を防止できるアルカリ電池用電池缶と、その電池缶を備えて漏液し難いインサイドアウト型アルカリ電池を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するための本発明は、インサイドアウト型アルカリ電池の正極集電体を兼ねる有底円筒状の電池缶であって、
ニッケルメッキされた鋼鈑からなり、
当該正極缶の円筒軸方向を上下方向とするとともに底部を下方として、
前記正極合剤の収納空間として底部から一定の内径を有して上方に延長する胴部と、
当該胴部より拡径された上方開口端から下方に延長するステップ部と、
前記胴部の上端から前記ステップ部の下端まで徐々に拡径しつつ当該胴部と当該ステップ部を連続させる接続部と、
を有し、
前記胴部の上端位置に内方に突出して肉厚となる偏肉部が内面を周回して形成されている、
ことを特徴とするアルカリ電池用電池缶としている。
【0014】
また前記胴部の内径をφ、前記偏肉部の高さをhとして、当該内径φに対する前記高さhの割合h/φが0.10%以上0.15%以下であることをアルカリ電池用電池缶とすればより好ましい。
【0015】
なお上記いずれかに記載の前記電池缶内に環状に成形された正極合剤が装填されていることを特徴とするインサイドアウト型アルカリ電池も本発明の範囲である。
【発明の効果】
【0016】
本発明のアルカリ電池用電池缶によれば、アルカリ電池の製造過程において正極合剤が圧入される際に内面のニッケルメッキが剥がれず、下地の鉄材が露出することを防止することができる。そしてこの電池缶を備えたインサイドアウト型アルカリ電池は、電池缶の内面に下地の鉄材が露出することに起因する漏液を防止することができ、高い信頼性を有している。なおその他の効果については以下の記載で明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】従来のアルカリ電池用電池缶の問題点を説明するための図である。
【
図3】本発明の実施例に係るアルカリ電池用電池缶の構造を示す図である。
【
図4】上記実施例に係る電池缶におけるニッケルメッキの剥離防止作用を説明するための図である。
【
図5】上記実施例に係る電池缶を用いたアルカリ電池に対するガス発生試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施例について、以下に添付図面を参照しつつ説明する。なお以下の説明に用いた図面において、同一または類似の部分に同一の符号を付して重複する説明を省略することがある。ある図面において符号を付した部分について、不要であれば他の図面ではその部分に符号を付さない場合もある。
【0019】
===正極合剤の圧入について===
本発明の実施例に係るアルカリ電池用電池缶(以下、正極缶)について説明する前に、
図1に示した従来のアルカリ電池1において、正極缶2内に正極合剤3を圧入するのに伴って正極缶2の下地である鉄材が空気室11にて露出するメカニズムについて説明する。
図2は従来のアルカリ電池用正極缶における空気室の内面にてニッケルメッキに傷がつくメカニズムを示しており、
図2(A)〜
図2(C)の順に正極缶2に正極合剤3を挿入していく過程を示した。まず
図2(A)に示したように、正極缶2の内径φ2よりも大きな外径φ3を有する正極合剤3を当該正極缶2の開口23から下方に向けて挿入していくと、正極合剤3は接続部25にて徐々に正極缶2の内径φ2に向けて縮径されていく、そして
図2(B)に示したように正極合剤3の下端面33が空気室に対応する領域111に至ると、正極合剤3の下端面33と外周側面31との境界部分(以下、下端周縁部34とも言う)がエッジ状になっていることから、この下端周縁部34が正極缶2の内面21に対して大きな摩擦力を伴って接触する。そして
