【解決手段】歯車変速機は、入力回転体10と、出力回転体30と、変速機構とを有する。変速機構は、複数の貫通孔55と、複数の外歯53とを備える複数の外歯歯車と、隣り合う外歯歯車の間に間隙を形成するスペーサ57と、複数の偏心軸受40と、円環状のフレーム60と、フレームの内周に沿って、外歯と噛み合う複数のインタナルピン62とを有する。出力回転体は、円板体と、円板体に固定され、複数の貫通孔にそれぞれ挿入される複数のキャリアピン33とを有する。フレームの内部には、少なくとも一つの固形状潤滑剤70が配置される。固形状潤滑剤は、少なくともインタナルピンと、外歯歯車と、キャリアピンと、のうちいずれかと接触する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の例示的な実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本願では、回転軸と平行な方向を「軸方向」、回転軸に直交する方向を「径方向」、回転軸を中心とする円弧に沿う方向を「周方向」、とそれぞれ称する。ただし、上記の「平行な方向」は、略平行な方向も含む。また、上記の「直交する方向」は、略直交する方向も含む。また、以下では、説明の便宜上、
図1の右側を「軸方向上方」、
図1の左側を「軸方向下方」と、それぞれ称する。ただし、この上下方向の定義により、本発明に係る歯車変速機の使用時の向きを限定する意図はない。
【0010】
<1.減速機の全体構成>
以下、歯車変速機の例示的な実施形態である、歯車減速機(以下、単に減速機という)について説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る減速機1を、回転軸90を含む平面で切断した縦断面図である。
図2は、
図1中のA−A断面から見た減速機1の横断面図である。
【0011】
この減速機1は、入力回転数の回転運動を入力回転数よりも低い出力回転数の回転運動に変換する、内接遊星式の減速機である。減速機1は、例えば、ロボット、工作機、X−Yテーブル、材料の切断装置、コンベアライン、ターンテーブル、圧延ローラなどの駆動機構に、組み込まれて使用される。ただし、本発明の減速機1は、他の用途に使用されるものであってもよい。
【0012】
図1に示すように、本実施形態の減速機1は、入力回転体10、減速機構20、および出力回転体30を有する。
【0013】
入力回転体10は、外部から入力される回転数である入力回転数で回転する部材である。本実施形態では、回転軸90に沿って配置された円筒状の部材が、入力回転体10となっている。入力回転体10の軸方向上方の端部は、直接または他の動力伝達機構を介して、駆動源であるモータに接続される。モータを駆動させると、回転軸90を中心として、入力回転体10が入力回転数で回転する。
【0014】
入力回転体10は、第1偏心部11と、第1偏心部11よりも軸方向上方に位置する第2偏心部12と、を有する。第1偏心部11は、回転軸90から外れた位置で回転軸90と平行に延びる第1偏心軸91を中心とする、円筒状の外周面を有する。第2偏心部12も、回転軸90から外れた位置で回転軸90と平行に延びる第2偏心軸92を中心とする、円筒状の外周面を有する。第1偏心軸91と第2偏心軸92とは、回転軸90を挟んで互いに反対側に位置する。また、入力回転体10が回転すると、第1偏心軸91および第2偏心軸92の位置も、回転軸90を中心として回転する。
【0015】
変速機構である減速機構20は、入力回転体10と出力回転体30との間に介在し、入力回転体10の回転運動を、減速させつつ出力回転体30へ伝達する機構である。本実施形態の減速機構20は、一対の偏心軸受40、第1外歯歯車51、第2外歯歯車52、フレーム60および固形状潤滑剤70を有する。
【0016】
