【課題】重合度が大きい縮合型タンニンを、抽出時の分解や重合を抑えて収率良く抽出する方法を提供すること、またそれを使用した重合度が大きい縮合型タンニンの製造方法、及び、それを含有する複合剤の製造方法を提供すること。
【解決手段】重合度の高い縮合型タンニンの抽出方法であって、該縮合型タンニンを含有する植物の部位から過熱水蒸気を用いて抽出することを特徴とする抽出方法、該抽出方法を使用した重合度の高い縮合型タンニンの製造方法、及び、9量体の縮合型タンニン。
上記植物が、アカシア属、カキノキ属、クリ属、マツ属、ダイオウ属、ブドウ属及びニッケイ属よりなる群から選ばれた属に属する植物である請求項1ないし請求項7の何れかの請求項に記載の抽出方法。
【背景技術】
【0002】
タンニンは、限定された種々の植物の特定の部位に多く含まれる天然のフェノール化合物であり、タンパク質等の生体高分子を凝集させる性質である収斂作用を有するため、古くから、皮なめしに使用される鞣皮剤、下痢止め剤等として使用されてきた。
また、媒染剤、清酒等の清澄剤、防腐剤、インクの成分等として利用され、また、種々の茶処理品、ハーブ等の食用とされる植物(処理品)にも含まれるため、食品、健康食品、嗜好品等として利用されてきた。
【0003】
タンニンには、複数の水酸基を有する糖等の多価アルコールに没食子酸等の多価フェノール酸がエステル結合した加水分解性タンニンと、複数のフラボノイドが炭素−炭素単結合で結合した縮合型タンニンとが存在する。
このうち、縮合型タンニンは、プロアントシアニジンと呼ばれることもあり、後述する式(1)で表される物質である。
縮合型タンニンは、上記した作用・性質以外に、老化や癌等を抑制する抗酸化性、精神安定性、接着(向上)性、物質を吸着させる吸着性等の作用・性質を有し、また、化学構造や物性が類似する人工物(合成物)であるフェノール樹脂にない優れた種々の作用・性質を有しているため有用である。
【0004】
縮合型タンニンにおいては、前記した種々の作用・性質は、該縮合型タンニンの重合度に依存し、重合度が大きい縮合型タンニンの方が優れていると言われる作用・性質が多く存在する。
例えば、非特許文献1には、タンパク質の吸着能やタンパク質の不溶化能が、「重合度が大きい縮合型タンニン」の方が優れていることが記載されている。
【0005】
しかしながら、重合度が大きい縮合型タンニンの抽出は、単量体であるタンニンや重合度が小さい縮合型タンニンの抽出に比較して、収率良く抽出できなかったり、抽出中に分解したりして、抽出することが極めて難しかった。
【0006】
一般的に抽出方法としては、例えば、100℃の水蒸気を用いる水蒸気蒸留法;加圧熱水を用いた水熱抽出法;水又は有機溶媒に加熱下及び/又は加圧下で直接浸漬させて抽出する直接抽出法;油性成分を加えて圧搾することにより抽出する圧搾法;二酸化炭素等の超臨界流体を用いて抽出する超臨界抽出法;抽出媒体を使用せず低温で減圧して直接抽出する低温減圧抽出法;温度と圧力を特定範囲に調整した水で抽出する亜臨界水抽出法;等が知られている。
例えば、特許文献1には、天然資源から、低級アルコール又は「低級アルコールと水との混合溶媒」を用いて、縮合型タンニンを抽出する方法が記載されている。
また、特許文献2には、木質系成形材料から、オートクレーブ中で加圧した110℃の熱水を用いて、タンニンを抽出する方法が記載されている。
【0007】
しかしながら、前記の方法では、縮合型タンニンが収率良く抽出できない、抽出に用いた有機溶媒等の抽出媒体の残存が障害になる場合にそれらを完全に除去することができない、抽出時に縮合型タンニンが分解又は変性する、抽出媒体の使用により全て天然物であると言う特長が失われる、抽出セル(容器)が腐食し易い、コストがかかり過ぎる等、種々の問題点があった。
また、たとえ縮合型タンニン全体として収率良く抽出できても、重合度の大きい縮合型タンニンの抽出効率が低い、すなわち抽出された縮合型タンニン全体に占める重合度の大きい縮合型タンニンの占める割合が低いものであった。
【0008】
一方、100℃より高い温度の水蒸気である「過熱水蒸気」は、廃棄物の処理、不要含有物の分解除去・抽出、有用物の物性改良等に利用されている。
例えば、特許文献3や非特許文献2には、100℃より高い水蒸気の発生装置について記載されており、特許文献4には、多孔質炭素材料を過熱水蒸気で処理して高比表面積活性炭を製造する方法が記載されている。また、特許文献5には、リグノセルロース系材料を過熱水蒸気で処理してヘミセルロースを分解除去する方法が記載されている。
