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特開2017-83053地中熱交換器設置用機材、地中熱交換器及び地中熱交換器設置方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-83053(P2017-83053A)
(43)【公開日】2017年5月18日
(54)【発明の名称】地中熱交換器設置用機材、地中熱交換器及び地中熱交換器設置方法
(51)【国際特許分類】
   F24J 3/08 20060101AFI20170414BHJP
【FI】
   F24J3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-210515(P2015-210515)
(22)【出願日】2015年10月27日
(71)【出願人】
【識別番号】300032628
【氏名又は名称】有限会社ジェイディエフ
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 博
(57)【要約】
【課題】簡便な工程で設置することができて高い性能を有する地中熱交換器を提供する。
【解決手段】地中熱交換器13は、地表から地中に向けて設けられた掘削穴2に挿入された外管3と、外管3に挿入された内管4と、外管3の先端を閉塞して掘削穴2の底に配置された先端部材5と、外管3及び先端部材5と掘削穴2の内壁との間に充填されたセメント6とを備える。外管3と内管4とで、熱媒体の流通路14が形成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に埋設され、熱媒体を流通させて周囲の地盤との間で熱交換を行うための地中熱交換器を設置するための地中熱交換器設置用機材であって、
ボーリングロッドと、
前記ボーリングロッドを用いて地表から地中に向けて設けられた掘削穴に挿入される外管と、
前記外管内に挿入される内管と、
前記外管の先端を閉塞して前記掘削穴の底に配置される先端部材と、
前記外管と前記掘削穴の内壁との間に充填されるセメントとを備え、
前記先端部材は、
前記掘削穴の底に貫入されることにより該先端部材が回転するのを阻止する回転阻止部材と、
前記外管の先端を閉塞している状態において前記ボーリングロッドの先端部が該外管に沿った方向で螺合可能な逆ねじとを有し、
前記外管、前記先端部材及び前記ボーリングロッドは、該先端部材が該外管の先端を閉塞し、かつ該ボーリングロッドが前記逆ねじに螺合した状態で前記掘削穴に挿入可能な径方向の寸法を有することを特徴とする地中熱交換器設置用機材。
【請求項2】
地中に埋設され、熱媒体を流通させて周囲の地盤との間で熱交換を行うための地中熱交換器であって、
ボーリングロッドを用いて地表から地中に向けて設けられた掘削穴に挿入された外管と、
前記外管内に挿入された内管と、
請求項1に記載された先端部材であって、前記外管の先端を閉塞して前記掘削穴の底に配置されたものと、
前記外管及び前記先端部材と前記掘削穴の内壁との間に充填されたセメントとを備え、
前記外管と前記内管とで、前記熱媒体の流通路が形成されていることを特徴とする地中熱交換器。
【請求項3】
前記外管は、第1の熱伝導度を有するホースで構成され、
前記内管は、前記第1の熱伝導度よりも小さい第2の熱伝導度を有するホースで構成されることを特徴とする請求項1に記載の地中熱交換器設置用機材又は請求項2に記載の地中熱交換器。
【請求項4】
前記外管の地表側の端部から所定の長さの範囲を覆う管状の断熱部材を有することを特徴とする請求項1に記載の地中熱交換器設置用機材又は請求項2若しくは3に記載の地中熱交換器。
【請求項5】
地中に埋設され、熱媒体を流通させて周囲の地盤との間で熱交換を行うための地中熱交換器を設置する地中熱交換器設置方法であって、
先端に掘削ビットを取り付けたボーリングロッドを用いてボーリング水を供給しながら地盤に掘削穴を設ける掘削工程と、
前記掘削工程の後、前記掘削ビットを取り外したボーリングロッドの先端及び外管の先端に先端部材を取り付けて該外管の先端を閉塞する先端部材取付工程と、
前記先端部材取付工程の後、前記外管に液体を注入する液体注入工程と、
前記液体注入工程の後、前記外管及び前記ボーリングロッドを、前記先端部材が該掘削穴の底に達するまで前記掘削穴に挿入する外管・ロッド挿入工程と、
