(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-7313(P2017-7313A)
(43)【公開日】2017年1月12日
(54)【発明の名称】ブロー成形法
(51)【国際特許分類】
B29C 49/04 20060101AFI20161216BHJP
【FI】
B29C49/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-128668(P2015-128668)
(22)【出願日】2015年6月26日
(71)【出願人】
【識別番号】000104674
【氏名又は名称】キョーラク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126398
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 優
(72)【発明者】
【氏名】前野 宏明
【テーマコード(参考)】
4F208
【Fターム(参考)】
4F208AA04
4F208AA07
4F208AA29
4F208AB07
4F208AB25
4F208AG12
4F208AH16
4F208AH17
4F208LA01
4F208LA08
4F208LG04
4F208LG23
4F208LH30
4F208LJ01
4F208LJ09
4F208LJ29
(57)【要約】
【課題】 パリソンの金型キャビティ内への円滑な導入を実現することができ、それに伴うデメリット(汚染や製品品質の低下、装置構成の変更等)が生ずることのないブロー成形法を提供する。
【解決手段】 型締めした金型のキャビティ開口端からキャビティ内に円筒状のパリソンを挿入し、ブロー成形するブロー成形法である。パリソンに潤滑剤を添加する。さらには、繊維状物質を添加する。潤滑剤は、例えば脂肪酸エステルや脂肪酸アミドである。繊維状物質は、例えばガラス繊維である。パリソンの溶融樹脂としては、例えばポリアミド樹脂である。潤滑剤を含むポリエチレンペレットをポリアミド樹脂ペレットに対して配合し溶融混練することでパリソンに潤滑剤を添加する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
型締めした金型のキャビティ開口端からキャビティ内に円筒状のパリソンを挿入し、ブロー成形するブロー成形法であって、
前記パリソンに潤滑剤を添加することを特徴とするブロー成形法。
【請求項2】
前記パリソンにさらに繊維状物質を添加することを特徴とする請求項1記載のブロー成形法。
【請求項3】
前記潤滑剤が脂肪酸エステルまたは脂肪酸アミドから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2記載のブロー成形法。
【請求項4】
前記パリソンにおける潤滑剤の添加量が0.1〜1質量%であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載のブロー成形法。
【請求項5】
前記繊維状物質がガラス繊維であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載のブロー成形法。
【請求項6】
前記パリソンは、ポリアミド樹脂を主体とする樹脂材料により形成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載のブロー成形法。
【請求項7】
潤滑剤を含むポリエチレンペレットをポリアミド樹脂ペレットに対して配合し溶融混練することでパリソンに潤滑剤を添加することを特徴とする請求項6記載のブロー成形法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、型締めした金型のキャビティ開口端からキャビティ内に円筒状のパリソンを挿入し、ブロー成形するブロー成形法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用エンジン内ダクト等のように、中空で長さの長い成形体を成形する技術として、いわゆるサクションブローが提案されている。サクションブローは、型締めした金型のキャビティ開口端からキャビティ内に円筒状のパリソンを挿入し、ブロー成形する技術であり、屈曲する成形体を簡単に成形することができるという利点を有する。
【0003】
