特開2017-83180(P2017-83180A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-83180(P2017-83180A)
(43)【公開日】2017年5月18日
(54)【発明の名称】油圧スイッチ
(51)【国際特許分類】
   G01L 9/10 20060101AFI20170414BHJP
【FI】
   G01L9/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-208284(P2015-208284)
(22)【出願日】2015年10月22日
(71)【出願人】
【識別番号】000220505
【氏名又は名称】日本電産トーソク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(72)【発明者】
【氏名】大澤 朝華
(72)【発明者】
【氏名】中村 俊晃
(72)【発明者】
【氏名】立田 洋
(72)【発明者】
【氏名】真貝 一美
【テーマコード(参考)】
2F055
【Fターム(参考)】
2F055AA39
2F055BB20
2F055CC02
2F055DD11
2F055EE21
2F055FF11
2F055FF31
2F055GG11
(57)【要約】
【課題】金属粉末などの異物の影響を受けることがなく、簡単な構成で、しかも検出精度に優れた油圧スイッチを提供する。
【解決手段】油圧スイッチは、中空の筐体1と、この筐体1の一方の端部に開口した油導入部2を有する。油導入部2には、油導入部2を通じて加わる油圧により変形する可撓性板材8が配置される。板状の導電部11が可撓性板材8に設けられる。筐体1に導電部11に対して渦電流を発生させるコイル13が設けられる。スイッチ部14は、導電部11に流れる渦電流の変化を検出して、スイッチのオン・オフ指令を出力する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空の筐体と、この筐体の一方の端部に開口した油導入部と、
前記油導入部に配置されて、油導入部を通じて加わる油圧により変形する可撓性板材と、
前記可撓性板材に一体的に設けられた板状の導電部と、
前記筐体に設けられ、前記導電部に対して渦電流を発生させるコイルと、
前記導電部に流れる渦電流の変化を検出して、スイッチのオン・オフ指令を出力するスイッチ部を備えた油圧スイッチ。
【請求項2】
前記可撓性板材が可撓性を有する樹脂板から構成され、前記板状の導電部が前記可撓性板材に積層された導電性の金属板である請求項1に記載の油圧スイッチ。
【請求項3】
前記導電性の金属板がアルミ板である請求項2に記載の油圧スイッチ。
【請求項4】
前記導電性の金属板が銅板である請求項2に記載の油圧スイッチ。
【請求項5】
前記可撓性板材が耐熱性ポリイミド樹脂からなる請求項2から請求項4のいずれかに記載の油圧スイッチ。
【請求項6】
前記可撓性板材と前記導電部が一体の導電性樹脂からなる請求項1に記載の油圧スイッチ。
【請求項7】
前記筐体における前記油導入部のコイル側の端部には、前記筐体の内周に沿って段部が形成され、この段部に環状の溝が形成され、この溝内に環状のシール材が嵌め込まれ、
前記可撓性板材の周囲と前記筐体の内周とが前記シール材により密封される請求項1から請求項6のいずれかに記載の油圧スイッチ。
【請求項8】
前記シール材が前記可撓性板材に一体に成型される請求項1から請求項7のいずれかに記載の油圧スイッチ。
【請求項9】
内部に空間を備えた円筒状であり、その軸方向一端側にはセンサ装着部が設けられ、軸方向他端側には油導入部を備えた筐体と、
前記センサ装着部と油導入部の境界部分において、前記筐体の内周に沿って設けられた環状の溝と、
前記溝に配置された環状のシール材と、
前記油導入部のセンサ装着部側の開口部を閉塞し、周囲が前記シール材によって密封された可撓性板材と、
前記可撓性板材上に一体的に配置された板状の導電部と、
前記センサ装着部に設けられ、前記導電部に渦電流を発生させるコイルと、
前記センサ装着部に設けられ、前記コイルが発生させた渦電流の変化を検出するスイッチ部と、を備えた油圧スイッチ。
【請求項10】