【0009】
100℃より高い水蒸気で抽出する過熱水蒸気抽出法、すなわち、100℃より高い温度(「T℃」とする)の水蒸気を用い、常圧で、従って「該T℃における水の飽和蒸気圧」より低い圧力の水蒸気(の混合気体)で抽出する方法が、タンニンの抽出に有効であることは知られておらず、況や「重合度の高い縮合型タンニン」が効率良く抽出できる点で特に有効であることは知られていない。
【0010】
タンニン等の高付加価値の天然物は、近年増々着目されており、その応用分野は拡大しつつある。すなわち、人工物(合成物)より優れた物性への要求はもとより、天然物と合成物を含め今までにない作用・性質への要求は、ますます高くなってきているが、公知技術では不十分であった。
【0011】
特に、重合度の高い縮合型タンニンについては、今までにない作用・性質を有することが予想されるにもかかわらず、抽出して確認(同定)できないため植物中の含有(存在)自体が明確には分かっていないこともあり、その効率の良い抽出方法に関しては全く知られていなかった。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について説明するが、本発明は、以下の具体的形態に限定されるものではなく、技術的思想の範囲内で任意に変形することができる。
【0026】
本発明は、重合度の高い縮合型タンニンの抽出方法であって、該縮合型タンニンを含有する植物の部位から過熱水蒸気を用いて抽出することを特徴とする抽出方法である。
ここで、「重合度の高い縮合型タンニンの抽出方法」の意味は、他の抽出方法に比べて、抽出物中の縮合型タンニンの平均の又は最大の重合度がより高いタンニンの抽出方法という意味である。
【0027】
<縮合型タンニンの化学構造>
植物に含まれる縮合型タンニンとしては、以下の式(1)で表される化合物が確認されている。従って、本発明における「縮合型タンニン」としては、具体的には、例えば、式(1)で表されるものが挙げられる。
【0028】
【化1】
[式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ異なっていてもよい、水素原子(−H)又は水酸基(−OH)を示し、R
3は、水素原子(−H)、水酸基(−OH)又は没食子酸残基(−OC(=O)C
6H
2(OH)
3)を示し、R
1、R
2及びR
3は、n個の繰り返し単位ごとに同じでも異なっていてもよく、nは2以上の整数を示す。]
【0029】
式(1)中の「没食子酸残基」は、以下の式(2)で表される基である。
【化2】
【0030】
<<重合度の高い縮合型タンニン>>
「重合度の高い縮合型タンニン」とは、具体的には、重合度が4以上(式(1)において4≦n)の縮合型タンニンであることが好ましく、重合度が6以上の縮合型タンニンであることがより好ましく、重合度が8以上(式(1)において8≦n)の縮合型タンニンであることが特に好ましい。上記重合度以上であると、本発明の抽出方法の特異性が発揮される。抽出物には、重合度の異なる縮合型タンニンが混合されていてもよい。
【0031】
言い換えれば、本発明は、重合度が4以上の縮合型タンニンを含む「縮合型タンニンの抽出方法」であることが好ましく、重合度が6以上の縮合型タンニンを含む抽出方法であることがより好ましく、重合度が8以上の縮合型タンニンを含む抽出方法であることが特に好ましい。
【0032】
また、本発明の抽出方法によれば、9量体の縮合型タンニンを抽出することができる。「9量体の縮合型タンニン」(式(1)におけるn=9の化合物)は、単離され確認(同定)された物として新規のものである。本発明の抽出方法による抽出物として、3≦n≦9の全てのn(重合度)の縮合型タンニンの混合物が確認されている。
従って、本発明の態様は、抽出される縮合型タンニンが、少なくとも重合度が4(より好ましくは7)から9までの全ての縮合型タンニンを含有する前記の抽出方法でもある。
【0033】
抽出物は、重合度の異なる縮合型タンニンの混合物であってもよい。本発明は、数平均分子量が1200以上の縮合型タンニンの抽出方法であることが好ましく、1300以上の縮合型タンニンの抽出方法であることがより好ましく、1500以上の縮合型タンニンの抽出方法であることが特に好ましく、1600以上の縮合型タンニンの抽出方法であることが更に好ましい。
本発明の抽出方法によって、数平均分子量1600以上、具体的には数平均分子量1640〜1680の縮合型タンニンを「物」として初めて得た。
