(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-83327(P2017-83327A)
(43)【公開日】2017年5月18日
(54)【発明の名称】中性子検出方法および中性子検出装置
(51)【国際特許分類】
G01T 3/06 20060101AFI20170414BHJP
G01T 3/08 20060101ALI20170414BHJP
【FI】
G01T3/06
G01T3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-212604(P2015-212604)
(22)【出願日】2015年10月29日
(71)【出願人】
【識別番号】502255003
【氏名又は名称】株式会社ヴィジブル・インフォメーション・センター
(74)【代理人】
【識別番号】100104547
【弁理士】
【氏名又は名称】栗林 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100097995
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悦一
(72)【発明者】
【氏名】木名瀬 敦
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 直弘
【テーマコード(参考)】
2G188
【Fターム(参考)】
2G188AA20
2G188BB04
2G188BB09
2G188BB15
2G188CC08
2G188CC29
2G188EE01
2G188EE03
2G188EE06
2G188EE08
2G188EE12
2G188EE25
2G188FF02
2G188FF11
(57)【要約】
【課題】中性子と反応するターゲット物質を必要とすることなく、中性子を確実に検出できる中性子検出方法および中性子検出装置を提供する。
【解決手段】容器6内の冷却水8内に配置された放射線検出器1によって、検出されたγ線の信号をγ線エネルギー分析装置3によって分析して、前記γ線に含まれる、核燃料物質9から発生した中性子と冷却水中の水分子の酸素とが核反応することで生成された放射性窒素N−16から放出されるγ線を計測することにより中性子を検出するので、核燃料物質9から発生した中性子を容易かつ確実に検出できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内に冷却水とともに格納された核燃料物質から発生した中性子を検出する中性子検出方法であって、
前記冷却水内または冷却水近傍に、放射線検出器を配置し、
この放射線検出器によって検出されたγ線の信号をγ線エネルギー分析装置によって分析して、前記γ線に含まれる、前記中性子と前記冷却水中の水分子の酸素とが核反応することで生成された放射性窒素N−16から放出されるγ線を計測することにより前記中性子を検出することを特徴とすることを特徴とする中性子検出方法。
【請求項2】
容器内に冷却水とともに格納された核燃料物質から発生した中性子を検出する中性子検出装置であって、
前記冷却水と、
前記冷却水内または冷却水近傍に配置された放射線検出器と、
この放射線検出器によって検出されたγ線の信号を分析して、このγ線に含まれる、前記中性子と前記冷却水中の水分子の酸素とが核反応することで生成された放射性窒素N−16から放出されるγ線を計測することにより前記中性子を検出するγ線エネルギー分析装置とを備えたことを特徴とする中性子検出装置。
【請求項3】
前記放射線検出器は、NaI(Tl)シンチレーション検出器、CsI(Tl)シンチレーション検出器、LaBr3(Ce)シンチレーション検出器、CeBr3シンチレーション検出器、Ge半導体検出器のうちの少なくとも一つの検出器であることを特徴とする請求項1に記載の中性子検出方法。
【請求項4】
前記放射線検出器は、NaI(Tl)シンチレーション検出器、CsI(Tl)シンチレーション検出器、LaBr3(Ce)シンチレーション検出器、CeBr3シンチレーション検出器、Ge半導体検出器のうちの少なくとも一つの検出器であることを特徴とする請求項2に記載の中性子検出装置。
【請求項5】
前記容器は、原子炉圧力容器および/または核燃料貯蔵槽であることを特徴とする請求項1または3に記載の中性子検出方法。
【請求項6】
前記容器は、原子炉圧力容器および/または核燃料貯蔵槽であることを特徴とする請求項2または4に記載の中性子検出装置。
【請求項7】
前記容器に接続されて、当該容器内の冷却水を循環させる配管に隣接して、前記γ線検出装置が配置されていることを特徴とする請求項1、3または5に記載の中性子検出方法。
