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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-79705(P2017-79705A)
(43)【公開日】2017年5月18日
(54)【発明の名称】グルタミン酸系L−アミノ酸の製造法
(51)【国際特許分類】
   C12P 13/14 20060101AFI20170414BHJP
   C12P 13/24 20060101ALI20170414BHJP
   C12P 13/10 20060101ALI20170414BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20170414BHJP
【FI】
   C12P13/14ZNA
   C12P13/24 A
   C12P13/10
   C12N15/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2015-215052(P2015-215052)
(22)【出願日】2015年10月30日
(71)【出願人】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(72)【発明者】
【氏名】平野 聖子
(72)【発明者】
【氏名】林 和之
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼屋敷 均
(72)【発明者】
【氏名】福井 啓太
【テーマコード(参考)】
4B024
4B064
【Fターム(参考)】
4B024AA03
4B024AA05
4B024BA71
4B024CA03
4B024CA20
4B024DA05
4B024DA10
4B024EA04
4B024GA11
4B024HA01
4B024HA09
4B064AE19
4B064AE20
4B064AE24
4B064AE27
4B064AE28
4B064AE35
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA10
4B064DA16
(57)【要約】
【課題】L−グルタミン酸等のグルタミン酸系L−アミノ酸の製造法を提供する。
【解決手段】α−ケトグルタル酸(α−KG)取り込み担体の活性が増大するように改変されたグルタミン酸系L−アミノ酸生産能を有するコリネ型細菌を培地で培養し、該培地よりグルタミン酸系L−アミノ酸を採取することにより、グルタミン酸系L−アミノ酸を製造する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
L−アミノ酸生産能を有するコリネ型細菌を培地で培養すること、および該培地よりL−アミノ酸を採取すること、を含むL−アミノ酸の製造法であって、
前記細菌が、α−ケトグルタル酸(α−KG)取り込み担体の活性が増大するように改変されており、
前記L−アミノ酸が、グルタミン酸系L−アミノ酸である、方法。
【請求項2】
前記α−KG取り込み担体が、kgtP遺伝子にコードされるタンパク質である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記α−KG取り込み担体が、下記(a)、(b)、または(c)に記載のタンパク質である、請求項1または2に記載の方法:
(a)配列番号8に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号8に示すアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、または付加を含むアミノ酸配列を含み、且つ、α−KG取り込み活性を有するタンパク質;
(c)配列番号8に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ、α−KG取り込み活性を有するタンパク質。
【請求項4】
α−KG取り込み担体をコードする遺伝子の発現を上昇させることにより、α−KG取り込み担体の活性が増大した、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記遺伝子の発現が、該遺伝子のコピー数を高めること、及び/又は該遺伝子の発現調節配列を改変することによって上昇した、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記細菌が、さらに、ホスホケトラーゼの活性が増大するように改変されている、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ホスホケトラーゼが、D−キシルロース−5−リン酸ホスホケトラーゼおよび/またはフルクトース6−リン酸ホスホケトラーゼである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ホスホケトラーゼをコードする遺伝子の発現が増大することにより、ホスホケトラーゼの活性が増大した、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記細菌が、さらに、α−ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼおよび/またはコハク酸デヒドロゲナーゼの活性が低下するように改変されている、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記細菌が、コリネバクテリウム属細菌である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記細菌が、コリネバクテリウム・グルタミカムである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記グルタミン酸系L−アミノ酸が、L−グルタミン酸、L−グルタミン、L−プロリン、L−アルギニン、L−シトルリン、およびL−オルニチンから選択される1またはそれ以上のL−アミノ酸である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記グルタミン酸系L−アミノ酸が、L−グルタミン酸である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記L−グルタミン酸が、L−グルタミン酸アンモニウムまたはL−グルタミン酸ナトリウムである、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記細菌が、さらに、変異型yggB遺伝子を保持するように改変されている、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
前記変異型yggB遺伝子が、コリネ型細菌のL−グルタミン酸生産能を向上させる変異を有するyggB遺伝子である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記変異型yggB遺伝子が、下記(1)、(2)、または(3)に記載の変異を有するyggB遺伝子である、請求項15または16に記載の方法:
(1)野生型YggBタンパク質の419〜533位のアミノ酸残基をコードする領域における変異;
(2)野生型YggBタンパク質の膜貫通領域をコードする領域における変異;
(3)それらの組み合わせ。
【請求項18】
前記野生型YggBタンパク質が、下記(a)、(b)、または(c)に記載のタンパク質である、請求項17に記載の方法:
(a)配列番号12に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号12に示すアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、または付加を含むアミノ酸配列を含み、且つ、コリネ型細菌において発現を上昇させた際にコリネ型細菌のL−グルタミン酸生産能を向上させる性質を有するタンパク質;
(c)配列番号12に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ、コリネ型細菌において発現を上昇させた際にコリネ型細菌のL−グルタミン酸生産能を向上させる性質を有するタンパク質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コリネ型細菌を用いたL−グルタミン酸等のグルタミン酸系L−アミノ酸(L-amino acid of glutamate family)の製造法に関する。L−アミノ酸は、調味料原料等として産業上有用である。
【背景技術】
【0002】
L−アミノ酸は、例えば、L−アミノ酸生産能を有するコリネ型細菌等の微生物を用いた発酵法により工業生産されている(非特許文献1)。そのような微生物としては、例えば、自然界から分離した菌株やそれらの変異株が用いられている。また、組換えDNA技術により微生物のL−アミノ酸生産能を向上させることができる。例えば、コリネ型細菌のL−グルタミン酸生産能を向上させる手段として、ホスホケトラーゼ活性を増強すること(特許文献1)や変異型yggB遺伝子を利用すること(特許文献2)が知られている。
【0003】
エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)のkgtP遺伝子は、α−ケトグルタル酸(α−KG)取り込み担体をコードする遺伝子である(非特許文献2)。α−KGは、L−グルタミン酸生合成におけるL−グルタミン酸の前駆体として知られている。しかしながら、α−KG取り込み担体とグルタミン酸系L−アミノ酸生産との関連は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2006/016705
【特許文献2】WO2006/070944
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】明石邦彦ら著 アミノ酸発酵、学会出版センター、195〜215頁、1986年
【非特許文献2】Seol W, Shatkin AJ. Escherichia coli kgtP encodes an alpha-ketoglutarate transporter. Proc Natl Acad Sci U S A. 1991 May 1;88(9):3802-6.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、コリネ型細菌のグルタミン酸系L−アミノ酸生産能を向上させる新規な技術を開発し、効率的なグルタミン酸系L−アミノ酸の製造法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、α−ケトグルタル酸(α−KG)取り込み担体の活性が増大するようにコリネ型細菌を改変することによって、コリネ型細菌のグルタミン酸系L−アミノ酸生産能を向上させることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は以下の通り例示できる。
[1]
L−アミノ酸生産能を有するコリネ型細菌を培地で培養すること、および該培地よりL−アミノ酸を採取すること、を含むL−アミノ酸の製造法であって、
前記細菌が、α−ケトグルタル酸(α−KG)取り込み担体の活性が増大するように改変されており、
前記L−アミノ酸が、グルタミン酸系L−アミノ酸である、方法。
[2]
前記α−KG取り込み担体が、kgtP遺伝子にコードされるタンパク質である、前記方法。
[3]
前記α−KG取り込み担体が、下記(a)、(b)、または(c)に記載のタンパク質である、前記方法:
(a)配列番号8に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号8に示すアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、または付加を含むアミノ酸配列を含み、且つ、α−KG取り込み活性を有するタンパク質;
(c)配列番号8に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ、α−KG取り込み活性を有するタンパク質。
[4]
α−KG取り込み担体をコードする遺伝子の発現を上昇させることにより、α−KG取り込み担体の活性が増大した、前記方法。
[5]
前記遺伝子の発現が、該遺伝子のコピー数を高めること、及び/又は該遺伝子の発現調節配列を改変することによって上昇した、前記方法。
[6]
前記細菌が、さらに、ホスホケトラーゼの活性が増大するように改変されている、前記方法。
[7]
前記ホスホケトラーゼが、D−キシルロース−5−リン酸ホスホケトラーゼおよび/またはフルクトース6−リン酸ホスホケトラーゼである、前記方法。
[8]
ホスホケトラーゼをコードする遺伝子の発現が増大することにより、ホスホケトラーゼの活性が増大した、前記方法。
[9]
前記細菌が、さらに、α−ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼおよび/またはコハク酸デヒドロゲナーゼの活性が低下するように改変されている、前記方法。
[10]
前記細菌が、コリネバクテリウム属細菌である、前記方法。
[11]
前記細菌が、コリネバクテリウム・グルタミカムである、前記方法。
[12]
前記グルタミン酸系L−アミノ酸が、L−グルタミン酸、L−グルタミン、L−プロリン、L−アルギニン、L−シトルリン、およびL−オルニチンから選択される1またはそれ以上のL−アミノ酸である、前期方法。
[13]
前記グルタミン酸系L−アミノ酸が、L−グルタミン酸である、前記方法。
[14]
前記L−グルタミン酸が、L−グルタミン酸アンモニウムまたはL−グルタミン酸ナトリウムである、前記方法。
[15]
前記細菌が、さらに、変異型yggB遺伝子を保持するように改変されている、前記方法。
[16]
前記変異型yggB遺伝子が、コリネ型細菌のL−グルタミン酸生産能を向上させる変異を有するyggB遺伝子である、前記方法。
[17]
前記変異型yggB遺伝子が、下記(1)、(2)、または(3)に記載の変異を有するyggB遺伝子である、前記方法:
(1)野生型YggBタンパク質の419〜533位のアミノ酸残基をコードする領域における変異;
(2)野生型YggBタンパク質の膜貫通領域をコードする領域における変異;
(3)それらの組み合わせ。
[18]
前記野生型YggBタンパク質が、下記(a)、(b)、または(c)に記載のタンパク質である、前記方法:
(a)配列番号12に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号12に示すアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、または付加を含むアミノ酸配列を含み、且つ、コリネ型細菌において発現を上昇させた際にコリネ型細菌のL−グルタミン酸生産能を向上させる性質を有するタンパク質;
(c)配列番号12に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ、コリネ型細菌において発現を上昇させた際にコリネ型細菌のL−グルタミン酸生産能を向上させる性質を有するタンパク質。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、コリネ型細菌のグルタミン酸系L−アミノ酸生産能を向上させることができ、グルタミン酸系L−アミノ酸を効率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明の方法は、L−アミノ酸生産能を有するコリネ型細菌を培地で培養すること、および該培地よりL−アミノ酸を採取すること、を含むL−アミノ酸の製造方法であって、前記細菌がα−ケトグルタル酸(α−KG)取り込み担体の活性が増大するように改変されており、前記L−アミノ酸がグルタミン酸系L−アミノ酸である方法である。同方法に用いられるコリネ型細菌を、「本発明の細菌」ともいう。
【0012】
<1>本発明の細菌
本発明の細菌は、α−KG取り込み担体の活性が増大するように改変された、L−アミノ酸生産能を有するコリネ型細菌である。
【0013】
<1−1>L−アミノ酸生産能を有するコリネ型細菌