【0034】
式(1)で表される縮合型タンニン(を形成する単量体それぞれ)の立体構造は、植物の部位に含有されるものであれば特に限定されない。
【0035】
また、本発明によって重合度の高い縮合型タンニンが抽出されたので、式(1)におけるR
1、R
2及びR
3(の組み合わせ)として、全てが抽出されたことが構造解析から確認されていないとしても、R
1、R
2及びR
3(の組み合わせ)が何であっても、「重合度の高い縮合型タンニン」の「抽出され易さと難さ」は変わりがないと考えられるから、「一般的に重合度の高い縮合型タンニンが抽出される」と言える。
すなわち、R
1がOH、R
2がH、R
3がOHの縮合型タンニンで重合度の高い縮合型タンニンが抽出されたので、R
1がOH、R
2がH、R
3がOHではない縮合型タンニン全体でも、重合度の高い縮合型タンニンが抽出されることは明らかである。
また、アカシアから重合度の高い縮合型タンニンが実際に抽出されたので、アカシア以外の植物から抽出される構造(R
1、R
2及びR
3(の組み合わせ))の異なる縮合型タンニンでも、重合度の高い縮合型タンニンが抽出されることは明らかである。
従って、後述の実施例から、本発明は、式(1)で表される縮合型タンニンのうち重合度の高い縮合型タンニンの抽出法であると言える。
【0036】
<過熱水蒸気>
本発明の抽出方法では、縮合型タンニンを含有する植物の部位から過熱水蒸気を用いて縮合型タンニンを抽出する。
ここで、「過熱水蒸気」とは、100℃より高い温度(以下、該温度を「T℃」とする)で、「T℃における水の飽和蒸気圧」より低い圧力の水蒸気(の混合気体)のことである。
抽出時の過熱水蒸気は常圧であること(常圧で抽出すること)が、抽出装置の簡便さから好ましい。なお、常圧(1気圧)は、「100℃より高い温度であるT℃における水の飽和蒸気圧」より低い。
【0037】
過熱水蒸気は、熱容量が大きい、誘電率が低い、エンタルピーが低い、定圧比熱が高い、対流伝熱以外にも放射伝熱・凝縮伝熱があるので熱効率が高い、等の特徴がある。本発明における抽出の作用・原理を限定するものではないが、本発明の抽出方法は、上記特徴を利用しているため重合度の高い縮合型タンニンが抽出できたと考えられる。
【0038】
過熱水蒸気は常法によって得ることができ、本発明においても常法により得られた過熱水蒸気が用いられる。過熱水蒸気は100℃の水蒸気に更に熱を加えて得ることができ、過熱水蒸気の発生方法・装置については、例えば、特許文献3や非特許文献2等に記載されているものが用いられる。また、例えば、第一高周波工業株式会社製「DHF Super−HI」等の市販品も好適に用いられる。
【0039】
図1に、過熱水蒸気の発生装置の概略を含めた本発明の抽出方法の一例を示す。限定はされないが、具体的には、通常の方法で水を常圧で100℃に加熱し、得られた飽和水蒸気を更に加熱装置で加熱する。加熱方法としては、液体燃料を燃焼させて発生する熱を利用する方法、ガス燃料を燃焼させて発生する熱を利用する方法、電熱ヒーターから発生する熱を利用する方法、誘導加熱をする方法等が挙げられる。
【0040】
それらの中でも誘導加熱をする方法が好ましい。
図1では、高周波加熱電源から高周波ケーブルで高周波加熱装置に高周波電流を流し、該高周波加熱装置で100℃の水蒸気を加熱して、過熱水蒸気にしている。
誘導加熱をする方法としては、金属管により構成される導電性の発熱体を誘導加熱により過熱(スーパーヒート)し、その発熱体に(100℃の)飽和水蒸気を通すことにより圧力を加えることなく過熱水蒸気を発生させる方法が好適に用いられる。
図1のように、該発熱体と過熱水蒸気の温度を常時モニターして、温度監視ボックスに信号を送り、高周波加熱電源にフィードバックされることが好ましい。
【0041】
<抽出対象となる植物>
本発明においては、「縮合型タンニンを含有する植物の部位」から過熱水蒸気を用いて、「重合度の高い縮合型タンニン」を抽出するが、抽出対象として用いられる植物としては、特に限定はないが、アカシア属、カキノキ属、クリ属、マツ属、ダイオウ属、ブドウ属及びニッケイ属よりなる群から選ばれた属に属する植物であることが、縮合型タンニン(重合度の高い縮合型タンニン)を多く有するために好ましい。また、該植物を廃棄物(中)に求めるときには、廃棄物として得られ易いために好ましい。
【0042】
