【課題】部分的にプレキャスト床版が損傷した場合であっても、橋梁床版全体でプレストレス力を解除・再緊張する必要がなく、PC鋼より線により導入されたプレストレス力の監視及び再導入が容易であり、中間支点部など特定の箇所に対して他よりも大きなプレストレス力を導入することのできる、鋼橋の床版構造、鋼橋の床版取替え方法、及びプレキャスト床版を提供する。
【解決手段】本願発明の鋼橋の床版構造は、定着プレキャスト床版130と中間プレキャスト床版110からなる鋼橋の床版構造である。定着プレキャスト床版と中間プレキャスト床版には緊張材が挿通される緊張材挿通孔が設けられる。両端部に配置される定着プレキャスト床版と、その中間に配置される中間プレキャスト床版が、橋軸方向に連結されてなるセグメントを備え、セグメントはセグメントごとに用意されるセグメント緊張材510によってそれぞれ独立しては緊張される。
橋軸方向に分割した複数のセグメントが、該セグメントごとに用意されるセグメント緊張材によってそれぞれ独立して緊張されてなる鋼橋の床版のうち、該セグメントの両端に配置されるプレキャスト床版であって、
右側に隣接する前記セグメントの前記セグメント緊張材が挿通される第1の緊張材挿通孔と、
左側に隣接する前記セグメントの前記セグメント緊張材が挿通される第2の緊張材挿通孔と、
右側に隣接する前記セグメントの前記セグメント緊張材を定着させるための第1の定着面と、
左側に隣接する前記セグメントの前記セグメント緊張材を定着させるための第2の定着面と、を備え、
前記第1の定着面と前記第2の定着面は、前記セグメントを構成する中間プレキャスト床版の底面より下方に突出し、
前記第1の定着面が左端部に配置されるとともに、前記第2の定着面が右端部に配置され、
前記第1の定着面に第1の緊張材挿通孔の開口部が設けられるとともに、前記第2の定着面に前記第2の緊張材挿通孔の開口部が設けられる、ことを特徴とするプレキャスト床版。
【背景技術】
【0002】
我が国は、国土の大半が山間部で占められ、しかも急峻な地形であることから、地方に整備される道路の多くはその一部に橋梁が設けられている。また、都市部では無数の構造物が密集しており、そこへ新たな道路を計画するとなれば、跨道橋、跨線橋、高架橋など、やはり多くの橋梁が必要となる。
【0003】
橋梁は、損壊時における社会的影響を考えるまでもなく極めて重要な構造物であり、そのため古くから「道路橋示方書・同解説」といった設計基準を整備して厳格に設計され、そして高い品質をもって施工されている。なお、同基準ではプレストレスによる緊張力をプレストレス力として定義している。近年の改定では、維持管理の容易さに加え、維持管理の確実性についても求められている。このように高い品質が求められる一方で、社会的要請と技術力の進歩から、維持管理に優れた構造物をより経済的に、より短い工期で、施工されることも求められるようになってきた。
【0004】
橋梁の上部工を構成する床版は、新設時に設置されるのは当然のことながら、既設橋の改修時にも設置されることがある。近年、既設橋の改修工事が頻繁に行われるようになり、これに伴って高付加価値床版に取り替える動きもみられる。前述のとおり橋梁工事は急速施工が要請されるところであり、既設橋の改修工事の場合は特に工期短縮が求められている。例えば高速道路など自動車専用道路の高架橋は、日々膨大な交通量を支えており、供用停止による経済的損失を考えると一日でも早く工事を完了することが必要となる。
【0005】
以上のような背景から、橋梁の床版にはプレキャストによるコンクリート床版が多用されるようになってきた。ここで「プレキャスト」とは、工場や製造ヤードなど現場とは異なる場所で、あらかじめ製品や部材を製作しておくことであり、このプレキャストによって製作されたコンクリート床版は「プレキャストコンクリート床版」と呼ばれている。従来から採用されている場所打ちコンクリート工法では、型枠設置からコンクート打設、さらには養生期間と、長い施工期間を必要としていたが、プレキャストコンクリート床版の場合、製作は工場で行われ、しかも容易に設置できるため、現場を占有する期間が極めて短くなる。
【0006】
ところで、コンクリートは引張力に対して脆弱であることから、この引張力が生じないようプレストレス力が導入されることがある。プレストレス力を与えることでコンクリートを、引張領域下ではなく圧縮領域下で使用することができるからである。プレストレス力を導入する手法としては、プレテンション方式とポストテンション方式があり、このうちプレテンション方式ではコンクリート硬化前からコンクリートとの付着性に優れた高張力鋼材(鋼棒や鋼より線、あるいはCFRPやアラミド繊維)によって緊張力(プレストレス力)が導入され、コンクリート硬化後に高張力鋼材を切断すると伸ばされた高張力鋼材が縮もうとする作用でコンクリートに圧縮力が導入される。一方、ポストテンション方式ではコンクリート硬化後に高張力鋼材(鋼棒や鋼より線、あるいはCFRPやアラミド繊維)を定着部で緊張することで、その反作用によりコンクリートに圧縮力を導入することができる。
【0007】
橋梁の床版設置は急速施工が求められることから、プレキャスト床版が適しているのは既述のとおりであるが、このプレキャスト床版で形成される橋梁床版にプレストレス力が導入されることもある。いわゆる「縦締め」と呼ばれるもので、橋梁床版に対して橋軸方向にポストテンション方式でプレストレス力が導入される。従来この縦締めは、橋長にわたる高張力鋼材を橋軸方向に緊張することで、床版全体を一体としてプレストレス力を導入していた。したがって、供用後の損傷等によって部分的にプレキャスト床版を取り替える場合、床版全体に導入したプレストレス力を解除するとともに、プレキャスト床版の取り替え後に改めて床版全体にプレストレス力を導入しなければならなかった。
【0008】
そこで特許文献1では、橋梁床版を橋軸方向に分割し、その分割ブロックごとにプレストレス力を導入する技術を提案している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1で提案される技術では、橋梁床版の一般部を形成する通常パネル(プレキャスト床版)と、高張力鋼材(PC鋼棒)を定着させる定着パネル、ブロック間に配置される連結パネルの3種類のプレキャスト床版を用意し、両端の定着パネルとその間に並べられる通常パネルによって1ブロックを構成する。そして、各ブロックは一連の(橋軸方向に連続する)PC鋼棒で緊張され、さらに隣接する定着パネルとその間に配置された連結パネルは一連のキャップケーブル(PC鋼より線)で緊張される。
【0011】
特許文献1の技術によれば、一部のプレキャスト床版が損傷した場合、その損傷プレキャスト床版を含むブロックのみプレストレス力を解除し、取り替え後当該ブロックにのみプレストレス力を導入すれば足りることから、従来に比べ施工期間とコストを大幅に低減することができる。その一方で、ブロックにプレストレス力を導入するPC鋼棒の定着を、プレキャスト床版の内部(床版間)に置いたことによる問題もあった。高張力鋼材でプレストレス力を与えた場合、この高張力鋼材自身のリラクセーションや、プレキャスト床版間に充填されるモルタルのクリープ等に伴い、導入直後よりもプレストレス力が緩和されることが知られている。特許文献1のようにPC鋼棒をプレキャスト床版の内部で定着すると、継続的にプレストレス力の大きさを監視することができず、予定した以上にプレストレス力が緩和された場合にPC鋼棒を再緊張することが容易ではない。高張力鋼材の定着部を取り出すには、床版上面から舗装を撤去するとともに、コンクリートやモルタルで埋められている定着部を取り出すしかないが、これには当然交通規制が伴ない警察協議が必要となるのが理由のひとつである。