サクションブローにおいては、パリソンが金型キャビティ内で詰まると成形不可となることから、パリソンを円滑に挿入することが必要となる。特に製品屈曲部においては、パリソン表面と金型キャビティ表面が接触することになり、パリソンが金型内で詰まって下方シャッタまで至らないことがある。このような現象が生ずると、適正な成形を行うことができない。
【0004】
この現象の一般的な解決方法としては、液体状の潤滑剤を金型の表面に塗布あるいは噴霧したり、溶融パリソン自体に噴霧する方法が検討されている。例えば、特許文献1には、潤滑用液体を上端開口部よりパリソンの内部と外周部にともに流し込み、この流し込まれた潤滑用液体の流れ作用に基づいて円滑にパリソンをキャビティ内部に案内し、キャビティ内から潤滑用液体を排出した後、パリソンの上下端の各々を閉塞してパリソン内にプリブローを行なって成形し、冷却した後に成形品を取り出すブロー成形方法が開示されている。
【0005】
あるいは、他の方法として、例えば特許文献2には、プラスチック溶融チューブの形態の可塑的に変形可能な押出し予備成形物(パリソン)を閉じた空洞に導入し、モールド表面上を少なくとも部分的に滑らせて空洞内に配置させる吸引−ブロー成形法において、空洞のモールド表面のRa値を0.8〜6.3μm、Rz値を6〜40μmとすることで、予備成形物に対する滑り摩擦の低減を図ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−19956号公報
【特許文献2】特許4861299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、液体状の潤滑剤を塗布または噴霧する方法では、パリソン吸引を行う吸引装置が潤滑剤で汚染されること、潤滑剤を供給するための装置を別途用意する必要があること、製品表面が潤滑剤で汚染されること、等の問題がある。また、金型キャビティ表面の表面粗さを規定することで滑り摩擦の低減を図る方法では、金型キャビティ表面の表面性が製品表面に反映されることになり、製品の表面性状に制約を受けることになる。
【0008】
本発明は、上述した従来の実情に鑑みてなされたものであり、パリソンの金型キャビティ内への円滑な導入を実現することができ、それに伴うデメリット(汚染や製品品質の低下、装置構成の変更等)が生ずることのないブロー成形法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するために、本発明のブロー成形法は、型締めした金型のキャビティ開口端からキャビティ内に円筒状のパリソンを挿入し、ブロー成形するブロー成形法であって、前記パリソンに潤滑剤を添加することを特徴とする。
【0010】
パリソンに潤滑剤を添加することにより、パリソンの滑りが良くなり、屈曲した金型キャビティにおいても、パリソンが金型内に詰まることはない。この時、パリソン吸引を行う吸引装置が汚染されることはなく、潤滑剤を供給するための装置を別途用意する必要もない。製品表面が潤滑剤で汚染されることもない。金型キャビティ表面の表面性に制約が加わることもない。
【0011】
本発明のブロー成形法においては、パリソンにさらに繊維状物質(ガラス繊維等)を添加することも有効である。溶融樹脂からなるパリソンは柔らかく、剛性に乏しい。そのため、屈曲した金型キャビティ内で詰まり易い。繊維状物質を添加することで、パリソンの剛性が増し、潤滑剤の作用と相俟って、より円滑なパリソンの挿入が実現される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、パリソンの金型キャビティ内への円滑な導入を実現することができ、それに伴うデメリットも生ずることはない。すなわち、製品品質を低下させることなく、また新たな設備投資を必要とすることなく、効率的なブロー成形(サクションブロー)を実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】サクションブローによる成形方法を示すものであり、パリソン挿入前の状態を示す図である。
【
図2】サクションブローによる成形方法を示すものであり、パリソンの挿入状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を適用したブロー成形法の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
図1は、本実施形態のブロー成形法を実施するためのブロー成形装置の一例を示すものである。本実施形態のブロー成形法は、いわゆるサクションブローであり、
