(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-73299(P2017-73299A)
(43)【公開日】2017年4月13日
(54)【発明の名称】電気接点用表面保護剤及びそれを用いた電気接点、並びにコネクタ
(51)【国際特許分類】
H01R 13/03 20060101AFI20170324BHJP
C10M 139/00 20060101ALI20170324BHJP
C10M 139/06 20060101ALI20170324BHJP
C10M 101/02 20060101ALI20170324BHJP
C10M 105/36 20060101ALI20170324BHJP
C10M 105/38 20060101ALI20170324BHJP
C10M 105/18 20060101ALI20170324BHJP
C10M 107/50 20060101ALI20170324BHJP
C10M 107/38 20060101ALI20170324BHJP
C10M 117/02 20060101ALI20170324BHJP
C10M 115/08 20060101ALI20170324BHJP
C10M 113/10 20060101ALI20170324BHJP
C10M 119/22 20060101ALI20170324BHJP
C10M 113/12 20060101ALI20170324BHJP
H01H 1/00 20060101ALI20170324BHJP
C10N 10/02 20060101ALN20170324BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20170324BHJP
C10N 10/06 20060101ALN20170324BHJP
C10N 10/08 20060101ALN20170324BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20170324BHJP
C10N 40/14 20060101ALN20170324BHJP
【FI】
H01R13/03 Z
C10M139/00 Z
C10M139/06
C10M101/02
C10M105/36
C10M105/38
C10M105/18
C10M107/50
C10M107/38
C10M117/02
C10M115/08
C10M113/10
C10M119/22
C10M113/12
H01H1/00 B
C10N10:02
C10N10:04
C10N10:06
C10N10:08
C10N30:00 Z
C10N40:14
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-200027(P2015-200027)
(22)【出願日】2015年10月8日
(71)【出願人】
【識別番号】390022275
【氏名又は名称】株式会社ニッペコ
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100121049
【弁理士】
【氏名又は名称】三輪 正義
(72)【発明者】
【氏名】吉田 喜郎
(72)【発明者】
【氏名】木村 洋介
(72)【発明者】
【氏名】原田 真一
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104AA22B
4H104AA24B
4H104BB08A
4H104BB16B
4H104BB33A
4H104BB34A
4H104BE11B
4H104BE13B
4H104BJ07C
4H104BJ08C
4H104CD01A
4H104CD02B
4H104CD04A
4H104CJ02A
4H104DA02A
4H104FA01
4H104FA02
4H104FA03
4H104FA04
4H104LA20
(57)【要約】
【課題】従来に比べて、スズを含有した材料を有して構成された電気接点用の表面保護剤において、接触安定性を向上させることが可能な電気接点用表面保護剤及びそれを用いた電気接点、並びにコネクタを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、スズを含有した材料を有して構成された電気接点用の表面保護剤であって、有機スズ化合物を含むことを特徴とする。これにより、フレッチング摩耗を抑制することができる。この結果、従来に比べて良好な接触安定性を得ることができ、接点接触障害、動作不良、及び、耐久性低下などの不具合の問題を抑制することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スズを含有した材料を有して構成された電気接点用の表面保護剤であって、有機スズ化合物を含むことを特徴とする電気接点用表面保護剤。
【請求項2】
前記有機スズ化合物のスズ原子は、1有機置換スズ、2有機置換スズ、或いは4有機置換スズの状態であることを特徴とする請求項1に記載の電気接点用表面保護剤。
【請求項3】
