(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-82287(P2017-82287A)
(43)【公開日】2017年5月18日
(54)【発明の名称】高圧電解コンデンサ陽極用アルミニウム材料
(51)【国際特許分類】
C22C 21/00 20060101AFI20170414BHJP
【FI】
C22C21/00 H
C22C21/00 E
C22C21/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2015-211654(P2015-211654)
(22)【出願日】2015年10月28日
(71)【出願人】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】100098682
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 賢次
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 和宏
(72)【発明者】
【氏名】本居 徹也
(57)【要約】
【目的】静電容量を維持しつつ高折り曲げ強度を達成することができる高圧電解コンデンサ陽極用アルミニウム材料を提供する。
【構成】Fe0.5〜1.5%を含有し、Si含有量を0.015%未満に規制し、残部アルミニウムおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金の芯材の両面に、アルミニウム99.9%以上を含有する高純度アルミニウムの皮材を積層したクラッド材からなることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe0.5〜1.5%(質量%、以下同じ)を含有し、Si含有量を0.015%未満に規制し、残部アルミニウムおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金の芯材の両面に、アルミニウム99.9%以上を含有する高純度アルミニウムの皮材を積層したクラッド材からなることを特徴とする高圧電解コンデンサ陽極用アルミニウム材。
【請求項2】
前記クラッド材の厚さが30μm以上であり、芯材の板厚比率がクラッド材の厚さの5〜20%であることを特徴とする請求項1に記載の高圧電解コンデンサ陽極用アルミニウム材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い静電容量と折り曲げ強度を併せ持つ高圧電解コンデンサ陽極用アルミニウム材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンデンサへの更なる高容量化の要望が高まっており、高い静電容量を持つ高圧電解コンデンサ陽極用アルミニウム材料が求められている。高圧電解コンデンサ陽極用アルミニウム材料においては、静電容量を増大するため電解エッチングを施すことによって表面にトンネルピットを形成し表面積を拡大しているが、静電容量を増大するためにトンネルピットの数を多く、その長さを長くするに従い強度が低下し、製造工程途中において破断してしまうという問題がある。
【0003】
そのため,コンデンサの更なる高容量化のためには高い静電容量に加えて高い折り曲げ強度を持つ材料が求められており、このような要求に対応するため、折り曲げ強度の保持に寄与する材料を芯材とし、その両面に皮材として電解エッチングによる表面積の拡大に寄与する高純度アルミニウムを積層したクラッド材が提案されている。
【0004】
例えば、芯材としてアルミニウム以外の金属からなり耐酸性を有する金属箔、もしくは樹脂浸漬されたガラス繊維布や耐熱紙を用いる材料、芯材を皮材よりも多くのFeおよびSiを含有するアルミニウム合金によって構成し、且つ芯材の結晶組織を微細とすることにより静電容量を損なうことなく折り曲げ強度の増大を図ろうとする材料などが提案されている。
【0005】
しかしながら、芯材にアルミニウム以外の金属を用いた場合、電解エッチング後の化成皮膜形成工程において断面の芯材部で正常な化成皮膜が形成されず、断面からの漏れ電流により性能が低下するという難点があり、芯材に樹脂浸漬されたガラス繊維布、耐熱紙等の非金属材料を用いた場合には、皮材と芯材間に強固な接合が得られず、製造過程で剥離するという問題がある。また、芯材にFeおよびSiを含有するアルミニウム合金を用いた場合、材料の加工硬化性が高くなるため、製造過程で繰り返しかかる曲げ応力により硬化、破断し易くなるという問題点があり、静電容量と折り曲げ強度に対する要求を必ずしも十分に満たすものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−22292号公報
【特許文献2】特開平4−250612号公報
