【解決手段】使用者の親指TBが配置される領域に遠箸14と近箸12とを繋ぐ連結部16を有し、遠箸14は、連結部16との接続部24を支点にして、近箸12に対して箸先部と箸頭部が交互に接近・離間するように回動可能とされている練習用箸であって、遠箸14は、連結部16よりも箸頭部10a側に、使用者とは別の大人の指腹を当接可能なように拡大した遠箸用拡大部50を有し、近箸12は、連結部16よりも箸頭部10a側に、大人の指腹を当接可能なように拡大した近箸用拡大部60を有し、遠箸用拡大部50と近箸用拡大部60とは、互いに重なり合いながら接近・離間する方向Y2に摺動可能とされている。
二本の棒状の本体の一方が手首より遠くに配置される遠箸とされ、他方が前記遠箸よりも手首の近くに配置される近箸とされており、使用者の親指が配置される領域に前記遠箸と前記近箸とを繋ぐ連結部を有し、前記遠箸は、前記連結部との接続部を支点にして、前記近箸に対して箸先部と箸頭部が交互に接近・離間するように回動可能とされている練習用箸であって、
前記遠箸は、前記連結部よりも前記箸頭部側に、前記使用者の使用の最中において、前記使用者とは別の大人の手の指腹を当接可能なように拡大した遠箸用拡大部を有し、
前記近箸は、前記連結部よりも前記箸頭部側に、前記使用の最中において、前記指腹とは別の指腹を当接可能なように拡大した近箸用拡大部を有し、
前記遠箸用拡大部と前記近箸用拡大部とは、互いに重なり合いながら前記接近・離間する方向に摺動可能とされている
ことを特徴とする練習用箸。
前記遠箸及び/又は前記近箸は、前記箸先部と前記使用者の指を当接する部分との間に、前記接近・離間する方向に突出した突起部を有することを特徴とする請求項1に記載の練習用箸。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
〔正しい箸使いのために必要な指の動き等〕
本発明の実施形態に係る練習用箸を説明する前に、理解に資するものとして、正しい箸使いをするために必要な指の動きと、その動きが出来ない幼児の問題点を説明する。
箸は、
図2に示すように、手首に近い側の近箸12を親指TBの付け根や薬指RF及び小指LFの指先を使って固定しつつ、手首より遠い遠箸14を親指TBの指先で押さえると共に、挟んだ人差指FF・中指MFを伸展・屈曲させて動かす。
このため、正しい箸使いをするためには、
図1に示すように、2指(薬指・小指)と3指(親指・人差指・中指)とを分離して動かせる神経の発達が必要となる。すなわち、人差指・中指・親指の橈側神経と薬指・小指の尺側神経の双方がよく発達していることが必要となる。
【0013】
ところが、幼児の場合、橈側神経と尺側神経の発達時期が異なる。
図1(b)はこれを示すものであり、箸を開かせて観察した場合、三歳児では近箸のみ動かす者が約25%、遠箸のみ動かす者が約25%、近箸及び遠箸の双方を動かす者が約42%であった。
次に、四歳児では、近箸のみ動かす者が約39%、遠箸のみ動かす者が約30%、近箸及び遠箸の双方を動かす者が約30%であった。すなわち、三歳児に比べて四歳児では、近箸の方を動かすのが得意であり、このことから、幼児は先ず近箸を動かす尺側神経(薬指・小指の神経)が発達したことが分かる。
次に、五歳児では、近箸のみ動かす者が約17%、遠箸のみ動かす者が約66%、近箸及び遠箸の双方を動かす者が約17%であった。すなわち、四歳児に比べて五歳児では、遠箸の方を動かすのが得意であり、このことから、幼児は尺側神経の次に遠箸を動かす橈側神経(親指・人差指・中指の神経)が発達したことが分かる。
【0014】
そして、このように橈側神経と尺側神経の発達時期が異なることで、双方の神経ともバランスをもって上手く発達するのに時間がかかり、このため、幼児は橈側神経の人差指・中指・親指(「橈側指」という)と、尺側神経の薬指・小指(「尺側指」という)とを同時に(分離して)上手に動かすことが難しく、全ての指を握る格好をしたり、或いは近箸と遠箸とがクロスしたりして、上手な箸使いが出来ないことになる。
