【解決手段】脱水素触媒を用いた分子状酸素存在下での酸化的脱水素反応により、モノオレフィンからジエンを得る脱水素工程を含み、脱水素触媒が、バナジウム、マグネシウム及び鉄を含む金属酸化物触媒であり、脱水素触媒における、バナジウム及びマグネシウムの合計に対する鉄のモル比が1.5%以上である、ジエンの製造方法。
前記脱水素工程が、前記モノオレフィンを含む原料ガスを、前記脱水素触媒に接触させて前記酸化的脱水素反応を行う工程である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の好適な実施形態について以下に説明する。
【0016】
本実施形態に係るジエンの製造方法は、脱水素触媒を用いた分子状酸素存在下での酸化的脱水素反応により、モノオレフィンからジエンを得る工程(脱水素工程)を含む。本実施形態において、脱水素触媒は、バナジウム(V)、マグネシウム(Mg)及び鉄(Fe)を含む金属酸化物触媒であり、脱水素触媒におけるバナジウム及びマグネシウムの合計に対する鉄のモル比は、1.5%(0.015)以上である。
【0017】
本実施形態に係るジエンの製造方法によれば、上記脱水素触媒により高い選択率でモノオレフィンの酸化的脱水素反応を進行させることができ、ジエンを高収率で得ることができる。
【0018】
モノオレフィンの酸化的脱水素反応は、例えば以下のような反応経路で進行すると考えられる。まず、モノオレフィンが、脱水素触媒と接触し、脱水素触媒中の金属酸化物に吸着する。次いで、金属酸化物中の格子酸素が、吸着したモノオレフィンから2つの水素原子を引抜くことにより、モノオレフィンが脱水素される。その結果、モノオレフィンに対応するジエンと水とが生成する。
【0019】
本実施形態に係るジエンの製造方法では、脱水素触媒がバナジウム、マグネシウム及び鉄を含む金属酸化物触媒であることで、上述の格子酸素による水素原子の引き抜きが起こりやすくなり、酸化的脱水素反応の反応性及び選択率が向上すると考えられる。また、本実施形態では、分子状酸素存在下で反応を行うことで、反応に使用された格子酸素が分子状酸素から補充され、酸化的脱水素反応が触媒反応として好適に進行すると考えられる。
【0020】
モノオレフィンは、酸化的脱水素反応によりジエンを生成し得るものであればよく、直鎖状、分岐状又は環状であってよい。また、モノオレフィンは、内部オレフィンであってよく、末端オレフィンであってよい。
【0021】
モノオレフィンの炭素数は、例えば3以上であってよく、好ましくは4以上である。また、モノオレフィンの炭素数は、例えば10以下であってよく、好ましくは8以下である。
【0022】
モノオレフィンとしては、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン等の直鎖状の末端オレフィン;2−ブテン、2−ペンテン、2−ヘキセン、3−ヘキセン、2−オクテン、3−オクテン、4−オクテン、2−デセン、3−デセン、4−デセン、5−デセン等の直鎖状の内部オレフィン;イソブテン、2−メチル−1−ブテン、2−メチル−2−ブテン、3−メチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、2−メチル−2−ペンテン、3−メチル−2−ペンテン等の分岐状の末端又は内部オレフィン;シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘキセン等の環状オレフィン;などが挙げられる。モノオレフィンは1種の化合物であっても2種以上の混合物であってもよい。
【0023】
ジエンは、モノオレフィンの酸化的脱水素反応により得られ、炭素−炭素二重結合を2つ有する化合物である。ジエンは、モノオレフィン中のCH−CHで表される部分構造の一つを、C=Cで表される二重結合に変換した化合物であってよい。ジエンの炭素数はモノオレフィンと同じであってよい。ジエンは、アレンであってよく、非共役ジエンであってよく、共役ジエンであってよい。
【0024】
ジエンとしては、上述のモノオレフィンに対応するジエンが挙げられる。具体的には、例えば、プロパジエン、1,3−ブタジエン、ピペリレン、イソプレン、1,4−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−オクタジエン、1,9−デカジエン等が挙げられる。ジエンは、1種の化合物であっても2種以上の混合物であってもよい。
【0025】
脱水素触媒は、バナジウム、マグネシウム及び鉄を含む、金属酸化物で構成される触媒であってよい。
【0026】