図1に示すように、一対の金型1,2を型締めし、それにより形成される金型キャビティ3内にパリソン4を挿入した後、パリソン4の上端及び下端を封止し、パリソン4内に空気を吹き込んでブロー成形を行う。
【0016】
金型キャビティ3は、製品形状に応じて屈曲部等を有し、パリソン4は、金型キャビティ3の入り口である上方の開口端3aから金型キャビティ3内へと挿入する。
図2は、パリソン4を金型キャビティ3へ挿入した状態を示すものである。
【0017】
パリソン4は、熱可塑性樹脂を溶融した溶融樹脂を樹脂押出ヘッドから円筒状(チューブ状)に押し出すことにより形成されるものである。使用する熱可塑性樹脂は、特に限定されるものではなく、成形が可能なものであれば如何なるものであってもよく、例示するならば、例えばポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂の他、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル樹脂、ABS樹脂(アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン樹脂)、ポリアミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、変性ポリフェニレンエーテル等のエンジニアリング・プラスチック等が好適である。
【0018】
これらの熱可塑性樹脂の中で、例えばナイロン(商品名)等のポリアミド樹脂を用いた場合に、本発明を適用することが好ましい。例えばポリオレフィン樹脂等は滑りやすく金型キャビティ3内で詰まりにくいのに対して、ナイロン等のポリアミド樹脂は、滑りにくく金型キャビティ3内で詰まり易いからである。
【0019】
本実施形態のブロー成形法では、パリソン4の形成に際し、予め潤滑剤を添加しておくことで、例えば熱可塑性樹脂としてポリアミド樹脂を用いた場合にもパリソン4の金型キャビティ3内への円滑な挿入を可能とする。
【0020】
潤滑剤としては、市販されているものをいずれも使用することができ、例えば炭化水素系、脂肪酸系、脂肪酸エステル系、脂肪酸アミド系、金属石鹸系の何れであってもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中で、極性を有する化合物、すなわち脂肪酸エステル系や脂肪酸アミド系の潤滑剤が好ましい。脂肪酸エステル系の潤滑剤としては、モノグリセリンオレートやジグリセリンオレート等が挙げられる。脂肪酸アミド系の潤滑剤としては、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等の脂肪酸アミドや、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド等のアルキレン脂肪酸アミド等を挙げることができる。
【0021】
パリソン4において、潤滑剤の添加量としては、0.1質量%〜1質量%とすることが好ましい。潤滑剤の添加量が0.1質量%未満であると、潤滑効果が十分に発揮されず、パリソン4の詰まりが発生する等、成形性が悪くなるおそれがある。逆に、潤滑剤の添加量が1質量%を超えると、成形品の物性が低下する等の不都合が生ずるおそれがある。特に、パリソン4をポリアミド樹脂で形成し、潤滑剤を親和性の高いポリエチレンペレットに添加してマスターバッチとし、原料樹脂であるポリアミド樹脂ペレットに加える場合、潤滑剤の添加量が多くなるとポリアミド樹脂中のポリエチレン樹脂の比率が高くなり、製品の強度が低下するおそれがある。
【0022】
パリソン4に潤滑剤を添加する方法は任意であるが、潤滑剤を均一に分散させるためには、潤滑剤を含むマスターバッチを作製し、これを原料ペレットに配合して溶融、混練することが好ましい。マスターバッチは、潤滑剤を比較的高い濃度で含むペレットであり、これを所定の比率で原料ペレットに配合すればよい。
【0023】
この場合、マスターバッチに用いる樹脂材料としては、原料ペレットと同じものを用いることが好ましいが、原料ペレットが例えばポリアミド樹脂の場合、マスターバッチの樹脂材料としては、低密度ポリエチレン(LDPE)等のポリエチレン樹脂等を用いることが好ましい。すなわち、潤滑剤を含むポリエチレンペレットをポリアミド樹脂ペレットに対して配合し溶融混練することでパリソンに潤滑剤を添加する。潤滑剤に脂肪酸エステルや脂肪酸アミドを用いた場合、親水性であるポリアミド樹脂に対する相溶性が悪く、均一な分散が難しい。これに対して、マスターバッチの樹脂材料として親油性のポリエチレン樹脂を用いれば、潤滑剤の分散が容易なものとなる。
