(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-7387(P2017-7387A)
(43)【公開日】2017年1月12日
(54)【発明の名称】鉄道車両の車体傾斜装置
(51)【国際特許分類】
B61F 5/10 20060101AFI20161216BHJP
B61F 5/22 20060101ALI20161216BHJP
【FI】
B61F5/10 D
B61F5/22 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-121799(P2015-121799)
(22)【出願日】2015年6月17日
(71)【出願人】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】特許業務法人コスモス特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 信之
(72)【発明者】
【氏名】谷川 安彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴之
(72)【発明者】
【氏名】林 哲也
(72)【発明者】
【氏名】坂上 啓
(72)【発明者】
【氏名】森山 晃
(72)【発明者】
【氏名】仁科 穣
(72)【発明者】
【氏名】岡田 洋祐
(57)【要約】
【課題】 曲線部通過中に曲線内軌側空気バネが上昇したときに、速やかに排気動作に入ることのできる鉄道車両の車体傾斜装置を提供すること。
【解決手段】 台車3に載置され車体2を支持する空気バネ4と、空気バネ4に空気を給排気する第1空気流路7に設けられ、調整用リンク5が水平に取り付けられたパッシブ調整弁6と、空気バネ4に空気を給排気する第2空気流路11に設けられ、調整用リンク9が傾斜して取り付けられた傾斜調整弁10とを有する鉄道車両の車体傾斜装置において、パッシブ調整弁6と傾斜調整弁10は各々、給気弁18と、排気弁19と、給気弁油圧ダンパ機構21、23、31と、排気弁油圧ダンパ機構21、25、32を有すること、パッシブ調整弁6の排気弁油圧ダンパ機構21、25、32のオリフィス32の径が、パッシブ調整弁6の給気弁油圧ダンパ機構のオリフィス31のオリフィス径より大きいことを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
台車に載置され車体を支持する空気バネと、前記空気バネに空気を給排気する第1空気流路に設けられ、調整用リンクが水平に取り付けられたパッシブ調整弁と、前記空気バネに空気を給排気する第2空気流路に設けられ、調整用リンクが傾斜して取り付けられた傾斜調整弁とを有する鉄道車両の車体傾斜装置において、
前記パッシブ調整弁と前記傾斜調整弁は各々、給気弁と、排気弁と、給気弁油圧ダンパ機構と、排気弁油圧ダンパ機構を有すること、
前記パッシブ調整弁の前記排気弁油圧ダンパ機構のオリフィス径が、パッシブ調整弁の給気弁油圧ダンパ機構のオリフィス径より大きいこと、
を特徴とする鉄道車両の車体傾斜装置。
【請求項2】
請求項1に記載する鉄道車両の車体傾斜装置において、
前記第1空気流路に設けられた第1遮断弁と、前記第2空気流路に設けられた第2遮断弁とを有すること、
軌道の曲線部を通過するときに、内軌側では、前記第2遮断弁を遮断して、前記パッシブ調整弁を働かせ、外軌側では、前記第1遮断弁を遮断して、前記傾斜調整弁を働かせる制御装置を有すること、
これらにより、前記パッシブ調整弁の前記調整用リンクが動き始めてから、給排気が始まるまでの遅れ時間を短くしていること、
を特徴とする鉄道車両の車体傾斜装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載する鉄道車両の車体傾斜装置において、
前記パッシブ調整弁の排気流量を、通常の搖動変位以上のみ増加させること、
