特開2017-81889(P2017-81889A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-81889(P2017-81889A)
(43)【公開日】2017年5月18日
(54)【発明の名称】フッ素含有芳香族化合物
(51)【国際特許分類】
   C07C 22/08 20060101AFI20170414BHJP
   C08F 259/08 20060101ALI20170414BHJP
   C07C 43/29 20060101ALI20170414BHJP
【FI】
   C07C22/08CSP
   C08F259/08
   C07C43/29 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-221618(P2015-221618)
(22)【出願日】2015年11月11日
(62)【分割の表示】特願2015-539974(P2015-539974)の分割
【原出願日】2015年7月31日
(31)【優先権主張番号】特願2014-157875(P2014-157875)
(32)【優先日】2014年8月1日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-22365(P2015-22365)
(32)【優先日】2015年2月6日
(33)【優先権主張国】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】000110804
【氏名又は名称】ニチアス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591180358
【氏名又は名称】東ソ−・エフテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086759
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 喜平
(74)【代理人】
【識別番号】100112977
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 有子
(72)【発明者】
【氏名】清水 智也
(72)【発明者】
【氏名】前澤 亜由美
(72)【発明者】
【氏名】関元 友理子
【テーマコード(参考)】
4H006
4J026
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AB46
4H006EA22
4H006GP06
4J026AA26
4J026AC06
4J026AC25
4J026AC32
4J026BA08
4J026BB01
4J026GA10
(57)【要約】      (修正有)
【課題】架橋剤として使用できる新規なフッ素含有芳香族化合物を提供。
【解決手段】下記式で表される化合物など。



【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式で表される化合物。
【化19】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素含有芳香族化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
水蒸気は、プラント、機械、食品、医療等様々な産業において、発電用途のほか、除菌や洗浄等様々な用途で使用されている。ゴムOリング等のシール材は、これら水蒸気が流れる配管や装置に用いられ、水蒸気が外部に流出するのを防ぐ役割を果たしている。
【0003】
近年発電プラントでは、発電効率の向上を狙って、水蒸気の温度を従来よりも上げる傾向にあり、これに伴い、シール材にも高温水蒸気性が求められるようになってきている。このようなケースでは、フッ素ゴムやパーフルオロゴム等の架橋フルオロエラストマー製のシール材が用いられる。ところが、これら架橋フルオロエラストマー製のシール材は、耐蒸気性が劣る場合があり、改善が求められている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
架橋フルオロエラストマーの製造には架橋剤が用いられ、様々な架橋剤が知られている。例えば、トリアリルイソシアヌラート(TAIC)が一般的によく知られており(例えば、特許文献2〜6参照)、さらに、ジビニルベンゼン(例えば、特許文献2〜5参照)、ジビニルビフェニル(例えば、特許文献5参照)等が挙げられる。
しかしながら、架橋フルオロエラストマーの耐熱性と耐蒸気性を、さらに改善し得る新規な架橋剤が求められていた。
【0005】
