【解決手段】このステント10は、消化器系の器官に留置される消化器系ステントであって、筒状のステント本体20を有しており、該ステント本体20の少なくとも内周面が、ポリ(3−メトキシプロピルアクリレート)からなる樹脂層60で被覆されている。また、前記ステント本体20は、金属メッシュチューブ30と、金属メッシュチューブ30の内周面に被覆されたポリウレタン膜40と、金属メッシュチューブ30及びポリウレタン膜40の外周面に被覆されたシリコーン膜50とで構成されており、ポリウレタン膜40の内周面に、前記樹脂層60が被覆されている。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、
図1〜5を参照して、本発明に係る消化器系ステントの一実施形態について説明する。
【0021】
図1〜3に示すように、この実施形態の消化器系ステント10(以下、単に「ステント10」という)は、胆管や、食道、十二指腸、大腸、膵管等の消化器系の器官に留置されるものであって、両端部が開口した略円筒状をなしたステント本体20を有しており、このステント本体20の少なくとも内周面が、ポリ(3−メトキシプロピルアクリレート)からなる樹脂層60で被覆された構造をなしている。
【0022】
なお、この実施形態のステント10は、
図5に示すように、胆管V2に留置されているが、十二指腸V1や膵管V3、更には図示しない食道や大腸等に留置してもよく、消化器系の器官であれば、留置箇所に限定はない。
【0023】
また、
図2〜4に示すように、この実施形態におけるステント本体20は、金属メッシュチューブ30と、該金属メッシュチューブ30の内周面に被覆されたポリウレタン膜40と、金属メッシュチューブ30及びポリウレタン膜40の外周面に被覆されたシリコーン膜50とで構成されている。そして、前記ステント本体20の少なくとも内周面が、ポリ(3−メトキシプロピルアクリレート)からなる樹脂層60で被覆されている。
【0024】
図4に示すように、前記金属メッシュチューブ30は、複数のメッシュ状の開口31を有する円筒状をなしている。すなわち、この金属メッシュチューブ30は、周方向に沿って形成されたジグザグ状部分33の両端が、環状に連結されてなる複数の周方向単位35を有し、これらが連結部37を介して軸方向に連結されて、全体として円筒状をなしており、例えば、金属円筒をレーザー加工やエッチング等で加工される。
【0025】
なお、金属メッシュチューブとしては、上記形状に限定されず、例えば、複数の枠状体を周方向に連結してなる周方向単位を、軸方向に連結して円筒状としてもよい。また、金属円筒をレーザー加工やエッチング等で加工したものだけでなく、金属線材を織ったり組んだり絡ませたり等して編むことで、円筒状に形成してもよい。また、この実施形態の金属メッシュチューブ30は、常時は拡径した状態となる自己拡張型であるが、バルーンカテーテル等に装着しておき、ステントの内側に配置されたバルーンを膨らませることで、拡径させるバルーン拡径型としてもよい。
【0026】
上記金属メッシュチューブ30の材質は、特に限定されないが、例えば、ステンレス、Ta、Ti、Pt、Au、W等や、Ni−Ti系合金、Co−Cr系合金、Co−Cr−Ni系合金、Cu−Zn−X(X=Al,Fe等)合金、Ni−Ti−X(X=Fe,Cu,V,Co等)合金等の形状記憶合金などが好ましい。
【0027】
また、前述したように、この実施形態においては、上記金属メッシュチューブ30の内周面には、ポリウレタン膜40が被覆され、金属メッシュチューブ30及びポリウレタン膜40の外周面には、シリコーン膜50が被覆されている。ただし、金属メッシュチューブは、その外周面及び/又は内周面がカバー膜で覆われていても良く、その材質も特に限定されない(これについては後述する)。
【0028】
図2及び
