特開2017-82301(P2017-82301A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社UACJの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-82301(P2017-82301A)
(43)【公開日】2017年5月18日
(54)【発明の名称】銅合金管の製造方法及び熱交換器
(51)【国際特許分類】
   C22F 1/08 20060101AFI20170414BHJP
   C22C 9/06 20060101ALI20170414BHJP
   F28F 21/08 20060101ALI20170414BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20170414BHJP
【FI】
   C22F1/08 P
   C22C9/06
   C22F1/08 Q
   F28F21/08 E
   C22F1/00 602
   C22F1/00 612
   C22F1/00 626
   C22F1/00 630A
   C22F1/00 630K
   C22F1/00 630M
   C22F1/00 650A
   C22F1/00 651A
   C22F1/00 681
   C22F1/00 682
   C22F1/00 683
   C22F1/00 684A
   C22F1/00 685Z
   C22F1/00 691B
   C22F1/00 691C
   C22F1/00 692A
   C22F1/00 692B
   C22F1/00 694B
   C22F1/00 694A
   C22F1/00 694Z
   C22F1/00 686B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-213132(P2015-213132)
(22)【出願日】2015年10月29日
(71)【出願人】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】100098682
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 賢次
(74)【代理人】
【識別番号】100131255
【弁理士】
【氏名又は名称】阪田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100125324
【弁理士】
【氏名又は名称】渋谷 健
(72)【発明者】
【氏名】玉川 博一
(72)【発明者】
【氏名】永井 健史
(72)【発明者】
【氏名】浅野 峰生
(57)【要約】
【解決課題】強度を高くすることができるCu−Ni−P系の銅合金管の製造方法を提供すること。
【解決手段】0.4〜1.5質量%のNiと、0.1〜0.5質量%のPと、を含有し、残部Cu及び不可避不純物からなる銅合金鋳塊を鋳造し、次いで、熱間加工及び冷間加工を行う銅合金管の製造工程であり、銅合金管の製造工程中に、溶体化処理と、該溶体化処理より後に550〜750℃で加熱する第一熱処理と、を行うことにより、銅合金管(A)を得る銅合金管(A)の製造工程と、750〜950℃で銅合金管(A)を加熱し、加熱後、加熱温度から300℃まで、5℃/秒以下の平均冷却速度で冷却することにより、銅合金管(B)を得る第二熱処理と、を有すること、を特徴とする銅合金管の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.4〜1.5質量%のNiと、0.1〜0.5質量%のPと、を含有し、残部Cu及び不可避不純物からなる銅合金鋳塊を鋳造し、次いで、熱間加工及び冷間加工を行う銅合金管の製造工程であり、銅合金管の製造工程中に、溶体化処理と、該溶体化処理より後に550〜750℃で加熱する第一熱処理と、を行うことにより、銅合金管(A)を得る銅合金管(A)の製造工程と、
