(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-74172(P2017-74172A)
(43)【公開日】2017年4月20日
(54)【発明の名称】医療用体位保持マット
(51)【国際特許分類】
A61G 13/12 20060101AFI20170331BHJP
A61B 5/055 20060101ALI20170331BHJP
A61B 6/03 20060101ALI20170331BHJP
A61B 90/10 20160101ALI20170331BHJP
【FI】
A61G13/12 B
A61B5/05 390
A61B6/03 323P
A61B19/00 510
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-202704(P2015-202704)
(22)【出願日】2015年10月14日
(71)【出願人】
【識別番号】591189812
【氏名又は名称】エンジニアリングシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(72)【発明者】
【氏名】左治木 修
【テーマコード(参考)】
4C093
4C096
4C341
【Fターム(参考)】
4C093AA22
4C093ED12
4C096AA20
4C096EB07
4C341MN12
4C341MS03
(57)【要約】
【課題】 診断、治療などの医療行為の際に被験者、患者の体位を安定に保持する。
【解決手段】 気密性袋2と自己形状保持層3とからなる医療用体位保持マットである。気密性袋2は、人体の体位を支える体位保持マット1のカバーである。自己形状保持層3は気密性袋2内に収容されたマット1の内装材であり、表面に粘着性を有する粒状体Pの積層によって形成され、常温で塑性変形可能であり、外力を加えることによって変形し、その変形形状を保持する層である。予め固定すべき人体の特定部位の形状を象って自己形状保持層3を変形させておき、例えば変形させたマットの凹所である頸部受入用溝5、頭部受入用窪み6内に人体の頭部H、頸部Nを受け入れ、気密性袋2内を脱気してマット1を固化させ、被験者又は患者の頭部を固定し、診断あるいは施術中、一定の体位に安定に保持する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気密性袋と自己形状保持層とからなる医療用体位保持マットであって、
気密性袋は、人体の体位を支えるマットのカバーであり、ガスバリア性を有し、脱気用の排気弁が取り付けられ、
自己形状保持層は、表面に粘着性を有する粒状体の積層によって形成され、常温で塑性変形可能であり、外力が加えられることによって変形し、その変形形状を保持する層であり、マットの内装材として気密性袋内に収容されたものであることを特徴とする医療用体位保持マット。
【請求項2】
前記自己形状保持層は、人体の特定部位を受け入れるに先だってマットの上面に固定すべき部位を受け入れに必要な形状の凹所を形成する層であり、
前記凹所は前記気密性袋の上から前記自己形状保持層の部分を押さえて変形させることによって形成するものであることを特徴とする請求項1に記載の医療用体位保持マット。
【請求項3】
前記自己形状保持層は、無負荷時には一定形態をなす粒状体の積層体であり、自己形状保持層を形成する前記粒状体の表面の粘着性は、外力が加えられたときに粒状体間に作用するせん断力で粒状体に滑りを生じさせ、自己形状保持層を外力の大きさ、方向に応じて変形させるとともにその変形形状を保たせるものであることを特徴とする請求項1に記載の医療用体位保持マット。
【請求項4】
前記自己形状保持層を形成する前記粒状体の表面の粘着性は、適度の粘着性を有する半固体状の物質をコーティング剤として粒状体の表面に付着あるいは粒状体の積層に混和することによって付与されたものであることを特徴とする請求項1に記載の医療用体位保持マット。
【請求項5】
前記コーティング剤のちょう度はJIS2220に規定された混和ちょう度が85以上475以下のグリース組成物であることを特徴とする請求項4に記載の医療用体位保持マット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はMRIなどの画像診断、放射線治療、各種外科手術などの医療行為の際に被験者あるいは患者の体位を一定に保持する医療用体位保持マットに関する。この明細書において、「体位」とは体の特定の位置、姿勢を意味する用語として用いている。
【背景技術】
【0002】
