(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-77209(P2017-77209A)
(43)【公開日】2017年4月27日
(54)【発明の名称】米類と麦芽のお粥の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 7/10 20160101AFI20170407BHJP
A23L 33/00 20160101ALI20170407BHJP
【FI】
A23L1/10 B
A23L1/29
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-206894(P2015-206894)
(22)【出願日】2015年10月21日
(11)【特許番号】特許第6005822号(P6005822)
(45)【特許公報発行日】2016年10月12日
(71)【出願人】
【識別番号】592102294
【氏名又は名称】利根川 義雄
(74)【代理人】
【識別番号】100080056
【弁理士】
【氏名又は名称】西郷 義美
(72)【発明者】
【氏名】利根川 義雄
【テーマコード(参考)】
4B018
4B023
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018LE06
4B018MD49
4B018MD50
4B018ME02
4B018MF02
4B018MF04
4B023LC09
4B023LE19
4B023LG01
4B023LG05
4B023LG06
4B023LP05
4B023LP08
4B023LP10
4B023LP20
(57)【要約】
【課題】お粥は嚥下・消化吸収能力の低下した者へ病人食、介護食として親しまれ、ご飯を炊く時の数倍の水量で調理されたお粥は噛まなくても飲み込みし易いが、咀嚼が無く口中で唾液の消化酵素による澱粉糖化作用が無いために、逆に胃腸の消化負担が多いとの意見があり、当初はお粥の鍋に唾液の代わりの酵素を含む米糀または麦芽を加え、消化吸収機能を助けるお粥を製造したが、水飴や甘酒と同様に甘味の多いお菓子となり、糖尿病食には不向きで、日本食の淡白な味の主食のご飯に代わるお粥には成らなかった。
【解決手段】本発明は主原料の米類と副原料の麦芽を別々に糊化して、加熱撹拌することで麦芽を加えた淡白な味のお粥が製造出来た。本発明のお粥を試食した翌朝の便通改善と放屁の腐敗臭が消失したことを見出して、同評価方法を排泄状況に視点を変更した。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定時間、水に浸漬し加熱して糊化した米類からなる主原料と、
水に浸漬中の糖化促進を避けるため麦芽の酵素の活性化が進み難い低い温度で管理した所定量の水で所定の時間、浸漬して十分に麦芽が吸水後、濾し絞って穀皮を除いた麦芽含む麦芽液を加熱して麦芽の澱粉を糊化し更に加熱して麦芽に含まれる酵素の活性を低下させた大麦麦芽または小麦麦芽の麦芽液の副原料とを、
1つの容器に入れて混ぜ合わせ、
加熱して所定温度で所定時間保温して撹拌し麦芽液からなる副原料の水分を糊化した米類からなる主原料へ供給してお粥にすることを特徴とする米類と麦芽のお粥の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糊化した米類に浸漬し穀皮を除いた糊化した麦芽の麦芽液を加えて、消化吸収排泄作用を改善したお粥の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
米などで作られたお粥は、澱粉消化能力の低下した病人向け、咀嚼し嚥下する能力の低下した老人向けに、家庭や病院で調理され、病人や老人の栄養補給と健康回復維持のために、主食として提供されてきました。
簡易な供給のため、レトルトパック入りお粥も普及している。
(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)