例えば、アカシア属に属する植物としては、種々のアカシア、ミモザ等が挙げられ、マツ属に属する植物としては、種々の松、ラジアータパイン等が挙げられ、クリ属に属する植物としては、シバグリ、ヤマグリ等が挙げられ、カキノキ属に属する植物としては、種々の品種の柿等が挙げられ、ダイオウ属に属する植物としては、ダイオウ等が挙げられ、ブドウ属に属する植物としては、種々の葡萄等が挙げられ、ニッケイ属に属する植物としては、シナモン(ケイヒ)等が挙げられる。
【0043】
限定はされないが、中でも最も好ましくは、アカシア属に属する植物であり、具体的には、例えば、ギンヨウアカシア(ハナアカシア)、フサアカシア、モリシマアカシア、アカシアマンギウム、ゴールデンミモザ等が挙げられる。
【0044】
<抽出対象となる植物の部位>
本発明においては、植物の特定の部位から抽出するが、抽出対象として用いられる植物の部位としては、特に限定はないが、樹皮、木質部、果皮、果実、種子、葉及び莢よりなる群から選ばれた部位が挙げられる。これらの部位には、縮合型タンニンが含有されることが多い。縮合型タンニンが多く含有されることから、特に好ましくは樹皮である。
また、抽出対象である植物の部位を廃棄物(中)に求めるときには、樹内部の木質部を木材として使用した後に、樹皮が廃棄物として大量に得られるために、抽出対象である植物の部位として樹皮が特に好ましい。
【0045】
<アカシア属の植物から得られた重合度の高い縮合型タンニン>
本発明の好ましい態様は、重合度の高い縮合型タンニンの抽出方法であって、アカシア属の植物(好ましくはアカシア)の部位(好ましくは樹皮)から、過熱水蒸気を用いて抽出することを特徴とする抽出方法でもあり、該抽出方法を使用して得られた下記式(1)で表される縮合型タンニン(又は重合度の異なる混合物)でもある。アカシア属の植物(好ましくはアカシア)の部位(好ましくは樹皮)に含まれる縮合型タンニンと言えば、その繰り返し単位の化学構造は特定されている。
【0046】
すなわち、本発明は、アカシアの樹皮から過熱水蒸気を用いて抽出した下記式(1)で表されるものであることを特徴とする単離された縮合型タンニンを提供するものでもある。
【0047】
【化3】
[式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ異なっていてもよい、水素原子(−H)又は水酸基(−OH)を示し、R
3は、水素原子(−H)、水酸基(−OH)又は没食子酸残基(−OC(=O)C
6H
2(OH)
3)を示し、R
1、R
2及びR
3は、n個の繰り返し単位ごとに同じでも異なっていてもよく、nは2以上の整数を示す。]
特に、上記式(1)において、nが7、8及び9の混合物である縮合型タンニン(特に、n=9の縮合型タンニン)が新規に見出された。
【0048】
アカシアの樹皮から過熱水蒸気を用いて抽出した上記式(1)で表される単離された縮合型タンニンは、上記式(1)において、R
1が水酸基(−OH)であり、R
2が水素原子(−H)であり、R
3が水酸基(−OH)のものが主成分であり、nが7、8及び9の混合物である縮合型タンニン(特に、n=9の縮合型タンニン)が新規に見出された。
【0049】
<抽出方法の工程・抽出条件>
本発明の抽出方法は、抽出対象に過熱水蒸気を接触させて重合度の高い縮合型タンニンを抽出するものであるが、具体的には、例えば、以下のような工程を行って抽出することが特に好ましい。
(1)植物を(好適には縮合型タンニンを含有する植物の部位のみを)粉砕する工程
(2)工程(1)で得られたものを抽出セル(抽出容器)に充填する工程
(3)過熱水蒸気を上記抽出セル(容器)に通過させる工程
(4)工程(3)で得られた過熱水蒸気と抽出物との混合物を回収する工程
(5)工程(4)で回収した混合物を液体に溶解して全溶液を得る工程
(6)上記全溶液から縮合型タンニンを精製して得る工程
(7)上記縮合型タンニンを重合度の異なる縮合型タンニンに分離する工程
【0050】
上記工程(1)〜(7)のうち、工程(2)、(3)及び(4)は、本発明の抽出方法において必須である。
【0051】
工程(1)は必須ではないが、抽出セルに比べて植物が大きいときや抽出効率を高めるために行うことが好ましい。粉砕は常法により行うことができる。廃棄物としての植物を利用するときは、適宜不要物を除去したり、適宜粉砕を行ったりする。
【0052】
工程(2)は、植物(の部位)を抽出セル(抽出容器)に充填する工程である。充填量は、処理する植物(の部位)や獲得したい縮合型タンニンの量等によって定める。抽出セル(抽出容器)は、常圧での抽出に適したものであることが好ましく、大きさ(容量)は、植物の充填量、獲得したい縮合型タンニンの量等によって定められる。
