【課題】差動装置の入力部材と、遊星ギヤを支持するキャリアとを溶接するに当り、加工自由度や溶接作業性を向上させると共に、装置の小型化を図り、また溶接ビードの削り作業や仕上げ作業も不要として、製造コストの抑制を図る。
【解決手段】差動装置Dの入力部材DCは、入力部材DCの外周端部DCoのキャリア(23)側側面に、キャリア(23)とは反対側に窪み且つ該窪みが外周端部DCoの径方向外端面DCosまで延びていてキャリア23と当接可能な段部15を有している。
前記段部(15)と前記キャリア(23)は溶接(w)結合されるとともに、前記段部(15)と前記キャリア(23)との溶接部(wa)が前記入力部材(DC)の外周端部(DCo)に含まれることを特徴とする、請求項1に記載の差動装置。
前記段部(15)は、前記遊星ギヤ(22)の回転軸線と直交する投影面で見て、前記遊星ギヤ(22)と重ならない位置に形成されることを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の差動装置。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態を、図面を基に説明する。
【0022】
先ず、
図1〜
図5を参照して、本発明の第1実施形態を説明する。
図1において、自動車に搭載される動力源としてのエンジン(図示せず)には、減速歯車機構RGを介して差動装置Dが接続される。この差動装置Dは、エンジンから減速歯車機構RGを経てデフケースDCに伝達される回転力を、車幅方向に並列する図示しない一対の車軸にそれぞれ連なる出力軸J1,J2に分配して伝達することにより、その両車軸を、それらの差動回転を許容しつつ駆動するためのものであって、例えば車体前部のエンジンの横に配置されたミッションケースM内に、減速歯車機構RGを隣接させた状態で同機構RGと共に収容される。尚、エンジンと減速歯車機構RGとの間には、従来周知の動力断接機構や前後進切換機構(何れも図示せず)が介装される。またデフケースDCの回転軸線Lは、出力軸J1,J2の中心軸線と一致する。
【0023】
尚、本明細書において、「軸方向」とは、出力軸J1,J2の中心軸線(即ちデフケースDC及びサイドギヤSの回転軸線L)や減速歯車機構RGの各ギヤの軸線に沿う方向をいい、また「径方向」とは、デフケースDC及びサイドギヤSの径方向をいう。
【0024】
減速歯車機構RGは、例えばデフケースDCの一端部に同心状に回転自在に嵌合支持されるサンギヤ20と、サンギヤ20を同心状に囲繞してミッションケースMの内壁に固定される大径のリングギヤ21と、サンギヤ20及びリングギヤ21間に介装されて両ギヤ20,21に噛合する複数(例えば4個)の遊星ギヤ22と、遊星ギヤ22を軸支するキャリア23とを備えている。サンギヤ20は、図示しない連動機構を介してエンジンのクランク軸に連動連結されており、該サンギヤ20に入力された動力が、遊星ギヤ22及びキャリア23を順次経てデフケースDCに減速して伝達される。
【0025】
キャリア23は、例えば、デフケースDCよりも小径の円形リング状に形成されたキャリアベース23bと、キャリアベース23bの端面に互いに周方向に間隔をおいて一体に連設されて軸方向に各々延びる複数(例えば4個)のアーム部23aとを有する。各々のアーム部23aは、例えばデフケースDCの中心軸線Lと直交する投影面で見て扇形状に形成されており、各々のアーム部23aの先端部(より具体的にはキャリア23の軸方向端部)が、後述するようにデフケースDCと溶接wにより結合される。
【0026】
遊星ギヤ22は、例えばキャリア23の周方向に隣り合うアーム部23aの相互間の空間に配置される。また遊星ギヤ22は、上記空間を縦通する枢軸23jに回転自在に貫通支持される。枢軸23jの一端はキャリアベース23bに固着され、枢軸23jの他端はデフケースDCに支持される。
【0027】
デフケースDCの一端部(例えば
図2の紙面上で見て右端部)は、軸受2を介してミッションケースMに回転自在に支持される。一方、デフケースDCの他端部側では、図示はしないがサンギヤ20、キャリア23又は出力軸J1のうちの少なくとも1つが、ミッションケースMに回転自在に支持される。これにより、相互に一体的に回転するデフケースDC及びキャリア23の結合体が、ミッションケースMに回転自在に支持される。
【0028】
またミッションケースMには、各出力軸J1,J2が嵌挿される貫通孔Maが形成され、貫通孔Maの内周と各出力軸J1,J2の外周との間には、その間をシールする環状シール部材3が介装される。またミッションケースMの底部には、例えばケースMの内部空間1に臨んで所定量の潤滑油を貯溜するオイルパン(図示せず)が設けられており、オイルパンに貯溜した潤滑油が、ミッションケースMの内部空間1において減速歯車機構RGの可動要素やデフケースDC等の回転により周辺に掻き上げられ飛散することで、デフケースDCの内外に存する機械運動部分を潤滑できるようになっている。尚、オイルパンに貯溜した潤滑油をオイルポンプ(図示せず)で吸引して、ミッションケースMの内部空間1の特定部位、例えば減速歯車機構RGやデフケースDC、或いはその周辺のミッションケースMの内壁に向けて強制的に噴射又は散布させるようにしてもよい。
【0029】
差動装置Dは、例えば、デフケースDCと、デフケースDC内に収容される複数のピニオンPと、デフケースDC内に収容されてピニオンPを回転自在に支持するピニオンシャフトPSと、デフケースDC内に収容されてピニオンPに対しその左右両側より噛合し、且つ一対の出力軸J1,J2にそれぞれ接続される一対のサイドギヤSとを備える。また、サイドギヤSは出力ギヤの一例であり、ピニオンPは差動ギヤの一例であり、ピニオンシャフトPSは差動ギヤ支持部の一例であり、デフケースDCは、入力部材の一例である。
【0030】
