特開2017-80992(P2017-80992A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2017-80992防曇防汚積層体、物品、及びその製造方法、並びに防汚方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-80992(P2017-80992A)
(43)【公開日】2017年5月18日
(54)【発明の名称】防曇防汚積層体、物品、及びその製造方法、並びに防汚方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 3/30 20060101AFI20170414BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20170414BHJP
【FI】
   B32B3/30
   B32B27/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【全頁数】43
(21)【出願番号】特願2015-211301(P2015-211301)
(22)【出願日】2015年10月27日
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(74)【代理人】
【識別番号】100163038
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 武志
(72)【発明者】
【氏名】水野 幹久
(72)【発明者】
【氏名】原 忍
(72)【発明者】
【氏名】坂本 祥吾
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AK01A
4F100AK01B
4F100AK25
4F100AK45
4F100AL05
4F100AR00B
4F100BA02
4F100BA41B
4F100CA30
4F100DD07B
4F100EC04
4F100EH36
4F100EH46
4F100EJ08B
4F100EJ17
4F100EJ40
4F100EJ42B
4F100EJ52B
4F100EJ54
4F100EJ55
4F100GB07
4F100GB32
4F100GB41
4F100GB90
4F100HB21
4F100JB14B
4F100JK15B
4F100JL00
4F100JL01
4F100JL06B
4F100JL07B
(57)【要約】      (修正有)
【課題】優れた防曇性及び防汚性を有し、かつ加工性にも優れる防曇防汚積層体などの提供。
【解決手段】樹脂製基材と、前記樹脂製基材上に、防曇性及び防汚性を有する防曇防汚層12とを有し、防曇防汚層12が、表面に、平滑な面を有する平滑領域12Aと、微細な凸部及び凹部のいずれかを有する非平滑領域12Bとを有し、好ましくは、防曇防汚層12の表面において、非平滑領域12Bの総面積が、平滑領域12Aの総面積よりも大きい防曇防汚積層体。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製基材と、前記樹脂製基材上に、防曇性及び防汚性を有する防曇防汚層とを有し、
前記防曇防汚層が、表面に、平滑な面を有する平滑領域と、微細な凸部及び凹部のいずれかを有する非平滑領域とを有することを特徴とする防曇防汚積層体。
【請求項2】
前記防曇防汚層の表面において、前記非平滑領域の総面積が、前記平滑領域の総面積よりも大きい請求項1に記載の防曇防汚積層体。
【請求項3】
前記防曇防汚層の表面において、前記非平滑領域が、一つの領域であり、前記平滑領域が、前記非平滑領域に囲まれて島状に存在している請求項2に記載の防曇防汚積層体。
【請求項4】
前記防曇防汚層の表面において、前記平滑領域の総面積が、前記非平滑領域の総面積よりも大きい請求項1に記載の防曇防汚積層体。
【請求項5】
前記防曇防汚層の表面において、前記平滑領域が、一つの領域であり、前記非平滑領域が、前記非平滑領域に囲まれて島状に存在している請求項4に記載の防曇防汚積層体。
【請求項6】
前記防曇防汚層の表面において、前記平滑領域及び前記非平滑領域の少なくともいずれかが、矩形の領域である請求項1から5のいずれかに記載の防曇防汚積層体。
【請求項7】
前記防曇防汚層が、表面において、前記平滑領域と、前記非平滑領域とを交互に有する請求項1、2、4、及び6のいずれかに記載の防曇防汚積層体。
【請求項8】
前記防曇防汚層が、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物である請求項1から7のいずれかに記載の防曇防汚積層体。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の防曇防汚積層体を表面に有し、
前記防曇防汚層が、表面に、前記平滑領域と、前記非平滑領域とを有することを特徴とする物品。
【請求項10】
請求項9に記載の物品の製造方法であって、
前記防曇防汚積層体を加熱する加熱工程と、
加熱された前記防曇防汚積層体を所望の形状に成形する防曇防汚積層体成形工程と、を含み、
前記防曇防汚積層体成形工程後の前記防曇防汚層が、表面に、前記平滑領域と、前記非平滑領域とを有することを特徴とする物品の製造方法。
【請求項11】
請求項1から8のいずれかに記載の防曇防汚積層体を、前記防曇防汚層が表面に前記平滑領域と前記非平滑領域とを有するように、物品の表面に積層することにより、前記物品の汚れを防ぐことを特徴とする防汚方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防曇性及び防汚性を有し、建築用途、産業用途、自動車用途、光学用途、太陽電池パネルなどの広範囲に使用でき、加工性に優れる防曇防汚積層体、前記防曇防汚積層体を用いた物品、及びその製造方法、並びに前記防曇防汚積層体を用いた防汚方法に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の物品には、その表面を装飾及び保護するために、その表面に樹脂フィルム、ガラスなどが貼り付けられている。
しかし、物品の表面を装飾及び保護する樹脂フィルム、ガラスなどが曇ること及び汚れることにより物品の視認性及び美観が低下することがある。
そのため、そのような物品の視認性及び美観の低下を防ぐために、前記樹脂フィルム及びガラスには、防曇処理が施されている。
【0003】
例えば、基材表面に、下地層としてのシラン系カップリング層、吸水層としての有機無機複合被膜、保護層としての撥水加工層を順次積層してなる防曇性被膜形成基材が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、撥水化処理の技術として、例えば、微小突起群を備えた微小突起構造体を有し、前記微小突起構造体の表面に、化学気相処理により、フッ素原子及びケイ素原子より選択される1種以上の原子を含む化合物が堆積されてなり、前記微小突起構造体側の表面における純水の静的接触角が、θ/2法で90°〜160°である水保持シートが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
しかし、これらの提案の技術では、防曇防汚処理が施されたシートである防曇防汚積層体を用いて物品を製造する際に、シートのブロッキングの発生、シートの外観低下などが生じ、加工性が十分ではないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−233638号公報
【特許文献2】特許第5626395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、優れた防曇性及び防汚性を有し、かつ加工性にも優れる防曇防汚積層体、前記防曇防汚積層体を用いた物品、及びその製造方法、並びに前記防曇防汚積層体を用いた防汚方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 樹脂製基材と、前記樹脂製基材上に、防曇性及び防汚性を有する防曇防汚層とを有し、
前記防曇防汚層が、表面に、平滑な面を有する平滑領域と、微細な凸部及び凹部のいずれかを有する非平滑領域とを有することを特徴とする防曇防汚積層体である。
<2> 前記防曇防汚層の表面において、前記非平滑領域の総面積が、前記平滑領域の総面積よりも大きい前記<1>に記載の防曇防汚積層体である。
<3> 前記防曇防汚層の表面において、前記非平滑領域が、一つの領域であり、前記平滑領域が、前記非平滑領域に囲まれて島状に存在している前記<2>に記載の防曇防汚積層体である。
<4> 前記防曇防汚層の表面において、前記平滑領域の総面積が、前記非平滑領域の総面積よりも大きい前記<1>に記載の防曇防汚積層体である。
<5> 前記防曇防汚層の表面において、前記平滑領域が、一つの領域であり、前記非平滑領域が、前記非平滑領域に囲まれて島状に存在している前記<4>に記載の防曇防汚積層体。
<6> 前記防曇防汚層の表面において、前記平滑領域及び前記非平滑領域の少なくともいずれかが、矩形の領域である前記<1>から<5>のいずれかに記載の防曇防汚積層体である。
<7> 前記防曇防汚層が、表面において、前記平滑領域と、前記非平滑領域とを交互に有する前記<1>、<2>、<4>、及び<6>のいずれかに記載の防曇防汚積層体である。
<8> 前記防曇防汚層が、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物である前記<1>から<7>のいずれかに記載の防曇防汚積層体である。
<9> 前記<1>から<8>のいずれかに記載の防曇防汚積層体を表面に有し、
前記防曇防汚層が、表面に、前記平滑領域と、前記非平滑領域とを有することを特徴とする物品である。
<10> 前記<9>に記載の物品の製造方法であって、
前記防曇防汚積層体を加熱する加熱工程と、
加熱された前記防曇防汚積層体を所望の形状に成形する防曇防汚積層体成形工程と、を含み、
前記防曇防汚積層体成形工程後の前記防曇防汚層が、表面に、前記平滑領域と、前記非平滑領域とを有することを特徴とする物品の製造方法である。
<11> 前記<1>から<8>のいずれかに記載の防曇防汚積層体を、前記防曇防汚層が表面に前記平滑領域と前記非平滑領域とを有するように、物品の表面に積層することにより、前記物品の汚れを防ぐことを特徴とする防汚方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、優れた防曇性及び防汚性を有し、かつ加工性にも優れる防曇防汚積層体、前記防曇防汚積層体を用いた物品、及びその製造方法、並びに前記防曇防汚積層体を用いた防汚方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1A図1Aは、防曇防汚層の一例を上面から見た概略図である。
図1B図1Bは、防曇防汚層の他の一例を上面から見た概略図である。
図1C図1Cは、防曇防汚層の他の一例を上面から見た概略図である。
図1D図1Dは、防曇防汚層の他の一例を上面から見た概略図である。
図1E図1Eは、防曇防汚層の他の一例を上面から見た概略図である。
図1F図1Fは、防曇防汚層の他の一例を上面から見た概略図である。
図2A図2Aは、防曇防汚層の一例を上面から見た概略図である。
図2B図2Bは、防曇防汚層の他の一例を上面から見た概略図である。
図2C図2Cは、防曇防汚層の他の一例を上面から見た概略図である。
図2D図2Dは、防曇防汚層の他の一例を上面から見た概略図である。
図2E図2Eは、防曇防汚層の他の一例を上面から見た概略図である。
図2F図2Fは、防曇防汚層の他の一例を上面から見た概略図である。
図3A図3Aは、凸部を有する非平滑領域の表面の一例を示す原子間力顕微鏡(AFM)像である。
図3B図3Bは、図3Aのa−a線に沿った断面図である。
図4A図4Aは、凹部を有する非平滑領域の表面の一例を示すAFM像である。
図4B図4Bは、図4Aのa−a線に沿った断面図である。
図5A図5Aは、転写原盤であるロール原盤の構成の一例を示す斜視図である。
図5B図5Bは、図5Aに示したロール原盤の一部を拡大して表す平面図である。
図5C図5Cは、図5BのトラックTにおける断面図である。
図5D図5Dは、転写原盤であるロール原盤の構成の他の一例を示す斜視図である。
図6図6は、ロール原盤を作製するためのロール原盤露光装置の構成の一例を示す概略図である。
図7A図7Aは、ロール原盤を作製する工程の一例を説明するための工程図である。
図7B図7Bは、ロール原盤を作製する工程の一例を説明するための工程図である。
図7C図7Cは、ロール原盤を作製する工程の一例を説明するための工程図である。
図7D図7Dは、ロール原盤を作製する工程の一例を説明するための工程図である。
図7E図7Eは、ロール原盤を作製する工程の一例を説明するための工程図である。
図8A図8Aは、ロール原盤により平滑領域及び非平滑領域を転写する工程の一例を説明するための工程図である。
図8B図8Bは、ロール原盤により平滑領域及び非平滑領域を転写する工程の一例を説明するための工程図である。
図8C図8Cは、ロール原盤により平滑領域及び非平滑領域を転写する工程の一例を説明するための工程図である。
図9A図9Aは、転写原盤である板状の原盤の構成の一例を示す平面図である。
図9B図9Bは、図9Aに示したa−a線に沿った断面図である。
図9C図9Cは、図9Bの一部を拡大して表す断面図である。
図10図10は、板状の原盤を作製するためのレーザー加工装置の構成の一例を示す概略図である。
図11A図11Aは、板状の原盤を作製する工程の一例を説明するための工程図である。
図11B図11Bは、板状の原盤を作製する工程の一例を説明するための工程図である。
図11C図11Cは、板状の原盤を作製する工程の一例を説明するための工程図である。
図12A図12Aは、板状の原盤により平滑領域及び非平滑領域を転写する工程の一例を説明するための工程図である。