前記有機スズ化合物は、ジメチルスズジラウレート、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジメチルスズビス(ドデシルメルカプチド)、ジブチルスズビス(ドデシルメルカプチド)、ジオクチルスズビス(ドデシルメルカプチド)、ジメチルスズビス(チオグリコール酸2−エチルヘキシル)、ジブチルスズビス(チオグリコール酸2−エチルヘキシル)、ジオクチルスズビス(チオグリコール酸2−エチルヘキシル)、ジメチルスズジアセタート、ジブチルスズジアセタート、ジオクチルスズジアセタート、ジメチルスズマレアート、ジブチルスズマレアート、ジオクチルスズマレアート、ジメチルスズビスチオグリセロール、ジブチルスズビスチオグリセロール、ジオクチルスズビスチオグリセロール、オクチルスズトリス(チオグリコール酸2−エチルヘキシル)、ビス(β−メトキシカルボニルエチル)スズジラウレートのうち、少なくともいずれか1種から選択されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電気接点用表面保護剤。
【請求項4】
前記有機スズ化合物は、少なくとも、ジオクチルスズジラウレート、ジオクチルスズビス(チオグリコール酸2−エチルヘキシル)、ジオクチルスズマレアートのいずれか1種を含むことを特徴とする請求項3に記載の電気接点用表面保護剤。
【請求項5】
前記有機スズ化合物と、溶剤とを含むことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の電気接点用表面保護剤。
【請求項6】
前記溶剤は、前記有機スズ化合物を均一な溶液とすることができる有機溶剤であることを特徴とする請求項5に記載の電気接点用表面保護剤。
【請求項7】
前記溶剤は、芳香族炭化水素系溶剤、アルコール系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、グリコールエーテル系溶剤、脂環式炭化水素系溶剤、脂肪族炭化水素系溶剤、脂肪族又は芳香族炭化水素混合物のうち、少なくともいずれか1種から選択されることを特徴とする請求項6に記載の電気接点用表面保護剤。
【請求項8】
前記溶剤は、少なくとも、不燃性溶剤としてのフッ素溶剤を含むことを特徴とする請求項5に記載の電気接点用表面保護剤。
【請求項9】
前記フッ素溶剤は、ハイドロフルオロエーテル、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロクロロフルオロカーボン、パーフルオロカーボン、パーフルオロポリエーテル、ベンゾトリフルオライド、ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、ジフルオロアセトン、ハイドロフルオロオレフィン、及び、ハイドロクロロフルオロオレフィンのうち、少なくともいずれか1種から選択されることを特徴とする請求項8に記載の電気接点用表面保護剤。
【請求項10】
前記フッ素溶剤は、少なくとも、ハイドロクロロフルオロオレフィンを含むことを特徴とする請求項9に記載の電気接点用表面保護剤。
【請求項11】
前記有機スズ化合物と、潤滑油、或いは、グリースの潤滑成分とを含むことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の電気接点用表面保護剤。
【請求項12】
前記潤滑成分として、鉱物油、合成炭化水素油、ジエステル油、ポリオールエステル油、エーテル油、グリコール油、シリコーン油、及び、フッ素油のうち、少なくともいずれか1種から選択されることを特徴とする請求項11に記載の電気接点用表面保護剤。
【請求項13】
前記グリースに含まれる増ちょう剤は、リチウム石けん、カルシウム石けん、ナトリウム石けん、アルミニウム石けん、リチウム複合石けん、カルシウム複合石けん、アルミニウム複合石けん、ウレア化合物、有機化ベントナイト、ポリテトラフルオロエチレン、シリカゲル、ナトリウムテレフタラメートのうち、少なくともいずれか1種から選択されることを特徴とする請求項11又は請求項12に記載の電気接点用表面保護剤。
【請求項14】
スズを含有した材料を有して構成された接点と、
前記接点表面に被覆された保護層と、を有し、
前記保護層は、請求項1から請求項13のいずれかに記載の電気接点用表面保護剤を用いて形成されて、少なくとも、前記有機スズ化合物を含有して成ることを特徴とする電気接点。
【請求項15】
スズを含有した材料を有して構成されたコネクタ端子と、
前記端子表面に被覆された保護層と、を有し、
前記保護層は、請求項1から請求項13のいずれかに記載の電気接点用表面保護剤を用いて形成されて、少なくとも、前記有機スズ化合物を含有して成ることを特徴とするコネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スズを含有した材料を有して構成された電気接点用の表面保護剤及びそれを用いた電気接点、並びにコネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、産業機械、光学機器、精密機器には、多種多様な電子機器が搭載される。例えば、前述した電子機器には、電力や制御信号などを伝えるために、ワイヤハーネスを配索している。ワイヤハーネスは、複数の電線と、コネクタを備えている。
【0003】
コネクタは、コネクタ端子と、コネクタハウジングとを備えている。コネクタ端子は、導電性の板金などからなり、相手側コネクタと電気的に接続される。
【0004】
