特開2017-82179(P2017-82179A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特開2017082179-摺動材および滑り軸受 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-82179(P2017-82179A)
(43)【公開日】2017年5月18日
(54)【発明の名称】摺動材および滑り軸受
(51)【国際特許分類】
   C08L 73/00 20060101AFI20170414BHJP
   F16C 33/20 20060101ALI20170414BHJP
   C08K 5/05 20060101ALI20170414BHJP
   C08K 5/10 20060101ALI20170414BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20170414BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20170414BHJP
【FI】
   C08L73/00
   F16C33/20 A
   C08K5/05
   C08K5/10
   C08K5/09
   C08K3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-215252(P2015-215252)
(22)【出願日】2015年10月30日
(71)【出願人】
【識別番号】000103644
【氏名又は名称】オイレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104570
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 光弘
(72)【発明者】
【氏名】冨田 博嗣
【テーマコード(参考)】
3J011
4J002
【Fターム(参考)】
3J011AA08
3J011AA20
3J011DA01
3J011DA02
3J011MA02
3J011PA10
3J011QA05
3J011SC01
3J011SE02
3J011SE05
3J011SE10
4J002CJ001
4J002DA017
4J002DA027
4J002EC016
4J002EF016
4J002EH016
4J002FD206
4J002FD207
4J002GM05
(57)【要約】
【課題】、耐熱性および耐薬品性に優れ、かつ他の合成樹脂製の摺動材に比べて安価な脂肪族ポリケトン樹脂を用いた摺動材を提供する。
【解決手段】グラフ3−1、4−1は、ホホバオイルを0.5質量%配合した脂肪族ポリケトン樹脂の試験片1−1の摩擦係数、比摩耗量の測定結果を示しており、グラフ3−2〜3−4、4−2〜4−4は、ホホバオイルを2質量%以上配合した脂肪族ポリケトン樹脂の試験片1−2〜1−4の摩擦係数、比摩耗量の測定結果を示しており、グラフ3−5、4−5は、PTFE粉末を配合した脂肪族ポリケトン樹脂の比較例1−5の摩擦係数、比摩耗量の測定結果を示しおり、グラフ3−6、4−6は、脂肪族ポリケトン樹脂のみからなる比較例1−6の摩擦係数、比摩耗量の測定結果を示している。この結果から、1質量%以上のホホバオイルを配合した脂肪族ポリケトン樹脂を用いることにより、摺動性能を向上させることが期待できる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリケトン樹脂と、
前記脂肪族ポリケトン樹脂に配合され、当該脂肪族ポリケトン樹脂の融点より高い沸点を有する油性剤と、を有する
ことを特徴とする摺動材。
【請求項2】
請求項1に記載の摺動材であって、
前記油性剤は、脂肪酸、脂肪酸エステル、あるいはアルコールを含む
ことを特徴とする摺動材。
【請求項3】
請求項2に記載の摺動材であって、
前記油性剤は、ホホバオイルである
ことを特徴とする摺動材。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の摺動材であって、
さらに保持剤が配合されている
ことを特徴とする摺動材。
【請求項5】
請求項4に記載の摺動材であって、
前記保持剤は、炭素粉末あるいは黒鉛粉末である
ことを特徴とする摺動材。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか一項に記載の摺動材で形成されていることを特徴とする滑り軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動材に関し、特に滑り軸受に好適な摺動材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、滑り軸受用の摺動材として、合成樹脂製の摺動材が知られている。例えば、特許文献1には、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリシアノアリールエーテル樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、およびポリイミド樹脂から選択されるベース樹脂に、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、炭酸塩、銅粉末、亜鉛粉末、および酸化銅粉末から選択される充填剤を配合することにより形成された滑り軸受用の摺動材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−139977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、同等の耐熱性を有する他の合成樹脂と比べて原料のモノマーが安価な脂肪族ポリケトン樹脂が注目されている。