図12B図12Bは、板状の原盤により平滑領域及び非平滑領域を転写する工程の一例を説明するための工程図である。
図12C図12Cは、板状の原盤により平滑領域及び非平滑領域を転写する工程の一例を説明するための工程図である。
図13A図13Aは、防曇防汚シートの一例の概略断面図である。
図13B図13Bは、防曇防汚シートにおいて、凹面に直交する方向から見た一例の概略図である。
図13C図13Cは、防曇防汚シートにおいて、凹面に直交する方向から見た他の一例の概略図である。
図14A図14Aは、真空成形により本発明の物品を製造する一例を説明するための工程図である。
図14B図14Bは、真空成形により本発明の物品を製造する一例を説明するための工程図である。
図14C図14Cは、真空成形により本発明の物品を製造する一例を説明するための工程図である。
図14D図14Dは、真空成形により本発明の物品を製造する一例を説明するための工程図である。
図15A図15Aは、インモールド成形により本発明の物品を製造する一例を説明するための工程図である。
図15B図15Bは、インモールド成形により本発明の物品を製造する一例を説明するための工程図である。
図15C図15Cは、インモールド成形により本発明の物品を製造する一例を説明するための工程図である。
図15D図15Dは、インモールド成形により本発明の物品を製造する一例を説明するための工程図である。
図15E図15Eは、インモールド成形により本発明の物品を製造する一例を説明するための工程図である。
図15F図15Fは、インモールド成形により本発明の物品を製造する一例を説明するための工程図である。
図16図16は、本発明の物品の一例の概略断面図である(その1)。
図17図17は、本発明の物品の一例の概略断面図である(その2)。
図18図18は、本発明の物品の一例の概略断面図である(その3)。
図19図19は、本発明の物品の一例の概略断面図である(その4)。
図20図20は、製造例1で作製したガラスロール原盤の斜視図である。
図21図21は、実施例1−1で作製した円形シートである。
図22図22は、実施例1−2で作製した円形シートである。
図23図23は、比較例1−1で作製した円形シートである。
図24図24は、製造例2で作製したガラスロール原盤の斜視図である。
図25図25は、実施例2−1で作製した円形シートである。
図26図26は、比較例2−1で作製した円形シートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(防曇防汚積層体)
本発明の防曇防汚積層体は、樹脂製基材と、防曇防汚層とを少なくとも有し、更に必要に応じて、その他の部材を有する。
【0010】
<樹脂製基材>
前記樹脂製基材の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエステル(TPEE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、アラミド、ポリエチレン(PE)、ポリアクリレート、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン、ジアセチルセルロース、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、エポキシ樹脂、尿素樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、PC/PMMA積層体、ゴム添加PMMAなどが挙げられる。
【0011】
前記樹脂製基材は、透明性を有することが好ましい。
【0012】
前記樹脂製基材の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、フィルム状であることが好ましい。
前記樹脂製基材がフィルム状の場合、前記樹脂製基材の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5μm〜1,000μmが好ましく、50μm〜500μmがより好ましい。
【0013】
前記樹脂製基材の表面には、文字、模様、画像などが印刷されていてもよい。
【0014】
前記樹脂製基材の表面には、前記防曇防汚積層体を成形加工時、前記樹脂製基材と成形材料との密着性を高めるため、又は成形加工時の成形材料の流動圧から前記文字、前記模様、及び前記画像を保護するために、バインダー層を設けてもよい。前記バインダー層の材質としては、アクリル系、ウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、エチレンブチルアルコール系、エチレン酢酸ビニル共重合体系等の各種バインダーの他、各種接着剤を用いることができる。なお、前記バインダー層は2層以上設けてもよい。使用するバインダーは、成形材料に適した感熱性、感圧性を有するものを選択できる。
【0015】
<防曇防汚層>
前記防曇防汚層は、防曇性及び防汚性を有する。
前記防曇防汚層は、表面に、平滑領域と、非平滑領域とを有する。
前記平滑領域は、平滑な面を有する領域である。
前記非平滑領域は、微細な凸部及び凹部のいずれかを有する領域である。
【0016】
ここで、平滑な面とは、意図的に形成された凸部又は凹部を有さない面を意味する。例えば、前記防曇防汚層を形成する際に、物理的な加工による微細な凸部又は凹部が表面に形成されていない面を指す。
【0017】
前記防曇防汚層としては、製造が容易な点で、樹脂製の防曇防汚層が好ましい。
前記防曇防汚層としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物を含有することが好ましい。
【0018】
−平滑領域、及び非平滑領域−
前記防曇防汚層の表面において、前記非平滑領域の総面積は、前記平滑領域の総面積よりも大きいことが好ましい。そうすることにより、加工性に優れる。具体的には、加工時の位置ずれを防止することができ、その結果、加工後の外観に優れる。
一方、前記防曇防汚層の表面において、前記平滑領域の総面積は、前記非平滑領域の総面積よりも大きいことが好ましい。そうすることにより、加工性に優れる。具体的には、耐ブロッキング性に優れる。ここで、「耐ブロッキング性が優れる」とは、複数のシートを重ねて放置した際に、シートの引き離しが容易に行えることを意味する。
【0019】
ここで、非平滑領域の面積、及び平滑領域の面積は、前記防曇防汚層をその表面に直交する方向から見た時に、その領域が占める面積である。そのため、後述する、表面形状によって生じている表面積とは、異なる。そして、総面積とは、複数の前記非平滑領域、又は複数の前記平滑領域がある場合、それら全ての面積を合計した面積である。
【0020】
前記平滑領域と、前記非平滑領域との配置については、特に制限はなく、前記防曇防汚積層体を用いて製造される物品の形状、大きさ等に応じて、適宜選択することができる。
【0021】
ここで、平滑領域と、非平滑領域との配置について、具体例を挙げて説明する。
図1A図1Fは、防曇防汚層12を上面から見た概略図である。
図1A図1Fは、防曇防汚層12の表面において、非平滑領域の総面積が、平滑領域の総面積よりも大きい場合の配置例である。
図1Aでは、平滑領域12Aと、非平滑領域12Bとが並列し、交互に並んでいる。平滑領域12A及び非平滑領域12Bは共に、帯状である。帯状の非平滑領域12Bの幅は、帯状の平滑領域12Aの幅よりも大きい。平滑領域12Aの幅及び非平滑領域12Bの幅としては、例えば、0.1mm〜500mmなどが挙げられる。
図1Bでは、非平滑領域12Bが、1つの領域を形成し、その領域に囲まれるように、複数の平滑領域12Aが島状に存在している。平滑領域12Aの一つ一つは、矩形であり、複数の平滑領域12Aは、長辺方向、及び短辺方向にそれぞれ並列し、規則的に配置されている。
図1Cの配置の形態は図1Bと同じであるが、平滑領域12Aの一つ一つは、角が丸くなっている。
図1Dでは、非平滑領域12Bが、1つの領域を形成し、その領域に囲まれるように、複数の平滑領域12Aが島状に存在している。平滑領域12Aの一つ一つは、円形であり、複数の平滑領域12Aは、規則的に配置されている。
図1Eでは、平滑領域12Aと非平滑領域12Bとが、格子状に配置されている。
図1Fでは、非平滑領域12Bが、1つの領域を形成し、その領域に囲まれるように、複数の平滑領域12Aが島状に存在している。平滑領域12Aの一つ一つは、円形であり、複数の平滑領域12Aは、規則的に配置されているが、配置は図1Dとは異なっている。
ここで、図1A図1Eの態様は、防曇防汚層12が、平滑領域12Aと、非平滑領域12Bとを交互に有する態様である。
【0022】
図2A図2Fは、防曇防汚層12を上面から見た概略図である。
図2A図2Fは、防曇防汚層12の表面において、平滑領域の総面積が、非平滑領域の総面積よりも大きい場合の配置例である。
図2Aでは、平滑領域12Aと、非平滑領域12Bとが並列し、交互に並んでいる。平滑領域12A及び非平滑領域12Bは共に、帯状である。帯状の平滑領域12Aの幅は、帯状の非平滑領域12Bの幅よりも大きい。平滑領域12Aの幅及び非平滑領域12Bの幅としては、例えば、0.1mm〜500mmなどが挙げられる。
図2Bでは、平滑領域12Aが、1つの領域を形成し、その領域に囲まれるように、複数の非平滑領域12Bが島状に存在している。非平滑領域12Bの一つ一つは、矩形であり、複数の非平滑領域12Bは、長辺方向、及び短辺方向にそれぞれ並列し、規則的に配置されている。
図2Cの配置の形態は図2Bと同じであるが、非平滑領域12Bの一つ一つは、角が丸くなっている。
図2Dでは、平滑領域12Aが、1つの領域を形成し、その領域に囲まれるように、複数の非平滑領域12Bが島状に存在している。非平滑領域12Bの一つ一つは、円形であり、複数の非平滑領域12Bは、規則的に配置されている。
図2Eでは、平滑領域12Aと非平滑領域12Bとが、格子状に配置されている。
図2Fでは、平滑領域12Aが、1つの領域を形成し、その領域に囲まれるように、複数の非平滑領域12Bが島状に存在している。非平滑領域12Bの一つ一つは、円形であり、複数の非平滑領域12Bは、規則的に配置されているが、配置は図2Dとは異なっている。
ここで、図2A図2Eの態様は、防曇防汚層12が、平滑領域12Aと、非平滑領域12Bとを交互に有する態様である。
【0023】
−微細な凸部、及び微細な凹部−
前記非平滑領域は、微細な凸部及び凹部のいずれかを有する領域である。
前記非平滑領域は、前記防曇防汚層において、前記樹脂製基材側と反対側の面に形成されている。
【0024】
ここで、微細な凸部とは、前記防曇防汚層の表面において、隣接する凸部の平均距離が、1,000nm以下であることをいう。
ここで、微細な凹部とは、前記防曇防汚層の表面において、隣接する凹部の平均距離が、1,000nm以下であることをいう。
【0025】
前記凸部、及び前記凹部の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、錐体状、柱状、針状、球体の一部の形状(例えば、半球体状)、楕円体の一部の形状(例えば、半楕円体状)、多角形状などが挙げられる。これらの形状は数学的に定義される完全な形状である必要はなく、多少の歪みがあってもよい。
【0026】
前記凸部又は前記凹部は、前記非平滑領域の表面に2次元配列されている。その配列は、規則的な配列であってもよいし、ランダムな配列であってもよい。前記規則的な配列としては、充填率の点から、最密充填構造が好ましい。
【0027】
隣接する前記凸部の平均距離としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5nm〜1,000nmが好ましく、10nm〜500nmがより好ましく、50nm〜300nmが特に好ましい。
隣接する前記凹部の平均距離としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5nm〜1,000nmが好ましく、10nm〜500nmがより好ましく、50nm〜300nmが特に好ましい。
隣接する前記凸部の平均距離及び隣接する前記凹部の平均距離が、前記好ましい範囲内であると、本発明の防曇防汚積層体、及び物品において、防曇特性、耐磨耗性、及び汚れ払拭性が優れる点で有利である。
【0028】
前記凸部の平均高さとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1nm〜1,000nmが好ましく、5nm〜500nmがより好ましく、10nm〜300nmが更に好ましく、50nm〜300nmが特に好ましい。
前記凹部の平均深さとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1nm〜1,000nmが好ましく、5nm〜500nmがより好ましく、10nm〜300nmが更に好ましく、50nm〜300nmが特に好ましい。
前記凸部の平均高さ及び前記凹部の平均深さが、前記好ましい範囲内であると、ナノサイズの凹凸構造の転写性や転写原盤の剥離性に優れ、生産効率が良い。また、本発明の防曇防汚積層体、及び物品において、防曇特性、耐磨耗性、及び汚れ払拭性が優れる点で有利である。なお、高さ或いは深さが大きすぎると、耐磨耗性及び汚れ払拭性が劣化する傾向にある。一方、高さ或いは深さが小さすぎると、防曇特性が劣化する傾向にある。
【0029】
前記凸部の平均アスペクト比(前記凸部の平均高さ/隣接する前記凸部の平均距離)及び前記凹部の平均アスペクト比(前記凹部の平均深さ/隣接する前記凹部の平均距離)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.001〜1,000が好ましく、0.1〜10がより好ましく、0.2〜1.0が特に好ましい。