【0053】
工程(3)は、過熱水蒸気を上記抽出セル(容器)に通過させる工程であるが、過熱水蒸気の温度は、100℃より高いことが必須である。好ましくは105℃以上500℃以下、より好ましくは110℃以上300℃以下、特に好ましくは115℃以上250℃以下、更に好ましくは120℃以上200℃以下である。
過熱水蒸気の温度が低過ぎると、縮合型タンニン画分の抽出率が落ちる、抽出速度が落ちる、重合度の高い縮合型タンニンが抽出されない等の場合があり、過熱水蒸気の温度が高過ぎると、縮合型タンニンが熱分解したり、重合を起こしたりする場合がある。
【0054】
過熱水蒸気の流量は、特に限定はないが、抽出対象(試料)1g当たり、1〜300L/(分・g)が好ましく、10〜200L/(分・g)がより好ましく、50〜160L/(分・g)が特に好ましい。
流量が少な過ぎると、抽出速度が遅くなる、収量を確保するために抽出時間を長くせざるを得ずその間試料が高温状態になっているので縮合型タンニンが分解すると同時に重合を起こす等の場合がある。
一方、流量が多過ぎると、過熱水蒸気が無駄になる、抽出物が希釈され、抽出物の濃縮に時間がかかる等の場合がある。
【0055】
抽出時間は、抽出対象(試料)の質量、過熱水蒸気の流量等に依存し、特に限定はないが、1分〜60分が好ましく、2分〜30分がより好ましく、5分〜20分が特に好ましい。抽出時間が短過ぎると、縮合型タンニンが抽出しきれず残存する等の場合があり、抽出時間が長過ぎると、縮合型タンニンが抽出しきってしまい時間の無駄である、抽出物が希釈されて抽出物の濃縮に時間がかかる等の場合がある。
【0056】
また、過熱水蒸気の温度域の異なる抽出領域を多段階配置して、過熱水蒸気の温度が低い方から順に抽出することも好ましい。
比較的低温の過熱水蒸気で、(低分子量の)不純物や低分子量の縮合型タンニンを抽出し、その後に、比較的高温の過熱水蒸気で、高分子量の(重合度の高い)縮合型タンニンを抽出することによって、高温状態にしておく時間を短縮できて重合度の高い縮合型タンニンの熱分解が抑制される、不純物や低分子量成分を先に抽出除去することで重合度の高い縮合型タンニンが抽出し易くできる等の効果がある。
【0057】
多段階配置するときの前段の温度は、特に限定はないが、100℃より高く200℃以下が好ましく、105℃〜120℃が特に好ましい。また、後段の温度は、110℃〜500℃が好ましく、120℃〜300℃が特に好ましい。
【0058】
工程(4)は、過熱水蒸気と抽出物との混合物を回収する工程である。過熱水蒸気は回収時には液体の水になるので、工程(4)は、水と抽出物との混合物を回収する工程である。
回収方法は特に限定はないが、工程(3)で得られた抽出物の入った抽出セルに、水等の液体を加えて撹拌したり洗い出したりして、得られた(水)溶液や分散液を回収する方法が好ましい。
抽出物は、抽出セルのセル壁面や、抽出に用いた植物の表面に付着していることがあるので、その場合は上記方法が好ましい。なお、該水は蒸留水が好ましい。
【0059】
更に、
図1に示したように、気体を液体中に導入して該混合物を冷却しトラップする機構を追加することが好ましい。トラップに用いる液体は、水、水/エタノール混合液等が好ましく、水が特に好ましい。
【0060】
工程(5)は、工程(4)で回収した混合物を一旦液体に溶解して全溶液を得る工程である。工程(5)は本発明において必須の工程ではなく、得たいものが、加水分解性タンニン、低重合度若しくは単量体のタンニン、没食子酸(誘導体)等の化合物や、その他の不純物等を含んでいてもよい場合には省略できる。また、得たいものが、不溶分の濾過等で十分な場合等には省略できる。
上記一旦溶解する液体は、縮合型タンニンが溶解する溶媒であり、例えば、水/エタノール混合溶媒、水等が挙げられる。該液体に溶解しないものは濾別することが好ましい。
【0061】
工程(6)は、上記全溶液から縮合型タンニンを精製して得る工程である。工程(6)は本発明において必須の工程ではなく、工程(5)で述べたような場合、精製が必要ない場合等は省略できる。
精製は、精製用カラムを用いる方法等が挙げられる。例えば、縮合型タンニン画分は水/アセトン混合溶媒等で流出させ、低分子量画分はエタノール、エタノール/水混合溶媒等で流出させることが好ましい。具体的には、例えば、実施例に記載の方法が挙げられる。
【0062】