従って、いくら指を適正な位置に置けたとしても、神経が発達していない幼児にとっては、箸を適正に動かすことはやはり困難であり、そこで、本願発明の実施形態に係る練習用箸では、上述した神経を刺激して、箸を適正に動かす感覚を養えるようにしている。
【0015】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。
図2〜
図7は本発明の実施形態に係る練習用箸10であって、幼児が使用対象者であり、特に、スプーンやフォークでのみ食事をしていた幼児が箸に移行する時期に好適に使用できる。なお、
図2〜
図7で同一の符号を付した箇所は同様の構成である。
この練習用箸10は、近箸12と遠箸14から構成される二本の棒状の「本体11」、近箸12と遠箸14とを繋ぐ「連結部16」、近箸12に設けられた「親指配置部40」、遠箸14に設けられた「人差指配置部30」と「中指配置部31」を有している。
【0016】
〔本体11について〕
本体11を構成する近箸12及び遠箸14は、夫々、全体が細長い棒状であって、本実施形態の場合、親指TBや薬指RFの指先を置く面が略平坦となるようにした断面を有している。
近箸12は、使用の際、遠箸14に比べて手首に近い側(親指の付根側)に配置され、固定箸又は静箸とも呼ばれる。
遠箸14は、使用の際、近箸12に比べて手首から遠い側(親指の指先側)に配置され、可動箸又は動箸とも呼ばれる。
【0017】
これら近箸12及び遠箸14の夫々の箸先部(概ね食材を掴むことを予定している部分)12a,14aには、掴む食材の滑りを防止するため、複数の連続した細かな凹凸状からなる滑り止め部48,49が形成されている。本実施形態の滑り止め部48,49は、本体11に凸状部を形成するのではなく、凹状部39を形成することで、全体的に凹凸状にしている。
また、箸先部12a,14aのうちの先端部12b,14bは、
図3の近箸12と遠箸14を平面視又は底面視した一点鎖線で囲った図に示すように、丸み帯びるように拡幅されており、これにより、口腔内の損傷を防止すると共に、食材を掴み易くしている。
この箸先部12a,14aについては後でさらに説明する。
【0018】
〔連結部16について〕
連結部16は、近箸12と遠箸14との意図しない分離を防止すると共に、遠箸14をテコのように回動させるためのものである。
具体的には、
図3に示すように、連結部16の一方の端部16aは、近箸12に設けられた後述の親指配置部40に固定され、他方の端部16bは遠箸14に対して回動可能となるように接続されている。
本実施形態の場合、
図2及び
図5に示すように、連結部16が接続される遠箸14の領域には、配置される幼児の親指TBの概ね長さ方向Y1に貫通した貫通孔22が形成され、この貫通孔22の中に上記方向Y1と直交する方向Zに円柱状の軸部24が設けられている。
一方、
図4及び
図5に示すように、連結部16の他方の端部16bには、軸部24の外径に対応した円形ないし半円形状の切り欠き45が形成されて略レンチ状とされ、この切り欠き45の中に軸部24が圧入されると共に、切り欠き45の内面に軸部24が係止される。
【0019】
このようにして、使用状態である
図7に示すように、遠箸14と近箸12の箸先部12a,14aどうし及び箸頭部10aどうしが交互に接近・離間するようにして、遠箸14は近箸12に対して回動可能となる。即ち、箸先部12a,14aどうしの接近に従って箸頭部10aどうしが離間する方向に動き、逆に、箸先部12a,14aどうしの離間に従って箸頭部10aどうしが接近する方向に動くようにして、遠箸14は連結部16との接続部(本実施形態では軸部24)を支点にして回動自在となる。
そして、連結部16は、使用の際に幼児の親指TBが正しく配置されるべき領域に設けられ、これにより、幼児は、親指TBの指先の位置に対応した他方の端部16b(
図2参照)を支点にして遠箸14を回動させる感覚を養える。
【0020】
なお、
図5に示す貫通孔22の幅寸法W4は、連結部16の他方の端部16bの厚みに比べて僅かに大きいだけであり、これにより、遠箸14が回動した際、当該回動方向以外の動きを抑制している。
さらに、本実施形態の貫通孔22の内壁には概ね方向Y1に向く段部23が形成されており、これに対して、
図4に示す連結部16には、
