(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-75082(P2017-75082A)
(43)【公開日】2017年4月20日
(54)【発明の名称】単結晶シリコンインゴットおよびウェーハの形成方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/06 20060101AFI20170331BHJP
C30B 33/00 20060101ALI20170331BHJP
【FI】
C30B29/06 502G
C30B29/06 502K
C30B33/00
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-115362(P2016-115362)
(22)【出願日】2016年6月9日
(31)【優先権主張番号】201510667035.5
(32)【優先日】2015年10月15日
(33)【優先権主張国】CN
(71)【出願人】
【識別番号】516145552
【氏名又は名称】上海新昇半導體科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(72)【発明者】
【氏名】肖徳元
(72)【発明者】
【氏名】張汝京
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077AB01
4G077BA04
4G077CF10
4G077EA04
4G077EA06
4G077EB01
4G077EJ02
4G077FG12
4G077FG13
4G077GA01
4G077HA12
4G077PA03
4G077UA03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】チョクラルスキー法を用いた単結晶シリコンインゴットからウェーハを形成する際に含有される不純物量を低下させることが可能なインゴット並びにウエーハの製造方法の提供。
【解決手段】溶融した多結晶シリコンに、重水素原子を含むガスを導入して、格子間部位に重水素原子を受け止めさせて、磁場印加チョクラルスキー法を用いて単結晶インゴットを形成する。その結果、シリコンインゴットに含有される酸素、炭素、および他の不純物を減少させることができ、このシリコンインゴットにより形成されたウェーハ上に半導体装置を形成する場合、シリコンウェーハの格子間重水素原子が拡散して、ダングリングボンドと結合してダングリングボンドを減少させ、ホットキャリアに対する抵抗性を増強し、リーク電流を減少させ、そして半導体装置の性能および信頼性を向上させることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶シリコンインゴットを形成するための方法であって、
ルツボ中、重水素原子を含むガスを導入しながら、多結晶シリコン片を溶融する工程、および、
磁場印加チョクラルスキー法を用いてインゴットを形成する工程、を含む、
方法。
【請求項2】
前記ガスは、重水素ガスであることを特徴とする、請求項1に記載の単結晶シリコンインゴットを形成するための方法。
【請求項3】
前記ガスは、重水素ガスとアルゴンガスの混合物であることを特徴とする、請求項1に記載の単結晶シリコンインゴットを形成するための方法。
【請求項4】
前記ガス中の前記重水素ガスとアルゴンガスの比率は、0.1%〜99%内であることを特徴とする、請求項3に記載の単結晶シリコンインゴットを形成するための方法。
【請求項5】
磁場印加チョクラルスキー法を用いてインゴットを形成する前記工程は、さらに、前記ルツボ中、所定の温度で、前記ガスを配合した前記多結晶シリコン片を溶融する工程、該溶融した多結晶シリコン片に着液した種結晶を、所定の引上げ速度で引上げて、単結晶を育成し、および該単結晶のネック長が所定の長さに達したら、該引上げ速度を減速し、これにより肩段階へと移行する工程、該肩段階において該減速した引上げ速度で、線形冷却率を維持し、これにより、該インゴットについて予め定めた直径を形成させ、次いで直胴部の育成段階に移行する工程、および、該インゴットの該直径が該所定の直径に到達したら、冷却しながら、ただし線形冷却は止めて、該単結晶を迅速に引上げ、ルツボをある持上げ速度で持上げ、これにより該直径の変化率に従って該引上げ速度をゆっくりと調整し、自動直胴部育成プログラムを実行し、これにより、該インゴットの該直径を安定させた後に、自動直胴部育成段階に移行する工程、を含むことを特徴とする、請求項1に記載の単結晶シリコンインゴットを形成するための方法。
【請求項6】
