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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-81852(P2017-81852A)
(43)【公開日】2017年5月18日
(54)【発明の名称】抗菌剤および抗菌剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 37/34 20060101AFI20170414BHJP
   A01N 61/00 20060101ALI20170414BHJP
   A01N 25/12 20060101ALI20170414BHJP
   A01N 25/30 20060101ALI20170414BHJP
【FI】
   A01N37/34 101
   A01N61/00 D
   A01N25/12 101
   A01N25/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-212142(P2015-212142)
(22)【出願日】2015年10月28日
(71)【出願人】
【識別番号】000109233
【氏名又は名称】チカミミルテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】千頭 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】飯田 大介
(72)【発明者】
【氏名】岡田 純
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA02
4H011BA05
4H011BB06
4H011BB19
4H011BC07
4H011BC08
4H011DA15
4H011DH02
(57)【要約】
【課題】抗菌力を大幅に向上させ、かつ抗菌剤の低濃度化およびコストダウンが図れる抗菌剤およびその製造方法を提供する。
【解決手段】平均粒子径を10〜50nmとしたシアノアクリレートポリマー粒子を有効成分として含有する抗菌剤、および、シアノアクリレートモノマーおよび界面活性剤の共存下において、前記シアノアクリレートモノマーをアニオン重合させる工程を行うことにより製造される抗菌剤の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径を10〜50nmとしたシアノアクリレートポリマー粒子を有効成分として含有する抗菌剤。
【請求項2】
シアノアクリレートモノマーおよび界面活性剤の共存下において、前記シアノアクリレートモノマーをアニオン重合させることにより製造される請求項1に記載の抗菌剤。
【請求項3】
前記シアノアクリレートモノマーがブチルシアノアクリレートである請求項2に記載の抗菌剤。
【請求項4】
前記界面活性剤がノニオン界面活性剤およびアニオン界面活性剤の少なくとも何れかである請求項2または3に記載の抗菌剤。
【請求項5】
前記界面活性剤がノニオン界面活性剤およびアニオン界面活性剤を併用したものである請求項4に記載の抗菌剤。
【請求項6】
シアノアクリレートモノマーおよび界面活性剤の共存下において、前記シアノアクリレートモノマーをアニオン重合させる工程を行うことにより製造される抗菌剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シアノアクリレートポリマー粒子を有効成分として含有する抗菌剤およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、グラム陽性菌などの細菌に対する抗菌効果を有する抗菌剤として、例えば以下の技術が知られていた。
【0003】
特許文献1には、バンコマイシン耐性グラム陽性細菌用抗菌剤として、抗生物質を抱合するシアノアクリレートポリマー粒子を有効成分として含有する抗菌剤が記載してある。シアノアクリレートポリマー粒子は、例えば外科領域において傷口の縫合のための接着剤として用いられているシアノアクリレート系モノマーをアニオン重合させたものである。シアノアクリレート系ポリマー粒子は多孔性であり、内部に所望の物質を抱合させることが可能である。特許文献1の抗菌剤では、シアノアクリレート系ポリマー粒子に抗生物質を抱合させることにより、種々の抗生物質に耐性を獲得し、当該抗生物質の投与では抗菌不可能となったバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)に対しても、抗生物質の抗菌作用が発揮され、VREの増殖を抑制できるようになっている。