一対の偏心軸受40は、第1偏心部11および第2偏心部12の外周部に、それぞれ取り付けられる。偏心軸受40は、内輪41および複数のローラ42を有する。内輪41は、第1偏心軸91を中心とする円筒状の部材である。内輪41は、入力回転体10が回転すると、入力回転体10の回転軸90を中心として回転する。複数のローラ42は、内輪41の外周部に、周方向および軸方向の移動を規制されつつ、回転自在に配置される。なお、偏心軸受40が有するローラ42の数は、本実施形態では18個であるが、それ以外の数であってもよい。
【0017】
第1外歯歯車51は、第1偏心部11の径方向外側に、偏心軸受40を介して、取り付けられている。したがって、第1外歯歯車51は、第1偏心部11の第1偏心軸91を中心として、回転自在に支持される。第2外歯歯車52は、第2偏心部12の径方向外側に、偏心軸受40を介して、取り付けられている。したがって、第2外歯歯車52は、第2偏心部12の第2偏心軸92を中心として、回転自在に支持される。
【0018】
図2中に拡大して示したように、第1外歯歯車51は、その外周部に、径方向外側へ向けて突出する複数の外歯53を有する。また、隣り合う外歯53の間には、径方向内側へ向けて凹む外歯間溝54が設けられている。外歯53と外歯間溝54とは、第1偏心軸91を中心として、周方向に交互に並んでいる。また、第2外歯歯車52も、第1外歯歯車51と同じように、外周部に複数の外歯53と複数の外歯間溝54とを有する。
【0019】
また、
図1および
図2に示すように、第1外歯歯車51は、軸方向に貫通する、複数(
図2の例では8つ)の貫通孔55を有する。複数の貫通孔55は、第1偏心軸91を中心として、周方向に等間隔に並んでいる。各貫通孔55は、外歯53および外歯間溝54よりも径方向内側において、第1外歯歯車51を軸方向に貫通する。また、第2外歯歯車52も、第1外歯歯車51と同じように、複数の貫通孔55を有する。また、
図1に示すように、隣り合う第1外歯歯車51と、第2外歯歯車52との間には、軸方向に間隙56を形成するスペーサ57が配置される。ここで、間隙56の軸方向の幅は、スペーサ57の軸方向の幅と、略同一となる。
【0020】
フレーム60は、入力回転体10、出力回転体30、および2つの外歯歯車51,52を内部に収容する略円筒状の部材である。
図2中に拡大して示したように、フレーム60は、その内周部に、径方向外側へ向けて凹み、軸方向に延びる複数の内歯配置部61を有する。そして、複数の内歯配置部61には、それぞれ内歯であるインタナルピン62が回転自在に配置される。本実施形態では、複数のインタナルピン62は、軸方向と略平行に配置される。また、隣り合うインタナルピン62の間には、径方向外側へ向けて凹む内歯間溝63が形成される。インタナルピン62と内歯間溝63とは、回転軸90を中心として、周方向に交互に並んでいる。
【0021】
各外歯歯車51,52の複数の外歯53と、複数のインタナルピン62とは、互いに噛み合う。すなわち、減速機1の動作時には、フレーム60の内歯間溝63に各外歯歯車51,52の外歯53が嵌り、各外歯歯車51,52の外歯間溝54にインタナルピン62が嵌りながら、各外歯歯車51,52が回転する。このように、フレーム60は、内歯歯車としての機能を果たす。なお、本実施形態では、インタナルピン62は外歯53と噛み合うことで、内歯配置部61内で回転する。これにより、外歯53とインタナルピン62とを、滑らかに噛み合わすことができる。
【0022】
第1外歯歯車51および第2外歯歯車52は、入力回転体10の動力によって回転軸90の周りを公転しながら、フレーム60のインタナルピン62と噛み合うことによって自転する。ここで、インタナルピン62の数は、第1外歯歯車51および第2外歯歯車52の各々が有する外歯53の数よりも、多い。このため、各外歯歯車51,52の1公転ごとに、フレーム60の同じ位置のインタナルピン62に噛み合う外歯53の位置がずれる。これにより、第1外歯歯車51および第2外歯歯車52が、入力回転体10の回転方向とは逆の方向へ、入力回転数よりも低い出力回転数で自転する。したがって、各外歯歯車51,52の貫通孔55の位置も、入力回転数よりも低い出力回転数で回転する。
【0023】