750〜950℃で銅合金管(A)を加熱し、加熱後、加熱温度から300℃まで、5℃/秒以下の平均冷却速度で冷却することにより、銅合金管(B)を得る第二熱処理と、
を有すること、
を特徴とする銅合金管の製造方法。
【請求項2】
前記第二熱処理が、ろう付け加熱及び該ろう付け加熱後の冷却であることを特徴とする請求項1記載の銅合金管の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2いずれか1項記載の銅合金管の製造方法により得られた銅合金管を有することを特徴とする熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度であり、耐熱性に優れた銅合金管に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、銅材の高強度化を目的として、微量の元素を添加した銅合金が提案されている。そのうちの1つとして、Cu−Ni−P系の銅合金がある(例えば、特許文献1:特開平4−218631号公報)。
【0003】
このCu−Ni−P系の銅合金は、Ni−P系析出物により析出強化される銅合金であり、溶体化処理後、適正な温度での熱処理(時効処理)を行うことによって、高強度化される。
【0004】
Cu−Ni−P系の銅合金からなる管材は、その用途や使用条件によっては、加工度の高い加工や複雑な加工が行われる場合があるため、Cu−Ni−P系の銅合金管には、高強度であることのみならず、加工性が良好であることが必要であり、0.2%耐力と伸びの良好な銅合金管が求められている。
【0005】
例えば、ルームエアコン、パッケージエアコン等の空調機用熱交換器、給湯器、冷凍機等の伝熱管又は冷媒配管に使用される銅合金管においては、近年の薄肉化の要求に伴い、管の高強度化が求められている。そのためには、適正な合金成分であることの他、その合金成分に応じた適正な熱処理条件等の製造条件を規定することが重要である。
【0006】
しかし、特許文献1に記載のCu−Ni−P系の銅合金材料は、強度(引張強さ)は300MPaを超えており、高強度化されているものの、0.2%耐力が高過ぎ、また、伸びが低く、加工度の高い加工や複雑な加工を行うには適さない。
【0007】
そこで、特許文献2には、0.4〜3.5質量%のNiと、0.1〜0.5質量%のPと、を含有し、残部Cu及び不可避不純物からなる銅合金からなる銅合金材料(A)を650℃±100℃で加熱する第一熱処理と、850℃±100℃で加熱する第二熱処理と、を行い得られる銅合金材料であり、引張強さ(σ2)が300MPa以上であり、伸び(δ)が30%以上であり、第二熱処理後の引張強さ(σ2)と第二熱処理前の引張強さ(σ1)の差(σ2−σ1)が、20MPa以上である銅合金材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平4−218631号公報
【特許文献2】国際公開2015/122423号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2に開示の銅合金材料で作製された銅合金管は、強度が高く且つ加工性に優れたCu−Ni−P系の銅合金管であるものの、更なる高強度化の要求もある。
【0010】
従って、本発明の目的は、強度を高くすることができるCu−Ni−P系の銅合金管の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、以下の本発明によって解決される。
すなわち、本発明は、0.4〜1.5質量%のNiと、0.1〜0.5質量%のPと、を含有し、残部Cu及び不可避不純物からなる銅合金鋳塊を鋳造し、次いで、熱間加工及び冷間加工を行う銅合金管の製造工程であり、銅合金管の製造工程中に、溶体化処理と、該溶体化処理より後に550〜750℃で加熱する第一熱処理と、を行うことにより、銅合金管(A)を得る銅合金管(A)の製造工程と、
750〜950℃で銅合金管(A)を加熱し、加熱後、加熱温度から300℃まで、5℃/秒以下の平均冷却速度で冷却することにより、銅合金管(B)を得る第二熱処理と、
