【0027】
好ましい3八面体型で層間にKイオンを含む層状ケイ酸塩の例には以下のものが包含される:金雲母(Phlogopite)[KMg
3(Al,Si
3)O
10(OH,F)
2]、黒雲母(Biotite)[K(Mg,Fe)
3(Al,Si
3)O
10(F,OH)
2]、リシア雲母(Lepidolite)[K(Li,Al)
3(Al,Si)
4O
10(F,OH)]、チンワルド雲母(Zinnwaldite)[KLiFeAl(AlSi
3)O
10(OH,F)
2]、シデロフィライト(siderophyllite)[KFe
2+2AlAl
2Si
2O
10(OH)
2]、イーストナイト(eastonite)[KMg
2AlAl
2Si
2O
10(OH)
2]、白水雲母(shirozulite)[KMn
2+3AlSi
3O
10(OH)
2]、ヘンドリックサイト(hendricksite)[KZn
3AlSi
3O
10(OH)
2]、モンドライト(montdorite)[KFe
2+1.5Mn
2+0.5Mg
0.5□
0.5Si
4O
10F
2] (□は空孔)、楊主明雲母(yangzhumingite[KMg
2.5□
0.5Si
4O
10F
2]、テニオライト(tainiolite)[KLiMg
2Si
4O
10F
2]、ポリリシオ雲母(polylithionite)[KLi
2AlSi
4O
10F
2]、トリリシオ雲母(trilithionite)[KLi
1.5Al
1.5AlSi
3O
10F
2]、益富雲母(masutomilite)[KLiAlMn
2+AlSi
3O
10F
2]、ノリサイト(norrishite)[KLiMn
3+2Si
4O
12]、tetra-ferri-annite [KFe
2+3Fe
3+Si
3O
10(OH)
2]、tetra-ferriphlogopite [KMg
3Fe
3+Si
3O
10(OH)
2]。これらのうち、金雲母、及び黒雲母が好ましい。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本実施例において使用した評価法は以下のとおりである。
<評価法>
1.層間距離の変化
層状ケイ酸塩X線回折装置(Cu−Kα線)(リガク製、ULTIMA−IV)により、層状ケイ酸塩の底面反射の変化を調べた。
2.含水率の測定
水和性カチオン水溶液で処理した後の層状ケイ酸塩試料約7mgについて、熱重量測定(TG)により、大気下で、室温から10℃/分で1000℃まで昇温する間の重量減少から含水率を求めた。
3.平均粒径
レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所製、SLAD−7100)を用いて、エタノール溶媒中で各試料の平均粒径(D
50)を求めた。
4.粒子形態観察
膨潤化処理後の粒子形態を、走査型電子顕微鏡(日本電子製、JSM−6700F)を用いて加速電圧15kVで観察した。
【0031】
[実施例1]
反応・合成装置(柴田科学製、Chemist Plaza)を用いて、黒雲母(中国山西省産、D
50=42μm)0.3gを、0.5当量/lの硝酸ナトリウム(ナカライテスク製)水溶液200ml中に投入し、室温にて3時間、撹拌した。次いで、黒雲母をろ別して、蒸留水により洗浄し、これを3回繰り返した後、80℃のオーブン中で6時間乾燥した。上記処理前後のX線回折チャートを
図1及び2に示す。
図1の原料黒雲母の底面距離1.0nmの反射は、反応後弱くなり、層間がNaイオンである底面距離1.47nmの反射が、該距離1.0nmの反射の20%程度のピーク強さ、底面距離1.21nmの反射が該距離1.0nmの反射の10%弱のピーク強さで観察された(
図2)。これらのピークはNaイオンの周りの水和水の数が異なる層に対応する。この底面反射についてデータ解析ソフトPDXL2(リガク社製)を用いて相対積分強度を求めた結果、非水和層のピーク(1.0nm)の積分強度100としたとき、水和層の反射(1.47nm)は約50、水和層の反射(1.21nm)は約20であった。これは黒雲母のエッジ部から内側の層間にまで水和Naイオンが置換していることを示唆している。
そこで層間の水分量を見積もるため、上記処理前後の試料において熱重量測定(TG)を実施した。その結果を
図3及び4に示す。未処理の黒雲母は200℃では重量減少が殆ど認められず約0.25%であり、1000℃では構造水が蒸発して約2.5%の重量減少が認められた(