一方、特許文献6には、含フッ素エラストマーの原料モノマーとして、テトラフルオロエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテルが記載されている。
また、非特許文献1には、燃料電池分離膜として1,2,2−トリフルオロスチレン(パーフルオロビニルベンゼン)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−9010号公報
【特許文献2】特開2009−242782号公報
【特許文献3】特開平11−199743号公報
【特許文献4】国際公開第1998/036901号パンフレット
【特許文献5】特開2000−327846号公報
【特許文献6】特開2012−211347号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】A.Raghavanpillai,et al., J.Org.Chem.,2004,vol.69,pp.7083−7091
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであって、架橋剤として使用できる新規なフッ素含有芳香族化合物を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、フッ素含有芳香族化合物等が提供される。
1.下記式で表される化合物。
【化1】
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、架橋剤として使用できる新規なフッ素含有芳香族化合物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の一実施形態について説明する。尚、本発明は、本実施形態に限られるものではない。
【0012】
本発明の化合物は下記式で表される。
【化2】
【0013】
上記の化合物を組成物として用いる場合、組成物には、上記化合物、フルオロエラストマー及び開始剤を含有することができる。
【0014】
架橋剤は、フルオロエラストマー100gに対して、好ましくは0.5〜30mmol、より好ましくは0.5〜15mmol、より好ましくは1〜13mmol、より好ましくは1〜8mmol、さらに好ましくは2.0〜7.0mmol添加する。添加量が多い程、耐蒸気性、耐熱性が改善される傾向が有る。ただし多すぎると硬くなる恐れが有る。
【0015】
前記フルオロエラストマーは、パーフルオロエラストマーでもよく、また一部がフッ素化されているエラストマーでもよい。
例えば、以下のモノマー由来の繰返し単位を例示できる。1又は2以上のモノマー由来の繰返し単位を含むことができる。
CF=CH(ビニリデンフロライド)、
CF=CF(テトラフルオロエチレン)、
CF=CFCF(ヘキサフルオロプロピレン)、
CH=CH
CH=CHCH
【0016】
フルオロエラストマーは、架橋(硬化)の際のラジカルのアタック部位として、好ましくはヨウ素及び/又は臭素、より好ましくはヨウ素を含む。過酸化物により硬化可能なパーフルオロエラストマーは、例えば特許文献1等に記載されている。
【0017】
(パー)フルオロエラストマーは一般に、全ポリマー重量に関して0.001重量%〜5重量%、好ましくは0.01重量%〜2.5重量%でヨウ素を含む。ヨウ素原子は鎖に沿って及び/又は末端位に存在し得る。
【0018】
(パー)フルオロエラストマーは、好ましくは末端位に、エチレンタイプの1つの不飽和を有する(パー)フッ素化オレフィン等のコポリマーから製造される。
コモノマーとして以下を例示できる。
・ CF=CFOR2f (パー)フルオロアルキルビニルエーテル類(PAVE)
(式中、R2fは炭素数1〜6の(パー)フルオロアルキル、例えばトリフルオロメチル又はペンタフルオロプロピルである)
・ CF=CFOX (パー)フルオロオキシアルキルビニルエーテル類
(式中、Xは1以上のエーテル基を含む炭素数1〜12の(パー)フルオロオキシアルキル、例えばパーフルオロ−2−プロポキシプロピルである)
・ CFX=CXOCFOR’’ (I−B)
(式中、R’’は、炭素数2〜6の直鎖又は分枝(パー)フルオロアルキル、炭素数5,6の環状(パー)フルオロアルキル、又は酸素原子1〜3個を含む炭素数2〜6の直鎖又は分枝(パー)フルオロオキシアルキルであり、XはF又はHである)
【0019】
式(I−B)の(パー)フルオロビニルエーテル類は、好ましくは、以下の式で表わされる。
CFX=CXOCFOCFCFY (II−B)
(式中、YはF又はOCFであり、Xは上記で定義した通りである。)
【0020】
下記式のパーフルオロビニルエーテル類がより好ましい。
CF=CFOCFOCFCF (MOVE1)
CF=CFOCFOCFCFOCF (MOVE2)
【0021】
好ましいモノマー組成物として、以下を例示できる。
