特開2017-74664(P2017-74664A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-74664(P2017-74664A)
(43)【公開日】2017年4月20日
(54)【発明の名称】円形切断器具
(51)【国際特許分類】
   B26D 3/10 20060101AFI20170331BHJP
   G01N 1/06 20060101ALI20170331BHJP
   B26D 3/00 20060101ALN20170331BHJP
【FI】
   B26D3/10 E
   G01N1/06 A
   B26D3/00 601Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】書面
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2015-215103(P2015-215103)
(22)【出願日】2015年10月14日
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ピナクル
(71)【出願人】
【識別番号】301059743
【氏名又は名称】有限会社シバタシステムサービス
(72)【発明者】
【氏名】柴田 和博
【テーマコード(参考)】
2G052
【Fターム(参考)】
2G052AA18
2G052AA28
2G052AA33
2G052BA15
2G052EC02
2G052EC23
(57)【要約】
【課題】生体由来の軟組織の薄膜などの切断面をできるだけ損傷させずに簡単に円形切断することができる器具の提案
【解決手段】軟組織に対して作用点を一点にして刃物を切り込ませ、かつ一定面積の切片を簡単に得るために、組織に対して微小な角度をつけた刃物が、一定の円を描いて走行できるように、輪状に固定された底面を備える円柱が、ガイドとなる円筒内を摺動回転する構造になっている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製で同心の嵌り合う外部円筒と内部円柱が摺動回転する構造体とし、前記内部円柱の端面内側に同心の円周溝を備え、刃物を前記円周溝に輪状に固定して成る切断器具。
【請求項2】
前記内部円柱の刃物を装着していない方の端面に同円柱と同心の軸を固定し、前記軸の端にハンドルをつけて被切断物に対して垂直に立て、ハンドルを刃物のある方向に手で押し付けながら回転させることで前記内部円柱に固定した刃物を回転運動させられる請求項1記載の切断器具。
【請求項3】
外部円筒で被切断物を押さえて固定し、かつ、使わないときは前記内部円柱に装着された刃物が前記外部円筒から安全のために突出しないようにバネで前記内部円柱を浮かせる構造を持つ請求項1および2記載の切断器具。
【請求項4】
刃物を固定する際に刃先を円周方向に、内部円柱端面に対して角度をつけることを特徴とする請求項1から3記載の切断器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極めて薄く、かつ軟質の膜を正確に円形に切断する刃物を備えた手動器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
羊膜に代表される生体薄膜や、培養細胞シートはiPS細胞の研究や再生医療に欠かせない素材であり、その生体への移植や、標本作成は、医学やバイオ分野では不可欠な作業であるとされている。羊膜や培養細胞シート、もしくは合成高分子膜などを、ウェット条件かドライ条件に関わらず、適当な大きさに切り抜くことは極めて困難とされ、移植やサンプリングのためにこれら薄膜を供する際に従来の刃物を使うと、膜が引きつれ、皺が寄るなどして、薄膜周辺部の損壊が甚だしく、所期の目的を達成することが難しかった。
【0003】
特にメスやかみそりによる手技では、切り取った形もまちまちで、切断面の損壊が免れず、生体への移植が失敗に終わることも避けられない。さらにポンチやピナクル刃を含むトムソン刃様の器具で打ち抜くと、やはり切断面の潰れが免れない。なお、ポンチは数十mm以上の大きな直径の組織切断には適当でない。また工業分野では、センサーやタッチパネル製造において高分子化合物の薄膜が多用されるが、トムソン刃による圧力をかけた切断では、薄膜周辺にバリやカエリが出るなど、精密な加工に難があった。
【0004】