を特徴とする鉄道車両の車体傾斜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、台車に載置され車体を支持する空気バネと、空気バネに空気を給排気する第1空気流路に設けられ、調整用リンクが水平に取り付けられたパッシブ調整弁と、空気バネに空気を給排気する第2空気流路に設けられ、調整用リンクが傾斜して取り付けられた傾斜調整弁とを有する鉄道車両の車体傾斜装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、軌道の曲線区間においては、カントの他に車体を傾斜させることにより、遠心力により乗客が受ける違和感を減少させることが行われている。
そして、鉄道車両の空気バネ高さ調整機構として、車体と台車との間に設けた空気バネに対し、空気の給排気を行い、車体の傾斜を適宜調整することが行われている。このとき、給排気は、調整用リンク機構を用いた高さ調整弁の作動によって行われるが、給排気の制限や高さ調整弁の作動遅れ等のため、最適に車体の傾斜を得ることに困難があった。
その問題を解決するために、本出願人は、特許文献1に記載する鉄道車両の車体傾斜装置を提案している。
【0003】
具体的には、
図10に示すように、台車3に載置され車体2を支持するために左右に配置された空気バネ4、空気バネ4に各別に空気を給排気する第1空気流路7に設けられ、調整用リンク5が水平に取り付けられたパッシブ調整弁60と、パッシブ調整弁60と直列に配置された第1遮断弁8と、空気バネ4に各別に空気を給排気する第2空気流路11に設けられ、調整用リンク9が傾斜して取り付けられた傾斜調整弁10と、傾斜調整弁10と直列に配置された第2遮断弁12を有する鉄道車両の車体傾斜装置1を提案している。
また、パッシブ調整弁60が、不感帯領域にある状態では、パッシブ調整弁60を使用せずに傾斜調整弁10のみを使用して速やかに、パッシブ調整弁60の不感帯領域を離脱させる制御を行うことを提案している。
【0004】
図11に、パッシブ調整弁60の構成を断面図で示す。傾斜調整弁10自体の構成は、パッシブ調整弁60と同じである。
パッシブ調整弁60は、本体16と、主軸17と、給気弁18と、排気弁19と、オイルダンパ20とを備えている。給気弁18と排気弁19とは、本体16を貫通すると共に第1空気流路7に連結される通路によって連結されている。給気弁18及び排気弁19は、バネの反力により第1空気流路7への通路が閉塞されるように構成されている。給気弁18の一方のポートは、給気流路15に連通している。排気弁19の一方のポートは、大気に開放される排気流路14に連通している。
また、オイルダンパ20は、ピストン21と、ピストン21に連結すると共に逆流防止の機能を有するチェック弁22と、ダンパキャップ23とを備えており、これらが油中に浸漬されている。
【0005】
主軸17は、第1支柱28に回動可能に連結された調整用リンク5に取着されている。よって、車体2の高さ変化に追随して調整用リンク5の傾斜角度が変化すると、主軸17はその変化に伴って回動される。ただし、主軸17は、調整用リンク5に対して正逆のねじりバネを介して取着されており、正逆方向いずれの方向に対しても、ねじりバネの付勢力により中立点に復帰するように構成されている。
また、主軸17の上部には上側突起部44が、主軸17の下部には下側突起部45が、各々形成されている。これにより、上側突起部44が給気弁18又は排気弁19のバネに抗する抗力を与えることで給気弁18又は排気弁19を開閉させると同時に、下側突起部45がピストン21を左右方向に移動させる。
【0006】
ここで、給気弁18が開通される場合には、調整用リンク5が正方向へ上昇傾斜されることで主軸17が図中反時計回りに回動して、主軸17の下部に設けられた下側突起部45が、ピストン21を右方向へ移動させる。ピストン21の右側にあるチェック弁22は、右から左方向への油の逆流を防止し、左から右方向への流れは許可しているため、ピストン21の右側が油圧室となる。
すなわち、ダンパキャップ23に設けられた絞り孔26によって、油の流れが制限されるため、ダンパの効果を得ることができる。そして、絞り孔26を油が通過する抵抗によって、パッシブ調整弁60に一定の作動時間遅れを発生させている。