前記外管・ロッド挿入工程の後、前記ボーリングロッドを前記先端部材から取り外し、該ボーリングロッドの先端からセメントミルクを前記掘削穴内に供給しながら該ボーリングロッドを引き抜く供給・引抜工程と、
前記外管に内管を挿入する内管挿入工程とを備えることを特徴とする地中熱交換器設置方法。
【請求項6】
前記外管・ロッド挿入工程で掘削穴に挿入される外管は、第1の熱伝導度を有するホースであり、
前記内管挿入工程で外管に挿入される内管は、前記第1の熱伝導度よりも小さい第2の熱伝導度を有するホースであることを特徴とする請求項5に記載の地中熱交換器設置方法。
【請求項7】
前記外管・ロッド挿入工程で掘削穴に挿入される外管は、リールに巻かれた状態で供給されることを特徴とする請求項5又は6に記載の地中熱交換器設置方法。
【請求項8】
前記内管挿入工程で外管に挿入される内管は、リールに巻かれた状態で供給されることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の地中熱交換器設置方法。
【請求項9】
前記掘削ビットのボーリングロッドへの取付けは、該掘削ビットの正ねじに該ボーリングロッドの先端部を螺合させることにより行われ、
前記外管・ロッド挿入工程では、前記先端部材に設けられた回転阻止部材を前記掘削穴の底に貫入させて該先端部材の回転を阻止し、
前記ボーリングロッドの前記先端部材に対する取付け及び取外しは、該先端部材の逆ねじに該ボーリングロッドの先端部を螺合し及び該螺合を解除することにより行われることを特徴とする請求項5〜8のいずれか1項に記載の地中熱交換器設置方法。
【請求項10】
前記内管挿入工程では、前記外管と該内管との間の間隔を維持するための間隔維持部材を該内管に取り付けながら該内管を該外管に挿入することを特徴とする請求項5〜9のいずれか1項に記載の地中熱交換器設置方法。
【請求項11】
前記外管・ロッド挿入工程で挿入される前記外管の外側には、前記地中熱交換器の設置が完了した状態の該外管の上端部から所定の長さにわたる部分を覆う管状の断熱部材が予め装着されていることを特徴とする請求項5〜10のいずれか1項に記載の地中熱交換器設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中に埋設され、熱媒体を流通させて周囲の地盤との間で熱交換を行う地中熱交換器を設置するための地中熱交換器設置用機材、これを用いて設置される地中熱交換器、及びこれを設置するための地中熱交換器設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地中に埋設され、熱媒体を流通させて周囲の地盤との間で熱交換を行うための地中熱交換器として、地盤に掘削して設けた穴に外筒を挿入し、外筒の内側に内筒を挿入し、外筒の下端部を閉塞し、内筒の下端部を開口し、外筒と内筒とで、熱媒体の流通路を形成したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1の地中熱交換器は、次のようにして設置される。すなわち、まず、掘削用ドリルで地中に縦孔を掘削する。その際、縦孔内への土壌の崩落を防止するため、掘削した部分に、数メートルの長さの外筒部分を順次継ぎ足しながら外筒を設置してゆく。
【0004】
掘削が終了すると、外筒の内部を通して掘削用ドリルを抜き取り、内筒を外筒の内部に挿入する。内筒の下端部に固着した円板が外筒下端の棚部に達すると、該円板により外筒下端部が閉塞される。そして、縦孔と外筒の外周面との間に硅砂等が充填される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−13828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の地中熱交換器によれば、外筒は数メートルの長さの外筒部分を継ぎ足して形成されるので、継目を密閉するのに手間がかかるとともに、継目から熱媒体が漏れるおそれもある。また、縦孔と外筒の外周面との間に硅砂等を充填するようにしており、また、充填時に縦孔と外筒との間に隙間が生じる恐れもあるので、縦孔周囲の地中と外筒との間での熱交換の効率が高いとは言えない。
【0007】