従来、コネクタ端子は、一般に、銅又は銅合金などの母材の表面にスズめっきなどのめっきが施されたものが用いられていた(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−248294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、スズめっきやスズ合金めっきは、表面に硬い酸化被膜を形成するため、剥離によりフレッチング摩耗が生じ、接触安定性が低下する問題があった。そして、接触安定性の低下により、接点接触障害、動作不良、及び、耐久性低下などの不具合を引き起こす問題が生じた。
【0007】
また、スズめっきと相手側コネクタとの間に、油剤を介在させても、完全にフレッチング摩耗の発生を解消することは困難であり、従来では、コネクタ端子の表面に形成されたスズめっきに対する有効な保護剤が存在しなかった。
【0008】
また特許文献1に記載された発明では、スズめっきの表面めっき層に潤滑性粒子を含有させた構成が開示されている。
【0009】
しかしながら、潤滑性粒子をめっき層に点在させた構成では、相手側コネクタとの間の摺動により、潤滑性粒子が表面めっき層から欠落する問題があった。また、この潤滑性粒子の一例として、潤滑剤を内包するカプセルを適用することが記載されている(特許文献1の[0026]参照)。そして、相手側コネクタとの間の摺動によりカプセルが押し潰されて潤滑剤が放出され、相手側コネクタとの間に潤滑剤を供給することが記載されている。しかしながらカプセルが露出するまで表面めっき層が削られることを前提としているため、十分に接触安定性を向上させることが出来ない。また、潤滑剤の供給は、カプセルが潰されることを前提としているために、不安定であり、接触安定性のばらつきが生じやすい。加えて、潤滑性粒子をめっき層に点在させた構成では、電気抵抗増加や電気抵抗のばらつきが生じやすく通電性に影響を与えるものと考えられる。
【0010】
そこで本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、従来に比べて、スズを含有した材料を有して構成された電気接点用の表面保護剤において、接触安定性を向上させることが可能な電気接点用表面保護剤及びそれを用いた電気接点、並びにコネクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、スズを含有した材料を有して構成された電気接点用の表面保護剤であって、有機スズ化合物を含むことを特徴とする。
【0012】
本発明では、前記有機スズ化合物のスズ原子は、1有機置換スズ、2有機置換スズ、或いは4有機置換スズの状態であることが好ましい。
【0013】
また本発明では、前記有機スズ化合物は、ジメチルスズジラウレート、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジメチルスズビス(ドデシルメルカプチド)、ジブチルスズビス(ドデシルメルカプチド)、ジオクチルスズビス(ドデシルメルカプチド)、ジメチルスズビス(チオグリコール酸2−エチルヘキシル)、ジブチルスズビス(チオグリコール酸2−エチルヘキシル)、ジオクチルスズビス(チオグリコール酸2−エチルヘキシル)、ジメチルスズジアセタート、ジブチルスズジアセタート、ジオクチルスズジアセタート、ジメチルスズマレアート、ジブチルスズマレアート、ジオクチルスズマレアート、ジメチルスズビスチオグリセロール、ジブチルスズビスチオグリセロール、ジオクチルスズビスチオグリセロール、オクチルスズトリス(チオグリコール酸2−エチルヘキシル)、ビス(β−メトキシカルボニルエチル)スズジラウレートのうち、少なくともいずれか1種から選択されることが好ましい。
【0014】
特に本発明では、前記有機スズ化合物は、少なくとも、ジオクチルスズジラウレート、ジオクチルスズビス(チオグリコール酸2−エチルヘキシル)、ジオクチルスズマレアートのいずれか1種を含むことが好ましい。
【0015】
また本発明における電気接点用表面保護剤は、前記有機スズ化合物と、溶剤とを含む構成とすることができる。このとき、前記溶剤は、前記有機スズ化合物を均一な溶液とすることができる有機溶剤であることが好ましい。具体的には、前記溶剤は、芳香族炭化水素系溶剤、アルコール系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、グリコールエーテル系溶剤、脂環式炭化水素系溶剤、脂肪族炭化水素系溶剤、脂肪族又は芳香族炭化水素混合物のうち、少なくともいずれか1種から選択されることが好ましい。
【0016】
また本発明では、前記溶剤は、少なくとも、不燃性溶剤としてのフッ素溶剤を含むことが好ましい。具体的には、前記フッ素溶剤は、ハイドロフルオロエーテル、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロクロロフルオロカーボン、パーフルオロカーボン、パーフルオロポリエーテル、ベンゾトリフルオライド、ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、ジフルオロアセトン、ハイドロフルオロオレフィン、及び、ハイドロクロロフルオロオレフィンのうち、少なくともいずれか1種から選択されることが好ましい。特に本発明では、前記フッ素溶剤は、少なくとも、ハイドロクロロフルオロオレフィンを含むことが好ましい。
【0017】