一方、給気弁18が閉塞される場合には、本体16に設けられた逃し孔27によって抵抗なく油が通過するため、ピストン21の移動が抑制されず作動時間遅れは発生しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4764117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の技術には次のような問題があった。
図12に示すように、車体傾斜時には、遠心力Fの影響で、車体2が図中時計回りに回転力(矢印Aで示す)を受ける。これにより、曲線外軌側では、曲線外軌側の空気バネ4Aは、下降する方向の力(矢印Cで示す)を受ける。同様に、曲線内軌側では、曲線内軌側の空気バネ4Bは、上昇する方向の力(矢印Bで示す)を受ける。このため、傾斜速度を向上させるためには、傾斜調整弁10の給気性能を向上させるだけでは不十分であり、パッシブ調整弁60の排気性能の向上も重要となる。
しかし、パッシブ調整弁60、及び傾斜調整弁10には、直線部や緩い曲線部における動揺時のハンチング防止と空気消費量低減のために、作動遅れ時間が設けてある。そのため、曲線部通過中に曲線内軌側の空気バネ4Bが上昇しても、すぐに排気動作に入らず傾斜角度が低くなる問題があった。
【0009】
本発明は、上記課題を解決して、曲線部通過中に曲線内軌側空気バネが上昇したときに、速やかに排気動作に入ることのできる鉄道車両の車体傾斜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の鉄道車両の車体傾斜装置は、次の構成を有している。
(1)台車に載置され車体を支持する空気バネと、空気バネに空気を給排気する第1空気流路に設けられ、調整用リンクが水平に取り付けられたパッシブ調整弁と、空気バネに空気を給排気する第2空気流路に設けられ、調整用リンクが傾斜して取り付けられた傾斜調整弁とを有する鉄道車両の車体傾斜装置において、パッシブ調整弁と傾斜調整弁は各々、給気弁と、排気弁と、給気弁油圧ダンパ機構と、排気弁油圧ダンパ機構を有すること、パッシブ調整弁の排気弁油圧ダンパ機構のオリフィス径が、パッシブ調整弁の給気弁油圧ダンパ機構のオリフィス径より大きいことを特徴とする。
【0011】
(2)(1)に記載する鉄道車両の車体傾斜装置において、前記第1空気流路に設けられた第1遮断弁と、前記第2空気流路に設けられた第2遮断弁とを有すること、軌道の曲線部を通過するときに、内軌側では、前記第2遮断弁を遮断して、前記パッシブ調整弁を働かせ、外軌側では、前記第1遮断弁を遮断して、前記傾斜調整弁を働かせる制御装置を有すること、これらにより、前記パッシブ調整弁の前記調整用リンクが動き始めてから、給排気が始まるまでの遅れ時間を短くしていること、を特徴とする。
(3)(1)または(2)に記載する鉄道車両の車体傾斜装置において、前記パッシブ調整弁の排気流量を、通常の搖動変位以上のみ増加させること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の鉄道車両車体傾斜装置は、次のような作用、効果を奏する。
(1)台車に載置され車体を支持する空気バネと、空気バネに空気を給排気する第1空気流路に設けられ、調整用リンクが水平に取り付けられたパッシブ調整弁と、空気バネに空気を給排気する第2空気流路に設けられ、調整用リンクが傾斜して取り付けられた傾斜調整弁とを有する鉄道車両の車体傾斜装置において、パッシブ調整弁と傾斜調整弁は各々、給気弁と、排気弁と、給気弁油圧ダンパ機構と、排気弁油圧ダンパ機構を有すること、パッシブ調整弁の排気弁油圧ダンパ機構のオリフィス径が、パッシブ調整弁の給気弁油圧ダンパ機構のオリフィス径より大きいことを特徴とするので、曲線部を通過するときに、曲線内軌側をパッシブ調整弁のみで制御しており、パッシブ調整弁の排気弁油圧ダンパ機構のオリフィス径が比較的大きいため、パッシブ調整弁の排気側作動遅れ時間のみを短縮でき、パッシブ調整弁の排気性能を向上させることができる。これにより、曲線部における車体傾斜制御を速やかに行うことができる。