【0004】
特許文献2には、クマザサ葉抽出物を有効成分として含むグラム陽性細菌用抗菌剤が記載してある。クマザサ葉抽出物は、グラム陰性細菌である大腸菌や緑膿菌に対しては抗菌活性を示さず、グラム陽性細菌に対して抗菌活性を示すとされている。
【0005】
一方、シアノアクリレートポリマー粒子は抗菌剤以外にも使用されていることが公知である。例えば特許文献3には、シアノアクリレートモノマーをアミノ酸の共存下でアニオン重合させることにより、アミノ酸を抱合したナノサイズ(平均粒子径1000nm未満)のシアノアクリレートポリマー粒子を合成したことが記載してある。特許文献3のアミノ酸抱合粒子は、がん細胞に対してアポトーシス様の細胞死を誘導してがん細胞を障害できるため、がんの治療と予防に有用であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2008/126846号
【特許文献2】特開2010−59100号公報
【特許文献3】国際公開第2010/101178号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献1〜3に記載された抗菌剤より、抗菌力を大幅に向上させ、かつ抗菌剤の低濃度化およびコストダウンが図れる抗菌剤があれば望ましい。
【0008】
従って、本発明の目的は、抗菌力を大幅に向上させ、かつ抗菌剤の低濃度化およびコストダウンが図れる抗菌剤およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明に係る抗菌剤の第一特徴構成は、平均粒子径を10〜50nmとしたシアノアクリレートポリマー粒子を有効成分として含有する点にある。
【0010】
本構成によれば、有効成分として平均粒子径を10〜50nmとしたシアノアクリレートポリマー粒子を含有するものであれば、粒子分散液、粒子状、粒状等の態様で抗菌剤として供することができる。
【0011】
本構成のように、シアノアクリレートポリマー粒子の平均粒子径を10〜50nm程度まで微細化したものとすれば、シアノアクリレートポリマー粒子の比表面積を大幅に増大させることができ、同一濃度においてシアノアクリレートポリマー粒子の数を増加させることができるため、抗菌力を大幅に向上させることができる。抗菌力を維持したい場合は抗菌剤の濃度を下げることができるため、コストダウンを図ることができる。
【0012】
さらに、このような微細化により、シアノアクリレートポリマー粒子の分散液の透明度を向上させることができ、シアノアクリレートポリマー粒子の分散液を噴霧するときに使用するスプレーノズルが詰まり難くなる。当該分散液の透明度が向上することにより、実際に液中に本発明の抗菌剤を適用するときに有効である。例えば、魚類の養殖や飼育において、液中にて抗菌剤を適用すれば、透明度が向上するため、魚類のストレスを軽減することができ、さらに観賞用魚の水槽内等の液中の様子が見易くなる。また、仮に本発明の抗菌剤より平均粒子径の大きな抗菌剤を水槽で使用した場合、魚類のエラに粒度の大きな抗菌剤が侵入して粘液を分泌してエラが詰まり、やがて魚類は衰弱し死に至る虞がある。しかし、本発明のように平均粒子径を10〜50nm程度まで微細化した抗菌剤を適用すると、魚類が粘液を分泌し難くなるため、魚類は衰弱するのを未然に防止できる。
【0013】
このようなシアノアクリレートポリマー粒子を有効成分とすることで、グラム陽性菌の他、平均粒子径を10〜50nm程度まで微細化することでグラム陰性菌の外膜を通過することができると考えられるため、従来(例えば特許文献1)では抗菌効果の認められなかったグラム陰性菌(大腸菌、レジオネラ菌、緑膿菌、サルモネラ菌、肺炎桿菌等)にも抗菌性を有することが期待される。
【0014】
本発明の抗菌剤は、シアノアクリレートポリマー粒子の濃度を変えることにより抗菌力をコントロールすることができる。これにより種々の菌に対し抗菌性能を発揮することができる。
【0015】