図5の遠箸14が回動し過ぎた際に段部23と係止するようにした係止部37が形成されている。これにより、段部23と係止部37が協働してストッパーとなり、遠箸14の回動のし過ぎを防止し、後述する近箸用拡大部60と遠箸用拡大部50との位置を制御するようにしている。また、該ストッパーは孔の内側に配置されているため、指を挟む恐れもない。
【0021】
〔親指配置部40について〕
図2に示すように、近箸12に設けられた親指配置部40は、幼児の親指TBの付け根付近が置かれる部分にあり、該親指TBが通される親指用リング部44と、該親指TBの付け根付近で押される被押圧部42とからなっている。
親指用リング部44は、
図4及び
図6に示すように、配置される幼児の親指の長さ方向Y1に孔を有するリング状であり、
図2に示すように幼児の親指TBが通されることで、該親指TBの付け根付近が近箸12に対して位置決めされる。
この親指用リング部44は本体11と同様の硬質な部材(例えばポリプロピレン)で形成され、被押圧部42に固定されている。
【0022】
被押圧部42も親指用リング部44と同様、硬質な部材(例えばポリプロピレン)で形成されている。そして、被押圧部42は、
図4に示すように、配置される親指の長さ方向Y1に沿った幅寸法W2が、近箸12の該長さ方向Y1に沿った幅寸法W1に比べて大きく形成されている。従って、親指の付け根付近で近箸12を押え易くなり、親指で近箸12を押えて固定するという感覚を養えることができる。
このように被押圧部42は大きな面積とされているが、
図7に示すように遠箸14が接続部(軸部)24を支点にしてテコのように動く際の邪魔にならないように、正面視において、遠箸14側の縁が遠箸14側に凸となる円弧状となっており、図の場合、全体的に略楕円形状又は略長円形状とされている。
【0023】
なお、被押圧部42は、
図6に示すように、親指が配置される側の面42aが、親指の長さ方向Y1に直交する方向X1について、中央部にいくに従って凹むように形成されるのが好ましく、これにより、被押圧部42は親指の付け根付近に対応した形状となって、より親指で押さえられ易くなる。
また、被押圧部42は近箸12に対して着脱可能とされている。本実施形態の場合、被押圧部42にはピン28が付いており、このピン28が近箸12に設けられた孔に嵌合するようになっている。この嵌合度合い(被押圧部42と近箸12との接続強度)は、親指用リング部44に挿入した親指を力強く図のZ1方向(X1方向とY1方向の双方と直交する方向)に押した際に外れるようにして、該親指の骨折を防止している。
【0024】
〔人差指配置部30及び中指配置部31について〕
図2及び
図3に示すように、人差指配置部30は、遠箸14に対して人差指FFを正しく配置すべき位置に設けられている。具体的には、人差指FFの指先を挿入可能なリングを、遠箸14の上端面(近箸12から最も遠ざかった面)14dから上に突出させて、人差指配置部30が形成されている。
一方、中指配置部31は、遠箸14に対して中指MFを略正しく配置すべき位置に設けられている。具体的には、中指MFの指先を挿入可能なリングを、遠箸14の背面14cから突出させて、中指配置部31が形成されている。
これら人差指配置部30と中指配置部31とは隣接しており、これらに挿入した人差指FFの指先と中指MFの指先とで遠箸14を挟むかのような格好とすることができる。そして、これらに挿入した人差指FFと中指MFを伸展・屈曲させることで、遠箸14は連結部16との接続部(軸部)24を支点にして、箸先部14aが近箸12に接近・離間するように回動可能となる。
【0025】
本実施形態の人差指配置部30及び中指配置部31は、遠箸14に固定されているが、人差指FFや中指MFの指先の力だけで容易に変形可能な軟質材(例えばシリコーン)から形成されることで、指の長さや持ち方に関する個人差に柔軟に対応することができる。
なお、本実施形態には設けられていないが、近箸12を下支えするための薬指RF及び小指LFを正しい位置に配置し、薬指RF及び小指LFの動きを規制するリング状部を近箸12に設けても構わない。