本発明の目的は、かかる従来技術の問題点に鑑み、簡便な工程で設置することができて高い性能を有する地中熱交換器を設置するための地中熱交換器設置用機材、これを用いて設置される地中熱交換器、及びこれを設置するための地中熱交換器設置方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明に係る地中熱交換器設置用機材は、
地中に埋設され、熱媒体を流通させて周囲の地盤との間で熱交換を行うための地中熱交換器を設置するための地中熱交換器設置用機材であって、
ボーリングロッドと、
前記ボーリングロッドを用いて地表から地中に向けて設けられた掘削穴に挿入される外管と、
前記外管内に挿入される内管と、
前記外管の先端を閉塞して前記掘削穴の底に配置される先端部材と、
前記外管と前記掘削穴の内壁との間に充填されるセメントとを備え、
前記先端部材は、
前記掘削穴の底に貫入されることにより該先端部材が回転するのを阻止する回転阻止部材と、
前記外管の先端を閉塞している状態において前記ボーリングロッドの先端部が該外管に沿った方向で螺合可能な逆ねじとを有し、
前記外管、前記先端部材及び前記ボーリングロッドは、該先端部材が該外管の先端を閉塞し、かつ該ボーリングロッドが前記逆ねじに螺合した状態で前記掘削穴に挿入可能な径方向の寸法を有することを特徴とする。
【0009】
第1発明によれば、後述の第5発明の地中熱交換器設置方法により、容易に地中熱交換器を設置することができる。したがって、第5発明により得られる効果と同様の効果を得ることができる。
【0010】
第2発明に係る地中熱交換器は、
地中に埋設され、熱媒体を流通させて周囲の地盤との間で熱交換を行うための地中熱交換器であって、
地表から地中に向けて設けられた掘削穴に挿入された外管と、
前記外管内に挿入された内管と、
第1発明中の先端部材であって、前記外管の先端を閉塞して前記掘削穴の底に配置されたものと、
前記外管及び前記先端部材と前記掘削穴の内壁との間に充填されたセメントとを備え、
前記外管と前記内管とで、前記熱媒体の流通路が形成されていることを特徴とする。
【0011】
第2発明によれば、後述の第5発明の方法により、容易に地中熱交換器を設置することができる。したがって、第5発明により得られるのと同様の効果を得ることができる。
【0012】
第3発明に係る地中熱交換器は、第1又は第2発明において、
前記外管は、第1の熱伝導度を有するホースで構成され、
前記内管は、前記第1の熱伝導度よりも小さい第2の熱伝導度を有するホースで構成されることを特徴とする。
【0013】
第3発明によれば、地中熱交換器の設置時に、外管及び内管をリールに巻いた状態で掘削穴に供給することができる。したがって、地盤の状態に応じて決められる掘削穴の深さに応じ、容易に外管及び内管の長さを調整しながら、小規模な地中熱交換器を狭小地において容易に設置することができる。
【0014】
第4発明に係る地中熱交換器は、第1〜第3のいずれかの発明において、前記外管の地表側の端部から所定の長さの範囲を覆う管状の断熱部材を有することを特徴とする。
【0015】
第4発明によれば、地表近傍とそれよりも深い地中との温度差が、該地中深部との熱交換の結果を希釈して地中熱交換器の性能が劣化するのを防止することができる。
【0016】
第5発明に係る地中熱交換器設置方法は、
地中に埋設され、熱媒体を流通させて周囲の地盤との間で熱交換を行うための地中熱交換器を設置する地中熱交換器設置方法であって、
先端に掘削ビットを取り付けたボーリングロッドを用いてボーリング水を供給しながら地盤に掘削穴を設ける掘削工程と、
前記掘削工程の後、前記掘削ビットを取り外したボーリングロッドの先端及び外管の先端に先端部材を取り付けて該外管の先端を閉塞する先端部材取付工程と、
前記先端部材取付工程の後、前記外管に液体を注入する液体注入工程と、
前記液体注入工程の後、前記外管及び前記ボーリングロッドを、前記先端部材が該掘削穴の底に達するまで前記掘削穴に挿入する外管・ロッド挿入工程と、
前記外管・ロッド挿入工程の後、前記ボーリングロッドを前記先端部材から取り外し、該ボーリングロッドの先端からセメントミルクを前記掘削穴内に供給しながら該ボーリングロッドを引き抜く供給・引抜工程と、
前記外管に内管を挿入する内管挿入工程とを備えることを特徴とする。
【0017】