第1外歯歯車51および第2外歯歯車52の各々が有する外歯53の数をNとし、フレーム60の内周部に配置されたインタナルピン62の数をMとすると、減速機構20の減速比Pは、P=(入力回転数)/(出力回転数)=N/(M−N)となる。
図2の例では、N=59,M=60なので、この例における減速機構20の減速比は、P=59である。すなわち、出力回転数は、入力回転数の1/59の回転数となる。ただし、本発明における減速機構の減速比は、他の値であってもよい。
【0024】
出力回転体30は、減速後の出力回転数で、回転軸90を中心として回転する。
図1および
図2に示すように、本実施形態の出力回転体30は、第1円板体31、第2円板体32、および複数(本実施形態では8本)のキャリアピン33を有する。
【0025】
第1円板体31は、回転軸90に対して垂直に配置された、円環状の部材である。第1円板体31は、第1外歯歯車51および第2外歯歯車52よりも、軸方向下方に配置されている。第1円板体31と入力回転体10との間、および、第1円板体31とフレーム60との間には、それぞれボールベアリング34が介在する。これにより、第1円板体31は、フレーム60および入力回転体10に対して、相対的に回転自在に支持される。
【0026】
また、第1円板体31には、複数のキャリアピン33を圧入するための複数(本実施形態では8つ)の被圧入孔311が、設けられている。複数の被圧入孔311は、回転軸90を中心として、周方向に等間隔に並んでいる。各被圧入孔311は、第1円板体31を軸方向に貫通する。
【0027】
第2円板体32は、回転軸90に対して垂直に配置された、円環状の部材である。第2円板体32は、第1外歯歯車51および第2外歯歯車52よりも、軸方向上方に配置されている。第2円板体32と入力回転体10との間、および、第2円板体32とフレーム60との間には、それぞれボールベアリング34が介在する。これにより、第2円板体32は、フレーム60および入力回転体10に対して、相対的に回転自在に支持される。
【0028】
また、第2円板体32には、複数のキャリアピン33の軸方向上方の端部を挿入するための、複数(本実施形態では8つ)の固定用孔321が設けられている。複数の固定用孔321は、回転軸90を中心として、周方向に等間隔に並んでいる。各固定用孔321は、第2円板体32を軸方向に貫通する。
【0029】
複数のキャリアピン33は、第1円板体31と第2円板体32とを接続する、円柱状の部材である。各キャリアピン33は、回転軸90と略平行に配置される。また、複数のキャリアピン33は、第1外歯歯車51および第2外歯歯車52の複数の貫通孔55に、それぞれ挿入される。複数のキャリアピン33は、第1円板体31の複数の被圧入孔311に、それぞれ圧入される。また、各キャリアピン33の軸方向下方の端部には、拡径されたフランジ部331が、設けられている。フランジ部331は、第1円板体31と軸方向に接触する。これにより、各キャリアピン33の軸方向上方への抜けが防止される。また、各キャリアピン33の軸方向上方の端部は、第2円板体32の固定用孔321に挿入され、ナットによって、第2円板体32に固定される。
【0030】
図2に示すように、各貫通孔55を構成する面と、キャリアピン33の外周面との間には、第1隙間81が介在する。そして、第1外歯歯車51および第2外歯歯車52の第1隙間81には、それぞれ円環状のブッシュリング58が挿入されている。ブッシュリング58は、貫通孔55内に位置し、かつ、キャリアピン33の径方向外側を囲む。第1外歯歯車51および第2外歯歯車52が減速後の出力回転数で自転すると、当該動力がブッシュリング58を介して各キャリアピン33に伝達する。その結果、複数のキャリアピン33、第1円板体31、および第2円板体32が、回転軸90を中心として、出力回転数で回転する。なお、本実施形態では、ブッシュリング58と、キャリアピン33との間には、第2隙間82が介在する。
【0031】
<2.固形状潤滑剤について>
続いて、固形状潤滑剤70について説明する。
【0032】
固形状潤滑剤70は、フレーム60内部に配置され、減速機1の各部に潤滑成分を供給するための部材である。
