(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-75615(P2017-75615A)
(43)【公開日】2017年4月20日
(54)【発明の名称】すべり支承装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/04 20060101AFI20170331BHJP
F16F 1/40 20060101ALI20170331BHJP
【FI】
F16F15/04 E
F16F15/04 P
F16F1/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-201720(P2015-201720)
(22)【出願日】2015年10月13日
(71)【出願人】
【識別番号】000103644
【氏名又は名称】オイレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106563
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 潤
(72)【発明者】
【氏名】細野 幸弘
【テーマコード(参考)】
3J048
3J059
【Fターム(参考)】
3J048AA03
3J048BA08
3J048BG04
3J048DA01
3J048EA38
3J059AD05
3J059BA43
3J059BC06
3J059BD01
3J059BD05
3J059EA12
3J059GA42
(57)【要約】
【課題】十分な免震効果を確保しながら、製造コストの低いすべり支承装置を提供する。
【解決手段】上部構造11に固定される上部材2と、下部構造12に固定される下部材3と、上部材及び下部材のいずれか一方に固定されたすべり板4と、上部材及び下部材のいずれか他方に固定され、剛性層5aと弾性層5bとが鉛直方向に交互に積層された積層ゴム体5と、積層ゴム体の上部材及び下部材のいずれか一方側に固定され、すべり板に対して摺動可能に当接する摺動部材(すべり材)6とを備えるすべり支承装置であって、剛性層と弾性層とは互いに接着されず、剛性層の表面に複数の凸部5c又は/及び複数の凹部5dを備えるすべり支承装置1。剛性層の表面における複数の凸部等は、エンボス加工や粗面加工、剛性層に形成した複数の貫通孔の各々に差し込んだプラグ25dによるものとすることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部構造に固定される上部材と、
下部構造に固定される下部材と、
前記上部材及び前記下部材のいずれか一方に固定されたすべり板と、
前記上部材及び前記下部材のいずれか他方に固定され、剛性層と弾性層とが鉛直方向に交互に積層された積層ゴム体と、
該積層ゴム体の前記上部材及び前記下部材のいずれか一方側に固定され、前記すべり板に対して摺動可能に当接する摺動部材とを備えるすべり支承装置であって、
前記剛性層と前記弾性層とは互いに接着されず、前記剛性層の表面に複数の凸部又は/及び複数の凹部を備えることを特徴とするすべり支承装置。
【請求項2】
前記剛性層の表面における前記複数の凸部及び前記複数の凹部は、エンボス加工によるものであることを特徴とする請求項1に記載のすべり支承装置。
【請求項3】
前記剛性層の表面における前記複数の凸部及び前記複数の凹部は、粗面加工によるものであることを特徴とする請求項1に記載のすべり支承装置。
【請求項4】
前記剛性層の表面における前記複数の凸部は、前記剛性層に形成した複数の貫通孔の各々に差し込んだプラグによるものであることを特徴とする請求項1に記載のすべり支承装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震等による下部構造に対する上部構造の振動を低減するすべり支承装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マンション等の集合住宅や戸建住宅等の構造物に対する地震等による地盤振動の影響を低減するための免震装置が開発され、実用化されている。免震装置は、剛性層と弾性層とが交互に積層された積層ゴム体を住宅等の上部構造と地盤等の下部構造との間に設置し、地震等によって下部構造が振動した際に、上部構造への振動の伝達を低減すると共に、伝達された振動を減衰させることができる。
【0003】
このような免震装置としては、上端部及び下端部の各々を上部構造及び下部構造に固定して用いられるRB(Rubber Bearing;積層ゴム型免震装置)やLRB(Lead Rubber Bearing;鉛プラグ入り積層ゴム型免震装置)と称される積層ゴム支承装置や、上端部及び下端部のいずれか一方を上部構造及び下部構造のいずれか一方に固定し、他方を上部構造及び下部構造のいずれか他方に対して滑るようにして用いられるSSR(Sliding Support with Rubber-pad;滑り積層ゴム型免震装置)と称されるすべり支承装置とが存在する。