さらに、本発明の抗菌剤を有する分散液を不織布等に塗布して作製されたシートは、種々の菌に対し抗菌性能を発揮する抗菌性シートとして利用することができる。当該抗菌性シートの抗菌性は、安全性に優れ、緩やかに長時間持続する。
【0016】
本発明に係る抗菌剤の第二特徴構成は、シアノアクリレートモノマーおよび界面活性剤の共存下において、前記シアノアクリレートモノマーをアニオン重合させた点にある。
【0017】
本構成によれば、界面活性剤を使用することで、シアノアクリレートモノマーがアニオン重合し、シアノアクリレートポリマー粒子を合成して、本発明の抗菌剤を製造することができる。
【0018】
本発明に係る抗菌剤の第三特徴構成は、前記シアノアクリレートモノマーをブチルシアノアクリレートとした点にある。
【0019】
本構成によれば、外科領域において傷口の縫合のための医薬品登録された接着剤として用いられているブチルシアノアクリレートを原料として使用するため、取り扱いに優れている。
【0020】
本発明に係る抗菌剤の第四特徴構成は、前記界面活性剤をノニオン界面活性剤およびアニオン界面活性剤の少なくとも何れかとした点にある。
【0021】
本構成では、シアノアクリレートポリマー粒子の経時的な凝集が起こり難くなり、シアノアクリレートポリマー粒子の分散液の透明度をより向上させることができる。
【0022】
本発明に係る抗菌剤の第五特徴構成は、前記界面活性剤がノニオン界面活性剤およびアニオン界面活性剤を併用したものとした点にある。
【0023】
本構成では、シアノアクリレートポリマー粒子の経時的な凝集がより起こり難くなり、シアノアクリレートポリマー粒子の分散液の透明度を更に向上させることができる。
【0024】
本発明に係る抗菌剤の製造方法の特徴手段は、シアノアクリレートモノマーおよび界面活性剤の共存下において、前記シアノアクリレートモノマーをアニオン重合させる工程を行うことにより製造される点にある。
【0025】
本手段によれば、界面活性剤を使用することで、シアノアクリレートモノマーがアニオン重合し、平均粒子径が10〜50nmであるシアノアクリレートポリマー粒子を合成して、本発明の抗菌剤を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】ノニオン界面活性剤を添加したときに得られたシアノアクリレートポリマー粒子の粒子径の正規分布の結果を示したグラフである。
図2】シアノアクリレートポリマー粒子分散液の写真図である。
図3】ノニオン界面活性剤およびアニオン界面活性剤を添加したときに得られたシアノアクリレートポリマー粒子の粒子径の正規分布の結果を示したグラフである。
図4】バチルス属の細菌に対する抗菌効果について調べた結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
本発明の抗菌剤は、平均粒子径が10〜50nmであるシアノアクリレートポリマー粒子を有効成分として含有する。
【0028】
本発明における抗菌剤は、上記平均粒子径を有するシアノアクリレートポリマー粒子を含有するものであれば、粒子分散液、粒子状、粒状等、どのような態様であってもよい。分散液は、懸濁液やコロイド液等の態様を取り得るが、これらに限定されるものではない。
【0029】
シアノアクリレートポリマー部分は、シアノアクリレートモノマーをアニオン重合して得られる。用いられるシアノアクリレートモノマーは、アルキルシアノアクリレートモノマー(アルキル基の炭素数は好ましくは1〜8)が好ましく、特に外科領域において傷口の縫合のための接着剤として用いられており、下記の化1の式で表されるブチルシアノアクリレートとするのがよい。
【0030】
【化1】
【0031】
シアノアクリレートモノマーは、イソブチルシアノアクリレート、n−ブチル−2−シアノアクリレート、sec-ブチルシアノアクリレート、tert-ブチルシアノアクリレート等のブチルシアノアクリレートを使用することができ、さらにメチルシアノアクリレート、エチルシアノアクリレート(つけまつげ用接着剤)、プロピルシアノアクリレート等、他のアルキルシアノアクリレートを選択しても良い。特に、イソブチルシアノアクリレート、n-ブチル−2−シアノアクリレート、エチルシアノアクリレートであれば、安全性に優れている。
【0032】