ピニオンPは、デフケースDCに収容支持されており、デフケースDCに対し径方向の軸線回りに自転可能であると共にデフケースDCの回転に伴いデフケースDCの回転中心回りに公転可能である。
【0031】
デフケースDCは、例えば、ピニオンシャフトPSと共に回転し得るようピニオンシャフトPSを支持する短円筒状(筒状)のケース部4と、一対のサイドギヤSの外側をそれぞれ覆い且つケース部4と一体的に回転する一対のカバー部C1,C2とを有する。
【0032】
一対のカバー部C1,C2のうち、減速歯車機構RG側の第1カバー部C1は、例えばケース部4と一体に形成されており、第1カバー部C1は例えば溶接wによってキャリア23と連結される。また第2カバー部C2は、ケース部4にボルトB等の結合手段を以て着脱可能に結合される。尚、結合手段としては、ボルトB以外の適当な結合手段、例えばカシメ、接着、溶接等の結合手段を採用してもよい。また、第1カバー部C1を、第2カバー部C2と同様にケース部4とは別体に形成して、ケース部4にボルトB等の結合手段を以て結合してもよい。
【0033】
第1,第2カバー部C1,C2は、例えばサイドギヤSの後述する軸部Sjを同心状に囲繞して回転自在に嵌合支持する円筒状のボス部Cbと、外側面の全部又は大部分をデフケースDCの回転軸線Lと直交する平坦面としてボス部Cbの軸方向内端に一体に連設される板状の環状側壁部Csとを備えており、側壁部Csの外周端部がケース部4に一体に又は着脱可能に結合される。側壁部Csは、上記のように平坦面としたことで、軸方向外方側に大きく張出すことが抑えられるから、差動装置Dの軸方向の扁平化を図る上で有利である。
【0034】
一方のカバー部(本実施形態では第1カバー部C1)のボス部Cbの内周面には、出力軸J1の外周面が相対回転自在に直接嵌合している。そして、その相対回転に伴いボス部Cbの軸方向外端から内端側に向かって潤滑油を強制的に給送し得る螺旋状の凹溝8がボス部Cbの内周面に形成される。また、他方のカバー部(本実施形態では第2カバー部C1)のボス部Cbの内周面には、他方のカバー部C2(より具体的にはカバー部C2のボス部Cb)と同側のサイドギヤSの軸部Sjとの相対回転に伴い該ボス部Cbの軸方向外端から内端側に向かって潤滑油を強制的に給送し得る螺旋状の凹溝8′が形成される。
【0035】
ピニオンシャフトPSは、例えばデフケースDC内でデフケースDCの回転軸線Lと直交するように配置されるものであって、筒状のケース部4にその一直径線上に設けた一対の貫通支持孔4aに、該シャフトPSの両端部がそれぞれ抜差可能に挿通される。そして、ピニオンシャフトPSは、ピニオンシャフトPSの一端部を貫通してケース部4に挿着される抜け止めピン5を以て、ケース部4に固定される。抜け止めピン5は、ケース部4にボルト止めした第2カバー部C2に該ピン5の外端を当てがうことで、ケース部4からの抜け止めがなされる。
【0036】
尚、本実施形態では、ピニオンシャフトPSを直線棒状に形成して、ピニオンシャフトPSの両端部に2個のピニオンPをそれぞれ支持させるようにしたものを示したが、ピニオンPを3個以上設けてもよい。その場合には、ピニオンシャフトPSを、3個以上のピニオンPに対応してデフケースDCの回転軸線Lから三方向以上に枝分かれして放射状に延びる交差棒状(例えばピニオンPが4個の場合には十字状)に形成し、ピニオンシャフトPSの各先端部にピニオンPを各々支持させるようにする。またケース部4は、ピニオンシャフトPSの各端部を取付支持し得るように複数のケース要素に分割構成する。
【0037】
またピニオンPは、ピニオンシャフトPSに直接嵌合させてもよいし、軸受ブッシュ等の軸受手段を介して嵌合させてもよい。尚、ピニオンシャフトPSは、
図2、
図3に示すように全長に亘り略一様等径の軸状としてもよいし、或いは段付き軸状としてもよい。またピニオンシャフトPSの、ピニオンPとの嵌合面には、嵌合面への潤滑油の流通を十分に確保するための平坦な切欠き面6(
図3参照)が形成され、切欠き面6とピニオンPの内周面との間に、潤滑油の流通可能な油路が確保される。
【0038】
またピニオンP及びサイドギヤSは、例えば、ベベルギヤに形成されており、しかもピニオンP及びサイドギヤSの歯部を含む全体が各々鍛造等の塑性加工で形成されている。そのため、ピニオンP及びサイドギヤSの歯部を切削加工する場合のような機械加工上の制約を受けることなく歯部を任意の歯数比を以て高精度に形成可能である。尚、ピニオンP及びサイドギヤSとしては、ベベルギヤに代えて他のギヤを採用してもよく、例えばサイドギヤSをフェースギヤとし且つピニオンPを平歯車又は斜歯歯車としてもよい。
【0039】
また、一対のサイドギヤSは、例えば一対の出力軸J1,J2の内端部がそれぞれスプライン嵌合7にされる円筒状の軸部Sjと、軸部Sjから径方向外方に離れた位置に在ってピニオンPに噛合する歯面を有する円環状の歯部Sgと、軸部Sjの内端部から歯部Sgの内周端部に向かって径方向外方に延びる扁平なリング板状に形成される中間壁部Smとを備えており、中間壁部Smにより、軸部Sjと歯部Sgの内周端部との間が一体に接続される。そして、サイドギヤSの背面fのうち、歯部Sgの背面部分fgは、中間壁部Smの背面部分fmよりも軸方向外方に張り出している。
【0040】
尚、各サイドギヤSの軸部Sjは、例えば、各カバー部C1,C2のボス部Cbに回転自在に直接嵌合しているが、軸受を介して嵌合させてもよい。
【0041】
左右少なくとも一方(本実施形態では両方)のサイドギヤSの中間壁部Smには、中間壁部Smを軸方向に横切るよう貫通する複数の貫通油路9が周方向に間隔をおいて形成される。従って、デフケースDC内では、貫通油路9を通して、サイドギヤSの内方側と外方側との間での潤滑油の流通がスムーズに行われる。尚、図示はしないが、少なくとも一方のカバー部C1,C2の側壁部Csには、デフケースDCの内外での潤滑油の流通を許容する複数の貫通孔を周方向に間隔をおいて設けるようにしてもよい。