前記センサ装着部の内径が前記油導入部の内径よりも広く、前記センサ装着部と前記油導入部との境界部分に段部が形成され、この段部に前記溝が形成される請求項9に記載の油圧スイッチ。
【請求項11】
前記油導入部の前記センサ装着部側の端部が、前記センサ装着部側が広くなるように漏斗状に広がっている請求項9または請求項10に記載の油圧スイッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動変速機の油中で使用される油圧スイッチ関する。
【背景技術】
【0002】
車両の自動変速機には、変速機構を制御するためのコントローラが設けられている。このコントローラは、変速機構に対して所定の大きさの油圧が生じたか否かを油圧スイッチにより判断して、変速機構を制御する。従来、この油圧スイッチとしては、受圧可動部の接点がダイアフラムと呼ばれる金属ばねと固定接点とで構成された接触式の機械スイッチが使用されていた。
【0003】
油圧スイッチは、変速機のコントロールバルブ機構に装着される。コントロールバルブ機構は油中に配置されるため、油圧スイッチの使用環境は油中である。そのため、従来の接触式の機械スイッチでは、油中に介在する金属粉や塵埃などの異物が接点部へ侵入することにより、スイッチの作動不良、例えばスイッチがオン・オフしない、作動圧力の変動等が発生することが問題となっている。また、自動変速機の動作時に発生する油圧変動、特に変速機の動作開始時に加わるサージ圧などに対する信頼性、耐久性が問題になっていた。
【0004】
このような接触式の機械スイッチの問題点を解決するために、特許文献1や特許文献2に示す非接触型の油圧スイッチや油圧センサも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平4−104545号公報
【特許文献2】特開昭62−8031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の油圧スイッチは、油圧を受けることにより変形するダイアフラムにマグネットを設け、ダイアフラムが油圧で変形した場合のマグネットの変位をホール素子によって検出し、スイッチのオン・オフを行う。しかし、マグネットを使用すると、油中の金属異物を吸着するので、耐久性、信頼性に大きなリスクを負うことになり、自動変速機のなどの油中で使用するには適さない。
【0007】
特許文献2の油圧センサは、非晶質磁性合金の磁歪効果を使用したものである。この油圧センサでは、加えられた油圧によって非晶質磁性合金が変形するとその磁歪が変化し、それに伴い透磁率が変化することを、非晶質磁性合金の近傍に配置したインダクタンス検出回路で検出する。この油圧センサは、特許文献1のようなマグネット使用の問題点は解決されるものの、磁歪効果を有する非結晶質磁性合金のような特殊な材料を使用する必要がある。また、合金の変形によって生じる磁歪の検出が難しく、使用環境によっては十分な感度や温度特性を得られない。
【0008】
このような問題点は、必ずしも油中で使用される油圧スイッチに限らず、大気中や水その他の流体中で使用される油圧スイッチ全般に言える。
【0009】
本発明は、金属粉末などの異物の影響を受けることがなく、簡単な構成で、しかも検出精度に優れた油圧スイッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の油圧スイッチは、次のような構成を有することを特徴とする。
(1)中空の筐体と、この筐体の一方の端部に開口した油導入部。
(2)前記油導入部に配置されて、油導入部を通じて加わる油圧により変形する可撓性板材。
(3)前記可撓性板材に一体的に設けられた板状の導電部。
(4)前記筐体に設けられ、前記導電部に対して渦電流を発生させるコイル。
(5)前記導電部に流れる渦電流の変化を検出して、スイッチのオン・オフ指令を出力するスイッチ部。
【0011】
本発明において、以下の構成とすると良い。
(1)前記可撓性板材が可撓性を有する樹脂板から構成され、前記板状の導電部が前記可撓性板材に積層された導電性の金属板である。
(2)前記導電性の金属板がアルミ板である。
(3)前記導電性の金属板が銅板である。
(4)前記可撓性板材が耐熱性ポリイミド樹脂からなる。
(5)前記可撓性板材と前記導電部が一体の導電性樹脂からなる。