例えば、MRI画像診断や放射線治療の場合に、診断あるいは治療中は、被験者、患者の人体の特定の部位を動かないように固定して人体を一定の姿勢に保持しておくことが必要である。
従来より、物品の包装用あるいは支持用のマットとして脱気用の排気弁を備えた気密性の袋内に粒状体の定量を内装材として気密性袋内に空気とともに収容したタイプのマットが知られている。
【0003】
このタイプのマットによれば、マットの気密性袋の上面に物品を載せると、物品の重みで袋の一部に窪みが形成され、そのまま袋内の空気を排出すれば粒状体の充填密度が増大し、袋が物品の形状の一部を象って固化するため、袋上に物品を安定に支えることができる。
【0004】
このタイプのマットは、物品の支持や包装用として利用されるだけでなく、人体のクッションとしても利用されており、さらには、医療の分野でも注目され、画像診断、あるいは外科手術などを行う際の医療用体位保持用としての活用が期待されている(特許文献1、2参照)。
【0005】
上記形式のマットを人体の特定の部位を一定時間動かないように固定して診断、あるいは手術などの目的に使用するマットを医療用体位保持マットという。(以下説明を簡単にするため、単にマットと略称することがある)
【0006】
図7(a)に(図示略)を備えた気密性の袋12内に粒状体Pの定量を空気とともに収容した体位保持マット11の1例を示す。
【0007】
被験者Mが上向き姿勢でベッドB上に横臥したときには、頭部HをベッドB上で少し持ち上げて正しい姿勢となる。したがって、この姿勢を保とうとすると、頭部HとベットBの表面の間に高低差が生じることになる。
【0008】
体位保持マット11はベッドBと頭部Hとの間の高低差を埋めて体位を安定させるために使用するのであるが、従来の体位保持マット11の気密性袋12内に封入された粒状体Pは、合成樹脂製のため、滑りやすく、適量を一定高さに積み上げようとしても積み上げた粒状体Pは
図8のようにサラサラと流れてなだらかな山形に戻ってしまい、十分な立上がり高さを確保できない。
【0009】
図7(a)において、体位保持マット11を枕としてその上面に頭部Hをのせ、空気ポンプを用いてマット11の気密性袋12内を脱気すると、マット11と頭部H及び頸部Nとの間の隙間dが残されたまま固化し、頭部Hは、後頭部の僅かな部分体位保持マット11のマット面に支えられるものの頭部Hの両側や頸部Nの両側は
図7(b)、(c)のようにマット面に支えることができない。
図7(a)中、頭部Hおよび頸部Nとマット11面との間の隙間を破線dで示している。
【0010】
もっとも、
図9(a)のように体位保持マット11の一部を頸部Nと頭部Hに押し付けた状態で脱気すれば、
図9(b)、(c)のように頭部Hの両側や頸部Nの両側に密着させた状態で固化することはできるが、体位保持マット11の底の一部や両側縁が持ち上げられることになってベッド上での体位保持マット11の支持が不安定となり、頭部Hを定位置に安定させることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−29249
【特許文献2】特開2009−112380
【特許文献3】特開2000−93258
【特許文献4】特開平11−113686
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
解決しようとする問題点は、一般に合成樹脂製の粒状体は滑りやすく、適量を一定高さに積み上げようとしても積み上げたビーズがサラサラと流れてなだらかな山形に戻ってしまい、十分な立上がり高さを確保できない点、また、体位保持マットの一部を人体に押し付けた状態で袋内を脱気すれば、体位保持マットを人体に密着させた状態で固化することはできるが、ベッド上での体位保持マットそのものの支持が不安定となって体位を安定させることができないという点である。
【0013】
このような問題は頭部の保持だけに限らない。体位保持マットを用いて手足を一定角度で曲げた姿勢でベッド上に固定する場合や腰部をベッド上に固定する場合などにおいても同様の問題が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、体位保持マットに自己形状保持機能を保有させることによって人体の安定保持を可能にしたものである。粒状体はその粘着の程度によって粘土のように塑性変形が可能である。体位保持マットの自己形状保持機能は、外力が加えられることによって変形し、外力が除かれた後もその変形形状を保持する機能であり、粘着性を有する粒状体の積層をマットの内装材として気密性袋内に収容することによって得られる。
【発明の効果】
【0015】