工程(7)は、上記縮合型タンニンを重合度の異なる縮合型タンニンに分離する工程である。分離する必要がなければ工程(7)は省略可能である。用途によっては、高分子量成分のみの使用が好適の場合があり、そのようなときには工程(7)が行われる。
分離には、GPC(Gel Permeation Chromatography)等が用いられる。
【0063】
<重合度の高い縮合型タンニンの製造方法>
本発明は、前記の抽出方法を使用することを特徴とする重合度の高い縮合型タンニンの製造方法でもある。
製造される「重合度の高い縮合型タンニン」は、単一の重合度に精製されていてもよいし、縮合型タンニンの混合物であって、全体の(数平均)分子量が大きいものであってもよい。
【0064】
<重合度の高い縮合型タンニンを含有する複合剤の製造方法>
また、本発明は、上記の重合度の高い縮合型タンニンの製造方法を使用した、重合度の高い縮合型タンニンを含有する複合剤の製造方法であって、該複合剤が、抗酸化剤、精神安定剤、接着剤及び吸着剤よりなる群から選ばれた複合剤であることを特徴とする複合剤の製造方法でもある。
【0065】
縮合型タンニンが上記の剤として用いられることは明らかであり、重合度の高い縮合型タンニンが上記の剤として有用である場合があることは明らかである。
【実施例】
【0066】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限りこれらの実施例に限定されるものではない。以下、特に断りのない限り、「比」や「濃度」等の数値は「質量」を基にしている。
【0067】
実施例1
<本発明の抽出方法(過熱水蒸気による抽出)>
図1に概念図を示した装置とシステムを用いて抽出した。
アカシア属のAcacia mangiumの廃棄樹皮を、最大粒子径が約0.1mmになるよう解砕し、そのうちの200mgを試料として、15mLの抽出セル内に充填した。
次いで、温度120℃の過熱水蒸気を、高周波加熱装置(第一高周波工業株式会社製「DHF Super−HI」)を用いて生成させ、流量を18L/分に設定して上記抽出セル内に導入した。すなわち、単位質量の試料当たり、過熱水蒸気を、90L/(分・g)の流量で抽出セルに流した。抽出時間10分で抽出した。
【0068】
上記のように、過熱水蒸気を90L/(分・g)の流量で10分間流した後、抽出セルを25℃に冷却した。
その後、抽出物の入った抽出セルに蒸留水を加えて撹拌し、抽出セルの壁面や、アカシアの表面に付着している抽出物を洗い出し、(水)溶液として回収した。
【0069】
<<抽出物の解析>>
得られた溶液を、Sephadex LH20(GEヘルスケア・ジャパン社製)15gに、50mLのエタノール/水(4:1)を加えて膨潤させ、それをカラム(長さ300mm、内径20mm、柴田科学株式会社製)に流し込み、スラリーを作製した。
その後、上記で得られた抽出物の溶液を注入してカラム上部に担持した。次に、エタノール/水(4:1)の混合溶媒を注ぎ込み、縮合型タンニン以外の加水分解性タンニンや没食子酸等の低分子量成分を溶離した。この作業を溶離液の色が透明になるまで続けた。
【0070】
アセトン/水(7:3)の混合溶媒を、上記カラムに注ぎ込み、縮合型タンニン成分を溶離させた。この作業を溶離液の色が透明になるまで続けた。
【0071】
抽出セル内に充填した樹皮試料全体の質量に対する抽出分の乾燥質量の割合を「抽出率」とし、樹皮試料全体の質量に対する上記不溶物の乾燥質量の割合を「不溶物率」とした(以下、同様の定義とした)。
縮合型タンニン画分の抽出率は7.14質量%であり、低分子量画分の抽出率と不溶物率との合計は5.06質量%であった。
【0072】
低分子量画分の主成分は、加水分解性タンニン、没食子酸等と考えられる。また、不溶物は、縮合型タンニンの分解物である、1,3,5−トリメトキシ安息香酸メチル、1−(2−メトキシエーテル)−3,4,5−トリメトキシベンゼン等と考えられる。
【0073】
縮合型タンニン画分を、Bruker社製、Autoflexを用い、MALDI質量分析スペクトルを得た。マトリックスとしてDHBA(2,5-dihydroxybenzoic acid)を用い、イオン化助剤としてヨウ化セシウム(CsI)を用いた。
【0074】
図2(a)に、得られた縮合型タンニン画分のMALDI質量分析スペクトルを示す。
比較例1で後述する亜臨界水抽出法と比較すると、3〜5量体のピーク面積は両抽出方法でほぼ同じであるにもかかわらず、7量体同士、8量体同士を比較すると、本発明の抽出方法の方が大きかった。更に、亜臨界水抽出法では9量体は確認できなかったが、本発明の抽出方法では9量体が確認できた。