【0042】
また、各カバー部C1,C2の側壁部Csの内側面、即ちサイドギヤSの背面fとの対向面には、サイドギヤSの歯部Sgの背面部分fgが、ワッシャWを介して回転自在に当接、支持される。尚、ワッシャWは、カバー部C1,C2の側壁部Csの内側面と、サイドギヤSの歯部Sgの背面部分fgとの相対向面の少なくとも一方(本実施形態では側壁部Csの内側面)に形成した環状のワッシャ保持溝10に嵌合、保持される。
【0043】
またカバー部C1,C2の側壁部Csの内側面は、前述の如くサイドギヤSの歯部Sgの背面部分fgが中間壁部Smの背面部分fmよりも軸方向外方に張り出していることに対応して、側壁部Csの、歯部Sgの背面部分fgに対応する部分よりも中間壁部Smの背面部分fmに対応する部分の方が軸方向内方に張り出すように(即ち軸方向厚肉に)形成される。これにより、側壁部CsのサイドギヤSに対する支持剛性が効果的に高められる。
【0044】
各々のサイドギヤSの背面fのうち、ワッシャWに当接する当接面の最外周端feは、
図5に示されるように、サイドギヤS及びピニオンPの相互の噛合部Iの最外周端に対しサイドギヤSの径方向で同一の位置に在り、しかも当接面の最外周端feよりもワッシャWの外周端部Weの方が径方向外方に延びている。
【0045】
次に、
図4,
図5を参照して、キャリア23とデフケースDCとの溶接構造について、具体的に説明する。デフケースDC(より具体的には第1カバー部C1)の外周端部DCoのキャリア23側の側面には、例えばキャリア23とは反対側に窪み且つその窪みがデフケースDCの外周端部DCoの径方向外端面DCoeまで延びる円環状の段部15が凹設される。
図4に明示されるように、段部15は、例えば遊星ギヤ22の回転軸線と直交する投影面で見て、遊星ギヤ22と重ならない位置、即ち遊星ギヤ22よりも第1カバー部C1の径方向外方側の位置に形成される。尚、
図4,
図5において、段部15は、後述する溶接の工程前の形態を示している。
【0046】
本明細書において、デフケースDC(より具体的には第1カバー部C1)の外周端部DCoとは、デフケースDCの径方向外端面DCoeのみならず、径方向外端面DCoeより径方向内方側の、径方向外端面DCoeに近い所定領域も含まれる概念である。
【0047】
また第1カバー部C1のキャリア23側の側面には、例えば段部15の径方向内方側に隣接した、段部15よりも深い複数の円弧状の凹部16が周方向に互いに間隔をおいて凹設される。これら凹部16は、キャリア23の複数のアーム部23aにそれぞれ対応した位置に形成される。しかも各々の凹部16は、キャリア23の各々のアーム部23aの先端部(即ち後述する突部23af)の、少なくとも周方向で一方端(本実施形態では両端)よりも外方側に延びている。そして、その外方側に延出した凹部16の周方向端部は、緩やかに立ち上がる緩斜面16sに各々形成される。
【0048】
また第1カバー部C1のキャリア23側の側面には、キャリア23の複数のアーム部23aの内周面に係合させる円環状の位置決め突部18が一体に突設される。位置決め突部18に複数のアーム部23aの内周面を係合させることで、デフケースDCに対するキャリア23の径方向位置決めが簡単且つ的確に行われる。
【0049】
一方、キャリア23の軸方向端面、即ち各々のアーム部23aの先端面には、例えばアーム部23aの先端面より軸方向でデフケースDC側に張出し且つアーム部23aの径方向外周面より径方向外方側に張出すフランジ状の突部23afが一体に形成されている。各々の突部23afの軸方向先端面のうち径方向内方側部分は、凹部16の深さに対応した小空隙17を挟んで凹部16の底面に対向しており、径方向外方側部分は段部15に当接し、その当接部がレーザトーチT(
図5参照)を以て溶接wされることで、キャリア23がデフケースDCと連結される。そして、段部15とキャリア23(具体的には突部23af)との溶接部waは、デフケースDCの外周端部DCoに含まれる配置となる。また、突部23afの径方向外端面は、本実施形態ではデフケースDCの外周端部DCoの径方向外端面DCoeの、段部15と隣接する部分と面一に連続するように形成されるが、段部15と隣接する部分との間に多少の高低差を設定するようにしてもよい。
【0050】
またデフケースDCの第1カバー部C1に関し、例えば少なくとも段部15及び凹部16は、段部15及び凹部16の形態に対応した鍛造型を用いて鍛造成形される。
【0051】
次に、第1実施形態の作用について説明する。本実施形態の差動装置Dは、エンジンから減速歯車機構RGを介してデフケースDCに回転力を受けた場合に、ピニオンPがピニオンシャフトPS回りに自転しないでデフケースDCと共にデフケースDCの回転軸線L回りに公転するときは、デフケースDCからピニオンPを介して左右のサイドギヤSが同速度で回転駆動されて、サイドギヤSの駆動力が均等に左右の出力軸J1,J2に伝達される。また、自動車の旋回走行等により左右の出力軸J1,J2に回転速度差が生じるときは、ピニオンPが自転しつつ公転することで、ピニオンPから左右のサイドギヤSに対して差動回転を許容しつつ回転駆動力が伝達される。以上は、従来周知の差動装置の作動と同様である。
【0052】
ところで本実施形態では、デフケースDCの外周端部DCoのキャリア23側の側面に、キャリア23とは反対側に窪み且つその窪みがデフケースDCの外周端部DCoの径方向外端面DCoeまで延びていてキャリア23の軸方向端部(即ち複数のアーム部23aの各先端部の突部23af)と当接する段部15が凹設されている。そして、段部15とキャリア23の軸方向端部(より具体的には突部23af)とを突き合わせるように当接させた状態で、その当接部を溶接wすることで、デフケースDC(より具体的には第1カバー部C1)と減速歯車機構GR(より具体的にはキャリア23)とが連結される。このとき、段部15とキャリア23の軸方向端部(より具体的には突部23af)との当接部が溶接部waとなる。