前記凸部の平均アスペクト比及び前記凹部の平均アスペクト比が、前記好ましい範囲内であると、ナノサイズの凹凸構造の転写性や転写原盤の剥離性に優れ、生産効率が良い。また、本発明の防曇防汚積層体、及び物品において、防曇特性、耐磨耗性、及び汚れ払拭性が優れる点で有利である。なお、アスペクト比が大きすぎると、耐磨耗性及び汚れ払拭性が劣化する傾向にある。一方、アスペクト比が小さすぎると、防曇特性が劣化する傾向にある。
【0030】
ここで、凸部又は凹部の平均距離(Pm)、及び凸部の平均高さ又は凹部の平均深さ(Hm)は、以下のようにして測定できる。
まず、凸部又は凹部を有する前記非平滑領域の表面Sを原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)により観察し、AFMの断面プロファイルから凸部又は凹部のピッチ、及び凸部の高さ又は凹部の深さを求める。これを前記非平滑領域の表面から無作為に選び出された10箇所において繰り返し行い、ピッチP1、P2、・・・、P10と、高さ又は深さH1、H2、・・・、H10とを求める。
ここで、前記凸部のピッチは、前記凸部の頂点間の距離である。前記凹部のピッチは、前記凹部の最深部間の距離である。前記凸部の高さは、前記凸部間の谷部の最低点を基準とした前記凸部の高さである。前記凹部の深さは、前記凹部間の山部の最高点を基準とした前記凹部の深さである。
次に、これらのピッチP1、P2、・・・、P10、及び高さ又は深さH1、H2、・・・、H10をそれぞれ単純に平均(算術平均)して、凸部又は凹部の平均距離(Pm)、及び凸部の平均高さ又は凹部の平均深さ(Hm)を求める。
なお、前記凸部又は凹部のピッチが面内異方性を有している場合には、ピッチが最大となる方向のピッチを用いて前記Pmを求めるものとする。また、前記凸部の高さ又は前記凹部の深さが面内異方性を有している場合には、高さ又は深さが最大となる方向の高さ又は深さを用いて前記Hmを求めるものとする。
また、前記凸部又は凹部が棒状の場合には、短軸方向のピッチを、前記ピッチとして測定する。
なお、前記AFM観察においては、断面プロファイルの凸の頂点、又は凹の底辺が、立体形状の凸部の頂点、又は凹部の最深部と一致するようにするため、断面プロファイルを、測定対象となる立体形状の凸部の頂点、又は立体形状の凹部の最深部を通る断面となるように、切り出している。
【0031】
ここで、前記非平滑領域の表面に形成されている微細な形状が、凸部であるか、凹部であるかは、以下のようにして判断することができる。
凸部又は凹部を有する前記非平滑領域の表面Sを原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)により観察し、断面及び前記表面SのAFM像を得る。
そして、表面のAFM像を、最表面側を明るい像、深部側を暗い像にした場合、暗い像の中に、明るい像が島状に形成されている場合、その表面は、凸部を有するものとする。
一方、明るい像の中に、暗い像が島状に形成されている場合、その表面は、凹部を有するものとする。
例えば、図3A及び図3Bに示す表面及び断面のAFM像を有する非平滑領域の表面は、凸部を有している。図4A及び図4Bに示す表面及び断面のAFM像を有する非平滑領域の表面は、凹部を有している。
【0032】
前記非平滑領域の表面の平均表面積率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1.1以上が好ましく、1.3以上がより好ましく、1.4以上が特に好ましい。前記表面積率とは、ある指定した領域における対象物の表面形状によって生じている表面積と指定領域の面積との比(表面積/面積)である。前記平均表面積率が大きいと、呼気などによる微細な水蒸気が前記非平滑領域に取り込まれやすくなり、防曇特性が向上する。この効果により、前記非平滑領域の材料選択肢が広がり、前記非平滑領域の硬化度を高めつつ、優れた防曇特性が得られ、本発明の防曇防汚積層体、及び物品において、優れた防曇特性、耐湿熱性、耐磨耗性、及び汚れ払拭性が同時に達成される。
【0033】
ここで、非平滑領域の表面の平均表面積率は、以下のようにして測定できる。
凸部又は凹部を有する前記非平滑領域の表面Sを原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)により観察し、前記表面SのAFM像を得る。これを前記非平滑領域の表面から無作為に選び出された10箇所において繰り返し行い、表面積S1、S2、・・・、S10を求める。次に、これらの表面積S1、S2、・・・、S10と、それぞれの観察領域の面積との比(表面積/面積)SR1、SR2、・・・、SR10を単純に平均(算術平均)して、非平滑領域の表面の平均表面積率SRmを求める。
【0034】
−純水接触角−
前記平滑領域、及び前記非平滑領域の純水接触角は、90°以上が好ましく、100°以上がより好ましく、110°以上が更により好ましく、115°以上が特に好ましい。前記純水接触角の上限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、170°などが挙げられる。
前記純水接触角は、例えば、DM−701(協和界面化学株式会社製)を用い、下記条件で楕円フィッティング法によって測定することができる。
・蒸留水をプラスチックシリンジに入れて、その先端にステンレス製の針を取り付けて評価面に滴下する。
・水の滴下量:2μL
・測定温度:25℃
水を滴下して4秒経過後の接触角を、防曇防汚層表面の任意の10か所で測定し、その平均値を純水接触角とする。
【0035】
−ヘキサデカン接触角−
前記平滑領域、及び前記非平滑領域の表面のヘキサデカン接触角は、30°以上が好ましく、60°以上がより好ましく、70°以上が更により好ましく、80°以上が特に好ましい。前記ヘキサデカン接触角の上限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、150°などが挙げられる。
前記ヘキサデカン接触角が、前記好ましい範囲内であると、表面に指紋、皮脂、汗、涙、化粧品などが付着した場合でも、簡単に払拭することができ、優れた防曇性が維持できる点で有利である。
前記ヘキサデカン接触角は、例えば、DM−701(協和界面化学株式会社製)を用い、下記条件で楕円フィッティング法によって測定することができる。
・ヘキサデカンをプラスチックシリンジに入れて、その先端にテフロンコートステンレス製の針を取り付けて評価面に滴下する。
・ヘキサデカンの滴下量:2μL
・測定温度:25℃
ヘキサデカンを滴下して4秒経過後の接触角を、防曇防汚層表面の任意の10か所で測定し、その平均値をヘキサデカン接触角とする。
【0036】
−活性エネルギー線硬化性樹脂組成物−
前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、例えば、ラジカル重合性不飽和基を有する親水性モノマー(以下、「親水性モノマー」と称することがある)と、光重合開始剤とを少なくとも含有し、好ましくはラジカル重合性不飽和基を有する撥水性モノマー(以下、「撥水性モノマー」と称することがある)を含有し、更に必要に応じて、その他の成分を含有する。
【0037】
−−撥水性モノマー−−
前記ラジカル重合性不飽和基を有する撥水性モノマーとしては、例えば、ラジカル重合性不飽和基とフッ素及びケイ素の少なくともいずれかとを有するモノマーが挙げられる。そのような撥水性モノマーとしては、例えば、フッ素及びケイ素の少なくともいずれかを有する(メタ)アクリレートが挙げられ、更には、例えば、フッ化(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレートなどが挙げられ、更に具体的には、フルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレート、フルオロアルキルエーテル基を有する(メタ)アクリレート、ジメチルシロキサン基を有する(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
前記撥水性モノマーは、前記親水性モノマーと相溶することが好ましい。
ここで、本発明において、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタアクリレートを意味する。(メタ)アクリロイル、(メタ)アクリルについても同様である。
【0038】
前記撥水性モノマーは、市販品であってもよい。
前記フッ化(メタ)アクリレートの市販品としては、例えば、信越化学工業株式会社製KY−1200シリーズ、DIC株式会社製メガファックRSシリーズ、ダイキン工業株式会社製オプツールDACなどが挙げられる。
前記シリコーン(メタ)アクリレートの市販品としては、例えば、信越化学工業株式会社製X−22−164シリーズ、エボニック社製TEGO Radシリーズなどが挙げられる。
【0039】
前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物における前記撥水性モノマーの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.018質量%超が好ましく、0.018質量%超5.0質量%未満が好ましく、0.075質量%〜3.0質量%がより好ましく、0.18質量%〜1.5質量%が特に好ましい。前記含有量が、5.0質量%以上であると、硬化物の撥水性は優れるものの、ガラス転移温度が低くなることで、柔らかくなりすぎ、耐磨耗性が低下することがある。また、前記防曇防汚層中に前記撥水性モノマーの反応物が多く存在する結果、呼気防曇性が低下することがある。なお、前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物が揮発分(例えば、有機溶剤)を含有する場合、前記含有量は、前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の不揮発分に対する含有量である。
【0040】
−−親水性モノマー−−
前記ラジカル重合性不飽和基を有する親水性モノマーとしては、例えば、ポリオキシアルキレン鎖を有する(メタ)アクリレート、4級アンモニウム塩含有(メタ)アクリレート、3級アミノ基含有(メタ)アクリレート、スルホン酸基含有モノマー、カルボン酸基含有モノマー、リン酸基含有モノマー、ホスホン酸基含有モノマーなどが挙げられる。これらは、単官能モノマーであってもよいし、多官能モノマーであってもよい。
前記ポリオキシアルキレン鎖としては、例えば、ポリオキシエチレン鎖、ポリオキシプロピレン鎖などが挙げられる。これらの中でも、ポリオキシエチレン鎖が、親水性に優れる点で好ましい。
【0041】
前記親水性モノマーとしては、例えば、多価アルコール(ポリオール又はポリヒドロキシ含有化合物)と、アクリル酸、メタクリル酸及びそれらの誘導体からなる群から選択される化合物との反応によって得られるモノ若しくはポリアクリレート、又はモノ若しくはポリメタクリレートなどが挙げられる。前記多価アルコールとしては、例えば、2価のアルコール、3価のアルコール、4価以上のアルコールなどが挙げられる。前記2価のアルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、数平均分子量が300〜1,000のポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2’−チオジエタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。前記3価のアルコールとしては、例えば、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタグリセロール、グリセロール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオールなどが挙げられる。前記4価以上のアルコールとしては、例えば、ペンタエリスリトール、ジグリセロール、ジペンタエリスリトールなどが挙げられる。
【0042】
前記ポリオキシアルキレン鎖を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシ化グリセリン(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。前記ポリエチレングリコール(メタ)アクリレートとしては、例えば、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどが挙げられる。前記ポリエチレングリコール(メタ)アクリレートにおけるポリエチレングリコールユニットの分子量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、300〜1,000などが挙げられる。前記メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートとしては、市販品を用いることができる。前記市販品としては、例えば、MEPM−1000(第一工業製薬株式会社製)などが挙げられる。
これらの中でも、エトキシ化グリセリン(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートが、防曇防汚層の適度な硬度と親水性とを両立できる点から、好ましい。
【0043】