(6)前記筐体における前記油導入部のコイル側の端部には、前記筐体の内周に沿って段部が形成され、この段部に環状の溝が形成され、この溝内に環状のシール材が嵌め込まれ、
前記可撓性板材の周囲と前記筐体の内周とが前記シール材により密封される。
(7)前記シール材が前記可撓性板材に一体に成型される。
(8)内部に空間を備えた円筒状であり、その軸方向一端側にはセンサ装着部が設けられ、軸方向他端側には油導入部を備えた筐体と、
前記センサ装着部と油導入部の境界部分において、前記筐体の内周に沿って設けられた環状の溝と、
前記溝に配置された環状のシール材と、
前記油導入部のセンサ装着部側の開口部を閉塞し、周囲が前記シール材によって密封された可撓性板材と、
前記可撓性板材上に一体的に配置された板状の導電部と、
前記センサ装着部に設けられ、前記導電部に渦電流を発生させるコイルと、
前記センサ装着部に設けられ、前記コイルが発生させた渦電流の変化を検出するスイッチ部と、を備える。
(9)前記センサ装着部の内径が前記油導入部の内径よりも広く、前記センサ装着部と前記油導入部との境界部分に段部が形成され、この段部に前記溝が形成される。
(10)前記油導入部の前記センサ装着部側の端部が、前記センサ装着部側が広くなるように漏斗状に広がっている。
【発明の効果】
【0012】
本発明においては、可撓性板材に設けた導電部とコイルの位置が油導入部に加わる油圧の変動によって変化すると、コイルによって導電部に発生した渦電流の大きさが変化する。そして、可撓性板材が予め定めた閾値以上に変動した場合に、それに伴う渦電流の変動を渦電流センサで検出し、油圧スイッチのオン・オフを行う。
【0013】
その結果、本発明によれば、非晶質磁性合金のような特殊な素材を必要とすることがなく、アルミや銅などの金属板、あるいは導電性の樹脂のような汎用性に優れた材料によって油圧スイッチを構成することができる。合金の変形による磁歪の変化に比較して、渦電流の変動を検出することは容易であり精度も高いことから、油圧スイッチの性能向上が可能となる。マグネットのような金属を吸引する素材を使用する必要もないため、金属異物がスイッチ部分に蓄積して誤動作を引き起こすおそれもない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施形態の断面図。
図2】第1実施形態の原理を示す斜視図。
図3】導電部としてアルミが優れていることを示すグラフ。
図4】第2実施形態の断面図。
図5】第3実施形態の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[1.第1実施形態]
[1.1 構成]
以下、本発明の第1実施形態について、図1から図3を参照して説明する。本実施形態において軸とは、油導入部の長手方向に沿った中心軸をいい、単に周方向あるいは軸方向と言った場合は、中心軸の周方向あるいは中心軸の軸方向を示す。
【0016】
本実施形態の油圧スイッチは、金属の切削加工品あるいは鋳造品によって作製された円筒状をした中空の筐体1を備える。筐体1の一方の端部には油圧スイッチの外部に向かって開口した油導入部2が設けられ、他方の端部には同じく油圧スイッチの外部に向かって開口したセンサ装着部3が設けられる。油導入部2は油圧回路の配管に接続されるものであり、油導入部2の軸と直交する方向の断面は円形である。筐体1の油導入部2の外側の部分には、配管と接続する際に使用される雄ねじ4が設けられる。
【0017】
センサ装着部3は油導入部2に比較してその内径が大きい断面が円形の空間である。センサ装着部3の断面が油導入部2よりも大きいため、センサ装着部3の周囲に設けられた筐体1の形状も油導入部2の外側の筐体1よりも太い。そのため、センサ装着部3の底部、すなわち油導入部2側の面と油導入部2の出口部分との間には段部5が設けられる。油導入部2のセンサ装着部3側の端部は、センサ装着部3側が広くなるように漏斗状に広がっている。
【0018】
段部5とセンサ装着部3の内壁面とのコーナー部分には、センサ装着部3の底部を油導入部2側に凹ませて、環状の溝6が設けられる。環状の溝6の内部には、環状のシール材7が装着される。このシール材7としては、ゴムなどの弾性を有する素材から構成されたOリングを使用する。