また本発明における電気接点用表面保護剤は、前記有機スズ化合物と、潤滑油、或いは、グリースの潤滑成分とを含む構成とすることができる。このとき、前記潤滑成分として、鉱物油、合成炭化水素油、ジエステル油、ポリオールエステル油、エーテル油、グリコール油、シリコーン油、及び、フッ素油のうち、少なくともいずれか1種から選択されることが好ましい。
【0018】
また本発明では、前記グリースに含まれる増ちょう剤は、リチウム石けん、カルシウム石けん、ナトリウム石けん、アルミニウム石けん、リチウム複合石けん、カルシウム複合石けん、アルミニウム複合石けん、ウレア化合物、有機化ベントナイト、ポリテトラフルオロエチレン、シリカゲル、ナトリウムテレフタラメートのうち、少なくともいずれか1種から選択されることが好ましい。
【0019】
また本発明における電気接点は、スズを含有した材料を有して構成された接点と、前記接点表面に被覆された保護層と、を有し、前記保護層は、上記に記載の電気接点用表面保護剤を用いて形成されて、少なくとも、前記有機スズ化合物を含有して成ることを特徴とする。
【0020】
また本発明におけるコネクタは、スズを含有した材料を有して構成されたコネクタ端子と、前記端子表面に被覆された保護層と、を有し、前記保護層は、上記に記載の電気接点用表面保護剤を用いて形成されて、少なくとも、前記有機スズ化合物を含有して成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、有機スズ化合物を含む電気接点用表面保護剤を用いることで、フレッチング摩耗を抑制することができる。この結果、従来に比べて良好な接触安定性を得ることができ、接点接触障害、動作不良、及び、耐久性低下などの不具合の問題を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1Aは、コネクタの一部を示す部分断面図であり、
図1Bは、
図1Aの点線で囲んだ範囲Aを拡大して示した部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施の形態(以下、「実施の形態」と略記する。)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0024】
本発明者らは、スズを含有した材料を有して構成された電気接点用の保護剤について誠意研究した結果、有機スズ化合物を含有した保護剤を用いることで、フレッチング摩耗を抑制することができ、従来に比べて、良好な接触安定性を得ることができるに至った。
【0025】
(有機スズ化合物)
「有機スズ化合物」は、化合物中に、スズ原子と、有機基を構成する炭素原子との直接結合を含むものである。
【0026】
本実施の形態における有機スズ化合物のスズ原子は、1有機置換スズ、2有機置換スズ、或いは4有機置換スズの状態であることが好適である。3有機置換スズは、毒性が高く、人体や環境への影響の問題から使用できない。
【0027】
有機スズ化合物を化学式として示すと、RSnX
3(モノ有機スズ)、R
2SnX
2(ジ有機スズ)、R
4Sn(テトラ有機スズ)で表すことができる。このうち、Rは、C
mH
2mで示され、m=10〜20の範囲である。またXは、ラウレート、アセタート、マレアート、チオグリコール酸2−エチルヘキシル、チオグリセロール等から選択される少なくとも1種である。
【0028】
本実施の形態における有機スズ化合物は、ジメチルスズジラウレート、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジメチルスズビス(ドデシルメルカプチド)、ジブチルスズビス(ドデシルメルカプチド)、ジオクチルスズビス(ドデシルメルカプチド)、ジメチルスズビス(チオグリコール酸2−エチルヘキシル)、ジブチルスズビス(チオグリコール酸2−エチルヘキシル)、ジオクチルスズビス(チオグリコール酸2−エチルヘキシル)、ジメチルスズジアセタート、ジブチルスズジアセタート、ジオクチルスズジアセタート、ジメチルスズマレアート、ジブチルスズマレアート、ジオクチルスズマレアート、ジメチルスズビスチオグリセロール、ジブチルスズビスチオグリセロール、ジオクチルスズビスチオグリセロール、オクチルスズトリス(チオグリコール酸2−エチルヘキシル)、ビス(β−メトキシカルボニルエチル)スズジラウレートのうち、少なくともいずれか1種から選択されることが好ましい。
【0029】
このうち、ジオクチルスズジラウレート(以下の化学式1を参照)、ジオクチルスズビス(チオグリコール酸2−エチルヘキシル)(以下の化学式2を参照)、ジオクチルスズマレアート(以下の化学式3を参照)の少なくともいずれか1種を含むことがより好ましい。
【0033】
本実施の形態では、有機スズ化合物として、少なくとも、ジオクチルスズジラウレートを含むことが最も好ましい。ジオクチルスズジラウレートは、接点(例えばコネクタ端子)表面のスズめっきとの親和性が非常に優れていると考えられ、後述する実験に示すように、ジオクチルスズジラウレートを有機スズ化合物として使用することで、コネクタ端子における接触安定性の向上を、より効果的に図ることが可能である。
【0034】
(溶剤タイプ)
本実施の形態の電気接点用表面保護剤は、上記に記載した有機スズ化合物と、溶剤とを含むことを特徴とする。
【0035】