気密性の袋内に高粘度の液体を表面に付着させた粒状体を封入した例は例えば特許文献3、4などにも見られるが、いずれも粒状体の流動性を高め、例えば枕に用いて頭部の形状に添わせ、さらには頭部の動きに追従して変形させるという試みのものである。これに対し、本発明によれば、適度な粘着性が付与された粒状体の積層を気密性袋内で立ち上げて自由な形状に変形させることができ、立上がり部分間に形成される凹所内に人体の特定部位を受け入れ、あるいは立上がり部分を衝立とし、衝立の間に形成される凹所内に人体の特定部位を支え、次いで気密性袋内を脱気し、粒状体の積層を加圧すると、マットは人体の特定部位の形状を象って固化するため、マットをベッド上に安定に着座させた状態でマットの立上がり部分を固定し、診断または施術中被験者、患者の体位を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明による医療用体位保持マットの一部断面斜視図である。
【
図3】表面に粘着性を有する物質を付着させた粒状体の積層を示す図である。
【
図4】表面に粘着性を有する物質を付着させた粒状体の積層に外力が加えられることによってその積層が変形し、外力が除かれた後もその変形形状を保持している状態を示す図である。
【
図5】マットの表面から手指で力を加えて粘着性を有する物質を付着させた粒状体の積層に頭部を受け入れる凹所を形成している状態を示す図である。
【
図6】(a)は本発明による体位保持マットの上面に形成された凹所内に頭部を受け入れて気密性袋内を脱気し、マットを固化した状態を示す断面図である。(b)は(a)のx1−x1線断面図、(c)は(a)のx2−x2線断面図である。
【
図7】(a)は従来の体位保持マットの上面に内に頭部及び頸部を支えて気密性袋内を脱気し、マットを固化した状態を示す断面図である。(b)は(a)のy1−y1線断面図、(c)は(a)のy2−y2線断面図である。
【
図8】マット内の粒状体を積み上げてもサラサラと流れてなだらかな山形に戻り、十分な立上がり高さを確保できない状況を示す図である。
【
図9】(a)は従来の体位保持マットを人体の頭部及び頸部に押し付けた状態でマットの上面に形成された凹所内に頭部及び頸部を受け入れて気密性袋内を脱気し、マットを固化した状態を示す断面図である。(b)は(a)のz1−z1線断面図、(c)は(a)のz2−z2線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1において、本発明による体位保持マット1は、マットのカバーとなる気密性袋2と、気密性袋2内にマットの内装材として充填した常温で塑性変形可能な自己形状保持層3とからなり、気密性袋2の空気の吸排気管には気密性袋2内の脱気に用いる排気弁4が装着されている。
【0018】
本発明において、常温で塑性変形可能な自己形状保持層3は、例えば気密性袋2内に充填された定量の各粒状体Pに適度な粘着性を付与することによって得られる。自己形状保持層3と気密性袋2との間には当然ながら自己形状保持層3の変形を受け入れるために必要なスペースが確保されていることが必要である。
【0019】
(1)マットのカバーに用いる気密性袋について
マットのカバーに用いる気密性袋2の生地は気密を要するほか、粒状体Pに粘着性を付与したときには粘着性を付与のために用いられる粘着性を有する物質の染み出しがなく、マットのカバーとして人体に違和感のない柔軟な材質の生地を用いることが望ましい。
【0020】
上記条件を満たす生地は、たとえば、化学繊維からなる2WAY生地の片面に対し、フィルム状に樹脂をコーティングあるいはラミネートして生地にガスバリア性を付与することによって得られる。生地には耐久性が要求されることからナイロン生地が望ましく、生地にコーティングあるいはラミネートするフィルムには生地に溶着しやすいPV(塩化ビニル)、PU(ポリウレタン)が適している。
【0021】
生地の厚さは柔軟性に大きく影響する。柔軟性を高めるには薄いほうが望ましいが、マットのカバーとしての必要な強度やガスバリア性を考慮しておよそ1mm〜0.2mm程度に設定するのが好ましい。また、CT検査やMRI検査に備えてX線を透過しやすく、また非磁性体の材質が選定されていることが望まれる。
【0022】
(2)常温で塑性変形可能な自己形状保持層
本発明において、前記自己形状保持層3は人体の特定部位を受け入れるに先だってマットの上面に固定すべき部位を受け入れに必要な形状の凹所を形成する層であり、常温で塑性変形可能な自己形状保持層3は、たとえば、粘土に力を加えて変形させたとき、その形が保たれるような塑性変形が可能な性質を有する層の意味である。
【0023】
このような性質を有する層は、