本発明において、「L−アミノ酸生産能を有する細菌」とは、培地で培養したときに、目的とするL−アミノ酸を生成し、回収できる程度に培地中または菌体内に蓄積する能力を有する細菌をいう。L−アミノ酸生産能を有する細菌は、非改変株よりも多い量の目的とするL−アミノ酸を培地に蓄積することができる細菌であってよい。「非改変株」とは、α−KG取り込み担体の活性が増大するように改変されていない対照株をいう。すなわち、非改変株としては、野生株や親株、例えばCorynebacterium glutamicum ATCC 13869株やATCC 13032株、が挙げられる。また、L−アミノ酸生産能を有する細菌は、好ましくは0.5g/L以上、より好ましくは1.0g/L以上の量の目的とするL−アミノ酸を培地に蓄積することができる細菌であってもよい。
【0014】
本発明において製造されるL−アミノ酸は、グルタミン酸系L−アミノ酸である。「グルタミン酸系L−アミノ酸」とは、L−グルタミン酸、およびL−グルタミン酸を中間体として生合成されるL−アミノ酸の総称である。L−グルタミン酸を中間体として生合成されるL−アミノ酸としては、L−グルタミン、L−プロリン、L−アルギニン、L−シ
トルリン、L−オルニチンが挙げられる。本発明の細菌は、1種のL−アミノ酸の生産能のみを有していてもよく、2種またはそれ以上のL−アミノ酸の生産能を有していてもよい。
【0015】
本発明において、「アミノ酸」という用語は、特記しない限り、L−アミノ酸を意味する。また、本発明において、「L−アミノ酸」という用語は、特記しない限り、フリー体のL−アミノ酸、その塩、またはそれらの混合物を意味する。塩については後述する。
【0016】
コリネ型細菌としては、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、およびミクロバクテリウム(Microbacterium)属等の属に属する細菌が挙げられる。
【0017】
コリネ型細菌としては、具体的には、下記のような種が挙げられる。
コリネバクテリウム・アセトアシドフィラム(Corynebacterium acetoacidophilum)
コリネバクテリウム・アセトグルタミカム(Corynebacterium acetoglutamicum)
コリネバクテリウム・アルカノリティカム(Corynebacterium alkanolyticum)
コリネバクテリウム・カルナエ(Corynebacterium callunae)
コリネバクテリウム・クレナタム(Corynebacterium crenatum)
コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)
コリネバクテリウム・リリウム(Corynebacterium lilium)
コリネバクテリウム・メラセコーラ(Corynebacterium melassecola)
コリネバクテリウム・サーモアミノゲネス(コリネバクテリウム・エフィシエンス)(Corynebacterium thermoaminogenes (Corynebacterium efficiens))
コリネバクテリウム・ハーキュリス(Corynebacterium herculis)
ブレビバクテリウム・ディバリカタム(コリネバクテリウム・グルタミカム)(Brevibacterium divaricatum (Corynebacterium glutamicum))
ブレビバクテリウム・フラバム(コリネバクテリウム・グルタミカム)(Brevibacterium
flavum (Corynebacterium glutamicum))
ブレビバクテリウム・イマリオフィラム(Brevibacterium immariophilum)
ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(コリネバクテリウム・グルタミカム)(Brevibacterium lactofermentum (Corynebacterium glutamicum))
ブレビバクテリウム・ロゼウム(Brevibacterium roseum)
ブレビバクテリウム・サッカロリティカム(Brevibacterium saccharolyticum)
ブレビバクテリウム・チオゲニタリス(Brevibacterium thiogenitalis)
コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(コリネバクテリウム・スタティオニス)(Corynebacterium ammoniagenes (Corynebacterium stationis))
ブレビバクテリウム・アルバム(Brevibacterium album)
ブレビバクテリウム・セリナム(Brevibacterium cerinum)
ミクロバクテリウム・アンモニアフィラム(Microbacterium ammoniaphilum)
【0018】
コリネ型細菌としては、具体的には、下記のような菌株が挙げられる。
Corynebacterium acetoacidophilum ATCC 13870
Corynebacterium acetoglutamicum ATCC 15806
Corynebacterium alkanolyticum ATCC 21511
Corynebacterium callunae ATCC 15991
Corynebacterium crenatum AS1.542
Corynebacterium glutamicum ATCC 13020, ATCC 13032, ATCC 13060,ATCC 13869,FERM BP-734
Corynebacterium lilium ATCC 15990
Corynebacterium melassecola ATCC 17965
Corynebacterium efficiens (Corynebacterium thermoaminogenes) AJ12340 (FERM BP-1539)
Corynebacterium herculis ATCC 13868
Corynebacterium glutamicum (Brevibacterium divaricatum) ATCC 14020
Corynebacterium glutamicum (Brevibacterium flavum) ATCC 13826, ATCC 14067, AJ12418(FERM BP-2205)
Brevibacterium immariophilum ATCC 14068
Corynebacterium glutamicum (Brevibacterium lactofermentum) ATCC 13869
Brevibacterium roseum ATCC 13825
Brevibacterium saccharolyticum ATCC 14066
Brevibacterium thiogenitalis ATCC 19240
Corynebacterium ammoniagenes (Corynebacterium stationis) ATCC 6871, ATCC 6872
Brevibacterium album ATCC 15111
Brevibacterium cerinum ATCC 15112
Microbacterium ammoniaphilum ATCC 15354
【0019】
なお、コリネバクテリウム属細菌には、従来ブレビバクテリウム属に分類されていたが、現在コリネバクテリウム属に統合された細菌(Int. J. Syst. Bacteriol., 41, 255(1991))も含まれる。また、コリネバクテリウム・スタティオニスには、従来コリネバクテリウム・アンモニアゲネスに分類されていたが、16S rRNAの塩基配列解析等によりコリネバクテリウム・スタティオニスに再分類された細菌も含まれる(Int. J. Syst. Evol. Microbiol., 60, 874-879(2010))。
【0020】
これらの菌株は、例えば、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(住所12301 Parklawn Drive, Rockville, Maryland 20852 P.O. Box 1549, Manassas, VA 20108, United States of America)より分譲を受けることが出来る。すなわち各菌株に対応する登録番号が付与されており、この登録番号を利用して分譲を受けることが出来る(http://www.atcc.org/参照)。各菌株に対応する登録番号は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションのカタログに記載されている。また、これらの菌株は、例えば、各菌株が寄託された寄託機関から入手することができる。
【0021】
本発明の細菌は、本来的にL−アミノ酸生産能を有するものであってもよく、L−アミノ酸生産能を有するように改変されたものであってもよい。L−アミノ酸生産能を有する細菌は、例えば、上記のような細菌にL−アミノ酸生産能を付与することにより、または、上記のような細菌のL−アミノ酸生産能を増強することにより、取得できる。
【0022】
L−アミノ酸生産能の付与または増強は、従来、コリネ型細菌又はエシェリヒア属細菌等のアミノ酸生産菌の育種に採用されてきた方法により行うことができる(アミノ酸発酵、(株)学会出版センター、1986年5月30日初版発行、第77〜100頁参照)。そのような方法としては、例えば、栄養要求性変異株の取得、L−アミノ酸のアナログ耐性株の取得、代謝制御変異株の取得、L−アミノ酸の生合成系酵素の活性が増強された組換え株の創製が挙げられる。L−アミノ酸生産菌の育種において、付与される栄養要求性、アナログ耐性、代謝制御変異等の性質は、単独であってもよく、2種又は3種以上であってもよい。また、L−アミノ酸生産菌の育種において、活性が増強されるL−アミノ酸生合成系酵素も、単独であってもよく、2種又は3種以上であってもよい。さらに、栄養要求性、アナログ耐性、代謝制御変異等の性質の付与と、生合成系酵素の活性の増強が組み合わされてもよい。
【0023】
L−アミノ酸生産能を有する栄養要求性変異株、アナログ耐性株、又は代謝制御変異株は、親株又は野生株を通常の変異処理に供し、得られた変異株の中から、栄養要求性、ア
ナログ耐性、又は代謝制御変異を示し、且つL−アミノ酸生産能を有するものを選択することによって取得できる。通常の変異処理としては、X線や紫外線の照射、N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(MNNG)、エチルメタンスルフォネート(EMS)、メチルメタンスルフォネート(MMS)等の変異剤による処理が挙げられる。
【0024】
また、L−アミノ酸生産能の付与又は増強は、目的のL−アミノ酸の生合成に関与する酵素の活性を増強することによっても行うことができる。酵素活性の増強は、例えば、同酵素をコードする遺伝子の発現が増強するように細菌を改変することにより行うことができる。遺伝子の発現を増強する方法は、WO00/18935号パンフレット、欧州特許出願公開1010755号明細書等に記載されている。酵素活性を増強する詳細な手法については後述する。
【0025】
また、L−アミノ酸生産能の付与又は増強は、目的のL−アミノ酸の生合成経路から分岐して目的のL−アミノ酸以外の化合物を生成する反応を触媒する酵素の活性を低下させることによっても行うことができる。なお、ここでいう「目的のL−アミノ酸の生合成経路から分岐して目的のL−アミノ酸以外の化合物を生成する反応を触媒する酵素」には、目的のアミノ酸の分解に関与する酵素も含まれる。酵素活性を低下させる手法については後述する。
【0026】
以下、L−アミノ酸生産菌、およびL−アミノ酸生産能を付与または増強する方法について具体的に例示する。なお、以下に例示するようなL−アミノ酸生産菌が有する性質およびL−アミノ酸生産能を付与または増強するための改変は、いずれも、単独で用いてもよく、適宜組み合わせて用いてもよい。
【0027】
<L−グルタミン酸生産菌>
L−グルタミン酸生産能を付与又は増強するための方法としては、例えば、L−グルタミン酸生合成系酵素から選択される1またはそれ以上の酵素の活性が増大するように細菌を改変する方法が挙げられる。そのような酵素としては、特に制限されないが、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(gdhA)、グルタミンシンテターゼ(glnA)、グルタミン酸シンターゼ(gltBD)、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ(icdA)、アコニテートヒドラターゼ(acnA, acnB)、クエン酸シンターゼ(gltA)、メチルクエン酸シンターゼ(prpC)、ピルビン酸カルボキシラーゼ(pyc)、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(aceEF, lpdA)、ピルベートキナーゼ(pykA, pykF)、ホスホエノールピルビン酸シンターゼ(ppsA)、エノラーゼ(eno)、ホスホグリセロムターゼ(pgmA, pgmI)、ホスホグリセリン酸キナーゼ(pgk)、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(gapA)、トリオースリン酸イソメラーゼ(tpiA)、フルクトースビスリン酸アルドラーゼ(fbp)、グルコースリン酸イソメラーゼ(pgi)、6−ホスホグルコン酸デヒドラターゼ(edd)、2−ケト−3−デオキシ−6−ホスホグルコン酸アルドラーゼ(eda)、トランスヒドロゲナーゼが挙げられる。なお、カッコ内は、その酵素をコードする遺伝子の一例である(以下の記載においても同様)。これらの酵素の中では、例えば、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ、クエン酸シンターゼ、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ、及びメチルクエン酸シンターゼから選択される1またはそれ以上の酵素の活性を増強するのが好ましい。
【0028】
グルタミン酸シンテターゼ遺伝子(gltBD)の発現が増大するように改変されたコリネ型細菌としては、WO99/07853に開示されたものが挙げられる。
【0029】
また、L−グルタミン酸生産能を付与又は増強するための方法としては、例えば、L−グルタミン酸の生合成経路から分岐してL−グルタミン酸以外の化合物を生成する反応を触媒する酵素から選択される1またはそれ以上の酵素の活性が低下するように細菌を改変する方法も挙げられる。そのような酵素としては、特に制限されないが、イソクエン酸リ
アーゼ(aceA)、α−ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ(sucA, odhA)、アセト乳酸シンターゼ(ilvI)、ギ酸アセチルトランスフェラーゼ(pfl)、乳酸デヒドロゲナーゼ(ldh)、アルコールデヒドロゲナーゼ(adh)、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(gadAB)、コハク酸デヒドロゲナーゼ(sdhABCD)が挙げられる。これらの酵素の中では、例えば、α−ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性を低下又は欠損させることが好ましい。
【0030】
α−ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性が低下または欠損したコリネ型細菌、及びそれらの取得方法は、WO2008/075483に記載されている。α−ケトグルタレートデヒドロゲナーゼ活性が低下または欠損したコリネ型細菌として、具体的には、例えば、下記の株が挙げられる。
Corynebacterium glutamicum (Brevibacterium lactofermentum) L30-2株 (特開2006-340603号明細書)