【0012】
もうひとつの理由は、PC鋼棒の防錆上の必要からシースとPC鋼棒の間をグラウトすると、PC鋼棒を抜き取ることができず、損傷した床版に隣接する健全な床版もグラウトを抜き取る必要から再製作の必要が生じることである。特許文献1では高張力鋼材としてPC鋼棒を採用しているが、近年では維持管理上の理由からPC鋼より線が好んで用いられている。グラウトによる防錆効果を期待しない場合、PC鋼棒に対して防錆するにはメッキ加工することがあるが、その際PC鋼棒を高温にすることから鋼材が熱の影響で劣化するおそれがあるというのが理由である。
【0013】
また、連続梁形式の橋梁では中間支点部で負の曲げモーメントが大きくなり、したがって当該箇所には相当のプレストレス力を導入したいところであるが、従来の縦締めは床版全体を一体としてプレストレス力が導入されることから、部分的に強弱を付けてプレストレス力を導入することはできなかった。
【0014】
本願発明の課題は、従来の問題を解決することであり、すなわち、部分的にプレキャスト床版が損傷した場合であっても、橋梁床版全体でプレストレス力を解除・再緊張する必要がなく、しかもPC鋼より線により導入されたプレストレス力の監視及び再導入や解放が容易であり、中間支点部など特定の箇所に対して他よりも大きなプレストレス力を導入することのできる、鋼橋の床版構造、鋼橋の床版取替え方法、及びプレキャスト床版を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願発明は、定着プレキャスト床版と中間プレキャスト床版の2種類のプレキャスト床版を用意するとともに、中間プレキャスト床版の底面より下方に突出した定着プレキャスト床版の定着面で、緊張材(高張力鋼材、あるいはカーボンファイバーやアラミド繊維)を定着させる、というこれまでにない発想に基づいて行われたものである。
【0016】
本願発明の鋼橋の床版構造は、緊張材が定着される「定着プレキャスト床版」と緊張材が定着されない「中間プレキャスト床版」からなる鋼橋の床版構造である。これら定着プレキャスト床版と中間プレキャスト床版には、緊張材が挿通される緊張材挿通孔が設けられる。また、両端部に配置される定着プレキャスト床版と、その中間に配置される中間プレキャスト床版が、橋軸方向に連結されてなるセグメントを備えており、このセグメントが橋軸方向に隣接するセグメントの定着プレキャスト床版を含むことで、隣接する2つのセグメントは橋軸方向に一部重複して配列される。さらにセグメントは、セグメントごとに用意されるセグメント緊張材によってそれぞれ独立して緊張される。定着プレキャスト床版は、中間プレキャスト床版の底面より下方に突出したセグメント緊張材を定着させるための定着面を有するとともに、この定着面に緊張材挿通孔の開口部が設けられる。セグメント緊張材は、緊張対象となるセグメントの定着プレキャスト床版の定着面で定着され、隣接する2つのセグメントを緊張するそれぞれのセグメント緊張材が交錯して配置される。セグメント緊張材を緊張せしめるとともに、定着プレキャスト床版にてこのセグメント緊張材を定着させることで、橋軸方向に連続的に緊張力をプレキャスト床版に導入する。
【0017】
本願発明の鋼橋の床版構造は、橋軸方向に隣接するセグメントの定着プレキャスト床版と、当該セグメントの定着プレキャスト床版との間に、1又は2以上の中間プレキャスト床版が配置された床版構造とすることもできる。この場合、隣接するセグメントの定着プレキャスト床版と、当該セグメントの定着プレキャスト床版との間に配置された中間プレキャスト床版では、隣接する2つのセグメントを緊張するそれぞれのセグメント緊張材が、配置される。
【0018】
本願発明の鋼橋の床版構造は、1つの定着プレキャスト床版を、隣接する2つのセグメントが共有する床版構造とすることもできる。1つの定着プレキャスト床版を、隣接する2つのセグメントが共有することで、隣接する2つのセグメントは橋軸方向に一部重複して配列される。
【0019】
本願発明の鋼橋の床版構造は、中間プレキャスト床版と桁が充填材によって接着固定された床版構造とすることもできる。
【0020】
本願発明の鋼橋の床版構造は、中間プレキャスト床版と桁がボルト等の連結治具によって非接着固定された床版構造とすることもできる。
【0021】
本願発明の鋼橋の床版取替え方法は、次の特徴を備えた床版構造をもつ鋼橋に対して実施する方法である。すなわち床版全体が、定着プレキャスト床版と中間プレキャスト床版からなる複数のプレキャスト床版で形成されるとともに、両端部に配置される定着プレキャスト床版と、その中間に配置される中間プレキャスト床版が、橋軸方向に連結されてなるセグメントを備え、セグメントが橋軸方向に隣接するセグメントの定着プレキャスト床版を含むことで、隣接する2つのセグメントは橋軸方向に一部重複して配列される。そしてセグメントごとに用意されるセグメント緊張材によって、それぞれセグメントが独立して緊張される。なお定着プレキャスト床版と中間プレキャスト床版にはセグメント緊張材が挿通される緊張材挿通孔が設けられ、さらに定着プレキャスト床版は中間プレキャスト床版の底面より下方に突出したセグメント緊張材を定着させるための定着面を有するとともにこの定着面には緊張材挿通孔の開口部が設けられる。セグメント緊張材は、緊張対象となるセグメントの定着プレキャスト床版の定着面で定着され、定着プレキャスト床版では、隣接する2つのセグメントを緊張するそれぞれのセグメント緊張材が、交錯して配置される。セグメント緊張材を緊張せしめるとともに、定着プレキャスト床版にてセグメント緊張材を定着させることで、橋軸方向に連続的に緊張力がプレキャスト床版に導入される。以上説明した鋼橋の床版取替え方法は、第1緊張材除去工程と、第2緊張材除去工程、プレキャスト床版撤去工程、プレキャスト床版設置工程、第1緊張工程、第2緊張工程を備えた方法である。このうち第1緊張材除去工程では、取替え対象となるプレキャスト床版を含む「取替対象セグメント」を緊張するセグメント緊張材に対して、緊張を解除するとともにそのセグメント緊張材を除去する。第2緊張材除去工程では、取替対象セグメントに隣接する「取替隣接セグメント」を緊張するセグメント緊張材に対して、緊張を解除するとともにそのセグメント緊張材を除去する。プレキャスト床版撤去工程では、取替対象セグメントを構成する定着プレキャスト床版及び中間プレキャスト床版とを撤去する。プレキャスト床版設置工程では、取替対象セグメントを構成する定着プレキャスト床版及び中間プレキャスト床版を新たに設置する。そして第1緊張工程では、取替対象セグメントをセグメント緊張材で緊張し、第2緊張工程では、取替隣接セグメントをセグメント緊張材で緊張する。
【0022】