図3に示すように、ポリウレタン膜40は、金属メッシュチューブ30の内周面に、開口31を塞ぐように膜状をなして被覆されている。一方、シリコーン膜50は、金属メッシュチューブ30及びポリウレタン膜40の外周面に被覆されている。この実施形態では、金属メッシュチューブ30の線材の内側半分くらいがポリウレタン膜40に埋設され、同線材の外側半分くらいがシリコーン膜50に埋設されているが、内周面のポリウレタン膜40又は外周面のシリコーン膜50のいずれかに、金属メッシュチューブ30の線材が包み込まれて被覆されていてもよい。そして、これらのポリウレタン膜40やシリコーン膜50によって、金属メッシュチューブ30の、複数のメッシュ状の開口31や、隣接する周方向単位35,35どうしの空隙が塞がれるようになっている。
【0029】
前記ポリウレタン膜40を構成する材料としては、例えば、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリカプロラクトン系ポリウレタン等を好ましく用いることができる。
【0030】
ポリウレタン膜40の厚さは、特に限定は無いが、10〜60μmであることが好ましく、20〜40μmであることがより好ましい。ポリウレタン膜40の厚さが10μm未満であると、ポリウレタン膜40の外周面にシリコーン膜50を形成する場合に、シリコーン膜50の成膜性が低下することがある。一方、ポリウレタン膜40の厚さが60μmを超えると、ステント10全体が大径化する傾向にある。
【0031】
また、前記シリコーン膜50を構成する材料としては、例えば、シリコーン樹脂、シリコーンゴム、シリコーンエラストマー等を好ましく用いることができる。
【0032】
シリコーン膜50の厚さは、5〜60μmであることが好ましく、10〜40μmであることがより好ましい。シリコーン膜50の厚さが5μm未満であると、ポリウレタン膜40の加水分解を抑制する効果が得られにくくなる。一方、シリコーン膜50の厚さが60μmを超えると、ステント10全体が大径化する。
【0033】
また、ポリウレタン膜40とシリコーン膜50との合計の厚さは、15〜120μmであることが好ましく、20〜100μmであることがより好ましい。
【0034】
上記のように、この実施形態のステント10は、そのステント本体20が、金属メッシュチューブ30の内周面及び外周面が、ポリウレタン膜40やシリコーン膜50で被覆された構造とされており、いわゆるカバードステントとなっている。ただし、ステント本体の構造としては、これに限定されず、金属メッシュチューブの内周面や外周面の一方のみを、ポリウレタン膜40やシリコーン膜50等のカバー膜で被覆したり、金属メッシュチューブのみとしたりしてもよい(この場合、金属メッシュチューブの内周面に、樹脂層が直接被覆される)。
【0035】
すなわち、この消化器系ステントにおいては、ステント本体は、金属メッシュチューブと、前記金属メッシュチューブの外周面及び/又は内周面を被覆する樹脂製のカバー膜とから構成され、前記金属メッシュチューブの内周面又は前記カバー膜の内周面に、ポリ(3−メトキシプロピルアクリレート)からなる樹脂層が被覆された構造を採用することもできる。この際、金属メッシュチューブの外周面及び/又は内周面を被覆する樹脂製のカバー膜の材質は、ポリウレタンやシリコーンに限定されず、特に材質は問わない。
【0036】
また、ステント本体としては、金属メッシュチューブではなく、樹脂チューブとしてもよい(これについては、他の実施形態で説明する)。
【0037】
なお、金属メッシュチューブ30の内外周面をポリウレタン膜40及びシリコーン膜50で被覆する場合には、ポリウレタン膜40とシリコーン膜50との間に、シリコーン樹脂や、ポリウレタン樹脂、ナイロン樹脂、ナイロンエラストマー、ポリブタジエン等のオレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー等の樹脂や、それらの樹脂で形成された平膜を巻き付けてなる介在層が挿入されていてもよい。
【0038】
ところで、シリコーン膜50を含むステント10の外径は、特に限定されず、用途に応じて適宜設定することができるが、例えば、胆管用ステントに用いる場合、4〜20mmであることが好ましく、6〜12mmであることがより好ましい。
【0039】
