【実施例】
【0011】
<1>外挿管と基礎杭。
ジャケット構造体1とは、鋼管で構成した鉛直材である外挿管11の間を、斜材や水平材で結合した立体鋼管トラス構造体である(
図9)。
一方、基礎として使用する基礎杭2は、外挿管11の内径よりも外径の小さい鋼管などを水底に打設して構成する。
そして、ジャケット構造体1を構成する外挿管11を、基礎杭2の頭部に嵌合し、外挿管11と基礎杭2の間の隙間にモルタルからなる充填材を充填して、ジャケット構造体1と基礎杭2とを一体化するものである。
ジャケット構造体1を基礎として、ジャケット構造体1の上部に水上構造物を構築する。
【0012】
<2>滑り止め材。
外挿管11の外周には、下端よりも上の位置に、円周方向に一周する状態で滑り止め材12を取り付ける(
図1、2)。
滑り止め材12としてはたとえば鉄筋を溶接して利用できるが、鉄筋以外の材料、あるいは不連続の材料を使用することもできる。
この滑り止め材12が外挿管11の外周に円周方向に取り付けてあることによって、後述する、巻き付けシート3を外挿管11に取り付けた場合に、巻き付けシート3が充填材の注入圧や重量で滑り落ちることを阻止することができる。
【0013】
<3>巻き付けシート。
巻き付けシート3は、展開した状態では長方形のシートである(
図2、3)。
この巻き付けシート3は、ジャケットの外挿管11の滑り止め材12より上の位置から、基礎杭2の周囲に至るまでの範囲を、筒状に包囲することができる。
材料としては、例えばポリエステルのシートを使用する。
巻き付けシート3は充填材注入時に型枠となるため、不透水性が高く、縦・横強度が300kg/cm2以上が好ましい。
巻き付けシート3の長方形の両端縁、すなわち長方形の短辺には、ファスナー31を取り付ける。ファスナー31は巻き付けシート3の短辺どうしを接合するものであり、水密性および強度が巻き付けシート3と同等かそれ以上が好ましい。
また、巻き付けシート3の上縁には、複数個所に巻き取りベルト32を取り付ける。
これは、後述するように、外挿管11を基礎杭2の外周に嵌合する前に、巻き付けシート3を巻き上げておくためのものであり、紐状の材料であれば使用できる。
【0014】
<4>縦ベルト。
巻き付けシート3の外周には、上下に亘る縦ベルト4を所定の間隔で複数本設ける。
縦ベルト4は巻き付けシート3より高強度な例えばポリエステルからなり、縫合等により巻き付けシート3と一体とする。
巻き付けシート3の布膜に作用する注入圧や荷重は縦ベルト4によって支持されるため、縦ベルト4の配置本数によって、巻き付けシート3の強度を適宜調整することができる。
【0015】
<5>定着材。
長方形の巻き付けシート3の上縁に近い位置に、巻き付けシート3の全長にわたって、上縁と並行に定着材5を取り付ける。
定着材5は、縦ベルト4の同じ高さに取り付けた定着材通し穴41に通して、縦方向のずれを防ぐ。
定着材5は、注入する充填材のほぼ全重量を受けるため、大きな締め付け力が必要となる。よって、スチールバンド、ワイヤー、高強度繊維ベルト等を使用し、専用の締め付け具によって端を締め付けて定着する。
定着材5は複数巻き、複数段巻きとし、巻き付けシート3の定着固定効果を高めてもよい。複数段巻きとするときには、外挿管11の滑り止め材12も同様に複数段とすることが好ましい。
【0016】
<6>絞り材。
巻き付けシート3において、外挿管11の下端と基礎杭2の上端との間の位置に、複数(例えば9分割)の絞り材6を円周上に設ける。この分割数に合わせて縦ベルト4を配置するのが好適である。
絞り材5は隣り合う縦ベルト4にそれぞれ取り付けてバックル61を設けた長尺の部材であり、バックル61から出ている絞り材6を引張することで縦ベルト4間の距離を絞ることができる。このとき、絞り幅に対応した位置にストッパー62を設けておくことで、バックル61から出ている絞り材6を引張してバックル61をストッパー62に当接して、あらかじめ定めた絞り量まで容易に絞ることができる。
【0017】
<6.1>絞り材の絞り量。
絞り材6による絞りは、巻き付けシート3の外周に設けた縦ベルト4の間隔を調整することで、絞り材6の取り付け位置における巻き付けシート3と基礎杭2との芯ずれに対応して巻き付けシート3の中心位置を移動させて、接合部材を整形するためのものである。芯ずれの大きい位置の絞り材6は大きく絞り、芯ずれの小さい位置の絞り材6は小さく絞る。
絞り材6の絞り量はストッパー62の位置により適宜設定できるため、さまざまな芯ずれ状態に対応することができる。
【0018】
<7>締め付け材。
長方形の巻き付けシート3の裾部分の下縁に近い位置に締め付け材7を取り付ける。
締め付け材7は、縦ベルト4に取り付けた締め付け材通し穴42に通して高さを決定する。