すなわち、7量体も8量体も9量体も、本発明の抽出方法の方が、抽出効率が高く、縮合型タンニン画分全体に占める含有割合が高かった。
【0075】
質量分析スペクトルのピーク面積から計算した数平均分子量は1680であった。
また、「6量体以上の縮合型タンニンの混合物」同士で、亜臨界水抽出法と比較すると、本発明の抽出方法の方が、「6量体以上の縮合型タンニンの混合物」の含有割合が有意に高かった。
【0076】
実施例1において、アカシア属(Acacia mangium)の樹皮から抽出した縮合型タンニンは、前記式(1)において、R
1は水酸基(−OH)であり、R
2は水素原子(−H)であり、R
3は水酸基(−OH)のものが主成分である。そのことは、重合度に依らず、n個の繰り返し単位ごとでも同様である。
【0077】
比較例1
<亜臨界水抽出法(亜臨界水による抽出)>
実施例1で用いたものと同様の試料を使用して、亜臨界水を用い常法に従い、150℃で10分間抽出した。
【0078】
縮合型タンニン画分の抽出率は12.0質量%であり、低分子量画分の抽出率と不溶物率との合計は4.70質量%であった。
縮合型タンニン画分を、実施例1と同様に処理してMALDI質量分析スペクトルを得た。結果を
図2(b)に示す。
【0079】
縮合型タンニン画分の抽出率は、実施例1の過熱水蒸気による抽出法(7.14質量%)より大きかったが、実施例1で前述した通り、重合度の高い縮合型タンニンの抽出方法としては、本発明の抽出方法(過熱水蒸気による抽出方法)の方が優れていた。
最大重合度については、8量体までであり、実施例1で確認された9量体は確認されなかった。
また、実施例1と同様に測定・計算した数平均分子量は1250であり、実施例1における数平均分子量1680より小さかった。
【0080】
比較例2
<有機溶媒抽出法(水−アセトン混合溶媒による抽出)>
実施例1で用いたものと同様の試料を使用して、有機溶媒として、水−アセトン混合溶媒(1:1)を、試料の10倍(質量)用い、常法に従い、室温(25℃)で3日間撹拌して抽出した。
【0081】
縮合型タンニン画分の抽出率は16.6質量%であり、低分子量画分の抽出率は1.6質量%であり、不溶物率は有機溶媒抽出法の原理上0質量%である。
縮合型タンニン画分を、実施例1と同様にしてMALDI質量分析スペクトルを得た。結果を
図3(a)に示す。
【0082】
縮合型タンニン画分の抽出率は、実施例1の過熱水蒸気による抽出法(7.14質量%)より大きかったが、実施例1で前述した「実施例1と比較例1の比較」と同様、重合度の高い縮合型タンニンの抽出方法としては、本発明の抽出方法(過熱水蒸気による抽出方法)の方が優れていた。
最大重合度については、8量体までであり、実施例1で確認された9量体は確認されなかった。
実施例1と同様に測定・計算した数平均分子量は1240であり、実施例1における数平均分子量1680より小さかった。
また、抽出物から有機溶媒を除去する後工程が必要となり、該後工程を行っても有機溶媒の残存量を皆無にすることはできない。
【0083】
比較例3
<水熱抽出法(100℃以上の加圧水による抽出)>
実施例1で用いたものと同様の試料200mLを、長さ12cm、内容量10mLのステンレス管の内部に充填し、蒸留水6mLを用いて、常法に従い抽出した。
抽出温度を100℃〜180℃の範囲で変化させ、抽出時間を10分〜30分の間で変化させて抽出した。
次いで、濾過し凍結乾燥した。得られた抽出乾固物500mLを、水/エタノール=1/4(質量比)の混合溶媒10mLに溶解させて不溶物は濾過で除いた。
得られた溶液を、実施例1と同様の精製用カラムで、上記抽出物を精製した。
実施例1と同様に低分子量画分を得て、実施例1と同様に縮合型タンニン画分を得た。
【0084】
縮合型タンニン画分の抽出率は、抽出温度100℃〜180℃、抽出時間10分〜30分の範囲で、何れも9.4〜12.0質量%であり、低分子量画分の抽出率と不溶物率との合計は、何れも3.1〜6.7質量%であった。
縮合型タンニン画分を、実施例1と同様にしてMALDI質量分析スペクトルを得た。結果を
図3(b)に示す。
【0085】
縮合型タンニン画分の抽出率は、実施例1の過熱水蒸気による抽出法(7.14質量%)より大きかったが、実施例1で前述した「実施例1と比較例1の比較」と同様、重合度の高い縮合型タンニンの抽出方法としては、本発明の抽出方法(過熱水蒸気による抽出方法)の方が優れていた。