【0003】
米のお粥は、ご飯を炊く時に比べ水量を増やして、お粥の含水量別に全粥、7分粥、5分粥、3分粥と称して、米の固形物残量と軟らかさとを表示している。
更に、軟らかい食品とするため固形物を除去する方法として、加熱沸騰したお粥の上澄み液を採った重湯と称するものもある。
【0004】
家族や病院の方は、病人や老人の咀嚼と嚥下と消化吸収能力に応じて、少し低下した方には全粥か7分粥を提供し、更に低下した方には5分粥か3分粥を提供し、長期間食事摂取していない消化吸収能力が大変に低下した方には重湯を提供してきた。
その病人・老人の能力に適合したお粥を主食として提供し、健康回復を図って来た。
更に、お粥の健康回復効果を出すために、卵など種々の食材や漢方薬や民間薬の薬草を加えたものもある。
古くからの地域の風習として、山野草7種を混ぜた7草粥、小豆を混ぜた小豆粥は、現在、広く知られている。
【0005】
しかし、嚥下と消化吸収能力が低下した病人・老人へ供給する、食べる際に咀嚼を必要とせずに飲込めるお粥や重湯は、消化が悪くて健康回復に良いとは言えないと言う意見がある。
【0006】
人間が澱粉を消化吸収するために行う咀嚼動作を、作業の工程と見做し大まかに分けると、咀嚼には、ご飯等を口中で何回も噛む動作で固形物を細かく噛み砕く工程と、破砕され細かくなった固形物に唾液を分泌して混ぜ唾液中の消化酵素により糖化する作用、並びに水分を増やし軟らかく纏まったお粥(「流体状」とも換言できる。)にする唾液混入する工程とがある。
次の嚥下工程で、流体状になったご飯であるお粥を口腔から食道・胃への移動の際に、咽頭で引っかからず、食道を通過して胃へ移動が容易に出来き、気管支へ誤って食べ物が入る、誤嚥を避けることが出来て、死亡原因となる誤嚥による肺炎発病の予防することが出来る。
誤嚥予防のために嚥下し易くする食品添加物として、水分にトロミを与える技術開発、商品が普及している。
(例えば、特許文献3、特許文献4、特許文献5参照。)
【0007】
お粥と重湯には、固形物を細かく粉砕する工程と纏まったお粥にする工程とが含まれている。
しかし、お粥や重湯においては、米と水とを原料に製造したため、唾液の消化酵素混入と糖化の作用が欠如している。
本発明者も咀嚼をせずに飲み込むことは健康回復に悪影響があると考えた。
【0008】
そして、お粥に消化酵素を加える方法を研究した。
食品産業並びに食品文化の中で、人間の咀嚼を利用した食品を研究して、咀嚼の前記の2つの工程を利用した食品を見出した。
【0009】
その技術は、人間がご飯等を咀嚼して、唾液の混ざった流体状にしたご飯を壺に吐き出し貯蔵して、唾液の消化酵素でご飯を糖化して、お酒を製造する方法が昔あった。
その技術をそのままお粥の製造に活用するのは、衛生上の問題、唾液の入手先が無いなど、活用が困難なため、同じ穀物からお酒を造る技術を調査研究した。
現在、酒造産業で澱粉からお酒やビールを醸造する方法は、人間の唾液の消化酵素の代わりに、糀菌と麦芽を糊化した澱粉に混ぜて糖化作用を利用している。
更に、糀菌と麦芽の糖化作用は、他に多くの食品、医薬品、食品添加物に利用されている。
(例えば、非特許文献1、特許文献9、特許文献10、非特許文献2参照。)
【0010】
本発明者は、米糀と麦芽を米のご飯またはお粥に加え、人間の唾液の作用の再現を図った。
ご飯を良く噛むと甘みを感じる現象から、唾液の代わりの糀菌と麦芽の酵素とが、どの程度澱粉に作用したかを甘味の味覚で判断することにした。
しかし、その甘味を増やす作用が、どの程度消化吸収に効果があるかを測る方法に苦慮した。
試作したお粥の評価のため、試食を繰り返して評価方法を決めた。
本発明の当初の評価方法は、長時間を要し客観的判断の難しい項目があり、全項目の確認を、意思表示が苦手な病人などの他人でのテストが困難なため、本発明者自身が試食して味覚、飲み込みし易さ、排便状況の観察と体重測定で消化吸収の評価をすることした。
【0011】