ここで、内管挿入工程は、外管・ロッド挿入工程の前又は後のいずれの時点で行われてもよい。第5発明によれば、外管・ロッド挿入工程の前に、内管を外管に挿入しておくことにより、供給・引抜工程で供給されたセメントミルクが固化すると、内管の内部及び外管と内管との間を経由する熱媒体の流通路が形成される。又は、外管への内管の挿入を、外管・ロッド挿入工程の後、又は供給・引抜工程により供給されたセメントミルクが固化した後に行うことにより、熱媒体の流通路を形成することもできる。
【0018】
これによれば、小規模な機材により狭小地においても低コストで地中熱交換器を設置することができる。また、掘削ビットを取り付けたボーリングロッドを用いてボーリング水を供給しながら地盤に掘削穴を設けるようにしたので、締まっていて掘削が困難な地盤でも掘削穴を容易に設けることができる。また、外管と掘削穴との間の空間がセメントで充填されるので、外管の腐食と漏水を防止することができる。
【0019】
また、外管内に外圧に対抗するための液体を供給してから、ボーリングロッドと共に外管を掘削穴に挿入するので、小口径の外管を、外圧によって潰されずに支障なく掘削穴の底まで挿入することができる。
【0020】
また、設置された地中熱交換器に形成された流通路に水等の熱媒体を流通させることにより、地盤の熱を内管より表面積の大きい外管の全表面で吸収して熱媒体に伝達できるので、小口径の外管により効率的に熱交換を行うことができる。また、外管を熱伝導率の高い部材で構成し、内管を熱伝導率の低い部材で構成することにより、熱交換の効率をさらに向上させることができる。
【0021】
第6発明に係る地中熱交換器の設置方法は、第5発明において、
前記外管・ロッド挿入工程で掘削穴に挿入される外管は、第1の熱伝導度を有するホースであり、
前記内管挿入工程で外管に挿入される内管は、前記第1の熱伝導度よりも小さい第2の熱伝導度を有するホースであることを特徴とする。
【0022】
第6発明によれば、市販の金属製ホース及び樹脂製ホースを用いて容易に熱伝導度の高い外管と熱伝導度の低い内管とで熱媒体の流通路を形成することができる。
【0023】
第7発明に係る地中熱交換器の設置方法は、第5又は第6発明において、前記外管・ロッド挿入工程で掘削穴に挿入される外管は、リールに巻かれた状態で供給されることを特徴とする。
【0024】
この設置方法は、外管がリールに巻かれた状態で供給されるので、小規模で狭小地での施工に適している。
【0025】
第8発明に係る地中熱交換器の設置方法は、第5〜第7のいずれかの発明において、前記内管挿入工程で外管に挿入される内管は、リールに巻かれた状態で供給されることを特徴とする。
【0026】
この設置方法は、内管がリールに巻かれた状態で供給されるので、小規模で狭小地での施工に適している。
【0027】
第9発明に係る地中熱交換器の設置方法は、第5〜第8のいずれかの発明において、
前記掘削ビットのボーリングロッドへの取付けは、該掘削ビットの正ねじに該ボーリングロッドの先端部を螺合させることにより行われ、
前記外管・ロッド挿入工程では、前記先端部材に設けられた回転阻止部材を前記掘削穴の底に貫入させて該先端部材の回転を阻止し、
前記ボーリングロッドの前記先端部材に対する取付け及び取外しは、該先端部材の逆ねじに該ボーリングロッドの先端部を螺合し及び該螺合を解除することにより行われることを特徴とする。
【0028】
第9発明によれば、ボーリングヘッドの先端部材からの取外しを、ボーリングマシンを正ねじが進む方向に回転させることにより、正ねじで構成されるボーリングマシンの継目を分離させることなく、容易に行うことができる。
【0029】
第10発明は、第5〜第9のいずれかの発明において、前記外管と該内管との間の間隔を維持するための間隔維持部材を該内管に取り付けながら該内管を該外管に挿入する内管挿入工程を備えることを特徴とする。
【0030】
第10発明によれば、外管に対する内管の挿入を間隔部材により円滑に行うとともに、外管と内管との間の空間の幅を一定にして外管と内管を同軸上に配置し、熱媒体の流れが一定の流通路を形成することができる。
【0031】
第11発明は、第5〜第10のいずれかの発明において、前記外管・ロッド挿入工程で挿入される前記外管の外側には、前記地中熱交換器の設置が完了した状態の該外管の上端部から所定の長さにわたる部分を覆う管状の断熱部材が予め装着されていることを特徴とする。