Corynebacterium glutamicum (Brevibacterium lactofermentum) ΔS株 (国際公開95/34672号パンフレット)
Corynebacterium glutamicum (Brevibacterium lactofermentum) AJ12821 (FERM BP-4172;フランス特許公報9401748号明細書参照)
Corynebacterium glutamicum (Brevibacterium flavum) AJ12822 (FERM BP-4173;フランス特許公報9401748号明細書)
Corynebacterium glutamicum AJ12823 (FERM BP-4174;フランス特許公報9401748号明細書)
Corynebacterium glutamicum L30-2株 (特開2006-340603号)
【0031】
また、L−グルタミン酸生産菌又はそれを誘導するための親株としては、α−ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ(sucA)活性およびコハク酸デヒドロゲナーゼ(sdh)活性の両方が低下または欠損した株も挙げられる(特開2010-041920号)。そのような株として、具体的には、例えば、Corynebacterium glutamicum ATCC14067のodhAsdhA二重欠損株(Corynebacterium glutamicum 8L3GΔSDH株)が挙げられる(特開2010-041920号)。
【0032】
また、L−グルタミン酸生産能を付与又は増強するための方法としては、例えば、L−グルタミン酸排出遺伝子であるyhfK遺伝子(WO2005/085419)やybjL遺伝子(WO2008/133161)の発現を増強することも挙げられる。
【0033】
また、コリネ型細菌について、L−グルタミン酸生産能を付与または増強する方法としては、有機酸アナログや呼吸阻害剤などへの耐性を付与する方法や、細胞壁合成阻害剤に対する感受性を付与する方法も挙げられる。そのような方法として、具体的には、例えば、モノフルオロ酢酸耐性を付与する方法(特開昭50-113209)、アデニン耐性またはチミン耐性を付与する方法(特開昭57-065198)、ウレアーゼを弱化させる方法(特開昭52-038088)、マロン酸耐性を付与する方法(特開昭52-038088)、ベンゾピロン類またはナフトキノン類への耐性を付与する方法(特開昭56-1889)、HOQNO耐性を付与する方法(特開昭56-140895)、α-ケトマロン酸耐性を付与する方法(特開昭57-2689)、グアニジン耐性を付与する方法(特開昭56-35981)、ペニシリンに対する感受性を付与する方法(特開平4-88994)などが挙げられる。
【0034】
このような耐性菌または感受性菌の具体例としては、下記のような菌株が挙げられる。Corynebacterium glutamicum (Brevibacterium flavum) AJ3949 (FERM BP-2632;特開昭50-113209参照)
Corynebacterium glutamicum AJ11628 (FERM P-5736;特開昭57-065198参照)
Corynebacterium glutamicum (Brevibacterium flavum) AJ11355 (FERM P-5007;特開昭56-1889号公報参照)
Corynebacterium glutamicum AJ11368 (FERM P-5020;特開昭56-1889号公報参照)
Corynebacterium glutamicum (Brevibacterium flavum) AJ11217 (FERM P-4318;特開昭57-2689号公報参照)
Corynebacterium glutamicum AJ11218 (FERM P-4319;特開昭57-2689号公報参照)
Corynebacterium glutamicum (Brevibacterium flavum) AJ11564 (FERM P-5472;特開昭56-140895公報参照)
Corynebacterium glutamicum (Brevibacterium flavum) AJ11439 (FERM P-5136;特開昭56-35981号公報参照)
Corynebacterium glutamicum H7684 (FERM BP-3004;特開平04-88994号公報参照)
Corynebacterium glutamicum (Brevibacterium lactofermentum) AJ11426(FERM P-5123;特開平56-048890号公報参照)
Corynebacterium glutamicum AJ11440(FERM P-5137;特開平56-048890号公報参照)
Corynebacterium glutamicum (Brevibacterium lactofermentum) AJ11796(FERM P-6402;特開平58-158192号公報参照)
【0035】
また、コリネ型細菌について、L−グルタミン酸生産能を付与または増強する方法としては、yggB遺伝子の発現を増強する方法やコード領域内に変異を導入した変異型yggB遺伝子を導入する方法も挙げられる(WO2006/070944)。すなわち、本発明の細菌は、yggB遺伝子の発現が増大するように改変されていてもよく、変異型yggB遺伝子を保持する(有する)ように改変されていてもよい。
【0036】
yggB遺伝子は、メカノセンシティブチャンネル(mechanosensitive channel)をコードする遺伝子である。yggB遺伝子としては、コリネ型細菌のyggB遺伝子が挙げられる。コリネ型細菌のyggB遺伝子として、具体的には、例えば、Corynebacterium glutamicum ATCC13869、Corynebacterium glutamicum ATCC13032、Corynebacterium glutamicum ATCC14967、Corynebacterium melassecola ATCC17965のyggB遺伝子が挙げられる(WO2006/070944)。Corynebacterium glutamicum ATCC13032のyggB遺伝子は、NCBIデータベースにGenBank Accession No. NC_003450で登録されているゲノム配列中、1,336,091〜1,337,692の配列の相補配列に相当し、NCgl1221とも呼ばれる。Corynebacterium glutamicum ATCC13032のyggB遺伝子にコードされるYggBタンパク質は、GenBank accession No. NP_600492として登録されている。また、Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のyggB遺伝子の塩基配列、及び同遺伝子がコードするYggBタンパク質のアミノ酸配列を、それぞれ配列番号11および12に示す。
【0037】
本発明において、後述する「特定の変異」を有するyggB遺伝子を変異型yggB遺伝子、それによりコードされるタンパク質を変異型YggBタンパク質ともいう。また、本発明において、後述する「特定の変異」を有さないyggB遺伝子を野生型yggB遺伝子、それによりコードされるタンパク質を野生型YggBタンパク質ともいう。なお、YggBタンパク質にあっては、yggB遺伝子における「特定の変異」により引き起こされるアミノ酸配列の変化を「特定の変異」ともいう。ここでいう「野生型」とは、「変異型」と区別するための便宜上の記載であり、「特定の変異」を有しない限り、天然に得られるものには限定されない。野生型YggBタンパク質としては、上記例示したYggBタンパク質、例えば配列番号12に示すアミノ酸配列を有するタンパク質、が挙げられる。また、野生型YggBタンパク質としては、上記例示したYggBタンパク質の保存的バリアント(元の機能が維持されたバリアント)であって、「特定の変異」を有しないものも挙げられる。YggBタンパク質についての「元の機能」とは、例えば、メカノセンシティブチャネル(mechanosensitive channel)としての機能であってもよく、コリネ型細菌において発現を上昇させた際にコリネ型細菌のL−グルタミン酸生産能を向上させる性質であってもよい。
【0038】
「特定の変異」は、上述したような野生型YggBタンパク質のアミノ酸配列を変化させ、コリネ型細菌のL−グルタミン酸生産能を向上させる変異であれば、特に制限されない。
「特定の変異」としては、C末端側変異や膜貫通領域の変異が挙げられる(WO2006/070944)。また、「特定の変異」は、それらの変異の組み合わせであってもよい。
【0039】
(1)C末端側変異
C末端側変異は、野生型yggB遺伝子中の、野生型YggBタンパク質の419〜533位のアミノ酸残基をコードする領域における変異である。C末端側変異は、同領域中の1またはそれ以上の箇所に導入されてよい。C末端側変異により引き起こされるアミノ酸配列の変化の種類は特に制限されない。C末端側変異は、例えば、アミノ酸残基の置換(ミスセンス変異)、アミノ酸残基の挿入、アミノ酸残基の欠失、ストップコドンの出現(ナンセンス変異)、フレームシフト変異、またはそれらの組み合わせを引き起こすものであってよい。C末端側変異としては、例えば、インサーションシーケンス(以下、「IS」ともいう)やトランスポゾン等の塩基配列の挿入が好ましい。
【0040】
(1−1)塩基配列の挿入
C末端側変異としては、例えば、野生型YggBタンパク質の419位のバリン残基をコードする箇所に塩基配列が挿入される変異(2A-1型変異)が挙げられる。2A-1型変異は、例えば、野生型YggBタンパク質の419〜533位のアミノ酸残基の一部または全部の欠失または置換を引き起こすものであってよい。2A-1型変異を有する変異型yggB遺伝子として、具体的には、例えば、配列番号11の1255位の「G」の次にISが挿入され、元の野生型YggBタンパク質(配列番号12)よりも短い全長423アミノ残基の変異型YggBタンパク質をコードするyggB遺伝子が挙げられる。この変異型yggB遺伝子(V419::IS)の塩基配列、及び同遺伝子がコードする変異型YggBタンパク質(V419::IS)のアミノ酸配列を、それぞれ配列番号13および14に示す。配列番号13中、1〜1269位が変異型YggBタンパク質(V419::IS)のCDSである。
【0041】
(1−2)プロリン残基の置換
C末端側変異としては、例えば、野生型YggBタンパク質の419〜533位に存在するプロリン残基を他のアミノ酸に置換する変異も挙げられる。そのようなプロリン残基としては、野生型YggBタンパク質の424位、437位、453位、457位、462位、469位、484位、489位、497位、515位、529位、および533位のプロリン残基が挙げられる。中でも、424位および/または437位のプロリン残基を他のアミノ酸に置換するのが好ましい。「他のアミノ酸」は、プロリン以外の天然型アミノ酸であれば特に制限されない。「他のアミノ酸」としては、Lys、Glu、Thr、Val、Leu、Ile、Ser、Asp、Asn、Gln、Arg、Cys、Met、Phe、Trp、Tyr、Gly、Ala、Hisが挙げられる。例えば、424位のプロリン残基は、好ましくは疎水性アミノ酸(Ala、Gly、Val、Leu、またはIle)に置換されてよく、より好ましくは分岐鎖アミノ酸(Leu、Val、またはIle)に置換されてよい。また、例えば、437位のプロリン残基は、好ましくは側鎖にヒドロキシル基を有するアミノ酸(Thr、Ser、またはTyr)に置換されてよく、より好ましくはSerに置換されてよい。
【0042】
(2)膜貫通領域の変異
YggBタンパク質は、5個の膜貫通領域を有していると推測される。膜貫通領域はそれぞれ、野生型YggBタンパク質の1〜23位(第1膜貫通領域)、25〜47位(第2膜貫通領域)、62〜84位(第3膜貫通領域)、86〜108位(第4膜貫通領域)、110〜132位(第5膜貫通領域)のアミノ酸残基に相当する。膜貫通領域の変異は、野生型yggB遺伝子中の、これら膜貫通領域をコードする領域における変異である。膜貫通領域の変異は、同領域中の1またはそれ以上の箇所に導入されてよい。膜貫通領域の変異は、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、付加、挿入、又は逆位を引き起こすものであって、且つ、フレームシフト変異およびナンセンス変異を伴わないものが好ましい。「1若しくは数個」とは、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個、特に好ましくは1〜3個を意味する。膜貫通領域の変異としては、野生型YggBタンパク質の、14位
のロイシン残基と15位のトリプトファン残基間に1又は数個のアミノ酸(例えば、Cys-Ser-Leu)を挿入する変異、100位のアラニン残基を他のアミノ酸残基(例えば、側鎖にヒドロキシル基を有するアミノ酸(Thr、Ser、またはTyr)、好ましくはThr)へ置換する変異、111位のアラニン残基を他のアミノ酸残基(例えば、側鎖にヒドロキシル基を有するアミノ酸(Thr、Ser、またはTyr)、好ましくはThr)へ置換する変異などが挙げられる。
【0043】
本発明において、「野生型YggBタンパク質のX位のアミノ酸残基」とは、特記しない限り、配列番号12におけるX位のアミノ酸残基に相当するアミノ酸残基を意味する。アミノ酸配列における「X位」とは、同アミノ酸配列のN末端から数えてX番目の位置を意味し、N末端のアミノ酸残基が1位のアミノ酸残基である。なお、アミノ酸残基の位置は相対的な位置を示すものであって、アミノ酸の欠失、挿入、付加などによってその絶対的な位置は前後することがある。例えば、「野生型YggBタンパク質の419位のアミノ酸残基」とは、配列番号12における419位のアミノ酸残基に相当するアミノ酸残基を意味し、419位よりもN末端側の1アミノ酸残基が欠失している場合は、N末端から418番目のアミノ酸残基が「野生型YggBタンパク質の419位のアミノ酸残基」であるものとする。また、419位よりもN末端側に1アミノ酸残基挿入されている場合は、N末端から420番目のアミノ酸残基が「野生型YggBタンパク質の419位のアミノ酸残基」であるものとする。具体的には、例えば、Corynebacterium glutamicum ATCC14967株のYggBタンパク質においては、419〜529位のアミノ酸残基が、野生型YggBタンパク質の419〜533位のアミノ酸残基に相当する。
【0044】
任意のYggBタンパク質のアミノ酸配列において、どのアミノ酸残基が「配列番号12におけるX位のアミノ酸残基に相当するアミノ酸残基」であるかは、当該YggBタンパク質のアミノ酸配列と配列番号12のアミノ酸配列とのアライメントを行うことにより決定できる。アライメントは、例えば、公知の遺伝子解析ソフトウェアを利用して行うことができる。具体的なソフトウェアとしては、日立ソリューションズ製のDNASISや、ゼネティックス製のGENETYXなどが挙げられる(Elizabeth C. Tyler et al., Computers and Biomedical Research, 24(1), 72-96, 1991;Barton GJ et al., Journal of molecular biology,
198(2), 327-37. 1987)。
【0045】
変異型yggB遺伝子は、野生型yggB遺伝子を上述の「特定の変異」を有するよう改変することにより取得できる。DNAの改変は公知の手法により行うことができる。具体的には、例えば、DNAの目的部位に目的の変異を導入する部位特異的変異法としては、PCRを用いる方法(Higuchi, R., 61, in PCR technology, Erlich, H. A. Eds., Stockton press (1989);Carter, P., Meth. in Enzymol., 154, 382 (1987))や、ファージを用いる方法(Kramer,W. and Frits, H. J., Meth. in Enzymol., 154, 350 (1987);Kunkel, T.