前記インゴットの直径は、前記引上げ速度および前記所定の温度を通じて制御されることを特徴とする、請求項5に記載の単結晶シリコンインゴットを形成するための方法。
【請求項7】
前記磁場印加チョクラルスキー法で用いられる磁場の強度は、1000〜5000ガウス内であることを特徴とする、請求項5に記載の単結晶シリコンインゴットを形成するための方法。
【請求項8】
単結晶シリコンウェーハを形成するための方法であって、請求項1に記載の方法に従って形成されたインゴットを材料に用いて、重水素原子が配合されたウェーハを形成することを特徴とする、方法。
【請求項9】
スライス工程、研削工程、研磨工程、表面形状測定工程、および洗浄工程を行ってインゴットをウェーハにする工程をさらに含む、請求項8に記載の単結晶シリコンウェーハを形成する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法により育成された単結晶および半導体製造の分野に、特にはインゴットおよびウェーハを形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
円柱状単結晶シリコンを育成する技法であるチョクラルスキー(CZ)方法により形成された単結晶シリコンインゴットは、半導体装置製造用の基本材料となる。インゴットが、スライス、エッチング、洗浄、研磨されることで、ウェーハが形成される。
【0003】
CZ法によれば、ルツボで多結晶シリコンを加熱溶融し、次いで直径が約10mmのロッド状種結晶を、溶融した多結晶シリコンに着液する。種結晶を回転させながら徐々に引上げると、溶融した多結晶シリコンから、シリコン原子による連続格子を持つ単結晶が成長する。環境が安定していれば、結晶化は安定して進行し、その結果、単結晶シリコンインゴット、すなわち円柱状単結晶シリコンが形成される。
【0004】
溶融した多結晶シリコンは、通常、石英ルツボで汚染されてしまう。汚染物質の1種である酸素原子は、所定の濃度で格子に浸透し、その濃度は、溶融した多結晶シリコンの温度でのシリコンに対する酸素溶解度および固形シリコン中の酸素の実際の偏析係数に依存する。インゴットに浸透する酸素の濃度は、製造工程の典型的な温度での固形シリコンに対する酸素溶解度よりも高い。酸素溶解度は、結晶が冷却されることで急速に低下し、インゴット中では酸素溶解度は飽和に達する。
【0005】
次いで、インゴットをスライスしてウェーハにする。ウェーハ内の格子間酸素原子は、その後の熱処理で、酸素析出物を形成する。仮にこうした酸素析出物が半導体装置の活性領域に位置すると、ゲート酸化物の完全性が損なわれる可能性があり、また望ましくないリーク電流が流れ得る可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、単結晶シリコンインゴットおよびウェーハを形成するための方法を提供することである。本方法を通じて、酸素および炭素の不純物を減少させることが可能であり、その後形成される半導体装置の性能を向上させることが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、単結晶シリコンインゴットを形成するための方法を提供する。本方法は、ルツボ中、重水素原子を含むガスを導入しながら、多結晶シリコン片を溶融する工程、および磁場印加チョクラルスキー法を用いてインゴットを形成する工程を含む。
【0008】
また、単結晶シリコンインゴットを形成するための方法では、例えば、導入されるガスは、重水素ガス、重水素ガスとアルゴンガスの混合物などが可能である。重水素ガスとアルゴンガスの比率は、任意選択で、例えば0.1%〜99%などが可能である。
【0009】
単結晶シリコンインゴットを形成するための方法では、磁場印加チョクラルスキー法は、例として、以下の工程を含むことができる。
ルツボ中、所定の温度で、配合した多結晶シリコン片を溶融する工程。溶融した多結晶シリコン片に着液した種結晶を、所定の引上げ速度で引上げて、単結晶を育成し、単結晶のネック長が所定の長さに達したら、引上げ速度を減速し、これにより肩段階へと移行する工程。肩段階において減速した引上げ速度で、線形冷却率を維持し、これによりインゴットについて予め定めた直径を形成させ、次いで直胴部の育成段階に移行する工程。インゴットの直径が所定の直径に到達したら、冷却しながら、ただし線形冷却は止めて、単結晶を迅速に引上げ、ルツボをある持上げ速度で持上げ、これにより直径の変化率に従って引上げ速度をゆっくりと調整し、自動直胴部育成プログラムを実行し、これにより、インゴットの直径を安定させた後に、自動直胴部育成段階に移行する工程。
【0010】