【0013】
(2)(1)に記載する鉄道車両の車体傾斜装置において、前記第1空気流路に設けられた第1遮断弁と、前記第2空気流路に設けられた第2遮断弁とを有すること、軌道の曲線部を通過するときに、内軌側では、前記第2遮断弁を遮断して、前記パッシブ調整弁を働かせ、外軌側では、前記第1遮断弁を遮断して、前記傾斜調整弁を働かせる制御装置を有すること、これらにより、前記パッシブ調整弁の前記調整用リンクが動き始めてから、給排気が始まるまでの遅れ時間を短くしていること、を特徴とするので、曲線部を通過するときに、曲線内軌側をパッシブ調整弁のみで制御しており、パッシブ調整弁の排気弁油圧ダンパ機構のオリフィス径が比較的大きいため、パッシブ調整弁の排気側作動遅れ時間のみを短縮でき、パッシブ調整弁の排気性能を向上させることができる。これにより、曲線部における車体傾斜制御を速やかに行うことができる。
【0014】
(3)(1)または(2)に記載する鉄道車両の車体傾斜装置において、前記パッシブ調整弁の排気流量を、通常の搖動変位以上のみ増加させること、を特徴とする。
一般的に、パッシブ調整弁は、水平復帰時に曲線外軌側の空気バネの排気用として使用されるが、通常走行時の高さ調整のことを考慮すると、排気流量を増加させることはできない。それは、排気流量を増加させると、空気消費量が増大するためである。
そこで、通常の搖動変位以上のみ排気流量を増加させることにより、水平復帰時の排気性能の向上を図っている。これにより、パッシブ調整弁を外軌側で使用するときにも、空気消費量の増加を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施例の給気弁として作用しているパッシブ調整弁6の構造を示す断面図である。
【
図2】本実施例の排気弁として作用しているパッシブ調整弁6の構造を示す断面図である。
【
図3】パッシブ調整弁6が内軌側の排気弁として作用した場合の作動遅れを示す図である。
【
図4】従来のパッシブ調整弁60が内軌側の排気弁として作用した場合の作動遅れを示す図である。
【
図5】従来のパッシブ調整弁60を用いたときの空気バネの給排気量を示す図である。
【
図6】不感帯に対する時間遅れ対策をしていない例の空気バネの給排気量を示す図である。
【
図7】本実施例のパッシブ調整弁6を用いたときの空気バネの給排気量を示す図である。
【
図8】パッシブ調整弁6の給排気特性を示す図である。
【
図9】本発明の車体傾斜装置の基本的構成を示す図である。
【
図10】従来の車体傾斜装置の基本的構成を示す図である。
【
図11】従来のパッシブ調整弁60の構成を示す断面図である。
【
図12】車体傾斜時の遠心力Fによる影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の鉄道車両の車体傾斜装置の一実施の形態について、図面を参照しながら、詳細に説明する。
車体傾斜装置の基本的構成を、
図9に示す。
図10に示した従来の構成とほとんど同じであるので、同じ構造の部材については、同一の番号を使用し、相違する構成のみ番号を変えて説明する。
台車3に載置され車体2を支持すために左右に配置された空気バネ4、空気バネ4に各別に空気を給排気する第1空気流路7に設けられ、第1支柱28に回動可能に保持された調整用リンク5が水平に取り付けられたパッシブ調整弁6と、パッシブ調整弁6と直列に配置された第1遮断弁8と、空気バネ4に各別に空気を給排気する第2空気流路11に設けられ、第2支柱29に回動可能に保持された調整用リンク9が傾斜して取り付けられた傾斜調整弁10と、傾斜調整弁10と直列に配置された第2遮断弁12を有している。
図9においては、調整用リンク5は、水平状態にあり、調整用リンク9は、傾斜した状態にある。
【0017】
図1及び
図2に、本実施例のパッシブ調整弁6の構造を断面図で示す。
図1のパッシブ調整弁6の構造も
図11に示したパッシブ調整弁60の構造とほとんど同じであるので、同じ構造の部材については、同一の番号を使用し、相違する構成のみ番号を変えて説明する。傾斜調整弁10自体の構成は、パッシブ調整弁6と同じである。