また、人差指配置部30や中指配置部31、及び/又は親指用リング部44については、そのリングの幅を切るようにスリットを形成し、これにより転倒した際に指を抜け易くして安全性を図るようにしてもよい。
本実施形態の練習用箸10は以上の特徴を有しており、さらに、以下の特徴も有している。
【0026】
〔遠箸用拡大部50及び近箸用拡大部60について〕
先ず、遠箸用拡大部50及び近箸用拡大部60について説明する。
図7に示すように、練習用箸10は、連結部16よりも箸頭部10a側(箸先部12a,14aの反対側)に、遠箸用拡大部50及び近箸用拡大部60を有している。
遠箸用拡大部50及び近箸用拡大部60は、幼児に対する箸の動かし方の指南としての機能、また、箸使いの感覚を養わせるための機能を有している。
【0027】
即ち、遠箸用拡大部50は、遠箸14の箸頭部10a側が、幼児の使用中でも大人の手の指腹を当接可能なように拡大した部分であり、近箸用拡大部60は、近箸12の箸頭部10a側が、幼児の使用中でも、遠箸用拡大部50に当接される指腹とは別の指腹を当接可能なように拡大した部分である。
図の場合、遠箸用拡大部50及び近箸用拡大部60(以下、これらをまとめて「両拡大部50,60」と呼ぶ)は、近箸12と遠箸14の箸頭部10a同士が接近・離間する方向Y2について、箸頭部10aの寸法をその他の本体11の部分に比べて大きくすることで面積を拡大している(換言すれば、箸頭部10aは接近・離間する方向Y2の成分を有する方向に拡大している)。
そして、両拡大部50,60は、
図5〜
図7に示すように薄板状であって、その厚み方向に互いに重なり合うようになっている。この重なり合いについては、練習用箸10を最も開いた
図7(A)の状態で重なり合うだけではなく、練習用箸10を最も閉じた
図7(B)の状態であっても、両拡大部50,60は、その一部が厚み方向に互いに重なり合うようになっている。
これにより、使用者である幼児とは別の者(例えば親であり、以下「親」という。)は、この重ね合わせた両拡大部50,60を片手で摘まむことができる。即ち、幼児が練習用箸10を使用している最中でも、例えば親が幼児の背後に回って、
図5及び
図7に示すように、親指PF2と人差指PF1で、両拡大部50,60の互いに対向する面50a,60aとは反対側の主面50b,60bを挟むように摘まむことができる。
なお、図の練習用箸10は右手用であり、遠箸用拡大部50に右手の親指PF2の腹を、近箸用拡大部60に右手の人差指PF1の腹を当接させているが、親が幼児の前方にいる場合、遠箸用拡大部50に左手の人差指の腹を、近箸用拡大部60に左手の親指の腹を当接させてもよい(即ち、図の両拡大部50,60の主面50b,60bは、いずれも大人の手の親指の腹を当接容易な大きさとされている)。
【0028】
そして、この主面50b,60bを摘まんだ親の親指PF2と人差指PF1を、
図7(A)の状態と
図7(B)の状態が交互となるように動かして、遠箸用拡大部50と近箸用拡大部60とを接近・離間する方向Y2に摺動させれば、該摺動に伴って、遠箸14は、連結部16との接続部24を支点にして箸先部14aが近箸12の箸先部12aに接近・離間するように回動する。
そこで、
図7に示すように幼児の指TB,FF,MF,RF,LFを正しい位置に配置させた上で、親がこの遠箸用拡大部50と近箸用拡大部60を摘まんで接近・離間する方向Y2に摺動させれば箸は適正に動き、これにより幼児は箸の動かし方が実体験で分かり、また、その摺動回数に応じて箸を動かす感覚を養えることもできる。
【0029】
具体的には、遠箸用拡大部50は、遠箸14の幅(正面視した際の短手方向の幅)W5が拡大することで形成されているが、遠箸用拡大部50と近箸用拡大部60との離間側の拡大よりも、接近側の拡大の方が大きくなっている(
図7の正面視において、上側よりも下側がより大きく拡大している)。
また、近箸用拡大部60も、近箸12の幅(正面視した際の短手方向の幅)W1が拡大することで形成されているが、この近箸用拡大部60については、遠箸用拡大部50と近箸用拡大部60との接近および離間の夫々の側に、略均等に拡大している(正面視において、下側への拡幅と上側への拡幅が同様である)。