本願発明の鋼橋の床版取替え方法は、次の特徴を備えた床版構造をもつ鋼橋に対して実施する方法とすることもできる。すなわち床版全体が、定着プレキャスト床版と中間プレキャスト床版からなる複数のプレキャスト床版で形成されるとともに、両端部に配置される定着プレキャスト床版と、その中間に配置される中間プレキャスト床版が、橋軸方向に連結されてなるセグメントを備え、1つの定着プレキャスト床版を隣接する2つのセグメントが共有することで、隣接する2つのセグメントは橋軸方向に一部重複して配列される。そしてセグメントごとに用意されるセグメント緊張材によって、それぞれセグメントが独立して緊張される。なお定着プレキャスト床版と中間プレキャスト床版にはセグメント緊張材が挿通される緊張材挿通孔が設けられ、さらに定着プレキャスト床版は中間プレキャスト床版の底面より下方に突出したセグメント緊張材を定着させるための定着面を有するとともにこの定着面には緊張材挿通孔の開口部が設けられる。セグメント緊張材は、緊張対象となるセグメントの定着プレキャスト床版の定着面で定着され、定着プレキャスト床版では、隣接する2つのセグメントを緊張するそれぞれのセグメント緊張材が、交錯して配置される。セグメント緊張材を緊張せしめるとともに、定着プレキャスト床版にてセグメント緊張材を定着させることで、橋軸方向に連続的に緊張力がプレキャスト床版に導入される。以上説明した鋼橋の床版取替え方法は、第1緊張材除去工程と、第2緊張材除去工程、プレキャスト床版撤去工程、プレキャスト床版設置工程、第1緊張工程、第2緊張工程を備えた方法である。このうち第1緊張材除去工程では、取替え対象となるプレキャスト床版を含む「取替対象セグメント」を緊張するセグメント緊張材に対して、緊張を解除するとともにそのセグメント緊張材を除去する。第2緊張材除去工程では、取替対象セグメントに隣接する「取替隣接セグメント」を緊張するセグメント緊張材に対して、緊張を解除するとともにそのセグメント緊張材を除去する。プレキャスト床版撤去工程では、取替対象セグメントを構成する定着プレキャスト床版及び中間プレキャスト床版を撤去する。プレキャスト床版設置工程では、取替対象セグメントを構成する定着プレキャスト床版及び中間プレキャスト床版を新たに設置する。そして第1緊張工程では、取替対象セグメントをセグメント緊張材で緊張し、第2緊張工程では、取替隣接セグメントをセグメント緊張材で緊張する。
【0023】
本願発明の鋼橋の床版取替え方法は、次の特徴を備えた床版構造をもつ鋼橋に対して実施する方法とすることもできる。すなわち床版全体が、定着プレキャスト床版と中間プレキャスト床版からなる複数のプレキャスト床版で形成されるとともに、両端部に配置される定着プレキャスト床版と、その中間に配置される中間プレキャスト床版が、橋軸方向に連結されてなるセグメントを備え、セグメントが橋軸方向に隣接するセグメントの定着プレキャスト床版を含むことで、隣接する2つのセグメントは橋軸方向に一部重複して配列される。そしてセグメントごとに用意されるセグメント緊張材によって、それぞれセグメントが独立して緊張される。なお定着プレキャスト床版と中間プレキャスト床版にはセグメント緊張材が挿通される緊張材挿通孔が設けられ、さらに定着プレキャスト床版は中間プレキャスト床版の底面より下方に突出したセグメント緊張材を定着させるための定着面を有するとともにこの定着面には緊張材挿通孔の開口部が設けられる。セグメント緊張材は、緊張対象となるセグメントの定着プレキャスト床版の定着面で定着され、定着プレキャスト床版では、隣接する2つのセグメントを緊張するそれぞれのセグメント緊張材が、交錯して配置される。セグメント緊張材を緊張せしめるとともに、定着プレキャスト床版にてセグメント緊張材を定着させることで、橋軸方向に連続的に緊張力がプレキャスト床版に導入される。以上説明した鋼橋の床版取替え方法は、緊張材除去工程と、プレキャスト床版撤去工程、プレキャスト床版設置工程、ジャッキ緊張工程を備えた方法である。このうち緊張材除去工程では、取替え対象となるプレキャスト床版を含む「取替対象セグメント」を緊張するセグメント緊張材に対して、緊張を解除するとともにそのセグメント緊張材を除去する。プレキャスト床版撤去工程では、取替対象セグメントのうち取替え対象となるプレキャスト床版を撤去し、プレキャスト床版設置工程では、取替対象セグメントのうち取替え対象となるプレキャスト床版を新たに設置する。そしてジャッキ緊張工程では、新たに設置したプレキャスト床版と、この新設のプレキャスト床版に隣接するプレキャスト床版との間にジャッキを設置するとともに、このジャッキによって橋軸方向の力を導入する。
【0024】
本願発明の鋼橋の床版取替え方法は、次の特徴を備えた床版構造をもつ鋼橋に対して実施する方法とすることもできる。すなわち床版全体が、定着プレキャスト床版と中間プレキャスト床版からなる複数のプレキャスト床版で形成されるとともに、両端部に配置される定着プレキャスト床版と、その中間に配置される中間プレキャスト床版が、橋軸方向に連結されてなるセグメントを備え、1つの定着プレキャスト床版を隣接する2つのセグメントが共有することで、隣接する2つのセグメントは橋軸方向に一部重複して配列される。そしてセグメントごとに用意されるセグメント緊張材によって、それぞれセグメントが独立して緊張される。なお定着プレキャスト床版と中間プレキャスト床版にはセグメント緊張材が挿通される緊張材挿通孔が設けられ、さらに定着プレキャスト床版は中間プレキャスト床版の底面より下方に突出したセグメント緊張材を定着させるための定着面を有するとともにこの定着面には緊張材挿通孔の開口部が設けられる。セグメント緊張材は、緊張対象となるセグメントの定着プレキャスト床版の定着面で定着され、定着プレキャスト床版では、隣接する2つのセグメントを緊張するそれぞれのセグメント緊張材が、交錯して配置される。以上説明した鋼橋の床版取替え方法は、緊張材除去工程と、プレキャスト床版撤去工程、プレキャスト床版設置工程、ジャッキ緊張工程を備えた方法である。このうち緊張材除去工程では、取替え対象となるプレキャスト床版を含む「取替対象セグメント」を緊張するセグメント緊張材に対して、緊張を解除するとともにそのセグメント緊張材を除去する。プレキャスト床版撤去工程では、取替対象セグメントのうち取替え対象となるプレキャスト床版を撤去し、プレキャスト床版設置工程では、取替対象セグメントのうち取替え対象となるプレキャスト床版を新たに設置する。そしてジャッキ緊張工程では、新たに設置したプレキャスト床版と、この新設のプレキャスト床版に隣接するプレキャスト床版との間にジャッキを設置するとともに、このジャッキによって橋軸方向の力を導入する。
【0025】
本願発明の鋼橋の床版取替え方法は、次の特徴を備えた床版構造をもつ鋼橋に対して実施する方法とすることもできる。すなわち床版全体が、定着プレキャスト床版と中間プレキャスト床版からなる複数のプレキャスト床版で形成されるとともに、両端部に配置される定着プレキャスト床版と、その中間に配置される中間プレキャスト床版が、橋軸方向に連結されてなるセグメントを備え、セグメントが橋軸方向に隣接するセグメントの定着プレキャスト床版を含むことで、隣接する2つのセグメントは橋軸方向に一部重複して配列される。そしてセグメントごとに用意されるセグメント緊張材によって、それぞれセグメントが独立して緊張される。なお定着プレキャスト床版と中間プレキャスト床版にはセグメント緊張材が挿通される緊張材挿通孔が設けられ、さらに定着プレキャスト床版は中間プレキャスト床版の底面より下方に突出したセグメント緊張材を定着させるための定着面を有するとともにこの定着面には緊張材挿通孔の開口部が設けられる。セグメント緊張材は、緊張対象となるセグメントの定着プレキャスト床版の定着面で定着され、定着プレキャスト床版では、隣接する2つのセグメントを緊張するそれぞれのセグメント緊張材が、交錯して配置される。セグメント緊張材を緊張せしめるとともに、定着プレキャスト床版にてセグメント緊張材を定着させることで、橋軸方向に連続的に緊張力がプレキャスト床版に導入され、ボルトを含む連結治具によって中間プレキャスト床版と桁が非接着固定される。以上説明した鋼橋の床版取替え方法は、緊張材除去工程と、プレキャスト床版撤去工程、プレキャスト床版設置工程、緊張工程を備えた方法である。このうち緊張材除去工程では、取替え対象となるプレキャスト床版を含む「取替対象セグメント」を緊張するセグメント緊張材に対して、緊張を解除するとともにそのセグメント緊張材を除去する。プレキャスト床版撤去工程では、取替対象セグメントのうち取替え対象となるプレキャスト床版を撤去し、プレキャスト床版設置工程では、取替対象セグメントのうち取替え対象となるプレキャスト床版を新たに設置する。そして緊張工程では、取替対象セグメントをセグメント緊張材で緊張する。