図1は、パッシブ調整弁6が給気弁として作用している時の状態を示し、
図2は、パッシブ調整弁6が排気弁として作用している状態を示す。
【0018】
パッシブ調整弁6は、本体16と、主軸17と、給気弁18と、排気弁19と、オイルダンパ20とを備えている。給気弁18と排気弁19とは、本体16を貫通すると共に第1空気流路7に連結される通路によって連結されている。給気弁18及び排気弁19は、バネの反力により第1空気流路7への通路が閉塞されるように構成されている。排気弁19は、先端部に小径部19bが形成され、それに続いて中径部19aが形成されている。中径部19aの直径は、内周面より小さく、内周面との間に隙間が形成されている。給気弁18の一方のポートは。給気流路15に連通している。排気弁19の一方のポートは、大気に開放される排気流路14に連通している。
また、オイルダンパ20は、ピストン21と、ピストン21に連結すると共に逆流防止の機能を有するチェック弁22、24と、チェック弁22、24の背後に設けられた背室36、37と、背室36、37に連通する小径部であるダンパキャップ23、25とを備えており、これらが油中に浸漬されている。
【0019】
また、ダンパキャップ23には、主軸室35と連通するオリフィス31が設けられている。同様に、ダンパキャップ25には、主軸室35と連通するオリフィス32が設けられている。
また、
図1の状態で背室37と主軸室35とを連通する連通路34が設けられている。
図2の状態では、連通路34は塞がれており、背室37と主軸室35とは遮断されている。
また、
図2の状態で背室36と主軸室35とを連通する連通路33が設けられている。
図1の状態では、連通路33は塞がれており、背室36と主軸室35とは遮断されている。
ここで、パッシブ調整弁6の排気弁油圧ダンパ機構のオリフィス32のオリフィス径は、パッシブ調整弁6の給気弁油圧ダンパ機構のオリフィス31のオリフィス径より大きく形成されている。
【0020】
主軸17は、第1支柱28に回動可能に連結された調整用リンク5に、回動可能に保持されている。これにより、車体2の高さ変化に追随して調整用リンク5の傾斜角度が変化すると、主軸17はその傾斜角度の変化に伴って回動される。ここで、主軸17は、調整用リンク5に対して正逆のねじりバネを介して取着されており、正逆方向いずれの方向に対しても、各々のねじりバネの付勢力により中立点に復帰するように構成されている。
また、主軸17の上部には上側突起部44が、主軸17の下部には下側突起部45が、各々形成されている。上側突起部44が、給気弁18又は排気弁19のバネに抗する抗力を与えることで、給気弁18又は排気弁19を開閉させると同時に、下側突起部がピストン21を左右方向に移動させる。
【0021】
次に、上記構造を有するパッシブ調整弁6の作用について説明する。始めに、
図1に示すように、パッシブ調整弁6が給気弁として作用している場合について説明する。
図1においては、給気弁18が開通されており、排気弁19が閉じられている。すなわち、調整用リンク5が正方向へ上昇傾斜されることで主軸17が図中反時計回りに回動して、主軸17の下部に設けられた下側突起部45が、ピストン21を右方向へ移動させる。ピストン21の右側にあるチェック弁22は、右から左方向への油の逆流を防止し、左から右方向への流れは許可しているため、ピストン21の背室36とダンパキャップ23が油圧室となる。
このときには、ダンパキャップ23に設けられたオリフィス31によって、油の流れが制限されるため、ダンパの効果を得ることができる。そして、オリフィス31を油が通過する抵抗によって、パッシブ調整弁6に一定の作動時間遅れを発生させている。ピストン21、ダンパキャップ23、及びオリフィス31により、給気側油圧ダンパ機構を構成している。
【0022】
次に、
図2に示すように、パッシブ調整弁6が排気弁として作用する場合について説明する。
図12に示すように、軌道の曲線部を通過するときに、本実施例の制御装置は、内軌側では、