【0004】
積層ゴム支承装置は、上部構造及び下部構造の各々に一体的に取り付けられる上部材及び下部材と、これら上部材及び下部材の間に設けられ、薄い鋼板等の剛性層とゴム板等の弾性層とが鉛直方向に交互に積層された積層ゴム体とで構成される。
【0005】
すべり支承装置は、上部材及び下部材と、これら上部材及び下部材のいずれか一方に設けられたすべり板と、上部材及び下部材のいずれか他方とすべり板との間に設けられた積層ゴム体と、この積層ゴム体とすべり板との間に設けられるすべり材とで構成される。
【0006】
一方、上記積層ゴム支承装置において、特許文献1〜3には、積層ゴム体を製造する際に、剛性層の鋼板の表面処理と、鋼板と弾性層との加硫接着処理とを省略し、剛性層と弾性層を接着しない技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−50025号公報
【特許文献2】特開平6−158910号公報
【特許文献1】特開平11−153190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
すべり支承装置に用いる積層ゴム体は、通常積層ゴム支承装置に用いる積層ゴム体と同一の品質で製造されている。しかし、すべり支承装置は、上述のように、上端部又は下端部が滑るように構成され、積層ゴム支承装置よりも積層ゴム体の変形量が小さいため、積層ゴム支承装置のように大きくせん断変形しても接着剥離が生じないように剛性層と弾性層とを強固に接着する必要はなく、すべり支承装置の機能及び製造コストの面で改善の余地があった。
【0009】
一方、上記特許文献1〜3に記載の技術のように、剛性層と弾性層を接着せずに当接させるだけでは、製造コストを低減することはできるものの、積層ゴム体が弾性変形する際に剛性層と弾性層が水平方向に相対的に移動し、所望の免震効果が得られない虞がある。
【0010】
そこで、本発明は、上記従来の技術における問題点に鑑みてなされたものであって、十分な免震効果を確保しながら、製造コストの低いすべり支承装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明は、上部構造に固定される上部材と、下部構造に固定される下部材と、前記上部材及び前記下部材のいずれか一方に固定されたすべり板と、前記上部材及び前記下部材のいずれか他方に固定され、剛性層と弾性層とが鉛直方向に交互に積層された積層ゴム体と、該積層ゴム体の前記上部材及び前記下部材のいずれか一方側に固定され、前記すべり板に対して摺動可能に当接する摺動部材とを備えるすべり支承装置であって、前記剛性層と前記弾性層とは互いに接着されず、前記剛性層の表面に複数の凸部又は/及び複数の凹部を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、積層ゴム体の変形時において、剛性層に設けられた複数の凸部又は/及び複数の凹部を介して弾性層を剛性層に追従させることができるため、十分な免震効果を確保しながら、接着剤を用いずに低コストですべり支承装置を製造することができる。
【0013】
上記すべり支承装置において、前記剛性層の表面における前記複数の凸部及び前記複数の凹部は、エンボス加工や粗面加工によるものであってもよく、前記剛性層の表面における前記複数の凸部は、前記剛性層に形成した複数の貫通孔の各々に差し込んだプラグによるものとすることもできる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、十分な免震効果を確保しながら、製造コストの低いすべり支承装置を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係るすべり支承装置の一実施の形態を示す概略断面図である。
【
図3】本発明に係るすべり支承装置の積層ゴム体の第1の変形例を示す部分拡大図である。
【
図4】本発明に係るすべり支承装置の積層ゴム体の第2の変形例を示す部分拡大図である。
【
図5】本発明に係るすべり支承装置の積層ゴム体の第3の変形例を示す部分拡大図である。
【
図6】本発明に係るすべり支承装置の積層ゴム体の第4の変形例を示す部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明に係るすべり支承装置の一実施の形態を示し、このすべり支承装置1は、上部構造11に固定された上部材2と、下部構造12に固定された下部材3と、下部材3に固定されたすべり板4と、積層ゴム体5と、積層ゴム体5の下端に固定された摺動部材としてのすべり材6とで構成される。
【0018】