当初の評価方法は、甘味の味覚と飲み込みは少量の試食で評価できる。
しかし、食べた物の消化吸収の評価は、長時間と多い労力が必要となった。
方法は、
図2(b)の当初の消化吸収評価の概念図の如く、
A:食品を口で咀嚼して食べた量、
B:咀嚼された食品を消化器官で消化し、栄養分を吸収して体内に取り込んだ量、
C:消化器官を経由して消化吸収された排出された食品残渣物、
と仮定して、評価方法として、「A−C=B」と考えた。
Bを体重の増減測定で消化吸収状況を数値化して評価、Cの排便を観察、更にA、B、Cの際の体調の変化を観察することとした。
しかし、日常生活で体重変化を測定しても効果判定が解り難いため、特殊な環境を作り、被試験者の本発明者の身体状況を判り易くなる対策をした。
消化吸収の評価のため、5日間絶食後に、試作した回復食のお粥の定量試食を開始、腹痛の有無、お腹の張り等体調変化の観察、排便状態の観察、食べても腹痛が起きないと感じたら回復食のお粥を徐々に減らして少しずつ普通食を食べて、体調を感じながら完全に普通食に戻した。
その間、体重測定をして、体重の増減で、試作した回復食のお粥の消化吸収の回復能力を判断することとした。
約4年間をかけて絶食を3回して回復食実験を実施した。
絶食終了後、当初の甘酒状の試作のお粥の試食を開始した。
その試食の結果、回復食の甘くて美味しい試作のお粥で、腹痛のなく体調も良く、2日から3日で完全に普通食に戻して、絶食で減っていた排便量も徐々に増えて、約1週間前後で体重が元に戻った。
当初の甘酒状の試作のお粥は、消化吸収には大変良いと思われた。
【0012】
当初のお粥の製造方法は、主原料のもち米500gと副原料の米糀または麦芽を500gと使い、下記の工程で製造した。
図1(a)の当初のお粥製造方法の工程において、糀菌を酵素として用いる場合は、1個の鍋に主原料のもち米と、米の5倍量の水道水を入れもち米が十分に吸水後、加熱して、もち米が糊化したら冷却し60℃になったら副原料の米糀を加え8時間、60℃前後を保った。
もち米は糖化して甘味の多いカユ状となった。
麦芽を酵素として利用する場合は、麦芽を2時間、麦芽の5倍量の水道水で浸漬して竹のザルで濾して絞り、殻皮と可食部の麦芽を分離して未糊化の麦芽液を作る。
主原料のもち米を水道水で浸漬し、十分に吸水後に1時間蒸して鍋へ移し、未糊化の麦芽液を加えて65℃に加熱し、5時間65℃前後を保った。
もち米の澱粉は糖化され米の繊維質が残った甘味の多い液状の物となった。
更に、米糀と麦芽液の両方を半量ずつ糊化した米に加え、加熱し、60℃前後を8時間保つ製造方法を採った。
全て甘味のあるお粥または液体となった。
【0013】
甘味のある水飴の原液または甘酒の様なお粥の製造方法は出来った。
しかし、お粥とは言い難い食品となった。
(例えば、特許文献6、特許文献7、特許文献8参照。)
甘味ある水飴や甘酒は、お菓子にはなるが、食事の主食のお粥の代りにならない問題と、甘味が血糖値上昇の原因となる不安があり、糖尿病治療の患者へ提供に不安を感じる問題を生じた。
更に、甘味を感じ難くするため、甘酒に食塩を加えて味覚を誤魔化す方法を試作したが、本発明者の味覚と視覚で主食のお粥と評価する基準に及ばなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平5−336903号公報
【特許文献2】特開2007−244395号公報
【特許文献3】特開2012−70722号公報
【特許文献4】特開2010−142138号公報
【特許文献5】特開2007−228834号公報
【特許文献6】特開平11−196830号公報
【特許文献7】特開2006−262839号公報
【特許文献8】特開2002−354993号公報
【特許文献9】特開2002−238494号公報
【特許文献10】特開平9−278664号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】「酒と酵母のはなし」著者 大内弘造 発行所 技報堂出版株式会社 72頁から74頁 口噛み酒、74頁から78頁 麦芽の風土と麹の風土