本実施の形態における溶剤は、有機スズ化合物を均一な溶液とすることができる有機溶剤であることが好ましい。ここで「均一な溶液」とは、溶液の懸濁や沈殿物の発生が生じていない状態であり、目視にて確認することができる。
【0036】
ここで、有機スズ化合物は、保護剤の全量を100重量部としたとき、0.01重量部〜20重量部の範囲内であることが好ましい。有機スズ化合物の含有量が0.01重量部よりも少ないと、電気接点用表面保護剤に有機スズ化合物を含有しても、接触安定性を図るといった目的の効果が不十分である。また、有機スズ化合物の含有量が20重量部を超えると、電気接点用表面保護剤中の有機スズ化合物の量が多すぎて均一に混ざった溶剤を得にくくなったり、また、これ以上、有機スズ化合物の含有量を多くしても、含有量に応じた目的の効果の更なる向上が得られず、価格も高価となるために実用的ではない。また、有機スズ化合物の含有量や、溶剤量は、必要とされる保護層の膜厚や使用環境等、使用用途に応じて、有機スズ化合物を、0.01重量部〜20重量部とした含有量の範囲内で適宜、調整することができる。
【0037】
本実施の形態における有機溶剤は、有機スズ化合物の希釈溶剤として用いる。接点に対し、有機スズ化合物を薄膜で均一に塗布するために、有機溶剤は、塗布後、速やかに揮発することが好ましい。有機溶剤の沸点は、200℃を超えると乾燥性が悪いために、200℃以下(1気圧)であることが好ましく、150℃以下であることがより好ましく、130℃以下が更に好ましい。また、本実施の形態では、1種類の溶剤を用いてもよいし、種類の異なる、複数種の溶剤を用いてもよい。
【0038】
ここで溶剤としては、可燃性溶剤と不燃性溶剤とに分けることができる。可燃性溶剤としては、具体的には、芳香族炭化水素系溶剤、アルコール系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、グリコールエーテル系溶剤、脂環式炭化水素系溶剤、脂肪族炭化水素系溶剤、脂肪族又は芳香族炭化水素混合物のうち、少なくともいずれか1種から選択されることが好ましい。例えば、ハロゲン化炭化水素は、ヒトを含めた動植物に対して強い毒性を持つため、本実施の形態の溶剤として用いることは好ましくない。また、塩素を含む有機物を燃焼させたとき生成するダイオキシン類は、残留性有機汚染物質であり、環境中に放出されると長期にわたって生態系に影響を与えるため、本実施の形態の溶剤として用いることは好ましくない。
【0039】
芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、スチレン等から選択することができる。
【0040】
また、アルコール系溶剤としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、イソペンチルアルコール等から選択することができる。
【0041】
また、エステル系溶剤としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル等から選択することができる。
【0042】
またエーテル系溶剤としては、例えば、エチルエーテル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン等から選択することができる。
【0043】
また、ケトン系溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン等から選択することができる。
【0044】
また、グリコールエーテル系溶剤としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート等から選択することができる。
【0045】
また、脂環式炭化水素系溶剤としては、例えば、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール等から選択することができる。
【0046】
また、脂肪族炭化水素系溶剤としては、例えば、ノルマルヘキサン等から選択することができる。
【0047】
また、脂肪族又は芳香族炭化水素混合物としては、例えば、石油エーテル、石油ベンジン等から選択することができる。
【0048】
また本実施の形態では、不燃性溶剤として、少なくとも、フッ素溶剤を含むことが好ましい。フッ素溶剤は、具体的には、ハイドロフルオロエーテル、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロクロロフルオロカーボン、パーフルオロカーボン、パーフルオロポリエーテル、ベンゾトリフルオライド、ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、ジフルオロアセトン、ハイドロフルオロオレフィン、及び、ハイドロクロロフルオロオレフィンのうち、少なくともいずれか1種から選択されることが好ましい。
【0049】
また、有機スズ化合物との相溶性、地球温暖化係数、及び、オゾン層破壊係数の観点から、上記に挙げたフッ素溶剤のうち、少なくとも、ハイドロクロロフルオロオレフィンを選択することが好ましい。後述する実験においても示すように、不燃性の有機溶剤として、ハイドロクロロフルオロオレフィンを使用することで、接点としてのコネクタ端子における接触安定性の向上を、より効果的に図ることが可能である。
【0050】
なお、上記した溶剤中に占める有機スズ化合物の含有量や有機溶剤の沸点の好ましい範囲は、有機溶剤が可燃性有機溶剤であっても不燃性有機溶剤であっても変わらない。