を有すること、
を特徴とする銅合金管の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、強度を高く、且つ、加工度の高い加工や複雑な加工に適するCu−Ni−P系の銅合金管の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の銅合金管の製造方法は、0.4〜1.5質量%のNiと、0.1〜0.5質量%のPと、を含有し、残部Cu及び不可避不純物からなる銅合金鋳塊を鋳造し、次いで、熱間加工及び冷間加工を行う銅合金管の製造工程であり、銅合金管の製造工程中に、溶体化処理と、該溶体化処理より後に550〜750℃で加熱する第一熱処理と、を行うことにより、銅合金管(A)を得る銅合金管(A)の製造工程と、
750〜950℃で銅合金管(A)を加熱し、加熱後、加熱温度から300℃まで、5℃/秒以下の平均冷却速度で冷却することにより、銅合金管(B)を得る第二熱処理と、
を有すること、
を特徴とする銅合金管の製造方法である。
【0014】
本発明の銅合金管の製造方法に係る銅合金管(A)の製造工程は、0.4〜1.5質量%のNiと、0.1〜0.5質量%のPと、を含有し、残部Cu及び不可避不純物からなる銅合金鋳塊を鋳造し、次いで、熱間加工及び冷間加工を行う銅合金管の製造工程であり、銅合金管の製造工程中に、溶体化処理工程と、第一熱処理工程と、を行うことにより、銅合金管(A)を得る工程である。
【0015】
銅合金管(A)の製造工程では、先ず、化学成分を調節して、0.4〜1.5質量%のNi、好ましくは0.7〜1.2質量%のNiと、0.1〜0.5質量%のP、好ましくは0.2〜0.4質量%のPと、を含有し、残部Cu及び不可避不純物からなる銅合金鋳塊を鋳造する。Ni及びPは、銅合金中で、NiとPの化合物により析出物を形成し、引張強さを向上させる成分である。銅合金鋳塊のNi含有量及びP含有量が上記範囲にあることにより、第二熱処理による強度向上効果が大きくなる。銅合金鋳塊のNi含有量又はP含有量が、上記範囲未満だと、第二熱処理による強度向上効果が得られないか又は小さくなり、また、上記範囲を超えると、第二熱処理による強度向上効果が小さくなる。また、銅合金鋳塊のNi含有量又はP含有量が、上記範囲未満だと、銅合金管(B)の強度が低くなり、また、Ni含有量が、上記範囲を超えると、銅合金管(A)の加工性が低くなり、また、P含有量が、上記範囲を超えると、熱間加工や冷間加工において割れが生じるおそれがある。なお、本発明において、第二熱処理による強度向上効果とは、第二熱処理の要件を満たす温度での加熱及び加熱後の平均冷却速度での冷却をする前の銅合金に対し、加熱及び冷却後の銅合金管の強度が向上することを指す。
【0016】
銅合金管(A)の製造工程に係る鋳造では、常法に従って、溶解及び鋳造して、所定の化学成分が所定の含有量で配合されているビレットを得る。例えば、銅の地金及び本発明の銅合金管の含有元素の地金又は含有元素と銅の合金を、銅合金管(A)の製造工程を行い得られる銅合金管(A)中の含有量が、所定の含有量となるように配合して、成分調整を行い、次いで、電気炉等を用いて溶解する。次いで、ビレットを鋳造し冷却する。
【0017】
銅合金管(A)の製造工程では、次いで、鋳造を行い得られたビレットに、熱間加工及び冷間加工を行う。熱間加工は、熱間押出である。冷間加工は、冷間圧延、冷間引抜又は転造である。
【0018】
熱間押出前の加熱処理では、鋳造により得られたビレットを、800〜1000℃の温度で加熱する。熱間押出では、800〜1000℃の温度に加熱されたビレットを、熱間押出する。熱間押出は、マンドレル押出によって行われる。すなわち、加熱前に、冷間で予め穿孔したビレット、あるいは、押出前に熱間で穿孔したビレットに、マンドレルを挿入した状態で、熱間押出を行う。そして、熱間押出を行った後、速やかに冷却して、熱間押出素管を得る。この冷却では、押出加工完了直後の温度から300℃まで20℃/秒以上、好ましくは100℃/秒以上の冷却速度とすることで、熱間押出前の加熱と熱間押出とで十分に固溶されたNi及びPの固溶状態を維持し、後の析出処理において微細かつ均一な析出状態にすることができる。