図3に示すように表面に粘着性を有する粒状体Pの積層によって得られ、表面の粘着性は、粒状体Pの表面に適正に粘着性を有する物質を付着させることによって付与できるが、もともと表面に粘着性を有する粒状体であればそのまま使用できる。
【0024】
(2−1)粒状体
粒状体Pのサイズ、形状、硬さには制約がなくどのようなものであっても用いることができるが、マットの内装材として人体の特定部位の形状に正確にフィットさせるには可能な限り粒径が小さいほうが望ましい。さらに取扱上や人体の特定部位の形状にフィットさせる操作の上からは軽量であることが望ましいことから、合成樹脂発泡体の粒子が適しており、特にPS(ポリスチレン)、PE(ポリエチレン)発泡体の粒子が適している。
【0025】
人体の特定部位の形状保形を優先させる場合には低発泡倍率のPS樹脂発泡体が適し、クッション性を優先させる場合には高発泡倍率のPU、PE樹脂発泡体を用いるが、勿論これらの樹脂をブレンドして中間的な性質を持たせることができる。
【0026】
(2−2)粒状体の粘着性
粒状体Pの表面には適度の粘着性が付与され、その積層によって自己形状保持層を形成している。粒状体Pの表面に粘着性を有する物質を付着させることにより、互いに隣接する粒状体P同士が一体化して常温で塑性変形可能な自己形状保持層3となる。
【0027】
自己形状保持層3は、無負荷時には一定形態をなす粒状体Pの積層体である。自己形状保持層3を形成する前記粒状体Pの表面の粘着性は、外力が加えられたときに粒状体P間に作用するせん断力で粒状体Pに滑りを生じさせ、自己形状保持層3を外力の大きさ、方向に応じて変形させるとともにその変形形状を保たせるものである。
【0028】
マット1の気密性袋2の大きさや気密性袋2内に充填する粒状体Pの充填量は特に制約されるものではない。一定の容積内で粒状体の充填量が多いほど自己形状保持層3が厚くなり、自己形状保持層3は外力を加えられることによって粒状体P間に作用するせん断力を受けて変形し、外力が除かれたのちも、少なくともしばらくは
図4に示すようにその変形形状に保形されれば、自己形状保持層3の変形によってマットの表面一部に人体の特定部位の受け入れに必要な凹所として窪み、溝などを形成できる。
【0029】
被験者又は患者の全身の体動を抑制し、一定の体位を保持させるにはマットには被験者又は患者の身体を受け入れる大きさが必要であり、人体の特定部位、例えば頭部と頸部の体位を保持させるには、頭部と頸部を受け入れる大きさの面積を有するマットであればよい。
【0030】
(2−3)コーティング剤
粒状体に粘着性を付与するために使用するコーティング剤aは以下の性質を有することが望ましい。
(イ)ちょう度:コーティング剤のちょう度は、JIS2220に規定された混和ちょう度が85以上475以下のグリース組成物であることが好ましい。混和ちょう度が85未満であると、硬すぎてグリース組成物の流動性が悪くなり、混和ちょう度が475を超過すぎると軟らかすぎて一定の形状を保持することが難しくなる。グリース組成物の混和ちょう度を85以上475以下の範囲の数値に設定することによって粒状体Pの積層に適度の揺変性を与え、無負荷状態で自立して流動せず、何らかの力が加わることによって流動する性質を発現させることによって、外力の大きさ、方向に応じて変形し、外力(負荷)が解除された後その変形形状を保持させることができる。
(ロ)毒性がなく化学的に安定であること。粒状体及びマットの気密性袋を劣化させないことが必要である。
(ハ)揮発しにくく、経時的な物性(特に粘度)の変化が少ないこと。
(ニ)耐熱性、耐放射線性に優れること。CT撮影など放射線環境で使用される場合に備えて耐放射線性を有することは重要である。
【0031】
以上(イ)〜(ニ)の条件を比較的満たしているコーティング剤aとしてシリコーングリスがある。シリコーングリスは入手が容易であり、コスト面においてもメリットがある。以下の実施例ではコーティング剤aにシリコーングリスを用いた。
もっとも、使用する粒状体Pがその性質上その表面に自己形状保持が可能な粘着性を有しているものであれば、あえてコーティング剤を使用するまでもなくそのまま自己形状保持層に使用できる。表面に粘着性を有する粒状体としては、例えばウレタン他、各種高分子材料を原料とした固体の粘着性ゲルを球あるいはチップなどの細かい粒状体に加工しあるいは成形したものや、表面に弱い粘着性を有する硬度の低いゴム球(合成ゴム、天然ゴム各種)などが考えられる。
【実施例】
【0032】
以下に本発明の実施例として例えばMRI画像診断を受ける被験者の特定の体位、この実施例ではマット上に頭部と頸部をささえて一定の体位を保持させる例を説明する。