テトラフルオロエチレン(TFE) 50〜85モル%、PAVE 15〜50モル%;
TFE 50〜85モル%、MOVE 15〜50モル%。
【0022】
フルオロエラストマーは、ビニリデンフルオライド由来のユニット、塩素及び/又は臭素を含んでもよい炭素数3〜8のフルオロオレフィン類、炭素数3〜8の非フッ化オレフィン類を含むこともできる。
【0023】
架橋開始剤は、通常使用されるものを使用できる。例えば、過酸化物、アゾ化合物等を例示できる。
【0024】
架橋開始剤は、フルオロエラストマー100gに対して、好ましくは0.3〜35mmol、より好ましくは1〜15mmol、さらに好ましくは1.5〜10mmol添加する。添加量が多いほど、耐蒸気性、耐熱性が改善される傾向がある。ただし多すぎるとスコーチや発泡する恐れがある。
【0025】
上記組成物は、架橋補助剤を含んでいてもよい。
架橋補助剤としては、酸化亜鉛、活性アルミナ、酸化マグネシウム、第四級アンモニウム塩、第四級ホスホニウム塩、アミン等が挙げられる。架橋補助剤を含むことにより、架橋効率、耐熱性を向上できる。架橋補助剤は、フルオロエラストマー100gに対して、通常0.1〜10g添加する。
【0026】
上記フルオロエラストマー組成物には、機械的強度を高める目的で充填剤を配合することができる。充填剤は、本発明の効果を損なわない限り、エラストマーの充填剤として一般的に知られているものを使用できる。例えば、カーボンブラック、シリカ、硫酸バリウム、二酸化チタン、半晶質フルオロポリマー、パーフルオロポリマー等が挙げられる。
【0027】
また、必要に応じて、増粘剤、顔料、カップリング剤、酸化防止剤、安定剤等を適量配合することも可能である。
【0028】
上記の組成物を架橋させて、架橋フルオロエラストマーが得られる。
一段階加熱の場合は、架橋条件は、100〜250℃で10分〜5時間加熱するのが好ましい。
二段階加熱の場合は、通常、一次架橋として、金型に原料を入れプレス加工しながら架橋する。1次架橋は、例えば、150〜200℃で5〜60分加熱する。その後、金型から外して、2次架橋する。2次架橋は、例えば、150〜300℃で1〜100時間加熱する。架橋は電気炉等を用いて行うことができる。2次架橋で熱履歴を与えることにより、使用中の変形等を防ぐことができる。
【0029】
架橋は、不活性ガス雰囲気又は大気中で行ってよい。
不活性ガスとして、窒素、ヘリウム、アルゴン等を用いることができ、窒素が好ましい。不活性ガス雰囲気下において、酸素濃度は、好ましくは、10ppm以下、より好ましくは、5ppm以下である。
【0030】
上記の製法で得られる架橋フルオロエラストマーは、シール材として使用でき、ガスケット又はシールリング等の成形体にして使用できる。
【0031】
上記の製法によれば、実施例に記載の方法で測定した、300℃の飽和水蒸気に22時間晒す前後の重量膨潤変化率が、70%以下である成形体が得られる。重量膨潤変化率は好ましくは65%以下、より好ましくは55%以下である。
【0032】
また、上記の架橋フルオロエラストマー(成形体)は、330℃の環境に16時間暴露した前後の重量減少率(耐熱性)が、好ましくは7%以下、より好ましくは5%以下である。
【実施例】
【0033】
実施例1
[化合物1の合成]
以下の手順によって化合物1を合成した。
撹拌機を具備した500mL四つ口フラスコに、窒素雰囲気下で4,4’−ジブロモビフェニル(5.85g,18.8mmol)とテトラヒドロフラン(200mL)を仕込み、−78℃下で撹拌しながら、n−ブチルリチウムのn−ヘキサン溶液(1,6M,25.8mL,41.3mmol)をゆっくり滴下した。次いで、トリフルオロ酢酸エチル(11.73g,82.5mmol)をゆっくり滴下し、0℃まで昇温し、塩酸水溶液を加えて、有機層を分取した。得られた有機層を20%食塩水(50mL×3回)で水洗し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後に、ろ液を減圧濃縮した。得られた濃縮物をヘキサンで洗浄し、淡黄色固体の4,4’−ビス(トリフルオロアセチル)ビフェニルを6.17g得た。
【0034】
次いで、撹拌機を具備した300mL四つ口フラスコに、窒素雰囲気下でトリフェニルホスフィン(26.5g,101.0mmol)とテトラヒドロフラン(40mL)を仕込み撹拌しながら、0℃下でフルオロトリブロモメタン(19.2g,70.9mmol)を溶かしたテトラヒドロフラン溶液(20mL)をゆっくり滴下し、次いで4,4’−ビス(トリフルオロアセチル)ビフェニル(6.13g,17.7mmol)を溶かしたテトラヒドロフラン溶液(40mL)を滴下し、室温で5時間撹拌した。撹拌後、ヘキサン(100mL)を加え、析出固体を分離し、ろ液を20%食塩水(100mL×3回)で水洗し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後に、ろ液を減圧濃縮した。得られた濃縮物をシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、黄色固体の4,4’−ビス(1−トリフルオロメチル−2−フルオロ−2−ブロモビニル)ビフェニルを7.30g得た。