脱水素触媒において、バナジウム、マグネシウム及び鉄は、それぞれ独立して金属酸化物を形成していてよく、2種以上で複合酸化物を形成していてもよい。例えば、脱水素触媒は、バナジウム及びマグネシウムを含有する複合酸化物と酸化鉄とを含むものであってよく、バナジウム、マグネシウム及び鉄を含有する複合酸化物を含むものであってもよい。
【0027】
脱水素触媒において、バナジウム及びマグネシウムの合計に対する鉄のモル比は、1.5%以上であってよく、3%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましい。また、上記鉄のモル比は、例えば40%以下であってよく、35%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましい。
【0028】
脱水素触媒において、バナジウム及びマグネシウムの合計に対するバナジウムのモル比は、10%以上であってよく、15%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましい。また、上記バナジウムのモル比は、60%以下であってよく、55%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましい。
【0029】
脱水素触媒において、バナジウム及びマグネシウムの合計に対するマグネシウムのモル比は、10%以上であってよく、20%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましい。また、上記マグネシウムのモル比は、80%以下であってよく、75%以下であることが好ましく、70%以下であることがより好ましい。
【0030】
脱水素触媒は、バナジウム、マグネシウム及び鉄以外の他の金属元素を含んでいてよい。例えば、脱水素触媒は、亜鉛、コバルト、銅等をさらに含んでいてよい。他の金属元素のモル比は、バナジウム及びマグネシウムの合計に対して、10%以下であってよく、1%以下であってよく、0%であってよい。
【0031】
脱水素触媒は、例えば、下記式(1)で表される組成を有していてよい。
V
αMg
βFe
γO
x …(1)
【0032】
式(1)中、α、β、γ及びxは、それぞれバナジウム(V)、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)及び酸素(O)の組成比を示す。αが1のとき、βは0.1〜4であってよく、γは0.01〜3であってよい。βは、好ましくは0.5〜3であり、より好ましくは1〜2である。γは、好ましくは0.05〜2であり、より好ましくは0.1〜1である。なお、xは酸素以外の元素の酸化状態によって定まる。
【0033】
脱水素触媒は、耐火性無機担体に担持されていてよい。耐火性無機担体としては、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、シリカ−アルミナ、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア等が挙げられる。
【0034】
脱水素触媒の形状は特に限定されず、例えば粒状、粉状等であってよい。
【0035】
脱水素触媒の製造方法は特に制限されないが、例えば、以下の方法であってよい。
【0036】
脱水素触媒の製造方法は、バナジウム、マグネシウム及び鉄を含む触媒前駆体を焼成して、脱水素触媒を得る工程を含むものであってよい。
【0037】
触媒前駆体は、例えば、触媒原料を物理的に混合したものであってよく、触媒原料を含む溶液を乾燥して得られたものであってよい。触媒原料は、脱水素触媒に使用される金属元素を含む化合物であり、焼成により金属酸化物を形成し得るものであればよい。触媒原料は、例えば、硝酸塩、酸化物、水酸化物、塩化物、炭酸塩、酢酸塩、酸素酸、酸素酸アンモニウム塩、金属錯体等であってよい。触媒原料を含む溶液は、例えば水溶液であってよい。
【0038】
触媒前駆体の焼成は、触媒前駆体が金属酸化物に変換される条件で実施すればよい。焼成温度は、例えば500〜1000℃であってよく、500〜800℃であってよい。焼成時間は、例えば1〜24時間であってよく、12〜18時間であってよい。焼成を行う雰囲気には特に制限はなく、大気中であってもよく、高酸素濃度又は低酸素濃度雰囲気下であってもよく、不活性ガス(例えば窒素、ヘリウム、アルゴン)雰囲気下であってもよく、反応ガス雰囲気下であってもよく、真空中であってもよい。
【0039】