締め付け材7は注入した充填材を下から支えるため、大きな締め付け力が必要となる。
締め付け材7にはスチールバンド、ワイヤー、高強度繊維ベルト等を使用し、専用の締め付け具によって端を締め付けて定着する。
【0019】
<7.1>締め付け材の高さ。
外挿管11の芯と基礎杭2の芯がずれている場合、基礎杭2に直交する面の巻き付けシート3の下端部からの距離は異なる(
図4)。
このため、締め付け材7を通す締め付け材通し穴42を高さ方向に亘って複数段設け、締め付け材7を通す高さを複数段の締め付け材通し穴42から適宜選択することにより、締め付け材7の巻き付けシート1の下端部からの距離を変えることができ、締め付け材7を基礎杭2に対して略直交に配置することができる。
【0020】
<8>張力材。
巻き付けシート3のうち、外挿管11の下端から締め付け材7との間の位置には、張力材8を設ける。
張力材8は、縦ベルト4に取り付けた張力材通し穴43に通して高さを決定する。
張力材8は高強度繊維ベルトからなる。
充填材を注入すると、外挿管11の下端から締め付け材7との間の巻き付けシート3が膨らむ。
この高さに張力材8を設けることで巻き付けシート3が充填材のフープテンションを受けて膨らみを抑えることで、巻き付けシート3の表面にかかる引張力を軽減するとともに、充填材の少量化が図れる。
張力材8は巻き付けシート3の膨らみを抑えるものであるため、巻き付けシート3の外周よりも短い長さで、巻き付けシート3を包囲する。
また、この位置に絞り材6を配置すれば、絞り材6でも同様に充填材のフープテンションを受けることができる。
張力材8は、一段でもよいし複数段設けてもよい。また、締め付け材7と同様に、複数段の張力材通し穴43を高さ方向に設け、張力材通し穴43を適宜選択することで張力材8が水平になるようにしてもよい。
【0021】
<9>引き寄せベルト。
巻き付けシート3の下縁には、隣り合う縦ベルト2の中間に引き寄せベルト9を設ける。
絞り材6により縦ベルト2の間隔を絞ると、絞り量が大きい箇所では絞り部分の巻き付けシート3が余ってしまい、そのまま締め付け材7で締め付けてしまうと、巻き付けシート3が多重に折り重なってしまい、その部分からモルタルが漏洩する恐れがある。
よって、絞り材6で絞った後に、引き寄せベルト9で巻き付けシート3を一方の内側に引き込んで折りたたむことにより、巻き付けシート3を均一に締め付けることができる(
図5)。このとき絞り量に合わせたストッパー62の位置で巻き付けシート3と絞り材6を縫合しておくと、ストッパー62の位置で巻き付けシート3を折り返して引き込むことができる。
【0022】
<10>裏当て材。
巻き付けシート3の裏面には裏当て材10を取り付ける(
図2)。
裏当て材10は不織布やスポンジからなる。
裏当て材10は、巻き付けシート3の上端側に取り付ける上部裏当て材101と下端側に取り付ける下部裏当て材102からなる。
【0023】
<10.1>上部裏当て材。
上部裏当て材101は、定着材5の締め付け位置から外挿管11の下端より下(5〜10cm)までの範囲の巻き付けシート3の裏面全幅に亘って取り付ける。
定着材5の締め付け位置においては、巻き付けシート3と外挿管11との隙間からの充填材の漏出を防止する。
また、外挿管11の下端においては、外挿管11下端のエッジと巻き付けシート3が直接接触し、巻き付けシート3が摺れたり破断したりするのを防止する(
図6)。
【0024】
<10.2>下部裏当て材。
下部裏当て材102は、締め付け材7の締め付け位置の裏面全幅に亘って取り付ける。
巻き付けシート3は絞り材6によって絞られるため、締め付け材6の位置ではしわができる。よって、しわの部分からの充填材の漏出を防止するために、巻き付けシート3と外挿管11との間に下部裏当て材102を設ける。
下部裏当て材102は、巻き付けシート3の裏面全幅よりも長くして余長部103を設けてもよい。
余長部103を設けることで巻き付けシート3を巻き付けた際に下部裏当て材102が余長部103において二重となる(
図6)。
締め付け材6の締め付けには工具を使用するが、工具が巻き付けシート3に接触し、巻き付けシート3の表面が破断した場合に充填材が漏出するのを防ぐことができる。
【0025】
<11>巻き付けシートの取り付け。
上記で説明した巻き付けシート3を、陸上において外挿管11の外周に取り付ける。
そのために、まず外挿管11の外周に、外挿管から突設している滑り止め材12より上まで巻き付けシート3を巻き付ける。
巻き付けシート3の取り付け位置は、巻き付けシート3の定着材5が滑り止め材12のすぐ上方に来るような位置である。
また、巻き付けシート3の上端辺に沿って、取り付け紐33を取り付けておくことで、定着材4による固定前に、ファスナー31の上端の接合と合わせて、巻き付けシート1を外挿管に仮固定できる。