アニオン重合では、重合安定化のために界面活性剤を使用する。即ち、本発明の「シアノアクリレートポリマー粒子」には、界面活性剤のような重合安定剤を含むものも包含される。
【0033】
界面活性剤としてはノニオン界面活性剤やイオン性界面活性剤を使用することができるが、これらに限定されるものではない。当該イオン性界面活性剤はアニオン界面活性剤を使用するのが好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0034】
ノニオン界面活性剤として、例えばポリソルベート類(Tween20、40、60、80等)が使用でき、アニオン界面活性剤として、例えばアルキルベンゼンスルホン酸或いはその塩、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウレス硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、1−ペンタンスルホン酸ナトリウム、1−デカンスルホン酸ナトリウム等が使用できるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
ノニオン界面活性剤およびアニオン界面活性剤は同時に使用してもよい。このときアニオン界面活性剤はノニオン界面活性剤より少量(10分の1程度)とするのがよい。
【0036】
ノニオン界面活性剤およびアニオン界面活性剤を併用することにより、シアノアクリレートポリマー粒子の経時的な凝集が起こり難くなる。この併用の目的は、平均粒子径を小さくするにはノニオン界面活性剤がより効果的で、また粒子の凝集を抑制するにはアニオン界面活性剤がより効果的であることを利用することにある。つまり、アニオン界面活性剤を併用する理由は、シアノアクリレートポリマー粒子はアニオン重合により生成するため、当該シアノアクリレートポリマー粒子自身がアニオン性を有し、アニオン界面活性剤を使用することにより、シアノアクリレートポリマー粒子同士が反発し合って凝集を防ぐものと推察される。また、アニオン界面活性剤は、重合開始時および重合終了後の何れの段階において使用(投入)しても良い。
【0037】
また、上述した界面活性剤に、ポリエチレングリコールや糖類等、アニオン重合の重合安定化の機能を有するものを組み合わせて用いることもできる。
【0038】
糖類は特に限定されず、水酸基を有する単糖類、水酸基を有する二糖類及び水酸基を有する多糖類のいずれであってもよいが、特に多糖類とするのがよい。単糖類としては、例えばグルコース、マンノース、リボース及びフルクトース等が挙げられ、グルコースが好ましい。二糖類としては、例えばマルトース、トレハロース、ラクトース及びスクロース等が挙げられる。多糖類としては、従来公知のシアノアクリレートポリマー粒子の重合に用いられているデキストランや、マンナン等を用いることができる。これらの糖は、環状、鎖状のいずれの形態であってもよく、また、環状の場合、ピラノース型やフラノース型等のいずれであってもよい。また、糖には種々の異性体が存在するがそれらのいずれでもよい。通常、単糖は、ピラノース型又はフラノース型の形態で存在し、二糖は、それらがα結合又はβ結合したものであり、このような通常の形態にある糖をそのまま用いることができる。上記した糖類のうちデキストランが好ましく、デキストランとしては、平均分子量1万〜50万程度の重合度であるデキストランが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0039】
シアノアクリレートポリマー粒子は多孔性であり、内部に所望の物質を抱合させることが可能である。シアノアクリレートポリマー粒子を形成した後、シアノアクリレートポリマー粒子を所望の物質の水溶液中に浸漬する或いは所望の物質を添加する等によりシアノアクリレートポリマー粒子の内部に所望の物質を抱合させてもよいし、所望の物質の共存下において、上記したアニオン重合を行なうことにより、生成される粒子中に所望の物質を抱合させてもよい。例えばシアノアクリレートポリマー粒子にアミノ酸を抱合させることが可能である。抱合とは、例えば親水性の分子に外来の物質が保持される状態のことをいう。
また、このようにシアノアクリレートポリマー粒子にアミノ酸を抱合させる態様に限定されず、シアノアクリレートポリマー粒子およびアミノ酸が混合している態様とするものであってもよい。当該混合とは、シアノアクリレートポリマー粒子およびアミノ酸が共存し混じりあっている態様であればよい。
