【実施例】
【0036】
上記耐火繊維粉末、耐火物形成用組成物及び耐火物について、実施例を用いて説明する。
【0037】
<耐火繊維粉末の作製>
原料として、以下の綿状のセラミックファイバー(市販品)を準備した。
・化学組成にAl
2O
3:68質量%、SiO
2:32質量%を含むアルミナファイバー(平均繊維径5μm、平均繊維長500μm)(株式会社ITM製、「FMXバルクファイバー」)(走査型電子顕微鏡像:
図5)
・化学組成にAl
2O
3:48質量%、SiO
2:52質量%を含むリフラクトリーセラミックファイバー(平均繊維径4μm、平均繊維長500μm)(株式会社ITM製、「FXLバルクファイバー」)
なお、上記化学組成は、蛍光X線分析装置(リガク社製、「リガク3270」)を用いて測定した。
【0038】
粉砕メディアとしてアルミナボールが入ったボールミルに、原料のアルミナファイバーまたはリフラクトリーセラミックファイバーを入れ、乾式粉砕法により粉砕した。この際、粉砕時間を調整することにより、以下の6種類のアルミナファイバー粉末より構成される耐火繊維粉末、4種類のリフラクトリーセラミックファイバー粉末より構成される耐火繊維粉末を作製した。
【0039】
・アルミナファイバー粉末より構成されており、平均繊維径5μm、平均繊維長100μmである耐火繊維粉末(走査型電子顕微鏡像:
図4)
・アルミナファイバー粉末より構成されており、平均繊維径5μm、平均繊維長35μmである耐火繊維粉末(走査型電子顕微鏡像:
図1)
・アルミナファイバー粉末より構成されており、平均繊維径5μm、平均繊維長30μmである耐火繊維粉末
・アルミナファイバー粉末より構成されており、平均繊維径5μm、平均繊維長25μmである耐火繊維粉末(走査型電子顕微鏡像:
図2)
・アルミナファイバー粉末より構成されており、平均繊維径5μm、平均繊維長20μmである耐火繊維粉末
・アルミナファイバー粉末より構成されており、平均繊維径5μm、平均繊維長10μmである耐火繊維粉末(走査型電子顕微鏡像:
図3)
・リフラクトリーセラミックファイバー粉末より構成されており、平均繊維径4μm、平均繊維長30μmである耐火繊維粉末
・リフラクトリーセラミックファイバー粉末より構成されており、平均繊維径4μm、平均繊維長25μmである耐火繊維粉末
・リフラクトリーセラミックファイバー粉末より構成されており、平均繊維径4μm、平均繊維長20μmである耐火繊維粉末
・リフラクトリーセラミックファイバー粉末より構成されており、平均繊維径4μm、平均繊維長10μmである耐火繊維粉末
【0040】
また、水を用いた湿式粉砕法により粉砕した以外は同様にして、1種類のアルミナファイバー粉末より構成される耐火繊維粉末を作製した。
・アルミナファイバー粉末より構成されており、平均繊維径5μm、平均繊維長25μmである耐火繊維粉末
【0041】
<耐火物形成用組成物の作製>
耐火物形成用組成物の原料として、以下のものを準備した。
−耐火繊維粉末−
・上記作製した各耐火繊維粉末
−耐火粉末−
・アルミナ粉末(平均粒径d50=90μm)(住友化学株式会社製、「A−210」)
・アルミナ粉末(平均粒径d50=40μm)(住友化学株式会社製、「A−21」)
・アルミナ粉末(平均粒径d50=15μm)(住友化学株式会社製、「AM−28B」)
・高アルミナ粉末(平均粒径d50=15μm)(カルデリス株式会社製、「焼長城85#325M」)
・低アルミナ粉末(平均粒径d50=15μm)(稲垣鉱業株式会社製、「ムライトフラワー」)
・アルミナ粉末(平均粒径d50=5μm)(住友化学株式会社製、「AM−21」)
−硬化材−
・アルミナセメント(電気化学工業株式会社製、「デンカアルミナセメント1号」)
−添加物−
・粘土鉱物(スメクタイト)(株式会社ホージュン製、「精製ベントナイト(水系)」)