しかしながら、脂肪族ポリケトン樹脂は、耐熱性および耐薬品性に優れているが、摩擦係数が高く、かつ摩耗量も多いため、脂肪族ポリケトン樹脂単体では滑り軸受用の摺動材に適していない。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、耐熱性および耐薬品性に優れ、かつ他の合成樹脂製の摺動材に比べて安価な脂肪族ポリケトン樹脂を用いた摺動材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、脂肪族ポリケトン樹脂に油性剤を配合することにより、摺動性能を向上させることができることを見出した。ここで、摺動材成形時の高温状態で、脂肪族ポリケトン樹脂に配合された油性剤が気化するのを防止するため、脂肪族ポリケトン樹脂に配合する油性剤は、脂肪族ポリケトン樹脂の融点より高い沸点を有するものを用いる。また、油性剤には、脂肪酸、脂肪酸エステル、あるいはアルコールを含むものが好ましく、例えばホホバオイルを用いることができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、油性剤を配合した脂肪族ポリケトン樹脂を用いることにより、摺動性能を向上させることができるので耐熱性および耐薬品性に優れ、かつ他の合成樹脂製の摺動材に比べて安価な脂肪族ポリケトン樹脂を用いた摺動材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の一実施の形態に係る摺動材の摺動性能試験を説明するための図である。
図2図2は、表1に示す条件にて、表2に示す試験片1−1〜1−4および比較例1−5、1−6に対して行った摺動性能試験の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。
【0010】
本実施の形態に係る摺動材は、高級脂肪酸、高級アルコール、アミン、エステル、金属石けん等の油性剤が配合された脂肪族ポリケトン樹脂により形成されている。ここで、摺動材の成形に際して脂肪族ポリケトン樹脂に配合された油性剤が気化するのを防止するため、脂肪族ポリケトン樹脂に配合する油性剤は、脂肪族ポリケトン樹脂の融点(240度)より高い沸点を有するものを用いる。また、油性剤は脂肪酸、脂肪酸エステル、あるいはアルコールを含むものが好ましく、例えばホホバオイルを用いることができる。
【0011】
また、脂肪族ポリケトン樹脂に配合する油性剤の摺動材に対する割合は、1〜10質量%とすることが好ましい。油性剤の摺動材に対する割合が1質量%未満である場合、脂肪族ポリケトン樹脂単体の場合に比べて、摺動性能に有意な差は生じない。一方、油性剤の摺動材に対する割合が大きくなるにつれて、油性剤が脂肪族ポリケトン樹脂中に均等に分散しない場合がある。
【0012】
そこで、油性剤を炭素粉末、黒鉛粉末等の保持剤に保持させ、この保持剤を脂肪族ポリケトン樹脂に配合することにより、油性剤を脂肪族ポリケトン樹脂から分離させずに、脂肪族ポリケトン樹脂内により均等に分散させることができる。
【0013】
本発明者は、本実施の形態に係る摺動材に対して各種試験を行った。
【0014】
なお、各種試験に用いる摺動材の材料として、ポリケトン樹脂に、Hyosung社製「M330A(商品名)」を用い、ホホバオイルに、ミツバ貿易社の輸入品「ホホバゴールデン(商品名)」を用い、炭素粉末に、エア・ウォーター・ベルパール社製「ベルパール(登録商標)C2000(商品名)」を用い、そして、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)粉末に、喜多村社製「KTL620(商品名)」を用いている。
【0015】
図1は、本実施の形態に係る摺動材の摺動性能試験を説明するための図である。
【0016】
図示するように、本発明者は、本実施の形態に係る摺動材としてプレート状の試験片1を用意し、この試験片1の摺動面(表面)10上に筒状の相手材2を載置した。そして、以下の表1に示す条件において、軸心O方向の荷重Nを試験片1の裏面11に加えて、試験片1の摺動面10を相手部材2の支持対象面(端面)20に押し当てながら、軸心O回りの回転方向Rに相手材2を回転させ、そのときの摺動部材2の回転方向Rにおけるトルクを、図示していないロードセルで検出し、この検出トルクから、摺動面10および支持対象面20間の摩擦係数を測定する試験を行った。また、試験後に、摺動面10の矢印Aにおける摩耗痕深さ(摩耗痕断面曲線)を測定した。なお、相手材2の支持対象面20は、研削加工した後、耐水研磨紙#400等でハンドラッピングし、さらにアセトンにて洗浄した。
【0017】
【表1】
【0018】
また、以下の表2に示すように、試験片1として4種類の配合比の試験片1−1〜1−4を用意するとともに、その比較例として2種類の比較例1−5、1−6を用意した。また、これらの試験片1−1〜1−4および比較例1−5、1−6は、表2に示す配合比からなるペレットをプレート状に射出成形することにより作製した。具体的には、まず、二軸ベント式押出成形機に投入して溶融混練し、かつ成形して紐状の成形物を作製し、その後、この紐状の成形物を切断して混合ペレットを作製した。それから、この混合ペレットをスクリュー型射出成形機で成形して、表1に示す形状の試験片を作製した。
【0019】
【表2】
【0020】