前記4級アンモニウム塩含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルグリシジルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムメチルサルフェート、(メタ)アクリロイルオキシジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェート、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム−p−トルエンスルフォネート、(メタ)アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリルアミドプロピルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリルアミドプロピルジメチルグリシジルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムメチルサルフェート、(メタ)アクリルアミドプロピルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェート、(メタ)アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウム−p−トルエンスルフォネートなどが挙げられる。
【0044】
前記3級アミノ基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジル(メタ)アクリレート、2,2,6,6−テトラメチルピペリジル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0045】
前記スルホン酸基含有モノマーとしては、例えば、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、ビニルトルエンスルホン酸、スチレンスルホン酸、スルホン酸基含有(メタ)アクリレートなどが挙げられる。前記スルホン酸基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、(メタ)アクリル酸スルホエチル、(メタ)アクリル酸スルホプロピル、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、末端スルホン酸変性ポリエチレングリコールモノ(メタ)クリレートなどが挙げられる。これらは、塩を形成していてもよい。前記塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
【0046】
前記カルボン酸基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸などが挙げられる。
【0047】
前記リン酸基含有モノマーとしては、例えば、リン酸エステルを有する(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0048】
前記親水性モノマーは、多官能の親水性モノマーであることが好ましい。
【0049】
前記親水性モノマーの分子量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、200以上が好ましい。
【0050】
前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物における前記親水性モノマーの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、60質量%以上が好ましく、60質量%〜99.9質量%がより好ましく、63質量%〜95質量%が更により好ましく、65質量%〜90質量%が特に好ましい。なお、前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物が揮発分(例えば、有機溶剤)を含有する場合、前記含有量は、前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の不揮発分に対する含有量である。
【0051】
−−光重合開始剤−−
前記光重合開始剤としては、例えば、光ラジカル重合開始剤、光酸発生剤、ビスアジド化合物、ヘキサメトキシメチルメラミン、テトラメトキシグリコユリルなどが挙げられる。
前記光ラジカル重合開始剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エトキシフェニル(2,4,6−トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、ビス(2,6−ジメチルベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド、ビス(2,6−ジクロルベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド、1−フェニル2−ヒドロキシ−2メチルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1,2−ジフェニルエタンジオン、メチルフェニルグリオキシレートなどが挙げられる。
【0052】
前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物における前記光重合開始剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.1質量%〜10質量%が好ましく、0.5質量%〜8質量%がより好ましく、1質量%〜5質量%が特に好ましい。なお、前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物が揮発分(例えば、有機溶剤)を含有する場合、前記含有量は、前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の不揮発分に対する含有量である。
【0053】
−−その他の成分−−
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸基含有(メタ)アクリレート、フィラーなどが挙げられる。
これらは、前記防曇防汚層の伸び率、硬度などを調整するために用いることがある。
【0054】
前記ウレタン(メタ)アクリレートとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート、芳香族ウレタン(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの中でも、脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートが好ましい。
【0055】
前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物における前記ウレタン(メタ)アクリレートの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10質量%〜45質量%が好ましく、15質量%〜40質量%がより好ましく、20質量%〜35質量%が特に好ましい。なお、前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物が揮発分(例えば、有機溶剤)を含有する場合、前記含有量は、前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成部物の不揮発分に対する含有量である。
【0056】
前記フィラーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、シリカ、ジルコニア、チタニア、酸化錫、酸化インジウム錫、アンチモンドープ酸化錫、五酸化アンチモンなどが挙げられる。前記シリカとしては、例えば、中実シリカ、中空シリカなどが挙げられる。
【0057】
前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、使用時には、有機溶剤を用いて希釈して用いることができる。前記有機溶剤としては、例えば、芳香族系溶媒、アルコール系溶媒、エステル系溶媒、ケトン系溶媒、グリコールエーテル系溶媒、グリコールエーテルエステル系溶媒、塩素系溶媒、エーテル系溶媒、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。
【0058】
前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、活性エネルギー線が照射されることにより硬化する。前記活性エネルギー線としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、電子線、紫外線、赤外線、レーザー光線、可視光線、電離放射線(X線、α線、β線、γ線等)、マイクロ波、高周波などが挙げられる。
【0059】
前記防曇防汚層のマルテンス硬度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5N/mm〜300N/mmが好ましく、10N/mm〜290N/mmがより好ましく、15N/mm〜280N/mmが特に好ましい。前記防曇防汚積層体を成形加工する際、例えば、ポリカーボネートの射出成形時には、防曇防汚積層体は、290℃、200MPaで加熱加圧される。前記マルテンス硬度が、5N/mm未満であると、前記防曇防汚積層体を製造又は成形加工する際のハンドリング及び面清掃等の、通常使用時の面清掃などで前記防曇防汚層に傷が入り易いことがある。前記マルテンス硬度が、300N/mmを超えると、成形加工時、前記防曇防汚層にクラックが発生したり、前記防曇防汚層が剥離することがある。前記マルテンス硬度が、前記特に好ましい範囲内であると、前記防曇防汚積層体を、防曇性能を劣化させることなく、且つ傷付き、クラック、剥離等の不良を発生させることなく、様々な三次元形状に容易に成形加工できる点で有利である。
なお、前記防曇防汚積層体を成形加工後、前記防曇防汚層には射出成形工程にて高温高圧が加わるため、成形加工前よりも前記防曇防汚層のマルテンス硬度が高まることがある。
前記マルテンス硬度は、例えば、PICODENTOR HM500(商品名;フィッシャー・インストルメンツ社製)を用いて測定できる。荷重1mN/20sとし、針としてダイアモンド錐体を用い、面角136°で測定する。
【0060】
前記防曇防汚層の鉛筆硬度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、B〜4Hが好ましく、HB〜4Hがより好ましく、F〜4Hが特に好ましい。前記鉛筆硬度が、B未満である(Bより柔らかい)と、前記防曇防汚積層体を製造又は成形加工する際のハンドリングや面清掃等の、通常使用時の面清掃などで前記防曇防汚層に傷が入り易い。前記鉛筆硬度が、4Hを超える(4Hより硬い)と、成形加工時、前記防曇防汚層にクラックが発生したり、前記防曇防汚層が剥離することがある。前記鉛筆硬度が、前記特に好ましい範囲内であると、前記防曇防汚積層体を、防曇性能を劣化させることなく、且つ傷付き、クラック、剥離等の不良を発生させることなく、様々な三次元形状に容易に成形加工できる点で有利である。
なお、前記防曇防汚積層体を成形加工後、前記防曇防汚層には射出成形工程にて高温高圧が加わるため、成形加工前よりも前記防曇防汚層の鉛筆硬度が高まることがある。
前記鉛筆硬度は、JIS K 5600−5−4に従って測定する。
【0061】
前記防曇防汚層の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1μm〜100μmが好ましく、4μm〜50μmがより好ましく、10μm〜30μmが特に好ましい。前記平均厚みが、好ましい範囲内であると、防曇性が優れ、干渉ムラが低減し、また生産性に優れる点で有利である。前記平均厚みが、特に好ましい範囲内であると、干渉ムラをより低減させることができる。
【0062】
<その他の部材>
前記その他の部材としては、アンカー層、保護層などが挙げられる。
【0063】
−アンカー層−
前記アンカー層は、前記樹脂製基材と、前記防曇防汚層との間に配される層である。
前記アンカー層を配することにより、前記樹脂製基材と前記防曇防汚層との接着性を向上できる。
前記アンカー層の屈折率は、干渉ムラを防止するために、前記防曇防汚層の屈折率と近いことが好ましい。そのため、前記アンカー層の屈折率は、前記防曇防汚層の屈折率の±0.10以内が好ましく、±0.05以内がより好ましい。または、前記アンカー層の屈折率は、前記防曇防汚層の屈折率と前記樹脂製基材の屈折率との間であることが好ましい。
【0064】
前記アンカー層は、例えば、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を塗布することにより形成できる。即ち、前記アンカー層は、例えば、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物が活性エネルギー線により硬化した硬化物である。前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物としては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレートと、光重合開始剤とを少なくとも含有し、更に必要に応じて、その他の成分を含有する活性エネルギー線硬化性樹脂組成物などが挙げられる。前記ウレタン(メタ)アクリレート、前記光重合開始剤としては、例えば、前記防曇防汚層の説明において例示した前記ウレタン(メタ)アクリレート、前記光重合開始剤がそれぞれ挙げられる。前記塗布の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ワイヤーバーコーティング、ブレードコーティング、スピンコーティング、リバースロールコーティング、ダイコーティング、スプレーコーティング、ロールコーティング、グラビアコーティング、マイクログラビアコーティング、リップコーティング、エアーナイフコーティング、カーテンコーティング、コンマコート法、ディッピング法などが挙げられる。
【0065】
前記アンカー層の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.01μm〜10μmが好ましく、0.1μm〜5μmがより好ましく、0.3μm〜3μmが特に好ましい。