次に、ステント10を構成するステント本体20の少なくとも内周面を被覆する樹脂層60について説明する。
【0040】
この樹脂層60は、下記一般式(1)で表される化学構造を有する、ポリ(3−メトキシプロピルアクリレート)からなっている。なお、このポリ(3−メトキシプロピルアクリレート)は、以下の説明において、「PMC3A」ともいう。
【0042】
なお、このPMC3Aは、例えば、次のようにして製造することができる。すなわち、まず、トリエチルアミンと、3−メトキシ−1−プロパノールを反応させて、3−メトキシプロピルアクリレートを合成する。その後、3−メトキシプロピルアクリレートを、AIBN触媒を用いてラジカル重合させることによって、ポリ(3−メトキシプロピルアクリレート)を得ることができる。
【0043】
そして、
図2及び
図3に示すように、この樹脂層60は、ステント本体20を構成するポリウレタン膜40の内周面に被覆されている。この実施形態では、ポリウレタン膜40の内周面全体に亘って、樹脂層60が被覆されている。
【0044】
このPMC3Aからなる樹脂層60によって、ステント内周面に、大腸菌等の菌が付着することを抑制することができる。これは以下に説明する理由によるものと考えられる。すなわち、PMC3Aは、ポリマーとの相互作用が強く0℃以下でも凍結しない水(束縛水)と、ポリマーとの相互作用が低く0℃付近で凍結する水(自由水)との他に、ポリマーとの相互作用が中程度で、0℃以下でも凍結しないが、−100℃程度まで過冷却した後、徐々に温度を上げていく昇温過程において、−40℃付近で凍結する性質を備えた水(以下、「中間水」という)を有している。この中間水の存在によって、菌が基材表面に接着するための接着タンパクを吸着させにくくし、仮に吸着しても素早くタンパクを脱離させ、それにより菌が接着しないように抑制することができる。また、それにより、菌の上に吸着する体液中の成分や消化物が変性して、バイオフィルムとなり不溶化することを抑制することができる。その結果、ステント内周面への菌の付着及び不溶化物の発生を抑制させることが可能となる。
【0045】
上記PMC3Aの数平均分子量は、10000〜100000であることが好ましく、15000〜50000であることがより好ましい。10000未満であると、菌の付着を十分に抑制できないことがある。また、100000を超えると、PMC3Aが凝集し易くなり、成膜した際に表面に微小の凹凸が生じ易くなり、表面平滑性に優れた皮膜を成膜することが困難になる傾向にある。
【0046】
また、PMC3Aの含水率は、4〜15質量%であることが好ましく、5〜10質量%であることがより好ましい。含水率が上記範囲であれば、菌の付着抑制効果をより良好にできる。なお、上記含水率は、以下の式から求めることができる。
【0047】
含水率=((PMC3A中の水の質量)/(含水したPMC3Aの質量))×100
ここで「含水したPMC3Aの質量」は、乾燥したPMC3Aの質量と水の質量の合計値である。
【0048】
また、
図3に示すように、上記樹脂層60の厚さTは、0.05〜10μmであることが好ましく、0.1〜5μmであることがより好ましい。
【0049】
樹脂層60の厚さTが0.05μm未満だと、消化器系の器官にステントを留置した際に、胆汁や体液、消化物等の流動によってステント本体内周面から樹脂層60が剥がれて、菌の付着抑制効果が低下する恐れがあり、また、コーティングムラが生じやすくなり、菌の付着抑制効果にバラ付きがでる可能性がある。
【0050】
一方、樹脂層60の厚さTが10μmを超えると、樹脂層60の粘着性が高くなり、シースやカテーテル等からなる医療用チューブなどを用いてステントを移送すべく、ステントを縮径させた際に、樹脂層60同士が粘着しやすくなり、その結果、ステントを拡径させにくくなって、所定位置にステントを留置しにくくなる。また、樹脂層60が凝集しやすくなり、表面に凹凸が生じやすく、この凹凸間に菌が滞留しやすくなる。
【0051】
また、樹脂層60の表面粗さRaは、1μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましい。樹脂層60の表面粗さRaが1μmを超えると、樹脂層60の表面の凹凸が大きくなり、この凹凸間に菌が滞留しやすくなる。