【非特許文献2】授乳離乳の支援ガイド実践の手引き 製作:和光堂株式会社 2013.11 赤ちゃんの便秘薬「和光堂マルツエキス(商標登録第1403085号)」 *「マルツエキス」は麦芽でできた水飴状の便秘薬です。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
お粥は日本で、食事制限のある病人や老人の健康回復食で、主食のご飯に相当します。
食事の際、副食のオカズ、漬物、味噌汁の味付けに合うため、ご飯やお粥は基本的に淡白な味であることが好まれ、淡白な味はご飯として必要な条件とも言える、当然お粥も同様です。
【0017】
更に、朝昼夕の1日3食は、人間の生活と活動時間の基準となり、生活リズムを作る作用を持っています。
学校でも会社でも、その生活リズムに合わせて時間割が作られている。
病院でも家庭でも、病人・老人の生活リズムと健康の回復維持のため、オヤツの甘いお菓子ではなく、1日3食を提供しています。
食事の主食のお粥は単純な栄養補給以上の条件があり、本発明の目的の淡白な味は重要な条件である。
【0018】
本発明の目的は、消化吸収排泄を助ける麦芽を加えた主食の淡白な味のお粥を、一般の家庭に有る程度の調理器具を用いて、主原料の米と副原料の麦芽と水道水から製造する方法を提供するものである。
更に、病人老人の食事制限、糖尿病食、食品アレルギーの対策のため、主原料は米以外に穀物並びに芋類の澱粉と、副原料の麦芽は大麦麦芽、小麦麦芽、並びに米類の発芽種子を原料として選んで製造する方法も採った。
【課題を解決するための手段】
【0019】
当初は、本発明者は上記の目的を達成すべく、米(なお、「芋類」も可能である。)からなる主原料と、麦芽(なお、「米糀」も可能である。)からなる副原料と水道水とを使用し、各製造工程の時間と温度条件を研究して試作して、段落[0011]の評価方法で試食した。
味覚と、飲み込みのし易さの確認と、本発明者自身の消化吸収など体調変化の観察と、体重測定とを繰り返し行った。
【0020】
しかし、
図1(a)の当初のお粥製造方法の工程において、1個の鍋に主原料の米と水道水を入れて加熱し、米が糊化したら冷却し、60℃になったら副原料の米糀を加え、8時間保温する工程管理では、主原料の米が糖化して甘味の感じる食品となることを避けられないことが判った。
本発明の目的達成のため、副原料に麦芽を選択した。
本発明の課題解決のため、主原料の米類、副原料の麦芽、水の3種で製造する各工程の変更を繰り返して試作と試食を繰り返し行った。
【0021】
その結果、課題は解決方法として、
図1(b)の最終段階のお粥製造方法の工程において、主原料の米類、例えばうるち米またはもち米(「赤米」、「黒米」、「玄米」なども含めることが可能である。)の浸漬・糊化と、副原料の麦芽の浸漬・糊化とを別々の工程で行い、糊化した主原料を副原料の水分でお粥とする製造方法を採った。
主原料の米を水道水で浸漬して蒸す、または、炊いて糊化させる工程と、副原料の麦芽を所定の温度で管理した所定量の水道水で浸漬して殻皮と可食部の麦芽を分けるため、濾し絞る分離処理を行い、出来上った麦芽液を更に麦芽の吸水率を高めるため浸漬を所定の温度で継続して、十分吸水して糊化し易い状態となったら、加熱して糊化して更に加熱して酵素を失活させた麦芽液を製造する工程に分けて製造する。
その主原料の米と副原料の麦芽液を1つの容器に入れて混ぜ合わせ、主原料の米に副原料の麦芽液の水分を補給し、加熱し保温し撹拌してお粥にすることで、目的の淡白な味のお粥となることが判明した。
消化吸収の評価は前記段落[0011]の評価方法で行った。
【0022】
目的の通りに出来た淡白な味のお粥150ccを夕食時に試食して、本発明者自身の消化吸収、及び、体調変化の観察をした結果、甘味の有る甘酒状のお粥では体験しなかった、新たな体調の変化があった。
【0023】