A. et al., Meth. in Enzymol., 154, 367 (1987))が挙げられる。また、変異型yggB遺伝子は、化学合成によっても取得できる。
【0046】
変異型yggB遺伝子を有するように細菌を改変することは、変異型yggB遺伝子を細菌に導入することにより達成できる。また、変異型yggB遺伝子を有するように細菌を改変することは、自然変異や変異原処理により細菌が有するyggB遺伝子に変異を導入することによっても達成できる。
【0047】
<L−グルタミン生産菌>
L−グルタミン生産能を付与又は増強するための方法としては、例えば、L−グルタミン生合成系酵素から選択される1またはそれ以上の酵素の活性が増大するように細菌を改変する方法が挙げられる。そのような酵素としては、特に制限されないが、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(gdhA)やグルタミンシンセターゼ(glnA)が挙げられる。なお、グルタミンシンセターゼの活性は、グルタミンアデニリルトランスフェラーゼ遺伝子(glnE)
の破壊やPII制御タンパク質遺伝子(glnB)の破壊によって増強してもよい(EP1229121)。
【0048】
また、L−グルタミン生産能を付与又は増強するための方法としては、例えば、L−グルタミンの生合成経路から分岐してL−グルタミン以外の化合物を生成する反応を触媒する酵素から選択される1またはそれ以上の酵素の活性が低下するように細菌を改変する方法も挙げられる。そのような酵素としては、特に制限されないが、グルタミナーゼが挙げられる。
【0049】
L−グルタミン生産菌又はそれを誘導するための親株として、具体的には、例えば、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(gdhA)および/またはグルタミンシンセターゼ(glnA)の活性を増強したコリネ型細菌(EP1229121, EP1424398)やグルタミナーゼ活性が低下したコリネ型細菌(特開2004-187684)が挙げられる。
【0050】
また、コリネ型細菌について、L−グルタミン生産能を付与または増強する方法としては、6-ジアゾ-5-オキソ-ノルロイシン耐性を付与する方法 (特開平3-232497)、プリンアナログ耐性及びメチオニンスルホキシド耐性を付与する方法 (特開昭61-202694)、α-ケトマレイン酸耐性を付与する方法 (特開昭56-151495)が挙げられる。L−グルタミン生産能を有するコリネ型細菌として、具体的には、例えば、以下の株が挙げられる。
Corynebacterium glutamicum (Brevibacterium flavum) AJ11573 (FERM P-5492;特開昭56-161495)
Corynebacterium glutamicum (Brevibacterium flavum) AJ11576 (FERM BP-10381;特開昭56-161495)
Corynebacterium glutamicum (Brevibacterium flavum) AJ12212 (FERM P-8123;特開昭61-202694)
【0051】
<L−プロリン生産菌>
L−プロリン生産能を付与又は増強するための方法としては、例えば、L−プロリン生合成系酵素から選択される1またはそれ以上の酵素の活性が増大するように細菌を改変する方法が挙げられる。そのような酵素としては、グルタミン酸−5−キナーゼ(proB)、γ‐グルタミル−リン酸レダクターゼ、ピロリン−5−カルボキシレートレダクターゼ(putA)が挙げられる。酵素活性の増強には、例えば、L−プロリンによるフィードバック阻害が解除されたグルタミン酸−5−キナーゼをコードするproB遺伝子(ドイツ特許第3127361号)が好適に利用できる。
【0052】
また、L−プロリン生産能を付与又は増強するための方法としては、例えば、L−プロリン分解に関与する酵素の活性が低下するように細菌を改変する方法が挙げられる。そのような酵素としては、プロリンデヒドロゲナーゼやオルニチンアミノトランスフェラーゼが挙げられる。
【0053】
<L−アルギニン生産菌>
L−アルギニン生産能を付与又は増強するための方法としては、例えば、L−アルギニン生合成系酵素から選択される1またはそれ以上の酵素の活性が増大するように細菌を改変する方法が挙げられる。そのような酵素としては、特に制限されないが、N−アセチルグルタミン酸シンターゼ(argA)、N−アセチルグルタミルリン酸レダクターゼ(argC)、オルニチンアセチルトランスフェラーゼ(argJ)、N−アセチルグルタミン酸キナーゼ(argB)、アセチルオルニチントランスアミナーゼ(argD)、アセチルオルニチンデアセチラーゼ(argE)オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ(argF)、アルギニノコハク酸シンターゼ(argG)、アルギニノコハク酸リアーゼ(argH)、カルバモイルリン酸シンターゼ(carAB)が挙げられる。N−アセチルグルタミン酸シンターゼ(argA)遺伝子
としては、例えば、野生型の15位〜19位に相当するアミノ酸残基が置換され、L−アルギニンによるフィードバック阻害が解除された変異型N−アセチルグルタミン酸シンターゼをコードする遺伝子を用いると好適である(欧州出願公開1170361号明細書)。
【0054】
また、L−アルギニン生産菌又はそれを誘導するための親株としては、アルギニンリプレッサーであるArgRを欠損した株(米国特許出願公開2002-0045223号)や細胞内のグルタミンシンテターゼ活性を上昇させた株(米国特許出願公開2005-0014236号公報)等のコリネ型細菌も挙げられる。
【0055】
また、L−アルギニン生産菌又はそれを誘導するための親株としては、アミノ酸アナログなどへの耐性を有するコリネ型細菌の変異株も挙げられる。そのような株としては、例えば、2−チアゾールアラニン耐性に加えて、L−ヒスチジン、L−プロリン、L−スレオニン、L−イソロイシン、L−メチオニン、またはL−トリプトファン要求性を有する株(特開昭54-44096号公報);ケトマロン酸、フルオロマロン酸、又はモノフルオロ酢酸に耐性を有する株(特開昭57-18989号公報);アルギニノールに耐性を有する株(特公昭62-24075号公報);X−グアニジン(Xは脂肪鎖又はその誘導体)に耐性を有する株(特開平2-186995号公報);アルギニンヒドロキサメート及び6−アザウラシルに耐性を有する株(特開昭57-150381号公報)が挙げられる。L−アルギニン生産能を有するコリネ型細菌の具体例としては、下記のような菌株が挙げられる。
Corynebacterium glutamicum (Brevibacterium flavum) AJ11169(FERM BP-6892)
Corynebacterium glutamicum (Brevibacterium lactofermentum) AJ12092(FERM BP-6906)
Corynebacterium glutamicum (Brevibacterium flavum) AJ11336(FERM BP-6893)
Corynebacterium glutamicum (Brevibacterium flavum) AJ11345(FERM BP-6894)
Corynebacterium glutamicum (Brevibacterium lactofermentum) AJ12430(FERM BP-2228)
【0056】
<L−シトルリン生産菌およびL−オルニチン生産菌>
L−シトルリンおよびL−オルニチンは、L−アルギニンと生合成経路が共通している。よって、N−アセチルグルタミン酸シンターゼ(argA)、N−アセチルグルタミルリン酸レダクターゼ(argC)、オルニチンアセチルトランスフェラーゼ(argJ)、N-アセチルグルタミン酸キナーゼ(argB)、アセチルオルニチントランスアミナーゼ(argD)、および/またはアセチルオルニチンデアセチラーゼ(argE)の酵素活性を上昇させることによって、L−シトルリンおよび/またはL−オルニチンの生産能を付与または増強することができる(国際公開2006-35831号パンフレット)。
【0057】
なお、これらL−グルタミン酸を中間体として生合成されるL−アミノ酸(例えば、L−グルタミン、L−プロリン、L−アルギニン、L−シトルリン、L−オルニチン)の生産能を付与又は増強するためには、L−グルタミン酸の生産能を付与又は増強する方法も有効であり得る。すなわち、これらL−グルタミン酸を中間体として生合成されるL−アミノ酸の生産能を有する細菌は、上記のようなL−グルタミン酸生産菌が有する性質を適宜有していてよい。例えば、これらL−グルタミン酸を中間体として生合成されるL−アミノ酸の生産能を有する細菌は、α−ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼおよび/またはコハク酸デヒドロゲナーゼの活性が低下するように改変されていてもよい。
【0058】
また、L−グルタミン酸等のグルタミン酸系L−アミノ酸生産能を付与又は増強するための方法としては、例えば、ホスホケトラーゼの活性が増大するように細菌を改変する方法も挙げられる(WO2006/016705)。すなわち、本発明の細菌は、ホスホケトラーゼの活性が増大するように改変されていてよい。ホスホケトラーゼとしては、D−キシルロース−5−リン酸−ホスホケトラーゼやフルクトース−6−リン酸ホスホケトラーゼが挙げら
れる。D−キシルロース−5−リン酸−ホスホケトラーゼ活性及びフルクトース−6−リン酸ホスホケトラーゼ活性はいずれか一方を増強してもよいし、両方を増強してもよい。
【0059】
D−キシルロース−5−リン酸−ホスホケトラーゼ活性とは、リン酸を消費して、キシルロース−5−リン酸をグリセルアルデヒド−3−リン酸とアセチルリン酸に変換し、一分子のH2Oを放出する活性を意味する。この活性は、Goldberg, M.らの文献 (Methods Enzymol., 9,515-520 (1966)) またはL.Meileの文献 (J.Bacteriol. (2001) 183; 2929-2936) に記載の方法によって測定することができる。D−キシルロース−5−リン酸ホスホケトラーゼとしては、アセトバクター属、ビフィドバクテリウム属、ラクトバチルス属、チオバチルス属、ストレプトコッカス属、メチロコッカス属、ブチリビブリオ属、またはフィブロバクター属に属する細菌や、カンジダ属、ロドトルラ属、ロドスポリジウム属、ピキア属、ヤロウイア属、ハンセヌラ属、クルイベロミセス属、サッカロミセス属、トリコスポロン属、またはウィンゲア属に属する酵母のD−キシルロース−5−リン酸ホスホケトラーゼが挙げられる。D−キシルロース−5−リン酸ホスホケトラーゼおよびそれをコードする遺伝子の具体例は、WO2006/016705に開示されている。
【0060】
また、フルクトース−6−リン酸ホスホケトラーゼ活性とは、リン酸を消費して、フルクトース6−リン酸をエリスロース−4−リン酸とアセチルリン酸に変換し、一分子のH2Oを放出する活性を意味する。この活性は、Racker, Eの文献 (Methods Enzymol., 5, 276-280 (1962)) またはL.Meileの文献 (J.Bacteriol. (2001) 183; 2929-2936) に記載の方法によって測定することができる。フルクトース−6−リン酸ホスホケトラーゼとしては、アセトバクター属、ビフィドバクテリウム属、クロロビウム属、ブルセラ属、メチロコッカス属、またはガードネレラ属に属する細菌や、ロドトルラ属、カンジダ属、サッカロミセス属等に属する酵母のフルクトース−6−リン酸ホスホケトラーゼが挙げられる。フルクトース−6−リン酸ホスホケトラーゼおよびそれをコードする遺伝子の具体例は、WO2006/016705に開示されている。
【0061】
両ホスホケトラーゼ活性が、単一の酵素(D−キシルロース−5−リン酸/フルクトース−6−リン酸ホスホケトラーゼ)によって保持される場合もありうる。
【0062】
ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)JCM1217のホスホケトラーゼ遺伝子(xfp遺伝子)の塩基配列、及び同遺伝子がコードするホスホケトラーゼ(Xfpタンパク質)のアミノ酸配列を、それぞれ配列番号9および10に示す。
【0063】
また、L−アミノ酸生産能を付与または増強する方法としては、例えば、糖代謝に関与するタンパク質やエネルギー代謝に関与するタンパク質の活性が増大するように細菌を改変する方法が挙げられる。
【0064】
糖代謝に関与するタンパク質としては、糖の取り込みに関与するタンパク質や解糖系酵素が挙げられる。糖代謝に関与するタンパク質をコードする遺伝子としては、グルコース6−リン酸イソメラーゼ遺伝子(pgi;国際公開第01/02542号パンフレット)、ピルビン酸カルボキシラーゼ遺伝子(pyc;国際公開99/18228号パンフレット、欧州出願公開1092776号明細書)、ホスホグルコムターゼ遺伝子(pgm;国際公開03/04598号パンフレット)、フルクトース二リン酸アルドラーゼ遺伝子(pfkB, fbp;国際公開03/04664号パンフレット)、トランスアルドラーゼ遺伝子(talB;国際公開03/008611号パンフレット)、フマラーゼ遺伝子(fum;国際公開01/02545号パンフレット)、non-PTSスクロース取り込み遺伝子(csc;欧州出願公開1149911号パンフレット)、スクロース資化性遺伝子(scrABオペロン;米国特許7,179,623号明細書)が挙げられる。
【0065】
エネルギー代謝に関与するタンパク質をコードする遺伝子としては、トランスヒドロゲ
ナーゼ遺伝子(pntAB;米国特許 5,830,716号明細書)、チトクロムbo型オキシダーゼ(cytochromoe bo type oxidase)遺伝子(cyoB;欧州特許出願公開1070376号明細書)が挙げられる。
【0066】
L−アミノ酸生産菌の育種に使用される遺伝子およびタンパク質は、それぞれ、例えば、上記例示した遺伝子およびタンパク質等の公知の遺伝子およびタンパク質の塩基配列およびアミノ酸配列を有していてよい。また、L−アミノ酸生産菌の育種に使用される遺伝子およびタンパク質は、それぞれ、上記例示した遺伝子およびタンパク質等の公知の遺伝子およびタンパク質の保存的バリアントであってもよい。具体的には、例えば、L−アミノ酸生産菌の育種に使用される遺伝子は、元の機能が維持されている限り、公知のタンパク質のアミノ酸配列において、1若しくは数個の位置での1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。遺伝子およびタンパク質の保存的バリアントについては、後述するα−KG取り込み担体遺伝子およびα−KG取り込み担体の保存的バリアントに関する記載を準用できる。
【0067】
<1−2>α−KG取り込み担体の活性の増強
本発明の細菌は、α−KG取り込み担体の活性が増大するように改変されている。本発明の細菌は、L−アミノ酸生産能を有するコリネ型細菌を、α−KG取り込み担体の活性が増大するように改変することにより取得できる。また、本発明の細菌は、α−KG取り込み担体の活性が増大するようにコリネ型細菌を改変した後に、L−アミノ酸生産能を付与または増強することによっても得ることができる。なお、本発明の細菌は、α−KG取り込み担体の活性が増大するように改変されたことにより、L−アミノ酸生産能を獲得したものであってもよい。本発明の細菌は、α−KG取り込み担体の活性が増大するように改変されていることに加えて、例えば、上記のようなL−アミノ酸生産菌が有する性質を適宜有していてよい。例えば、本発明の細菌は、ホスホケトラーゼの活性が増大するように改変されていてよい。本発明の細菌を構築するための改変は、任意の順番で行うことができる。
【0068】
α−KG取り込み担体の活性が増大するようにコリネ型細菌を改変することによって、コリネ型細菌のL−アミノ酸生産能を向上させることができる。特に、α−KG取り込み担体の活性が増大するようにコリネ型細菌を改変することによって、α−KGが副生する条件におけるコリネ型細菌のL−アミノ酸生産能を向上させることができる。
【0069】
以下に、α−KG取り込み担体およびそれをコードする遺伝子について説明する。
【0070】