【0040】
アミノ酸は、例えばグリシンやアスパラギン酸等を使用することができるがこれらに限定されるものではない。
【0041】
重合反応の溶媒としては、水を使用することができる。水は、要求される純度が異なる製品用途に応じて精製水、イオン交換水、蒸留水、純水、水道水、地下水等を適宜選択すればよい。また、重合反応の溶媒に反応速度を調整するために塩酸を加えてもよい。このとき、塩酸の濃度は0.0005〜0.5moL/Lとすればよい。塩酸以外に硫酸、硝酸等を加えてもよく、酸性を示すものであれば無機酸以外にグリコール酸、フマル酸等の有機酸であっても良い。
【0042】
本発明の抗菌剤は、シアノアクリレートモノマーおよび界面活性剤の共存下において、シアノアクリレートモノマーをアニオン重合させる工程を行うことにより製造することができる。具体的には、重合反応は、例えば、溶媒である水に重合安定剤である界面活性剤を溶解させた後、撹拌下にてシアノアクリレートモノマーを加え、撹拌を続けることにより行なうことができる。反応温度は、特に限定されないが、室温で行なうのがよい。反応時間は、反応液のpH、溶媒の種類及び重合安定剤の濃度に応じて反応速度が異なり、これらの要素に応じて適宜選択すればよいため特に限定されないが、通常、1〜6時間程度である。
【0043】
反応開始時の重合反応液中のシアノアクリレートモノマーの濃度は特に限定されないが、通常、0.01〜5%程度、好ましくは0.1〜3%程度である。反応開始時の重合反応液中の界面活性剤の濃度は、特に限定されないが、通常、0.01〜5%程度、好ましくは0.1〜3%程度である。反応開始時の重合反応液中の糖類の濃度は、特に限定されないが、通常、0.01〜5%程度、好ましくは0.1〜3%程度である。
【0044】
上述した重合反応により、シアノアクリレートモノマーがアニオン重合し、平均粒子径が10〜50nmであるシアノアクリレートポリマー粒子を合成して、本発明の抗菌剤を製造することができる。
【0045】
重合反応の結果、合成されたシアノアクリレートポリマー粒子は、溶媒中に分散した粒子分散液の状態で抗菌剤として供することができる。得られた粒子分散液は、保存時に粒子径分布の経時的変化がほとんどなく、静置保存しても粒子が凝集・沈降することがなく、分散安定性に優れる。このときシアノアクリレートポリマー粒子の濃度は、0.01wt%〜5wt%程度、好ましくは0.05wt%〜3wt%程度、さらに好ましくは0.1wt%〜2wt%程度とすればよい。
【0046】
また、合成されたシアノアクリレートポリマー粒子は、遠心式限外濾過等の常法の濾過により回収して、粒子状或いは粒状の状態で抗菌剤として供することができる。さらに、濾過によって回収したシアノアクリレートポリマー粒子を、水などの溶媒に分散させた粒子分散液の状態で抗菌剤として供することができる。
【0047】
合成されたシアノアクリレートポリマー粒子の粒径は、反応液中のシアノアクリレートモノマーの濃度や反応時間を調節することにより調節することが可能である。また、重合安定剤として界面活性剤を用いると、当該重合安定剤の濃度や種類を変えることによっても、粒子サイズを調節することができる。界面活性剤の存在下において、前記シアノアクリレートモノマーをアニオン重合させた場合は、シアノアクリレートポリマー粒子の平均粒子径を10〜50nm程度まで微細化することができる。
【0048】
アニオン重合は水酸化物イオンにより開始されるので、反応液のpHは、重合速度に影響する。反応液のpHが高い場合には、水酸イオンの濃度が高くなるので重合が速く、pHが低い場合には重合が遅くなる。そのため、pHを1〜4程度とするのがよい。また、当該粒子分散液は、シアノアクリレートポリマー粒子の平均粒子径が小さいため光の透過性に優れ、透明度が高くなる。このように高い透明度を有する粒子分散液は、従来の乳白色の分散液と比べて使用に際しての違和感が少なくなる。
【0049】
本発明の抗菌剤は、グラム陽性菌のペプチドグリカン層を持つ細胞壁にシアノアクリレートポリマー粒子が接合することにより、その接合部分と非接合部分の細胞成長バランスが崩れ自己融解(溶菌)を誘導する作用メカニズムをもつことにより溶菌させることができる。
【0050】