【0033】
図2は、
図1に示す体位保持マット1のX−X線断面図である。マット1内のカバーである気密性袋2内には表面に粘着性を有する粒状体Pの積層によって形成された自己形状保持層3がマットの内装材としてほぼ一定の厚みで充填されている。
【0034】
被験者が上向きの姿勢で横臥したときに被験者の頭部は肩部から上掲方向に延びる頸部に支えられるのが無理のない姿勢である。画像診断は、被験者Mが動かないようにマットの面に固定し、その姿勢を保たせて診断を行うが、マットの面に被験者の特定部位を受け入れるに先だって
図5に示すようにマット1の表面に被験者Mの特定部位である頸部Nと頭部Hとを受け入れるための凹所を形成する。凹所は気密性袋2の上から自己形状保持層3の特定の部分を手指7を押さえて変形させることによって形成できる。
【0035】
図5において、まず、人体の特定部位である頸部Nを受け入れるための凹所として、マット2の端縁からなめらかな角度で上掲する傾斜面とその両側の立上がり部分からなる頸部受入用溝5を形成する。次に頭部Hを受け入れるための凹所として頸部受入用溝5の終端から先の一定範囲を湾曲凹面に変形させ、マットの上面に人体の特定部位である頭部Hの形状を象った形状の窪み6を形成する。頸部受入用溝5および頭部受入用窪み6の形状はかならずしも被験者Mの頸部Nや頭部Hの形状を正確に象る必要はなく、頭部、頸部の概略の形状を象っているものであればよい。
【0036】
いずれにしても頸部受入用溝5および頭部受入用窪み6は、常温で塑性変形可能な自己形状保持層3によって形成されたものであるため、溝5や窪み6の深さを深くしてもてほとんど型崩れが生じることがなく、外力を加えることによって形成されたままの形状に保形される。
【0037】
図6において、被験者MはベッドB上に仰向けに横たわり、その枕の位置に頸部受入用溝5および頭部受入用窪み6を形成した体位保持マット1を置き、被験者Mの頸部Nを頸部受入用溝5内に受け入れ、頭部Hを頭部受入用窪み6内に受け入れて後頭部を頭部受入用窪み6のマット面に支え、頸部受入用溝5及び頭部受入用窪み6の形状を被験者の頭部、頸部の形状に可能な限り沿わせ、次いで脱気用の排気弁4に空気ポンプ(図示略)を差し込んで気密性袋2内を脱気する。
【0038】
気密性袋2内が減圧されると、気密性袋2内の粒状体Pの充填密度が増大し、気密性袋2の減容によって自己形状保持層3が被験者Mの頭部Hの形状になじんで変形し、被験者Mの頭部Hは、後頭部はもとより、窪み6の立上がり高さの範囲内で
図6(a)、(b)のように頭部Hは頭頂部と両側頭部の一部が窪み6内に受け入れられて固定される。
【0039】
また、被験者Mの頸部Nも同様に
図6(a)、(c)のように後頸部から側頸部にかけて頸部受入用溝5の立上がり高さ内に受け入れられて固定される。
被験者Mの頭部Hおよび頸部Nを固定することによって、被験者Mの体動が抑制され、マットをベッド上に押し付けた状態で頭部HのCT、MRI,PETなどの画像診断の時間中、頭部H、頸部Nを含めて被験者の体位を安定に保持することができる。
【0040】
以上の操作はCT、MRI,PETなどの画像診断の場合の人体の体位の安定保持に限らず、放射線治療その他外科治療を行う場合に人体の頭部をベッドに固定するための要領は同じである。勿論人体の頭部の固定に限らない。手足その他の部位を一定角度で曲げた姿勢でベッド上に安定に固定保持することができる。さらには全身の固定にも適用することもできる。
【0041】
本発明によれば、体位保持マット1の気密性袋2内に充填された自己形状保持層3を予め人体の特定部位の形状を象って変形させてマット面に凹所を形成し、その凹所内に人体の特定部位を受け入れて袋内を脱気したときに、自己形状保持層3が気密性袋に加圧されて収縮しつつ窪み内に受け入れた人体の特定部位の形状を倣って変形するため、体位保持マット1を安定にベッド上に定着させた状態で人体に密着させて一定の姿勢で安定に保持することができるのである。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、CT、MRI、PETなどの画像診断、放射線治療その他各種外科手術を含む診断および施術などの医療行為において、被験者、患者の体動を抑制し、一定の体位を保たせる必要がある場合に広く適用が可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 体位保持マット、2 気密性袋、3 自己形状保持層、4 排気弁、5 頸部受入用溝、6 頭部受入用窪み、7 手指、P粒状体、M 被験者、H 頭部、N 頸部、B ベッド、a コーティング剤