最大重合度については、8量体までであり、実施例1で確認された9量体は確認されなかった。
また、同様に測定・計算した数平均分子量は1250であり、実施例1における数平均分子量1680より小さかった。
【0086】
実施例2
<抽出温度(過熱水蒸気の温度)変化>
実施例1において、過熱水蒸気の温度120℃に代えて、100℃、120℃、150℃及び180℃と変化させ、実施例1において、流量18L/分に代えて、流量13L/分とした以外は、実施例1と同様にして抽出を10分間行った。
その後、実施例1と同様に評価を行った。
【0087】
縮合型タンニン画分の抽出率は、100℃、120℃、150℃及び180℃において、何れも5.5〜7.1質量%の範囲であり、低分子量画分の抽出率と不溶物率との合計は、何れも2.4〜2.9質量%であった。
縮合型タンニン画分の抽出率、及び、「低分子量画分の抽出率と不溶物率との合計」は、100℃〜180℃の範囲でほぼ同一であった。
【0088】
それぞれの縮合型タンニン画分を、実施例1と同様にしてMALDI質量分析スペクトルを得た。
結果を
図4に示す。抽出温度(過熱水蒸気の温度)は、
図4(a)100℃、
図4(b)120℃、
図4(c)150℃、
図4(d)180℃である。MALDI質量分析スペクトルには、抽出温度による相違が見られた。
【0089】
MALDI質量分析スペクトルは、何れも、質量電荷比(m/z)2800までの領域において、一連のピーク群が明瞭に観察された。それぞれのピークグループのうち、最も強度が強いピークは、m/z288おきに検出されており、この間隔は分子中にヒドロキシル基を5個有するフラバン−3−オール単位の質量に相当した。
更に、
図4(a)の図中の拡大図に示すよう、各グループを構成するイオンピークは、それぞれm/z16の間隔をもって観測されており、この間隔はヒドロキシル基が置換した際の増分と合致する。
【0090】
これらの結果と各イオンのm/zの値を総合して、一連のピーク群は、含有されるヒドロキシル基数が異なる、複数のフラバン−3−オール単位の組合せからなる縮合型タンニンのセシウムイオン付加分子であると帰属した。
【0091】
また、「
図4(a)100℃抽出」は、重合度の最高は8量体であったが、本発明の抽出方法である
図4(b)120℃、(c)150℃及び(d)180℃に共通して、9量体の縮合型タンニンが観察された。何れも、高重合度の縮合型タンニンが重合構造を維持したまま抽出されていることが分かった。
【0092】
抽出された縮合型タンニンの最大重合度及び数平均分子量を以下の表1にまとめた。
【表1】
【0093】
表1に示すように、過熱水蒸気による抽出法では、何れも数平均分子量は約1600であり、ほぼ一定の値を示した。
これに対して、100℃の水蒸気を用いた場合では、数平均分子量は1500であり有意差で低かった。このことは、100℃では十分な熱エネルギーを得ることができず、高重合度の縮型タンニンを抽出することができなかったためと考えられる。
100℃より高い温度の水蒸気であれば、100℃の水蒸気より熱エネルギーが高い上に、それらの水蒸気は比較的低誘電率の抽出場を与えることから、高重合度の縮合型タンニンが効率的に抽出できたと考えられる。
【0094】
更に、過熱水蒸気を用いて得られた縮合型タンニンの数平均分子量は、比較例1の亜臨界水抽出法で得られた縮合型タンニンの数平均分子量1250に比較して、340〜390も値が高くなっていた。
この理由として、亜臨界水抽出法では、高温高圧下で抽出を行うため、縮合型タンニンの分解や重合等の副反応が進行したためと考えられる。
以上から、過熱水蒸気を用いた場合には、亜臨界抽出法よりも温和な条件で抽出することが可能であり、より高重合度の縮合型タンニンを抽出できることが分かった。
【0095】
実施例3
実施例2における過熱水蒸気の温度を以下のように変えた以外は実施例2と同様に抽出した。
280℃で抽出したときは、120〜180℃で抽出したときに比べて、アカシアの樹皮に含まれる縮合型タンニンが、より分解又は重合はしたが、数平均分子量は約1600で9量体まで確認できた。
また、320℃で抽出したときは、数平均分子量は大きかったが、8量体までしか確認できなかった。
また、500℃で抽出すると、アカシアの樹皮に含まれる縮合型タンニンの分解と重合が起こり、数平均分子量が低下し、9量体の確認ができなかったことは勿論、重合度の高い縮合型タンニンの収率が減少した。