図3)。一方、硝酸ナトリウムで処理した黒雲母は200℃までの重量変化において50℃近傍と70〜80℃近傍で2段階の重量減少が認められ(
図4)、夫々表面吸着水と層間水の脱水に起因すると考えられる。すなわち、この試料は約1.2質量%の表面吸着水と約1.5質量%の層間水が含まれていると考えられる。以上の解析結果から、0.5当量/lの水溶液で、層間のKイオンを効率的に置換できることが分かった。
【0032】
[実施例2]
硝酸ナトリウム水溶液の濃度を1.0当量/lにしたことを除き、実施例1と同様に黒雲母を処理した。
図5に処理後のX線回折を示す。
図2と比べて、層間がNaイオンである底面距離1.48nmの反射が、該距離1.0nmの反射の140%程度のピーク強さで観察された。また、硝酸ナトリウム水溶液処理後のTGの結果を
図6に示す。その結果、200℃までの重量変化、特に80〜100℃にかけて層間水の脱水とみられる約2.4質量%の重量減少が観測された。
【0033】
[実施例3]
黒雲母0.3gを計量し、5当量/lの硝酸ナトリウム水溶液200ml中に投入し、室温で12時間撹拌した。その後、ろ別し、再度同濃度の硝酸ナトリウム水溶液200mlで12時間撹拌処理を行った。反応後、蒸留水での洗浄及びろ過を3回繰り返し、黒雲母の乾燥粉末を調製した。X線回折測定の結果、黒雲母の底面距離(1.0nm)は、反応後完全に消失し、1.2nmと1.5nmの新たな底面反射が確認された(
図7)。また、処理後のTGの結果を
図8に示す。硝酸ナトリウムで処理した黒雲母は200℃までの重量変化から約3.5質量%の表面吸着水との約6質量%の層間水の存在が認められた。これは層間に置換したナトリウムイオンの水和水であり、X線回折測定の結果(
図7)とも矛盾しない。更に
図9に処理後の黒雲母粒子のSEM像を示したが、板状形状が破壊されることなく、100μm超の結晶が確認できた。以上の結果は、黒雲母の結晶構造を維持しながら層間のカリウムイオンを溶脱させ、水和ナトリウムイオンと置換出来たことを示しており、高結晶性の膨潤性黒雲母が得られたことを示している。
【0034】
[実施例4]
非膨潤性層状ケイ酸塩を金雲母(レプコ社製、S200HG、D
50=46.7μm)に変えた以外はすべて実施例3と同様に処理を行った。上記処理前後のX線回折チャートを
図10及び11に示す。金雲母の底面距離(1.0nm)は、反応後完全に消失し、1.23nmと1.48nmの新たな底面反射が確認された。また、上記処理前後のTG測定の結果を
図12及び13に示す。未処理の金雲母は200℃では重量減少が殆ど認められず約0.2質量%であった(
図12)。これは層間イオンに非水和のカリウムイオンが存在していること示している。1000℃迄の昇温で約2.0質量%の重量減少が観測されたが、これは金雲母骨格の構造水の蒸発によるものである。一方、硝酸ナトリウムで処理した金雲母は200℃までの測定で約3質量%の表面吸着水と約6.5質量%の層間水に起因する重量減少が認められた(
図13)。更に
図14に処理後の金雲母粒子のSEM像を示す。金雲母粒子の板状形状が破壊することなく、100μmを超える大きな結晶が観察されている。以上の結果は、金雲母の結晶性が維持されたまま層間のカリウムイオンが溶脱されて、水和ナトリウムイオンと置換されたことを示しており、高結晶性の膨潤性金雲母が得られたことを示している。
【0035】
[実施例5]
硝酸ナトリウムを塩化リチウム(和光純薬)に変えたことを除き、実施例4と全て同様に行った。処理後の金雲母のX線回折測定の結果を
図15に示す。金雲母の底面距離(1.0nm)は、反応後完全に消失し、1.2nmの新たな底面反射が確認された。また、処理後のTG測定の結果を
図16に示す。塩化リチウムで処理した金雲母は200℃までの重量変化から約2質量%の表面吸着水と約5.3質量%の層間水が含まれていることが認められた。これは金雲母層間のカリウムイオンが溶脱して、水和リチウムイオンに置換したことによって膨潤性金雲母が得られたことを示している。
【0036】
[実施例6]
5当量/l硝酸ナトリウム水溶液200mlを2当量/lの二リン酸ナトリウム(和光純薬)水溶液200mlに変えたことを除き、実施例4と全て同様に行った。X線回折測定の結果を
図17に示す。金雲母の底面距離(1.0nm)は、反応後完全に消失し、1.2nmの新たな底面反射が確認された。また、処理後のTG測定の結果を