【0026】
本願発明の鋼橋の床版取替え方法は、次の特徴を備えた床版構造をもつ鋼橋に対して実施する方法とすることもできる。すなわち床版全体が、定着プレキャスト床版と中間プレキャスト床版からなる複数のプレキャスト床版で形成されるとともに、両端部に配置される定着プレキャスト床版と、その中間に配置される中間プレキャスト床版が、橋軸方向に連結されてなるセグメントを備え、1つの定着プレキャスト床版を隣接する2つのセグメントが共有することで、隣接する2つのセグメントは橋軸方向に一部重複して配列される。そしてセグメントごとに用意されるセグメント緊張材によって、それぞれセグメントが独立して緊張される。なお定着プレキャスト床版と中間プレキャスト床版にはセグメント緊張材が挿通される緊張材挿通孔が設けられ、さらに定着プレキャスト床版は中間プレキャスト床版の底面より下方に突出したセグメント緊張材を定着させるための定着面を有するとともにこの定着面には緊張材挿通孔の開口部が設けられる。セグメント緊張材は、緊張対象となるセグメントの定着プレキャスト床版の定着面で定着され、定着プレキャスト床版では、隣接する2つのセグメントを緊張するそれぞれのセグメント緊張材が、交錯して配置され、ボルトを含む連結治具によって中間プレキャスト床版と桁が非接着固定される。以上説明した鋼橋の床版取替え方法は、緊張材除去工程と、プレキャスト床版撤去工程、プレキャスト床版設置工程、緊張工程を備えた方法である。このうち緊張材除去工程では、取替え対象となるプレキャスト床版を含む「取替対象セグメント」を緊張するセグメント緊張材に対して、緊張を解除するとともにそのセグメント緊張材を除去する。プレキャスト床版撤去工程では、取替対象セグメントのうち取替え対象となるプレキャスト床版を撤去し、プレキャスト床版設置工程では、取替対象セグメントのうち取替え対象となるプレキャスト床版を新たに設置する。そして緊張工程では、取替対象セグメントをセグメント緊張材で緊張する。
【0027】
本願発明のプレキャスト床版は、橋軸方向に分割した複数のセグメントが、このセグメントごとに用意されるセグメント緊張材によってそれぞれ独立して緊張されてなる鋼橋の床版全体のうち、セグメントの両端に配置されるプレキャスト床版であり、第1の緊張材挿通孔と、第2の緊張材挿通孔、第1の定着面、第2の定着面を備えたものである。このうち第1の緊張材挿通孔は、右側に隣接するセグメントのセグメント緊張材が挿通されるもので、第2の緊張材挿通孔は、左側に隣接するセグメントのセグメント緊張材が挿通されるものである。また、第1の定着面は、右側に隣接するセグメントのセグメント緊張材を定着させるためのもので、第2の定着面は、左側に隣接するセグメントのセグメント緊張材を定着させるためのものである。第1と第2の定着面は、セグメントを構成する中間プレキャスト床版の底面より下方に突出し、第1の定着面が左端部に、第2の定着面が右端部に配置される。そして、第1の定着面には第1の緊張材挿通孔の開口部が設けられ、第2の定着面には第2の緊張材挿通孔の開口部が設けられる。
【発明の効果】
【0028】
本願発明の鋼橋の床版構造、鋼橋の床版取替え方法、及びプレキャスト床版には、次のような効果がある。
(1)部分的にプレキャスト床版が損傷した場合、橋梁床版全体でプレストレス力を解除・再緊張する必要がなく、損傷プレキャスト床版を含むセグメント(あるいは、当該セグメントと隣接するセグメント)に対してのみプレストレス力を解除・再緊張すれば足りることから、従来に比べ施工期間とコストを大幅に低減することができる。
(2)緊張材の定着部を、中間プレキャスト床版底面より下方に突出した定着面に置いたことから、プレストレス力の監視と再導入が容易であり、床版全体の強度を維持することができる。
(3)また、桁下の比較的余裕のある空間で緊張材を定着するため、容易かつ安全に定着作業を行うことができる。
(4)隣接するセグメントそれぞれのセグメント緊張材が定着プレキャスト床版で交差することで、床版全体が橋軸方向に連続して緊張されるため、従来と同様のプレストレスによる効果が期待できる。
(5)使用するプレキャスト床版は、定着プレキャスト床版と中間プレキャスト床版の2種類のみであり、プレキャスト床版の設置や製作に掛かるコストの増大を比較的抑えることができる。
(6)一般のプレートガーダーの上路橋では、支間部の床版に作用する力は圧縮力が卓越し、中間支点部に作用する力は引張力が卓越する。本願発明は、中間支点部のプレストレス力を増やしたり、支間部のプレストレス力を減らしたり、プレストレス力をコントロールすることが可能であることから合理的な設計を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本願発明の鋼橋の床版構造を橋軸直角方向に見た断面図。
【
図2】主桁とプレキャスト床版との接着固定を説明する詳細断面図。
【
図3】主桁とプレキャスト床版との非接着固定を説明する詳細断面図。
【
図4】単独定着プレキャスト床版と中間プレキャスト床版を示す橋軸方向の断面図。
【
図5】共有定着プレキャスト床版と中間プレキャスト床版を示す橋軸方向の断面図。
【
図6】単独セグメントを用いた場合の鋼橋の床版全体を示す平面図。
【
図7】単独セグメントと、単独セグメントを緊張するセグメント緊張材を示す橋軸方向の断面図。
【
図8】2つの単独定着プレキャスト床版の間に中間プレキャスト床版が配置された単独セグメントと、単独セグメントを緊張するセグメント緊張材を示す橋軸方向の断面図。
【
図9】(a)は中間支点部に配置された単独定着プレキャスト床版を示す橋軸方向の断面図、(b)は中間支点部に配置された共有定着プレキャスト床版を示す橋軸方向の断面図。
【
図10】共有セグメントを用いた場合の鋼橋の床版全体を示す平面図。
【
図11】共有セグメントと、共有セグメントを緊張するセグメント緊張材を示す橋軸方向の断面図。
【
図12】取替対象セグメントを撤去するケースにおける、本願発明の鋼橋の床版取替え方法の主な工程の流れを示すフロー図。
【
図13】取替対象セグメントを撤去するケースであって単独セグメントを用い、かつ緊張対象セグメント用の単独定着プレキャスト床版と緊張隣接セグメント用の単独定着プレキャスト床版との間に中間プレキャスト床版を配置したケースにおける、本願発明の鋼橋の床版取替え方法の主な工程の流れを示すステップ図。
【
図14】取替対象セグメントを撤去するケースであって単独セグメントを用い、かつ2つの単独定着プレキャスト床版が連続配置されたケースにおける、本願発明の鋼橋の床版取替え方法の主な工程の流れを示すステップ図。
【
図15】取替対象セグメントを撤去するケースであって共有セグメントを用いた場合における、本願発明の鋼橋の床版取替え方法の主な工程の流れを示すステップ図。
【
図16】取替対象プレキャスト床版のみを撤去しジャッキで緊張するケースにおける、本願発明の鋼橋の床版取替え方法の主な工程の流れを示すフロー図。
【
図17】取替対象プレキャスト床版のみを撤去しジャッキで緊張するケースであって単独セグメントを用い、かつ緊張対象セグメント用の単独定着プレキャスト床版と緊張隣接セグメント用の単独定着プレキャスト床版との間に中間プレキャスト床版を配置したケースにおける、本願発明の鋼橋の床版取替え方法の主な工程の流れを示すステップ図。
【