【0066】
なお、前記アンカー層には、反射率低減や帯電防止の機能を付与してもよい。
【0067】
−保護層−
前記保護層は、前記防曇防汚層の表面を保護する層である。
前記保護層は、前記防曇防汚積層体を用いて後述する物品を製造する際に、前記表面を保護する。
前記保護層は、前記防曇防汚層の前記表面上に配される。
【0068】
前記保護層の材質としては、例えば、前記アンカー層と同様の材質が挙げられる。
【0069】
前記防曇防汚積層体の伸び率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10%以上が好ましく、10%〜200%がより好ましく、40%〜150%が特に好ましい。前記伸び率が、10%未満であると、成形加工が困難になることがある。前記伸び率が、前記特に好ましい範囲内であると、成形加工性に優れる点で有利である。
前記伸び率は、例えば、以下の方法により求めることができる。
前記防曇防汚積層体を、長さ10.5cm×幅2.5cmの短冊状にして測定試料とする。得られた測定試料の引張り伸び率を引張り試験機(オートグラフAG−5kNXplus、株式会社島津製作所製)で測定(測定条件:引張り速度=100mm/min;チャック間距離=8cm)する。前記伸び率の測定においては、前記樹脂製基材の品種によって測定温度が異なり、前記伸び率は、前記樹脂製基材の軟化点近傍又は軟化点以上の温度で測定する。具体的には、10℃〜250℃の間である。例えば、前記樹脂製基材が、ポリカーボネートやPC/PMMA積層体の場合は、150℃で測定するのが好ましい。
【0070】
前記防曇防汚積層体は、前記防曇防汚積層体の面内におけるX方向とY方向の加熱収縮率差が小さい方が好ましい。前記防曇防汚積層体の前記X方向と前記Y方向とは、例えば、防曇防汚積層体がロール形状の場合、ロールの長手方向と幅方向とに相当する。成形時の加熱工程に使用する加熱温度にて、防曇防汚積層体におけるX方向の加熱収縮率とY方向の加熱収縮率との差は5%以内であることが好ましい。この範囲外であると、成形加工時に、前記防曇防汚層に剥離やクラックが発生したり、樹脂製基材の表面に印刷された前記文字、前記模様、前記画像などが変形や位置ズレを起こしてしまい、成形加工が困難になることがある。
【0071】
前記防曇防汚積層体は、熱曲げ用フィルム、インモールド成形用フィルム、インサート成形用フィルム、オーバーレイ成形用フィルムに特に適している。
【0072】
前記防曇防汚積層体の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、後述する防曇防汚積層体の製造方法が好ましい。
【0073】
(防曇防汚積層体の製造方法)
本発明に関する防曇防汚積層体の製造方法は、未硬化樹脂層形成工程と、防曇防汚層形成工程とを少なくとも含み、更に必要に応じて、その他の工程を含む。
前記防曇防汚積層体の製造方法は、本発明の前記防曇防汚積層体を製造する方法である。
【0074】
<未硬化樹脂層形成工程>
前記未硬化樹脂層形成工程としては、樹脂製基材上に活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を塗布して未硬化樹脂層を形成する工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0075】
前記樹脂製基材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、本発明の前記防曇防汚積層体の説明において例示した前記樹脂製基材などが挙げられる。
前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、本発明の前記防曇防汚積層体の前記防曇防汚層の説明において例示した前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物などが挙げられる。
【0076】
前記未硬化樹脂層は、前記樹脂製基材上に前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を塗布して、必要に応じて乾燥を行うことにより形成される。前記未硬化樹脂層は、固体の膜であってもよいし、前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に含有される低分子量の硬化性成分によって流動性を有した膜であってもよい。
【0077】
前記塗布の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ワイヤーバーコーティング、ブレードコーティング、スピンコーティング、リバースロールコーティング、ダイコーティング、スプレーコーティング、ロールコーティング、グラビアコーティング、マイクログラビアコーティング、リップコーティング、エアーナイフコーティング、カーテンコーティング、コンマコート法、ディッピング法などが挙げられる。
【0078】
前記未硬化樹脂層は、活性エネルギー線が照射されていないため、硬化していない。
【0079】
前記未硬化樹脂層形成工程においては、アンカー層が形成された前記樹脂製基材の前記アンカー層上に前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を塗布して前記未硬化樹脂層を形成してもよい。
前記アンカー層としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、本発明の前記防曇防汚積層体の説明において例示した前記アンカー層などが挙げられる。
【0080】
<防曇防汚層形成工程>
前記防曇防汚層形成工程としては、前記未硬化樹脂層に、平滑な面を有する平滑領域と、微細な凸部及び凹部のいずれかを有する非平滑領域とを有する転写原盤を密着させ、前記転写原盤が密着した前記未硬化樹脂層に活性エネルギー線を照射し前記未硬化樹脂層を硬化させて、前記平滑領域及び前記非平滑領域を転写することにより、防曇防汚層を形成する工程あれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0081】
−転写原盤−
前記転写原盤は、平滑領域と、非平滑領域とを有する。
前記平滑領域は、平滑な面を有する。
前記非平滑領域は、微細な凸部及び凹部のいずれかを有する。
前記転写原盤の材質、大きさ、構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記転写原盤に、前記平滑領域、及び前記非平滑領域を形成する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、所定のパターン形状を有するフォトレジストを保護膜として前記転写原盤の表面をエッチングすることにより形成することが好ましい。また、レーザーを前記転写原盤の表面に照射して前記転写原盤をレーザー加工することにより形成することが好ましい。
【0082】
前記未硬化樹脂層に密着する前記転写原盤の表面は、フッ素及びケイ素の少なくともいずれかを含有する化合物で処理(以下、「低表面エネルギー化処理」と称することがある)されてなることが好ましい。そうすることにより、前記転写原盤の表面エネルギーを低くでき、前記転写原盤と、前記未硬化樹脂層とを密着させた際に、前記未硬化樹脂層中において、低表面エネルギー成分(例えば、フッ素及びケイ素の少なくともいずれかを有する有機化合物)が前記転写原盤の表面側に局在化する。前記低表面エネルギー化処理を施した転写原盤の表面の純水接触角は、90°以上が好ましい。この範囲であると、前記転写原盤と、前記未硬化樹脂層とを密着させた際に、前記未硬化樹脂層中において、前記低表面エネルギー成分が前記転写原盤の表面側に効果的に局在化する。
前記純水接触角は、例えば、PCA−1(協和界面化学株式会社製)を用い、下記条件でθ/2法によって測定することができる。
・蒸留水をプラスチックシリンジに入れて、その先端にステンレス製の針を取り付けて評価面に滴下する。
・水の滴下量:2μL
・測定温度:25℃
水を滴下して5秒経過後の接触角を、転写原盤表面の任意の10か所で測定し、その平均値を純水接触角とする。
【0083】
前記低表面エネルギー化処理に用いるフッ素及びケイ素の少なくともいずれかを含有する化合物としては、例えば、フルオロアルキル基、フルオロアルキルエーテル基、及びジメチルシロキサン基の何れかを有する金属アルコキシドなどが挙げられる。前記金属アルコキシドとしては、例えば、Siアルコキシド、Tiアルコキシド、Alアルコキシドなどが挙げられる。
【0084】
前記低表面エネルギー化処理は、例えば、前記転写原盤を、前記フッ素及びケイ素の少なくともいずれかを含有する化合物を含有する液に浸漬した後に、加熱することにより、行うことができる。
前記液に浸漬する時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記加熱の温度、及び時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0085】
前記活性エネルギー硬化性樹脂組成物が、前記フッ素及びケイ素の少なくともいずれかを有する有機化合物(例えば、前記撥水性モノマー)と、前記ポリオキシアルキル基及びポリオキシアルキレン基の少なくともいずれかを有する化合物(例えば、前記親水性モノマー)とを有し、かつ、前記低表面エネルギー化処理がされた前記転写原盤を用いることにより、得られる防曇防汚層においては、低表面エネルギー成分が表面に局在化する一方で、前記防曇防汚層中には、親水性成分(吸水性成分)が存在する。そうすることにより、水滴は、前記防曇防汚層の表面において撥水化され、水蒸気は、防曇防汚層中に捕捉されやすくなる。その結果、より優れた防曇性が得られる。
【0086】
−活性エネルギー線−
前記活性エネルギー線としては、前記未硬化樹脂層を硬化させる活性エネルギー線であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、本発明の前記防曇防汚積層体の説明において例示した前記活性エネルギー線などが挙げられる。
【0087】
ここで、前記防曇防汚層形成工程の具体例を、図を用いて説明する。
【0088】
[第1の実施形態]
第1の実施形態は、所定のパターン形状を有するフォトレジストを保護膜として転写原盤の表面をエッチングすることにより平滑領域及び非平滑領域を形成した転写原盤を用いて行う前記防曇防汚層形成工程の一例である。
【0089】
まず、転写原盤及びその製造方法について説明する。
【0090】
〔転写原盤の構成〕
図5Aは、転写原盤であるロール原盤の構成の一例を示す斜視図である。図5Bは、図5Aに示したロール原盤の一部を拡大して表す平面図である。図5Cは、図5BのトラックTにおける断面図である。ロール原盤231は、上述した構成を有する防曇防汚積層体を作製するための転写原盤、より具体的には、前記防曇防汚層の表面に前記平滑領域及び前記非平滑領域を成形するための原盤である。ロール原盤231は、例えば、円柱状又は円筒状の形状を有し、その円柱面又は円筒面が防曇防汚層の表面に前記平滑領域及び前記非平滑領域を成形するための成形面とされる。この成形面には、例えば、複数の構造体232が2次元配列されている。図5Cにおいて、構造体232は、成形面に対して凹状を有している。ロール原盤231の材料としては、例えば、ガラスを用いることができるが、この材料に特に限定されるものではない。
そして、複数の構造体232が存在する領域が、非平滑領域であり、複数の構造体232が存在しない領域が平滑領域である。
なお、転写原盤の表面形状は上記に限定されず、例えば、図5Dに示すように、平滑領域と、非平滑領域とが周方向に交互に並んだ態様であってもよい。
【0091】
ロール原盤231の成形面に配置された複数の構造体232と、前記防曇防汚層の表面に配置された複数の凸部又は凹部とは、反転した凹凸関係にある。すなわち、ロール原盤231の構造体232の配列、大きさ、形状、配置ピッチ、高さ又は深さ、及びアスペクト比などは、前記防曇防汚層の凸部又は凹部と同様である。
【0092】
〔ロール原盤露光装置〕
図6は、ロール原盤を作製するためのロール原盤露光装置の構成の一例を示す概略図である。このロール原盤露光装置は、光学ディスク記録装置をベースとして構成されている。
【0093】
レーザー光源241は、記録媒体としてのロール原盤231の表面に着膜されたレジストを露光するための光源であり、例えば、波長λ=266nmの記録用のレーザー光234を発振するものである。レーザー光源241から出射されたレーザー光234は、平行ビームのまま直進し、電気光学素子(EOM:Electro Optical Modulator)242へ入射する。電気光学素子242を透過したレーザー光234は、ミラー243で反射され、変調光学系245に導かれる。
【0094】
ミラー243は、偏光ビームスプリッタで構成されており、一方の偏光成分を反射し他方の偏光成分を透過する機能をもつ。ミラー243を透過した偏光成分はフォトダイオード244で受光され、その受光信号に基づいて電気光学素子242を制御してレーザー光234の位相変調を行う。
【0095】
変調光学系245において、レーザー光234は、集光レンズ246により、ガラス(SiO)などからなる音響光学素子(AOM:Acousto−Optic Modulator)247に集光される。レーザー光234は、音響光学素子247により強度変調され発散した後、レンズ248によって平行ビーム化される。変調光学系245から出射されたレーザー光234は、ミラー251によって反射され、移動光学テーブル252上に水平かつ平行に導かれる。
【0096】