【0051】
(潤滑油タイプ、グリースタイプ)
本実施の形態の電気接点用表面保護剤は、上記に記載した有機スズ化合物と、潤滑油、或いはグリースの潤滑成分とを含むことを特徴とする。すなわち、潤滑油タイプとしては、有機スズ化合物と、潤滑成分としての潤滑油とを含む。また、グリースタイプとしては、有機スズ化合物と、潤滑成分としての基油、及び、増ちょう剤とを含む。
【0052】
ここで、有機スズ化合物は、保護剤の全量を100重量部としたとき、0.01重量部〜20重量部の範囲内であることが好ましい。有機スズ化合物の含有量が0.01重量部よりも少ないと、電気接点用表面保護剤に有機スズ化合物を含有しても、接触安定性を図るといった目的の効果が不十分である。また、有機スズ化合物の含有量が20重量部を超えると、電気接点用表面保護剤中の有機スズ化合物の量が多すぎて潤滑性能が低下し、また、これ以上、有機スズ化合物の含有量を多くしても、含有量に応じた目的の効果の更なる向上が得られず、価格も高価となるために実用的ではない。また、有機スズ化合物の含有量や、潤滑成分量は、使用用途に応じて、有機スズ化合物を、0.01重量部〜20重量部とした含有量の範囲内で適宜、調整することができる。
【0053】
潤滑成分として、鉱物油、合成炭化水素油、ジエステル油、ポリオールエステル油、エーテル油、グリコール油、シリコーン油、及び、フッ素油のうち、少なくともいずれか1種から選択されることが好ましい。これら潤滑成分は、単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができ、その使用量は特に限定されず、塗布適性に応じてその量を選定することができる。潤滑成分は広温度範囲で使用できる点、ゴム・樹脂への適合性、添加剤との相溶性から、ポリαオレフィン及びエチレンαオレフィンオリゴマーが特に好ましい。
【0054】
本実施の形態のグリースに含まれる増ちょう剤は、リチウム石けん、カルシウム石けん、ナトリウム石けん、アルミニウム石けん、リチウム複合石けん、カルシウム複合石けん、アルミニウム複合石けん、ウレア化合物、有機化ベントナイト、ポリテトラフルオロエチレン、シリカゲル、ナトリウムテレフタラメートのうち、少なくとも1種から選択されることが好ましい。増ちょう剤は、せん断安定性から、ステアリン酸リチウム、及び/又は、12−ヒドロキシステアリン酸リチウムであることが好ましい。リチウム石けんは、脂肪酸又はその誘導体と水酸化リチウムとのけん化反応物である。用いられる脂肪酸は、炭素数が2〜22の飽和又は不飽和の脂肪酸及びそれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種である。また、前記の脂肪酸又はその誘導体と水酸化リチウムとを反応させた「石けん」が市販されており、これを用いることもできる。
【0055】
また、必要に応じて、酸化防止剤、防錆剤、金属腐食防止剤、油性剤、耐摩耗剤、極圧剤、固体潤滑剤などを添加することができる。これら添加物の含有量は、0.01重量部〜20重量部程度の範囲内に収められる。酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール、アルキル化ジフェニルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン等から選択することができる。防錆剤としては、ステアリン酸などのカルボン酸、ジカルボン酸、金属石鹸、カルボン酸アミン塩、重質スルホン酸の金属塩、又は多価アルコールのカルボン酸部分エステル等から選択することができる。金属腐食防止剤としては、ベンゾトリアゾール又はベンゾイミダゾール等から選択することができる。油性剤としては、ラウリルアミンなどのアミン類、ミリスチルアルコールなどの高級アルコール類、パルミチン酸などの高級脂肪酸類、ステアリン酸メチルなどの脂肪酸エステル類、又はオレイルアミドなどのアミド類等から選択することができる。耐摩耗剤としては、亜鉛系、硫黄系、リン系、アミン系、又はエステル系等から選択することができる。極圧剤としては、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、ジアルキルジチオリン酸モリブデン、硫化オレフィン、硫化油脂、メチルトリクロロステアレート、塩素化ナフタレン、ヨウ素化ベンジル、フルオロアルキルポリシロキサン、又は、ナフテン酸鉛等から選択することができる。また、固体潤滑剤としては、黒鉛、フッ化黒鉛、ポリテトラフルオロエチレン、メラミンシアヌレート、二硫化モリブデン、硫化アンチモン等から選択することができる。
【0056】
(コネクタ)
図1Aは、コネクタの一部を示す部分断面図であり、
図1Bは、
図1Aの点線で囲んだ範囲Aを拡大して示した部分拡大断面図である。
【0057】
図1Aに示すようにコネクタ1は、雄コネクタ2と、雌コネクタ3とを有して構成される。雄コネクタ2は、樹脂製のハウジング4と、金属製の雄端子(コネクタ端子)5とを、有して構成される。また雌コネクタ3は、樹脂製のハウジング6と、雌端子(コネクタ端子)7とを有して構成される。例えば、雌端子7の一部は板バネ構造7aで構成されている。
図1Aは、雄コネクタ2を、雌コネクタ3に差し込んだ状態を示し、雄コネクタ2の雄端子5と、雌コネクタ3の雌端子7とが、電気的に接触している。