【0053】
溶接作業は、例えば、
図5に鎖線で示すように第1カバー部C1の径方向外方よりも外側の方に配備される溶接用レーザトーチTから当接部の径方向外端に向けてレーザを照射し且つ第1カバー部C1及びレーザトーチTの何れか一方(例えばレーザトーチT)を何れか他方(例えば第1カバー部C1)に対し、デフケースDCの回転軸線L回りに緩やかに相対回転させることで行われる。これにより、レーザのエネルギを以て、段部15と、キャリア23の軸方向端部、即ち突部23afの軸方向先端面とを溶接wにより連結することができる。
【0054】
以上説明したように、本実施形態によれば、デフケースDC(より具体的には第1カバー部C1)の外周端部DCoのキャリア23側の側面に、キャリア23とは反対側に窪み且つその窪みがデフケースDC(より具体的には第1カバー部C1)の外周端部DCoの径方向外端面DCoeまで延びていてキャリア23の突部23afと当接可能である段部15を有しているので、溶接作業に当たり、溶接用レーザトーチTをデフケースDCの径方向外方側から被溶接部(即ち前記当接部の外端)に容易に対向させることができる。これにより、溶接用レーザトーチTの移動自由度を従来技術よりもデフケースDC(より具体的には第1カバー部C1)の径方向外方側により広く確保でき、従来技術よりも加工自由度や溶接作業性を向上させることができる。
【0055】
さらに、本実施形態によれば、段部15とキャリア23は溶接w結合されるとともに、段部15とキャリア23との溶接部waが入力部材DCの外周端部DCoに含まれるので、溶接作業に当たり、デフケースDC(より具体的には第1カバー部C1)の径方向外方側から溶接用レーザトーチTを被溶接部に対し、より容易に対向させることができる。従って、溶接用レーザトーチTの移動自由度をデフケースDC(より具体的には第1カバー部C1)の径方向外方側により広く確保でき、加工自由度や溶接作業性をより向上させることができる。しかも、溶接部waがデフケースDC(より具体的には第1カバー部C1)の外周端部DCoに含まれるため、デフケースDC(より具体的には第1カバー部C1)のサイドギヤS背面を支持する部位(本実施形態ではワッシャWとの当接面)への溶接熱の影響(例えば熱歪)を回避又は低減でき、その熱の影響を考慮した仕上げ加工も不要となる。その上、溶接ビードと周辺部品(例えば減速歯車機構RGのリングギヤ21)とが干渉する虞れがなくなるから、溶接ビードの削り作業や仕上げ作業も不要となる。それらの結果、製造コストを効果的に抑制することができる。
【0056】
また本実施形態によれば、第1カバー部C1のキャリア23側の側面が、段部15の径方向内方側に隣接した、段部15よりも深い円弧状の凹部16を有しており、凹部16は、少なくともアーム部23a(より具体的にはアーム部23aの先端部(本実施形態ではアーム部23aの突部23af))の、キャリア23の周方向での一方端(本実施形態では両端)よりも周方向外方側まで延びている。そのため、溶接時に溶接部周辺に発生するガスを凹部16を通じて外部に的確に排出できるから、溶接の品質の向上に寄与することができる。
【0057】
また本実施形態によれば、凹部16は、周方向に互いに間隔をおいて複数配設されるので、凹部16を設けたことに因るデフケースDCの強度低下が極力抑えられる。これにより、デフケースDC(より具体的には第1カバー部C1)の強度保持を図りながら、デフケースDC(より具体的にはカバー部C1)の薄肉軽量化を達成することができる。
【0058】
また本実施形態によれば、段部15は、遊星ギヤ22の回転軸線と直交する投影面で見て、遊星ギヤ22と重ならない位置に形成される。このため、遊星ギヤ22に対するデフケースDC(より具体的には第1カバー部C1)側の摺動支持面が段部15を特設したことで減ぜられるのを回避できるから、デフケースDC側の摺動支持面の面積(即ち遊星ギヤ22に対する受圧面積)を十分に確保可能となる。
【0059】
また本実施形態によれば、第1カバー部C1は、少なくとも段部15及び凹部16が鍛造型を用いて鍛造成形されるので、段部15及び凹部16を形成するための切削工程が不要となり、加工工数の削減が図られる。
【0060】
また本実施形態によれば、第1カバー部C1の外周端部DCoの側面に形成されてキャリア23とは反対側に窪んだ段部15が、キャリア23との当接面(即ち被溶接面)とされるため、第1カバー部C1の外周端部DCoの側面とキャリア23の軸方向端部とを軸方向に突き合わせて溶接w結合しているにも拘わらず、第1カバー部C1及びキャリア23の結合体の外周端部の軸方向全幅を極力小幅にできる。これにより、差動装置Dの小型化が図られる。
【0061】
また本実施形態によれば、サイドギヤSは、内周側の軸部Sjと、軸部Sjから径方向外方に離間した外周側のサイドギヤSの歯部Sgとの間にその間を繋ぐ扁平なリング板状の中間壁部Smを有しており、中間壁部Smの径方向幅t1がピニオンPの最大直径d1よりも長くなっている。このため、サイドギヤSの歯数Z1をピニオンPの歯数Z2よりも十分大きく設定し得るようにサイドギヤSをピニオンPに対し十分大径化でき、ピニオンPからサイドギヤSへのトルク伝達時におけるピニオンシャフトPSの荷重負担を軽減できて、ピニオンシャフトPSの有効直径d2の小径化、延いてはピニオンPの、出力軸J1,J2の軸方向での幅狭化(小径化)を図ることができる。
【0062】