【特許文献3】特開2007−253185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来の高圧電解コンデンサ陽極用材料の問題点を解消し、さらに改善された静電容量と折り曲げ強度をそなえたアルミニウムクラッド材を得るために、従来材を基本として試験、検討を重ねた結果としてなされたものであり、その目的は、静電容量を維持しつつ高折り曲げ強度を達成することを可能とする高圧電解コンデンサ陽極用アルミニウム材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するための請求項1による高圧電解コンデンサ陽極用アルミニウム材は、Fe0.5〜1.5%を含有し、Si含有量を0.015%未満に規制し、残部アルミニウムおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金の芯材の両面に、アルミニウム99.9%以上を含有する高純度アルミニウムの皮材を積層したクラッド材からなることを特徴とする。以下の説明において、合金成分はすべて質量%として示す。
【0009】
請求項2による高圧電解コンデンサ陽極用アルミニウム材は、請求項1において、前記クラッド材の厚さが30μm以上であり、芯材の板厚比率がクラッド材の厚さの5〜20%であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、静電容量を維持しつつ高折り曲げ強度を達成することができる高圧電解コンデンサ陽極用アルミニウム材料が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明による高圧電解コンデンサ陽極用アルミニウム材料について説明する。
(皮材)
アルミニウム99.9%以上を含有する高純度アルミニウムを用いる。アルミニウム含有量が99.9%未満では最終焼鈍時の再結晶が不純物によって阻害され、最終焼鈍後の立方体方位への集積率が低下して、電解エッチング後の表面積の増大が得られず、静電容量が低下する。最終焼鈍後の立方体方位への集積率を高めるための好ましいアルミニウム含有量は99.98%以上であり、不可避不純物の含有量は15ppm未満とするのが好ましい。
【0012】
(芯材)
芯材のFe含有量は0.5〜1.5%の範囲とする。芯材において、Feを含む金属間化合物は加工軟化挙動の発現を促進し、折り曲げ強度を高めるよう機能する。加工軟化が起こることにより冷間加工による変形能が向上し、繰り返しかかる曲げ応力にも破断することなく耐え得る高い折り曲げ強度を得ることができる。0.5%未満ではその効果を十分に得ることができず、1.5%を超えると金属間化合物が粗大化してしまい、曲げ応力が負荷された際の変形が不均一になり折り曲げ強度が低下する。
【0013】
芯材のSi含有量は0.015%未満に規制する。Siは母相の純度を低下させることで加工軟化挙動の発現を阻害する。0.015%以上含有すると加工軟化が十分に起こらず高い折り曲げ強度を得ることができない。さらに好ましいSi含有量は0.010%以下である。
【0014】
(材料厚さ)
材料(クラッド材)の厚さは30μm以上の範囲とする。厚さが30μm未満では,芯材の厚さが不十分で高い折り曲げ強度を得ることができない。厚さの上限は特に設定しないが、200μm以下とするのが好ましい。
【0015】
材料における芯材の板厚比率はクラッド材の厚さの20%以下、好ましくは5〜20%の範囲とする。5%未満では高い折り曲げ強度を得ることができず、20%を超えると、皮材の比率が減少することによってトンネルピットを厚さ方向へ十分に成長させることができず、高い静電容量を得ることができなくなる。
【実施例】
【0016】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して説明し、本発明の効果を実証する。なお、これらの実施例は本発明の一実施態様を示すものであり、本発明はこれらに限定されない。
【0017】
表1に示す組成を有する高純度アルミニウムAの鋳塊を均質化処理後、熱間圧延を施して所定厚さの皮材用板材を得た。また、表1に示す組成を有するアルミニウム合金B、C、D、EおよびFの鋳塊について熱間圧延、冷間圧延を施し、所定厚さの芯材用板材を得た。
【0018】
得られた皮材用板材と芯材用板材とを表2に示す組み合わせで重ね合わせて、熱間圧延を施しクラッド材とした後、常法に従って冷間圧延、中間焼鈍、付加圧延、最終焼鈍を施し、板厚150 μmのクラッド材(試験材)を作製した。比較例として、クラッド材とせず高純度アルミニウム合金Aのみで作製した材料も比較試験材として追加した。
【0019】
作製された試験材に常法に従って電解エッチングを行い、EIAJ規格に準じる方法でエッチング後の折り曲げ強度を測定し、高純度アルミニウム合金Aの皮材のみからなる比較試験材の折り曲げ強度を100%として相対的に評価した。また、化成処理後、静電容量を測定し比較試験材の静電容量を100%として相対的に評価した。評価結果を表3に示す。
【0020】
【表1】
【0021】
【表2】
【0022】
【表3】
【0023】
表3に示すように、本発明に従う試験材2、3および5はいずれも、エッチング後の折り曲げ強度に優れ、良好な静電容量をそなえていた。また、試験材2、3および5はエッチング性にも優れ、エッチング後の外観にも問題が無かった。試験材4は、本実施例において行った試験においては折り曲げ強度、静電容量共に良好であったが、芯材比率が20%を超えているため、皮材の比率が低くなってトンネルピットを厚さ方向へ十分成長させることができないため、更なる高静電容量を望むことが難しい。一方、試験材1は芯材のFe含有量が少ないため、折り曲げ強度が劣っていた。試験材6はSi含有量が0.015%を超えているため、加工軟化が十分に起こらず折り曲げ強度が低いものとなった。