【0035】
次いで、撹拌機を具備した300mL四つ口フラスコに、窒素雰囲気下で前述の4,4’−ビス(1−トリフルオロメチル−2−フルオロ−2−ブロモビニル)ビフェニル(6.23g,11.6mmol)とテトラヒドロフラン(120mL)を仕込み撹拌しながら、−78〜−55℃下でn−ブチルリチウムのn−ヘキサン溶液(1,6M,15.7mL,25.1mmol)を滴下した。次いで、水(3.0g)を加えて室温まで昇温した後、有機層を20%食塩水(20mL×3回)で水洗し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後に、ろ液を減圧濃縮した。得られた濃縮物をシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、淡黄色オイル状の4,4’−ビス(1−トリフルオロメチル−2−フルオロビニル)ビフェニル(化合物1)を1.10g得た(単離収率=15%)。
【化3】
【0036】
得られた化合物は室温で液状であった。
また、得られた化合物について、GC−MS、H−NMR及び19F−NMRの測定を行った。結果を以下に示す。これらの結果より、化合物1は3種の異性体(E−E、E−Z、Z−Z)の混合物であることが分かった。混合比は、E−E:E−Z:Z−Z=29:53:18であった。
【0037】
測定に用いた装置は以下の通りである。
GC−MS:島津製作所製GCMS−QP2010Plus
H−NMR、19F−NMR:BRUKER社製AVANCE II 400
【0038】
GC−MS(m/z):377(M−1),358,338,309,287,269,238,220,189
【0039】
【化4】
H−NMR(Acetone−d,400MHz);7.37ppm(d,2H),7.52−7.57ppm(m,4H,Ar−H),7.79−7.85ppm(m,4H,Ar−H)
19F−NMR(Acetone−d,376MHz);−111.1ppm(ddd,2F),−57.6ppm(d,6F,CF
【0040】
【化5】
H−NMR(Acetone−d,400MHz);7.37ppm(d,1H),7.52−7.57ppm(m,4H,Ar−H),7.70ppm(d,1H),7.79−7.85ppm(m,4H,Ar−H)
19F−NMR(Acetone−d,376MHz);−121.9ppm(ddd,1F),−111.1ppm(ddd,1F),−61.6ppm(d,3F,CF3),−57.6ppm(d,3F,CF
【0041】
【化6】
H−NMR(Acetone−d,400MHz);7.52−7.57ppm(m,4H,Ar−H),7.70ppm(d,2H),7.79−7.85ppm(m,4H,Ar−H)
19F−NMR(Acetone−d,376MHz);−121.9ppm(ddd,2F),−61.6ppm(d,6F,CF
【0042】
[化合物1の評価]
以下の成分を混合して組成物を調製した。
・フルオロエラストマー(ソルベイ社製、テクノフロンPFR94):100g
・受酸剤(日本アエロジル社製、アエロジルR972):1.0g
・開始剤(日本油脂株式会社製、パークミルD):2.6mmol
・架橋剤(化合物1):6.1mmol
【0043】
上記の組成物を架橋させて架橋フルオロエラストマー(成形体)を製造した。架橋条件は、一次架橋が190℃で30分、二次架橋が290℃で8時間とした。
【0044】
得られた成形体について以下の評価を行った。
(1)耐熱性
得られた成形体を330℃の大気環境に16時間暴露した前後の重量減少率を測定した。また、外観の変化を観察した。結果を表1に示す。
【0045】
(2)重量膨潤変化率(耐蒸気試験)
下記の方法により重量膨潤変化率を測定した。また、耐蒸気試験による外観の変化を観察した。結果を表2に示す。
(i)重量膨潤率の測定
短冊状(長さ20mm、幅10mm、厚さ1mm)の成形体について、耐蒸気試験(300℃)前の重量膨潤率を測定する。
成形体を、パーフルオロカーボン溶液(フロリナートFC−3283(スリーエムジャパン社製))に、室温(21〜25℃)で、72時間浸漬させ、浸漬前後の重量膨潤率を、以下の式により、計算にて求める。
【数1】
【0046】
(ii)耐蒸気試験(300℃)