【0019】
銅合金管(A)の製造工程を行い得られる銅合金管(A)には、内面溝が形成されていない内面平滑管(ベアー管)と内面溝が形成されている内面溝付管がある。銅合金管(A)が内面平滑管の場合、熱間加工により得られる熱間押出素管に、冷間圧延、冷間引き抜き等の冷間で加工する冷間加工を行い、管の外径及び肉厚を減じていき、継目無平滑管である銅合金管(A)を得る。
【0020】
銅合金管(A)の製造工程を行い得られる銅合金管(A)が内面溝付管の場合、熱間加工により得られる熱間押出素管に、冷間圧延、冷間引き抜き等の冷間で加工する冷間加工を行い、管の外径及び肉厚を減じていき、継目無素管を得、更に、700〜900℃で加熱する中間焼鈍を行い、冷却後、転造を行い、内面溝付継目無管である銅合金管(A)を得る。転造では、継目無素管内に、外面にらせん状の溝加工を施した転造プラグを配置して、高速回転する複数の転造ボールによって、管の外側から押圧して、管の内面に転造プラグの溝を転写して、管の内面に溝を形成させて、内面溝付継目無管を得る。
【0021】
そして、銅合金管(A)の製造工程では、熱間加工前から冷間加工後までで、且つ、第一熱処理前に、Ni及びPを固溶させたままの状態とする溶体化処理を行う。溶体化処理では、700〜900℃、好ましくは800〜900℃で加熱し、次いで、急冷することにより、溶体化処理を行う。銅合金管(A)の製造工程中のどこで溶体化処理を行うかは、熱間加工前から冷間加工後までの間で適宜選択される。例えば、熱間加工前の加熱と加工後の急冷に、溶体化処理を兼ねさせることや、熱間加工で溶体化できなかった場合に、熱間加工後から冷間加工後までの間に行う焼鈍において、700〜900℃、好ましくは800〜900℃で加熱し、次いで、急冷することにより、溶体化処理を兼ねさせることができる。
【0022】
銅合金管(A)の製造方法では、溶体化処理を行った後に、550〜750℃、好ましくは600〜650℃で加熱する第一熱処理を行う。第一熱処理は、NiとPの金属間化合物を析出させるための処理である。第一熱処理での加熱温度が上記範囲であることにより、微細かつ均一な析出状態となり、強度が高くなる。一方、加熱温度が、上記範囲未満だと、析出物の形成が不十分となり、強度が高くならない。また、再結晶が十分でなく加工組織が残り、耐力値が高く、伸びが低くなって、加工度の高い加工や複雑な加工の場合の加工性が低くなる。また、上記範囲を超えると、析出物が粗大化し、高強度化に寄与しなくなる。第一熱処理での加熱時間は、5〜60分、好ましくは5〜15分である。第一熱処理では、加熱後の冷却には特に制約はない。
【0023】
銅合金管(A)の製造工程において、溶体化処理を行った後に第一熱処理を行うとは、溶体化処理を行った直後に第一熱処理を行うということでなく、溶体化処理を行った後から冷間加工後までの製造工程の適切なときに、第一熱処理を行うということである。例えば、溶体化処理後、引き抜き加工又は転造加工を行った後に、第一熱処理を行うことができる。
【0024】
また、銅合金管(A)の製造工程では、熱間加工後から冷間加工後までに必要に応じて、700〜900℃、好ましくは800〜900℃で焼鈍を行うことができる。この焼鈍は、先の冷間加工で加工硬化された金属組織のひずみを除去することを目的とする。銅合金管(A)の製造工程中のどこで、焼鈍を行うかは、熱間加工後から冷間加工後までの間で適宜選択される。例えば、熱間加工後且つ冷間加工の前、又は冷間加工の後に、焼鈍を行う。冷間加工を複数回行う場合は、熱間加工後且つ全ての冷間加工の前、冷間加工と冷間加工の間、又は全ての冷間加工の後に、焼鈍を行う。溶体化処理の後に焼鈍を行う場合及び溶体化処理を兼ねた焼鈍を行う場合は、この焼鈍によってNi及びPを固溶させたままの状態とするために、焼鈍後急冷を行う。
【0025】