図9に示す第2遮断弁12を遮断して、パッシブ調整弁6を働かせ、外軌側では、第1遮断弁8を遮断して、傾斜調整弁10を働かせる。
図2においては、給気弁18が閉じられており、排気弁19が開放されている。すなわち、調整用リンク5が負方向へ下降傾斜されることで主軸17が図中時計回りに回動して、主軸17の下部に設けられた下側突起部45が、ピストン21を左方向へ移動させる。ピストン21の左側にあるチェック弁24は、左から右方向への油の逆流を防止し、右から左方向への流れは許可しているため、ピストン21の背室37とダンパキャップ25が油圧室となる
このときには、ダンパキャップ25に設けられたオリフィス32によって、油の流れが少し制限されるが、オリフィス32のオリフィス径は、パッシブ調整弁6の給気弁油圧ダンパ機構のオリフィス31のオリフィス径より大きいため、オリフィス32を油が通過する抵抗は小さく、パッシブ調整弁6が排気弁として作用しているときには、作動時間遅れが小さい。ピストン21、ダンパキャップ25、及びオリフィス32により、排気側油圧ダンパ機構を構成している。
【0023】
次に、車体傾斜装置において、パッシブ調整弁6が排気弁として作用しているときに、作動遅れを小さくした場合の効果について説明する。
図4に、従来のパッシブ調整弁60が内軌側の排気弁として作用した場合の作動遅れを図解して示す。
図4の(c)に示すように外軌側空気バネが変位したときの、内軌側空気バネの変位を(b)に示す。(a)の横軸は時間経過を示し、縦軸は車体傾斜角度を示している。(b)、(c)の横軸は時間経過を示し、縦軸は変位量を示している。
内軌側空気バネの排気は、パッシブ調整弁60により行われているため、内軌側空気バネの変位が、パッシブ調整弁60の不感帯Hを通過した後には、パッシブ調整弁60の排気弁油圧ダンパ機構のオリフィス32の抵抗により油が排出されるのに時間がかかるため、作動遅れ時間T2が発生していた。
【0024】
図3に、本発明の車体傾斜装置のパッシブ調整弁6が内軌側の排気弁として作用した場合の作動遅れを図解して示す。
図3の(c)に示すように外軌側空気バネが変位したとき(
図4(c)と同じ変位量である)の、内軌側空気バネの変位を(b)に示す。(a)の横軸は時間経過を示し、縦軸は車体傾斜角度を示している。(b)、(c)の横軸は時間経過を示し、縦軸は変位量を示している。内軌側空気バネの排気は、パッシブ調整弁6により行われているため、内軌側空気バネの変位が、パッシブ調整弁6の不感帯を通過した後には、パッシブ調整弁6の排気弁油圧ダンパ機構のオリフィス32の抵抗が小さく油が排出されるのに時間がかからないため、作動遅れ時間T1(約T2の6分の1)に減少している。
これを車体傾斜制御時間でみると、
図4(a)に示すように、車体傾斜角を所定値にするのに、従来はT4秒かかっていたが、
図3(a)に示すように、本実施例によれば、T3秒に短縮できる。
【0025】
次に、通常時の空気バネのハンチングについて説明する。
図6に、不感帯に対する時間遅れ対策をしていない例の空気バネの給排気量を示す。(a)の横軸は時間経過を示し、縦軸は給排気量を示している。(b)の横軸が時間経過を示し、縦軸が変位量を示す。図に示すように、空気バネの変位aと、パッシブ調整弁の変位bは一致している。この場合には、(a)に示すように、給排気量の変化により空気バネ変位にハンチングが発生する。
次に、
図5に、従来のパッシブ調整弁60を用いたときの空気バネの給排気量を示す。(b)に、空気バネの変位aと、パッシブ調整弁60の変位bを示す。この場合、(a)に示すように、給排気量の変化がなく、空気バネの変位にハンチングは発生していない。
次に、
図7に、本実施例のパッシブ調整弁6を用いたときの空気バネの給排気量を示す。(b)に、空気バネの変位aと、パッシブ調整弁6の変位bを示す。この場合、(a)に示すように、給排気量において、給排気の一方にのみ作動時間遅れがある場合には、空気バネの変位のハンチングは発生しないことを確認している。
【0026】
次に、パッシブ調整弁6の給排気特性のグラフを