図18】取替対象プレキャスト床版のみを撤去しジャッキで緊張するケースであって単独セグメントを用い、かつ2つの単独定着プレキャスト床版が連続配置されたケースにおける、本願発明の鋼橋の床版取替え方法の主な工程の流れを示すステップ図。
【
図19】取替対象プレキャスト床版のみを撤去しジャッキで緊張するケースであって共有セグメントを用いた場合における、本願発明の鋼橋の床版取替え方法の主な工程の流れを示すステップ図。
【
図20】取替対象プレキャスト床版のみを撤去しセグメント緊張材で緊張するケースにおける、本願発明の鋼橋の床版取替え方法の主な工程の流れを示すフロー図。
【
図21】取替対象プレキャスト床版のみを撤去しセグメント緊張材で緊張するケースであって単独セグメントを用い、かつ緊張対象セグメント用の単独定着プレキャスト床版と緊張隣接セグメント用の単独定着プレキャスト床版との間に中間プレキャスト床版を配置したケースにおける、本願発明の鋼橋の床版取替え方法の主な工程の流れを示すステップ図。
【
図22】取替対象プレキャスト床版のみを撤去しセグメント緊張材で緊張するケースであって単独セグメントを用い、かつ2つの単独定着プレキャスト床版が連続配置されたケースにおける、本願発明の鋼橋の床版取替え方法の主な工程の流れを示すステップ図。
【
図23】取替対象プレキャスト床版のみを撤去しセグメント緊張材で緊張するケースであって共有セグメントを用いた場合における、本願発明の鋼橋の床版取替え方法の主な工程の流れを示すステップ図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本願発明の鋼橋の床版構造、鋼橋の床版取替え方法、及びプレキャスト床版の一例を、図に基づいて説明する。
【0031】
1.鋼橋の床版構造、及びプレキャスト床版
はじめに、本願発明の鋼橋の床版構造とこの構造に用いるプレキャスト床版について説明する。
図1は、本願発明の鋼橋の床版構造を橋軸直角方向に見た断面図である。この図に示すように本願発明の鋼橋の床版構造は、プレキャスト床版100と、これを支持する主桁200によって主に構成される。プレキャスト床版100は、コンクリート製のプレキャストコンクリート床版とするのが一般的であるが、本願発明では他の材料からなる製品を用いることもできることから、単に「プレキャスト床版100」と表現している。このプレキャスト床版100には、高張力鋼材(以下、「PC鋼より線」として説明する。)を挿通するための「緊張材挿通孔101」が橋軸方向に貫通しており、この緊張材挿通孔101は1本のみとすることもできるが、通常は橋幅に応じて橋軸断面方向に複数本(図では10本)設けられる。また主桁200は、鋼製の部材でありI形鋼を用いるのが一般的であるが、橋梁の規模に応じてH形鋼を用いることもでき、その他箱桁やトラス、アーチの床組構造とすることもできる。
【0032】
(プレキャスト床版の固定)
プレキャスト床版100は、大きく2種類の手法によって主桁200上に固定される。その1つが
図2示す「接着固定」であり、もう1つが
図3に示す「非接着固定」である。なお
図2、
図3ともに、主桁200部分を橋軸直角方向に見た詳細断面図である。
【0033】
まず
図2を参照しながら、接着固定について説明する。接着固定する場合のプレキャスト床版100には、主桁200上に位置する部分に箱抜きされた充填孔102が設けられる。一方、プレキャスト床版100を載置する主桁200の上フランジ201の上部には、定着アンカー202が溶接等により固定されている。そして、充填孔102内に定着アンカー202が収まるようにプレキャスト床版100を主桁200上に設置し、その状態で充填孔102内にモルタルやコンクリートといった充填材300を充填する。このとき、充填材300の外周部分のうちプレキャスト床版100と主桁200との隙間部分には、型枠が設置される。また、主桁200のフランジ上で充填材300がない部分には、充填材300を被覆するための被覆体301(例えばモルタル打設)を設けてもよい。充填孔102内の充填材300が固化することによって、プレキャスト床版100と主桁200が定着アンカー202を介して接着固定されるわけである。なお充填材300を用いることで、プレキャスト床版100と主桁200を接着固定する手法であれば、
図2に限らず種々の手法を採用することができ、特に定着アンカー202の形状や設置位置は、状況に応じて適宜設計することができる。
【0034】
次に
図3を参照しながら、非接着固定について説明する。プレキャスト床版100と主桁200を非接着固定する場合は、連結治具400が用いられる。また、非接着固定する場合のプレキャスト床版100の底面には、主桁200上に位置する部分にボルト401が挿通されるボルト挿通孔103が設置される。このボルト孔103内周面にはネジが切られている。さらにプレキャスト床版100の底面には、埋設された固定アンカー402にプレート403が固定されている。このプレート403にはボルト401を通すためのボルト孔が設けられている。また、プレキャスト床版100を載置する主桁200の上フランジ201にも、ボルト401を通すためのボルト孔が設けられている。このボルト孔は、プレキャスト床版100のボルト挿通孔103と位置を合わせやすいように長穴とするとよい。そして、プレキャスト床版100が主桁200上に設置され、主桁200の上フランジ201背面(下側)から、上フランジ201とプレート403それぞれのボルト孔を通過させ、ボルト挿通孔103にボルト401を螺合させる。このとき、ボルト401頭部と、上フランジ201との間に、支圧板404を挿入してもよい。モルタル等の充填材300を用いることなく、ボルト401によってプレキャスト床版100と主桁200を固定することで、着脱が容易な非接着固定となるわけである。なお、充填材300を用いることなく、プレキャスト床版100と主桁200を固定する手法であれば、
図3に限らず種々の手法を採用することができ、特にプレート403の構造や設置、あるいはボルト401の数などは、状況に応じて適宜設計することができる。
【0035】
(プレキャスト床版の種類)
本願発明の鋼橋の床版構造では、2種類のプレキャスト床版100が用いられる。1つはPC鋼より線を定着するために用いられる「定着プレキャスト床版」であり、もう1つはPC鋼より線を挿通するだけで定着されない「中間プレキャスト床版」である。また、定着プレキャスト床版には、さらに単独緊張タイプと共有緊張タイプのものがある。
図4と
図5は、それぞれ定着プレキャスト床版と中間プレキャスト床版110を示す断面図であり、
図4では単独緊張タイプの定着プレキャスト床版(以下、「単独定着プレキャスト床版120」という。)の場合を示し、
図4では共有緊張タイプの定着プレキャスト床版(以下、「共有定着プレキャスト床版130」という。)の場合を示している。なお
図4、
図5ともに、橋軸直角方向に見た断面図であり、実際に主桁200上に配置したときの姿勢を示している。
【0036】
図4と
図5に示すように、中間プレキャスト床版110には橋軸方向に直線状に貫通する緊張材挿通孔111が設けられている。なお、この図では1本の緊張材挿通孔111を示しているが、実際には
図1に示すように複数本が設けられることもある。いずれにしろ中間プレキャスト床版110には、直線状である1種類の緊張材挿通孔111が設けられる。
【0037】
図4に示すように、単独定着プレキャスト床版120には、直線状の緊張材挿通孔121aと、下方に曲がる曲線状の緊張材挿通孔121bが設けられる。それぞれの用途については後述する。なお、この図では1組(緊張材挿通孔121aと緊張材挿通孔121b)の緊張材挿通孔を示しているが、実際には