このように近箸用拡大部60だけが略均等に拡大しているのは、近箸用拡大部60は後述のように幼児の人差指FFの根本付近に接触してもよく、該接触に際して人差指FFの動きを邪魔しないようにするためである。
【0030】
本実施形態の遠箸用拡大部50は、練習用箸10を適正に持って正面視した
図7の状態で、近箸用拡大部60よりも手前側(親指用リング部44が突出する側)となるように、近箸用拡大部60に重ねられている。換言すれば、練習用箸10を適正に持った状態において、近箸用拡大部60と幼児の人差指FFの根本付近が接触してもよいのに対して、回動する遠箸用拡大部50は幼児の指に接触しないのが好ましい。
これにより、遠箸用拡大部50は近箸用拡大部60に対して摺動させた際、幼児の指に触れず、円滑な摺動が可能となる。
なお、近箸用拡大部60は
図7(B)に示すように幼児の人差指FFの根本付近が接触する方が、近箸12の安定性上よいが、その場合、人差指FFよりも後端側に飛び出した部分60cが必要であり、この部分60cに親の人差指PF1の指先が当接されることになる。
【0031】
両拡大部50,60の厚みについては、
図5に示すように、遠箸用拡大部50の厚みD2と近箸用拡大部60の厚みD3は同様であり(図の場合は約3mm)、遠箸用拡大部50と近箸用拡大部60とを重ね合わせた際の寸法が近箸12や遠箸14の厚みD1と同様とされるように、互いに対向する側が削り取られるような形状とされている。これにより、両拡大部50,60の厚み方向の重なり合いを可能にしつつ、
図7(B)のように箸先部12a,14aを揃えることも可能としている。
両拡大部50,60の大きさについては、
図5及び
図7に示すように、幼児が適正に指を配置した状態において、親の指PF1,PF2で容易に摘まめる大きさを有し、さらに練習用箸10の長手方向の重量バランスを考慮した大きさとするのが好ましく、具体的には、全長が14〜16cmの練習用箸10において、両拡大部50,60は直径が2.0〜3.5cm、より好ましくは直径が約2.5〜3.0cmの円形状とするのがよい。
両拡大部50,60の形状については、正面視が円形状、四角形状、三角形状など、特に限定はないが(本実施形態は略正円形状)、
図7(A)に示すように箸先部12a,14aを最も開いた状態で、遠箸用拡大部50と近箸用拡大部60とが略完全に重なり合うように略同一の面積及び形状とされるのが好ましい。
【0032】
なお、遠箸用拡大部50と近箸用拡大部60とが略完全に重なり合うようにするため、本実施形態では、上述のように、遠箸14の回動のし過ぎを防止するストッパー(
図5の貫通孔内の段部23と、この段部23と係止する
図4の連結部16の係止部37)を有している。さらに、本実施形態では、遠箸用拡大部50が回動し過ぎた場合、親指配置部40(具体的には被押圧部42)と遠箸用拡大部50とが衝突して、上記重なり度合いを保持するようにしている。
【0033】
なお、両拡大部50,60の親の指PF1,PF2が触れる主面50b,60bには、微細な凹凸を有する凹凸面としたり、或いは、指PF1,PF2に係止する突起を形成するなどして、指PF1,PF2の滑り止めとしてもよい。これに対して、両拡大部50,60の互いに対向する面50a,60a(
図5も参照)については、上記主面50b,60bに比べて円滑面とされるのが好ましく、これにより遠箸用拡大部50と近箸用拡大部60とを片手で容易に摺動させることができる。
【0034】
以上の両拡大部50,60には絵柄や文字等(以下、単に「絵柄」という)が表示されるのが好ましく、以下、この点について
図8を用いて説明する。
図8(A)は
図7(B)の箸先部12a,14aを閉じた際の両拡大部50,60の正面図、
図8(B)は
図7(A)の箸先部12a,14aを開いた際の両拡大部50,60の正面図である。
図8に示すように、両拡大部50,60は、練習用箸10を適正に持って正面視した側の主面50b,60a(図の場合、両拡大部50,60を互いに重ね合せた状態において、近箸用拡大部60の遠箸用拡大部50と対向する主面60a、及び遠箸用拡大部50の近箸用拡大部60と対向する面とは反対側の主面50b)に絵柄P1,P2が表示されている。