・無機コロイド(コロイダルシリカ)(日揮触媒株式会社製、「Cataloid SI−40」)
・中空アルミナ(3〜5mm)(太平洋ランダム株式会社製、「中空球電融アルミナBL 3−5mmF」)
・中空アルミナ(1〜3mm)(太平洋ランダム株式会社製、「中空球電融アルミナBL 1−3mm」)
・粗粒耐火骨材(3〜5mm)(カルデリス株式会社製、「焼長城85(3−5mm)」)
・粗粒耐火骨材(1〜3mm)(カルデリス株式会社製、「焼長城85(1−3mm)」)
・中粒耐火骨材(0.1〜1mm)(カルデリス株式会社製、「焼長城85(0.1−1mm)」)
・シャモット(3〜4mm)
・シャモット(1〜3mm)
・シャモット(0.1〜1mm)
・アルミナファイバー(綿状)(平均繊維径5μm、平均繊維長500μm)(株式会社ITM社製、「FMXバルクファイバー」)
・炭化ケイ素(平均粒径d50=40μm)(信濃電気精錬株式会社製、「研磨微粉信濃ランダムGP#320」)
・炭化ケイ素(平均粒径d50=3μm)(信濃電気精錬株式会社製、「研磨微粉信濃ランダムGP#4000」)
・ガラス粉(平均粒径d50=10μm)(ビンガラスをボールミルで粉砕したもの)
・活性炭(0.5〜3mm)(株式会社ユー・イー・エス製、「KD−GA−X」)
・活性炭(平均粒径d50=40μm)(株式会社ユー・イー・エス製、「KD−PWSG」)
【0042】
後述の表1〜18に示される配合にて、水100質量部に対し、粘土鉱物、無機コロイドを所定量分散させた。なお、粘土鉱物および/または無機コロイドを分散させない場合もある。次いで、これに、所定の耐火繊維粉末または耐火粉末、必要に応じて所定の添加物を所定量分散させた。次いで、これに、アルミナセメントを所定量分散させた。なお、分散には、撹拌機を用いた。これにより、表1〜18に示される各成分が配合されてなる各耐火物形成用組成物を得た。
【0043】
<耐火物形成用組成物の粘度>
粘度計(リオン社製、「ビスコテスタVT−04E」)を用い、20℃における耐火物形成用組成物の粘度を測定した。なお、粘度の測定は、上記耐火物形成用組成物の調製後、直ちに実施した。粘度が150Pa・s以下の耐火物形成用組成物は、振動などの外的な刺激を必要とすることなく鋳込み成型が可能であり、鋳込み成型時の流動性に優れるといえる。粘度が150Pa・s超〜300Pa・s以下の耐火物形成用組成物は、振動などの外的な刺激が必要となるが、鋳込み成型に良好な流動性を有するといえる。粘度が300Pa・s超〜400Pa・s以下の耐火物形成用組成物は、主にこて塗りでの使用に適しているが、鋳込み成型に用いられることもあり、鋳込み成型可能な流動性を有するといえる。粘度が400Pa・sを超える耐火物形成用組成物は、流動性がなく、鋳込み成型に用いることが困難である。
【0044】
<耐火物形成用組成物の硬化反応性>
各耐火物形成用組成物を、直方体形状の空間部を有するステンレス製の型(空間部:長さ160mm×幅40mm×高さ40mm)に流し込み、室温で養生した。この際の硬化状況を目視にて観察し、硬化を確認した後、型から脱型し、各成型体を得た。また、脱型後の成形体について、ひび割れ等の状態を目視にて観察した。なお、上記硬化状況の確認は、6時間後、12時間後、18時間後に行った。硬化が進み、脱型が可能と判断した場合には、その時点で型から脱型したが、そのまま室温での養生を続けた。養生は、基本的に12時間以上行い、最長でも18時間とした。そして、各耐火物形成用組成物の硬化反応性を4段階で評価した。具体的には、12時間未満で硬化した場合を硬化反応性に優れるとして「(4)」、12時間以上18時間以下で硬化した場合を硬化反応性が良好であるとして「(3)」、脱型時にひびが確認されたが硬化した場合を、許容範囲の硬化反応性であるとして「(2)」、常温で硬化しなかった場合を、硬化反応性に劣るとして「(1)」とした。