続いて、成形体について、耐蒸気試験(300℃)を行う。
成形体を、300℃の飽和水蒸気に22時間晒す。
【0047】
(iii)耐蒸気試験(300℃)後の重量膨潤率の測定
上記耐蒸気試験(300℃)後の成形体を、(i)と同様に、パーフルオロカーボン溶液に、室温(21〜25℃)で72時間浸漬し、耐蒸気試験(300℃)後の重量膨潤率を測定する。
【0048】
耐蒸気試験(300℃)前後における変化率(%)を、(耐蒸気試験前の重量膨潤率)及び(耐蒸気試験後の重量膨潤率)を用いて、以下の式により算出する。
【数2】
【0049】
実施例2
[化合物2の合成]
以下の手順によって化合物2を合成した。
撹拌機を具備した2L四つ口フラスコに、窒素雰囲気下で4,4’−ビフェニルジカルボアルデヒド(63.3g,0.30mol)と亜鉛粉末(59.2g,0.90mol)、トリフェニルホスフィン(315.8g,1.20mol)、N,N−ジメチルアセトアミド(600mL)を仕込み、室温〜40℃下で撹拌しながら、ジフルオロジブロモメタン(221.2g,1.05mol)をゆっくりフィードした。室温で一晩撹拌後、ヘキサン(1L×3回)で抽出し、得られたヘキサン層を20%食塩水(200mL×3回)で水洗し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後に減圧濃縮した。得られた濃縮物をシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、白色固体の4,4’−ビス(2,2−ジフルオロビニル)ビフェニル(化合物2)を33.5g得た(単離収率=40%)。
【化7】
【0050】
得られた化合物の融点は88〜90℃であった。また、実施例1と同様にGC−MS、H−NMR及び19F−NMRの測定を行った。結果を以下に示す。
【0051】
GC−MS(m/z):278(M),256,227,207,139,89
H−NMR(Acetone−d,400MHz);5.30ppm(dd,2H),7.38ppm(d,4H,Ar−H),7.55ppm(d,4H,Ar−H)
19F−NMR(Acetone−d,376MHz);−84.3ppm(d,2F),−82.4ppm(dd,2F)
【0052】
[化合物2の評価]
架橋剤として化合物1の代わりに化合物2を用いた他は実施例1と同様にして組成物及び成形体を調製し、評価した。結果を表1,2に示す。
【0053】
実施例3
[化合物3の合成]
以下の手順によって化合物3を合成した。
撹拌機を具備した50mL四つ口フラスコに、窒素雰囲気下で塩化亜鉛(1.57g,11.5mmol)とテトラヒドロフラン(20mL)を仕込み、−20℃下にて1,1,1,3−テトラフルオロエタン(1.78g,17.4mmol)をフィードし、次いで、リチウムジイソプロピルアミドのn−ヘキサン−テトラヒドロフラン溶液(1,0M,21.4mL,23.4mmol)を滴下した。次いで、4,4’−ジヨードビフェニル(1.33g,3.3mmol)とテトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0.13g,0.11mmol)を加え、室温で一晩撹拌した。その後、溶媒を留去し、得られた濃縮物をシリカゲル処理し、反応混合物を得た。
【0054】
次いで、撹拌機を具備した25mL三つ口フラスコに、前述の反応混合物とテトラヒドロフラン(10mL)を仕込み、0〜5℃下で撹拌しながら、水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウムの約70%トルエン溶液(1.21g,4.2mmol)をゆっくり滴下した。室温で一晩撹拌後、塩酸水溶液でクエンチし、定法の後処理操作により得られた濃縮物をシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、白色固体の4,4’−ビス(1,2−ジフルオロビニル)ビフェニル(化合物3)を0.49g得た(単離収率=54%)。
【化8】
【0055】
得られた化合物の融点は123〜128℃であった。また、実施例1と同様にGC−MS、H−NMR及び19F−NMRの測定を行った。結果を以下に示す。これらの結果より、化合物3は3種の異性体(E−E、E−Z、Z−Z)の混合物であることが分かった。混合比は、E−E:E−Z:Z−Z=34:48:18であった。
【0056】
GC−MS(m/z):278(M),256,238,139,75,61,45
【0057】
【化9】
H−NMR(Acetone−d,400MHz);7.72ppm(dd,2H),7.75ppm(d,4H,Ar−H),7.85ppm(d,4H,Ar−H)
19F−NMR(Acetone−d,376MHz);−173.8ppm(ddd,2F),−167.5ppm(dd,2F)