【0035】
絵柄P1,P2は、近箸用拡大部60と遠箸用拡大部50とを接近・離間させて、遠箸用拡大部50による近箸用拡大部60の主面60aの被覆と露出により、物語が展開するようになっている。
なお、ここにいう物語は、近箸用拡大部60の絵柄P1と遠箸用拡大部50の絵柄P2とに何等かの意味的又はデザイン的な関連性があれば足りる。例えば、
図8の場合、近箸用拡大部60の絵柄P1は蝶、遠箸用拡大部50の絵柄P2は花であり、近箸用拡大部60と遠箸用拡大部50とが接近離間することで、蝶が花に接近離間するように動くことで意味的な関連性を有している。
また、近箸用拡大部60と遠箸用拡大部50とが離間することで、初めて一つのデザインが完成するもの(不図示)はデザイン的な関連性を有する。
或いは、例えば、
図8の変形例である
図9に示すように、遠箸用拡大部50に絵柄が存在しなくても物語の展開は可能であり、例えば
図9の場合、食べ物を箸先部で掴むと、
図9(A)のように絵柄P3が出て来る演出をすることができる。従って、絵柄は、少なくとも近箸用拡大部60の遠箸用拡大部50と対向する主面60aに表示されていれば足りる。
【0036】
以上、
図9に示すように近箸用拡大部60の遠箸用拡大部50と対向する主面60aに絵柄P3が表示され、或いは、
図8に示すように両拡大部50,60の主面50b,60aに絵柄P1,P2が表示され、そして、これらの絵柄P1,P2,P3に物語性(意味的又はデザイン的な関連性)を持たせることで、幼児は楽しんで近箸用拡大部60と遠箸用拡大部50とを接近離間する方向Y2に動かし、もって、幼児に対して箸使いの感覚を養わせることができる。
【0037】
〔突起部70について〕
次に、練習用箸10の更なる特徴である突起部70について、主に
図10を用いて説明する。
図10は練習用箸10の使用状態における箸先部12a,14aの周辺を示す斜視図である。なお、
図10では箸先部12a,14aの先端を切断した図を示している。
遠箸14及び近箸12は、食材を掴む箸先部12a,14aと幼児の指を当接する部分(
図2の薬指RFを当接する部分12c、及び中指MFを当接する部分14e)との間に、遠箸14と近箸12とが接近・離間する方向Y2に突出した突起部70を有する。
この突起部70は、箸先部12a,14aにある麺の指側への滑りを防止するためのものである。
【0038】
突起部70は、
図10に示すように、遠箸14と近箸12の双方に設けられ、近箸12と遠箸14とが対向する面72,74から、互いに向かい合うように突出して形成されるのが好ましい。これにより、箸先部12a,14aを口に差し入れた際、口腔内又は口の周りに突起部70が当たる事態を防止することができる。
また、突起部70は、箸先部12a,14aに形成された滑り止め部48,49に隣接して配置されるのが好ましく、これにより、突起部70の突出する高さ(出幅)H1が小さくても、麺NDの指側への移動を有効に防止することができる。但し、本発明はこのような好ましい実施形態に限られず、例えば、突起部70は滑り止め部48,49から離れたり、また、遠箸14又は近箸12のいずれかにのみ設けられたりしてもよい。
【0039】
突起部70の高さH1は、
図7(B)に示す箸先部12a,14aを最も接近させた状態において、互いに対向する2つの突起部70,70の間の幅W6が茹でたうどんの麺の太さと同等以下の寸法とされるように形成されている。これにより、幼児がよく食べるうどんの麺であっても、食事中に突起部70,70よりも指先側に移動することを防止できる。
図10に示す突起部70の高さH1については、本体11の長手方向Xに関する突起部70の中心部CPに向かって、除々に突出するようになっており、これにより、互いに対向する面70aが滑らかな円弧状とされている。従って、幼児が遊んで箸先部12a,14a側を掴んで、突起部70に手が触れてしまっても、怪我を防止できる。
【0040】
以上のように、突起部70を形成することで、食事中の麺NDが指の方に滑ってくる事態を防止でき、このことは柔らかい麺類などの食事をすることが比較的多い幼児にとって効果が大きい。特に、幼児が