【0045】
<耐火物の作製>
上記脱型後の各成形体を、110℃で6時間以上(最長12時間)乾燥させた。次いで、乾燥後の各成形体を、昇温速度100℃/hで最高温度まで昇温し、最高温度にて3時間保持するという焼成条件で焼成した。なお、最高温度は、1300℃、または、1500℃とした。
【0046】
<耐火物形成用組成物の施工使用量>
上記乾燥後の成型体の重量と型の体積から、耐火物形成用組成物の施工使用量を算出した。
【0047】
<耐火物の線収縮率>
上記焼成後の直方体形状の耐火物について、最長部をノギスにて5点測定して平均し、型の大きさから耐火物の線収縮率を算出した。
【0048】
<耐火物の嵩密度>
上記耐火物の重量を測定するとともに、上記耐火物について、長さ、幅、高さをそれぞれノギスにて5点測定して平均して上記耐火物の体積を求め、耐火物の嵩密度を算出した。
【0049】
<耐火物の曲げ強度>
万能曲げ試験機(A&D社製、「RTF−2325」)を用い、3点曲げ試験(N=3の平均値)により耐火物の曲げ強度を測定した。
【0050】
<耐火物の比強度>
上記曲げ強度の値を上記嵩密度の値で除すことにより耐火物の比強度を算出した。
【0051】
作製した耐火物形成用組成物の配合および各特性、耐火物の各特性などをまとめて、表1〜表18に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
【表4】
【0056】
【表5】
【0057】
【表6】
【0058】
【表7】
【0059】
【表8】
【0060】
【表9】
【0061】
【表10】
【0062】
【表11】
【0063】
【表12】
【0064】
【表13】
【0065】
【表14】
【0066】
【表15】
【0067】
【表16】
【0068】
【表17】
【0069】
【表18】
【0070】
表1〜表7によれば、以下のことがわかる。平均粒径d50が90μmのアルミナ粉末を230質量部配合した試料52は、流動性がない。試料52よりもアルミナ粉末の平均粒径を小さくした試料54(d50=40μm)は、アルミナ粉末の配合量が300質量部ですでに粘度が350Pa・sと高い値を示している。試料55に示されるように、これ以上アルミナ粉末の配合量が増加すると、粘性が急激に増加する。試料57、58は、試料54等よりもさらにアルミナ粉末の平均粒径を小さくすることによって、粘度の増大を抑制することができるものの、焼成時の線収縮率が極めて大きくなり、体積安定性に欠ける。試料60、61も、試料57、58と同様の傾向を示す。また、試料57に示さるように、焼し締めによって強度を確保することはできる。しかし、試料57の耐火物は、焼き締まることにより内部の空隙が少なくなるため、嵩密度が高くなっている。
【0071】
一方、試料21は、アルミナファイバー粉末より構成される耐火繊維粉末を用いている。しかしながら、当該耐火繊維粉末の平均繊維長は100μmであり、本発明で規定される範囲を大きく上回っている。そのため、試料21は、230質量部程度の配合量ですでに流動性がなく、鋳込み成型ができなった。この結果から、試料21では、セラミックスファイバーを骨材として多量に用い、低嵩密度で強度を確保可能な耐火物を得ることは困難であるといえる。
【0072】
これらに対し、表1〜表7に示されるその他の試料における耐火繊維粉末は、化学組成にAl
2O
3およびSiO
2を含むセラミックファイバー粉末より構成されており、平均繊維径および平均繊維長が本発明で規定される特定の範囲内にある。そのため、上記耐火繊維粉末は、耐火物形成用組成物を調製する際に骨材として水に多量に添加した場合であっても、耐火物形成用組成物の粘性の増大を抑制することができている。それ故、上記耐火繊維粉末を含む耐火物形成用組成物は、鋳込み成型時の流動性に優れるもの、良好な流動性を有するものを含めて、鋳込み成型可能な流動性を有していることがわかる。また、上記耐火繊維粉末を含む耐火物形成用組成物によれば、焼成時の線収縮率が小さく、低嵩密度で強度を確保可能な耐火物を得ることができることがわかる。