また、本発明の抗菌剤は、従来(例えば特許文献1)では抗菌効果の認められなかったグラム陰性菌にも抗菌性を有することが期待される。これは、平均粒子径が小さくなる(従来の10分の1程度)ことにより、グラム陰性菌細胞のリポ多糖により構成される外膜(莢膜)を通過してペプチドグリカン層に到達し、その表面に接合することにより発現されるものと考えられる。さらに、粒子分散液に含まれる界面活性剤がグラム陰性菌細胞のリポ多糖により構成される外膜(莢膜)に作用して当該外膜の破壊を引き起こし、その内側にあるペプチドグリカン層に到達し、その表面に接合する相乗効果により、自己融解を誘導し溶菌させることも考えられる。
【0051】
本発明の抗菌剤が抗菌効果を有する対象菌種としては、例えば細胞壁を合成する細菌であるグラム陰性細菌やグラム陽性細菌等が挙げられるが、これらに限定されない。グラム陰性細菌の具体例としては、大腸菌、レジオネラ菌、緑膿菌、サルモネラ菌、肺炎桿菌等が挙げられ、グラム陽性細菌としては、黄色ブドウ球菌(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA))、腸球菌(バンコマイシン耐性腸球菌(VRE))、レンサ球菌(肺炎レンサ球菌、口腔レンサ球菌、化膿レンサ球菌、ペプトストレプトコッカス属細菌等)、ジフテリア菌、プロピオニバクテリウム・アクネス、抗酸菌(結核菌、非結核性抗酸菌等)等が挙げられるが、これらに限定されない。さらにインフルエンザウイルスやヘルペスウイルス等のウイルスに対しても抗菌効果が期待できる。
【0052】
また、本発明の抗菌剤は、藻類にも抗菌効果が期待できる。
【0053】
また、本発明の抗菌剤を有する分散液を不織布等に塗布して作製されたシートをフェイスマスクに利用すれば、雑菌に対する抗菌効果に加え、にきびの予防や治療にも役立つ。さらに当該シートは寝たきり患者等の床ずれ予防の貼付剤としても利用できる。
【実施例】
【0054】
〔実施例1〕
本発明の実施例について説明する。
500mLの容器に入れた精製水200gに、5規定塩酸0.4mL(和光純薬工業株式会社製)、ノニオン界面活性剤としてTween20 2.0mL(シグマアルドリッチジャパン合同会社製)を溶解させ、さらにイソブチルシアノアクリレート2.0g(東亞合成株式会社製:♯501)を滴下しマグネチックスターラー(AS ONE社製 RS−1DN)を使用して、室温下で600rpm、2時間の条件により重合反応を行った。反応液は5.0μmサイズのメンブレンフィルター(ザルトリウス社製:ミニザルト)にて濾過し、1.0wt%のシアノアクリレートポリマー粒子分散液を作製した。
【0055】
このとき得られたシアノアクリレートポリマー粒子(本発明例1)の粒子径は、ゼータサイザー(Malvern社製 Nano−ZS90)を用いて常法により測定した。当該粒子径の正規分布の結果を図1に示した。この結果、本発明例1におけるシアノアクリレートポリマー粒子は、約10〜50nmにおいて、シャープな分布をしているものと認められた。本発明例1のシアノアクリレートポリマー粒子の平均粒子径は25nmであった。また、比較例として、アミノ酸(グリシン)を抱合させたシアノアクリレートポリマー粒子の分散液(0.1wt%)(比較例1:例えば特許文献3)において、粒子径を測定した。この結果、比較例1のシアノアクリレートポリマー粒子の平均粒子径は220nmであった。
【0056】
図2に本実施例で得られたシアノアクリレートポリマー粒子分散液(本発明例1)の写真図を示した。紙面左側の従来(比較例1)の分散液は乳白色に懸濁した状態であるが、本発明例1の分散液は透明度が高い状態であると認められた。これは、本実施例で得られたシアノアクリレートポリマー粒子の平均粒子径が25nmと非常に微細であるため、透明度が向上したと考えられる。
〔実施例2〕
500mLの容器に入れた精製水200gに、5規定塩酸0.4mL(和光純薬工業株式会社製)、ノニオン界面活性剤としてTween20 2.0mL(シグマアルドリッチジャパン合同会社製)と、アニオン界面活性剤としてネオペレックスG−15 1.5mL(花王株式会社製:アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム16%相当)とを溶解させ、さらにイソブチルシアノアクリレート2.0g(東亞合成株式会社製:♯501)を滴下しマグネチックスターラー(AS ONE社製 RS−1DN)を使用して、室温下で600rpm、2時間の条件により重合反応を行った。反応液は5.0μmサイズのメンブレンフィルター(ザルトリウス社製:ミニザルト)にて濾過し、1.0wt%のシアノアクリレートポリマー粒子分散液を作製した。