図2(C)に示したように正極合剤3の上端面32が空気室の領域111の下端111dよりも下方に配置されたときには、空気室の内面のニッケルメッキにはすでに傷がついており、場合によっては剥がれて下地の鉄材が露出した状態となる。
【0020】
===実施例===
<正極缶の構造>
図3に本発明の実施例に係る正極缶を示した。
図3(A)は封口前の正極缶2aの縦断面図であり、底面側を省略して開口23から胴部22に至る領域を示している。
図3(B)は
図3(A)における円101内の拡大図である。そして
図3の(A)と(B)に示したように、本実施例の正極缶2aは、胴部22の上端位置22uに、内方に突出しつつ正極缶2aの内面21を周回する肉厚の部位(以下、偏肉部40とも言う)が形成されている。すなわち胴部22の上端位置22uでは、この偏肉部40により内径φ4が胴部22の内径φ2よりも縮径されている。この例では接続部25の下端25dから当該接続部25の傾斜を維持しつつ胴部22の領域内にて高さhとなるまで内方に突出したのち、急速に拡径して正極缶2aの本来の内面21に連続している。なお実施例の正極缶2aは従来の正極缶とほぼ同様の方法によって製造することができる。すなわち原材料となる円板状の鋼板を、周知の深絞り加工によって胴部の上方に拡径されたステップ部が連続する円筒状に成形したのち、しごき加工によって各部位の肉厚を調整して最終的な電池缶に成形する。そして実施例の正極缶2aは、偏肉部40を設けるために、深絞り加工後の正極缶を底面側から胴部22の上端位置22uの直下までしごき加工を行って肉厚の部位である偏肉部40を残し、その上で再度胴部22の上方の領域である接続部25とステップ部24に対してしごき加工を行うことで製造している。それによって接続部25の傾斜が内径φ4となる偏肉部40の頂点40pまで連続している。偏肉部40の高さhについては、しごき加工前の胴部22の肉厚と、しごき加工後の胴部の肉厚を調整することで制御することができる。
【0021】
<本実施例の作用>
本実施例の正極缶では、正極合剤3を圧入しても空気室の内面に傷か付かず、ニッケルメッキが剥離することがない。以下に実施例の正極缶によるニッケルメッキの剥離を防止するメカニズムについて説明する。
図4は当該メカニズムの概略を示す図であり、
図4(A)〜(C)の順に正極缶2aに正極合剤3を挿入していく過程を示した。まず
図4(A)に示したように、正極缶2aの内径φ2よりも大きな外径φ3を有する正極合剤3を当該正極缶2aの開口23から下方に向けて挿入していくと、正極合剤3は接続部25にて徐々に正極缶2aの内径φ2に向けて縮径されていき、図中太線矢印で示したように、胴部22の上端位置22uにて正極合剤3の下端面33側が偏肉部40によりさらに縮径される。また偏肉部40の下方は当該偏肉部40の形成領域に対して拡径しているため、正極合剤3の下端周縁部34は正極缶2aの内面21から離間した状態となる。すなわち下端周縁部34が内面21に接してニッケルメッキを剥がすことがない。なお本実施例の正極缶2aでは接続部25の傾斜が偏肉部40の頂点40pまで連続しているため、正極合剤3の外周側面31は接続部25の傾斜に沿って偏肉部40の頂点に至るまで円滑に縮径されていく。もちろん偏肉部の形状は上記実施例に限らず、例えば断面形状を半円状にするなど、下方に向かって徐々に縮径する形状であればよい。
【0022】
図4(B)に示したように、正極合剤3をさらに下方に挿入していくと、正極合剤3の外周側面31において偏肉部40の頂点40pに接触する位置が正極合剤3の上端面32側に移動する。そのため太線矢印で示したように上端面32側が縮径される。そして高密度で成形されている正極合剤3は、その下端面33側が自身の剛性によって拡径方向に復元し、胴部22の内径φ2まで復帰した時点で下端周縁部34が正極缶2aの内面に接触する。しかし正極合剤3の下端面33が胴部22の内径φ2に復帰した時点では、下端周縁部34はすでに空気室に対応する領域111の下端111dよりも下方にある。したがって空気室の領域111については下端周縁部34によって正極缶2aの内面21のニッケルメッキに傷が付くことがない。そして正極合剤3の上端面32が偏肉部40を乗り越えたときには正極合剤3は、下端周縁部34のようなエッジ状ではなく、広い面積を有する外周側面31の全面で正極缶2aの内面21と接触する。そして