またこのようにしてピニオンシャフトPSの荷重負担が軽減されると共に、サイドギヤSにかかる反力が低下し、しかもサイドギヤSの背面f(特にサイドギヤS及びピニオンPの相互の噛合部Iの背面側に位置する背面部分fg)がワッシャWを介してカバー部C1,C2の側壁部Csに支持されることから、中間壁部Smを薄肉化してもサイドギヤSの必要な剛性強度を確保することが容易であり、即ち、サイドギヤSに対する支持剛性を確保しつつサイドギヤSの中間壁部Smを十分に薄肉化することが可能となる。
【0063】
また本実施形態によれば、小径化を可能としたピニオンシャフトPSの有効直径d2よりもサイドギヤSの中間壁部Smの最大肉厚t2が更に小さく形成されるため、サイドギヤSの中間壁部Smの更なる薄肉化が達成可能となる。
【0064】
また本実施形態によれば、カバー部C1,C2の側壁部Csが、側壁部Csの外側面をデフケースDCの回転軸線Lと直交する平坦面とした扁平な板状に形成されることで、カバー部C1,C2の側壁部Cs自体の薄肉化も達成される。その上、サイドギヤSの背面fのうち、歯部Sgの背面部分fgは、中間壁部Smの背面部分fmよりも軸方向外方に張り出しているので、サイドギヤSの歯部Sgの剛性を十分に確保しながら、サイドギヤSの中間壁部Smを極力薄肉に形成可能となり、差動装置Dの更なる軽量化や軸方向扁平化が達成される。
【0065】
それらの結果、本実施形態によれば、差動装置Dは、従来装置と同程度の強度(例えば静ねじり荷重強度)や最大トルク伝達量を確保しながら、全体として軸方向で十分に幅狭化することが可能となるため、差動装置Dの周辺のレイアウト上の制約が多い伝動系に対しても、差動装置Dを高い自由度を以て無理なく容易に組込み可能となり、また差動装置Dの伝動系を小型化する上で頗る有利となる。
【0066】
次に、本発明の第2実施形態を
図6を用いて説明する。尚、第1実施形態と同様の構成については同一符号を付して詳しい説明は省略する。
【0067】
第1実施形態では、ピニオンPの支持部(即ち差動ギヤ支持部)として長いピニオンシャフトPSを用いるものを示したが、第2実施形態では、ピニオンPの大径側の端面に同軸に一体に結合された支軸PS′でピニオンPの支持部(即ち差動ギヤ支持部)を構成している。この構成によれば、ピニオンシャフトPSを嵌合させる貫通孔をピニオンPに設ける必要がなくなるため、それだけピニオンPを小径化(軸方向幅狭化)でき、差動装置Dの更なる軸方向の扁平化を図ることができる。即ち、ピニオンシャフトPSがピニオンPを貫通する場合、ピニオンPにはピニオンシャフトPSの径に対応するサイズの貫通孔を形成する必要があるが、ピニオンPの端面に支軸PS′を一体化した場合には、支軸PS′の外径(即ち有効直径d2)に依存することなくピニオンPの小径化(出力軸J1,J2の軸方向での幅狭化)が可能となる。
【0068】
そして、支軸PS′の外周面と、デフケースDC(より具体的には第1カバー部C1)の外周壁、即ち筒状のケース部4に設けた貫通支持孔4aの内周面との間には、支軸PS′の外周面と貫通支持孔4aの内周面との間の相対回転を許容する軸受手段としての軸受ブッシュ12が介挿される。尚、軸受手段としては、ニードルベアリング等の軸受を使用してもよい。また、軸受を省略して、支軸PS′をデフケースDCの貫通支持孔4aに直接嵌合させてもよい。
【0069】
また、第2実施形態は上述した第1実施形態との相違部分以外は第1実施形態と同様の構成をしているため、第2実施形態においても、上記で示した第1実施形態の構成との違いにより得られる効果以外の効果については、第1実施形態と同様の効果が得られる。つまり、第2実施形態においても、デフケースDCの第1カバー部C1と、減速歯車機構GRのキャリア23との溶接に関わる構造に起因する効果については、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0070】
ところで前記した特許文献1,3,4で例示したような従来の差動装置では、通常、サイドギヤ(出力ギヤ)の歯数Z1とピニオン(差動ギヤ)の歯数Z2として、例えば特許文献4に示される14×10、或いは16×10または13×9が用いられており、この場合、差動ギヤに対する出力ギヤの歯数比率Z1/Z2は、それぞれ1.4 、1.6 、1.44となっている。また従来の差動装置では、歯数Z1,Z2の、その他の組合わせとして、例えば15×10、17×10、18×10、19×10、または20×10となっているものも知られており、この場合の歯数比率Z1/Z2は、それぞれ1.5 、1.7 、1.8 、1.9 、2.0 となっている。
【0071】
一方、今日では、差動装置周辺でのレイアウト上の制約を伴う伝動装置も増えており、差動装置のギヤ強度を確保しつつ差動装置を出力軸の軸方向に十分幅狭化(即ち扁平化)することが市場で要求されている。しかしながら従来の既存の差動装置では、上記歯数比率の組み合わせからも明らかなように出力軸の軸方向で幅広の構造形態となっているため、上記した市場の要求を満たすことが困難な状況にある。
【0072】
そこで差動装置のギヤ強度を確保しつつ差動装置を出力軸の軸方向に十分幅狭化(即ち扁平化)し得る差動装置Dの構成例を、上記した実施形態とは異なる観点より、以下に具体的に特定する。尚、この構成例に係る差動装置Dの各構成要素の構造は、
図1〜
図6(特に
図1〜
図5)で説明した上記実施形態の差動装置Dの各構成要素と同様であるので、各構成要素の参照符号は、上記実施形態のそれと同じ符号を使用し、構造説明は省略する。
【0073】
先ず、差動装置Dを出力軸Aの軸方向に十分に幅狭化(即ち扁平化)するための基本的な考え方を、
図7を併せて参照して説明すると、それは、
[1]ピニオンP即ち差動ギヤに対するサイドギヤS即ち出力ギヤの歯数比率Z1/Z2を従来既存の差動装置の歯数比率よりも増大させる。(これにより、ギヤのモジュール(従って歯厚)が減少してギヤ強度が低下する一方で、サイドギヤSのピッチ円直径が増大してギヤ噛合部での伝達荷重が低減しギヤ強度が増大するが、全体としては後述する如くギヤ強度は低下する。)