図2は、表1に示す条件にて、表2に示す試験片1−1〜1−4および比較例1−5、1−6に対して行った摺動性能試験の測定結果を示す図である。ここで、左側の縦軸は摩擦係数を示しており、右側の縦軸は比摩耗量を示している。比摩耗量は、摺動面10の矢印Aにおける摩耗痕深さの平均値に摩耗痕面積(摺動面10と支持対象面20との接触面積)を掛けて摩耗体積を求め、さらにこの摩耗体積を荷重Nおよび試験終了時における滑り距離で割ることにより求めた。
【0021】
図2において、グラフ3−1〜3−4は、試験片1−1〜1−4の摩擦係数の測定結果を示しており、グラフ3−5、3−6は、比較例1−5、1−6の摩擦係数の測定結果を示している。また、グラフ4−1〜4−4は、試験片1−1〜1−4の比摩耗量の測定結果を示しており、グラフ4−5、4−6は、比較例1−5、1−6の比摩耗量の測定結果を示している。
【0022】
図示するように、脂肪族ポリケトン樹脂100質量%の比較例1−6の摩擦係数は0.54である(グラフ3−6)。また、ホホバオイルを0.5質量%配合した試験片1−1の摩擦係数は0.53である(グラフ3−1)。したがって、0.5質量%程度のホホバオイルの配合では、脂肪族ポリケトン樹脂100質量%に対して摩擦係数に有意な差は見られなかった。一方、ホホバオイルを2質量%配合した試験片1−2の摩擦係数は0.07(グラフ3−2)、3質量%配合した試験片1−3、1−4の摩擦係数は0.08、0.07であり(グラフ3−3、3−4)、脂肪族ポリケトン樹脂100質量%に比べて圧倒的に小さく、PTFE粉末を15質量%配合した比較例1−5の摩擦係数0.19(グラフ3−5)と比べても十分に小さい。ここで、試験片1−1は炭素粉末を1質量%配合し、試験片1−4は炭素粉末を0.3質量%配合している。一方、試験片1−2、1−3は、炭素粉末を配合していない。これらの試験片1−1〜1−4のグラフ3−1〜3−4から明らかなように、炭素粉末の配合による摩擦係数への影響は見られなかった。
【0023】
また、脂肪族ポリケトン樹脂100質量%の比較例1−6の比摩耗量は11.8×10−6mm/Nmである(グラフ4−6)。一方、ホホバオイルを0.5質量%配合した試験片1−1の比摩耗量は10.6×10−6mm/Nmであり(グラフ4−1)、ホホバオイルを2質量%配合した試験片1−2の比摩耗量は0.25×10−6mm/Nmであり(グラフ4−2)、ホホバオイルを3質量%配合した試験片1−3、1−4の比摩耗量は0.35×10−6mm/Nm、0.25×10−6mm/Nmである(グラフ4−3、4−4)。上述したように、試験片1−1は、炭素粉末を1質量%配合し、試験片1−4は炭素粉末を0.3質量%配合している。一方、試験片1−2、1−3は、炭素粉末を配合していない。これらの試験片1−1〜1−4および比較例1−6のグラフ4−1〜4−4、4−6から明らかなように、0.5質量%のホホバオイルの配合では、脂肪族ポリケトン樹脂100質量%に対して比摩耗量を十分に小さくすることはできないが、2質量%以上のホホバオイルの配合では、炭素粉末の配合の有無に関わらず、脂肪族ポリケトン樹脂100質量%に対して比摩耗量を十分に小さくすることができた。
【0024】
したがって、上述の試験結果から、ホホバオイルを1質量%以上配合することにより、脂肪族ポリケトン樹脂100質量%に対して摺動性能を向上させることができ、これにより、滑り軸受に利用できるものと考えられる。また、炭素粉末あるいは黒鉛粉末等をホホバオイルの保持剤として利用することにより、より多くの油性剤を脂肪族ポリケトン樹脂から分離させることなく均等に分散させて配合することができ、これにより、保持剤を利用しない場合に比べて摺動性能の更なる向上を期待できる。
【0025】
以上説明したように、本実施の形態によれば、油性剤であるホホバオイルを配合した脂肪族ポリケトン樹脂を用いることにより、摺動性能を向上させることがきるので耐熱性および耐薬品性に優れ、かつ同等の耐熱性を有する他の合成樹脂製の摺動材に比べて安価な脂肪族ポリケトン樹脂を用いた摺動材を提供できる。
【0026】
これは以下の理由によると考えられる。すなわち、脂肪族ポリケトン樹脂は、ケトンが多数連結されたものであり、以下の化1に示すように、主鎖にカルボニル基が配置されている。
【0027】
【化1】
【0028】
ここで、カルボニル基は、以下の化2に示すように、炭素Cおよび酸素Oがそれぞれ+、−に帯電して分極している。
【0029】
【化2】
【0030】
このように、脂肪族ポリケトン樹脂は極性を持った樹脂と考えられ、脂肪族ポリケトン樹脂の表面は他の物質と結合しやすい活性な状態にあるものと考えられる。
【0031】
ホホバオイルは、以下の化3に示す脂肪酸エステルを有する。化3のR、Rは、長鎖の炭化水素基であることを示す。
【0032】
【化3】
【0033】
脂肪酸エステルも炭素-酸素の結合を持ち、極性を有していると考えられる。このため、脂肪酸エステルを含むホホバオイルは、極性が高い脂肪族ポリケトン樹脂の表面に保持されて油性剤としての潤滑効果を発揮すると考えられる。また、同様に極性を有していると考えられる脂肪酸、アルコール等でも、同様の潤滑効果が期待できる。ここで、油性剤の効果を発揮する構造としては、長鎖の炭化水素基を有する脂肪酸エステル、脂肪酸、アルコールであることが望ましいと考えられる。
【0034】
本発明の摺動材は、様々な摺動機構に用いることができる。特に、滑り軸受に好適である。
【符号の説明】
【0035】
1:摺動材、 2:相手材、10:摺動材1の摺動面(表面)、 11:摺動材1の裏面、 20:相手材2の支持対象面(端面)
図1
図2