本発明のお粥は、試食した翌朝の便通が大変良好となり、且つ、排泄した大便と放屁の腐敗臭が消失する変化を見出した。
お粥が下痢の原因となり、便通改善が起こしているかを確認するため、大量にお粥を食べで体調を確認することとした。
その日の夕食に400ccのお粥を試食して、腹痛などの体調の変化を確認、その夜は体調の変化を感じなかった。
翌朝は前日と同様、便意を感じ、トイレに座って少し経って排便、便通は良好、便は軟らかいが、下痢は起こさなかった。
更に1週間後、夕食にお粥350ccを試食したが、食後の体調の変化なく、下痢も起こさず翌朝の通便の良好も確認した。
【0024】
本発明者は、当初のお粥の段落[0011]の評価方法では、消化吸収評価のため、時間と労力が多大に要し、お粥の開発に必要な目的達成確認を行い、次の試作を直ぐに実施することは困難であった。
本発明のお粥の目的達成確認を容易にする新しい評価方法を決める必要があった。
この淡白な味のお粥を多く食べても、下痢にならず、自然な便通が出来た。
これを評価方法に活用出来ないか考えた。
【0025】
見出した試食した翌朝のC:消化器官を経由して、消化吸収された後に排出された食品残渣物の観察、通便時の状況、大便と放屁の腐敗臭の有無確認の項目を、試食前のCと比較することで、当初の評価方法を短時間で少ない労力で評価する方法を研究した。
【0026】
その結果、本発明の最終段階の評価方法を決めた。
試食による味覚と飲み込みの評価方法は変えず、消化吸収の評価方法の視点を変更して、試食前と試食後のC:消化器官を経由して、消化吸収された後に排出された食品残渣物の便通状況と大便・放屁の臭いの変化を観察する項目に変更して、評価に要する時間を短縮することとした。
並びに、放屁の臭いを採用したことで、試食ボランティア本人と周囲に居る他人が容易に客観的に評価出来ることとなった。
仮定の考え方も変更した。
当初の段落[0011]の評価方法の仮定「A−C=B」を、
図2(c)の最終段階の消化吸収評価の概念図の如く、最終段階の評価方法では、「A⇒B⇒C」と仮定して、本発明のお粥の試食前と試食後のCの変化と体調の変化を観察で評価する方法を採用した。
【0027】
最終段階の評価方法を採ったことで、本発明のお粥を試食した被試験者自身が試食前と試食後に排出されたC:食品残渣物を観察して、排便状況と放屁の臭いの報告で、お粥が目的達成出来たか確認することが可能となった。
製造方法確立の最終段階として、本発明のお粥の製造方法の再現性の確認のため、便秘症状のある3名の試食ボランティアが試食し、便通状況と大便臭と放屁の臭いによる消化吸収の評価を実施した。
3名の試食ボランティアから本発明者と同じ便通改善の報告を受け、本発明を完成するに至った。
当初は、主原料を米以外の大麦、アワ、サツマイモの澱粉を利用し、食品アレルギー対策として試作した。
副原料の麦芽についても、米の発芽種など食品アレルギー対策が採れるとしましたが、試作で、サツマイモを75℃前後で1時間半加熱して保温すると、サツマイモ自身の酵素で、糖化することが判明したため、最終段階ではサツマイモは主原料から除外した。
【発明の効果】
【0028】
本発明の対象者は病人と老人であるが、厚生労働省の介護保険では、要介護度の認定に於いて嚥下障害で食事と服薬、便秘による便通の看護介護に要する時間が長いほど重い介護度が認定される。
本発明のお粥で栄養補給と便通改善は介護軽減に大きな意義がある。
【0029】
本発明は咀嚼の工程を改善してお粥の消化吸収を良くするため、人間の唾液に代る消化酵素の作用を期待して麦芽を加えました。
目的通りに出来たお粥の試食評価の結果、本発明のお粥は食べ易く、消化吸収も排泄もスムーズになり、栄養補給から生活リズム回復まで一連の機能に良い作用を与える。
被験者から以前はトイレに40分間座っていたのが便秘薬を使わずに、数分間で自然な便通が出来た。
更に、通便が1度回復すると、本発明のお粥を摂取せずに、その正常な便通改善が5ヶ月間継続しているので、便秘薬不要で、薬代金が節約できたと報告があった。