【0058】
図1Bに示すように、雄端子5は、基材10と、基材10の表面に形成された表面めっき層11と、表面めっき層11の表面に形成された保護層12とを有して構成される。
【0059】
基材10の材質を問うものではないが、機械的強度、耐熱性、導電性等に応じて、例えば、リン青銅、ベリリウム銅等の銅合金、純鉄、ステンレス鋼等の鉄合金、ニッケル合金等である。
【0060】
また、表面めっき層11は、スズを含むめっき層であり、スズ単独であってもよいしスズ合金で形成されてもよい。また、表面めっき層11は、表面にスズめっき層が露出していればよく、例えば、銀めっき層などとの積層構造で構成されてもよい。
【0061】
保護層12は、本実施の形態における有機スズ化合物を有して構成される層である。保護層12の膜厚は、数μm〜数百μm程度であり、使用用途に合わせて膜厚調整を行うことが可能である。例えば、有機スズ化合物を直接、表面めっき層11の表面に塗布した場合は、保護層12の膜厚は、数十μm〜数百μm程度とされる。また、溶剤タイプの場合、表面めっき層11の表面に保護剤を塗布すると、溶剤が揮発するため、保護層12の膜厚を薄く形成でき且つ有機スズ化合物の含有量に応じて数μm〜数十μm単位で種々調整できる。なお揮発状態は、用いる溶剤に応じて異なり、数分で揮発するものもあるし、乾燥工程を施して溶剤除去を促進させる場合もある。また、潤滑油タイプやグリースタイプは、潤滑成分が表面めっき層11の表面に残るため、塗布量にもよるが、上記した溶剤タイプに比べて保護層12としての膜厚は厚くなり、数十μm〜数百μm程度とされる。
【0062】
保護層12は、図に示すように、表面めっき層11の表面全体に形成されていてもよいし、部分的に形成されてもよい。「部分的」とは、格子状、海縞状(例えばドット状)、縞状等であり、表面めっき層11上に保護層12のない部分が存在する。このように保護層12を部分的に設けても、スズ表面を適切に保護でき、従来品に比べて、導通性及び挿抜性を向上させることが可能である。なお、保護層12の膜厚は、平均膜厚にて測定される。例えば、保護層12の膜厚は、保護層12上の複数点(少なくとも3点以上)にて、触針式表面形状測定器や超音波法を用いて膜厚を測定し、それらを算術平均した値として示される。
【0063】
本実施の形態における表面保護剤(有機スズ化合物単独、溶剤タイプ、潤滑油タイプ及びグリースタイプの別を問わない)は、スズを含有した材料を有して構成された電気接点用として用いられ、これにより、スズ表面を適切に保護でき、すなわち繰り返しの端子の挿抜によっても表面めっき層11の剥離を防止できることで、フレッチング摩耗を抑制でき、雄端子5と雌端子7との間の接触安定性を従来に比べて向上させることができる。具体的には、後述する実験結果に示すように、従来品に比べて、導通性及び挿抜性を向上させることが可能である。
【0064】
なお
図1Bでは、雄端子5の断面構造を示したが、本実施の形態における表面保護剤は、雄端子5及び雌端子7の少なくとも一方に塗布されればよい。
【0065】
なお、流通過程で取引される保護剤を分析することで、本発明の実施の有無を判別できる。また、コネクタの端子表面に形成された保護層を分析することでも本実施の有無を判別することができる。このとき、溶剤タイプでは、溶剤は揮発して保護層中に存在しないが、保護層の膜厚から溶剤タイプの使用を推測することが可能である。
【0066】
また上記では電気接点の一例としてコネクタを挙げたが、本実施の形態の表面保護剤は、コネクタ端子用に限定されるものではない。接点としては、コネクタ端子以外に、スイッチやPCカード等の端子が挙げられる。なお、本実施の形態の表面保護剤は、コネクタ端子に有効に適用される。
【実施例】
【0067】
以下、本発明の効果を明確にするために実施した実施例により本発明を詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0068】
以下の表1及び表2に示す配合で、実施例1〜実施例8、参照例1、参照例2、及び従来例を調製した。使用した原料は以下の通りである。
【0069】
(実施例1)
有機スズ化合物 ジオクチルスズジラウレート(C
40H
80O
4Sn):100重量部
(実施例2)
有機スズ化合物 ジオクチルスズジラウレート(C
40H
80O
4Sn):1.0重量部
可燃性溶剤 ノルマルヘキサン(沸点 69℃):99.0重量部
(実施例3)
有機スズ化合物 ジオクチルスズジラウレート(C
40H
80O
4Sn):1.0重量部
可燃性溶剤 エクソールD40(沸点 166℃):99.0重量部
(実施例4)
有機スズ化合物 ジオクチルスズジラウレート(C
40H
80O
4Sn):1.0重量部
不燃性溶剤 ハイドロクロロフルオロオレフィン(セントラル硝子製 型番:1233Z):99.0重量部
(実施例5)
有機スズ化合物 ジオクチルスズジラウレート(C
40H
80O
4Sn):0.01重量部
不燃性溶剤 ハイドロクロロフルオロオレフィン(セントラル硝子製 型番:1233Z):99.99重量部
(実施例6)
有機スズ化合物 ジオクチルスズジラウレート(C
40H
80O
4Sn):1.0重量部
潤滑油(基油) ポリαオレフィン(動粘度(40℃):30mm
2/s):99.0重量部
(実施例7)
有機スズ化合物 ジオクチルスズジラウレート(C
40H
80O