さらに、単結晶シリコンインゴットを形成するための方法では、インゴットの直径は、引上げ速度および予め定めた温度を通じて任意に制御でき、および1000〜5000ガウスなどの磁場を任意選択で発生させてもよい。
【0011】
本発明に従って、単結晶シリコンウェーハを形成するための方法が提供される。上記方法に従って形成されたインゴットを材料に用いて、重水素原子が配合されたウェーハを形成する。
【0012】
単結晶シリコンウェーハを形成するための方法では、スライス工程、研削工程、研磨工程、表面形状測定工程、および洗浄工程をさらに含むことにより、インゴットをウェーハにすることができる。
【0013】
本発明は、以下に限らないが、以下の有益性をもたらす可能性がある。
インゴット中の格子間重水素原子によって、インゴットを形成するためのチョクラルスキー法中に配合される酸素、炭素原子、および他の不純物の含有量が低下し、格子間重水素原子は、溶融した多結晶シリコン片に導入される、重水素原子含有ガスに由来すること。
半導体装置を形成する工程において、格子間重水素原子が拡散することでダングリングボンドと結合してダングリングボンドを減少させることによって、ホットキャリアに対する抵抗性を増強し、リーク電流を減少させ、および半導体装置の性能および信頼性を向上させること。
【図面の簡単な説明】
【0014】
本発明の様々な目的および利点は、以下の詳細な説明を添付の図面と併せて読むことにより、より容易に理解できるだろう。
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に従う単結晶シリコンインゴットを形成するための方法のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示およびその利点をより深く理解するため、ここから、添付の図面と併せて以下の説明を記載する。図中、同様な参照番号は同様な特長を示す。当業者なら、本明細書中開示されるものをはじめとする例示の実施形態を実行するための他の変異形態がわかるだろう。
図面は具体的な尺度に制限されず、同様な参照番号が、同様な要素を表すために用いられる。本開示および添付の請求項で使用される場合、「例示の実施形態」、「模範的な実施形態」、および「本実施形態」という用語は、その実施形態は1つかもしれないが、必ずしも1つの実施形態を示すのではなく、本開示の範囲または精神から逸脱することなく、様々な例示の実施形態を容易に組み合わせたり、相互交換したりしてもよい。そのうえ、用語は、本明細書中使用される場合、例示の実施形態を説明することのみを目的とし、本開示を制限することを意図しない。
これに関して、本明細書中使用される場合、「〜中において(in)」という用語は、「〜中において(in)」および「〜上において(on)」を含むことができ、また不定冠詞および定冠詞の「a」、「an」、および「the」は、単数および複数についての記述を含むことができる。そのうえ、本明細書中使用される場合、「〜により(by)」という用語は、文脈によって「〜から(from)」という意味も表すことができる。そのうえ、本明細書中使用される場合、「もし(if)」という用語は、文脈によって「〜するとき(when)」または「〜する際(upon)」という意味も表すことができる。そのうえ、本明細書中使用される場合、「および/または」という語は、付随して列挙される項目の1つまたは複数による任意のおよび全ての可能な組み合わせを示すとともにそれら組み合わせを包含できる。
【0017】
本発明の実施形態に従って、単結晶シリコンインゴットを形成するための方法が提供される。本方法は、工程S100:ルツボ中、重水素原子を含むガスを導入しながら、多結晶シリコン片を溶融する工程、および工程S200:磁場印加チョクラルスキー法を用いてインゴットを形成する工程を含む。
【0018】
工程S100では、多結晶シリコン片は、多結晶シリコン、N型またはP型ドープシリコンウェーハなどから選択できる。最初に、多結晶シリコン片をルツボに入れて、その後のインゴット形成のために溶融させて、大部分の不純物を除去する。具体的には、溶融温度および他の詳細は、現在技術で開発されたものと同様であってもよいので、ここでは繰り返さない。
【0019】
溶融した多結晶シリコン片に導入されるガスは、重水素原子を含み、具体的には、このガスは、純粋な重水素ガス、または重水素ガスとアルゴンガスの混合物が可能である。ガスが混合物である場合、重水素ガスとアルゴンガスの比率は、0.1%〜99%、例えば50%などが可能である。しかしながら、比率は、技術的要件に従って設計でき、例示されるものに限定されない。
【0020】