「α−KG取り込み担体」とは、α−KG取り込み活性を有するタンパク質をいう。「α−KG取り込み活性」とは、α−KGを細胞外から細胞内に取り込む活性をいう。また、α−KG取り込み担体をコードする遺伝子を「α−KG取り込み担体遺伝子」ともいう。
【0071】
α−KG取り込み担体としては、kgtP遺伝子にコードされるKgtPタンパク質が挙げられる。kgtP遺伝子としては、Escherichia coli、Pantoea ananatis、Salmonella enterica、Shigella flexneri、Shigella dysenteriae、Burkholderia pseudomallei、Bradyrhizobium diazoefficiens、Campylobacter jejuni、Ralstonia solanacearumのkgtP遺伝子が挙げられる。これら各種生物由来のkgtP遺伝子の塩基配列およびそれらにコードされるKgtPタンパク質のアミノ酸配列は、例えば、NCBI等の公開データベースから取得できる。エシェリヒア・コリK-12 MG1655株のkgtP遺伝子は、NCBIデータベースに、GenBank
accession NC_000913 (VERSION NC_000913.3 GI:556503834)として登録されているゲノム配列中、2724448〜2725746位の配列の相補配列に相当する。また、エシェリヒア・コリ
K-12 MG1655株のKgtPタンパク質は、GenBank accession NP_417082 (version NP_417082.1 GI:16130512)として登録されている。MG1655株のkgtP遺伝子の塩基配列、及び同遺伝子がコードするKgtPタンパク質のアミノ酸配列を、それぞれ配列番号7および8に示す。すなわち、α−KG取り込み担体遺伝子は、例えば、上記例示したkgtP遺伝子の塩基配列(例えば配列番号7に示す塩基配列)を有する遺伝子であってよい。また、α−KG取り込み担体は、例えば、上記例示したKgtPタンパク質のアミノ酸配列(例えば配列番号8に示すアミノ酸配列)を有するタンパク質であってよい。なお、「(アミノ酸または塩基)配列を有する」という表現は、当該「(アミノ酸または塩基)配列を含む」場合および当該「(アミノ酸または塩基)配列からなる」場合を包含する。
【0072】
α−KG取り込み担体遺伝子は、元の機能が維持されている限り、上記例示したα−KG取り込み担体遺伝子、例えば上記例示したkgtP遺伝子、のバリアントであってもよい。同様に、α−KG取り込み担体は、元の機能が維持されている限り、上記例示したα−KG取り込み担体、例えば上記例示したKgtPタンパク質、のバリアントであってもよい。なお、そのような元の機能が維持されたバリアントを「保存的バリアント」という場合がある。「kgtP遺伝子」という用語は、上記例示したkgtP遺伝子に加えて、それらの保存的バリアントを包含するものとする。同様に、「KgtPタンパク質」という用語は、上記例示したKgtPタンパク質に加えて、それらの保存的バリアントを包含するものとする。保存的バリアントとしては、例えば、上記例示したα−KG取り込み担体遺伝子やα−KG取り込み担体のホモログや人為的な改変体が挙げられる。
【0073】
「元の機能が維持されている」とは、遺伝子またはタンパク質のバリアントが、元の遺伝子またはタンパク質の機能(活性や性質)に対応する機能(活性や性質)を有することをいう。遺伝子についての「元の機能が維持されている」とは、遺伝子のバリアントが、元の機能が維持されたタンパク質をコードすることをいう。α−KG取り込み担体遺伝子についての「元の機能が維持されている」とは、遺伝子のバリアントがα−KG取り込み活性を有するタンパク質をコードすることをいう。また、α−KG取り込み担体についての「元の機能が維持されている」とは、タンパク質のバリアントがα−KG取り込み活性を有することをいう。
【0074】
タンパク質のα−KG取り込み活性は、同タンパク質を発現する菌体をα−KGとインキュベートし、同タンパク質依存的な菌体内へのα−KG取り込みを測定することにより、測定できる(Seol W, Shatkin AJ. Escherichia coli kgtP encodes an alpha-ketoglutarate transporter. Proc Natl Acad Sci U S A. 1991 May 1;88(9):3802-6.)。
【0075】
以下、保存的バリアントについて例示する。
【0076】
α−KG取り込み担体遺伝子のホモログまたはα−KG取り込み担体のホモログは、例えば、上記例示したα−KG取り込み担体遺伝子の塩基配列または上記例示したα−KG取り込み担体のアミノ酸配列を問い合わせ配列として用いたBLAST検索やFASTA検索によって公開データベースから容易に取得することができる。また、α−KG取り込み担体遺伝子のホモログは、例えば、各種生物の染色体を鋳型にして、これら公知のα−KG取り込み担体遺伝子の塩基配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRにより取得することができる。
【0077】
α−KG取り込み担体遺伝子は、元の機能が維持されている限り、上記アミノ酸配列(例えば配列番号8に示すアミノ酸配列)において、1若しくは数個の位置での1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。例えば、コードされるタンパク質は、そのN末端および/またはC末端が、延長または短縮されていてもよい。なお上記「1又は数個」とは、アミ
ノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によっても異なるが、具体的には、例えば、1〜50個、1〜40個、1〜30個、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個、特に好ましくは1〜3個を意味する。
【0078】
上記の1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、または付加は、タンパク質の機能が正常に維持される保存的変異である。保存的変異の代表的なものは、保存的置換である。保存的置換とは、置換部位が芳香族アミノ酸である場合には、Phe、Trp、Tyr間で、置換部位が疎水性アミノ酸である場合には、Leu、Ile、Val間で、極性アミノ酸である場合には、Gln、Asn間で、塩基性アミノ酸である場合には、Lys、Arg、His間で、酸性アミノ酸である場合には、Asp、Glu間で、ヒドロキシル基を持つアミノ酸である場合には、Ser、Thr間でお互いに置換する変異である。保存的置換とみなされる置換としては、具体的には、AlaからSer又はThrへの置換、ArgからGln、His又はLysへの置換、AsnからGlu、Gln、Lys、His又はAspへの置換、AspからAsn、Glu又はGlnへの置換、CysからSer又はAlaへの置換、GlnからAsn、Glu、Lys、His、Asp又はArgへの置換、GluからGly、Asn、Gln、Lys又はAspへの置換、GlyからProへの置換、HisからAsn、Lys、Gln、Arg又はTyrへの置換、IleからLeu、Met、Val又はPheへの置換、LeuからIle、Met、Val又はPheへの置換、LysからAsn、Glu、Gln、His又はArgへの置換、MetからIle、Leu、Val又はPheへの置換、PheからTrp、Tyr、Met、Ile又はLeuへの置換、SerからThr又はAlaへの置換、ThrからSer又はAlaへの置換、TrpからPhe又はTyrへの置換、TyrからHis、Phe又はTrpへの置換、及び、ValからMet、Ile又はLeuへの置換が挙げられる。また、上記のようなアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、または逆位等には、遺伝子が由来する生物の個体差、種の違いに基づく場合などの天然に生じる変異(mutant又はvariant)によって生じるものも含まれる。
【0079】
また、α−KG取り込み担体遺伝子は、元の機能が維持されている限り、上記アミノ酸配列全体に対して、例えば、50%以上、65%以上、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の相同性を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。尚、本明細書において、「相同性」(homology)は、「同一性」(identity)を意味する。
【0080】
また、α−KG取り込み担体遺伝子は、元の機能が維持されている限り、上記塩基配列(例えば配列番号7に示す塩基配列)から調製され得るプローブ、例えば上記塩基配列の全体または一部に対する相補配列、とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであってもよい。「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。一例を示せば、相同性が高いDNA同士、例えば、50%以上、65%以上、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC、0.1% SDS、好ましくは60℃、0.1×SSC、0.1% SDS、より好ましくは68℃、0.1×SSC、0.1% SDSに相当する塩濃度および温度で、1回、好ましくは2〜3回洗浄する条件を挙げることができる。
【0081】
上述の通り、上記ハイブリダイゼーションに用いるプローブは、遺伝子の相補配列の一部であってもよい。そのようなプローブは、公知の遺伝子配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとし、上述の遺伝子を含むDNA断片を鋳型とするPCRによって作製することができる。例えば、プローブとしては、300 bp程度の長さのDNA断片を用いることができる。プローブとして300 bp程度の長さのDNA断片を用いる場合には、ハイブリダイゼーションの洗いの条件としては、50℃、2×SSC、0.1% SDSが挙げられる。
【0082】
また、宿主によってコドンの縮重性が異なるので、α−KG取り込み担体遺伝子は、任
意のコドンをそれと等価のコドンに置換したものであってもよい。例えば、α−KG取り込み担体遺伝子は、使用する宿主のコドン使用頻度に応じて最適なコドンを有するように改変されてよい。
【0083】
2つの配列間の配列同一性のパーセンテージは、例えば、数学的アルゴリズムを用いて決定できる。このような数学的アルゴリズムの限定されない例としては、Myers 及び Miller (1988) CABIOS 4:11 17のアルゴリズム、Smith et al (1981) Adv. Appl. Math. 2:482の局所ホモロジーアルゴリズム、Needleman及びWunsch (1970) J. Mol. Biol. 48:443 453のホモロジーアライメントアルゴリズム、Pearson及びLipman (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. 85:2444 2448の類似性を検索する方法、Karlin 及びAltschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873 5877に記載されているような、改良された、Karlin及びAltschul (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 872264のアルゴリズムが挙げられる。
【0084】
これらの数学的アルゴリズムに基づくプログラムを利用して、配列同一性を決定するための配列比較(アラインメント)を行うことができる。プログラムは、適宜、コンピュータにより実行することができる。このようなプログラムとしては、特に限定されないが、PC/GeneプログラムのCLUSTAL(Intelligenetics, Mountain View, Calif.から入手可能)、ALIGNプログラム(Version 2.0)、並びにWisconsin Genetics Software Package, Version 8(Genetics Computer Group (GCG), 575 Science Drive, Madison, Wis., USAから入手可能)のGAP、BESTFIT、BLAST、FASTA、及びTFASTAが挙げられる。これらのプログラムを用いたアライメントは、例えば、初期パラメーターを用いて行うことができる。CLUSTALプログラムについては、HigGlns et al. (1988) Gene 73:237 244 (1988)、HigGlns et al. (1989) CABIOS 5:151 153、Corpet et al. (1988) Nucleic Acids Res. 16:10881 90、Huang et al. (1992) CABIOS 8:155 65、及びPearson et al. (1994) Meth. Mol. Biol. 24:307 331によく記載されている。
【0085】
対象のタンパク質をコードするヌクレオチド配列と相同性があるヌクレオチド配列を得るために、具体的には、例えば、BLASTヌクレオチド検索を、BLASTNプログラム、スコア=100、ワード長=12にて行うことができる。対象のタンパク質と相同性があるアミノ酸配列を得るために、具体的には、例えば、BLASTタンパク質検索を、BLASTXプログラム、スコア=50、ワード長=3にて行うことができる。BLASTヌクレオチド検索やBLASTタンパク質検索については、http://www.ncbi.nlm.nih.govを参照されたい。また、比較を目的としてギャップを加えたアライメントを得るために、Gapped BLAST(BLAST 2.0)を利用できる。また、PSI-BLAST (BLAST 2.0)を、配列間の離間した関係を検出する反復検索を行うのに利用できる。Gapped BLASTおよびPSI-BLASTについては、Altschul et al. (1997) Nucleic Acids Res. 25:3389を参照されたい。BLAST、Gapped BLAST、またはPSI-BLASTを利用する場合、例えば、各プログラム(例えば、ヌクレオチド配列に対してBLASTN、アミノ酸配列に対してBLASTX)の初期パラメーターが用いられ得る。アライメントは、手動にて行われてもよい。
【0086】
2つの配列間の配列同一性は、2つの配列を最大一致となるように整列したときに2つの配列間で一致する残基の比率として算出される。
【0087】
なお、上記の遺伝子やタンパク質の保存的バリアントに関する記載は、L−アミノ酸生合成系酵素等の任意のタンパク質、およびそれらをコードする遺伝子にも準用できる。
【0088】
<1−3>タンパク質の活性を増大させる手法
以下に、α−KG取り込み担体等のタンパク質の活性を増大させる手法について説明する。
【0089】
「タンパク質の活性が増大する」とは、同タンパク質の細胞当たりの活性が非改変株に対して増大していることを意味する。ここでいう「非改変株」とは、標的のタンパク質の活性が増大するように改変されていない対照株を意味する。非改変株としては、野生株や親株が挙げられる。なお、「タンパク質の活性が増大する」ことを、「タンパク質の活性が増強される」ともいう。「タンパク質の活性が増大する」とは、具体的には、非改変株と比較して、同タンパク質の細胞当たりの分子数が増加していること、および/または、同タンパク質の分子当たりの機能が増大していることをいう。すなわち、「タンパク質の活性が増大する」という場合の「活性」とは、タンパク質の触媒活性に限られず、タンパク質をコードする遺伝子の転写量(mRNA量)または翻訳量(タンパク質の量)を意味してもよい。また、「タンパク質の活性が増大する」とは、もともと標的のタンパク質の活性を有する菌株において同タンパク質の活性を増大させることだけでなく、もともと標的のタンパク質の活性が存在しない菌株に同タンパク質の活性を付与することを含む。また、結果としてタンパク質の活性が増大する限り、宿主が本来有する標的のタンパク質の活性を低下または消失させた上で、好適な標的のタンパク質の活性を付与してもよい。