銅合金管(A)の製造工程を行い得られる銅合金管(A)は、0.4〜1.5質量%のNi、好ましくは0.7〜1.2質量%のNiと、0.1〜0.5質量%のP、好ましくは0.2〜0.4質量%のPと、を含有し、残部Cu及び不可避不純物からなる銅合金管である。銅合金管(A)の0.2%耐力(σ0.2)は、95〜115MPaであり、引張強さ(σ1)は、275〜300MPaである。また、銅合金管(A)の伸び(δ)は、30%以上である。銅合金管(A)は、0.2%耐力(σ0.2)が95〜115MPa、引張強さ(σ1)が270〜300MPaであり、且つ、伸び(δ)が30%以上であるので、加工性が高く、ヘアピン曲げ加工や拡管加工などの加工度の高い加工や複雑な加工において、優れた加工性を有する。
【0026】
本発明の銅合金管の製造方法に係る第二熱処理は、銅合金管(A)の製造工程を行い得られる銅合金管(A)を熱処理して、銅合金管(B)を得る工程である。
【0027】
第二熱処理では、銅合金管(A)を、700〜900℃、好ましくは750〜850℃で加熱し、且つ、加熱後、加熱温度から300℃まで、5℃/秒以下の平均冷却速度で冷却する。第二熱処理での加熱温度が上記範囲であることにより、第一熱処理で形成した析出物が粗大化することなく、母相に再固溶し、その後の冷却によって再度、微細かつ均一な析出状態を得ることが可能となる。一方、加熱温度が、上記範囲未満だと、第一熱処理で形成した析出物が粗大化した状態となり、また、上記範囲を超えると、結晶粒が粗大化し過ぎた結晶組織となる。また、第二熱処理において、加熱後の冷却での平均冷却速度が、上記範囲にあることにより、第二熱処理による強度向上効果が大きくなる。第二熱処理での加熱時間は、10〜1800秒、好ましくは10〜180秒である。なお、平均冷却速度とは、第二熱処理の加熱温度から300℃までの冷却速度の平均である。例えば、第二熱処理において、850℃で加熱した場合、平均冷却速度とは、「(850−300)/(850℃から300℃まで温度が下がるのに要した時間)」で算出される。
【0028】
第二加熱処理を行い得られる銅合金管(B)は、0.4〜1.5質量%のNi、好ましくは0.7〜1.2質量%のNiと、0.1〜0.5質量%のP、好ましくは0.2〜0.4質量%のPと、を含有し、残部Cu及び不可避不純物からなる銅合金管である。銅合金管(B)の引張強さ(σ2)は、310〜350MPaである。
【0029】
銅合金管の第二熱処理後の引張強さ(σ2)と第二熱処理前の引張強さ(σ1)の差(σ2−σ1)、言い換えると、銅合金管(B)の引張強度と銅合金管(A)の引張強度の差が、第二熱処理による強度向上効果の大きさを表す。そして、本発明の銅合金管の製造方法では、第二熱処理において、700〜900℃、好ましくは750〜850℃で加熱した後、加熱温度から300℃までを、5℃/秒以下の平均冷却速度で冷却することにより、平均冷却速度を5℃/秒より速くした場合に比べ、第二熱処理による強度向上効果、つまり、「σ2−σ1」の値が大きくなる。
【0030】
本発明の銅合金管の製造方法により得られる銅合金管、すなわち、銅合金管(B)は、引張強さ(σ2)が310〜350MPaと、強度が高いので、伝熱管又は冷媒配管の強度が高いことが要求されるルームエアコン、パッケージエアコン等の空調機用熱交換器、給湯器、冷凍機等の伝熱管又は冷媒配管として、好適に用いられる。
【0031】
空調機用熱交換器又は冷凍機等の製造では、伝熱管及び冷媒配管用の銅合金管には、ヘアピン曲げ加工や拡管加工などの加工が行われるので、これらの銅合金管は、加工度の高い加工や複雑な加工が行われる材料である。そこで、空調機用熱交換器、給湯器、冷凍機等の製造において、加工性の高い銅合金管(A)を、空調機用熱交換器、給湯器、冷凍機等の製造用の銅合金管、すなわち、ヘアピン曲げ加工や拡管加工などの加工が行われる銅合金管として用い、所定の構造体に加工、組み立てした後、第二熱処理の要件を満たすろう付け加熱条件及びろう付け後の冷却条件で、ろう付けを行うことにより、銅合金管(A)から銅合金管(B)を得ると共に、強度が高い銅合金管(B)が他の部材とろう付けされている空調機用熱交換器又は冷凍機等を製造することができる。