図1に示すように、本実施形態の固形状潤滑剤70は、インタナルピン62と接触する位置、第1外歯歯車51および第2外歯歯車52と接触する位置、キャリアピン33と接触する位置、ボールベアリング34と接触する位置、および偏心軸受40のローラ42と接触する位置に、それぞれ配置されている。ただし、固形状潤滑剤70は、フレーム60内部の他の位置に配置されてもよい。
【0033】
固形状潤滑剤70は、例えば、略液体状の潤滑剤を、金型の内部に注入して、熱処理を施すことで成型される。ただし、固形状潤滑剤70は、機械加工等の、他の工法によって形成されるものであってもよい。固形状潤滑剤70の材料には、例えば、潤滑成分であるグリース、ポリエチレンおよび架橋剤が使用される。グリースは、母材であるポリエチレン中に均一に分散される。したがって、固形状潤滑剤70は、各部に対して潤滑成分を均一に供給できる。また、固形状潤滑剤70の硬度は、架橋剤の含有量によって調整できる。したがって、固形状潤滑剤70を加工しやすくなる。また、固形状潤滑剤70を、フレーム60内部に安定的に保持することができる。なお、架橋剤には、例えば、ステアリン酸リチウムが使用される。
【0034】
<2−1.第1固形状潤滑剤について>
続いて、固形状潤滑剤70である第1固形状潤滑剤71について説明する。
図3は、
図1中のB−B断面から見た減速機1の横断面図である。
【0035】
図1および
図3に示すように、フレーム60は、内周部に、径方向外側に凹み、かつ周方向に延びる第1溝部64を有する。第1溝部64は、隣り合う第1外歯歯車51および第2外歯歯車52の各々の、少なくとも一部分と径方向に対向する。そして、第1溝部64には、第1固形状潤滑剤71が配置される。第1固形状潤滑剤71は、少なくともインタナルピン62と接触する。これにより、インタナルピン62に対して、潤滑成分を供給することができる。また、上述したように、インタナルピン62は、外歯53と噛み合うことで回転する。このため、インタナルピン62に供給された潤滑成分は、外歯53にも行き亘る。したがって、外歯53とインタナルピン62との噛み合い部の潤滑性を向上できる。なお、第1固形状潤滑剤71は、外歯53とさらに接触してもよい。これにより、噛み合い部の潤滑性をより向上できる。
【0036】
図4は、減速機1の、キャリアピン33付近の部分断面図である。本実施形態では、第1外歯歯車51と第2外歯歯車52との間隙56の軸方向の幅d1と、第1溝部64の軸方向の幅d2と、はd1<d2の関係を満たす。このため、第1溝部64に配置された第1固形状潤滑剤71によって、第1外歯歯車51および第2外歯歯車52の二つの外歯歯車に対して、効率良く潤滑成分を供給できる。また、フレーム60の内周部に、軸方向に複数の第1溝部64を設ける必要がないため、加工費用を抑えることができる。
【0037】
インタナルピン62は、外歯53と噛み合うことによって、径方向外側に向かう圧力を受ける。このため、第1溝部64とインタナルピン62との、径方向に重なる部分が大きいと、外歯53からの圧力によって、インタナルピン62が変形するおそれがある。そこで、本実施形態では、第1外歯歯車51の外歯53の軸方向下端から、第2外歯歯車52の外歯53の軸方向上端までの軸方向の幅d3と、d2とは、d2<d3の関係を満たす。さらに、外歯53は、第1溝部64の軸方向の一部分と、径方向に重なる。すなわち、第1溝部64と、外歯53の外周部の全部とは、径方向に重ならない。これにより、インタナルピン62は、外歯53と噛み合うことによる負荷が低減される。したがって、インタナルピン62の耐久性を向上できる。
【0038】
また、
図3に示すように、第1溝部64は、フレーム60の内周部に環状に形成される。そして、第1溝部64内には第1固形状潤滑剤71が配置される。これにより、第1固形状潤滑剤71は、フレーム60の内周部に配置された、全てのインタナルピン62と接触することができる。このため、全ての噛み合い部に潤滑成分を行き亘らせることができる。
【0039】