インゴットを形成するための磁場印加チョクラルスキー法の間、重水素原子は、溶融した多結晶シリコン片に配合され、次いで、インゴット中の格子間部位に受け止められて、酸素原子および不純物の含有量を減少させることとなり、後で形成される半導体装置の性能を向上させるのに有益となる。
【0021】
工程S200では、磁場印加チョクラルスキー法を用いて、インゴットを形成させる。具体的には、工程S200は以下を含むことができる。ルツボ中、所定の温度で、配合した多結晶シリコン片を溶融する工程。溶融した多結晶シリコン片に着液した種結晶を、所定の引上げ速度で引上げて、単結晶を育成する工程。および単結晶のネック長が所定の長さに達したら、引上げ速度を減速する工程。これにより肩段階へと移行する。肩段階において減速した引上げ速度で、線形冷却率を維持する工程、これによりインゴットについて予め定めた直径を形成させ、次いで直胴部の育成段階に移行する。およびインゴットの直径が所定の直径に到達したら、冷却しながら、ただし線形冷却は止めて、単結晶を迅速に引上げる工程。およびルツボをある持上げ速度で持上げる工程。これにより直径の変化率に従って引上げ速度をゆっくりと調整する、および自動直胴部育成プログラムを実行する工程。これにより、インゴットの直径を安定させた後に、自動直胴部育成段階に移行する。
【0022】
そのうえ、インゴットの直径は、引上げ速度および予め定めた温度を通じて任意に制御でき、またプロセス要件に従って設計できる。1000〜5000ガウスなどの磁場、本明細書では4600ガウスを工程S200で任意に発生させてもよい。
【0023】
本発明に従って、単結晶シリコンウェーハを形成するための方法もさらに提供される。上記方法に従って形成されたインゴットを材料に用いて、重水素原子が配合されたウェーハを形成する。具体的には、スライス工程、研削工程、研磨工程、表面形状測定工程、および洗浄工程というさらなる工程を行うことで、インゴットをウェーハにすることができる。
【0024】
次いで、ウェーハ上に半導体装置を形成できる。ウェーハ中、格子間部位に重水素原子が受け止められていることならびに酸素原子および他の不純物の含有量が低いことのおかげで、熱プロセス中に通常発生する酸素析出物が顕著に減少する可能性がある。これにより装置活性領域のゲート酸化物の完全性を保護して不必要なリーク電流を回避できる。
【0025】
まとめると、本発明の実施形態の単結晶シリコンインゴットおよびウェーハを形成するための方法は、インゴット中の格子間重水素原子によって、インゴットを形成するためのチョクラルスキー法中に配合される酸素原子および他の不純物の含有量を減少させる可能性があり、格子間重水素原子は、溶融した多結晶シリコン片に導入される、重水素原子含有ガスに由来する。
半導体装置を形成するプロセスにおいて格子間重水素原子が拡散することでダングリングボンドと結合してダングリングボンドを減少させることによって、ホットキャリアに対する抵抗性を増強し、リーク電流を減少させ、および半導体装置の性能および信頼性を向上させる可能性がある。
【0026】
開示される原則に従って様々な実施形態が上記で記載されてきたものの、当然のことながら、それらは例示として示されているにすぎず、なんら制限するものではない。すなわち、模範的な実施形態の広さおよび範囲は、上記の実施形態のいずれかにより制限されることは決してなく、請求項および本開示に由来するそれらの等価物に従ってのみ定義されるはずである。そのうえ、上記の利点および特長は、記載される実施形態において提示されるものの、発行される請求項の適用を、上記利点のいずれかまたは全てを達成するプロセスおよび構造に限定することは決してない。
【0027】
さらに、本明細書の項目見出しは、米国特許法施行規則第1.77条に基づく提言との整合性のために、そうでなければ編成上の目印を提供するために、提供される。これら見出しは、本開示に由来する可能性のある任意の請求項に記載される本発明を制限または特徴付けることは決してない。具体的には、「背景技術」での技術の説明は、本開示の任意の発明に対してその技術が先行技術であることの了承として解釈されることはない。そのうえ、単数での「発明」に対する本開示中の記述はどれも、本開示において1点のみの新規性が存在することを主張するために用いられることは決してない。本開示に由来する複数の請求項の制限に従って、複数の発明を記載することが可能であり、したがってそのような請求項は単数または複数の発明およびそれらの等価物を定義し、発明は請求項によって保護される。あらゆる場合において、そのような請求項の範囲は、本開示に照らしてそれら自身の価値で考慮されるべきであり、本明細書中の見出しにより制約されることは決してない。