つまり、本発明に係る銅合金管(A)の製造工程を行い、銅合金管(A)を得、得られる銅合金管(A)に、ヘアピン曲げ加工や拡管加工などの加工を行い、所定の形状に成形し、次いで、成形後の銅合金管(A)を他の部材と共に組み付けた後、第二熱処理の要件を満たすろう付け加熱条件及びろう付け後の冷却条件で、すなわち、700〜900℃、好ましくは750〜850℃でろう付け加熱し、ろう付け加熱後、ろう付け加熱温度から300℃まで、5℃/秒以下の平均冷却速度で冷却して、ろう付けを行って、第二熱処理を行い銅合金管(B)を得ることにより、本発明の銅合金管の製造方法を行う。
【0032】
また、このようにして得られる熱交換器は、本発明の銅合金管の製造方法により得られた銅合金管(B)を有する。
【実施例】
【0033】
(実施例1及び比較例1)
銅合金管の代替として、下記の銅合金材(板材)を作製し、評価を行った。
高周波溶解炉を用いて、表1に示す化学組成で、鋳型寸法:幅70mm×長さ200mm×高さ50mmで鋳込んだ。次いで、インゴットを、幅50mm×長さ200mm×高さ25mmに外削し、冷間圧延により厚さ20mmまで圧延し、900℃に加熱した後、水冷した。次いで、冷間圧延により厚さ1mmまで圧延し、次いで、900℃で10秒間の加熱後冷却する熱処理を行い、次いで、冷間圧延により厚さ0.7mmまで圧延し、銅合金材aを得た。次いで、銅合金材aを900℃で加熱後急冷して、溶体化処理を行い、銅合金材bを得た。
次いで、銅合金材bを、650℃で30分間加熱して、第一熱処理を行い、銅合金材cを得た。得られた銅合金材cの0.2%耐力(σ0.2)、引張強さ(σ1)及び伸び(δ)を測定した。その結果を表3に示す。
次いで、銅合金材cを、850℃で30秒間加熱して、加熱後、表2に示す条件で冷却して、第二熱処理を行い、銅合金材dを得た。なお、この第二熱処理での加熱は、ろう付け加熱を想定したものである。
得られた銅合金材cの引張強さ(σ2)を測定した。その結果を表3に示す。
<平均冷却速度の測定>
銅合金材に熱電対を取り付け、冷却中の銅合金の温度変化を測定しながら、850℃から300℃までかかった時間t(秒)を計測し、「(850−300)/t」の式により、平均冷却速度(℃/秒)を求めた。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
【表3】
【0037】
(実施例2及び比較例2)
・鋳造
表1の合金4の組成の外径254mmの鋳塊を鋳造した。
・熱間押出
上記鋳塊を、900℃で加熱して、外径80mm×肉厚8mmの管に、熱間押出し、押出し後、直ちに水中へ投入して冷却を行い、熱間押出素管を得た。この熱間押出での加熱及び冷却は、Ni及びPを固溶させるための溶体化処理も兼ねている。
・冷間圧延
上記熱間押出素管を、冷間圧延にて、外径46mm×肉厚2.8mmまで加工し、冷間圧延素管を得た。
・冷間抽伸
上記冷間圧延素管を、冷間抽伸により、外径12.7mm×肉厚0.4mmまで加工し、冷間抽伸管を得た。
・中間焼鈍
上記冷間抽伸した銅合金管を、800℃で中間焼鈍した。なお、冷却は水冷とした。
・転造
上記中間焼鈍した銅合金管を、転造加工し、転造加工した銅合金管を得た。転造加工後の銅合金管の外径は7.00mmであり、内面溝形状は、底肉厚0.3mm、フィン高さ0.20mm、フィン頂角13°、リード角24°、溝数44であった。
・第一熱処理
上記転造加工した銅合金管を、650℃で30分間加熱して、銅合金管(A)を得た。
得られた銅合金管(A)の0.2%耐力(σ0.2)、引張強さ(σ1)及び伸び(δ)を測定した。その結果を表4に示す。
・第二熱処理
上記銅合金管(A)を、加熱炉内で、850℃で30秒間加熱し、表5に示す条件で冷却して、銅合金管(B)を得た。
得られた銅合金管(B)の引張強さ(σ2)を測定した。その結果を表4に示す。なお、JIS Z2241に準拠して、銅合金管の引張強度及び伸びを測定した。
【0038】
【表4】
【表5】