【0052】
上記算術平均粗さRaは、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さlだけ抜き取り、この抜き取り部分の平均線の方向にX軸を、縦倍率の方向にY軸を取り、粗さ曲線y=f(x)で表したときに、次式で求められる値をμmで表したものをいう。
【0054】
なお、上記の樹脂層60の厚さT、及び、表面粗さRaの測定については、例えば、3Dレーザー顕微鏡(キーエンス株式会社製:VK−X150)を用いることができる。また、上記表面粗さRaは、JIS規格B0601(1994)、JIS規格B0031(1994)にしたがって算出したものである。
【0055】
上記ステント10は、例えば、公知の方法によって製造することができる。これについては、本出願人によるPCT/JP2014/060703号(国際公開WO2014/171448号公報)の段落0055〜0065に記載されているので、詳しい説明は省略するが、例えば、次のようにして製造できる。
【0056】
すなわち、金属メッシュチューブ30の内周面をポリウレタン膜40で被覆した後、金属メッシュチューブ30及びポリウレタン膜40の外周面をシリコーン膜50で被覆して、ステント本体20を製造する。その後、ステント本体20のポリウレタン膜40の内周面に、PMC3Aと溶媒を含有するコーティング液を塗布して、これを乾燥させることで、ステント本体20のポリウレタン膜40の内周面に、PMC3Aからなる樹脂層60が被覆されて、
図1〜3に示されるステント10を製造することができる。
【0057】
また、ステント本体20の内周面に樹脂層60を被覆する際に用いられる、コーティング液は、PMC3Aを0.1〜5.0質量%含有するものを用いることが好ましく、0.2〜1.0質量%含有するものを用いることがより好ましい。PMC3Aの含有量が0.1質量%未満であると、菌の付着抑制効果が十分得られないことがある。一方、5.0質量%を超えると、コーティングムラが生じやすく、樹脂層60の表面に凹凸ができやすくなり、菌が滞留しやすくなる。
【0058】
なお、コーティング液に含まれる溶媒は、特に限定は無く、従来公知の溶媒を用いることができる。例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール、クロロホルム、アセトン、トルエン、キシレン、ヘキサン等が挙げられる。
【0059】
次に、上記構成からなる本発明のステント10の、使用方法の一例について説明する。なお、この使用方法は一例であり、特に限定はされない。
【0060】
図5に示すように、十二指腸V1の下部には、乳頭Nが設けられており、この乳頭Nから胆管V2や膵管V3が分岐して伸びている。また、図示しない肝臓により生成される胆汁は、胆管V2内を流動し、乳頭Nを通過して十二指腸V1へと供給されるようになっている。ここでは、乳頭Nを通して、胆管V2内にステント10を留置する際の手順について説明する。
【0061】
なお、本発明のステント10は、胆管V2以外にも、十二指腸V1や、膵管V3、更には、図示しない食道や大腸等の消化器系の器官に留置することができ、適用箇所は特に限定されない。
【0062】
まず、ステント10を縮径させて、カテーテルやシース等の図示しない医療用チューブ内に収容する。この状態で周知の方法によって、図示しない内視鏡のルーメンを通じてガイドワイヤを胆管3に挿入して、同ガイドワイヤの先端部を、胆管V2の狭窄した患部をやや通り越えた位置に到達させる。
【0063】
その後、ガイドワイヤを介して、ステント10を収容した医療用チューブを搬送し、その先端部を胆管V2の患部に到達させる。その状態で医療用チューブ内にプッシャ等を挿入し、このプッシャ等を介して医療用チューブの先端からステント10を押し出すことで、
図5に示すようにステント10が拡径し、胆管V2内にステント10が留置される。
【0064】