【0030】
本発明のお粥は家庭でも調理の出来る技術です。
このお粥を家庭で自炊すれば、看病介護の排便介助時間の短縮と下剤服薬のコスト削減が出来る。
社会的には医療保険と介護保険の給付を減らすことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は当初と最終段階の米と麦芽のお粥の製造方法と工程の概念図であり、(a)は当所のお粥製造方法の工程を示す図、(b)は最終段階のお粥製造方法の工程を示す図である。(実施例)
【
図2】
図2は当初と最終段階の米と麦芽のお粥の消化吸収評価方法の概念図であり、(a)は消化吸収の概念図、(b)は当所の消化吸収評価の概念図、(c)は最終段階の消化吸収評価の概念図である。(実施例)
【発明を実施するための形態】
【0032】
課題の解決方法として、個別の処理工程で、糊化した主原料の米と、副原料の麦芽を所定の温度と所定の時間、所定量の水道水で浸漬し、濾し絞って殻皮と可食部の麦芽を含む麦芽液に分離し、加熱して麦芽の澱粉を糊化して、更に加熱し酵素を失活した麦芽液を、1つの容器で混ぜ合わせ麦芽液の水分を糊化した米に供給して加熱して保温して撹拌してカユ状にすることで、本発明の目的、淡白な味のお粥を製造が出来る。
【0033】
主原料と副原料の個別処理工程は、500gの主原料の米類、例えば米またはもち米は、米研ぎをして、水道水で浸漬処理後、米の吸水状態確認し、加熱処理をする。
蒸す際は、蒸し器で主原料の米が糊化するまで蒸す。
炊く際は、米の1倍前後の量の水道水を加え、炊飯することで糊化工程を完了して、温度が65℃に下がるのを待つ。
【0034】
500gの副原料の大麦麦芽と小麦麦芽または両方麦芽(以後 麦芽と称する)は、水に浸漬中の糖化促進を避けるため酵素が活性化している場合は10℃前後で管理し、酵素が活性化していない場合は20℃から30℃で管理した麦芽量の4倍から5倍量の水道水に浸漬し、麦芽が吸水状態を確認した後、殻皮と可食部の麦芽を分けるため竹のザル等で濾し絞って分離して麦芽液を作る。
その分離を良くするため上記所定量の水道水を数回分に分けて数回濾し絞ることもある。
更に可食部の麦芽が十分な吸水状態になるまで前記の管理温度で数時間から半日間保管する。
尚、この浸漬処理は麦芽製造過程で澱粉の湿熱処理の様な変化を受けた麦の澱粉が糊化し易い状態に戻すための処理である。
麦芽液を加熱して55℃から68℃になり麦芽の澱粉が糊化し始めて、麦芽液の色が白い粉の浮遊した茶白色から、透明感のある帯状または豆粒台の物が浮遊し始めたら、かき混ぜながら数分間その温度を保ち麦芽液全体に透明感がある色に変わるのを待つ。
糊化した麦芽液はかき混ぜる際に、糊化以前に比べ少し粘度が高まり固形物が液の下に沈み難くなる。
麦芽液の酵素を活性の低下させるため更に加熱する、加熱により微細な泡が表面に浮きはじめ沸騰の泡が出る前の90℃前後になったら加熱を止める。
麦芽液は粘度が下がり固形物が液の下に沈み易くなる。
そのまま自然に放置して糊化した麦芽液が65℃に温度が下がるまで待つ。
【0035】
糊化した米と、加熱して糊化し更に加熱して酵素が失活した麦芽液を混ぜ合わせ、麦芽液の水分を糊化した米に補給して撹拌して、40℃から75℃の温度帯で保温して糊化した米が流体状になるまで、4時間から15時間保温を続ける。
尚、この温度帯は家庭のヨーグルトメーカー並び、電気釜等の調理器具の保温温度に合わせた。
例えば40℃の調理器具なら8時間から15時間、75℃の調理器具なら4時間から7時間の保温をする。
試食し、淡白な味を味覚確認と飲み込み易さが目的の状態になっているか確認、研究の後期の段落[0026]の方法で消化吸収の評価を実施して、本発明のお粥の完成の確認をする。
なお、本発明のお粥は前記の米1:麦芽1:水4から5の比率にとらわれず、お米のお粥と同様に麦芽液を作る際の定量水を増やすことで、各病人・老人の消化吸収排泄機能に合わせるため濃度を変える。
例えば、米と麦芽の量は変えず、麦芽量の9倍から10倍の水を加え5分粥とする。