積層ゴム体5は、例えば、薄い鋼板等の剛性層5aとゴム板等の弾性層5bとが鉛直方向に交互に積層され、直方体状や円柱状等に形成される。この積層ゴム体5の剛性層5aと弾性層5bは、互いに当接するだけで接着されていない。
【0019】
図1のA部拡大図である
図2に示すように、剛性層5aの上面視で全面にわたって、下面から上面に向かって凸となるエンボス加工が施され(凸部5c、凹部5d)、弾性層5bは、自重や、上部構造11の荷重によりこの凸部5c及び凹部5dに当接するように変形する。
【0020】
次に、上記構成を有するすべり支承装置1の動作について、
図1及び
図2を参照しながら説明する。
【0021】
下部構造12に地震等によって水平方向の力(以下「水平力」という。)が付加され、この水平力がすべり板4とすべり材6との間の最大静摩擦力以下の場合には、積層ゴム体5が水平方向に弾性変形することにより、上部構造11への振動を抑制する。そして、水平力がすべり板4とすべり材6との間の最大静摩擦力を超えると、積層ゴム体5の下部に固定されたすべり材6がすべり板4上を滑ることにより上部構造11への振動を抑制する。
【0022】
ここで、積層ゴム体5が弾性変形する際には、剛性層5aと弾性層5bは接着されていないが、弾性層5bが凸部5c及び凹部5dを介して剛性層5aに追従するため、両層5a、5bを接着したすべり支承装置のように両層5a、5bの水平方向のずれが生じることなく、十分な免震効果が得られると共に、従来のように接着剤を用いて剛性層5aと弾性層5bとを互いに接着せずに、剛性層5aの表面を機械加工等するだけで済むため、製造コストを低減することができる。
【0023】
尚、上記剛性層5aの凸部5c及び凹部5d(これらのいずれか一方でも可)を形成するにあたって、エンボス加工以外にも梨地加工等の粗面加工を施してもよく、その他上記剛性層5aの表面を凸凹に加工して弾性層5bとの間で摩擦係数を高めるものであって、従来の接着剤を用いる方法よりも低コストであれば、いかなる加工法であっても採用することができる。
【0024】
また、上記実施の形態では、すべり板4を下部材3に固定し、すべり材6を積層ゴム体5の下端に固定したが、この位置関係を逆にし、すべり板4を上部材2に固定し、すべり材6を積層ゴム体5の上端に固定することも可能であり、その場合にも上記と同様の作用効果を奏する。
【0025】
さらに、上記実施の形態では、上記積層ゴム体5の剛性層5aの凸部5cの全てを上向きに形成したが、
図3に示す第1の変形例のように、凸部5cの一部を下向きに形成することで、上述の作用効果に加え、剛性層5aや弾性層5bに掛かる応力の均一化を図ることができる。
【0026】
次に、上記積層ゴム体5の第2の変形例について、
図4を参照しながら説明する。同図は、
図2に示した積層ゴム体5に相当する積層ゴム体25の一部拡大断面図である。
【0027】
この積層ゴム体25は、上面視で全面にわたって、複数の貫通孔25cと、各々の貫通孔25cを塞ぐゴムプラグ25dとを有する剛性層25aと、上部構造11に加えられた荷重や自重によりこのゴムプラグ25dに当接するように変形する弾性層25bとを備える。ゴムプラグ25dは、上部25eが大径の円柱状に、下部25fが小径の円柱状に形成され、下部25fが貫通孔25cに収容される。
【0028】
この積層ゴム体25を用いても、弾性層25bがゴムプラグ25dを介して剛性層25aに追従することができ、上記積層ゴム体5と同様の動作を確保することができる。また、従来のように接着剤を用いて剛性層25aと弾性層25bとを互いに接着せずに、剛性層25aに穴加工を施してゴムプラグ25dを装着するだけで済むため、製造コストを低減することができる。尚、ゴムプラグ25dに代えてプラスチック等からなるプラグを用いてもよい。また、プラグ以外にも、剛性層25aに装着して弾性層5bとの間で摩擦係数を高めるものであって、従来の接着剤を用いる方法よりも低コストであれば、いかなる加工法であっても採用することができる。
【0029】
この第2の変形例についても上記第1の変形例と同様に、
図5に示す第3の変形例のように、ゴムプラグ25dの一部を下方から装着することで、上述の作用効果に加え、剛性層25aや弾性層25bに掛かる応力の均一化を図ることができる。
【0030】
また、
図5に示すゴムプラグ25dの上部25eを、
図6に示す第4の変形例のように、半球状に形成することで、上述の作用効果に加え、上部25e及び弾性層25bに掛かる応力集中を防止することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 すべり支承装置
2 上部材
3 下部材
4 すべり板
5 積層ゴム体
5a 剛性層
5b 弾性層
5c 凸部
5d 凹部
6 すべり材
11 上部構造
12 下部構造
25 積層ゴム体
25a 剛性層
25b 弾性層
25c 貫通孔
25d ゴムプラグ
25e 上部
25f 下部