図18に示す。二リン酸ナトリウムで処理した金雲母は200℃までの重量変化から約8質量%の表面吸着水と約5.5質量%の層間水が含まれていることが認められた。これは金雲母層間のカリウムイオンが溶脱して、水和ナトリウムイオンに置換したことによって膨潤性金雲母が得られたことを示している。
【0037】
[実施例7]
前記黒雲母0.3gを30%過酸化水素水(mass/mass)(ナカライテスク)5mlに6時間浸漬させたのち、2当量/lの硝酸ナトリウム水溶液200ml中に投入し、室温で12時間撹拌した。反応後、蒸留水での洗浄及びろ過を3回繰り返し、黒雲母の乾燥粉末を調製した。X線回折測定の結果、金雲母の底面距離(1.0nm)は、反応後消失し、1.45nmの新たな底面反射が確認された(
図19)。また、処理後のTGの結果を
図20に示す。硝酸ナトリウムで処理した金雲母は200℃までの重量変化から約5.3質量%の表面吸着水との約5.2質量%の層間水が含まれていることが認められた。これは金雲母層間のカリウムイオンが溶脱して、水和ナトリウムイオンに置換したことによって膨潤性金雲母が得られたことを示している。
【0038】
[実施例8]
実施例3で調製した膨潤性黒雲母を使用して有機−無機ハイブリッドの調製を試みた。膨潤性黒雲母0.5gに対して、層間イオン量の約2.5当量のトリメチルステアリルアンモニウムクロライド(分子量348.06、東京化成工業)1.15gを計量し、約40〜50℃に温調した水/エタノール(体積比90/10)溶媒100ml中で3時間撹拌混合した。反応後、濾過、洗浄を2回繰り返し、熱風乾燥して試料を得た。X線回折測定の結果を
図21に示す。膨潤性黒雲母の底面反射(1.2nmと1.5nm)は消失し、低角度側に2.83nmの鋭いピークが現れた。この反射は(004)の高次反射まで現れ、トリメチルステアリルアンモニウム分子が黒雲母層間に均一にインターカレートしたことを示している。これまで不可能であった天然雲母鉱物を使った4級アンモニウム塩との短時間、低濃度処理でイオン交換を達成した。
【0039】
[参考例1]
硝酸ナトリウム水溶液の濃度を0.01当量/lにしたことを除き、実施例1と同様に黒雲母を処理した。X線回折測定の結果を
図22に示す。低角度側2θ=6.0°近傍に1.48nmの微弱なピークと2θ=8.8°に黒雲母の強い底面反射(1.0nm)が観測された。この底面反射についてデータ解析ソフトPDXL2(リガク社製)を用いて解析した結果、水和層の反射(1.48nm)は非水和層の反射(1.0nm)の6%程度しかない事が明らかになった。また、処理後のTGの結果を
図23に示す。硝酸ナトリウムで処理した黒雲母は200℃で約0.1質量%の重量減少しか認められなかった。これは実施例1に示した未処理の黒雲母よりも少ない事から表面やエッジ部の吸着水と考えられる。以上の結果から本条件では黒雲母層間を水和ナトリウムイオンと十分に置換することができなかったと結論付けられる。
【0040】
[参考例2]
硝酸ナトリウム水溶液の濃度を0.1当量/lにしたことを除き、比較例1と同様に黒雲母を処理した。X線回折測定の結果を
図24に示す。2θ=6.0°近傍(d=1.48nm)に観測される水和層のピークの積分強度は、2θ=8.8°(d=1.0nm)の非水和層の強いピークの約10%であった。また、処理後のTGの結果を
図25に示す。硝酸ナトリウムで処理した黒雲母は200℃で約0.1質量%の重量減少しか認められなかった。以上の結果から本条件では黒雲母層間を水和ナトリウムイオンと十分に置換することができなかったと結論付けられる。
【0041】
[参考例3]
膨潤化処理前の黒雲母(中国山西省産、D
50=42μm)0.5gに対して、層間イオン量の約2.5当量のトリメチルステアリルアンモニウムクロライド(分子量348.06、東京化成工業)1.15gを計量し、約40〜50℃に温調した水/エタノール(体積比90/10)溶媒100ml中で実施例8の4倍の反応時間(12時間)撹拌混合した。反応後、濾過、洗浄を2回繰り返し、熱風乾燥して試料を得た。X線回折測定の結果を
図26に示す。低角度側に2.9nm、1.45nmのブロードなピークはトリメチルステアリルアンモニウム分子がインターカレートした相の(001)反射と(002)反射が確認できた。更に2θ=8.8°(1.0nm)近傍により大きな鋭いピークが観測された。これは層間イオンがK
+の黒雲母の底面反射である。すなわち、一部の黒雲母層間にトリメチルステアリルアンモニウム分子がインターカレートしたのみで均質なナノハイブリッドの調製には至らなかった。