そして、このステント10においては、ステント本体20の少なくとも内周面(ここではポリウレタン膜40の内周面)が、ポリ(3−メトキシプロピルアクリレート)からなる樹脂層60で被覆されているので、上記のように、胆管V2に留置した場合や、或いは、十二指腸V1や膵管V3、更には図示しない食道や大腸等の消化器系の器官に留置した場合に、ステント内周面に、大腸菌等の菌が付着することを抑制することができる。その結果、ステント内周面において、バイオフィルムが生成されにくく、不溶物の形成を抑制させることができ、ステント内腔が閉塞することや、消化器系の器官に炎症等が生じることを抑制することができる。
【0065】
また、ポリ(3−メトキシプロピルアクリレート)からなる樹脂層60で、ステント本体20の内周面が被覆されているので、上記特許文献1の医療用具のような抗菌性コーティングが施されたもののように、時間経過により抗菌材に対する耐性を獲得した菌が発現して抗菌効果が低下するというおそれがなく、菌を分解することなく菌の吸着を抑制可能となり、長期に亘って菌の付着抑制効果を持続することができる。また、抗菌性コーティングのように、菌を分解せず、菌の付着を抑制する構造であるので、パイロジェン等の内毒素の発生を防止することができる。更に、上記特許文献2の体液ドレナージ器具のように、ベリリウム等による金属アレルギーを生じさせづらく、菌の付着を抑制することができる。また、上記特許文献3の胆管留置用ステントのように、アクリル酸2−メトキシエチルを重合して得られるポリマーを含む耐スラッジ性樹脂層で被覆されている場合と比べて、十分な菌の付着抑制効果を得ることができる。
【0066】
このように、このステント10においては、ポリ(3−メトキシプロピルアクリレート)からなる樹脂層で、ステント本体の内周面が被覆されているので、内毒素を発生させることなく、金属アレルギーを生じさせづらく、比較的長期に亘って菌の付着抑制効果を持続させることができ、かつ、十分な菌の付着抑制効果を得ることができる。
【0067】
また、この実施形態においては、樹脂層60の厚さT(
図3参照)は、0.05〜10μmとされているので、樹脂層60の剥がれや、コーティングムラが生じにくくし、樹脂層60同士の粘着を抑制し、樹脂層60の表面凹凸を少なくすることができる。その結果、菌の付着抑制効果を高めることができる。
【0068】
更にこの実施形態においては、樹脂層60の表面粗さRaが1μm以下であるので、菌の付着をより効果的に抑制することができる。
【0069】
ところで、ステント本体が、金属メッシュチューブと、前記金属メッシュチューブの外周面及び/又は内周面を被覆する樹脂製のカバー膜とから構成され、前記金属メッシュチューブの内周面又は前記カバー膜の内周面に、ポリ(3−メトキシプロピルアクリレート)からなる樹脂層が被覆された構造である場合には、次のような作用効果を奏する。
【0070】
すなわち、ステント本体の外周面がカバー膜で被覆されている場合には、ステント外周面から腫瘍等が入り込むことを抑制することができる。また、ステント本体の内周面がカバー膜で被覆されている場合には、ステント内周面を滑らかにすることができ、それによってステント内を、体液や消化物等が通過しやすくなり、更に、カバー膜の内周面に前記樹脂層がコーティングされることで、菌や体液、消化物等の流動性を向上させて、菌の付着をより一層抑制することができる。
【0071】
また、この実施形態においては、
図2及び
図3に示すように、ステント本体20は、金属メッシュチューブ30と、金属メッシュチューブ30の内周面に被覆されたポリウレタン膜40と、金属メッシュチューブ30及びポリウレタン膜40の外周面に被覆されたシリコーン膜50とで構成されており、ポリウレタン膜40の内周面に樹脂層60が被覆されている。
【0072】