移動光学テーブル252は、ビームエキスパンダ253、及び対物レンズ254を備えている。移動光学テーブル252に導かれたレーザー光234は、ビームエキスパンダ253により所望のビーム形状に整形された後、対物レンズ254を介して、ロール原盤231上のレジスト層へ照射される。ロール原盤231は、スピンドルモータ255に接続されたターンテーブル256の上に載置されている。そして、ロール原盤231を回転させると共に、レーザー光234をロール原盤231の高さ方向に移動させながら、ロール原盤231の周側面に形成されたレジスト層へレーザー光234を間欠的に照射することにより、レジスト層の露光工程が行われる。形成された潜像は、円周方向に長軸を有する略楕円形になる。レーザー光234の移動は、移動光学テーブル252の矢印R方向への移動によって行われる。
【0097】
露光装置は、上述した複数の凸部又は凹部の2次元パターンに対応する潜像をレジスト層に形成するための制御機構257を備えている。制御機構257は、フォーマッタ249とドライバ250とを備える。フォーマッタ249は、極性反転部を備え、この極性反転部が、レジスト層に対するレーザー光234の照射タイミングを制御する。ドライバ250は、極性反転部の出力を受けて、音響光学素子247を制御する。
【0098】
このロール原盤露光装置では、2次元パターンが空間的にリンクするように1トラック毎に極性反転フォーマッタ信号と回転コントローラを同期させて信号を発生し、音響光学素子247により強度変調している。角速度一定(CAV)で適切な回転数と適切な変調周波数と適切な送りピッチでパターニングすることにより、六方格子パターンなどの2次元パターンを記録することができる。
【0099】
〔レジスト成膜工程〕
まず、図7Aの断面図に示すように、円柱状又は円筒状のロール原盤231を準備する。このロール原盤231は、例えば、ガラス原盤である。次に、図7Bの断面図に示すように、ロール原盤231の表面にレジスト層(例えば、フォトレジスト)233を形成する。レジスト層233の材料としては、例えば、有機系レジスト、無機系レジストなどが挙げられる。前記有機系レジストとしては、例えば、ノボラック系レジスト、化学増幅型レジストなどが挙げられる。前記無機系レジストとしては、例えば、金属化合物などが挙げられる。
【0100】
〔露光工程〕
次に、図7Cの断面図に示すように、ロール原盤231の表面に形成されたレジスト層233に、レーザー光(露光ビーム)234を照射する。具体的には、図6に示したロール原盤露光装置のターンテーブル256上にロール原盤231を載置し、ロール原盤231を回転させると共に、レーザー光(露光ビーム)234をレジスト層233に照射する。このとき、レーザー光234をロール原盤231の高さ方向(円柱状又は円筒状のロール原盤231の中心軸に平行な方向)に移動させながら、レーザー光234を間欠的に照射することで、レジスト層233を全面にわたって露光する。これにより、レーザー光234の軌跡に応じた潜像235が、レジスト層233の全面にわたって形成される。
この際の潜像235の配置が、後に、平滑領域と非平滑領域とを形成する。
【0101】
潜像235は、例えば、ロール原盤表面において複数列のトラックTをなすように配置されると共に、所定の単位格子Ucの規則的な周期パターンで形成される。潜像235は、例えば、円形状又は楕円形状である。潜像235が楕円形状を有する場合には、その楕円形状は、トラックTの延在方向に長軸方向を有することが好ましい。
【0102】
〔現像工程〕
次に、例えば、ロール原盤231を回転させながら、レジスト層233上に現像液を滴下して、レジスト層233を現像処理する。これにより、図7Dの断面図に示すように、レジスト層233に複数の開口部が形成される。レジスト層233をポジ型のレジストにより形成した場合には、レーザー光234で露光した露光部は、非露光部と比較して現像液に対する溶解速度が増すので、図7Dの断面図に示すように、潜像(露光部)235に応じたパターンがレジスト層233に形成される。開口部のパターンは、例えば、所定の単位格子Ucの規則的な周期パターンである。
【0103】
〔エッチング工程〕
次に、ロール原盤231の上に形成されたレジスト層233のパターン(レジストパターン)をマスクとして、ロール原盤231の表面をエッチング処理する。これにより、図7Eの断面図に示すように、錐体形状を有する構造体(凹部)232を得ることができる。錐体形状は、例えば、トラックTの延在方向に長軸方向をもつ楕円錐形状又は楕円錐台形状であることが好ましい。前記エッチングとしては、例えば、ドライエッチング、ウエットエッチングを用いることができる。このとき、エッチング処理とアッシング処理とを交互に行うことにより、例えば、錐体状の構造体232のパターンを形成することができる。以上により、平滑領域と、非平滑領域とを有する、目的とするロール原盤231が得られる。
【0104】
次に、必要に応じて、前記低表面エネルギー化処理を行うことで、ロール原盤231の表面の表面エネルギーを低くできる。
【0105】
〔転写処理〕
図8Aの断面図に示すような未硬化樹脂層236が形成された樹脂製基材211を用意する。
次に、図8Bの断面図に示すように、ロール原盤231と、樹脂製基材211上に形成された未硬化樹脂層236とを密着させ、未硬化樹脂層236に活性エネルギー線237を照射し未硬化樹脂層236を硬化させて、平滑領域及び非平滑領域を転写し、平滑領域と、微細な凸部及び凹部のいずれか212aを有する非平滑領域が形成された防曇防汚層212を得る。
最後に、ロール原盤231から、得られた防曇防汚層212を剥離して、防曇防汚積層体を得る(図8C)。
なお、樹脂製基材211が紫外線などの活性エネルギー線を透過しない材料で構成されている場合には、活性エネルギー線を透過可能な材料(例えば、石英)でロール原盤231を構成し、ロール原盤231の内部から未硬化樹脂層236に対して活性エネルギー線を照射するようにしてもよい。なお、転写原盤は上述のロール原盤231に限定されるものではなく、平板状の原盤を用いるようにしてもよい。ただし、量産性向上の観点からすると、転写原盤として上述のロール原盤231を用いることが好ましい。
【0106】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、レーザーを転写原盤の表面に照射して前記転写原盤をレーザー加工することにより、平滑領域及び非平滑領域を形成した転写原盤を用いて行う前記防曇防汚層形成工程の一例である。
【0107】
まず、転写原盤及びその製造方法について説明する。
【0108】
〔転写原盤の構成〕
図9Aは、板状の原盤の構成の一例を示す平面図である。図9Bは、図9Aに示したa−a線に沿った断面図である。図9Cは、図9Bの一部を拡大して表す断面図である。板状の原盤331は、上述した構成を有する防曇防汚積層体を作製するための原盤、より具体的には、前記防曇防汚層の表面に、平滑領域と、非平滑領域とを成形するための原盤である。板状の原盤331は、例えば、平滑領域と、非平滑領域とが設けられた表面を有し、その表面が防曇防汚層の表面に平滑領域と、非平滑領域とを成形するための成形面とされる。この成形面には、例えば、複数の構造体332が設けられている。図9Aにおいて、白抜き部分が平滑領域であり、複数の構造体332が存在している部分が非平滑領域である。図9Cに示す構造体332は、成形面に対して凹状を有している。板状の原盤331の材料としては、例えば、金属材料を用いることができる。前記金属材料としては、例えば、Ni、NiP、Cr、Cu、Al、Fe、及びその合金を用いることができる。前記合金としては、ステンレス鋼(SUS)が好ましい。前記ステンレス鋼(SUS)としては、例えば、SUS304、SUS420J2などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0109】
板状の原盤331の成形面に設けられた複数の構造体332と、前記防曇防汚層の表面に設けられた複数の凸部又は凹部とは、反転した凹凸関係にある。即ち、板状の原盤331の構造体332の配列、大きさ、形状、配置ピッチ、及び高さ又は深さなどは、前記防曇防汚層の凸部又は凹部と同様である。
【0110】
〔レーザー加工装置の構成〕
図10は、板状の原盤を作製するためのレーザー加工装置の構成の一例を示す概略図である。レーザー本体340は、例えば、サイバーレーザー株式会社製のIFRIT(商品名)である。レーザー加工に用いるレーザーの波長は、例えば、800nmである。ただし、レーザー加工に用いるレーザーの波長は、400nmや266nmなどでもかまわない。繰り返し周波数は、加工時間と、形成される凹部又は凸部の狭ピッチ化とを考慮すると、大きいほうが好ましく、1,000Hz以上であることが好ましい。レーザーのパルス幅は短い方が好ましく、200フェムト秒(10−15秒)〜1ピコ秒(10−12秒)程度であることが好ましい。
【0111】
レーザー本体340は、垂直方向に直線偏光したレーザー光を射出するようになっている。そのため、本装置では、波長板341(例えば、λ/2波長板)を用いて、偏光方向を回転などさせることで、所望の方向の直線偏光又は円偏光を得るようにしている。また、本装置では、四角形の開口を有するアパーチャー342を用いて、レーザー光の一部を取り出すようにしている。これは、レーザー光の強度分布がガウス分布となっているので、その中央付近のみを用いることで、面内強度分布の均一なレーザー光を得るようにしている。また、本装置では、直交させた2枚のシリンドリカルレンズ343を用いて、レーザー光を絞ることにより、所望のビームサイズになるようにしている。板状の原盤331を加工する際には、リニアステージ344を等速で移動させる。
【0112】
板状の原盤331へ照射されるレーザーのビームスポットは、四角形形状であることが好ましい。ビームスポットの整形は、例えば、アパーチャー、シリンドリカルレンズなどによって行うことができる。また、ビームスポットの強度分布は、なるべく均一であることが好ましい。これは、型に形成する凹凸の深さなどの面内分布をなるべく均一化することが好ましいためである。一般的には、ビームスポットのサイズは、加工を行いたい面積よりも小さいため、ビームを走査することで加工を行いたい面積全てに凸凹形状を付与する必要がある。
【0113】
前記防曇防汚層の表面の形成に用いられる原盤(型)は、例えば、SUS、NiP、Cu、Al、Fe等の金属などの基板に、パルス幅が1ピコ秒(10−12秒)以下の超短パルスレーザー、いわゆるフェムト秒レーザーを用いてパターンを描画することにより形成される。また、レーザー光の偏光は、直線偏光であっても円偏光であっても楕円偏光であってもよい。このとき、レーザー波長、繰り返し周波数、パルス幅、ビームスポット形状、偏光、サンプルへ照射するレーザー強度、レーザーの走査速度などを適宜設定することにより、所望の凹凸を有するパターンを形成することができる。
【0114】
所望の形状を得るために変化させることが可能なパラメーターには以下のようなものが挙げられる。フルエンスは、パルス1つあたりのエネルギー密度(J/cm)であり、以下の式で求められるものである。
F=P/(fREPT×S)
S=Lx×Ly
F:フルエンス
P:レーザーのパワー
fREPT:レーザーの繰り返し周波数
S:レーザーの照射位置での面積
Lx×Ly:ビームサイズ
なお、パルス数Nは、1箇所に照射されたパルスの数であり、以下の式で求められるものである。
N=fREPT×Ly/v
Ly:レーザーの走査方向のビームサイズ
v:レーザーの走査速度
【0115】
また、所望の形状を得るために板状の原盤331の材質を変化させてもいい。板状の原盤331の材質によってレーザー加工される形状は変化する。SUS、NiP、Cu、Al、Fe等の金属などを用いるほかに、原盤表面に、例えば、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)などの半導体材料を被覆してもよい。前記原盤表面に前記半導体材料を被覆する方法としては、例えば、プラズマCVD、スパッタリングなどが挙げられる。被覆する前記半導体材料としては、DLCのほかにも、例えば、フッ素(F)を混入したDLC、窒化チタン、窒化クロムなどを使用できる。被覆して得られる被膜の平均厚みは、例えば、1μm程度とすればよい。
【0116】
〔レーザー加工工程〕
まず、図11Aに示すように、板状の原盤331を準備する。この板状の原盤331の被加工面である表面331Aは、例えば、鏡面状態となっている。
【0117】
次に、図10に示したレーザー加工装置を用いて、以下のようにして板状の原盤331の表面331Aをレーザー加工する。まず、板状の原盤331の表面331Aに対して、パルス幅が1ピコ秒(10−12秒)以下の超短パルスレーザー、いわゆるフェムト秒レーザーを用いてパターンを描画する。例えば、図11Bに示したように、板状の原盤331の表面331Aに対して、フェムト秒レーザー光Lfを照射すると共に、その照射スポットを表面331Aに対してスキャンさせる。
【0118】
このとき、レーザー波長、繰り返し周波数、パルス幅、ビームスポット形状、偏光、表面331Aへ照射するレーザーの強度、レーザーの走査速度等が適宜設定されることにより、図11Cに示すように、所望の形状を有する複数の構造体332が形成される。
このとき、レーザーが照射されない領域が、平滑領域となる。図11Cにおいて、白抜き部分が平滑領域であり、複数の構造体332が存在している部分が非平滑領域である。
【0119】
次に、必要に応じて、前記低表面エネルギー化処理を行うことで、平滑領域、及び非平滑領域の表面の表面エネルギーを低くできる。
【0120】
〔転写処理〕
図12Aの断面図に示すような未硬化樹脂層333が形成された樹脂製基材311を用意する。
次に、図12Bの断面図に示すように、板状の原盤331と、樹脂製基材311上に形成された未硬化樹脂層333とを密着させ、未硬化樹脂層333に活性エネルギー線334を照射し未硬化樹脂層333を硬化させて板状の原盤331の平滑領域及び非平滑領域を転写し、平滑領域及び非平滑領域が形成された防曇防汚層312を得る。