[2]ピニオンPのピッチ円錐距離PCDを従来既存の差動装置のピッチ円錐距離よりも増やす。(これにより、ギヤのモジュールが増加してギヤ強度が増大すると共に、サイドギヤSのピッチ円直径が増大してギヤ噛合部での伝達荷重が低減しギヤ強度が増大するため、全体としては後述する如くギヤ強度は大幅に増大する。)
従って、上記[1]によるギヤ強度低下の量と、上記[2]によるギヤ強度増大の量とが等しくなるか、或いは上記[1]によるギヤ強度低下の量よりも、上記[2]によるギヤ強度増大の量の方が上回るように、歯数比率Z1/Z2及びピッチ円錐距離PCDを設定することにより、全体としてギヤ強度を従来既存の差動装置と比べて同等もしくは増大させることができる。
【0074】
次に上記[1][2]に基づくギヤ強度の変化態様を数式により具体的に検証する。尚、検証は、以下の実施形態で説明する。先ず、サイドギヤSの歯数Z1を14、ピニオンPの歯数Z2を10とした時の差動装置D′を「基準差動装置」とする。また「変化率」とは、基準差動装置D′を基準(即ち100%)とした場合の各種変数の変化率である。
[1]について
サイドギヤSのモジュールをM、ピッチ円直径をPD
1 、ピッチ角をθ
1 、ピッチ円錐距離をPCD、ギヤ噛合部での伝達荷重をF、伝達トルクをTとした場合に、ベベルギヤの一般的な公式より、
M=PD
1 /Z1
PD
1 =2PCD・ sinθ
1
θ
1 = tan
-1(Z1/Z2)
これら式から、ギヤのモジュールは、
M=2PCD・ sin{ tan
-1(Z1/Z2)}/Z1 ・・・(1)
となり、
また基準差動装置D′のモジュールは、2PCD・ sin{ tan
-1(7/5)}/14
となる。
【0075】
従って、この両式の右項を除算することにより、基準差動装置D′に対するモジュール変化率は、次の(2)式のようになる。
【0077】
また、ギヤ強度(即ち歯部の曲げ強度)に相当する歯部の断面係数は、歯厚の二乗に比例する関係にあり、一方、その歯厚は、モジュールMと略リニアな関係にある。従って、モジュール変化率の二乗は、歯部の断面係数変化率、延いてはギヤ強度の変化率に相当する。即ち、そのギヤ強度変化率は、(2)式に基づいて次の(3)式のように表される。この(3)式は、ピニオンPの歯数Z2が10の時には
図8のL1で示され、これにより、歯数比率Z1/Z2が増えるにつれてモジュール減少によりギヤ強度が低下することが判る。
【0079】
ところで上記したベベルギヤの一般的な公式より、サイドギヤSのトルク伝達距離は、次の(4)式のようになる。
【0080】
PD
1 /2=PCD・ sin{ tan
-1(Z1/Z2)}・・・(4)
そして、トルク伝達距離PD
1 /2による伝達荷重Fは、F=2T/PD
1 である。従って、基準差動装置D′のサイドギヤSにおいて、トルクTを一定とすれば、伝達荷重Fとピッチ円直径PD
1 とが反比例の関係となる。また伝達荷重Fの変化率は、ギヤ強度の変化率とも反比例の関係にあることから、ギヤ強度の変化率は、ピッチ円直径PD
1 の変化率と等しくなる。
【0081】
その結果、ピッチ円直径PD
1 の変化率は、(4)の式を用いて、次の(5)式のようになる。
【0083】
この(5)式は、ピニオンPの歯数Z2が10の時には
図8のL2で示され、これにより、歯数比率Z1/Z2が増えるにつれて伝達荷重低減によりギヤ強度が高まることが判る。
【0084】
結局のところ、歯数比率Z1/Z2が増えることに伴うギヤ強度の変化率は、モジュールMの減少によるギヤ強度の減少変化率(上記した(3)式の右項)と、伝達荷重低減によるギヤ強度の増加変化率(上記した(5)式の右項)との掛け合わせにより、次の(6)式として表される。
【0086】
この(6)式は、ピニオンPの歯数Z2が10の時には
図8のL3で示され、これにより、歯数比率Z1/Z2が増えるにつれて全体としてギヤ強度が低下することが判る。
[2]について
ピニオンPのピッチ円錐距離PCDを基準差動装置D′のピッチ円錐距離よりも増やすと、変更前のPCDをPCD1、変更後のPCDをPCD2とした場合には、PCDの変更前後のモジュール変化率は、上記したベベルギヤの一般的な公式より、歯数を一定とすれば、(PCD2/PCD1)となる。
【0087】
一方、サイドギヤSのギヤ強度の変化率は、(3)式を導いた過程からも明らかなように、モジュール変化率の二乗に相当するため、結局のところ、
モジュール増大によるギヤ強度変化率=(PCD2/PCD1)
2 ・・・(7)
この(7)式は、
図9のL4で示され、これにより、ピッチ円錐距離PCDが増えるにつれてモジュール増加によりギヤ強度が増加することが判る。
【0088】
また、ピッチ円錐距離PCDを基準差動装置D′のピッチ円錐距離PCD1よりも増やした場合に、伝達荷重Fが低減されるが、これによる、ギヤ強度の変化率は、前述のようにピッチ円直径PD
1 の変化率と等しくなる。またサイドギヤSのピッチ円直径PD
1 とピッチ円錐距離PCDとは比例関係にある。従って、
伝達荷重低減によるギヤ強度変化率=PCD2/PCD1 ・・・(8)
この(8)式は、
図9のL5で示され、これにより、ピッチ円錐距離PCDが増えるにつれて伝達荷重低減によりギヤ強度が高まることが判る。
【0089】
そして、ピッチ円錐距離PCDが増えることに伴うギヤ強度の変化率は、モジュールMの増大によるギヤ強度の増加変化率(上記した(7)式の右項)と、ピッチ円直径PDの増加に伴う伝達荷重低減によるギヤ強度の増加変化率(上記した(8)式の右項)との掛け合わせにより、次の(9)式として表される。
【0090】
ピッチ円錐距離増大によるギヤ強度変化率=(PCD2/PCD1)
3 ・・(9)
この(9)式は、
図9のL6で示され、これにより、ピッチ円錐距離PCDが増えるにつれてギヤ強度が大幅に高められることが判る。