図1に示すように複数組が設けられることもある。また、中間プレキャスト床版110の底面112が略水平面であるのに対して、単独定着プレキャスト床版120の底面122は傾斜しており、さらに単独定着プレキャスト床版120には中間プレキャスト床版110の底面112より下方に突出した「定着面123」が設けられている。そして、この定着面123には緊張材挿通孔121bの開口部124が設けられている。
【0038】
図5に示すように、共有定着プレキャスト床版130には、左下方に曲がる曲線状の「第1の緊張材挿通孔131a」と、右下方に曲がる曲線状の「第2の緊張材挿通孔131b」が設けられる。それぞれの用途については後述する。なお、この図では1組(第1の緊張材挿通孔131aと第2の緊張材挿通孔131b)の緊張材挿通孔を示しているが、実際には
図1に示すように複数組が設けられることもある。また、中間プレキャスト床版110の底面112に比して共有定着プレキャスト床版130の底面132は下方に位置しており、さらに共有定着プレキャスト床版130の左下端には、中間プレキャスト床版110の底面112より下方に突出した「第1の定着面133a」が設けられ、右下端にはやはり中間プレキャスト床版110の底面112より下方に突出した「第2の定着面133b」が設けられている。そして、第1の定着面133aには第1の緊張材挿通孔131aの開口部134aが設けられ、第2の定着面133bには第2の緊張材挿通孔131bの開口部134bが設けられている。
【0039】
(セグメント)
本願発明の鋼橋の床版構造は、床版全体にわたって橋軸方向に緊張するのではなく、橋軸方向に分割したセグメント単位で緊張するのが1つの技術的特徴となっている。そこで、ここではセグメントについて説明する。なお既述のとおり本願発明では、定着プレキャスト床版として単独定着プレキャスト床版120と共有定着プレキャスト床版130の2タイプを用いることとしており、セグメントも定着プレキャスト床版のタイプに応じた2つの形式がある。なおここでは便宜上、単独定着プレキャスト床版120を用いたたセグメントを「単独セグメント」と、共有定着プレキャスト床版130を用いたセグメントを「共有セグメント」ということとする。
【0040】
図6は、単独セグメントSG1を用いた場合の鋼橋の床版全体を示す平面図である。この図に示すように床版全体は、複数の単独セグメントSG1が一部重複しながら橋軸方向に並べられて配置されることで構成される。この単独セグメントSG1は、
図6や
図7に示すように、単独定着プレキャスト床版120と中間プレキャスト床版110で構成される。
図7は、単独セグメントSG1と、この単独セグメントSG1を緊張するセグメント緊張材を示す橋軸方向の断面図である。この図からも分かるように単独セグメントSG1は、両端に単独定着プレキャスト床版120が配置され、その単独定着プレキャスト床版120の間に複数の中間プレキャスト床版110(
図7では5個)が配置され、さらに両端の単独定着プレキャスト床版120と中間プレキャスト床版110との間にも、単独定着プレキャスト床版120が配置されている。
【0041】
単独セグメントSG1は、橋軸方向に直列して配置されるのではなく、既述のとおり一部が重複ながら橋軸方向に並べられる。つまり、ある単独セグメントSG1に着目したとき、その単独セグメントSG1用の単独定着プレキャスト床版120が両端に配置されるとともに、隣接する単独セグメントSG1用の単独定着プレキャスト床版120も当該単独セグメントSG1に含まれるわけである。さらに言えば、当該単独セグメントSG1用の単独定着プレキャスト床版120は、隣接する単独セグメントSG1に着目するとその隣接する単独セグメントSG1の中に含まれることとなる。
【0042】
また
図7では、当該単独セグメントSG1用と隣接する単独セグメントSG1用の単独定着プレキャスト床版120が連続して配置されているが、
図8に示すように2つの単独定着プレキャスト床版120の間に1又は2個以上の中間プレキャスト床版110を配置してもよい。
【0043】
また
図7に示すように、単独セグメントSG1は当該セグメントしとして独立して緊張されプレストレス力が与えられる。つまり
図6の場合、省略している部分を除くと左側で3箇所、右側で2箇所それぞれにプレストレス力が与えられるわけである。そして、このセグメントを緊張するのが、セグメント緊張材510である。セグメント緊張材510は、中間プレキャスト床版110と単独定着プレキャスト床版120の緊張材挿通孔101に挿通され、単独定着プレキャスト床版120の定着面123で定着治具520によって定着される。なお、緊張材510のプレストレス力は、それぞれセグメント緊張材510ごとに固有に設定することもできる。
【0044】
このとき、セグメント緊張材510は緊張対象となる単独セグメントSG1(以下、「緊張対象セグメント」という。)のうち両端に配置された単独定着プレキャスト床版120を用いて定着する。具体的には、セグメント緊張材510の右端側は、緊張対象セグメントの右端に位置する単独定着プレキャスト床版120を用いて定着し、セグメント緊張材510の左端側は、緊張対象セグメントの左端に位置する単独定着プレキャスト床版120を用いて定着する。なお、単独セグメントSG1は一部重複して配置されることから、単独定着プレキャスト床版120は、緊張対象セグメントのセグメント緊張材510を挿通するための緊張材挿通孔101(
図4では緊張材挿通孔121a)と、緊張対象セグメントに隣接する単独セグメントSG1(以下、「緊張隣接セグメント」という。)のセグメント緊張材510を挿通するための緊張材挿通孔101(
図4では緊張材挿通孔121b)が必要である。
【0045】
単独定着プレキャスト床版120は、
図7からも分かるように両側から2種類のセグメント緊張材510で緊張され、中間プレキャスト床版110に比べると、床版断面あたりの緊張材510に作用するそれぞれ固有の緊張力が加算されたプレストレス力が導入されることとなる。また、緊張対象セグメントの単独定着プレキャスト床版120と緊張隣接セグメントの単独定着プレキャスト床版120の間に配置された中間プレキャスト床版110(
図8)も、同様に両側から2種類のセグメント緊張材510で緊張され、床版断面あたりの緊張材510に作用するそれぞれ固有の緊張力が加算されたプレストレス力が導入されることとなる。したがって、両側から2種類のセグメント緊張材510で緊張される中間プレキャスト床版110や単独定着プレキャスト床版120は、
図9(a)に示すように中間支点部など負の曲げモーメントが大きくなる箇所での設置に適している。
【0046】
セグメント緊張材510として用いられる高張力鋼材は、PC鋼より線を採用するとよい。また、セグメント緊張材510は、中間プレキャスト床版110の底面112より下方に突出した定着面123で定着されるため、施工後の緊張管理や、緊張緩和時の再緊張が容易である。そこで再緊張を可能にするため、PC鋼より線を挿通した後の緊張材挿通孔101はグラウト注入しないこととするとよい。例えば、グリースが塗布されたポリエチレン製のシースでPC鋼材を被覆したアンボンドPC鋼より線を用いることができる。なお、床版全体における端部(橋台側)の単独セグメントSG1は、橋台や橋梁用伸縮装置などとの配置関係によって、単独定着プレキャスト床版120を配置することなく中間プレキャスト床版120の端面でセグメント緊張材510を定着させることができる。もちろん、単独定着プレキャスト床版120を配置して他の単独セグメントSG1と同様にセグメント緊張材510を定着させることもできる。ただし、中間プレキャスト床版120の端面でセグメント緊張材510を定着させる場合も、当該単独セグメントSG1の他端側(橋台側とは異なる端)には、単独定着プレキャスト床版120を配置してその定着面123でセグメント緊張材510を定着させる。