図4(C)に示したように、正極缶2aの内面21と自身の外周側面31が摩擦力が低い面同士で接触した状態を維持しながら自身が配置される位置まで挿入される。
【0023】
このように本実施例の正極缶2aでは、正極合剤3が偏肉部40を乗り越えながら下方に挿入されていくため、ニッケルメッキを傷つける下端周縁部34が空気室に対応する領域111の下端111dより下方で最初に正極缶2aの内面21に接触するようになる。したがって、譬えニッケルメッキが剥がれる場合があっても、その剥離位置は正極缶2aにおいて酸素が存在しない正極合剤3の外周側面31に接触している領域にある。すなわち鉄材の露出に伴うガスの発生が原理的に起こらない。
【0024】
<ガス発生試験>
上述したメカニズムによれば、実施例に係る正極缶は、空気室に対応する内面領域では正極合剤の圧入に伴うニッケルメッキの剥離が発生しない。そこで実施例に係る正極缶を用いて実際にインサイドアウト型のアルカリ電池を作製し、そのアルカリ電池を70℃の温度下に置くガス発生試験を行い、試験開始からの経過日数と正極缶内に発生下ガスの発生量との関係を調べた。具体的には、
図1に示した構造を有するLR6型の従来のアルカリ電池(サンプルaとする)、および
図3に示した実施例の正極缶2aを用いつつ他の構成や構造についてはサンプルaと同じアルカリ電池(サンプルbとする)をそれぞれ多数個(例えば100個)作製し、試験開始から所定の日数(例えば10日)が経過するごとに所定個数(例えば5個)を選択し、その選択した個体を水中にて分解し、正極缶内に貯留されていたガスを水上捕集する。そして捕集したガスの体積を室温大気圧下で測定し、その体積をガスの発生量とした。なおガス発生試験に用いたアルカリ電池の正極缶は、
図2における胴部22の内径φ2に対する偏肉部40の高さhの割合(h/φ2)が0.13%となっている。
【0025】
図5にガス発生試験の結果を示した。ここではサンプルaとサンプルbのそれぞれに対するガス発生試験の結果を示した。ここではガス発生量を、市販品のアルカリ電池においてガスケットの安全弁が動作する設計上の圧力に相当するガス発生量を100%とした相対値で示している。そして市販品と同等のサンプルaでは60日を経過した時点から急激にガスの発生量が増え、130日目で安全弁が動作する量のガスが発生した。一方実施例の正極缶を用いたサンプルbでは140日が経過しても安全弁が動作するガス発生量(100%)に対して25%程度しかガスが発生していなかった。
【0026】
<偏肉部の形成条件>
上述したように実施例に係る正極缶によれば、偏肉部が設けられていることで、正極合剤が圧入される際に空気室の領域ではニッケルメッキの剥離が発生しない。しかし偏肉部の高さ(
図3、符号h)が低すぎれば正極合剤の下端周縁部が空気室の領域で接触する可能性があり、高すぎれば圧入に対して正極合剤に欠けや割れ(破損)が生じる可能性がある。そこで偏肉部の高さhが異なる各種LR6型のアルカリ電池用正極缶をサンプルとして作製し、各サンプル内に市販のLR6型のアルカリ電池に用いられている正極合剤を圧入する合剤圧入試件を行った。そして空気室の領域におけるニッケルメッキの剥離や正極合剤の破損状態を確認した。なお合剤圧入試験に際しては胴部の内径φ2が同じで偏肉部の高さhが異なる16種類のサンプルを用意した。また同じ種類のサンプルを100個ずつ用意した。
【0027】
以下の表1に各サンプルにおける合剤圧入試件の結果を示した。