【0073】
なお、
図6および
図7によれば、成型後の乾燥時に形成されたセラミックファイバー粒子間の隙間が焼成後も維持されていることがわかる。また、焼成後も、ロッド状のセラミックファイバー粒子がその形状を維持しており、焼結反応がそれほど進行していないこともわかる。
【0074】
次に、表8〜表10によれば、以下のことがわかる。上記耐火繊維粉末を含む耐火物形成用組成物が、膨潤性を有する粘土鉱物を含む場合には、骨材としての耐火繊維粉末が混ざりやすくなり、耐火物形成用組成物の流動性向上に有利である。また、耐火物形成用組成物は、添加効果を得るとともに、流動性、常温での硬化反応促進、焼成時の線収縮率の低減などの観点から、水100質量部に対して、膨潤性を有する粘土鉱物を、0.1〜4質量以下の範囲で含有しているとよいことがわかる。
【0075】
また、上記耐火繊維粉末を含む耐火物形成用組成物が、無機コロイドを含む場合には、骨材としての耐火繊維粉末が混ざりやすくなり、耐火物形成用組成物における硬化反応の補助などに寄与することができる。また、耐火物形成用組成物は、添加効果を得るとともに、流動性、常温での硬化反応促進、焼成時の線収縮率の低減などの観点から、水100質量部に対して、無機コロイドを、3〜60質量以下の範囲で含有しているとよいことがわかる。
【0076】
次に、表11によれば、以下のことがわかる。試料57、58、63〜66に示されるように、アルミナ粉末より構成される耐火粉末におけるアルミナ含有量を変更しても、かかる耐火粉末を骨材に用いた耐火物の線収縮率を大幅に小さくすることは困難であることがわかる。また、試料48、62に示されるように、耐火繊維粉末として、アルミナファイバー粉末に代えて、リフラクトリーセラミックファイバー粉末を用いた場合であっても、アルミナファイバー粉末を用いた場合と同様の効果が得られることがわかる。もっとも、耐火繊維粉末として、アルミナファイバー粉末を用いた場合には、耐火物形成用組成物の粘度が許容範囲内で少し大きくなったものの、線収縮率が小さくなり、また、比強度も大きくしやすい傾向が見られた。
【0077】
次に、表12によれば、以下のことがわかる。表12は、嵩密度が曲げ強度に及ぼす影響を確認したものである。すわなち、表12に示されるように、ここでは、耐火物形成用組成物中に有機物である活性炭を添加し、これを焼成時に消失させることにより、耐火物を多孔質化した。同じ嵩密度で比較した場合、耐火繊維粉末を用いた試料5、48の耐火物は、従来の耐火粉末を用いたその他の試料の耐火物と同程度、またはそれ以上の比強度を有していることがわかる。
【0078】
次に、表13によれば、以下のことがわかる。表13に示されるように、耐火繊維粉末を構成するセラミックファイバー粉末が、綿状のセラミックファイバーの乾式粉砕物である場合には、セラミックファイバー粉末が、綿状のセラミックファイバーの湿式粉砕物である場合に比べ、耐火物形成用組成物の粘性の増大を抑制しやすいことがわかる。
【0079】
次に、表14〜表18によれば、以下のことがわかる。表14〜表18に示されるように、セラミックファイバー粉末より構成される耐火繊維粉末を骨材とする耐火物形成用組成物中に、各表記載の添加物を配合しても、耐火物形成用組成物の粘度や硬化反応性が大きく阻害されることがないことがわかる。したがって、耐火物形成用組成物中にこれら添加物を適量配合することにより、上述した添加物の効果を享受できる耐火物が得られることがわかる。
【0080】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲内で種々の変更が可能である。