【0032】
第11発明によれば、地表近傍とそれよりも深い地中との温度差が、該地中深部との熱交換の結果を希釈して地中熱交換器の性能が劣化するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の一実施形態に係る地中熱交換器を設置する地中熱交換器設置方法を示す断面図であり、Aは掘削工程、Bは掘削工程が完了した状態、Cは外管・ロッド挿入工程、Dは供給・引抜工程、Eは内管挿入工程、Fは内管挿入工程が完了した状態を示す。
図2】Aは、地中熱交換器の外管及び内管の一部分を示す縦断面図であり、Bは、地中熱交換器の外管及び内管の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を説明する。実施形態に係る地中熱交換器は、熱媒体を流通させて周囲の地盤との間で熱交換を行うものであり、図1に示されているような機材を用いて設置される。
【0035】
この機材には、ボーリングロッド1と、ボーリングロッド1を用いて地表から地中に向けて設けられた掘削穴2に挿入される外管3と、外管3内に挿入される内管4と、外管3の先端を閉塞して掘削穴2の底に配置される先端部材5と、外管3と掘削穴2の内壁との間に充填されるセメント6と、外管3の掘削穴2側の端部から所定長さの範囲、例えば数メートルの範囲を覆う管状の断熱部材7とが含まれる。
【0036】
セメント6としては、一般的には高炉セメントが用いられるが、これに限られず、他の混合セメントや、特殊セメント等の他のセメントを用いてもよい。
【0037】
外管3及び内管4は、可撓性を有する管としてのホースで構成される。外管3が有する第1の熱伝導度は、内管4が有する小さい第2の熱伝導度よりもかなり大きい。外管3と地盤8との間の熱交換を促進するとともに、熱交換の結果が内管4内の熱媒体の温度によって希釈されるのを防止するためである。
【0038】
具体的には、外管3としては、例えば、ステンレス製のフレキシブルホースが用いられる。内管4としては樹脂製のホース、例えばPVC(ポリ塩化ビニール)ホースが用いられる。図2に示すように、内管4の外周面には、外管3に挿入されたときに外管3との間に空隙を形成し、維持するためのスペーサ9が設けられる。
【0039】
スペーサ9は、例えば、内管4に対し、その周方向に等間隔で4箇所、長さ方向に数メートル間隔で設けられる。スペーサ9は、外管3に対する内管4の挿入がスムーズに行われるようにする機能も有している。
【0040】
先端部材5は、外管3の先端を閉塞するための閉塞部10と、ボーリングロッド1の先端部が螺合可能な逆ねじを有する螺合部11と、掘削穴2の底に貫入されることにより先端部材5が回転するのを阻止する回転阻止部材12とを一体的に有する。閉塞部10及び螺合部11は、外管3の先端を閉塞している状態において、ボーリングロッド1の先端部が外管3に沿った方向で逆ねじに螺合可能となるように構成される。
【0041】
回転阻止部材12は、先端部材5に固定されたボーリングロッド1で押すことによって容易に掘削穴2の底に貫入させることができるように、ボーリングロッド1に沿って平板状で長方形状の部材で構成される。
【0042】
また、外管3、先端部材5及びボーリングロッド1は、先端部材5が外管3の先端を閉塞し、かつボーリングロッド1が逆ねじに螺合した状態で掘削穴2に挿入可能な径方向の寸法を有する。
【0043】
かかる地中熱交換器設置用機材を用いて設置された地中熱交換器13は、図1F及び図2に示すように、上述の掘削穴2に挿入された外管3と、外管3内に挿入された内管4と、外管3の先端を閉塞して掘削穴2の底に配置された先端部材5と、外管3及び先端部材5と掘削穴2の内壁との間に充填されたセメント6とを備える。
【0044】
外管3と内管4との間には、スペーサ9により空隙が維持される。内管4の下端は開放されたまま、閉塞された外管3の下端から離れている。これにより外管3と内管4とで、内管4から外管3を経て図2の矢印Y1及びY2のように流通する熱媒体の流通路14が形成される。
【0045】