包埋サンプルの切断などには、特許文献1によるものが知られるが、生きた組織には向かないため、再生医療の施術には供することができない。一方で、刃物が円周上を走るようなものは「サークルカッター」として知られている。これはコンパスに刃物が装着された構造であり、特許文献2に示されるものが一般的である。このようなサークルカッターには「ホールソー」のようなものも発明されている(特許文献3)。いずれにせよ、サークルカッターでは中心軸が必要であり、そこに針や固定部を設けないと、円形に切断できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−54445
【特許文献2】特開2014−172133
【特許文献3】特開2015−174204
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ミクロトームのように、被切断物に対して、刃物が走る方法は、ポンチのように刃物にかける圧力で切るよりも切断面の損壊が少ないことが知られている。これは、刃物が被切断物を切り込む際に、作用点が移動して、面ではなく点で被切断物を切っていくためであり、そのために刃物に傾斜がつけてあることが多い。しかし、それでは直線状に切ることしかできず、また、包埋物のような被切断物に厚みのあるものにしか利用できない。また、包埋物は死んだ組織であり、再生医療には到底供することができない。
【0007】
生体膜や薄膜の切断には、普通、円筒刃のポンチや医療用のメスか、かみそりが用いられる。たとえば、発明者は、これまでにポンチ型組織採取器具(有限会社シバタシステムサービス製の「シバパンチャー」)を開発してきた経緯があり、直径が数ミリのサンプリングには適するが、再生医療に適した直径が数十ミリの面積で切り取りたい場合には向かなかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで考案者は、膜を円形に切り抜くことに主眼を置いて、ミクロトームを環状にするべく薄い刃物を円形に立て、かつ、その刃に緩い斜度を付けて、被切断物に「点」で切り込んでいく作用点を作ることによって、柔らかい被切断物に負荷をかけないで損壊を防ぎつつ、美しく切り取ることを可能にした。この切断方法ならば、被切断物がウェット環境にあるか、ドライ環境にあるかに関わらず、目的を達成することができる。
【0009】
また、本発明の器具によれば、その円の直径を10〜100mm、好ましくは20〜50mm、さらに好ましくは25〜35mmに切断することができる。本発明の形状は円柱であり、さながらピストンとシリンダーのごとく、同心の外部円筒(5)と内部円柱(3)に分かれている。つまり、外部と内部は摺動できる構造であり、内部円柱底面の内側に同心円周の溝を形成し、そこに刃物(4)を輪状に嵌入させて固定している。この円周溝の直径が被切断物(8)の直径となるので、この溝を任意に決定することで被切断物(8)の直径も変えることができる。
【0010】
内部円柱(3)は外部円筒頂から突き出すように軸(6)でハンドル(1)と連結され、作業者がハンドル(1)を内部円柱(3)の円周方向に回すことで、刃物が内部円柱(3)とともに、円の軌跡を描いて走る構造になっている。つまり、外部円筒(5)はこの刃物構造体のガイドとなり、かつ、被切断物(8)に対して垂直に立てることにより、作業者がハンドル(1)を鉛直方向に軽く押しつけつつ回して使うことで、その外装円筒(5)の底面で被切断物(8)を固定する働きがある。なお、内部円柱(3)は外部円筒(5)から抜け落ちないように、円筒(5)内部に段を付けてあり、その位置が本器具の下死点となる。
【0011】
主に生体物質を取り扱うことを考えて、本発明の構成はステンレスもしくはチタンで作られることが好ましく、あらゆる滅菌方法に耐えるものになっている。また、分解して洗浄することも可能にするために極めて簡素な構造になっている。しかしながら、ディスポーザブル(使い捨て)仕様を目的とするならば適宜、プラスチックを材料に用いてもよい。
【0012】