更に、15倍の水を加えて3分粥にする。
または、米と水の量を変えず麦芽の量を増減させて、濃度を変えて病人・老人に適切なお粥を作る方法がある。
更に、お米のお粥と同様に健康回復効果を出すため、前記の段落[0004]と同様に、本発明のお粥に種々の食材や漢方薬や民間薬の薬草を加えることもある。
但し、重湯は、消化吸収排泄機能が著しい低下した方へ提供されるため、唾液の消化酵素に代る麦芽の酵素の活性化を残した製造方法となり、麦芽の酵素で澱粉を糖化させるため小腸の消化吸収を助ける甘味の有るものとなる。
浸漬処理の温度は20℃から30℃で管理し、殻皮と可食部の麦芽を分けられた麦芽液は弱火で時間をかけて加熱し、糊化した段階で加熱を止めて麦芽の酵素の活性化を残した状態で糊化した米と混ぜ合わせて上記の工程で製造する。
米の澱粉は麦芽の酵素で糖化され、米の繊維は除去し易い状態で残る。
固形物除去し甘味の有る液体となる。
嚥下障害のなく米の繊維を摂ることで、便通回復が見込める方には固形物を含む重湯を提供する。
なお、麦芽液の作る際、麦芽の温度管理で麦芽の酵素の活性化度合いを調整して米の澱粉の糖化する量を調整して重湯の甘味を調節する。
また、水または麦芽の増減で濃度を変えられること、並びに健康回復効果を出すため、重湯に種々の食材や漢方薬や民間薬の薬草を加えることは、お米のお粥と同様である。
【実施例】
【0036】
当初の試作の甘味の有るお粥と、最終段階の試作の淡白な味のお粥の試食をした試食ボランティアの体調の変化、通便の比較を行い、本発明の目的達成の確認を行った。
原材料は長年、人間が食糧としてきた安全性が確認できている食材です。
両試作のお粥は、全く同じ原材料のみを使用して、それぞれ製造工程の違いで出来たお粥です。
研究の当初の時期に、当初の試作のお粥の味覚と飲み込み項目とCの観察の評価のため、糖尿病等の食事制限と食品アレルギーのない比較的に元気な方々に、当初の試作のお粥の試食ボランティアを依頼した。
消化吸収の評価は5日間の絶食による体重測定の依頼は困難であったため、その項目を除いて実施した。
最終段階の評価方法を見出した後、当初の試食に参加した方々の中で、便秘症のある30代女性と60代男性の2名に、最終段階の本発明のお粥の試食評価を依頼した。
他の40代男性1名は当初の試食に未参加のため、アレルギー反応確認の為、10ccの試食から開始して頂いた。
【0037】
<試食例1>
30代の女性。
介護ヘルパー職。
10代から便秘症で、便秘薬の効果も少なく、副作用を心配して服用を中止している。
1週間も排便がないこともあり、トイレに数十分間座り、排便を促しているとのこと。
当初の試作のお粥150ccを3回試食して、当初の味覚と飲み込み項目とCの観察の評価を行った。
甘くて食べ易い、排便状況は変わらないとの評価。
3ヶ月後、最終段階の試作のお粥100ccを2回試食して、最終段階の評価方法を実施した。
甘味がないので、砂糖を加えて食べた。
前のお粥に比べ味がない。
飲み込みは変わらない。
試食した翌朝の排便が数分間でスムーズに出たので驚いた。
便は軟らかく残便感もなく爽快とのこと。
臭いの有無はトイレの構造上、不明とのこと。
試食終了後、3ヶ月間、毎日の排便が維持出来た。
【0038】
<試食例2>
40代の男性。
昨年、大腸憩室炎で1週間入院。
仕事のストレスで便秘となった。
肉体労働の仕事で勤務中トイレに行けないので、下剤はあまり飲んでいない。
数日に1回排便、トイレに毎日40分間座り、排便を促しているとのこと。
当初の試食に未参加のため、アレルギー反応確認の為に、最終段階の試作のお粥を10cc試食して半日後、アレルギーが無いと判ってから、30ccを1日3回、3日間試食した。
甘味は無い、飲み込みは問題が無かったとのこと。
試食前と試食後の排便は激変。
試食翌朝、数分間で排便できた。
便は軟らかく前の便に比べ色の黒色から茶色に近くなったと思う。
便と放屁の臭いは子供に「お父さんトイレが臭く無い」と言われたとのこと。