【0090】
タンパク質の活性の増大の程度は、タンパク質の活性が非改変株と比較して増大していれば特に制限されない。タンパク質の活性は、例えば、非改変株と比較して、1.5倍以上、2倍以上、または3倍以上に上昇してよい。また、非改変株が標的のタンパク質の活性を有していない場合は、同タンパク質をコードする遺伝子を導入することにより同タンパク質が生成されていればよいが、例えば、同タンパク質はその活性が測定できる程度に生産されていてよい。
【0091】
タンパク質の活性が増大するような改変は、例えば、同タンパク質をコードする遺伝子の発現を上昇させることによって達成される。「遺伝子の発現が上昇する」とは、同遺伝子の細胞当たりの発現量が野生株や親株等の非改変株と比較して増大することを意味する。「遺伝子の発現が上昇する」とは、具体的には、遺伝子の転写量(mRNA量)が増大すること、および/または、遺伝子の翻訳量(タンパク質の量)が増大することを意味してよい。なお、「遺伝子の発現が上昇する」ことを、「遺伝子の発現が増強される」ともいう。遺伝子の発現は、例えば、非改変株と比較して、1.5倍以上、2倍以上、または3倍以上に上昇してよい。また、「遺伝子の発現が上昇する」とは、もともと標的の遺伝子が発現している菌株において同遺伝子の発現量を上昇させることだけでなく、もともと標的の遺伝子が発現していない菌株において、同遺伝子を発現させることを含む。すなわち、「遺伝子の発現が上昇する」とは、例えば、標的の遺伝子を保持しない菌株に同遺伝子を導入し、同遺伝子を発現させることを含む。
【0092】
遺伝子の発現の上昇は、例えば、遺伝子のコピー数を増加させることにより達成できる。
【0093】
遺伝子のコピー数の増加は、宿主の染色体へ同遺伝子を導入することにより達成できる。染色体への遺伝子の導入は、例えば、相同組み換えを利用して行うことができる(MillerI, J. H. Experiments in Molecular Genetics, 1972, Cold Spring Harbor Laboratory)。相同組み換えを利用する遺伝子導入法としては、例えば、Redドリブンインテグレーション(Red-driven integration)法(Datsenko, K. A, and Wanner, B. L. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. 97:6640-6645 (2000))等の直鎖状DNAを用いる方法、温度感受性複製起点を含むプラスミドを用いる方法、接合伝達可能なプラスミドを用いる方法、宿主内で機能する複製起点を持たないスイサイドベクターを用いる方法、ファージを用いたtransduction法が挙げられる。遺伝子は、1コピーのみ導入されてもよく、2コピーまたはそれ以上導入されてもよい。例えば、染色体上に多数のコピーが存在する配列を標的として相同組み換えを行うことで、染色体へ遺伝子の多数のコピーを導入することができる。染色体上に多数のコピーが存在する配列としては、反復DNA配列(repetitive DNA)、ト
ランスポゾンの両端に存在するインバーテッド・リピートが挙げられる。また、目的物質の生産に不要な遺伝子等の染色体上の適当な配列を標的として相同組み換えを行ってもよい。また、遺伝子は、トランスポゾンやMini-Muを用いて染色体上にランダムに導入することもできる(特開平2-109985号公報、US5,882,888、EP805867B1)。
【0094】
染色体上に標的遺伝子が導入されたことの確認は、同遺伝子の全部又は一部と相補的な配列を持つプローブを用いたサザンハイブリダイゼーション、又は同遺伝子の配列に基づいて作成したプライマーを用いたPCR等によって確認できる。
【0095】
また、遺伝子のコピー数の増加は、同遺伝子を含むベクターを宿主に導入することによっても達成できる。例えば、標的遺伝子を含むDNA断片を、宿主で機能するベクターと連結して同遺伝子の発現ベクターを構築し、当該発現ベクターで宿主を形質転換することにより、同遺伝子のコピー数を増加させることができる。標的遺伝子を含むDNA断片は、例えば、標的遺伝子を有する微生物のゲノムDNAを鋳型とするPCRにより取得できる。ベクターとしては、宿主の細胞内において自律複製可能なベクターを用いることができる。ベクターは、マルチコピーベクターであるのが好ましい。また、形質転換体を選択するために、ベクターは抗生物質耐性遺伝子などのマーカーを有することが好ましい。また、ベクターは、挿入された遺伝子を発現するためのプロモーターやターミネーターを備えていてもよい。ベクターは、例えば、細菌プラスミド由来のベクター、酵母プラスミド由来のベクター、バクテリオファージ由来のベクター、コスミド、またはファージミド等であってよい。コリネ型細菌で自律複製可能なベクターとして、具体的には、例えば、pHM1519(Agric, Biol. Chem., 48, 2901-2903(1984));pAM330(Agric. Biol. Chem., 48, 2901-2903(1984));これらを改良した薬剤耐性遺伝子を有するプラスミド;特開平3-210184号公報に記載のプラスミドpCRY30;特開平2-72876号公報及び米国特許5,185,262号明細書公報に記載のプラスミドpCRY21、pCRY2KE、pCRY2KX、pCRY31、pCRY3KE及びpCRY3KX;特開平1-191686号公報に記載のプラスミドpCRY2およびpCRY3;特開昭58-192900号公報に記載のpAJ655、pAJ611及びpAJ1844;特開昭57-134500号公報に記載のpCG1;特開昭58-35197号公報に記載のpCG2;特開昭57-183799号公報に記載のpCG4およびpCG11;特開平10-215883号公報に記載のpVK7;特開平9-070291号公報に記載のpVC7が挙げられる。
【0096】
遺伝子を導入する場合、遺伝子は、発現可能に本発明の細菌に保持されていればよい。具体的には、遺伝子は、本発明の細菌で機能するプロモーター配列による制御を受けて発現するように導入されていればよい。プロモーターは、宿主由来のプロモーターであってもよく、異種由来のプロモーターであってもよい。プロモーターは、導入する遺伝子の固有のプロモーターであってもよく、他の遺伝子のプロモーターであってもよい。プロモーターとしては、例えば、後述するような、より強力なプロモーターを利用してもよい。
【0097】
遺伝子の下流には、転写終結用のターミネーターを配置することができる。ターミネーターは、本発明の細菌において機能するものであれば特に制限されない。ターミネーターは、宿主由来のターミネーターであってもよく、異種由来のターミネーターであってもよい。ターミネーターは、導入する遺伝子の固有のターミネーターであってもよく、他の遺伝子のターミネーターであってもよい。
【0098】
各種微生物において利用可能なベクター、プロモーター、ターミネーターに関しては、例えば「微生物学基礎講座8 遺伝子工学、共立出版、1987年」に詳細に記載されており、それらを利用することが可能である。
【0099】
また、2またはそれ以上の遺伝子を導入する場合、各遺伝子が、発現可能に本発明の細菌に保持されていればよい。例えば、各遺伝子は、全てが単一の発現ベクター上に保持されていてもよく、全てが染色体上に保持されていてもよい。また、各遺伝子は、複数の発
現ベクター上に別々に保持されていてもよく、単一または複数の発現ベクター上と染色体上とに別々に保持されていてもよい。また、2またはそれ以上の遺伝子でオペロンを構成して導入してもよい。「2またはそれ以上の遺伝子を導入する場合」としては、例えば、2またはそれ以上のタンパク質をそれぞれコードする遺伝子を導入する場合、単一のタンパク質複合体を構成する2またはそれ以上のサブユニットをそれぞれコードする遺伝子を導入する場合、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0100】
導入される遺伝子は、宿主で機能するタンパク質をコードするものであれば特に制限されない。導入される遺伝子は、宿主由来の遺伝子であってもよく、異種由来の遺伝子であってもよい。導入される遺伝子は、例えば、同遺伝子の塩基配列に基づいて設計したプライマーを用い、同遺伝子を有する生物のゲノムDNAや同遺伝子を搭載するプラスミド等を鋳型として、PCRにより取得することができる。また、導入される遺伝子は、例えば、同遺伝子の塩基配列に基づいて全合成してもよい(Gene, 60(1), 115-127 (1987))。取得した遺伝子は、そのまま、あるいは適宜改変して、利用することができる。
【0101】
なお、タンパク質が複数のサブユニットからなる複合体として機能する場合、結果としてタンパク質の活性が増大する限り、それら複数のサブユニットの全てを改変してもよく、一部のみを改変してもよい。すなわち、例えば、遺伝子の発現を上昇させることによりタンパク質の活性を増大させる場合、それらのサブユニットをコードする複数の遺伝子の全ての発現を増強してもよく、一部の発現のみを増強してもよい。通常は、それらのサブユニットをコードする複数の遺伝子の全ての発現を増強するのが好ましい。また、複合体を構成する各サブユニットは、複合体が目的のタンパク質の機能を有する限り、1種の生物由来であってもよく、2種またはそれ以上の異なる生物由来であってもよい。すなわち、例えば、複数のサブユニットをコードする、同一の生物由来の遺伝子を宿主に導入してもよく、それぞれ異なる生物由来の遺伝子を宿主に導入してもよい。
【0102】
また、遺伝子の発現の上昇は、遺伝子の転写効率を向上させることにより達成できる。また、遺伝子の発現の上昇は、遺伝子の翻訳効率を向上させることにより達成できる。遺伝子の転写効率や翻訳効率の向上は、例えば、発現調節配列の改変により達成できる。「発現調節配列」とは、遺伝子の発現に影響する部位の総称である。発現調節配列としては、例えば、プロモーター、シャインダルガノ(SD)配列(リボソーム結合部位(RBS)ともいう)、およびRBSと開始コドンとの間のスペーサー領域が挙げられる。発現調節配列は、プロモーター検索ベクターやGENETYX等の遺伝子解析ソフトを用いて決定することができる。これら発現調節配列の改変は、例えば、温度感受性ベクターを用いた方法や、Redドリブンインテグレーション法(WO2005/010175)により行うことができる。
【0103】
遺伝子の転写効率の向上は、例えば、染色体上の遺伝子のプロモーターをより強力なプロモーターに置換することにより達成できる。「より強力なプロモーター」とは、遺伝子の転写が、もともと存在している野生型のプロモーターよりも向上するプロモーターを意味する。コリネ型細菌で利用できるより強力なプロモーターとしては、人為的に設計変更されたP54-6プロモーター(Appl.Microbiol.Biotechnolo., 53, 674-679(2000))、コリネ型細菌内で酢酸、エタノール、ピルビン酸等で誘導できるpta、aceA、aceB、adh、amyEプロモーター、コリネ型細菌内で発現量が多い強力なプロモーターであるcspB、SOD、tuf(EF-Tu)プロモーター(Journal of Biotechnology 104 (2003) 311-323, Appl Environ
Microbiol. 2005 Dec;71(12):8587-96.)、lacプロモーター、tacプロモーター、trcプロモーターが挙げられる。また、より強力なプロモーターとしては、各種レポーター遺伝子を用いることにより、在来のプロモーターの高活性型のものを取得してもよい。例えば、プロモーター領域内の-35、-10領域をコンセンサス配列に近づけることにより、プロモーターの活性を高めることができる(国際公開第00/18935号)。高活性型プロモーターと
しては、各種tac様プロモーター(Katashkina JI et al. Russian Federation Patent application 2006134574)が挙げられる。プロモーターの強度の評価法および強力なプロモーターの例は、Goldsteinらの論文(Prokaryotic promoters in biotechnology. Biotechnol. Annu. Rev., 1, 105-128 (1995))等に記載されている。
【0104】
遺伝子の翻訳効率の向上は、例えば、染色体上の遺伝子のシャインダルガノ(SD)配列(リボソーム結合部位(RBS)ともいう)をより強力なSD配列に置換することにより達成できる。「より強力なSD配列」とは、mRNAの翻訳が、もともと存在している野生型のSD配列よりも向上するSD配列を意味する。より強力なSD配列としては、例えば、ファージT7由来の遺伝子10のRBSが挙げられる(Olins P. O. et al, Gene, 1988, 73, 227-235)。さらに、RBSと開始コドンとの間のスペーサー領域、特に開始コドンのすぐ上流の配列(5’-UTR)における数個のヌクレオチドの置換、あるいは挿入、あるいは欠失がmRNAの安定性および翻訳効率に非常に影響を及ぼすことが知られており、これらを改変することによっても遺伝子の翻訳効率を向上させることができる。
【0105】
遺伝子の翻訳効率の向上は、例えば、コドンの改変によっても達成できる。例えば、遺伝子中に存在するレアコドンを、より高頻度で利用される同義コドンに置き換えることにより、遺伝子の翻訳効率を向上させることができる。すなわち、導入される遺伝子は、例えば、使用する宿主のコドン使用頻度に応じて最適なコドンを有するように改変されてよい。コドンの置換は、例えば、DNAの目的の部位に目的の変異を導入する部位特異的変異法により行うことができる。部位特異的変異法としては、PCRを用いる方法(Higuchi, R., 61, in PCR technology, Erlich, H. A. Eds., Stockton press (1989);Carter, P., Meth. in Enzymol., 154, 382 (1987))や、ファージを用いる方法(Kramer,W. and Frits, H. J., Meth. in Enzymol., 154, 350 (1987);Kunkel, T. A. et al., Meth. in Enzymol., 154, 367 (1987))が挙げられる。また、コドンが置換された遺伝子断片を全合成してもよい。種々の生物におけるコドンの使用頻度は、「コドン使用データベース」(http://www.kazusa.or.jp/codon; Nakamura, Y. et al, Nucl. Acids Res., 28, 292 (2000))に開示されている。
【0106】
また、遺伝子の発現の上昇は、遺伝子の発現を上昇させるようなレギュレーターを増幅すること、または、遺伝子の発現を低下させるようなレギュレーターを欠失または弱化させることによっても達成できる。
【0107】
上記のような遺伝子の発現を上昇させる手法は、単独で用いてもよく、任意の組み合わせで用いてもよい。
【0108】
また、タンパク質の活性が増大するような改変は、例えば、タンパク質の比活性を増強することによっても達成できる。比活性の増強には、フィードバック阻害の低減および解除も含まれる。比活性が増強されたタンパク質は、例えば、種々の生物を探索し取得することができる。また、在来のタンパク質に変異を導入することで高活性型のものを取得してもよい。導入される変異は、例えば、タンパク質の1若しくは数個の位置での1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、又は付加されるものであってよい。変異の導入は、例えば、上述したような部位特異的変異法により行うことができる。また、変異の導入は、例えば、突然変異処理により行ってもよい。突然変異処理としては、X線の照射、紫外線の照射、ならびにN−メチル−N'−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(MNNG)、エチルメタンスルフォネート(EMS)、およびメチルメタンスルフォネート(MMS)等の変異剤による処理が挙げられる。また、in vitroでDNAを直接ヒドロキシルアミンで処理し、ランダム変異を誘発してもよい。比活性の増強は、単独で用いてもよく、上記のような遺伝子の発現を増強する手法と任意に組み合わせて用いてもよい。
【0109】