最後に、板状の原盤331から、得られた防曇防汚層312を剥離して、防曇防汚積層体を得る(図12C)。
なお、樹脂製基材311が紫外線などの活性エネルギー線を透過しない材料で構成されている場合には、活性エネルギー線を透過可能な材料(例えば、石英)で板状の原盤331を構成し、板状の原盤331の裏面(成形面とは反対側の面)から未硬化樹脂層333に対して活性エネルギー線を照射するようにしてもよい。
【0121】
(物品)
本発明の物品は、本発明の前記防曇防汚積層体を表面に有し、更に必要に応じて、その他の部材を有する。
前記物品において、前記防曇防汚層は、表面に、前記平滑領域と、前記非平滑領域とを有する。
【0122】
前記物品としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ガラス窓、冷蔵・冷凍ショーケース、自動車のウインドウ等の窓材、浴室内の鏡、自動車サイドミラー等の鏡、浴室の床及び壁、太陽電池パネル、防犯監視カメラなどが挙げられる。
また、前記物品は、眼鏡、ゴーグル、ヘルメット、レンズ、マイクロレンズアレイ、自動車のヘッドライトカバー、フロントパネル、サイドパネル、リアパネルなどであってもよい。これらは、インモールド成形、インサート成形、オーバーレイ成形により形成されることが好ましい。
【0123】
前記防曇防汚積層体は、前記物品の表面の一部に形成されていてもよいし、全面に形成されていてもよい。
【0124】
ここで、本発明の物品の一例を図を用いて説明する。
図13A及び図13Bに示す物品は、曲面を有する防曇防汚シート50である。防曇防汚シート50は、樹脂製基材51と、樹脂製基材51の凹部に防曇防汚層52とを有している。
図13Aは、防曇防汚シート50の断面図であり、図13Bは、防曇防汚シート50の凹面に直交する方向から見た概略図である。
図13Bに示す防曇防汚層52は、表面に、平滑領域12Aと、非平滑領域12Bとを有する。
図13Bにおいては、非平滑領域の総面積が、平滑領域の総面積よりも大きくなっている。この場合、平板状の防曇防汚シートを曲面に加工する際に、金型に設置した際の位置ずれが起こらないため、位置ずれに起因するシワ等が生じず、外観の低下が起こらない。
【0125】
図13Cは、防曇防汚シート50の凹面に直交する方向から見た他の一例の概略図である。
図13Cに示す防曇防汚層52は、表面に、平滑領域12Aと、非平滑領域12Bとを有する。
図13Cにおいては、平滑領域の総面積が、非平滑領域の総面積よりも大きくなっている。この場合、平板状の防曇防汚シートを重ねて放置しても、各シートの引き離しが容易であり、作業性が低下せず、結果、加工性に優れる。
【0126】
前記物品の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、後述する本発明の物品の製造方法が好ましい。
【0127】
(物品の製造方法)
本発明の物品の製造方法は、加熱工程と、防曇防汚積層体成形工程とを少なくとも含み、更に必要に応じて、射出成形工程などのその他の工程を含む。
前記物品の製造方法は、本発明の前記物品の製造方法である。
【0128】
<加熱工程>
前記加熱工程としては、防曇防汚積層体を加熱する工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記防曇防汚積層体は、本発明の前記防曇防汚積層体である。
【0129】
前記加熱としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、赤外線加熱であることが好ましい。
前記加熱の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記樹脂製基材のガラス転移温度近傍若しくはガラス転移温度以上であることが好ましい。
前記加熱の時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0130】
<防曇防汚積層体成形工程>
前記防曇防汚積層体成形工程としては、加熱された前記防曇防汚積層体を所望の形状に成形する工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、所定の金型に密着させて、空気圧により、所望の形状に成形する工程などが挙げられる。
【0131】
前記防曇防汚積層体成形工程後の前記防曇防汚層は、表面に、前記平滑領域と、前記非平滑領域とを有する。
【0132】
<射出成形工程>
前記射出成形工程としては、所望の形状に成形された前記防曇防汚積層体の樹脂製基材側に成形材料を射出し、前記成形材料を成形する工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0133】
前記成形材料としては、例えば、樹脂などが挙げられる。前記樹脂としては、例えば、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、ABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)、AS樹脂(アクリロニトリル−スチレン共重合体)、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリフェニレンオキシド・ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート、ポリカーボネート変性ポリフェニレンエーテル、ポリエチレンテレフタレート、ポリスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキシド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアミド、液晶ポリエステル、ポリアリル系耐熱樹脂、各種複合樹脂、各種変性樹脂などが挙げられる。
【0134】
前記射出の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、所定の金型に密着させた前記防曇防汚積層体の樹脂製基材側に、溶融した前記成形材料を流し込む方法などが挙げられる。
【0135】
前記物品の製造方法は、インモールド成形装置、インサート成形装置、オーバーレイ成形装置を用いて行うことが好ましい。
【0136】
ここで、本発明の物品の製造方法の他の一例を、図を用いて説明する。この製造方法は真空成形装置を用いた製造方法である。
まず、金型401を用意する(図14A)。金型401には、吸気用の小さい穴が空いている。
続いて、図14Bに示すように、赤外線ヒーター402により、防曇防汚積層体400を加熱する。
続いて、図14Cに示すように、防曇防汚積層体400を金型401に押し付ける。そして、金型401の穴から吸気することにより、防曇防汚積層体400は、金型401に密着し、金型401の形状に成形される。
最後に、図14Dに示すように、周辺部の余分な部分をトリミングすることにより、成形物品が得られる。
ここで、成形前及び成形後の防曇防汚積層体400は、重ねて保存されることが多い。その際、従来の防曇防汚積層体であると、ブロッキングが発生し、引き離し難くなり加工の効率を低下させる。一方、本発明の防曇防汚積層体であると、ブロッキングを防止して、容易に引き離すことも可能である。
【0137】
ここで、本発明の物品の製造方法の他の一例を、図を用いて説明する。この製造方法はインモールド成形装置を用いた製造方法である。
まず、防曇防汚積層体500を加熱する。加熱は赤外線加熱が好ましい。
続いて、図15Aに示すように、加熱した防曇防汚積層体500を、第1金型501と第2金型502との間の所定の位置に配置する。このとき、防曇防汚積層体500の樹脂製基材が第1金型501を向き、防曇防汚層が第2金型502を向くように配置する。図15Aにおいて、第1金型501は、固定型であり、第2金型502は、可動型である。
【0138】
第1金型501と第2金型502との間に防曇防汚積層体500を配置した後、第1金型501と第2金型502とを型締めする。続いて、第2金型502のキャビティ面に開口されている吸引穴504で防曇防汚積層体500を吸引して、第2金型502のキャビティ面に防曇防汚積層体500を装着する。そうすることにより、キャビティ面が防曇防汚積層体500で賦形される。また、このとき、図示されていないフィルム押さえ機構で防曇防汚積層体500の外周を固定し位置決めしてもよい。その後、防曇防汚積層体500の不要な部位をトリミングする(図15B)。
なお、第2金型502が吸引穴504を有さず、第1金型501に圧空孔(図示せず)を有する場合には、第1金型501の圧空孔から防曇防汚積層体500に圧空を送ることにより、第2金型502のキャビティ面に防曇防汚積層体500を装着する。
【0139】
続いて、防曇防汚積層体500の樹脂製基材に向けて、第1金型501のゲート505から溶融した成形材料506を射出し、第1金型501と第2金型502を型締めして形成したキャビティ内に注入する(図15C)。この際、従来の防曇防汚積層体を用いると、防曇防汚積層体が位置ずれを起こし、防曇防汚積層体にシワが生じるなどの外観低下が生じることがある。一方、本発明の防曇防汚積層体であると、位置ずれを起こさず、外観低下を防ぐことも可能である。
続いて、溶融した成形材料506がキャビティ内に充填される(図15D)。更に、溶融した成形材料506の充填完了後、溶融した成形材料506を所定の温度まで冷却して固化する。
【0140】
その後、第2金型502を動かして、第1金型501と第2金型502とを型開きする(図15E)。そうすることにより、成形材料506の表面に防曇防汚積層体500が形成され、かつ所望の形状にインモールド成形された物品507が得られる。
最後に、第1金型501から突き出しピン508を押し出して、得られた物品507を取り出す。
【0141】
前記オーバーレイ成形装置を用いる場合の製造方法は、下記の通りである。これは、防曇防汚積層体を成形材料の表面に直接加飾する工程であり、その一例としては、TOM(Three dimension Overlay Method)工法が挙げられる。前記TOM工法を用いた本発明の物品の製造方法の一例を下記に説明する。
まず、固定枠に固定された防曇防汚積層体によって分断された装置内の両空間について、真空ポンプ等で空気を吸引し、前記両空間内を真空引きする。
この時、片側の空間に事前に射出成形した成形材料を設置しておく。同時に、防曇防汚積層体が軟化する所定の温度になるまで赤外線ヒーターで加熱する。防曇防汚積層体が加熱され軟化したタイミングで、装置内空間の成形材料がない側に大気を送り込むことにより真空雰囲気下で、成形材料の立体形状に、防曇防汚積層体をしっかりと密着させる。必要に応じ、さらに大気を送り込んだ側からの圧空押付けを併用してもよい。防曇防汚積層体が成形体に密着した後、得られた加飾成形品を固定枠から外す。真空成形は、通常80℃〜200℃、好ましくは110℃〜160℃程度で行われる。
【0142】
オーバーレイ成形の際には、前記防曇防汚積層体と前記成形材料とを接着するために、前記防曇防汚積層体の防曇防汚層面とは反対側の面に粘着層を設けてもよい。前記粘着層としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アクリル系粘着剤、ホットメルト接着剤などが挙げられる。前記粘着層の形成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記樹脂製基材上に前記防曇防汚層を形成後に、前記樹脂製基材の前記防曇防汚層側とは逆側に、粘着層用塗工液を塗工して、前記粘着層を形成する方法などが挙げられる。また、剥離シート上に粘着層用塗工液を塗工して前記粘着層を形成した後に、前記樹脂製基材と前記剥離シート上の前記粘着層とをラミネートして、前記樹脂製基材上に前記粘着層を積層してもよい。
【0143】
ここで、本発明の物品の一例を図を用いて説明する。
図16図19は、本発明の物品の一例の概略断面図である。
【0144】
図16の物品は、成形材料506と、樹脂製基材211と、防曇防汚層212とを有し、成形材料506上に、樹脂製基材211と、防曇防汚層212とがこの順で積層されている。
この物品は、例えば、インサート成形により製造できる。
【0145】
図17の物品は、成形材料506と、樹脂製基材211と、防曇防汚層212と、ハードコート層600とを有し、成形材料506上に、樹脂製基材211と、防曇防汚層212とがこの順で積層されている。また、成形材料506の樹脂製基材211側と反対側には、ハードコート層600が形成されている。
この物品は、例えば、図16の物品を製造後、防曇防汚層212上に保護層を形成した後で、成形材料506の表面にハードコート層600を、成形材料506をハードコート液に浸漬、その後乾燥、硬化させること等により形成し、更に、保護層を剥離することで製造できる。
【0146】
図18の物品は、成形材料506と、樹脂製基材211と、防曇防汚層212とを有し、成形材料506の両側に、樹脂製基材211と、防曇防汚層212とがこの順に積層されている。
【0147】
図19の物品は、成形材料506と、樹脂製基材211と、防曇防汚層212と、光学フィルム601とを有し、成形材料506上に、樹脂製基材211と、防曇防汚層212とがこの順で積層されている。成形材料506の樹脂製基材211側と反対側には、光学フィルム601が形成されている。光学フィルム601としては、例えば、ハードコートフィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、偏光フィルムなどが挙げられる。