【0028】
【表1】
表1において「偏肉部形成条件」は正極缶における胴部の内径φ2に対する偏肉部の高さhの割合(h/φ2)を百分率(%)で表したものである。「ニッケルメッキ剥離」は正極缶における当初のニッケルメッキの厚さを100%として正極缶の内面に付いた傷の深さが100%以上となった場合を不合格とし、偏肉部形成条件が同じ100個のサンプルのうち1個でも不合格となった個体があれば「×」としている。「正極合剤破損」については100個中1個でも正極合剤が破損していれば「×」としている。なお合剤圧入試験によって正極合剤に破損が発生しなかった個体についてはそのまま正極缶を封口してアルカリ電池に組み立て、ガス発生試験を行った。そして表1に示したように、偏肉部の高さhが胴部の内径φ2の0.10%以上0.15%以下であれば、ニッケルメッキの剥離や正極合剤の破損を完全に防止することができる。
【0029】
また
図1(B)に示した市販品のLR6型のアルカリ電池用の正極缶でも100個の個体を用意して上記と同様にして合剤圧入試験を行ったところ、正極合剤の破損は発生しなかったがニッケルメッキが剥離した個体の数は上記16種類のサンプルのいずれに対しても多かった。ニッケルメッキの剥離は漏液の原因となり、その漏液は電池がユーザーによって使用されている状況で発生する。一方正極合剤の破損は製造段階での不良であり、不良品が市場に出回ることはない。
【0030】
なお当然のことながら、全ての偏肉部形成条件において、正極合剤が破損せずに正極缶内に圧入されれば、その状態で正極缶を封口してなるアルカリ電池態は、従来のアルカリ電池と同等の放電性能を示す。例えば1500mWの消費電力で2秒間放電させた後650mWの消費電力で28秒間放電させる放電動作を1サイクルとして、10サイクル/1hの条件で繰り返し、1.05Vの終止電圧に至るまでの時間を測定する重負荷放電試験を行うと、従来のアルカリ電池も偏肉部が形成されている正極缶を用いたアルカリ電池も同じ性能を示す。
【0031】
またここではLR6型のアルカリ電池用正極缶を用いて合剤圧入試験を行っていたが、LR03型、LR14型など、別の型のインサイドアウト型アルカリ電池用の正極缶であっても、正極缶(胴部)の内径の大小に応じて正極合剤の外径も相対的に変わるため、上記試験結果はインサイドアウト型アルカリ電池であれば他の大きさのものにも当てはまる。またここに示した偏肉部形成条件(0.05%〜0.20%)において上限となる0.20%は市販のアルカリ電池の正極缶の製造に使用されるプレス加工機を用いて実際に製造可能な条件であり、下限となる0.05%の偏肉形成条件ついても実質的に生産可能な下限値であると言える。市販のLR6型のアルカリ電池用の正極缶における胴部の厚さは、当初の厚さ0.25mmの円筒状の鋼板をしごき加工によって0.15mmまで薄くしている。そして胴部の外径が規格上14.5mmであることから、0.05%の偏肉形成条件では、偏肉部の高さhは7μm(0.007mm)程度となる。周知のごとく、しごき加工の公差は「高精度」と呼ばれる場合であっても0.01mm程度であることを考えればこの0.05%という条件は現実として製造可能な下限値と言える。いずれにしても
図4に示したメカニズムからも明らかなように、正極缶に偏肉部を設けさえすれば、空気室の内面でニッケルメッキが剥がれる可能性が低減し、鉄材が露出することに起因する漏液を確実に抑制することができる。
【符号の説明】
【0032】
1 アルカリ電池、2,2a 電池缶(正極缶)、3 正極合剤、4 セパレーター、
5 負極ゲル、6 負極集電子、7 負極端子板、8 ガスケット、
9 正極端子、11 空気室、21 電池缶の内面、22 電池缶の胴部、
23 電池缶の開口、25 電池缶のステップ部、31 正極合剤の外周側面、
32 正極合剤の上端面、33 正極合剤の下端面、34 正極合剤の下端周縁部