外管3の地表側の端部から所定長さの範囲は、管状の断熱部材7で覆われる。外管3内を流通する熱媒体の熱交換結果としての熱媒体の温度に対して地表近傍の温度が影響を与え、地中熱交換器13の性能が劣化するのを防止するためである。外管3及び内管4の上端部には、地中熱交換器13を利用する他の熱交換器等に接続するためのコネクタ15a及び15bがそれぞれ設けられる。
【0046】
地中熱交換器13は、図1A図1Fを用いて説明される工程を経て設置される。すなわち、まず、図1Aのように、先端に掘削ビット16を取り付けたボーリングロッド1を用いてボーリング水を供給しながら地盤8に掘削穴2を設ける掘削工程が行われる。
【0047】
掘削穴2の直径は、例えば100mm程度、深さは、地盤の状況、地中熱交換器13に要求される性能等により異なるが、例えば、数十メートル乃至100m程度である。掘削に際しては、掘削されてできる掘削穴2が所望の深さに達するまで、ねじ込み式で順次、ボーリングロッド1が継ぎ足される。
【0048】
このとき、掘削が完了した掘削穴2の部分は、ボーリング水と、掘削された土砂とが混じった泥水17の状態となる。これにより、掘削穴2の崩壊等が防止される。掘削穴2が所望の深さに達すると、ボーリングロッド1を引き抜いて掘削が完了し、掘削穴2は、図1Bのように泥水17で満たされた状態となる。
【0049】
次に、掘削ビット16を取り外したボーリングロッド1の先端及び外管3の先端に先端部材5を取り付けて外管3の先端を閉塞する先端部材取付工程が行われる。すなわち、ボーリングロッド1の先端部には、先端部材5の螺合部11が螺合により固定される。また、外管3の先端は、先端部材5の閉塞部10により密閉される。
【0050】
このとき、螺合部11は逆ねじであるため、ボーリングロッド1と螺合部11との螺合は、掘削時に掘削ビット16やボーリングロッド1を螺合により取り付けたり継ぎ足したりするときの螺合方向と逆方向に先端部材5を回転させる必要がある。
【0051】
次に、リール18に巻かれた状態の外管3に、液体としての水を注入する液体注入工程が行われる。外管3に水を注入するのは、外管3は可撓性を有するので、外管3を掘削穴2内に挿入するとき、外管3内の圧力を泥水17の圧力に対抗させて、外管3がつぶれずに支障なく挿入できるようにするためである。
【0052】
次に、図1Cに示すように、外管3及びボーリングロッド1を掘削穴2に挿入する外管・ロッド挿入工程が行われる。この挿入は、外管3をリール18から送り出しながら、先端部材5が掘削穴2の底に達するまで行われる。先端部材5が掘削穴2の底に達するとき、ボーリングロッド1を介して先端部材5を押し下げることにより、回転阻止部材12が掘削穴2の底に貫入される。
【0053】
ただし、この外管・ロッド挿入工程で挿入される外管3の外側には、図1Fのように、地中熱交換器13の設置が完了したときに外管3の上端部から所定の長さにわたる部分を覆った状態となる管状の断熱部材7が予め装着されている。この断熱部材7の装着は、リール18に外管3を巻回する前に行うことができる。
【0054】
したがって、外管・ロッド挿入工程が完了したとき、地表から所定位置の個所で切断されている外管3の外側が、上端から例えば数メートルの範囲にわたり、断熱部材7によって覆われた状態となっている。外管3の上端からどの程度の範囲にわたって断熱部材7を装着するかは、断熱部材7により地上付近の熱の影響をどの程度排除し得るか等に関する事前の試験や調査により決定される。外管3の上端部には、地中熱交換器13を利用する他の熱交換器等に接続するためのコネクタ15aが設けられる。
【0055】
先端部材5が掘削穴2の底に達すると、ボーリングロッド1を先端部材5から取り外してボーリングロッド1を引き抜く供給・引抜工程が行われる。ボーリングロッド1の取外しは、先端部材5の螺合部11は逆ねじであるため、ボーリングロッド1を正ねじが進む方向に回転させることによって行われる。したがって、正ねじで構成されるボーリングロッド1の継目を分離させることなくボーリングロッド1を先端部材5から取り外すことができる。
【0056】
取り外したボーリングロッド1は、掘削穴2から引き抜かれる。ボーリングロッド1の引抜きは、図1Dに示すように、ボーリングロッド1の内部を介してその先端から貧配合のセメントミルク19を掘削穴2内に供給しながら行われる。これにより、掘削穴2内の泥水17は、底部の方からセメントミルク19に置き換えられてゆく。このとき、溢れ出てくる泥水17は適宜泥状の部分であるスライムと水に分離されて処理される。