【0024】
パリソン4には、さらに繊維状物質を添加することが好ましい。繊維状物質としては、例えばガラス繊維を挙げることができる。パリソン4に繊維状物質を加えることで、溶融樹脂のみでは柔軟なパリソン4にある程度の剛性を付与することができ、円滑な挿入を実現することができる。
【0025】
繊維状物質の添加量は任意であるが、所定の効果を得るためには、15質量%前後とすることが好ましい。また、繊維状物質の添加は、製品の物性にも影響を与えることになることから、製品に要求される物性を考慮して、添加量を設定することが好ましい。
【0026】
本発明のブロー成形法では、前述のようにパリソンに潤滑剤や繊維状物質を添加して、いわゆるサクションブローを行うようにしているので、金型キャビティ内での詰まり等のないパリソンの円滑な挿入が可能となり、良好な成形性を実現することが可能である。
【0027】
以上、本発明を適用した実施形態について説明してきたが、本発明がこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能であることは言うまでもない。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を適用した具体的な実施例について、実験結果を基に説明する。
【0029】
実施例1
低密度ポリエチレン(旭化成社製、商品名M1820)に潤滑剤を添加してマスターバッチを作製し、原料ペレットに配合して溶融・混練し、パリソンを押し出し形成した。押し出されたパリソンを金型キャビティ内に挿入し、サクションブロー成形を行った。使用した潤滑剤は脂肪酸エステルであるジグリセリンオレート(常温で液体)である。潤滑剤の正味添加量(パリソンにおける添加量)は0.15質量%である。原料ペレットとしては、ポリアミド樹脂(商品名ナイロン6)にガラス繊維を15質量%添加し、ペレット化したものを用いた。
【0030】
ブロー成形の条件は下記の通りである。
(1)成形品サイズ:直径30mm×長さ400mm
(2)成形品肉厚:0.5〜2mm
(3)パリソン射出速度:22〜23kg/h
【0031】
実施例2
潤滑剤の添加量を0.30質量%とし、他は実施例1と同様にサクションブローを行った。
【0032】
実施例3
マスターバッチとして市販のマスターバッチ(理研ビタミン社製、商品名ELB347)を用い、他は実施例1と同様にサクションブローを行った。潤滑剤はモノグリセリンオレート(脂肪酸エステル)(融点63〜67℃)、潤滑剤の添加量は0.96質量%である。
【0033】
実施例4
マスターバッチとして市販のマスターバッチ(理研ビタミン社製、商品名EXR070)を用い、他は実施例1と同様にサクションブローを行った。潤滑剤はオレイン酸アミド(脂肪酸アミド)(融点75℃)、潤滑剤の添加量は0.38質量%である。
【0034】
実施例5
マスターバッチとして市販のマスターバッチ(理研ビタミン社製、商品名ELM080)を用い、他は実施例1と同様にサクションブローを行った。潤滑剤はエルカ酸アミド(脂肪酸アミド)(融点80℃)、潤滑剤の添加量は0.29質量%である。
【0035】
実施例6
原料ペレットにガラス繊維を添加せず、他は実施例1と同様にサクションブローを行った。
【0036】
比較例1
潤滑剤を含むマスターバッチを用いずに(パリソンに潤滑剤を添加せずに)、実施例1と同様にサクションブローを行った。
【0037】
評価
以上の各実施例及び比較例について、詰まりの発生の有無、及びパリソン挿入の円滑さを評価した。結果を表1に示す。なお、表1において、詰まりの欄の○は詰まりの発生がなかった場合を、×は詰まりの発生があった場合を示す。パリソン挿入の円滑さの欄において、○は円滑な挿入が可能であった場合を、△は挿入操作にやや難があった場合を、×は詰まり等により挿入が不可となる場合があった場合をそれぞれ示す。
【0038】
【表1】
【0039】
表1から明らかなように、潤滑剤を添加することで、詰まりの発生がなくなり、成形性が良好なものとなっている。また、実施例6と他の実施例を比較すると明らかなように、ガラス繊維を添加することで、パリソン挿入の操作性が良好なものとなっている。
【符号の説明】
【0040】
1,2 金型
3 金型キャビティ
4 パリソン