【0091】
そして、[1]の手法(歯数比率増大)によるギヤ強度の低下分を、[2]の手法(ピッチ円錐距離増大)によるギヤ強度の増大分で十分補うようにして全体として差動装置のギヤ強度を従来既存の差動装置のギヤ強度と同等もしくはそれ以上とするように、歯数比率Z1/Z2及びピッチ円錐距離PCDの組み合わせを決定する。
【0092】
例えば、基準差動装置D′のサイドギヤSのギヤ強度を100%維持する場合には、[1]で求めた歯数比率増大に伴うギヤ強度の変化率(上記した(6)式の右項)と、[2]で求めたピッチ円錐距離増大によるギヤ強度変化率(上記した(9)の右項)とを掛け合わせたものが100%となるように設定すればよい。これより、基準差動装置D′のギヤ強度を100%維持する場合における歯数比率Z1/Z2とピッチ円錐距離PCDの変化率との関係は、次の(10)式で求められる。この(10)式は、ピニオンPの歯数Z2が10の時には
図10のL7で示される。
【0094】
このように(10)式は、歯数比率Z1/Z2=14/10とした基準差動装置D′のギヤ強度を100%維持する場合における歯数比率Z1/Z2とピッチ円錐距離PCDの変化率との関係(
図10参照)を示すものであるが、この
図10の縦軸のピッチ円錐距離PCDの変化率は、ピニオンPを支持するピニオンシャフトPS(即ちピニオン支持部)のシャフト径をd2とした場合にはd2/PCDの比率に変換可能である。
【0096】
すなわち、従来既存の差動装置において、ピッチ円錐距離PCDの増大変化は、上記表1のようにd2の増大変化と相関があり、且つd2を一定としたときはd2/PCDの比率の低下として表現可能である。しかも、従来既存の差動装置においては、上記表1のように、基準差動装置D′の時にはd2/PCDが40〜45%の範囲に収まっている関係と、PCDを増やすとギヤ強度が増大することとから、基準差動装置D′の時には少なくともd2/PCDが45%以下となるように、ピニオンシャフトPSのシャフト径d2及びピッチ円錐距離PCDを決めれば、ギヤ強度を従来既存の差動装置のギヤ強度と同等もしくはそれ以上とすることができる。つまり、基準差動装置D′の場合には、
d2/PCD≦0.45を満たせばよい。この場合、基準差動装置D′のピッチ円錐距離PCD1に対して、増減変更後のPCDをPCD2とすれば、
d2/PCD2≦0.45/(PCD2/PCD1)・・・(11)
を満たせばよいということになる。そして、この(11)式を、上記した(10)式に適用すれば、d2/PCDと、歯数比率Z1/Z2との関係が、次の(12)式のように変換可能である。
【0098】
この(12)式の等号が成立する時において、ピニオンPの歯数Z2が10の時には
図11のL8のように表すことができる。この(12)式の等号が成立する時が、基準差動装置D′のギヤ強度を100%維持する場合のd2/PCDと歯数比率Z1/Z2との関係である。
【0099】
ところで従来既存の差動装置では、上述したように、通常、基準差動装置D′のような歯数比率Z1/Z2を1.4とするものだけでなく、歯数比率Z1/Z2を1.6とするものや、歯数比率Z1/Z2を1.44とするものも採用されている。この事実を踏まえて、基準差動装置D′(Z1/Z2=1.4)で必要十分な、即ち100%のギヤ強度が得られると想定した場合には、従来既存の差動装置において歯数比率Z1/Z2が16/10の差動装置では、
図8から明らかなようにギヤ強度が基準差動装置D′に比べ87%に低下していることが判る。しかしながら、この程度に低下したギヤ強度は、従来既存の差動装置では実用強度として許容され、実用されている。そこで、軸方向に扁平な差動装置においても、基準差動装置D′に対し少なくとも87%のギヤ強度があれば、ギヤ強度が十分に確保、許容されると考えられる。
【0100】
このような観点から、基準差動装置D′のギヤ強度を87%維持する場合における歯数比率Z1/Z2と、ピッチ円錐距離PCDの変化率との関係を先ず求めると、その関係は、(10)式を導く過程に倣って演算(即ち、歯数比率増大に伴うギヤ強度の変化率(上記した(6)式の右項)と、ピッチ円錐距離増大によるギヤ強度変化率(上記した(9)の右項)とを掛け合わせたものが87%となるように演算)することにより、次の(10′)式のように表すことができる。
【0102】
そして、前述の(11)式を、上記した(10′)式に適用すれば、基準差動装置D′のギヤ強度を87%以上維持する場合におけるd2/PCDと、歯数比率Z1/Z2との関係が、次の(13)式のように変換可能である。但し、計算の過程において、変数を用いて表される項を除き、有効数字を3桁で計算し、それ以外の桁は切り捨てで対応する都合上、実際には計算誤差によりほぼ等しいとなる場合でも、式の表現では等号で表すこととする。
【0104】
この(13)式の等号が成立する場合において、ピニオンPの歯数Z2が10の時には
図11のように(より具体的には、
図11のL9ラインのように)表すことができ、この場合に(13)式に対応する領域は、
図11でL9ライン上及びL9ラインよりも下側の領域となる。そして、この(13)式を満たし、且つ
図11でL10ラインよりも右側となる歯数比率Z1/Z2が2.0を超えることを満たす特定領域(
図11のハッチング領域)が、特にピニオンPの歯数Z2が10で歯数比率Z1/Z2が2.0を超える軸方向に扁平な差動装置において、基準差動装置D′に対し少なくとも87%のギヤ強度を確保可能なZ1/Z2及びd2/PCDの設定領域である。尚、参考までに、歯数比率Z1/Z2を40/10と、d2/PCDを20.00%とそれぞれ設定した時の実施例を
図11において例示すれば、菱形点のようになり、また歯数比率Z1/Z2を58/10と、d2/PCDを16.67%とそれぞれ設定した時の実施例を