形質転換の方法は特に限定されず、従来知られた方法を用いることができる。コリネ型細菌の形質転換は、例えば、プロトプラスト法(Gene, 39, 281-286(1985))、エレクトロポレーション法(Bio/Technology, 7, 1067-1070(1989))、電気パルス法(特開平2-207791号公報)により行うことができる。
【0110】
タンパク質の活性が増大したことは、同タンパク質の活性を測定することで確認できる。
【0111】
タンパク質の活性が増大したことは、同タンパク質をコードする遺伝子の発現が上昇したことを確認することによっても、確認できる。遺伝子の発現が上昇したことは、同遺伝子の転写量が上昇したことを確認することや、同遺伝子から発現するタンパク質の量が上昇したことを確認することにより確認できる。
【0112】
遺伝子の転写量が上昇したことの確認は、同遺伝子から転写されるmRNAの量を野生株または親株等の非改変株と比較することによって行うことができる。mRNAの量を評価する方法としてはノーザンハイブリダイゼーション、RT-PCR等が挙げられる(Sambrook, J., et al., Molecular Cloning A Laboratory Manual/Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor (USA), 2001)。mRNAの量は、非改変株と比較して、例えば、1.5倍以上、2倍以上、または3倍以上に上昇してよい。
【0113】
タンパク質の量が上昇したことの確認は、抗体を用いてウェスタンブロットによって行うことができる(Molecular cloning(Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor (USA), 2001))。タンパク質の量は、非改変株と比較して、例えば、1.5倍以上、2倍以上、または3倍以上に上昇してよい。
【0114】
上記したタンパク質の活性を増大させる手法は、α−KG取り込み担体の活性増強に加えて、任意のタンパク質、例えばL−アミノ酸生合成系酵素、の活性増強や、任意の遺伝子、例えばそれら任意のタンパク質をコードする遺伝子、の発現増強に利用できる。
【0115】
<1−4>タンパク質の活性を低下させる手法
以下に、タンパク質の活性を低下させる手法について説明する。
【0116】
「タンパク質の活性が低下する」とは、同タンパク質の細胞当たりの活性が非改変株と比較して減少していることを意味し、活性が完全に消失している場合を含む。ここでいう「非改変株」とは、標的のタンパク質の活性が低下するように改変されていない対照株を意味する。非改変株としては、野生株や親株が挙げられる。「タンパク質の活性が低下する」とは、具体的には、非改変株と比較して、同タンパク質の細胞当たりの分子数が低下していること、および/または、同タンパク質の分子当たりの機能が低下していることをいう。すなわち、「タンパク質の活性が低下する」という場合の「活性」とは、タンパク質の触媒活性に限られず、タンパク質をコードする遺伝子の転写量(mRNA量)または翻訳量(タンパク質の量)を意味してもよい。なお、「タンパク質の細胞当たりの分子数が低下している」ことには、同タンパク質が全く存在していない場合が含まれる。また、「タンパク質の分子当たりの機能が低下している」ことには、同タンパク質の分子当たりの機能が完全に消失している場合が含まれる。タンパク質の活性の低下の程度は、タンパク質の活性が非改変株と比較して低下していれば特に制限されない。タンパク質の活性は、例えば、非改変株の、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下してよい。
【0117】
タンパク質の活性が低下するような改変は、例えば、同タンパク質をコードする遺伝子の発現を低下させることにより達成できる。「遺伝子の発現が低下する」とは、同遺伝子
の細胞当たりの発現量が野生株や親株等の非改変株と比較して減少することを意味する。「遺伝子の発現が低下する」とは、具体的には、遺伝子の転写量(mRNA量)が低下すること、および/または、遺伝子の翻訳量(タンパク質の量)が低下することを意味してよい。「遺伝子の発現が低下する」ことには、同遺伝子が全く発現していない場合が含まれる。なお、「遺伝子の発現が低下する」ことを、「遺伝子の発現が弱化される」ともいう。遺伝子の発現は、例えば、非改変株の、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下してよい。
【0118】
遺伝子の発現の低下は、例えば、転写効率の低下によるものであってもよく、翻訳効率の低下によるものであってもよく、それらの組み合わせによるものであってもよい。遺伝子の発現の低下は、例えば、遺伝子のプロモーター、シャインダルガノ(SD)配列(リボソーム結合部位(RBS)ともいう)、RBSと開始コドンとの間のスペーサー領域等の発現調節配列を改変することにより達成できる。発現調節配列を改変する場合には、発現調節配列は、好ましくは1塩基以上、より好ましくは2塩基以上、特に好ましくは3塩基以上が改変される。また、発現調節配列の一部または全部を欠失させてもよい。また、遺伝子の発現の低下は、例えば、発現制御に関わる因子を操作することによっても達成できる。発現制御に関わる因子としては、転写や翻訳制御に関わる低分子(誘導物質、阻害物質など)、タンパク質(転写因子など)、核酸(siRNAなど)等が挙げられる。また、遺伝子の発現の低下は、例えば、遺伝子のコード領域に遺伝子の発現が低下するような変異を導入することによっても達成できる。例えば、遺伝子のコード領域のコドンを、宿主においてより低頻度で利用される同義コドンに置き換えることによって、遺伝子の発現を低下させることができる。また、例えば、後述するような遺伝子の破壊により、遺伝子の発現自体が低下し得る。
【0119】
また、タンパク質の活性が低下するような改変は、例えば、同タンパク質をコードする遺伝子を破壊することにより達成できる。「遺伝子が破壊される」とは、正常に機能するタンパク質を産生しないように同遺伝子が改変されることを意味する。「正常に機能するタンパク質を産生しない」ことには、同遺伝子からタンパク質が全く産生されない場合や、同遺伝子から分子当たりの機能(活性や性質)が低下又は消失したタンパク質が産生される場合が含まれる。
【0120】
遺伝子の破壊は、例えば、染色体上の遺伝子のコード領域の一部又は全部を欠損させることにより達成できる。さらには、染色体上の遺伝子の前後の配列を含めて、遺伝子全体を欠失させてもよい。タンパク質の活性の低下が達成できる限り、欠失させる領域は、N末端領域、内部領域、C末端領域等のいずれの領域であってもよい。通常、欠失させる領域は長い方が確実に遺伝子を不活化することができる。また、欠失させる領域の前後の配列は、リーディングフレームが一致しないことが好ましい。
【0121】
また、遺伝子の破壊は、例えば、染色体上の遺伝子のコード領域にアミノ酸置換(ミスセンス変異)を導入すること、終止コドンを導入すること(ナンセンス変異)、あるいは1〜2塩基を付加または欠失するフレームシフト変異を導入すること等によっても達成できる(Journal of Biological Chemistry 272:8611-8617(1997), Proceedings of the National Academy of Sciences, USA 95 5511-5515(1998), Journal of Biological Chemistry 26 116, 20833-20839(1991))。
【0122】
また、遺伝子の破壊は、例えば、染色体上の遺伝子のコード領域に他の配列を挿入することによっても達成できる。挿入部位は遺伝子のいずれの領域であってもよいが、挿入する配列は長い方が確実に遺伝子を不活化することができる。また、挿入部位の前後の配列は、リーディングフレームが一致しないことが好ましい。他の配列としては、コードされるタンパク質の活性を低下又は消失させるものであれば特に制限されないが、例えば、抗
生物質耐性遺伝子等のマーカー遺伝子や目的物質の生産に有用な遺伝子が挙げられる。
【0123】
染色体上の遺伝子を上記のように改変することは、例えば、正常に機能するタンパク質を産生しないように改変した欠失型遺伝子を作製し、該欠失型遺伝子を含む組換えDNAで宿主を形質転換して、欠失型遺伝子と染色体上の野生型遺伝子とで相同組換えを起こさせることにより、染色体上の野生型遺伝子を欠失型遺伝子に置換することによって達成できる。その際、組換えDNAには、宿主の栄養要求性等の形質にしたがって、マーカー遺伝子を含ませておくと操作がしやすい。欠失型遺伝子としては、遺伝子の全領域あるいは一部の領域を欠失した遺伝子、ミスセンス変異を導入した遺伝子、ナンセンス変異を導入した遺伝子、フレームシフト変異を導入した遺伝子、トランスポゾンやマーカー遺伝子等の挿入配列を導入した遺伝子が挙げられる。欠失型遺伝子によってコードされるタンパク質は、生成したとしても、野生型タンパク質とは異なる立体構造を有し、機能が低下又は消失する。このような相同組換えを利用した遺伝子置換による遺伝子破壊は既に確立しており、「Redドリブンインテグレーション(Red-driven integration)」と呼ばれる方法(Datsenko, K. A, and Wanner, B. L. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. 97:6640-6645 (2000))、Redドリブンインテグレーション法とλファージ由来の切り出しシステム(Cho, E.
H., Gumport, R. I., Gardner, J. F. J. Bacteriol. 184: 5200-5203 (2002))とを組み合わせた方法(WO2005/010175号参照)等の直鎖状DNAを用いる方法や、温度感受性複製起点を含むプラスミドを用いる方法、接合伝達可能なプラスミドを用いる方法、宿主内で機能する複製起点を持たないスイサイドベクターを用いる方法などがある(米国特許第6303383号、特開平05-007491号)。
【0124】
また、タンパク質の活性が低下するような改変は、例えば、突然変異処理により行ってもよい。突然変異処理としては、X線の照射、紫外線の照射、ならびにN−メチル−N'−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(MNNG)、エチルメタンスルフォネート(EMS)、およびメチルメタンスルフォネート(MMS)等の変異剤による処理が挙げられる。
【0125】
なお、タンパク質が複数のサブユニットからなる複合体として機能する場合、結果としてタンパク質の活性が低下する限り、それら複数のサブユニットの全てを改変してもよく、一部のみを改変してもよい。すなわち、例えば、それらのサブユニットをコードする複数の遺伝子の全てを破壊等してもよく、一部のみを破壊等してもよい。また、タンパク質に複数のアイソザイムが存在する場合、結果としてタンパク質の活性が低下する限り、複数のアイソザイムの全ての活性を低下させてもよく、一部のみの活性を低下させてもよい。すなわち、例えば、それらのアイソザイムをコードする複数の遺伝子の全てを破壊等してもよく、一部のみを破壊等してもよい。
【0126】
タンパク質の活性が低下したことは、同タンパク質の活性を測定することで確認できる。
【0127】
タンパク質の活性が低下したことは、同タンパク質をコードする遺伝子の発現が低下したことを確認することによっても、確認できる。遺伝子の発現が低下したことは、同遺伝子の転写量が低下したことを確認することや、同遺伝子から発現するタンパク質の量が低下したことを確認することにより確認できる。
【0128】
遺伝子の転写量が低下したことの確認は、同遺伝子から転写されるmRNAの量を非改変株と比較することによって行うことが出来る。mRNAの量を評価する方法としては、ノーザンハイブリダイゼーション、RT−PCR等が挙げられる(Molecular cloning(Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor (USA), 2001))。mRNAの量は、非改変株と比較して、例えば、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下してよい。
【0129】
タンパク質の量が低下したことの確認は、抗体を用いてウェスタンブロットによって行うことが出来る(Molecular cloning(Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor (USA), 2001))。タンパク質の量は、非改変株と比較して、例えば、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下してよい。
【0130】
遺伝子が破壊されたことは、破壊に用いた手段に応じて、同遺伝子の一部または全部の塩基配列、制限酵素地図、または全長等を決定することで確認できる。
【0131】
上記したタンパク質の活性を低下させる手法は、任意のタンパク質、例えば目的のL−アミノ酸の生合成経路から分岐して目的のL−アミノ酸以外の化合物を生成する反応を触媒する酵素、の活性低下や、任意の遺伝子、例えばそれら任意のタンパク質をコードする遺伝子、の発現低下に利用できる。
【0132】
<2>本発明のL−アミノ酸の製造方法
本発明の方法は、本発明の細菌を培地で培養すること、および該培地よりL−アミノ酸を採取すること、を含むL−アミノ酸の製造方法である。本発明において製造されるL−アミノ酸は、グルタミン酸系L−アミノ酸である。本発明においては、1種のL−アミノ酸が製造されてもよく、2種またはそれ以上のL−アミノ酸が製造されてもよい。
【0133】
使用する培地は、本発明の細菌が増殖でき、目的のL−アミノ酸が生産される限り、特に制限されない。培地としては、例えば、コリネ型細菌等の細菌の培養に用いられる通常の培地を用いることができる。培地としては、例えば、炭素源、窒素源、リン酸源、硫黄源、その他の各種有機成分や無機成分から選択される成分を必要に応じて含有する培地を用いることができる。培地成分の種類や濃度は、使用するコリネ型細菌の種類等の諸条件に応じて適宜設定してよい。
【0134】
炭素源として、具体的には、例えば、グルコース、フルクトース、スクロース、ラクトース、ガラクトース、キシロース、アラビノース、廃糖蜜、澱粉加水分解物、バイオマスの加水分解物等の糖類、酢酸、フマル酸、クエン酸、コハク酸等の有機酸類、グリセロール、粗グリセロール、エタノール等のアルコール類、脂肪酸類が挙げられる。なお、炭素源としては、植物由来原料を好適に用いることができる。植物としては、例えば、トウモロコシ、米、小麦、大豆、サトウキビ、ビート、綿が挙げられる。植物由来原料としては、例えば、根、茎、幹、枝、葉、花、種子等の器官、それらを含む植物体、それら植物器官の分解産物が挙げられる。植物由来原料の利用形態は特に制限されず、例えば、未加工品、絞り汁、粉砕物、精製物等のいずれの形態でも利用できる。また、キシロース等の5炭糖、グルコース等の6炭糖、またはそれらの混合物は、例えば、植物バイオマスから取得して利用できる。具体的には、これらの糖類は、植物バイオマスを、水蒸気処理、濃酸加水分解、希酸加水分解、セルラーゼ等の酵素による加水分解、アルカリ処理等の処理に供することにより取得できる。なお、ヘミセルロースは一般的にセルロースよりも加水分解されやすいため、植物バイオマス中のヘミセルロースを予め加水分解して5炭糖を遊離させ、次いで、セルロースを加水分解して6炭糖を生成させてもよい。また、キシロースは、例えば、本発明の細菌にグルコース等の6炭糖からキシロースへの変換経路を保有させて、6炭糖からの変換により供給してもよい。炭素源としては、1種の炭素源を用いてもよく、2種またはそれ以上の炭素源を組み合わせて用いてもよい。
【0135】
窒素源として、具体的には、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等のアンモニウム塩、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、大豆タンパク質分解物等の有機窒素源、アンモニア、ウレアが挙げられる。pH調整に用いられるアンモニアガスやアンモニア水を窒素源として利用してもよい。窒素源としては、1種の窒素源を用い