図8に示す。本実施例のパッシブ調整弁6では、排気領域において、通常の動揺変位以下の領域では、排気量を通常量aとし、通常の動揺変位以上の領域では、排気量を増大させてbとしている。
具体的には、排気弁19は、先端部に小径部19bが形成され、それに続いて中径部19aが形成されている。中径部19aの直径は、内周面16aより少し小さく、内周面16aとの間に隙間が形成されている。これにより、中径部19aが内周面16aの中央付近に位置するときには、排気量aが維持される。そして、中径部19aが内周面16aから外れ方向に移動すると共に、排気量は増加し、中径部19aが内周面16aから外れると、排気量bが維持される。
なお、車両が直線走行時には、パッシブ調整弁60の主軸17は、中立の位置、すなわち、主軸17の上側突起部44は、給気弁18と排気弁19のどちらも押していない状態であり、調整用リンク5が水平の状態にある。
【0027】
以上詳細に説明したように、本実施例の鉄道車両の車体傾斜装置によれば、(1)台車3に載置され車体2を支持する空気バネ4と、空気バネ4に空気を給排気する第1空気流路7に設けられ、調整用リンク5が水平に取り付けられたパッシブ調整弁6と、空気バネ4に空気を給排気する第2空気流路11に設けられ、調整用リンク9が傾斜して取り付けられた傾斜調整弁10とを有する鉄道車両の車体傾斜装置において、パッシブ調整弁6と傾斜調整弁10は各々、給気弁18と、排気弁19と、給気弁油圧ダンパ機構21、23、31と、排気弁油圧ダンパ機構21、25、32を有すること、パッシブ調整弁6の排気弁油圧ダンパ機構21、25、32のオリフィス32の径が、パッシブ調整弁6の給気弁油圧ダンパ機構のオリフィス31のオリフィス径より大きいことを特徴とするので、曲線部を通過するときに、曲線内軌側をパッシブ調整弁6のみで制御しており、パッシブ調整弁6の排気弁油圧ダンパ機構のオリフィス32の径が比較的大きいため、パッシブ調整弁6の排気側作動遅れ時間のみを短縮でき、パッシブ調整弁6の排気性能を向上させることができる。これにより、曲線部における車体傾斜制御を速やかに行うことができる。
【0028】
(2)(1)に記載する鉄道車両の車体傾斜装置において、第1空気流路7に設けられた第1遮断弁8と、第2空気流路11に設けられた第2遮断弁12とを有すること、軌道の曲線部を通過するときに、内軌側では、第2遮断弁12を遮断して、パッシブ調整弁6を働かせ、外軌側では、第1遮断弁8を遮断して、傾斜調整弁10を働かせる制御装置を有すること、これらにより、パッシブ調整弁6の調整用リンク5が動き始めてから、給排気が始まるまでの遅れ時間を短くしていること、を特徴とするので、曲線部を通過するときに、曲線内軌側をパッシブ調整弁6のみで制御しており、パッシブ調整弁6の排気弁油圧ダンパ機構のオリフィス32の径が比較的大きいため、パッシブ調整弁6の排気側作動遅れ時間のみを短縮でき、パッシブ調整弁6の排気性能を向上させることができる。これにより、曲線部における車体傾斜制御を速やかに行うことができる。
【0029】
(3)(1)または(2)に記載する鉄道車両の車体傾斜装置において、パッシブ調整弁6の排気流量を、通常の搖動変位以上のみ増加させること、を特徴とする。
一般的に、パッシブ調整弁6は、水平復帰時に曲線外軌側の空気バネ4の排気用として使用されるが、通常走行時の高さ調整のことを考慮すると、排気流量を増加させることはできない。それは、排気流量を増加させると、空気消費量が増大するためである。
そこで、通常の搖動変位以上のみ排気流量を増加させることにより、水平復帰時の排気性能の向上を図っている。これにより、パッシブ調整弁6を外軌側で使用するときにも、空気消費量の増加を防止できる。
【0030】
本発明の鉄道車両の車体傾斜制御装置については、上記実施の形態に限定されることなく、色々な応用が可能である。
【符号の説明】
【0031】
4 空気バネ
5 調整用リンク
6 パッシブ調整弁
8 第1遮断弁
9 調整用リンク
10 傾斜調整弁
12 第2遮断弁
21 ピストン
23 ダンパキャップ
31 オリフィス
32 オリフィス