【0047】
図10は、共有セグメントSG2を用いた場合の鋼橋の床版全体を示す平面図である。この図に示すように床版全体は、複数の共有セグメントSG2が一部重複しながら橋軸方向に並べられて配置されることで構成される。またこの共有セグメントSG2は、
図10や
図11に示すように、共有定着プレキャスト床版130と中間プレキャスト床版110で構成される。なお
図11は、共有セグメントSG2と、この共有セグメントSG2を緊張するセグメント緊張材を示す橋軸方向の断面図である。この図からも分かるように共有セグメントSG2は、両端に共有定着プレキャスト床版130が配置され、その共有定着プレキャスト床版130の間に複数の中間プレキャスト床版110(
図11では7個)が配置される。
【0048】
共有セグメントSG2は、橋軸方向に直列して配置されるのではなく、既述のとおり一部が重複ながら橋軸方向に並べられる。具体的には、1つの共有定着プレキャスト床版130が、隣接する2つの共有セグメントSG2によって共有されることで共有セグメントSG2は一部重複する。ある共有セグメントSG2に着目したとき、その共有セグメントSG2用の共有定着プレキャスト床版130が両端に配置され、その共有定着プレキャスト床版130は隣接する単独セグメントSG1用の共有定着プレキャスト床版130ともなるわけである。
【0049】
図11に示すように、共有セグメントSG2は当該セグメントしとして独立して緊張されプレストレス力が与えられる。つまり
図10の場合、省略している部分を除くと左側で4箇所、右側で3箇所それぞれにプレストレス力が与えられるわけである。そして、このセグメントを緊張する緊張材510は、中間プレキャスト床版110と共有定着プレキャスト床版130の緊張材挿通孔101に挿通され、共有定着プレキャスト床版130の定着面で定着治具520によって定着される。
【0050】
このとき、セグメント緊張材510は張対象セグメントのうち両端に配置された共有定着プレキャスト床版130を用いて定着する。具体的には、セグメント緊張材510の右端側は、緊張対象セグメントの右端に位置する共有定着プレキャスト床版130を用いて定着し、セグメント緊張材510の左端側は、緊張対象セグメントの左端に位置する共有定着プレキャスト床版130を用いて定着する。なお、共有セグメントSG2は一部重複して配置されることから、共有定着プレキャスト床版130は、緊張対象セグメントのセグメント緊張材510を挿通するための緊張材挿通孔101(
図5では緊張材挿通孔131a)と、緊張隣接セグメントのセグメント緊張材510を挿通するための緊張材挿通孔101(
図5では緊張材挿通孔131b)が必要であり、これら2本の緊張材挿通孔101は交差するように配置される。さらに共有定着プレキャスト床版130は、右側に隣接する共有セグメントSG2のセグメント緊張材510を定着させるための定着面(
図5では第1の定着面133a)と、左側に隣接する共有セグメントSG2のセグメント緊張材510を定着させるための定着面(
図5では第2の定着面133b)が必要である。
【0051】
共有定着プレキャスト床版130は、
図11からも分かるように両側から2種類のセグメント緊張材510で緊張され、中間プレキャスト床版110に比べると、床版断面あたりの緊張材510に作用するそれぞれ固有の緊張力が加算されたプレストレス力が導入されることとなる。したがって共有定着プレキャスト床版130は、
図9(b)に示すように中間支点部など負の曲げモーメントが大きくなる箇所での設置に適している。
【0052】
共有セグメントSG2の場合も、単独セグメントSG1の場合と同様、緊張材510として用いられる高張力鋼材は、PC鋼より線を採用するとよい。また、セグメント緊張材510は、やはり中間プレキャスト床版110の底面112より下方に突出した定着面で定着されるため、施工後の緊張管理や、緊張緩和時の再緊張が容易であり、PC鋼より線を挿通した後の緊張材挿通孔101はグラウト注入せず、例えばアンボンドPC鋼より線を用いるとよい。なおこの場合も、床版全体における端部(橋台側)の共有セグメントSG2は、橋台や橋梁用伸縮装置などとの配置関係によって、共有定着プレキャスト床版130を配置することなく中間プレキャスト床版120の端面でセグメント緊張材510を定着させることができる。もちろん、共有定着プレキャスト床版130を配置して他の共有セグメントSG2と同様にセグメント緊張材510を定着させることもできる。ただし、中間プレキャスト床版120の端面でセグメント緊張材510を定着させる場合も、当該共有セグメントSG2の他端側(橋台側とは異なる端)では隣接する共有定着プレキャスト床版130の定着面でセグメント緊張材510を定着させる。
【0053】
2.鋼橋の床版取替え方法
次に、本願発明の鋼橋の床版取替え方法について説明する。なお、本願発明の鋼橋の床版取替え方法は、例えば損傷を受けたプレキャスト床版100を交換する方法であり、取替え対象となるプレキャスト床版100(以下、「取替対象プレキャスト床版」という。)を含むセグメント(以下、「取替対象セグメント」という。)を撤去するケースと、取替対象プレキャスト床版のみを撤去するケースに大別され、さらに取替対象プレキャスト床版のみを撤去するケースは、ジャッキを用いてプレストレス力を再導入するケースと、再度セグメント緊張材510(PC鋼より線)を用いてプレストレス力を再導入するケースに分けられ、以下それぞれについて説明する。
【0054】
(取替対象セグメントを撤去するケース)
図12は、取替対象セグメントを撤去するケースにおける本願発明の鋼橋の床版取替え方法の主な工程の流れを示すフロー図であり、さらに
図13と
図14は単独セグメントSG1の場合のステップ図、
図15は共有セグメントSG2の場合のステップ図である。なお
図13は、緊張対象セグメント用の単独定着プレキャスト床版120と緊張隣接セグメント用の単独定着プレキャスト床版120との間に中間プレキャスト床版110を配置したケースであり、
図14は、2つの単独定着プレキャスト床版120が連続配置されたケースである。以下、これらの図を参照しながら詳しく説明する。
【0055】
まず、損傷等によって「取替対象プレキャスト床版」と認定されると、その取替対象プレキャスト床版を含む「取替対象セグメント」のセグメント緊張材510によるプレストレス力(緊張力)を解除し、当該セグメント緊張材510を除去する(Step11:第1緊張材除去工程)。次に、取替対象セグメントに隣接するセグメント(以下、「取替隣接セグメント」という。)のセグメント緊張材510による緊張を解除し、当該セグメント緊張材510を除去する(Step12:第2緊張材除去工程)。なお、
図13〜
図15に示すように、取替対象セグメントに隣接する左右の取替隣接セグメントのセグメント緊張材510が除去される。
【0056】
セグメント緊張材510による緊張が解除されると、取替対象セグメントとこれに隣接する定着プレキャスト床版を撤去する(Step13:プレキャスト床版撤去工程)。このとき単独セグメントSG1の場合であれば、
図13や
図14に示すように、取替対象セグメントを構成する中間プレキャスト床版110と単独定着プレキャスト床版120、並びに右側に隣接する取替隣接セグメントのうち左端の単独定着プレキャスト床版120と、左側に隣接する取替隣接セグメントのうち右端の単独定着プレキャスト床版120を撤去する。また共有セグメントSG2の場合であれば、