【0019】
段部5の底部には、油導入部2のセンサ装着部3側の開口部を塞ぐように円盤状の可撓性板材8が設けられている。可撓性板材8の周縁部下面は、溝6内に装着されたシール材7に接触している。可撓性板材8の周縁部上面にはセンサ装着部3の深さに等しい肉厚の押圧リング9が設けられる。押圧リング9の上面は、センサ装着部3の開口縁に設けられた加締め部10により締め付けられ、加締め部10の曲げ圧力が押圧リング9を経由して可撓性板材8に伝わり、可撓性板材8の下面がシール材7を押し潰している。
【0020】
可撓性板材8のセンサ装着部3側の表面には、板状の導電部11が設けられる。本実施形態において、可撓性板材8は弾性変形可能な程度の厚さ、例えば1mm程度の厚さを有する耐熱性のポリイミド樹脂から構成される。板状の導電部11は、可撓性板材8の中心部を覆うように接合された金属製の円板で、アルミ、銅、鉄等などの金属製の円盤が使用可能であるが、本実施形態では渦電流出力の大きなアルミ板を使用する。
【0021】
センサ装着部3における導電部11の近傍、すなわち、図1において導電部11であるアルミ板の上方には、一定の間隔を保って渦電流センサ12が設けられる。この渦電流センサ12は、その内部にコイル13を有する。本実施形態において、コイル13は導電部11において渦電流を発生させるための励磁コイルと、導電部11で発生した渦電流の検出する受信コイルとを、1つのコイル13で兼用する。コイル13は交流電源(図示せず)および制御回路に接続される。制御回路には、コイル13のインダクタンス変化に伴う回路コンダクタンスの変動を検出するスイッチ部14が設けられる。このスイッチ部14は、予め定めておいた回路コンダクタンスの値を検出すると、油圧スイッチのオン・オフ指令を出力する。
【0022】
渦電流センサ12は、可撓性板材8とは反対側に設けられたコネクタ15により、油圧スイッチのオン・オフ信号の入出力部、交流電源17などの外部機器に接続される。渦電流センサ12の周囲と押圧リング9の内周との間には、渦電流センサ12を筐体1に固定するホルダ16が設けられる。このホルダ16は、渦電流センサ12をその内側に嵌め込んだ状態において、押圧リング9の内周に嵌め込まれ、押圧リング9の上面を加締め部10によって締め付けることで、筐体1に固定される。
【0023】
[1.2 作用]
上記のような構成を有する第1実施形態の作用は、以下のとおりである。
本実施形態の油圧スイッチでは、渦電流センサ12のコイル13に通電すると、コイル13は励磁コイルとして働き、コイル13で発生した磁束によりセンサの近傍に配置された導電部11のアルミ板に渦電流が発生する。この渦電流は、受信コイルとして働くコイル13によって検出される。油導入部2に加わる作動流体の圧力が低く、可撓性板材8が変形することがない場合には、コイル13と導電部11との距離も一定に保持されるため、受信コイル13で検出される渦電流も一定に保持される。その結果、油圧スイッチからは、スイッチの切替信号が出力されることなく、油圧スイッチは、例えばオフの状態を維持する。
【0024】
油導入部2に流入した作動流体の圧力が向上し、可撓性板材8の中央部分がセンサ装着部3側に変形すると、可撓性板材8とその表面に設けられた導電部11が筐体1の上部に設けられた渦電流センサ12に近接する。その結果、導電部11に渦電流が発生してコイル13のインダクタンスが変化し、その共振周波数が偏移することによることで、回路コンダクタンスが変化する。渦電流センサ12のスイッチ部14は、この回路コンダクタンスの変化が予め定めた一定値になったことを検出すると、油圧スイッチをオンに切り替える。
【0025】
[1.3 効果]
本実施形態によれば、次のような効果が発揮される。
(1)油圧スイッチの接点部である可撓性板材8と渦電流センサ12のコイル13が非接触で、油圧の変動を検出することができるため、金属異物などが接点部へ侵入してもスイッチの作動不良が生じない。金属異物などで可撓性板材8の変形が遮られることがないので、スイッチの作動圧力が変動する等の作動不良が発生しない。
【0026】
(2)スイッチの接点部である可撓性板材8と渦電流センサ12が非接触であるため、接点部の磨耗が起こらず、耐久性、信頼性が高い。
【0027】