以前は体に力を入れると腹痛が起き、仕事に集中できなかったが、今は腹痛が起きず、安心して仕事が出来る。
お腹がグウグウと鳴るので、「お腹が空いているのか?」と聞かれることがあり、食欲も回復したとのこと。
試食終了後、5カ月間、毎日の排便が維持できている。
現在は食後、便意を感じ直ぐにトイレに行くが下痢はしていない。
健康な排便習慣が回復した。
【0039】
<試食例3>
60代の男性。
14年前にパーキンソン病発症。
ホーン・ヤール重症度分類IV度。
便秘が続くとパーキンソン病治療薬が効かなくなる。
下剤は弱い薬を服薬、食事療法で対処。
体を固定しないと斜めに傾くためトイレに数十分間座り、排便を促すことに苦労している。
4年前に、当初の試作の甘い米糀と甘い麦芽のお粥150ccを3回試食して、当初の味覚と飲み込み項目とCの観察の評価を行った。
美味しかったが、便秘は解消しなかったとのこと。
その後、2ヶ月前から便秘が続き、体が動かせなくなったとの連絡があり、試食ボランティアになってもらった。
最終段階の試作のお粥150ccを昼と夜に試食して、翌朝残り150ccを試食、最終段階の評価方法を実施した。
甘味がないので食べ難かったが、飲み込みは変わらない。
試食した翌朝の排便が数分間でスムーズに出たので驚いた。
排便後はパーキンソン病治療薬も効くようになり、便臭も放屁の臭いは無いとのこと。
試食終了後、1ヶ月間で2日に1回の排便が維持出来ていたが、毎日の通便が無いため、更に再度、最終段階の評価方法を実施。
最終段階の試作のお粥100ccを晩に試食し、翌日午前中に朝8時と11時にスムーズな排便があり、その後5日間、最終段階の試作のお粥150ccを晩に試食して終了。
その後1ヶ月間、毎日1回の排便が維持できている。
パーキンソン病治療薬の効きも良くなり、トイレに通う時も家族の介助も頼まないで済むようになったとのこと。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明のお粥が普及することで、以下の利用可能性がある。
1、食品製造業界では、
本発明のお粥の原料は昔から食品製造業界で原料として来た米と麦芽で、技術も家庭料理レベルのため、既設の設備、技術で製造が出来、設備投資額も少ない。
販売は、食品製造業界の会社間の市場拡大競争でなく、需要先は医薬品産業の分野の顧客への拡大となるため、食品会社は売上を容易に増やすことが可能です。
2、介護業界の利用
老人は運動不足、食欲不振から便秘になる方が多い。
また、下剤服薬で排便コントロールすることは意思を上手に伝えることが苦手な要介護者では困難です。
更に、便秘解消のために強い下剤の服薬後、下痢症状となり、常時にトイレの近くに居ないと便失禁を起こす危険を感じ不安感が強くなり、外出が出来きなくなり、引籠りの生活となって運動不足となるとともに、便秘症状を生じる方も居ます。
本発明のお粥を主食として食べることで、栄養補給と通便回復効果が期待でき、老人の自立した生活の回復を期待できる。
介護者の下剤服薬管理手間、排泄のための摘便等の排便介護手間の削減が期待できる。
要介護者は自身でトイレができることで快便の爽快感を感じ、オムツから解放されて人間の尊厳を保てることが期待できる。
3、医療業界の利用
腸内の食物残を排出してきれいにする必要がある手術、大腸内視鏡検査、検便等を受ける患者が、同検査の数日前に本発明のお粥を食べて便通回復を図ることで、患者の心身の負担となる下剤による洗浄を容易なものとなる可能性がある。
入院患者は運動不足と食欲不振で便秘となり易く、更に悪化して食事が摂れず経管栄養になることもある。
本発明のお粥の食事を摂ることで経管栄養の予防の可能性がある。
【符号の説明】
【0041】
A 食品を口で咀嚼して食べた量
B 咀嚼された食品を消化器官で消化し栄養物を吸収して体内に取り込んだ量
C 消化器官を経由して消化吸収された排出された食品残渣物
a マイナスの記号 A―C
b イコールの記号 B=A―C
c 食べた食品の状態の変化を示す記号