さらに詳しく構造を述べると、本発明の器具を立てた場合に、刃物(4)は被切断物(8)に接触しないように軸(6)にバネ(2)が取り付けられ、刃物(4)が2〜5mm程度、外部円筒(5)の底面より浮き上がるようになっている。さらに、バネ(2)の受け、および軸(6)が不安定にならないように、外部円筒(5)の頂部にねじ式の蓋(7)が装着され、その中央を軸(6)が貫通させられ摺動することでガイドになり、かつ内部円柱(3)の上死点となり抜け止めの働きをする。実際に切り込みを始めるときに、ハンドルを軽く押し込んで刃物を被切断物(8)に接触させ、円周方向に180度程度、回すことで円形切断がなされる。切断の際には被切断物(8)の下に「まな板」的な、刃物を傷めない硬度で、平らな材質のものを敷くことが望ましい。
【0013】
本発明の刃物(4)は一定の、たとえば直径30mmに、内部円柱(3)の底面の内側に溝を切るか、もしくは隙間に挟み込む構造で、薄い鋼製またはステンレス製の刃物(4)を嵌入固定させている。さらに、その刃は少なくとも二枚で構成され、中心角150〜180度につき、それぞれ一枚ずつ円周溝に嵌入固定される。刃物(4)は、被切断物(8)に作用する点を作るために刃先を内部円柱(3)の底面に対し、0.5〜5度程度、好ましくは1〜4度、さらに好ましくは2〜3度の角度をつけて固定される。刃の角度が0.5度未満だと、十分に切り込めず、5度を超えると摩擦が増し、被切断物(8)を損壊させてしまう。その形態は図4に示す。
【0014】
刃物(4)の固定方法は、チャッキングによるが接着によるが、刃角調整や分解洗浄を考えた場合、チャッキングによることが望ましい。チャッキングは、嵌りあう二種類の円筒のクリアランスに刃物を挟み込み、公知の方法で締め付ける方法がある。
【発明の効果】
【0015】
本発明の器具を用いれば、軟質の壊れやすい生体膜であるか、ある程度強度のある高分子化合物の薄膜であるかを問わず、決まった直径の円状に、切断面を損壊させずに容易に切断することができる。また、従来、難しいとされていたウェットな環境での生体膜の、比較的面積の大きい切断も容易に行えるようになった。取り扱いの容易な形状と構造であるために、洗浄や消毒も容易であり、持ち運びも便利で、臨床での作業にも資するものと考えている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】は本発明器具の断面図である。
図2】は本発明器具の下(刃物側)から見た図である。
図3】は本発明器具の被切断物を切断する時の断面図である。
図4】は被切断物を切断している刃物部分の拡大図である
図5】は被切断物の切断時の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。図1は、本発明の断面図であり、図2はそれを刃物側から見た図である。ハンドル(1)を軸方向に押し込むと刃物(4)を装着した内部円柱(3)が図3のごとく飛び出す。ハンドル(1)と内部円柱(3)は軸(6)で連結され、さらに上蓋(7)を軸(6)が貫通し、上蓋(7)は外部円筒(5)にねじ込んで固定されている。つまり、上蓋(7)が軸(6)のガイドになって、内装部(3)と外部円筒(5)との摺動を安定化させているのと同時に、バネ(2)の固定にも役立っている。刃物(4)は内部円柱(3)の端面に輪状に取り付けてあり、その固定は、端面に対し、約2度の傾斜をつけて固定されている。
【0018】
使わないときは、図1の通りに垂直に立てて置き、この状態では刃物(4)はバネ(2)により内部で浮かされているから、外筒(5)が保護体となって、刃物の損傷や危険性を防ぐことになる。使用時も、切ろうとする生体膜に対して図1のように立てて置き、外筒(5)を抑えながら軽くハンドル(1)を軸方向に押し(図3)、次いで、円周方向に180度以上ハンドル(1)を回す。図3の状態で、外筒(5)の底面が膜を抑えているので、膜が刃物(4)の動きに引っ張られることなく、容易に膜が円形に切断される。
【実施例】
【0019】
実際に刃物(4)が被切断物(8)を切り込んでいる様子を模式図としたものが図5である。被切断物(8)に対して、刃物(4)に傾斜がついているために、回転により作用点が進んで切っていく状態がわかる。
【産業上の利用可能性】
【0020】
羊膜などの生体由来の膜は医療での使用が盛んになってきており、傷の治癒、再生医療に有用だとされている。また培養細胞から作られた細胞シートも然りである。iPS細胞から作られるシートが量産される日も近く、その際に、シートの取り扱い器具の一つとして、本発明の切断装置の利用可能性は極めて高いと考えている。
【符号の説明】
【0021】
1 ハンドル
2 バネ
3 内部円柱
4 刃物
5 外部円筒
6 軸
7 上蓋
8 被切断物
図1
図2
図3
図4
図5