焼成は、一段階で実施してもよく、二段階以上で実施してもよ。焼成を二段階以上で実施する場合は、少なくとも一段階が上述の焼成温度であることが好ましい。例えば、焼成は、300〜500℃で焼成した後、500〜1000℃で焼成する二段階の焼成であってよい。
【0040】
脱水素触媒の製造方法の好適な一例を以下に示す。まず、有機酸(例えばクエン酸)の水溶液に、バナジウム塩(例えばメタバナジウム酸アンモニウム)、マグネシウム塩(例えば硝酸マグネシウム)及び鉄塩(例えば硝酸鉄)を加え、一定時間撹拌混合しながら蒸発乾固して、触媒前駆体を得る。得られた触媒前駆体を300〜500℃で焼成した後、更に500〜800℃で焼成することで脱水素触媒が得られる。
【0041】
脱水素工程は、分子状酸素の存在下、脱水素触媒を用いた酸化的脱水素反応により、モノオレフィンからジエンを得る工程である。
【0042】
酸化的脱水素反応は、気固触媒反応又は液固触媒反応であってよく、好ましくは気固触媒反応である。なお、気固触媒反応は、気相の原料と固相の脱水素触媒とを接触させて行う反応を示し、液固触媒反応は、液相の原料と固相の脱水素触媒とを接触させて行う反応を示す。
【0043】
脱水素工程は、例えば、モノオレフィンを含む原料ガスを脱水素触媒に接触させて酸化的脱水素反応を行う工程であってよい。また、脱水素工程は、モノオレフィンを含む原料ガスを、脱水素触媒が充填された反応器に流通させて、酸化的脱水素反応を行う工程であってよい。
【0044】
原料ガスは、モノオレフィン以外の他の成分を含んでいてよい。例えば、原料ガスは、モノオレフィンと希釈ガスとを含んでいてよい。希釈ガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴン、炭酸ガス等の不活性ガス、水蒸気などが挙げられる。
【0045】
原料ガスは、酸素(分子状酸素)を含んでいてよい。モノオレフィンの酸化的脱水素反応では、上述のとおり金属酸化物中の格子酸素が、モノオレフィンから水素原子を引抜くことによりジエンと水とが生成する。この酸化的脱水素後、金属酸化物の格子の酸素空孔には、原料ガス中の分子状酸素から酸素原子が補充される。このような反応経路から、本実施形態における酸化的脱水素反応は、酸素存在下(酸素含有雰囲気下)で実施される。このとき、反応雰囲気の酸素濃度は、例えば1〜50体積%であってよく、5〜25体積%であってよい。
【0046】
原料ガス中のモノオレフィンの含有量は、原料ガスに含まれる全成分の合計に対して、1モル%以上であってよく、5モル%以上であってよい。また、上記モノオレフィンの含有量は、80モル%以下であってよく、50モル%以下であってよい。
【0047】
酸化的脱水素反応の反応条件は特に制限されず、例えば、以下の条件であってよい。反応温度は、例えば250〜650℃であってよく、400〜500℃であってよい。原料ガスの空間速度は、例えば300〜10000h
−1であってよく、3000〜8000h
−1であってよい。酸化的脱水素反応は、常圧下で行ってよく、加圧下又は減圧下で行ってもよい。反応方式についても特に制限はなく、例えば、固定床式、移動床式又は流動床式であってよい。
【0048】
本実施形態に係るジエンの製造方法は、酸化的脱水素反応に使用後の脱水素触媒を、再生ガスで再生する再生工程を更に含んでいても良い。再生工程に用いる再生ガスは、酸素濃度が5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましい。なお、再生ガスの酸素濃度は、80%以下であってよく、50%以下であってよい。
【0049】
再生ガスは、分子状酸素以外の成分を含んでいてよい。例えば、再生ガスは、窒素、ヘリウム、アルゴン、炭酸ガス等の不活性ガスをさらに含んでいてよい。再生工程は、例えば、脱水素触媒が充填された反応器に再生ガスを流通させて実施してよい。
【0050】
再生条件は特に制限されず、例えば以下の条件であってよい。再生温度は、例えば250〜1000℃であってよく、400〜600℃であってよい。再生ガスの空間速度は、例えば300〜10000h
−1であってよく、3000〜8000h
−1であってよい。
【0051】
一態様において、脱水素工程では、酸化的脱水素反応によってジエンを含む生成ガスが得られる。当該生成ガスには、ジエン以外の成分が含まれていてよく、例えば、未反応のモノオレフィンが含まれていてよい。未反応のモノオレフィンは、他の反応に利用してもよく、脱水素工程に再利用してもよい。
【0052】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0054】
(調製例1)