4Sn):0.01重量部
潤滑油(基油) ポリαオレフィン(動粘度(40℃):30mm
2/s):99.99重量部
(実施例8)
有機スズ化合物 ジオクチルスズジラウレート(C
40H
80O
4Sn):1.0重量部
基油 ポリαオレフィン(動粘度(40℃):30mm
2/s):89.0重量部
増ちょう剤 リチウム石けん(12−ヒドロキシステアリン酸リチウム):10.0重量部
(参照例1)
有機スズ化合物 ジオクチルスズジラウレート(C
40H
80O
4Sn):0.005重量部
不燃性溶剤 ハイドロクロロフルオロオレフィン(セントラル硝子製 型番:1233Z):99.995重量部
(参照例2)
有機スズ化合物 ジオクチルスズジラウレート(C
40H
80O
4Sn):0.005重量部
基油 ポリαオレフィン(動粘度(40℃):30mm
2/s):89.995重量部
増ちょう剤 リチウム石けん(12−ヒドロキシステアリン酸リチウム):10.0重量部
(従来例)
アミン系防錆剤 2.0重量部
アミン系酸化防止剤: 2.0重量部
有機酸油性向上剤: 2.0重量部
高粘度合成炭化水素油: 94.0重量部
【0070】
実施例2〜7、及び、参照例1については各原料を秤量し、攪拌混合することにより、均一な溶液を得た。また、実施例8、及び、参照例2では、基油の存在下、リチウム石けんを合成し、攪拌しながら温度上昇させた。次いで、80℃以下に冷却した後、ジオクチルスズジラウレートを処方して、三段ロールミル、ディスパーミルやコロイドミル等を使用することにより均一なグリース組成物を得た。混和ちょう度は、NLGI No.2グレードにて調整した。なお、試験方法はJIS K 2220に基づく。
【0071】
評価方法としては、卓上型振動試験機にコネクタを取り付け、周波数100Hz、2G、室温で96h振動を加え、そのときの通電性をオシロスコープで測定した。通電性が良好である場合を○、通電性がやや不安定である場合を△、通電性が不安定である場合を×とした。また、挿抜試験として挿抜を100回行い、そのときの摺動摩耗の有無を確認した。摩耗がない場合を○、やや摩耗がある場合を△、摩耗がある場合を×とした。なお実験ではコネクタとしては、矢崎総業株式会社製の型番:7282−5976 ASSY、7283−5976 ASSYを用いた。このコネクタには表面めっき層としてスズめっきが施されている。評価試験結果を表1及び表2に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
表1に示すように、実施例1〜実施例8では、有機スズ化合物としてジオクチルスズジラウレートを含有しており、フレッチング摩耗を抑制できたことで通電性に問題はなく、また挿抜試験でも、摺動摩耗が発生しないことがわかった。
【0074】
また、実施例5に示すように、有機スズ化合物が0.01重量部以上あれば、有機溶剤、又は不燃性溶剤としてのフッ素溶剤が完全に揮発しても、塗布膜厚が十分確保することができるため、有機スズ化合物を添加したことによる効果(導通性、挿抜性)の発現は十分であることがわかった。なお、溶剤タイプにおいて、有機スズ化合物を1.0重量部添加した場合、保護層の膜厚は、1μm〜10μm程度であり、有機スズ化合物を0.01重量部添加した場合、保護層の膜厚は、0.01μm〜1μm程度であった。ちなみに実施例1での保護層の膜厚は、10μm〜100μm程度であった。
【0075】
また、潤滑油タイプとしての実施例7では、基油中に有機スズ化合物が0.01重量部以上あれば、有機スズ化合物の添加による効果の発現は十分であることがわかった。なお、グリースタイプにおいても同様のことが言える。
【0076】
【表2】
【0077】
参照例1及び参照例2は、有機スズ化合物を含むものであり、従来例に比べて、通電性や挿抜性はやや優れていることがわかった。したがって、参照例1及び参照例2も実施例の一つではあるが、上記に挙げた実施例1〜実施例8に比べて通電性や挿抜性は劣る結果となった。
【0078】
これは、参照例1では、有機スズ化合物の含有量が、0.005重量部であるため、有機溶剤又は不燃性溶剤としてのフッ素溶剤が完全に揮発した際、適度な塗布膜厚を確保することができないことに起因する。
【0079】
同様に、参照例2も、有機スズ化合物の含有量が0.005重量部であり、このように、潤滑剤中に含まれる有機スズ化合物が少なすぎることで、有機スズ化合物の添加による効果の発現がやや不十分であった。
【0080】
また従来例は、市販品の保護剤であり、実施例と違って、有機スズ化合物が処方されていないため、フレッチング摩耗が生じたことで不導通になり、また挿抜試験では摺動摩耗が発生することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明における電気接点用表面保護剤を、スズを含有した材料を有して構成された電気接点用の表面保護剤として用いることができる。本発明では、例えば、自動車、産業機械、光学機器、精密機器等に用いられる、スズ含有コネクタの保護剤として使用することができる。特に自動車などのように、接触安定性の合格基準が非常に高い分野においても安定して適用することが可能である。
【符号の説明】
【0082】
1 コネクタ
2 雄コネクタ
3 雌コネクタ
5 雄端子(コネクタ端子)
7 雌端子(コネクタ端子)
10 基材
11 表面めっき層
12 保護層