これによれば、PMC3Aからなる樹脂層60を、ポリウレタン膜40の内周面に被覆することにより、密着性が良好となり、樹脂層60を被覆しやすくすることができると共に、樹脂層60がポリウレタン膜40から剥離しにくくさせて耐久性を向上させることができる。また、金属メッシュチューブ30及びポリウレタン膜40の外周面に加水分解しにくいシリコーン膜50が被覆されているので、加水分解しやすいポリウレタン膜40を、加水分解しにくくすることができる。更に、シリコーン膜50単層では、ピンホールが生じやすく薄肉化しにくいが、シリコーン樹脂との親和性の高いポリウレタン膜40の外周面にシリコーン膜50が被覆されているので、シリコーン膜50を薄肉化して均一に形成することができ、ステント10全体の小径化を図ることができる。
【0073】
図6〜8は、本発明に係る消化器系ステントの他の実施形態が示されている。なお、前記実施形態と実質的に同一部分には同符号を付してその説明を省略する。
【0074】
図6〜8に示すように、この実施形態の消化器系ステント10A(以下、「ステント10A」という)は、ステント本体20Aが円筒状の樹脂チューブからなり、この樹脂チューブであるステント本体20Aの内周面に、PMC3Aからなる樹脂層60が被覆されている。また、ステント本体20Aの両端部には、消化器系の器官の内壁に係止するための、帯状のフラップ22が斜めに立ち上がるように形成されている。
【0075】
そして、このステント10Aにおいては、次のような作用効果を奏する。
【0076】
すなわち、樹脂チューブからなるステント10Aは、金属メッシュチューブ30からなる前記ステント10と比べて、体内から回収しやすいという利点がある一方、縮径させにくいためにステント内径を大きく確保できず、閉塞されやすいため、長期に亘る留置には不向きである。しかし、この実施形態のステント10Aによれば、ステント本体20Aが樹脂チューブであり、該樹脂チューブの内周面に樹脂層60が被覆されているため、ステント内周面に菌が付着することを抑制することができ、その後のバイオフィルムの形成によるステント内腔の閉塞も抑制されるので、樹脂チューブからなるステント10Aであっても、消化器系の器官に長期に亘って留置することができる。
【0077】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で、各種の変形実施形態が可能であり、そのような実施形態も本発明の範囲に含まれる。
【実施例】
【0078】
本発明のステントに用いたPMC3A、及び、他の各種樹脂材料について、菌の付着個数を測定した。
【0079】
(各種試験片の作成)
(実施例)
(1)3−メトキシプロピルアクリレート(MC3A)の合成
窒素気流下において、3口ナスフラスコにトリエチルアミン15.5g(153mmol)、3−メトキシ−1−プロパノール13.5g(150mmol)、ジエチルエーテル200mLを加え、系を氷水浴にて0℃に冷却した。系内を攪拌しつつアクリル酸クロリド14.0g(155mmol)を30分かけて滴下した後、室温で12時間の攪拌を行った。反応の終了を1H−NMRによって確認した後、反応を停止した。反応の進行に伴って生成した白色の沈殿を吸引ろ過によって取り除き、得られたろ液からロータリーエバポレーターによって反応溶媒を留去し、反応生成物を液体として得た。得られた反応生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって分離精製した後、更に水素化カルシウムの存在下に減圧蒸留を行うことで精製し、3−メトキシプロピルアクリレートを9.95g(69.1mmol、収率46%)得た。
【0080】
(2)ポリ(3−メトキシプロピルアクリレート)「PMC3A」の重合
3口ナスフラスコに、3−メトキシプロピルアクリレートを7.50g(52.0mmol)、1,4−ジオキサンを30.2g、アゾビスイソブチロニトリルを7.5mg(0.047mmol)加えた。乾燥窒素ガスを反応溶液中に通じながら30分間攪拌し、反応系の窒素置換を行った。オイルバスの温度を75℃に設定し、窒素気流下、6時間攪拌することで重合を行った。重合反応の進行を1HNMRによって確認し、十分に高い反応転化率(90%前後)であることを確認したのち、重合系を室温まで放冷することで反応を停止した。重合溶液をヘキサンに滴下することでポリマーを沈殿させ、デカントによって上澄みを除き、沈殿物をテトラヒドロフランに溶解させて回収した。