なお、環状の第1溝部64に配置された第1固形状潤滑剤71は、外歯53と接触してもよい。上述したように、第1外歯歯車51および第2外歯歯車52は、入力回転体10の動力によって回転軸90の周りを公転しながら、インタナルピン62と噛み合うことによって自転する。このため、各外歯歯車51,52の外周部の全ての外歯53は、第1固形状潤滑剤71と一定の周期で接触を繰り返すことができる。したがって、噛み合い部の潤滑性をより向上できる。
【0040】
なお、本実施形態の第1固形状潤滑剤71は、可撓性を有する板状の部材である。このため、第1固形状潤滑剤71を、環状の第1溝部64に沿って、湾曲させつつ嵌めこむことで配置できる。第1固形状潤滑剤71は、湾曲状態から平板状に戻ろうとする弾性力によって、第1溝部64内に固定される。こうすることで、第1固形状潤滑剤71を第1溝部64内に容易に配置できる。なお、板状の第1固形状潤滑剤71を、環状の第1溝部64内に配置すると、両端部は、第1溝部64内で第3隙間83を介して周方向に対向する。ここで、第3隙間83の周方向の間隔は、隣り合うインタナルピン62の周方向の間隔より、小さいことが好ましい。そして、第3隙間83は、インタナルピン62とは径方向に重ならないことが好ましい。これにより、フレーム60の内周部に配置された、全てのインタナルピン62に潤滑成分を供給できる。ただし、第3隙間83の周方向の間隔は、隣り合うインタナルピン62の周方向の間隔より大きくてもよい。
【0041】
<2−2.第2固形状潤滑剤について>
続いて、固形状潤滑剤70である第2固形状潤滑剤72について説明する。
【0042】
図1および
図3に示すように、第2固形状潤滑剤72は、隣り合う第1外歯歯車51と、第2外歯歯車52との間の間隙56に配置される。そして、第2固形状潤滑剤72は、各外歯歯車51,52およびキャリアピン33と接触する。また、本実施形態では、第2固形状潤滑剤72は、ブッシュリング58とさらに接触する。これにより、各外歯歯車51,52、キャリアピン33およびブッシュリング58の潤滑性を向上できる。
【0043】
図3に示すように、本実施形態の第2固形状潤滑剤72は、単一部材で構成されている。このため、第2固形状潤滑剤72を、フレーム60内部に、容易に組み込むことができる。ただし、第2固形状潤滑剤72は、複数部材から構成されてもよい。そして、複数の第2固形潤滑剤を、複数のキャリアピン33および各外歯歯車51,52と、それぞれ接触させつつ配置してもよい。
【0044】
また、
図4に示すように、第2固形状潤滑剤72の軸方向の幅d4は、スペーサ57の軸方向の幅、すなわち間隙56の軸方向の幅d1以下であることが好ましい。こうすることで、第2固形状潤滑剤72を間隙56に配置しやすくなる。また、間隙56の軸方向の幅d1を精度よく一定に保つことができる。
【0045】
なお、第2固形状潤滑剤72は、入力回転体10の回転に伴い、遠心力による径方向外側に向かう力を受ける。しかしながら、本実施形態では、第2固形状潤滑剤72は、入力回転体10とキャリアピン33との間に配置される。このため、第2固形状潤滑剤72は、キャリアピン33によって径方向外側への移動が規制される。したがって、第2固形状潤滑剤72は、精度よく安定的に保持される。また、第2固形状潤滑剤72は、遠心力を利用して、キャリアピン33へと効率よく潤滑成分を供給できる。
【0046】
上述したように、ブッシュリング58の内径は、キャリアピン33の外径よりも大きい。すなわち、ブッシュリング58とキャリアピン33との間には、第2隙間82が介在する。そして、第2固形状潤滑剤72から供給された潤滑成分は、第2隙間82に入り込む。このため、ブッシュリング58は、キャリアピン33へと滑らかに動力を伝達することができる。また、第2固形状潤滑剤72から供給された潤滑成分は、貫通孔55を構成する面と、キャリアピン33の外周面との間の、第1隙間81にも入り込む。このため、キャリアピン33は、貫通孔55内部で滑らかに回転することができる。
【0047】
<3.減速機の潤滑性評価について>