図15に示すように、取替対象セグメントを構成する中間プレキャスト床版110、並びに右側に隣接する共有単独定着プレキャスト床版130と、左側に隣接する共有単独定着プレキャスト床版130を撤去する。
【0057】
必要なプレキャスト床版100を撤去できると、同じ位置に同じ種類(中間プレキャスト床版110、単独定着プレキャスト床版120、共有単独定着プレキャスト床版130)のプレキャスト床版100を新たに設置する(Step14:プレキャスト床版設置工程)。
【0058】
新規のプレキャスト床版100が設置できると、まずは取替対象セグメントに対してセグメント緊張材510を用いてプレストレス力を導入し(Step15:第1緊張工程)、次いで左右の取替隣接セグメントに対してセグメント緊張材510を用いてプレストレス力を導入する(Step16:第2緊張工程)。最後に、接着固定(
図2)または非接着固定(
図3)によって、新規に設置したプレキャスト床版100と主桁200を固定(合成)する(Step17:桁合成工程)。
【0059】
(取替対象プレキャスト床版のみを撤去し、ジャッキで緊張するケース)
図16は、取替対象プレキャスト床版のみを撤去し、ジャッキで緊張するケースにおける本願発明の鋼橋の床版取替え方法の主な工程の流れを示すフロー図であり、さらに
図17と
図18は単独セグメントSG1の場合のステップ図、
図19は共有セグメントSG2の場合のステップ図である。なお
図17は、緊張対象セグメント用の単独定着プレキャスト床版120と緊張隣接セグメント用の単独定着プレキャスト床版120との間に中間プレキャスト床版110を配置したケースであり、
図18は、2つの単独定着プレキャスト床版120が連続配置されたケースである。以下、これらの図を参照しながら詳しく説明する。
【0060】
まず、損傷等によって「取替対象プレキャスト床版」と認定されると、その取替対象プレキャスト床版を含む「取替対象セグメント」のセグメント緊張材510によるプレストレス力(緊張力)を解除し、当該セグメント緊張材510を除去する(Step21:緊張材除去工程)。
【0061】
セグメント緊張材510による緊張が解除されると、取替対象プレキャスト床版を撤去し(Step22:プレキャスト床版撤去工程)、同じ位置に同じ種類(中間プレキャスト床版110、単独定着プレキャスト床版120、共有単独定着プレキャスト床版130)のプレキャスト床版100を新たに設置する(Step23:プレキャスト 床版設置工程)。
【0062】
新規のプレキャスト床版100が設置できると、その新設のプレキャスト床版100と、これに隣接するプレキャスト床版100との間にジャッキ600を設置し、当該ジャッキ600によって橋軸方向の力を導入する(Step24:ジャッキ緊張工程)。このとき、
図17〜
図19に示すように、ジャッキ600は新規のプレキャスト床版100の右横か左横のいずれか一方(図では右横)に設置すればよい。ジャッキ600が橋軸方向に拡張すると、主桁200に固定された既設のプレキャスト床版100(図では右側)から反力が得られ、反対側に隣接するプレキャスト床版100(図では左側)に対しても力を作用させることができるからである。もちろん片側だけでなく、左右両側にジャッキ600を設置してもよい。
【0063】
ここで用いるジャッキ600は、比較的狭い隙間に設置する必要があるためフラットジャッキ等を利用するとよい。中空箱形状の函体にモルタル等を高圧注入し、その膨張した函体内のモルタルが固化することによって橋軸方向の力を与えるわけである。なおこのケースでは、緊張解除した取替対象プレキャスト床版のうち、一部のプレキャスト床版100に対しては改めて橋軸方向の力を与えない。これは、これらの既設プレキャスト床版100が既にプレストレス力が導入されており、しかも主桁200に固定されていることから、プレストレス力が維持されていると考えられるためである。
【0064】
最後に、接着固定(
図2)または非接着固定(
図3)によって、新規に設置したプレキャスト床版100と主桁200を固定(合成)する(Step25:桁合成工程)。
【0065】
(取替対象プレキャスト床版のみを撤去し、セグメント緊張材で緊張するケース)
図20は、取替対象プレキャスト床版のみを撤去し、セグメント緊張材で緊張するケースにおける本願発明の鋼橋の床版取替え方法の主な工程の流れを示すフロー図であり、さらに
図21と
図22は単独セグメントSG1の場合のステップ図、
図23は共有セグメントSG2の場合のステップ図である。なお
図21は、緊張対象セグメント用の単独定着プレキャスト床版120と緊張隣接セグメント用の単独定着プレキャスト床版120との間に中間プレキャスト床版110を配置したケースであり、
図22は、2つの単独定着プレキャスト床版120が連続配置されたケースである。以下、これらの図を参照しながら詳しく説明する。
【0066】
まず、損傷等によって「取替対象プレキャスト床版」と認定されると、その取替対象プレキャスト床版を含む「取替対象セグメント」のセグメント緊張材510によるプレストレス力(緊張力)を解除し、当該セグメント緊張材510を除去する(Step31:緊張材除去工程)。
【0067】
セグメント緊張材510による緊張が解除されると、取替対象プレキャスト床版を撤去し(Step32:プレキャスト床版撤去工程)、同じ位置に同じ種類(中間プレキャスト床版110、単独定着プレキャスト床版120、共有単独定着プレキャスト床版130)のプレキャスト床版100を新たに設置する(Step33:プレキャスト床版設置工程)。
【0068】
新規のプレキャスト床版100が設置できると、その新設のプレキャスト床版100を含む取替対象セグメントに対して、セグメント緊張材510によって新たにプレストレス力が導入される(Step34:緊張工程)。最後に、接着固定(
図2)または非接着固定(
図3)によって、新規に設置したプレキャスト床版100と主桁200を固定(合成)する(Step35:桁合成工程)。
【符号の説明】
【0070】
100 プレキャスト床版
101 (プレキャストコンクリート床版の)緊張材挿通孔
102 (プレキャストコンクリート床版の)充填孔
103 (プレキャストコンクリート床版の)ボルト挿通孔
110 中間プレキャスト床版
111 (中間プレキャスト床版の)緊張材挿通孔
112 (中間プレキャスト床版の)底面
120 単独定着プレキャスト床版
121a (単独定着プレキャスト床版の当該セグメント用の)緊張材挿通孔
121b (単独定着プレキャスト床版の隣接セグメント用の)緊張材挿通孔
122 (単独定着プレキャスト床版の)底面
123 (単独定着プレキャスト床版の)定着面
124 (単独定着プレキャスト床版の)開口部
130 共有定着プレキャスト床版
131a (共有定着プレキャスト床版の)第1の緊張材挿通孔
131b (共有定着プレキャスト床版の)第2の緊張材挿通孔
132 (共有定着プレキャスト床版の)底面
133a (共有定着プレキャスト床版の)第1の定着面
133b (共有定着プレキャスト床版の)第2の定着面
134a (共有定着プレキャスト床版の第1の緊張材挿通孔の)開口部
134b (共有定着プレキャスト床版の第2の緊張材挿通孔の)開口部
200 主桁
201 (主桁の)上フランジ
202 (主桁の)定着アンカー
300 充填材
301 (充填材の)被覆体
400 連結治具
401 (連結治具の)ボルト
402 (連結治具の)固定アンカー
403 (連結治具の)プレート
404 (連結治具の)支圧板
510 セグメント緊張材
520 定着治具
600 ジャッキ
SG1 単独セグメント
SG2 共有セグメント