てもよく、2種またはそれ以上の窒素源を組み合わせて用いてもよい。
【0136】
リン酸源として、具体的には、例えば、リン酸2水素カリウム、リン酸水素2カリウム等のリン酸塩、ピロリン酸等のリン酸ポリマーが挙げられる。リン酸源としては、1種のリン酸源を用いてもよく、2種またはそれ以上のリン酸源を組み合わせて用いてもよい。
【0137】
硫黄源として、具体的には、例えば、硫酸塩、チオ硫酸塩、亜硫酸塩等の無機硫黄化合物、システイン、シスチン、グルタチオン等の含硫アミノ酸が挙げられる。硫黄源としては、1種の硫黄源を用いてもよく、2種またはそれ以上の硫黄源を組み合わせて用いてもよい。
【0138】
その他の各種有機成分や無機成分として、具体的には、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩類;鉄、マンガン、マグネシウム、カルシウム等の微量金属類;ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、ビタミンB12等のビタミン類;アミノ酸類;核酸類;これらを含有するペプトン、カザミノ酸、酵母エキス、大豆タンパク質分解物等の有機成分が挙げられる。その他の各種有機成分や無機成分としては、1種の成分を用いてもよく、2種またはそれ以上の成分を組み合わせて用いてもよい。
【0139】
また、生育にアミノ酸などを要求する栄養要求性変異株を使用する場合には、培地に要求される栄養素を補添することが好ましい。
【0140】
また、培地中のビオチン量を制限することや、培地に界面活性剤またはペニシリンを添加することも好ましい。
【0141】
培養条件は、本発明の細菌が増殖でき、目的のL−アミノ酸が生産される限り、特に制限されない。培養は、例えば、コリネ型細菌等の細菌の培養に用いられる通常の条件で行うことができる。培養条件は、使用するコリネ型細菌の種類等の諸条件に応じて適宜設定してよい。
【0142】
培養は、液体培地を用いて行うことができる。培養の際には、本発明の細菌を寒天培地等の固体培地で培養したものを直接液体培地に接種してもよく、本発明の細菌を液体培地で種培養したものを本培養用の液体培地に接種してもよい。すなわち、培養は、種培養と本培養とに分けて行われてもよい。その場合、種培養と本培養の培養条件は、同一であってもよく、そうでなくてもよい。培養開始時に培地に含有される本発明の細菌の量は特に制限されない。本培養は、例えば、本培養の培地に、種培養液を1〜50%(v/v)植菌することにより行ってよい。
【0143】
培養は、回分培養(batch culture)、流加培養(Fed-batch culture)、連続培養(continuous culture)、またはそれらの組み合わせにより実施することができる。なお、培養開始時の培地を、「初発培地」ともいう。また、流加培養または連続培養において培養系(発酵槽)に供給する培地を、「流加培地」ともいう。また、流加培養または連続培養において培養系に流加培地を供給することを、「流加」ともいう。なお、培養が種培養と本培養とに分けて行われる場合、例えば、種培養と本培養を、共に回分培養で行ってもよい。また、例えば、種培養を回分培養で行い、本培養を流加培養または連続培養で行ってもよい。
【0144】
培養は、例えば、好気条件で行うことができる。好気条件とは、液体培地中の溶存酸素濃度が、酸素膜電極による検出限界である0.33ppm以上であることをいい、好ましくは1.5ppm以上であることであってよい。酸素濃度は、例えば、飽和酸素濃度の5〜50%、好まし
くは10%程度に制御されてもよい。好気条件での培養は、具体的には、通気培養、振盪培養、撹拌培養、またはそれらの組み合わせで行うことができる。培地のpHは、例えば、pH3〜10、好ましくはpH4.0〜9.5であってよい。培養中、必要に応じて培地のpHを調整することができる。培地のpHは、アンモニアガス、アンモニア水、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等の各種アルカリ性または酸性物質を用いて調整することができる。培養温度は、例えば、20〜40℃、好ましくは25℃〜37℃であってよい。培養期間は、例えば、10時間〜120時間であってよい。培養は、例えば、培地中の炭素源が消費されるまで、あるいは本発明の細菌の活性がなくなるまで、継続してもよい。このような条件下で本発明の細菌を培養することにより、培地中にL−アミノ酸が蓄積する。
【0145】
また、L−グルタミン酸を製造する場合、L−グルタミン酸が析出する条件に調整された液体培地を用いて、培地中にL−グルタミン酸を析出させながら培養を行うことも出来る。L−グルタミン酸が析出する条件としては、例えば、pH5.0〜4.0、好ましくはpH4.5〜4.0、さらに好ましくはpH4.3〜4.0、特に好ましくはpH4.0の条件が挙げられる(欧州特許出願公開第1078989号明細書)。
【0146】
L−アミノ酸が生成したことは、化合物の検出または同定に用いられる公知の手法により確認することができる。そのような手法としては、例えば、HPLC、LC/MS、GC/MS、NMRが挙げられる。これらの手法は、単独で、あるいは適宜組み合わせて用いることができる。
【0147】
発酵液からのL−アミノ酸の回収は、化合物の分離精製に用いられる公知の手法により行うことができる。そのような手法としては、例えば、イオン交換樹脂法(Nagai, H. et
al., Separation Science and Technology, 39(16), 3691-3710)、沈殿法、膜分離法(特開平9-164323号、特開平9-173792号)、晶析法(WO2008/078448、WO2008/078646)が挙げられる。これらの手法は、単独で、あるいは適宜組み合わせて用いることができる。なお、菌体内にL−アミノ酸が蓄積する場合には、例えば、菌体を超音波などにより破砕し、遠心分離によって菌体を除去して得られる上清から、イオン交換樹脂法などによってL−アミノ酸を回収することができる。回収されるL−アミノ酸は、フリー体、その塩、またはそれらの混合物であってよい。塩としては、例えば、硫酸塩、塩酸塩、炭酸塩、アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩が挙げられる。L−グルタミン酸を製造する場合、回収されるL−グルタミン酸は、具体的には、例えば、フリー体のL−グルタミン酸、L−グルタミン酸ナトリウム(monosodium L-glutamate;MSG)、L−グルタミン酸アンモニウム(monoammonium L-glutamate)、またはそれらの混合物であってもよい。例えば、発酵液中のL−グルタミン酸アンモニウムを酸を加えて晶析させ、結晶に等モルの水酸化ナトリウムを添加することでL−グルタミン酸ナトリウム(MSG)が得られる。なお、晶析前後に活性炭を加えて脱色してもよい(グルタミン酸ナトリウムの工業晶析 日本海水学会誌 56巻 5号 川喜田哲哉参照)。L−グルタミン酸ナトリウム結晶は、例えば、うま味調味料として用いることができる。L−グルタミン酸ナトリウム結晶は、同様にうま味を有するグアニル酸ナトリウムやイノシン酸ナトリウム等の核酸と混合して調味料として用いてもよい。
【0148】
また、L−アミノ酸が培地中に析出する場合は、遠心分離又は濾過等により回収することができる。また、培地中に析出したL−アミノ酸は、培地中に溶解しているL−アミノ酸を晶析した後に、併せて単離してもよい。
【0149】
尚、回収されるL−アミノ酸は、L−アミノ酸以外に、細菌菌体、培地成分、水分、及び細菌の代謝副産物等の成分を含んでいてもよい。L−アミノ酸は、所望の程度に精製さ
れていてもよい。回収されるL−アミノ酸の純度は、例えば50%(w/w)以上、好ましくは85%(w/w)以上、特に好ましくは95%(w/w)以上であってよい (JP1214636B, USP5,431,933, USP4,956,471, USP4,777,051, USP4,946,654, USP5,840,358, USP6,238,714, US2005/0025878))。
【実施例】
【0150】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれにより制限されるものではない。
【0151】
実施例:kgtP遺伝子の発現増強株を用いたグルタミン酸生産培養
本実施例では、E. coli由来kgtP遺伝子を導入したC. glutamicumのグルタミン酸生産株を用いてグルタミン酸生産を行い、kgtP遺伝子の発現増強がグルタミン酸生産に与える影響について評価した。kgtP遺伝子はα−ケトグルタル酸(α−KG)取込み担体をコードする遺伝子である。
【0152】
(1)材料
本実施例で使用した材料は以下の通りである。
【0153】
【表1】
【0154】
<使用プラスミド>
pVK9
pVK9-kgtP
pVK9-BL_xfp
pVK9-kgtP-BL_xfp
【0155】
<使用菌株>
C. glutamicum 2256ΔsucAΔldhA yggB*
C. glutamicum 2256ΔsucAΔldhA yggB*/pVK9
C. glutamicum 2256ΔsucAΔldhA yggB*/pVK9-kgtP
C. glutamicum 2256ΔsucAΔldhA yggB*/pVK9-BL_xfp
C. glutamicum 2256ΔsucAΔldhA yggB*/pVK9-kgtP-BL_xfp
【0156】
(2)プラスミドおよび菌株の構築
<pVK9-kgtPの構築>
E. coli K-12 MG1655(ATCC 47076)のゲノムDNAを鋳型に、プライマー1と2を用いたPCRを行い、E. coli由来のkgtP遺伝子(GenBank: U00096.3 kgtP-ORF (1299bp))を含むDNA断片を増幅した。得られたDNA断片とbamHIとpstIで切断したpVK9(US2006-0141588)をin
-fusion(TaKaRa Inc.)を用いて連結することで、kgtP遺伝子の発現プラスミドpVK9-kgtPを構築した。E. coli K-12 MG1655のkgtP遺伝子の塩基配列、及び同遺伝子がコードするKgtPタンパク質のアミノ酸配列を、それぞれ配列番号7および8に示す。
【0157】
<pVK9-BL_xfpの構築>
Bifidobacterium longum JCM1217(ATCC 15707)のゲノムDNAを鋳型に、プライマー7と8を用いたPCRを行い、Bifidobacterium longum JCM1217由来のxfp遺伝子(ORF番号BL0959)を含むDNA断片を増幅した。得られたDNA断片をxbaIで切断し、pVK9のxbaIサイトにT4 DNA ligaseを用いて連結することで、xfp遺伝子の発現プラスミドpVK9-BL_xfpを構築した。xfp遺伝子はホスホケトラーゼをコードする遺伝子である。Bifidobacterium longum JCM1217のxfp遺伝子の塩基配列、及び同遺伝子がコードするXfpタンパク質のアミノ酸配列を、それぞれ配列番号9および10に示す。
【0158】
<pVK9-kgtP-BL_xfpの構築>
上記で構築したプラスミドpVK9-kgtPを鋳型に、プライマー3と4を用いたPCRを行い、ベクターとkgtP遺伝子を含むDNA断片を増幅した。また、上記で構築したプラスミドpVK9-BL_xfpを鋳型に、プライマー5と6を用いたPCRを行い、xfp遺伝子を含むDNA断片を増幅した。得られた2つのDNA断片をin-fusion(TaKaRa Inc.)を用いて連結することで、kgtP遺伝子とxfp遺伝子の共発現プラスミドpVK9-kgtP-BL_xfpを構築した。
【0159】
各プラスミドをC. glutamicum 2256ΔsucAΔldhA yggB*株(WO2014/185430)に導入することで、kgtPおよび/またはxfpの発現増強株を構築した。2256ΔsucAΔldhA yggB*株は、C. glutamicum 2256株(ATCC 13869)から誘導されたグルタミン酸生産株であり、ldhA遺伝子とsucA遺伝子を欠損し、yggB遺伝子にIS変異(V419::IS)を有する。この変異型yggB遺伝子(V419::IS)の塩基配列、及び同遺伝子がコードする変異型YggBタンパク質(V419::IS)のアミノ酸配列を、それぞれ配列番号13および14に示す。
【0160】
(3)グルタミン酸生産培養
各菌株を用いてグルタミン酸生産培養を行った。使用した培地の組成を表2に示す。
【0161】
【表2】
KOHでpH8.0に調整した上記組成の培地を作製し、オートクレーブ(115℃、15min)により滅菌した。滅菌した後に培地に炭酸カルシウムを50g/Lになるように添加して培養を行なった。
【0162】
(3−1)培養1:kgtP単独強化による影響の評価
培養(前培養および本培養)は、太試験管に上記培地(50g/L炭酸カルシウム含む)5mlを張り込み、31.5℃のボックスシェーカーで振とうして行なった。最初に、前培養として
、培地1を用いて上記の株を24時間培養した。次いで、得られた前培養液0.5mLを培地2に植菌して本培養を行った。サンプリングは植菌から23時間後に行った。残存グルコースおよびグルタミン酸はAS-310(旭化成)を用いて定量した。
【0163】
結果を表3に示す。対照株(2256ΔsucAΔldhA yggB*/pVK9)では、α−KGの副生が認められた。一方、kgtP強化株(2256ΔsucAΔldhA yggB*/pVK9-kgtP)では、対照株と比較して、α−KGの副生量の減少と消費糖当たりのグルタミン酸蓄積(グルタミン酸収率)の向上が確認できた。従って、kgtPはグルタミン酸生産に有効な因子であると考察された。
【0164】
【表3】
【0165】
(3−2)培養2:xfp強化株におけるkgtP強化による影響の評価
培養(前培養および本培養)は、太試験管に上記培地(50g/L炭酸カルシウム含む)5mlを張り込み、31.5℃のボックスシェーカーで振とうして行なった。最初に、前培養として、培地1を用いて上記の株を24時間培養した。次いで、得られた前培養液0.5mLを培地1に植菌し本培養を行った。サンプリングは植菌から16時間後に行った。残存グルコースおよびグルタミン酸はAS-310(旭化成)を用いて定量した。
【0166】
結果を表4に示す。xfp強化株(2256ΔsucAΔldhA yggB*/pVK9-BL_xfp)では、対照株(2256ΔsucAΔldhA yggB*/pVK9)と比較して、α−KGの副生量の増大が認められた。一方、kgtPとxfpの両遺伝子の強化株(2256ΔsucAΔldhA yggB*/pVK9-kgtP-BL_xfp)では、xfp強化株と比較して、α−KGの副生量の減少と消費糖当たりのグルタミン酸蓄積(グルタミン酸収率)の向上が確認できた。従って、xfp強化時においてもkgtPはグルタミン酸生産に有効な因子であると考察された。
【0167】
【表4】
【0168】
〔配列表の説明〕
配列番号1〜6:プライマー
配列番号7:Escherichia coli K-12 MG1655のkgtP遺伝子の塩基配列
配列番号8:Escherichia coli K-12 MG1655のKgtPタンパク質のアミノ酸配列
配列番号9:Bifidobacterium longum JCM1217のxfp遺伝子の塩基配列
配列番号10:Bifidobacterium longum JCM1217のXfpタンパク質のアミノ酸配列
配列番号11:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のyggB遺伝子の塩基配列配列番号12:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のYggBタンパク質のアミノ酸配列
配列番号13:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)由来の変異型yggB遺伝子(V419::IS)の塩基配列
配列番号14:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)由来の変異型YggBタンパク質(V419::IS)のアミノ酸配列
配列番号15、16:プライマー
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]