これにより得られたポリ(3−メトキシプロピルアクリレート)「PMC3A」をテトラヒドロフランに溶解させた後、ヘキサンで再沈殿させる作業を2回繰り返して精製を行い、得られた沈殿物を更に水中で24時間攪拌した。デカントにより水を取り除き、沈殿物をテトラヒドロフランに溶解させて回収した。溶媒を減圧留去した後、真空乾燥機で乾燥を行い、ポリ(3−メトキシプロピルアクリレート)を6.47g(収率86%)得た。得られたPMC3Aの分子量を測定したところ、数平均分子量(Mn)が31000g/molおよび、分子量分布(Mw/Mn)が2.5であった。
【0081】
こうして得られたPMC3Aによって、厚さ0.5μmの平膜を形成して、実施例の試験片を作成した。
【0082】
なお、上記(1)、(2)の工程で製造したモノマー(MC3A)及びポリマー(PMC3A)の構造解析については、NMR測定装置(日本電子株式会社製、JEOL 500MHz JNM−ECX)を用いて、1H−NMR測定及び13C−NMR測定を行うことによって確認した。なお、ケミカルシフトは、CDCl3(1H:7.26ppm、13C:77.1ppm)を基準とした。
【0083】
(比較例1)
疎水性のPS表面にプラズマを照射して細胞培養性を向上させた膜である、TCPS(Tissue culture polystyrene)で、厚さ1μmの平膜を形成して、比較例1の試験片を作成した。
【0084】
(比較例2)
シリコーンからなる厚さ10μmの平膜を形成して、比較例2の試験片を作成した。
【0085】
(比較例3)
ポリウレタン(Polyurethane)からなる厚さ20μmの平膜を形成して、比較例3の試験片を作成した。
【0086】
(比較例4)
下記一般式(2)で表される化学構造を有する、ポリ(2−メトキシエチルアクリレート)「PMEA」からなる厚さ0.5μmの平膜を形成して、比較例4の試験片を作成した。
【0087】
【化2】
【0088】
PMPCからなる厚さ0.5μmの平膜を形成して、比較例5の試験片を作成した。
【0089】
(比較例6)
下記一般式(3)で表される化学構造を有する、ポリ(4−メトキシブチルアクリレート)「PMC4A」からなる厚さ0.5μmの平膜を形成して、比較例6の試験片を作成した。
【0090】
【化3】
【0091】
(比較例7)
下記一般式(4)で表される化学構造を有する、ポリ(2−[2−エトキシエトキシ]エチルメタクリレート)「Fpolymer」からなる厚さ0.5μmの平膜を形成して、比較例6の試験片を作成した。
【0092】
【化4】
【0093】
(試験方法)
菌株としては、Escherichia coliDH5α Compitent Cells(タカラバイオ株式会社製、製造コードTKR9057)を用いた。
【0094】
上記菌株を、実施例及び比較例1〜7の各試験片に、次のようにして付着させた。
【0095】
すなわち、(1)二次培養液(コロニーを液体培地に起こしたものを植え継ぎ、対数増殖期まで培養したもの)を1/50に希釈し、血球計算盤で菌数をカウントし、培養液中の菌体濃度を産出し、(2)7.5×10
7Cells/cm
2の細菌密度となるように希釈し、1mlずつ各試験片に播種し、(3)20分間の培養終了後、溶液全量を除き、37℃に温めたPBS(−)にて2回洗浄し、(4)その後、グルタールアルデヒドにて、各試験片に残った菌株を固定した。
【0096】
上記のようにして、菌株を付着した各試験片について、リアルサーフェスビュー顕微鏡(簡易的な走査型顕微鏡)を使用して、菌の個数を測定した。そして、試験片の中心を原点とした際に、観察位置のX、Y座標が表示されるため、各試験片の端部のX,Y座標を確認して、X軸、Y軸上における原点(1ヶ所)と、原点と各試験片の端部との中点(4ヶ所)を観察して、その平均値及び標準偏差を求めた。その結果を下記表1に示す。
【0097】
【表1】
【0098】
その結果、本発明に係る実施例(PMC3A)の場合、他の比較例と比べて、菌の付着個数が大幅に少なく、菌の付着抑制効果が高いことが分かった。