【0058】
【化10】
H−NMR(Acetone−d,400MHz);7.48ppm(dd,1H),7.62ppm(d,2H,Ar−H),7.70ppm(dd,1H),7.72−7.85ppm(m,6H,Ar−H)
19F−NMR(Acetone−d,376MHz);−173.8ppm(ddd,1F),−167.5ppm(dd,1F),−164.8ppm(dd,1F),−145.1ppm(d,1F)
【0059】
【化11】
H−NMR(Acetone−d,400MHz);7.43ppm(dd,2H),7.47ppm(d,4H,Ar−H),7.62ppm(d,4H,Ar−H)
19F−NMR(Acetone−d,376MHz);−164.9ppm(dd,2F),−145.1ppm(d,2F)
【0060】
[化合物3の評価]
架橋剤として化合物1の代わりに化合物3を用いた他は実施例1と同様にして、組成物及び成形体を調製し、評価した。結果を表1,2に示す。
【0061】
実施例4
[化合物4の合成]
以下の手順によって化合物4を合成した。
撹拌機を具備した200mL四つ口フラスコに、窒素雰囲気下でテトラヒドロフラン(50mL)と1,1,1,2−テトラフルオロエタン(4.77g,46.8mmol)を仕込み、−78℃下でn−ブチルリチウムのn−ヘキサン溶液(1.6M,50mL,80.7mmol)をゆっくり滴下し、次いで、4,4’−ビフェニルジカルボアルデヒド(2.43g,11.5mmol)を溶かしたテトラヒドロフラン溶液(50mL)を滴下した。更に、0℃で水(0.5mL)を加え、溶媒を留去し、反応混合物を得た。
【0062】
次いで、撹拌機を具備した500mLテフロン反応器に、クロロホルム(45mL)とポリフッ化水素ピリジニウム塩(38.5g,103.9mmol)を仕込み、0〜5℃下で撹拌しながら、前述の反応混合物を溶かしたクロロホルム溶液(40mL)をゆっくり滴下した。室温で3時間撹拌後、炭酸水素ナトリウム水溶液で中和し、得られた有機層を減圧濃縮し、得られた濃縮物をシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、白色固体の4,4’−ビス(2−トリフルオロメチル−2−フルオロビニル)ビフェニル(化合物4)を3.65g得た(単離収率=84%)。
【化12】
【0063】
得られた化合物の融点は156〜158℃であった。また、実施例1と同様にGC−MS、H−NMR及び19F−NMRの測定を行った。結果を以下に示す。
【0064】
GC−MS(m/z):374(M),354,295,263,227,155,111,109,91
H−NMR(Acetone−d,400MHz);6.84ppm(d,2H),7.80ppm(d,4H,Ar−H),7.83ppm(d,4H,Ar−H)
19F−NMR(Acetone−d,376MHz);−132.2ppm(ddd,2F),−70.5ppm(d,6F,CF
【0065】
[化合物4の評価]
架橋剤として化合物1の代わりに化合物4を用いた他は実施例1と同様にして、組成物及び成形体を調製し、評価した。結果を表1,2に示す。
【0066】
実施例5
[化合物5の合成]
以下の手順によって化合物5を合成した。
撹拌機を具備した500mL四つ口フラスコに、窒素雰囲気下で1,6−ビス(4−ブロモフェニル)−1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−ドデカフルオロヘキサン(11.51g,18.8mmol)とテトラヒドロフラン(370mL)を仕込み撹拌しながら、−78℃下でn−ブチルリチウムのn−ヘキサン溶液(1.6M,26.0mL,41.4mmol)をゆっくり滴下した。次いで、N,N−ジメチルホルムアミド(4.01g,54.9mmol)をゆっくり滴下し、0℃まで昇温した後、塩酸水溶液を加え、有機層を20%食塩水(100mL×3回)で水洗し、得られた有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後に、ろ液を減圧濃縮し、淡黄色固体の1,6−ビス(4−ホルミルフェニル)−1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−ドデカフルオロヘキサンを8.00g得た。
【0067】