(3)渦電流検出方式のため、金属異物など磁性体の影響がなく、またマグネットを使用することがないので金属異物が接点部分に集積することがなく、変速機オイルのような金属異物が生じやすい過酷な環境でも、油圧スイッチの信頼性を確保できる。渦電流は一般的な導電材料であれば発生することから、非晶質磁性合金のような特殊な材料を使用する必要がなく、しかも磁歪に比較して検出精度も高い利点がある。
【0028】
(4)図3は、本実施形態で使用したアルミ板が、油圧スイッチの導電部11として優れていることを示すグラフである。すなわち、渦電流は金属の比抵抗に比例、透磁率に反比例の関係がある。鉄はアルミより比抵抗は大きいが透磁率も大きいので、渦電流出力はアルミが一番大きい。そのため、図3のように距離変化による渦電流の出力もアルミが大きくなり、渦電流センサ12による検出精度が高くなる。
【0029】
(5)可撓性板材8として樹脂を使用すると、金属板からなるダイアフラムに比較して、油導入部2の内径が小さくても大きな変位を得ることができる。特に、樹脂製の可撓性板材8の中央部分に導電部11となるアルミ板を積層しているので、油圧の小さな変動に対しても大きな変位量が得られ、油圧スイッチのオン・オフ精度の向上を図れると共に、樹脂自体の持つ柔軟性により可撓性板材8と筐体1との高いシール性も得られる。
【0030】
(6)可撓性板材8として耐熱性、耐油性に優れたポリイミド樹脂を使用したので、高温になる油中でも劣化や硬化のおそれがない。
【0031】
(7)樹脂製の可撓性板材8と樹脂製のシール材7の使用により、両者の密着が良く、シール部分からの油漏れのおそれがない。中空の筐体1に設けた加締め部10を使用して、渦電流センサ12のホルダ16やシール材7の押圧リング9を一体に組み込んだため、コンパクトな外観で、高い油密性能を確保できる。
【0032】
(8)油導入部2のコイル13側の端部には、筐体1の内周に沿って段部が形成され、この段部5に環状の溝6が形成され、この溝6内に環状のシール材7が嵌め込まれ、可撓性板材8の周囲と筐体の内周とがシール材7により密封されるため、シール材7の脱落のおそれがなく、シール材7によって可撓性板材8を確実に密封できる。
【0033】
(9)筐体1が内部に空間を備えた円筒状であり、その軸方向一端側にはセンサ装着部3が設けられ、軸方向他端側には油導入部2を備え、油導入部2とセンサ装着部3の境界部分に可撓性板材8を配置したので、1つの筐体1内に油導入部2、可撓性板材8および渦電流センサ12を一体に組み込むことが可能になる。そのため、構造も単純で、全体が小型化される。
【0034】
(10)油導入部2のセンサ装着部3側の端部が、センサ装着部3側が広くなるように漏斗状に広がっているので、油導入部2から加わる油圧が可撓性板材8に均一に加わり、可撓性板材8が油導入部2内の油圧に応じて円滑に変形する。その結果、油圧の微妙な変化を確実に検出できる。
【0035】
[2.第2実施形態]
第2実施形態を図4に従って説明する。本実施形態では、シール材7が可撓性板材8の周縁部に一体に成型される。可撓性板材8を樹脂によって構成した場合には、シール材7を可撓性板材8と同一材料で一体に成型しても良いし、異種材料をアウトサート成型や2色成型により一体化しても良い。
【0036】
本実施形態においても、第1実施形態と同様な作用効果を得ることができる。また、本実施形態によれば、別途シール材7を用意する必要がなくなり、可撓性板材8をセンサ装着部3内に嵌め込むだけで、筐体1に対するシール材7の装着と可撓性板材8の取り付けが可能になる。
【0037】
[3.第3実施形態]
第3実施形態を図5に従って説明する。本実施形態は、可撓性板材8として導電性の樹脂を使用したものである。導電性の樹脂としては、カーボンを練り込んだポリプロピレン樹脂、ABS樹脂、導電性フィルムを積層した樹脂フィルム、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングなどで導電性薄膜を形成した樹脂フィルムの使用も可能である。
【0038】
本実施形態においても、第1実施形態と同様な作用効果を得ることができる。また、本実施形態によれば、可撓性板材8の表面に別途用意した金属板を積層したり、貼り付ける必要がなく、油圧スイッチの製造が簡単である。