【0057】
このようにして、掘削穴2内の泥水17がすべてセメントミルク19に置き換えられ、セメントミルク19が固化すると、図1Eのように、リール20に巻かれた状態の内管4が、リール20から送り出されながら、外管3内に挿入される。このとき、図2のように、内管4外周のスペーサ9が内管4の外周面と外管3の内周面との接触を防止するので、内管4は外管3内にスムーズに挿入される。
【0058】
内管4の下端が、外管3の閉塞された下端から所定の高さに達すると、外管3のコネクタ15aから所定の高さの箇所で内管4が切断され、内管4を、地中熱交換器13を利用する他の熱交換器等に接続するためのコネクタ15bが設けられる。これにより、図1Fのように、地中熱交換器13の設置が完了する。
【0059】
以上のように、本実施形態によれば、外管3を、リール18に巻かれた金属製のフレキシブルホースで構成し、内管4を、リール20に巻かれた樹脂製のホースで構成するようにしたので、小規模な機材により狭小地においても低コストで、かつ効率の良い地中熱交換器13を設置することができる。
【0060】
また、掘削ビット16を取り付けたボーリングロッド1を用いてボーリング水を供給しながら地盤8に掘削穴2を設けるようにしたので、締まっていて掘削が困難な地盤に対しても掘削穴2を容易に設けることができる。
【0061】
また、外管3と掘削穴2との間の空間がセメントで充填されるので、外管3の腐食と漏水を防止することができる。また、外管3内に外圧に対抗するための水を供給しながら、ボーリングロッド1と共に外管3を掘削穴2に挿入するので、小口径の外管3を容易に掘削穴2の底まで挿入することができる。
【0062】
また、形成された流通路14に水等の熱媒体を流通させることにより、熱媒体と地盤8との間で、内管4より表面積の大きい外管3の全表面を介して熱交換を行うことができるので、小口径の外管3により効率的に熱交換を行うことができる。また、外管3を熱伝導率の高い部材で構成し、内管4を熱伝導率の低い部材で構成することにより、熱交換の効率をさらに向上させることができる。
【0063】
先端部材5の螺合部11が逆ねじで構成されるので、ボーリングロッド1の先端部材5からの取外しを、ボーリングロッド1を正ねじが進む方向に回転させることにより、ボーリングロッド1の正ねじで構成された継目を分離させることなく、容易に行うことができる。
【0064】
また、内管4の外周面に間隔維持部材としてのスペーサ9を設けたので、外管3に対する内管4の挿入を円滑に行うとともに、外管3と内管4との間の距離を一定にして外管3と内管4を同軸上に配置し、熱媒体の流れが一定の流通路14を形成することができる。
【0065】
また、外管3の上端部を覆う断熱部材7を設けたので、地表近傍とそれよりも深い地中との温度差が、該地中深部との熱交換の結果を希釈して地中熱交換器13の性能が劣化するのを防止することができる。
【0066】
以上、実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、回転阻止部材12は、ボーリングロッド1で押すことによって容易に掘削穴2の底に貫入させ得るものであって先端部材5の回転を阻止し得るものであれば、平板状で長方形状の部材で構成されるものには限定されない。例えば、2つの円錐状の部材で構成したものであってもよい。
【0067】
スペーサ9は、内管4に予め一体化されたものに限らず、外管3に内管4を挿入するときに、挿入しながら取り付けるものであってもよい。また、外管3への内管4の挿入は、外管・ロッド挿入工程の前に予め行っておいてもよいし、外管・ロッド挿入工程の後、供給・引抜工程により供給されたセメントミルク19が固化する前に行ってもよい。また、掘削穴2は、鉛直方向に限らず、鉛直方向に対して傾いた方向に設けてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1…ボーリングロッド、2…掘削穴、3…外管、4…内管、5…先端部材、6…セメント、7…断熱部材、8…地盤、9…スペーサ、10…閉塞部、11…螺合部、12…回転阻止部材、13…地中熱交換器、14…流通路、15a、15b…コネクタ、16…掘削ビット、17…泥水、18…リール、19…セメントミルク、20…リール。
図1
図2