次いで、撹拌機を具備した200mL四つ口フラスコに、窒素雰囲気下で前述の1,6−ビス(4−ホルミルフェニル)−1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−ドデカフルオロヘキサン(5.11g,10.0mmol)と亜鉛粉末(1.96g,30.0mmol)、トリフェニルホスフィン(10.49g,40.0mmol)とN,N−ジメチルアセトアミド(40mL)を仕込み撹拌しながら、室温から40℃下でジフルオロジブロモメタン(7.34g,35.0mmol)を溶かしたN,N−ジメチルアセトアミド溶液(10mL)をゆっくり滴下し、室温で一晩撹拌した。反応後、ヘキサン(100mL)を加え、析出固体を分離し、ろ液を20%食塩水(50mL×3回)で水洗し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後に、ろ液を減圧濃縮した。得られた濃縮物をシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、白色固体の1,6−ビス[4−(2,2−ジフルオロビニル)フェニル]−1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−ドデカフルオロヘキサン(化合物5)を1.73g得た(単離収率=26%)。
【化13】
【0068】
得られた化合物の融点は68〜70℃であった。また、実施例1と同様にGC−MS、H−NMR及び19F−NMRの測定を行った。結果を以下に示す。
【0069】
GC−MS(m/z):578(M),559,220,189,169,138,119,99
H−NMR(Acetone−d,400MHz);5.77ppm(dd,2H),7.64ppm(d,4H,Ar−H),7.69ppm(d,4H,Ar−H)
19F−NMR(Acetone−d,376MHz);−121.7ppm(s,4F,CF),−121.2ppm(s,4F,CF),−110.3ppm(s,4F,CF),−82.7ppm(d,2F),−80.9ppm(dd,2F)
【0070】
[化合物5の評価]
架橋剤として化合物1の代わりに化合物5を用いた他は実施例1と同様にして、組成物及び成形体を調製し、評価した。結果を表1,2に示す。
【0071】
実施例6
[化合物6の合成]
以下の手順によって化合物6を合成した。
4,4’−ビフェニルジカルボアルデヒドを3,3’−ビフェニルジカルボアルデヒドとした以外は、実施例2と同様にして反応を行い、3,3’−ビス(2,2−ジフルオロビニル)ビフェニル(化合物6)を合成した。化合物6は淡黄色固体として得られ、単離収率は36%であった。
【化14】
【0072】
得られた化合物の融点は29〜30℃であった。また、実施例1と同様にGC−MS、H−NMR及び19F−NMRの測定を行った。結果を以下に示す。
【0073】
GC−MS(m/z):278(M),256,227,207,139,89
H−NMR(Acetone−d,400MHz);5.68ppm(dd,2H),7.40−7.68ppm(m,8H,Ar−H)
19F−NMR(Acetone−d,376MHz);−86.5ppm(d,2F),−83.5ppm(dd,2F)
【0074】
[化合物6の評価]
架橋剤として化合物1の代わりに化合物6を用いた他は実施例1と同様にして、組成物及び成形体を調製し、評価した。結果を表1,2に示す。
【0075】
実施例7
[化合物7の合成]
以下の手順によって化合物7を合成した。
4,4’−ビフェニルジカルボアルデヒドを4,4’−ジホルミルジフェニルエーテルとした以外は、実施例2と同様にして反応を行い、4,4’−ビス(2,2−ジフルオロビニル)ジフェニルエーテル(化合物7)を合成した。化合物7は白色固体として得られ、単離収率は35%であった。
【化15】
【0076】
得られた化合物の融点は36℃〜38℃であった。また、実施例1と同様にGC−MS、H−NMR及び19F−NMRの測定を行った。結果を以下に示す。
【0077】
GC−MS(m/z):294(M),265,245,196,156,127,119,99
H−NMR(Acetone−d,400MHz);5.60ppm(dd,2H),7.04ppm(d,4H,Ar−H),7.43ppm(d,4H,Ar−H)
19F−NMR(Acetone−d,376MHz);−86.9ppm(d,2F),−85.1ppm(dd,2F)
【0078】
[化合物7の評価]
架橋剤として化合物1の代わりに化合物7を用いた他は実施例1と同様にして、組成物及び成形体を調製し、評価した。結果を表1,2に示す。
【0079】
実施例8
[化合物8の合成]
以下の手順によって化合物8を合成した。
1,6−ビス(4−ブロモフェニル)−1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−ドデカフルオロヘキサンを1,6−ビス(3−ブロモフェニル)−1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−ドデカフルオロヘキサンとした以外は、実施例5と同様にして反応を行い、1,6−ビス[3−(2,2−ジフルオロビニル)フェニル]−1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−ドデカフルオロヘキサン(化合物8)を合成した。白色固体として得られた化合物8の単離収率は22%であった。