図10の上側を概ね上にして(親指を上にして)スプーンのように口に運んで、麺NDが本体11の上を滑り易い状態であっても、近箸12と遠箸14とが対向する面72,74から突出した突起部70と、近箸12と遠箸14との間に挟まれた麺NDとを係止することができ、従って、麺NDの指側への滑りを有効に防止することができる。
【0041】
この点、本実施形態では、麺NDの指側への滑りをより有効に防止するため、滑り止め部48,49の形状についても工夫をしている。
即ち、
図10及びそのA−A断面である
図11に示すように、滑り止め部48,49は、近箸12と遠箸14とが対向する面72,74だけではなく、
図7に示す親指用リング部44を上側にして練習用箸10をスプーンのように持った場合の上側の面76,78(
図10及び
図11参照)にも形成されている。そして、
図10及び
図11に示す滑り止め部48,49の凹状部39は、茹でたうどんの麺をひっかけることが可能な深さD4,D5を有している。
なお、本発明では、滑り止め部48,49は上記面72,74,76,78以外の外面に形成されても構わないが、好ましくは、上記対向する面72,74や上側の面(
図7の正面)76,78にのみ形成されるのがよい。これにより、箸先部12a,14aを口に入れた際に口腔内の損傷を防止できる。
【0042】
本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
例えば、本実施形態では好ましい態様として連結部16の端部16aは、親指配置部40に固定されているが、親指配置部40が存在しない場合などは、近箸12に固定してもよい。
また、本実施形態の遠箸用拡大部50と近箸用拡大部60とは同様の形状をしているが、本発明はこれに限られるものではなく、異なる形状(例えば、表示される絵柄の物語性に合わせて、以下の
図12に示すように、遠箸用拡大部50を犬の顔の形状、近箸用拡大部60を骨の絵柄がプリントされた円形状)としてもよい。
【0043】
また、本発明の上述した実施形態に係る練習用箸の変形例に係る正面図である
図12に示すようにしてもよい。
この
図12の練習用箸80は、
図2に示すリング状の親指用リング部44・人差指配置部30・中指配置部31が存在せず、その代わりに、
図12に示すように、突起状の「親指配置部82」、人差指FFと中指MFが接触する位置に窪み部84,85が形成された「人差指中指配置部86」、薬指RFと小指LFが並べられ、薬指RFの第一関節を曲げて浅く把持させる棒状の「薬指小指配置部88」を有している。
これら「親指配置部82」「人差指中指配置部86」「薬指小指配置部88」はリング状ではないので、箸ではなくリングを動かして使用してしまうという問題が生じることがない。この
図12の練習用箸80は、よりしっかりと箸を把持する必要があるため、例えば箸を使用しはじめて暫く経過した幼児、好ましくは尺側神経(薬指・小指の神経)が発達した段階で使用するとよく、幼児の成長段階や個性などを考慮して、
図2に示す練習用箸10と
図12に示す練習用箸80とを使い分けてもよい。
【0044】
また、
図2の練習用箸10を変形した
図13に示すように、遠箸用拡大部50と近箸用拡大部60については、夫々に、親の親指と人差指を挿入可能な貫通孔90,91を形成してもよい。この場合、この貫通孔90,91に親の指を挿入すると、その親の指が幼児の手に当たって邪魔になる恐れが上述した実施形態に比べて高くなるため、親指配置部40から両拡大部50,60の後端までの距離Lを大きくせざるを得ず、このため練習用箸の長手方向の重量バランスの調整は難しくなる。しかし、
図13の貫通孔90,91に挿入した親指と人差指とを接近・離間させることで、遠箸用拡大部50と近箸用拡大部60とを鋏の柄のように接近・離間させることができ、これにより、幼児に対して箸の動かし方の指南とすることができ、さらに、箸を使用するための指の神経を刺激して、幼児は箸を適正に動かす感覚を養える。なお、
図13の遠箸用拡大部50と近箸用拡大部60は、
図7のように互いに重なり合う必要性はない。