図5は、−20℃の環境下で減速機1を駆動させた際の、運転時間と回転トルクとの関係を示す図である。
図6は、0℃の環境下で減速機1を駆動させた際の、駆動時間と回転トルクとの関係を示す図である。
図5および
図6において、記号○でプロットされた各データの系列は、本実施形態に係る減速機1のデータである。また、記号□でプロットされた系列は、液状グリース封入タイプの減速機のデータである。
図5および
図6の横軸は、減速機の運転時間を示している。また、縦軸は、減速機の回転トルク(抵抗の大きさ)を示している。
【0048】
図5および
図6の結果から、本実施形態の減速機1は、液状グリース封入タイプの減速機と比べて、回転トルクが低減したと言える。特に、起動時である
図5および
図6の運転時間が0分のときに、回転トルクが50%以上低減した。したがって、本実施形態の減速機1では、減速機駆動のための消費電力を低減することができる。また、減速機の起動時の、過負荷による起動不良を防ぐことができる。すなわち、減速機の起動特性を改善することができる。液状グリース封入タイプの減速機を用いた場合、0℃や−20℃のような低温環境下において、液状グリースの粘度が増加するため、回転トルクが増加する。しかしながら、本実施形態の減速機1では、低温環境下での使用による回転トルクの増加を防ぐことができる。
【0049】
特に、液状グリース封入タイプの減速機を6軸ロボットのような産業用ロボットに適用した場合には、減速機内部のグリースの量や劣化状態を定期的に管理する必要があった。また、液状グリースの追加や交換をする際には、ロボットの動作を一時的に停止しなければならないため、生産性を低下させていた。しかしながら、本実施形態の減速機1では、グリース漏れによる潤滑性の低下のおそれはない。さらに、減速機の潤滑性を、長期に亘り維持できる。このため、本実施形態の減速機1を産業用ロボットに適用した場合、メンテナンスの頻度を低減でき、生産性を向上できる。
【0050】
<4.変形例>
以上、本発明の例示的な実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。
【0051】
図7は、一変形例に係る減速機1Aの横断面図である。
図7の減速機1Aでは、フレーム60Aの内周部に形成された第1溝部64Aに、第1固形状潤滑剤71Aが配置される。また、フレーム60Aは、第1溝部64Aからさらに径方向外側へ凹む凹部65Aを有する。そして、凹部65A内には、補助潤滑剤73Aが介在する。なお、補助潤滑剤73Aは、液状、略液状(半固体、ゲル状等)、固形状の潤滑剤のいずれであってもよい。これにより、インタナルピン62Aおよび外歯53Aに対して、第1固形状潤滑剤71Aによる潤滑成分に加えて、補助潤滑剤73Aによる潤滑成分を供給することができる。したがって、外歯53Aとインタナルピン62Aとの噛み合い部の抵抗をより低減することができる。
【0052】
また、
図7の減速機1Aは、凹部65Aに補助潤滑剤73Aを供給する供給機構74Aをさらに有する。供給機構74Aは、例えば、補助潤滑剤73Aを供給する供給源75Aと凹部65Aとを接続する配管77Aを有する。配管77Aの経路上には、開閉弁76Aが設けられる。開閉弁76Aを開放すると、供給源75Aから送られた補助潤滑剤73Aが、配管77Aを通り、凹部65A内に供給される。これにより、減速機1Aは、長期に亘り潤滑性を維持することができる。
【0053】
図8は、他の変形例に係る減速機の、キャリアピン33B付近の部分縦断面図である。この減速機では、フレーム60Bの内周部に形成された第1溝部64Bに、第1固形状潤滑剤71Bが配置される。そして、第1固形状潤滑剤71Bの、径方向内側の面は、フレーム60Bの径方向内側の面よりも、径方向内側に位置する。これにより、第1固形状潤滑剤71Bが、インタナルピン62Bおよび外歯53Bと接触しやすくなる。また、インタナルピン62Bが、第1固形状潤滑剤71Bと接触しつつ回転することで、第1固形状潤滑剤71Bから潤滑成分がにじみ出やすくなる。したがって、外歯53Bとインタナルピン62Bとの噛み合い部の潤滑性をより向上できる。