図11において例示すれば、三角点のようになり、これらは上記の特定領域に収まっている。これらの実施例について、シミュレーションによる強度解析を行った結果、従来と同等またはそれ以上のギヤ強度(より具体的には基準差動装置D′に対して87%のギヤ強度またはそれ以上のギヤ強度)が得られていることが確認できた。
【0105】
而して、上記特定領域にある扁平な差動装置は、従来既存の非扁平な差動装置と同程度のギヤ強度(例えば静ねじり荷重強度)や最大トルク伝達量を確保しながら、全体として出力軸の軸方向で十分に幅狭化な差動装置として構成されるものであり、そのため、差動装置周辺のレイアウト上の制約が多い伝動系に対しても差動装置を、高い自由度を以て無理なく容易に組込み可能となり、またその伝動系を小型化する上で頗る有利となる等の効果を達成可能である。
【0106】
また、好適には、Z1/Z2≧4を満たすようにし、更に好適には、Z1/Z2≧5.8を満たすようにすれば、従来既存の非扁平な差動装置と同程度のギヤ強度(例えば静ねじり荷重強度)や最大トルク伝達量を確保しながら、差動装置を出力軸の軸方向で更に十分に幅狭化できる。
【0107】
また、上記特定領域にある扁平な差動装置の構造が、例えば、上述した実施形態の構造(より具体的には、
図1〜6で示される構造)となる場合には、上記特定領域にある扁平な差動装置は、上述した実施形態で示した構造に伴う効果も併せて達成可能である。
【0108】
尚、前述の説明(特に
図8,10,11に関する説明)は、ピニオンPの歯数Z2を10とした時の差動装置について行っているが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、ピニオンPの歯数Z2を6,12,20とした場合にも、上記効果を達成可能な扁平な差動装置は、
図12,13,14のハッチングで示されるように、(13)式で表すことができる。即ち、前述のようにして導出された(13)式は、ピニオンPの歯数Z2の変化に関わらず適用できるものであって、例えばピニオンPの歯数Z2を6,12,20とした場合でも、ピニオンPの歯数Z2を10とした場合と同様、(13)式を満たすようにサイドギヤSの歯数Z1、ピニオンPの歯数Z2、ピニオンシャフトPSのシャフト径d2及びピッチ円錐距離PCDを設定すれば上記効果が得られる。
【0109】
また、参考までに、ピニオンPの歯数Z2を12とした場合において、歯数比率Z1/Z2を48/12と、d2/PCDを20.00%とそれぞれ設定した時の実施例を
図13に菱形点で、歯数比率Z1/Z2を70/12と、d2/PCDを16.67%とそれぞれ設定した時の実施例を
図13に三角点で例示する。これらの実施例について、シミュレーションによる強度解析を行った結果、従来と同等またはそれ以上のギヤ強度(より具体的には基準差動装置D′に対して87%のギヤ強度またはそれ以上のギヤ強度)が得られていることが確認できた。また、これらの実施例は、
図13に示されるように上記特定領域に収まっている。
【0110】
比較例として、上記特定範囲に収まらない実施例、例えばピニオンPの歯数Z2を10とした場合において、歯数比率Z1/Z2を58/10と、d2/PCDを27.50%とそれぞれ設定した時の実施例を
図11に星形点で、ピニオンPの歯数Z2を10とした場合において、歯数比率Z1/Z2を40/10と、d2/PCDを34.29%とそれぞれ設定した時の実施例を
図11に丸点で、ピニオンPの歯数Z2を12とした場合において、歯数比率Z1/Z2を70/12と、d2/PCDを27.50%とそれぞれ設定した時の実施例を
図13の星形点で、ピニオンPの歯数Z2を12とした場合において、歯数比率Z1/Z2を48/12と、d2/PCDを34.29%とそれぞれ設定した時の実施例を
図13の丸点で示す。これらの実施例についてシミュレーションによる強度解析を行った結果、従来と同等またはそれ以上のギヤ強度(より具体的には基準差動装置D′に対して87%のギヤ強度またはそれ以上のギヤ強度)が得られなかったことが確認できた。つまり、上記特定範囲に収まらない実施例では上記効果が得られないことが確認できた。
【0111】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
【0112】
例えば、上述した実施形態では、差動装置Dは、左右車軸の回転速度差を許容するものであったが、前輪と後輪の回転速度差を吸収するセンターデフにも本発明の差動装置を実施可能である。
【0113】
また上述した実施形態では、キャリア23の複数のアーム部23aの先端部(より具体的にはフランジ状の突部23af)をデフケースDC(より具体的には第1カバー部C1)に直接、溶接wしたものを示したが、本発明では、複数のアーム部23aの先端部に、キャリアベース23bとは別の円環状の第2キャリアベースを一体に結合し、キャリア23の軸方向端部、即ち第2キャリアベースの端部をデフケースDCに溶接wするようにしてもよい。
【0114】
また上述した実施形態では、デフケースDC(より具体的には第1カバー部C1)の外周端部DCoのキャリア23側の側面に凹設される段部15を、デフケースDCの全周に亘り連続した円環状に形成したものを示したが、本発明では、複数の円弧状段部を周方向に互いに間隔をおいて配列形成してもよく、この場合には、段部15をデフケースDCに設けたことに因る強度低下を極力抑えてデフケースDCの強度保持を図りながら、デフケースDCを薄肉軽量化することができる。
【0115】
また上述した実施形態では、デフケースDC(より具体的には第1カバー部C1)のキャリア23側の側面に段部15に隣接して形成される凹部16が、キャリア23の複数のアーム部23aに対応した複数の円弧状凹部16より構成されるものを示したが、本発明では、凹部16を周方向に連続した単一の円環状の凹部(即ち環状溝)より構成してもよい。