クエン酸5.76gを純水20mLに溶解し、モル比でV:Mg:Fe=20:30:1となるように、NH
4VO
3を1.17g、Mg(NO
3)
2・6H
2Oを3.85g、Fe(NO
3)
3・9H
2Oを0.20g加えて溶解し、一晩撹拌した。その後80℃のオイルバスで蒸発乾固し、マッフル炉で空気流通下、3時間かけて300℃まで昇温し、300℃で5時間焼成した。その後、8時間かけて600℃まで昇温し、600℃で15時間焼成して、脱水素触媒(以下、触媒A1)を得た。得られた触媒A1についてX線回折スペクトルを測定し、触媒A1が複合酸化物(Mg
3V
2O
8)を含むことを確認した。
【0055】
(調製例2)
クエン酸の添加量を6.78gとし、モル比でV:Mg:Fe=20:30:10となるようにFe(NO
3)
3・9H
2Oの添加量を2.02gとしたこと以外は、調製例1と同様にして脱水素触媒(触媒A2)を調製した。得られた触媒A2についてX線回折スペクトルを測定し、触媒A2が複合酸化物(Mg
3V
2O
8)を含むことを確認した。
【0056】
(調製例3)
クエン酸の添加量を7.34gとし、モル比でV:Mg:Fe=20:30:15となるようにFe(NO
3)
3・9H
2Oの添加量を3.03gとしたこと以外は、調製例1と同様にして脱水素触媒(触媒A3)を調製した。得られた触媒A3についてX線回折スペクトルを測定し、触媒A3が複合酸化物(Mg
3V
2O
8)を含むことを確認した。
【0057】
(調製例4)
焼成条件を、3時間かけて300℃まで昇温して300℃で5時間焼成し、その後、8時間かけて800℃まで昇温して800℃で15時間焼成する条件に変更したこと以外は、調製例2と同様にして脱水素触媒(A4)を調製した。得られた触媒A4についてX線回折スペクトルを測定し、触媒A4が複合酸化物(Mg
3V
2O
8)を含むことを確認した。
【0058】
(調製例5)
クエン酸の添加量を7.34gとし、Fe(NO
3)
3・9H
2Oを添加せずにモル比V:Mg:Fe=20:30:0としたこと以外は、調製例1と同様にして脱水素触媒(触媒B1)を調製した。得られた触媒B1についてX線回折スペクトルを測定し、触媒B1が複合酸化物(Mg
3V
2O
8)を含むことを確認した。
【0059】
(実施例1)
調製例1で得られた触媒A1の粒径を0.15〜0.2mmにそろえたものを200g準備し、管型反応器に充填した。管型反応器に、1−ブテン/酸素/アルゴン=5/2.5/22.5(モル比)の組成の原料ガスを2500hr
−1の空間速度(SV)で流通させ、反応温度480℃で酸化的脱水素反応を行った。管型反応器から生成ガスを回収し、ガスクロマトグラフィーで生成ガス中の成分分析を行い、酸化的脱水素反応におけるブテン転化率、ジエン選択率、及びジエン収率を求めた。成分分析は、反応開始20分後〜100分後までの間で複数回行った。
【0060】
なお、ここで、ブテン転化率、ジエン選択率及びジエン収率は、それぞれ下記式(i)、(ii)及び(iii)で求められる。
ブテン転化率(モル%)={1−(生成ガス中の1−ブテンのモル数)/(供給した1−ブテンのモル数)}×100 …(i)
ジエン選択率(モル%)=(生成ガス中のブタジエンのモル数)/{(供給した1−ブテンのモル数)−(生成ガス中の1−ブテンのモル数)}×100 …(ii)
ジエン収率(モル%)=(生成ガス中のブタジエンのモル数)/(供給した1−ブテンのモル数)×100 …(iii)
【0061】
(実施例2〜4)
触媒A1を、触媒A2(実施例2)、触媒A3(実施例3)又は触媒A4(実施例4)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして酸化的脱水素反応を行い、ブテン転化率、ジエン選択率及びジエン収率を求めた。実施例2及び3では、反応開始20分後〜100分後までの間で複数回、成分分析を行った。実施例4では、反応開始20分後〜480分後までの間で複数回、成分分析を行った。
【0062】
(比較例1)
触媒A1を、触媒B1に変更したこと以外は、実施例1と同様にして酸化的脱水素反応を行い、ブテン転化率、ジエン選択率及びジエン収率を求めた。成分分析は、反応開始20分後〜100分後までの間で複数回行った。
【0063】
実施例1〜4及び比較例1の結果を表1〜5に示す。なお、表中、「Fe比」は、バナジウム及びモリブデンの合計に対する鉄のモル比(%)を示す。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】
【0067】
【表4】
【0068】
【表5】