【0054】
特に、
図8の例では、第1外歯歯車51Bおよび第2外歯歯車52Bの各々の外歯53Bの一部分が、第1固形状潤滑剤71Bの径方向内側の面と径方向に対向する。このため、第1固形状潤滑剤71Bから外歯53Bへ、潤滑成分をより効率よく供給できる。
【0055】
図9は、他の変形例に係る減速機の横断面図である。この減速機の第2固形状潤滑剤72Cは、入力回転体10Cと、スペーサ57Cとの間に配置される。そして、第2固形状潤滑剤72Cは、単一部材で構成される。第2固形状潤滑剤72Cは、複数の位置決め孔73Cを有する。そして、複数のキャリアピン33Cは、それぞれ位置決め孔73Cに配置される。このようにすれば、第2固形状潤滑剤72Cを、容易に組み込むことができる。また、第2固形状潤滑剤72Cを、複数のキャリアピン33Cに対してより精度よく位置決めできるとともに、安定的に保持できる。また、第2固形状潤滑剤72Cは、遠心力を利用して、キャリアピン33Cへと効率よく潤滑成分を供給できる。
【0056】
なお、
図9に示すように、第2固形状潤滑剤72Cは、キャリアピン33Cの外周の少なくとも一部を囲むことが好ましい。
図9の例では、第2固形状潤滑剤72Cは、キャリアピン33Cの外周部の略半周を囲む。このため、第2固形状潤滑剤72Cは、周方向の移動が規制され、より安定的に保持される。また、第2固形状潤滑剤72Cと、キャリアピン33Cとの接触部分が大きくなる。このため、第2固形状潤滑剤72Cは、キャリアピン33Cへ、より潤滑成分を供給しやすくなる。
【0057】
図10は、他の変形例に係る減速機の横断面図である。この減速機のスペーサ57Dは、キャリアピン33Dの径方向内側に配置される。そして、第2固形状潤滑剤72Dは、スペーサ57Dと、インタナルピン62Dとの間に配置される。そして、第2固形状潤滑剤72Dは、単一部材で構成される。第2固形状潤滑剤72Dは、複数の位置決め孔73Dを有する。そして、複数のキャリアピン33Cは、それぞれ位置決め孔73Dに配置される。このような構造であっても、第2固形状潤滑剤72Dは、キャリアピン33Dおよび外歯歯車へ潤滑成分を供給できる。
【0058】
図11は、他の変形例に係る減速機の縦断面図である。この減速機の隣り合う外歯歯車51E,52Eは、互いに対向する面に、軸方向に凹む第2溝部66Eを有する。そして、第2固形状潤滑剤72Eの一部分は、第2溝部66Eに配置される。これにより、第2固形状潤滑剤72Eを、各外歯歯車51E,52Eの間に配置しやすくなる。また、第2固形状潤滑剤72Eを、間隙56Eの間に、安定的に保持できる。
【0059】
また、上記の実施形態では、フレームの内周部に、一つの第1溝部が形成されていた。しかしながら、フレームの内周部に形成される第1溝部の数は、二つ以上であってもよい。そして、二つ以上の第1溝部のそれぞれに、固形状潤滑剤が配置されてもよい。
【0060】
また、上記の実施形態では、減速機構は、第1外歯歯車と、第2外歯歯車との、二つの外歯歯車を有していた。しかしながら、外歯歯車の数は、三つ以上であってもよい。
【0061】
また、上記の実施形態では、外歯歯車は、外歯が軸方向に略平行に形成される、いわゆる「平歯歯車」であった。しかしながら、外歯歯車は、例えば、外歯が回転軸に向けて斜めに形成される、いわゆる「斜歯歯車」であってもよい。この場合、インタナルピンは、斜歯である外歯と、噛み合うことができるように、回転軸に向けて斜めに配置すればよい。
【0062】
また、上記の実施形態では、歯車変速機の一例として、減速機を示していた。しかしながら、歯車変速機は、回転速度を増速させる、歯車増速機であってもよい。この場合、例えば、上記の実施形態における減速機の、出力回転体に動力を供給して、入力回転体の回転数を出力させればよい。
【0063】
また、歯車変速機の細部の形状については、本願の各図に示された形状と相違していてもよい。また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。