その後に定着材5を定着材通し穴41に挿通し、専用の工具で緊張して定着することによって、巻き付けシート3の上縁を、滑り止め材12より上の位置において、外挿管11の外周に確実に取り付けることができる。
筒状に外挿管11の外周に位置した巻き付けシート3の裾部分には、締め付け材7を、締め付け材通し穴42に挿通して緩く巻き付けておく。締め付け材通し穴42は縦ベルト4に沿って複数段に設けるが、基礎杭2の芯ずれや傾斜に合わせて、あらかじめ設定した高さの締め付け材通し穴42を使用する。締め付け材7が絞りワイヤーの場合には締め付け材7の端部間は仮止め用のロープで緩く繋いでおく。
また、締め付け材7と同様に、張力材8を、張力材通し穴43に挿通して緩く巻き付けておく。
【0026】
<12>巻き付けシートの巻き上げ。
上記の状態は、外挿管11の下端に筒状に巻き付けシート3が巻き付けてあり、筒状にぶら下がったままである。
そのために、外挿管11の基礎杭2への嵌合に際して巻き付けシート3が巻き込まれて破断する可能性がある。
そこで巻き付けシート3を、下から、いったん巻き上げて折りたたむ。
そして袋状に折り畳んだ巻き付けシート3を、その上縁に取り付けた巻き取りベルト32によって縛りつける。
その結果、巻き付けシート3を鉢巻状に外挿管11の外周に巻き付けて固定することができる(
図7)。
以上の作業は陸上での作業である。
【0027】
<13>ジャケットの据え付け。
次に、上記の巻き付けシート3によって外挿管11と基礎杭2を包囲する方法について説明する。
前記したように、まず水底に基礎杭2を設置する。基礎杭2は既存の杭を再利用する場合もある。
その後、ジャケット構造体1をクレーンなどで吊り下ろし、ジャケット構造体1を構成する中空の外挿管11を、外挿管11の内径よりも外径の小さい基礎杭2の頭部に嵌合する。外挿管11の下端より上の位置には、帯状に折りたたんだ巻き付けシート3が、巻き取りベルト32で固定して取り付けてある。
【0028】
<14>巻き付けシートの開放。
外挿管11の下端が、基礎杭2の外周に位置した状態で、巻き取りベルト32の拘束を解除する。
すると、巻き付けシート3は締め付け材7などの重量で自然に垂れ下がって基礎杭2の周囲を筒状に包囲する(
図8)。
【0029】
<15>シートの巻き付け。
潜水夫によってファスナー31を引き下ろして巻き付けシート3の両端を接合し、外挿管11および基礎杭2の外周を巻き付けシート3によって包囲する。
次に、バックル61から出ている絞り材6を引張してバックル61をストッパー62に当接する位置まで絞り、かつ、張力材8の両端を接合し張力材8によって巻き付けシート3の周囲を包囲する。これにより、巻き付けシート3は、芯ずれに対応した形態に整形される。
その後、引き寄せベルト9で巻き付けシート3の下端を基礎杭2に沿って一方の内側に引き込んで折りたたむ。
これらの作業は海中での作業となるが、いずれも工具を使用せずにファスナー31や絞り材6、張力材8、引き寄せベルト9を掴んで動かすだけの作業であるため、汚濁して視界ゼロの海中でも確実に作業を行うことができる。
そして、巻き付けシート3の裾を回っている締め付け材7を緊張して、巻き付けシート7を基礎杭2の外周に巻き付ける。締め付け材7が絞りワイヤーの場合には、絞りワイヤーの両端の間にチェンブロックなどの市販の締め付け具を介在させ、そのハンドルを往復動させることで、締め付け材7を引き締めて、巻き付けシート3の裾部が、基礎杭2の外周を締め付ける状態で取り付ける。単に工具のハンドルを往復動させるだけの単純な作業であるため、汚濁して視界ゼロの海中でも確実に作業を行うことができる。
絞り材6や張力材8は、海中において巻き付けシートの開放後に、締め付け材通し穴42、張力材通し穴43に挿通して締め付けてもよい。
【0030】
<16>充填材の注入。
外挿管11の一部に、セメントミルクなどの充填材5の充填口13を設ける。
その充填口13から充填材を注入して硬化させる。
その結果、周囲を巻き付けシート3によって完全に包囲した、外挿管11と基礎杭2の間の隙間に充填材を充填して、ジャケット構造体1と基礎杭2とを強固に一体化することができる。
充填材の注入圧を巻き付けシート3の布膜だけでなく、巻き付けシート3の外周の縦方向に配置した縦ベルト2と横方向に配置した張力材8によってうけるため、高い注入圧に対応することができ、高い位置まで充填材を注入することができる。
【0031】
本実施例は、ジャケット構造体1の外挿管11と基礎杭2との接合について記載しているが、本発明の接合方法と接合部材は、水上構造物の下部を構成する単独の外挿管と基礎杭とを接合する場合にも適用することができる。
また、海中に限らず、気中において外挿管と基礎杭のように、径の異なる管どうしを接合する場合にも適用することができる。