図18又は図19に示す物品は、例えば、ダブルインサート成形により製造できる。ダブルインサート成形は、両面積層フィルム一体品を成形する方法であって、例えば、特開平03−114718号公報に記載の方法などを用いて行うことができる。
【0148】
(防汚方法)
本発明の防汚方法は、本発明の前記防曇防汚積層体を物品の表面に積層することにより前記物品の汚れを防ぐ方法である。
前記防曇防汚積層体は、前記防曇防汚層が表面に前記平滑領域と前記非平滑領域とを有するように、前記物品の表面に、積層される。
【0149】
前記物品としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ガラス窓、冷蔵・冷凍ショーケース、自動車のウインドウ等の窓材、浴室内の鏡、自動車サイドミラー等の鏡、浴室の床及び壁、太陽電池パネル、防犯監視カメラなどが挙げられる。
また、前記物品は、眼鏡、ゴーグル、ヘルメット、レンズ、マイクロレンズアレイ、自動車のヘッドライトカバー、フロントパネル、サイドパネル、リアパネルなどであってもよい。これらは、インモールド成形、インサート成形により形成されることが好ましい。
【0150】
前記物品の表面に前記防曇防汚積層体を積層する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記物品の表面に前記防曇防汚積層体を貼り付ける方法などが挙げられる。また、本発明の前記物品の製造方法によっても、前記物品の表面に前記防曇防汚積層体を積層することができる。
【実施例】
【0151】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0152】
(製造例1)
<微細な凸部及び凹部のいずれかを有する転写原盤(ガラスロール原盤)の作製>
まず、外径126mmのガラスロール原盤を準備し、このガラスロール原盤の表面に以下のようにしてレジスト層を形成した。即ち、シンナーでフォトレジストを質量比で1/10に希釈し、この希釈レジストをディッピング法によりガラスロール原盤の円柱面上に平均厚み70nm程度に塗布することにより、レジスト層を形成した。次に、ガラスロール原盤を、図6に示したロール原盤露光装置に搬送し、レジスト層を露光することにより、1つの螺旋状に連なると共に、隣接する3列のトラック間において六方格子パターンをなす潜像がレジスト層にパターニングされた。具体的には、六方格子状の露光パターンが形成されるべき領域に対して、0.50mW/mのレーザー光を照射し六方格子状の露光パターンを形成した。
なお、平滑領域と、微細な凹部を有する非平滑領域とを作製するために、露光パターンは、一様とはせず、平滑領域にする箇所には露光を行わなかった。
【0153】
次に、ガラスロール原盤上のレジスト層に現像処理を施して、露光した部分のレジスト層を溶解させて現像を行った。具体的には、図示しない現像機のターンテーブル上に未現像のガラスロール原盤を載置し、ターンテーブルごと回転させつつガラスロール原盤の表面に現像液を滴下してその表面のレジスト層を現像した。これにより、レジスト層が六方格子パターンに開口しているレジストガラス原盤が得られた。
【0154】
次に、ロールエッチング装置を用い、CHFガス雰囲気中でのプラズマエッチングを行った。これにより、ガラスロール原盤の表面において、レジスト層から露出している六方格子パターンの部分のみエッチングが進行し、その他の領域はレジスト層がマスクとなりエッチングはされず、楕円錐形状の凹部がガラスロール原盤に形成された。この際、エッチング量(深さ)は、エッチング時間によって調整した。次に、Oアッシングにより完全にレジスト層を除去した。
【0155】
続いて、ガラスロール原盤表面に、フッ素含有シランカップリング剤(オプツールDSX、ダイキン工業株式会社製)をディップコートし、100℃で90分間焼成した。
以上により、凹形状の六方格子パターンを有する非平滑領域と、平滑な表面を有する平滑領域とを有するガラスロール原盤を得た。得られたガラスロール原盤表面の純水接触角は、120°であった。
なお、非平滑領域における凹部は、ピッチ250nm、深さ220nmである。
得られたガラスロール原盤の概略図を図20に示す。ガラスロール原盤の表面には、帯状の平滑領域101と、帯状の非平滑領域102とが、軸方向に交互に並んでいる。平滑領域101の幅は、15mmであり、中央部の非平滑領域の幅は、50mmである。
【0156】
<防曇防汚積層体の作製>
次に、上述のようにして得られたガラスロール原盤を用いて、UVインプリントにより防曇防汚積層体を作製した。具体的には、以下のようにして行った。
樹脂製基材として、三菱ガス化学株式会社製のFE−2000(PC基材、平均厚み180μm)を用いた。
前記樹脂製基材の表面に、コロナ処理を行った。
【0157】
次に、下記組成の硬化性樹脂組成物を、得られる防曇防汚層の平均厚みが2.5μmとなるように、前記樹脂製基材上に塗布した。硬化性樹脂組成物が塗布された前記樹脂製基材と、上述のようにして得られたガラスロール原盤とを密着させ、メタルハライドランプを用いて、前記樹脂製基材側から照射量1,000mJ/cmで紫外線を照射して、防曇防汚層を硬化させた。その後、防曇防汚層と、ガラスロール原盤とを剥離した。以上により、防曇防汚積層体を得た。
【0158】
−硬化性樹脂組成物−
・KY−1203(撥水性モノマー、フッ化アクリレート、信越化学工業株式会社製) 1質量部
・A−600(親水性モノマー、新中村化学工業株式会社製) 30質量部
・A−GLY−20E(親水性モノマー、新中村化学工業株式会社製) 18質量部
・PETIA(ペンタエリスリトールアクリレート、ダイセル・オルネクス株式会社製) 48質量部
・Lucirin TPO(光重合開始剤、BASF社製) 3質量部
【0159】
<プレフォーム>
得られた防曇防汚積層体と金型との位置関係を適宜調整し、両面真空成形機(到達真空度0.2KPa、赤外線によるフィルム加熱温度140℃、加圧300KPa、8カーブ、80mmφ外形、凹型)を用いて、防曇防汚面が金型に触れないように配置して、熱加圧成形した。
【0160】
(実施例1−1)
<フィルム打ち抜き>
プレフォームしたシートを、図21のように両サイドが平滑領域となるように、円形トムソン刃を用いて打ち抜き、レンズ形状部の頂点が中心である、76mmφのシートを得た。シートの凹面が、防曇防汚面である。平滑領域の幅Wは、約13mmである。
【0161】
<フィルムインサート成形>
円形のシートをインサート成形の凸型金型にセットした(防曇防汚面が金型に触れる方向)。溶融PC(ポリカーボネート)温度290℃、射出圧1150Kgf/cm、圧型温度90℃で、厚み2mm、81mmφ外形の8カーブレンズを成形し、防曇防汚物品を得た。
【0162】
(実施例1−2)
図22となるようにした以外は、実施例1−1と同様にして、円形のシートを得た。
円形のシートを、インサート成形の凸型金型に、ゲート口に平滑領域がくるようにセットした以外は、実施例1−1と同様にして、防曇防汚物品を得た。
【0163】
(比較例1−1)
図23のように、全面が非平滑領域となるようにした以外は、実施例1−1と同様にして、円形のシートを得た。すなわち、凹面の防曇防汚面に平滑領域を設けなかった。
実施例1−1と同様にして成形を行い、防曇防汚物品を得た。
【0164】
(実施例1−3)
<プレフォーム>
下記条件で作製したプレフォームしたシートを作製した。
防曇防汚積層体と金型の位置関係を適宜調整し、両面真空成形機(到達真空度0.2KPa、赤外線によるフィルム加熱温度140℃、加圧300KPa、8カーブ、80mmφ外形、凸型)を用いて、防曇防汚面が金型に触れないように配置して、熱加圧成形した。
【0165】
<フィルム打ち抜き>
プレフォームしたシートを、図21のように両サイドが平滑領域となるように、円形トムソン刃を用いて打ち抜き、レンズ形状部の頂点が中心である、76mmφのシートを得た。シートの凸面が、防曇防汚面である。平滑領域の幅Wは、約13mmである。
【0166】
<フィルムダブルインサート成形>
円形のシートをダブルインサート成形の凹型金型にセットし、実施例1−1で得たシートをダブルインサート成形の凸型金型にセットした。溶融PC温度290℃、射出圧1150Kgf/cm、圧型温度90℃で、厚み2mm、81mmφ外形の8カーブレンズを成形し、両面に防曇防汚面を有する防曇防汚物品を得た。
【0167】
[防曇性]
実施例1−1〜1−3、及び比較例1−1で作製した防曇防汚物品について、25℃37%RHの環境で、防曇防汚層の表面に対して、レンズ中心部から法線方向に5cm離れた距離から息を大きく1回吐きかけた後直ちに、目視で表面を観察した結果、作製した防曇防汚物品の10個全てにおいて、防曇防汚層表面に外観変化が全くなかった。
即ち、実施例1−1〜1−3、及び比較例1−1で作製した防曇防汚物品について、防曇性を有することが確認できた。
【0168】
[防汚性]
実施例1−1〜1−3、及び比較例1−1で作製した防曇防汚物品について、以下の試験を行った。
防曇防汚層の表面に人差し指で指紋を付着させ、これをティッシュ(カミ商事株式会社製、エルモア)で10回、円を描くように払拭後に目視で表面を観察したところ、指紋汚れがなくなっていた。
即ち、実施例1−1〜1−3、及び比較例1−1で作製した防曇防汚物品について、防汚性を有することが確認できた。
【0169】
[加工性]
−防曇防汚物品の外観評価−
防曇防汚物品を10個作製し、下記基準で評価した。結果を表1に示した。
〔評価基準〕
○:10個全てにおいて、シワなどの外観不良を発生しなかった。
△:10個中6個〜9個で、シワなどの外観不良を発生しなかった。
×:10個中5個以上で、シワなどの外観不良を発生した。
【0170】
−シート移動量−
ゲート口に設置したシート端の成形後の移動距離を測定した。具体的には、防曇防汚物品を10個作製したときの前記移動距離の平均値を求めた。結果を表1に示した。
【0171】
【表1】
【0172】
平滑領域と、非平滑領域との両方を設けることで、成形樹脂材料の注入時における防曇防汚積層体の横滑りが抑止され、防曇防汚物品を効率良く製造できた。
一方、平滑領域がない場合、シート(防曇防汚積層体)がゲート口反対に移動して金型の壁に当たりシワが発生してしまった。
【0173】
また、成形方法をキャスト成形としても同様の評価結果であり、平滑領域を設けることで、成形樹脂材料の注入時における防曇防汚積層体の横滑りが抑止され、防曇防汚物品を効率良く製造できた。
【0174】
(製造例2)
<ガラスロール原盤の作製>
製造例1において、平滑領域と、非平滑領域とを作製するために、露光パターンを、調整した。それ以外は、製造例1と同様にして、ガラスロール原盤を作製した。平滑領域と、微細な凹部を有する非平滑領域とを作製するために、露光パターンは、一様とはせず、平滑領域にする箇所には露光を行わなかった。この製造例では、平滑領域の総面積が、非平滑領域の総面積よりも大きくなるような露光パターンとした。
【0175】
以上により、凹形状の六方格子パターンを有する非平滑領域と、平滑な表面を有する平滑領域とを有するガラスロール原盤を得た。得られたガラスロール原盤表面の純水接触角は、120°であった。
なお、非平滑領域における凹部は、ピッチ250nm、深さ220nmである。
得られたガラスロール原盤の概略図を図24に示す。ガラスロール原盤の表面には、帯状の平滑領域101と、帯状の非平滑領域102とが、軸方向に交互に並んでいる。非平滑領域102の幅は、15mmであり、中央部の平滑領域101の幅は、50mmである。
【0176】
<防曇防汚積層体の作製>
上記で作製したガラスロール原盤を用いた以外は、製造例1と同様にして、防曇防汚積層体を作製した。
【0177】
<プレフォーム>
上記で作製した防曇防汚積層体を用いた以外は、製造例1と同様にして、プレフォームを行った。
【0178】
(実施例2−1)
<フィルム打ち抜き>
プレフォームしたシートを、図25のように両サイドが非平滑領域となるように、円形トムソン刃を用いて打ち抜き、レンズ形状部の頂点が中心となる、76mmφのシートを得た。シートの凹面が防曇防汚面である。非平滑領域の幅Wは、約13mmである。
【0179】
(比較例2−1)
<フィルム打ち抜き>
図26のように、全面が平滑領域となるようにした以外は、実施例2−1と同様にして、シートを得た。すなわち、凹面の防曇防汚面に非平滑領域を設けなかった。
【0180】
[加工性]
−耐ブロッキング性−
該シートを10枚作製して積み重ね、60秒間放置した後、引き離した。その際の状態を以下の評価基準で評価した。結果を表2に示した。
〔評価基準〕
○:容易に1枚ずつ引き離すことができる。
×:1枚ずつ引き離すことが困難であり、引き離した際に、シートに折れ目が入る。
【0181】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0182】
本発明の防曇防汚積層体は、ガラス窓、冷蔵・冷凍ショーケース、自動車のウインドウ等の窓材、浴室内の鏡、自動車サイドミラー等の鏡、浴室の床及び壁、太陽電池パネル表面、防犯監視カメラなどへ貼り合わせて用いることができる。また、本発明の防曇防汚積層体は、成形加工が容易であることから、インモールド成形、インサート成形を利用して、眼鏡、ゴーグル、ヘルメット、レンズ、マイクロレンズアレイ、自動車のヘッドライトカバー、フロントパネル、サイドパネル、リアパネルなどに用いることができる。
【符号の説明】
【0183】
211 樹脂性基材
212 防曇防汚層
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図9C
図10
図11A
図11B
図11C
図12A
図12B
図12C
図13A
図13B
図13C
図14A
図14B
図14C
図14D
図15A
図15B
図15C
図15D
図15E
図15F
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26