【0057】
このとき得られたシアノアクリレートポリマー粒子(本発明例2)の粒子径は、ゼータサイザー(Malvern社製 Nano−ZS90)を用いて常法により測定した。当該粒子径の正規分布の結果を図3に示した。この結果、本発明例2におけるシアノアクリレートポリマー粒子は、約20〜70nmにおいて、シャープな分布をしているものと認められた。本発明例2のシアノアクリレートポリマー粒子の平均粒子径は27nmであった。
【0058】
〔実施例3〕
実施例1においてノニオン界面活性剤を添加して作製したシアノアクリレートポリマー粒子分散液(本発明例1:平均粒子径25nm、40mg/L)について、バチルス属(Bacillus subtilis ISW 1214株)の細菌に対する抗菌効果について調べた。コントロールは比較例1のシアノアクリレートポリマー粒子の分散液を使用した。
【0059】
濁度0.05程度の菌液を本発明例1および比較例1の分散液に接種後、30℃にて約8時間放置し、分散液の濁度を調べた。結果を図4に示した。
【0060】
その結果、コントロールである比較例1の分散液では、4時間経過後の濁度は1以上にまで上昇したが、本発明例1の分散液では、約4〜8時間経過した後であっても、実験開始後の濁度を下回っているため、特に優れた抗菌性を有するものと認められた。
【0061】
〔実施例4〕
500mLの容器に入れた精製水200gに、5規定塩酸0.4mL(和光純薬工業株式会社製)、ノニオン界面活性剤としてTween20 2.0mL(シグマアルドリッチジャパン合同会社製)、アニオン界面活性剤としてネオペレックスG−15 1.5mL(花王株式会社製:アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム16%相当)、糖類としてデキストラン1.6g(和光純薬工業株式会社製)を溶解させ、さらにイソブチルシアノアクリレート2.0g(東亞合成株式会社製:♯501)を滴下してマグネチックスターラー(AS ONE社製 RS−1DN)を使用して、室温下で600rpm、2時間の条件により重合反応を行った。反応液は5.0μmサイズのメンブレンフィルター(ザルトリウス社製:ミニザルト)にて濾過し、1.0wt%のシアノアクリレートポリマー粒子分散液を作製した。
【0062】
このとき得られた粒子の平均粒子径は、ゼータサイザー(Malvern社製 Nano−ZS90)を用いて常法により測定したところ、46nmであった(結果は示さない)。
【0063】
〔実施例5〕
500mLの容器に入れた精製水200gに、5規定塩酸0.4mL(和光純薬工業株式会社製)、ノニオン界面活性剤としてTween20 2.0mL(シグマアルドリッチジャパン合同会社製)、アニオン界面活性剤としてネオペレックスG−15 1.5mL(花王株式会社製:アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム16%相当)、糖類としてデキストラン1.6g(和光純薬工業株式会社製)、アミノ酸としてグリシン0.4g(和光純薬工業株式会社製)を溶解させ、さらにイソブチルシアノアクリレート2.0g(東亞合成株式会社製:♯501)を滴下してマグネチックスターラー(AS ONE社製 RS−1DN)を使用して、室温下で600rpm、2時間の条件により重合反応を行った。反応液は5.0μmサイズのメンブレンフィルター(ザルトリウス社製:ミニザルト)にて濾過し、1.0wt%のシアノアクリレートポリマー粒子分散液を作製した。
【0064】
このとき得られた粒子の平均粒子径は、ゼータサイザー(Malvern社製 Nano−ZS90)を用いて常法により測定したところ、29nmであった(結果は示さない)。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、シアノアクリレートポリマー粒子を有効成分として含有する抗菌剤およびその製造方法に利用できる。
図1
図2
図3
図4