【0039】
[4.他の実施形態]
本発明は、以上の実施形態に限定されるものではない。以上の実施形態は例として提示したものであって、その他の様々な形態で実施されることが可能である。発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲、要旨、その均等の範囲に含まれる。以下、その一例を示す。
【0040】
(1)図示の実施形態では、可撓性板材8に別途用意した金属板を積層することで導電部11を構成したが、必ずしもそのような構成に限定されない。例えば、樹脂製の可撓性板材8の表面に、導電性の金属粉末やカーボン粉末を印刷することにより導電部11を形成することができる。また、スパッタリングなどの手法で、樹脂製の可撓性板材8の表面に導電部11を形成しても良い。可撓性板材8を導電性の樹脂から構成することで、可撓性板材8に導電部11を一体に設けることも可能である。導電部11の形状も、可撓性板材8と同形状である必要はなく、渦電流が発生する形状であれば、円、楕円、四角など油導入部2の形状などに合わせて自由に決定できる。
【0041】
(2)導電部11を金属板から構成する場合も、アルミと銅に限定されない。渦電流が発生し易い材料であれば適宜使用できる。また、導電部11の位置も、コイル13による渦電流の発生およびセンサによるその変動の検出が可能であればどの場所でも良く、可撓性板材8の表面に限定されない。例えば、油導入部2側に導電部11を設けたり、樹脂製の可撓性板材8の内部に埋設することもできる。金属製の導電部11の表面に、腐蝕防止用のコーティングやカバーを設けても良い。
【0042】
(3)渦電センサとしては、各種のものを使用することができる。例えば、一つのコイル13が渦電流の発生と検出とを兼ねる自己誘導形コイルを使用したセンサや、渦電流を発生させるコイルと渦電流を検出するコイルとの2種類のコイルを用いる相互誘導形センサが使用できる。渦電流の変動の検出方法としても、コイル13に高周波電流を流して、渦電流の変化に基づく高周波電流の周波数変化を検出するセンサや、渦電流より発生した磁界に基づいて、コイル13を貫く磁束が変化することで発生する誘導電流を検出するセンサを使用できる。
【0043】
(5)可撓性板材8は、その全体に均一な可撓性を有する必要はなく、導電部11を設ける部分は変形が不可能なものであっても良い。中央に開口部を有するリング状の可撓性板材8を使用し、その開口部に金属板などの導電部11を嵌め込んで、両者の接合部分を密封しても良い。円盤状の可撓性板材8の中央部分に凹部を形成し、その凹部内に導電部11を嵌め込んで、両者を一体化することもできる。
【0044】
(6)可撓性板材8として、金属板を使用することも可能である。その場合、渦電流が流れる中心部は平坦な板状とし、周囲にベローズのような伸縮部を設けると、小径の油導入部2でも大きな変位の検出が可能になる。
【0045】
(7)可撓性板材8の材質としては、次のものが使用できる。
(a) フッ素ゴム、シリコーンゴム、アクリルゴム、エチレンプロピレンゴムなどのゴム。
(b) ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)、6ナイロン(PA6)、66ナイロン(PA66)、ポリアセタール(POM)、ポリエチレンテtレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、超高分子量ポリエチレン(U-PE)などのエンジニアリングプラスチック。
(c) ポリスルホン(PSU)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアミドイミド(PAI)、液晶ポリマー(LCP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのスーパーエンジニアリングプラスチック。
【符号の説明】
【0046】
1…筐体、2…油導入部、3…センサ装着部、4…雄ねじ、5…段部、6…溝、7…シール材、8…可撓性板材、9…押圧リング、10…加締め部、11…導電部、12…渦電流センサ、13…コイル、14…スイッチ部、15…コネクタ、16…ホルダ、17…交流電源。
図1
図2
図3
図4
図5