【化16】
【0080】
得られた化合物の融点は23〜25℃であった。また、実施例1と同様にGC−MS、H−NMR及び19F−NMRの測定を行った。結果を以下に示す。
【0081】
GC−MS(m/z):578(M),559,220,189,169,138,119,99
H−NMR(Acetone−d,400MHz);5.79ppm(dd,2H),7.57−7.74ppm(m,8H,Ar−H)
19F−NMR(Acetone−d,376MHz);−121.7ppm(s,4F,CF),−121.1ppm(s,4F,CF),−110.5ppm(s,4F,CF),−83.9ppm(d,2F),−82.3ppm(dd,2F)
【0082】
[化合物8の評価]
架橋剤として化合物1の代わりに化合物8を用いた他は実施例1と同様にして、組成物及び成形体を調製し、評価した。結果を表1,2に示す。
【0083】
実施例9
[化合物9の合成]
以下の手順によって化合物9を合成した。
撹拌機を具備した500mL四つ口フラスコに、窒素雰囲気下で1,4−ビス(4−ブロモフェニル)−1,1,2,2,3,3,4,4−オクタフルオロブタン(10.24g,20.0mmol)とテトラヒドロフラン(350mL)を仕込み撹拌しながら、−78℃下でn−ブチルリチウムのn−ヘキサン溶液(1.6M,25.6mL,41mmol)をゆっくり滴下した。次いで、N,N−ジメチルホルムアミド(4.39g,60.0mmol)をゆっくり滴下し、0℃まで昇温した後、塩酸水溶液を加え、有機層を20%食塩水(100mL×3回)で水洗し、得られた有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後に、ろ液を減圧濃縮し、淡黄色固体の1,4−ビス(4−ホルミルフェニル)−1,1,2,2,3,3,4,4−オクタフルオロブタンを4.99g得た。
次いで、撹拌機を具備した300mL四つ口フラスコに、窒素雰囲気下で前述の1,4−ビス(4−ホルミルフェニル)−1,1,2,2,3,3,4,4−オクタフルオロブタン(4.92g,12.0mmol)と亜鉛粉末(2.35g,36.0mmol)、トリフェニルホスフィン(12.59g,48.0mmol)とN,N−ジメチルアセトアミド(75mL)を仕込み撹拌しながら、室温から40℃下でジフルオロジブロモメタン(8.98g,42.8mmol)を溶かしたN,N−ジメチルアセトアミド溶液(20mL)をゆっくり滴下し、室温で一晩撹拌した。反応後、ヘキサン(150mL)を加え、析出固体を分離し、ろ液を15%食塩水(50mL×3回)で水洗し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後に、ろ液を減圧濃縮した。得られた濃縮物をシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、白色固体の1,4−ビス[4−(2,2−ジフルオロビニル)フェニル]−1,1,2,2,3,3,4,4−オクタフルオロブタン(化合物9)を2.12g得た(単離収率=22%)。
【化17】
【0084】
得られた化合物の融点は86〜88℃であった。また、実施例1と同様にGC−MS、H−NMR及び19F−NMRの測定を行った。結果を以下に示す。
【0085】
GC−MS(m/z):478(M),319,189,169,138,119,99
H−NMR(Acetone−d,400MHz);5.75ppm(dd,2H),7.62ppm(d,4H,Ar−H),7.66ppm(d,4H,Ar−H)
19F−NMR(Acetone−d,376MHz);−121.2ppm(s,4F,CF),−110.3ppm(s,4F,CF),−82.9ppm(d,2F),−81.1ppm(dd,2F)
【0086】
比較例1
比較化合物1として下記の1,6−ジビニル(パーフルオロヘキサン)(東ソー・エフテック社製)を用いた。
【化18】
【0087】
[比較化合物1の評価]
架橋剤として化合物1の代わりに比較化合物1を用いた他は実施例1と同様にして、組成物及び成形体を調製し、評価した。結果を表1,2に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明のフッ素含有芳香族化合物はフルオロエラストマーの架橋剤として使用できる。架橋フルオロエラストマーは、耐熱性が求められるシール材料として利用できる。