【請求項8】
前記容器に接続されて、当該容器内の冷却水を循環させる配管に隣接して、前記γ線検出装置が配置されていることを特徴とする請求項2、4または6に記載の中性子検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分子中の酸素と中性子が反応して生じた放射性窒素N−16が放出するγ線を計測することにより中性子を検出する中性子検出方法および中性子検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
中性子は、それ自体電荷を持っておらず、物質との相互作用が小さいため、中性子を直接検出することは困難である。そこで、中性子と特定の物質との相互作用を利用して電離作用がある放射線に変換し、電気的な方法によって間接的に検出している。
【0003】
特に中性子検出では、中性子場に伴って中性子以外の放射線場も存在するため信号処理におけるこれらの中性子以外の放射線場との弁別を考慮する必要がある。
中性子以外の放射線は、α線やβ線、加速粒子線等の粒子線と、γ線やX線等の電磁波に大別される。粒子線は、それらに見合った遮蔽をすることにより容易に検出器内部への侵入を防ぐことができるが、電磁波を遮蔽することは、分厚い遮蔽壁を必要とし、検出器として実用的ではない。したがって、電磁波による信号と中性子による信号が容易に弁別できる信号処理が中性子計測として要求される。
これらの弁別方法としては、次に示す方法が主なものである。
【0004】
(1)パルスの大きさで弁別する方法
中性子との反応によって発生した電気パルスと電磁波による電気パルスの大きさの違いを利用する方法あり、パルス型検出器に見られる検出方法である。
検出器内に中性子と反応するターゲット元素を封入し、この反応によって発生する粒子線型放射線を検出する方法である。γ線等の電磁波放射線によって生じる電気パルスと粒子線によって生じる電気パルスの大きさは、大きく異なるのでこれらを弁別することができる。
(2)中性子とバックグランドを含む信号からバックグランドを差し引く方法
中性子と反応する物質を入れた検出器と、同じ形状の中性子と反応する物質が無い検出器とを用意し、それぞれの検出器の信号の差を利用する方法であり、電流型検出器に見られる検出方法である。
2つの同じ形状の検出器の内、一方に中性子と反応するターゲット元素を入れて測定する一方で、ターゲット元素が無い検出器は、中性子以外のバックグランドを測定し、ターゲット元素を含む検出器は中性子とバックグランドを合わせた量を計測する。したがって、バックグランドを差し引くと中性子のみを計測できる。
(3)中性子との反応のみ発生した電気信号を利用する方法
一方の電極を、中性子を吸収するとβ線崩壊するターゲット元素で製作するか、または当該一方の電極に中性子を吸収するとβ線崩壊するターゲット元素を塗布し、中性子を吸収して放射性元素になった一方の電極からβ線(電子)が放出され、それが他方の電極に到達し、電流が流れることで中性子が検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−52451号公報
【非特許文献1】Glenn F.Knoll著 「放射線計測ハンドブック」(第3版)日刊工業新聞社 2001年
【非特許文献2】川口千代二、荒克之著 「原子炉の計測」幸書房 1978年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した中性子検出器に特徴的なのは、検出器内部に中性子と反応するターゲット物質があることである。中性子を検出するのは、検出器の中性子感度領域に限られる。検出感度を上げるには、感度領域を大きくする必要があるが、物理的に極端に大きくすることはできない。また、検出器に直接中性子が入らないと測定できない問題点がある。さらに、炉心が溶融しているような原子炉では、中性子を容易に検出できないという問題もある。
【0007】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもので、核燃料物質から発生した中性子を容易かつ確実に検出できる中性子検出方法および中性子検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の中性子検出方法は、容器内に冷却水とともに格納された核燃料物質から発生した中性子を検出する中性子検出方法であって、
前記冷却水内または冷却水近傍に、放射線検出器を配置し、
この放射線検出器によって検出されたγ線の信号をγ線エネルギー分析装置によって分析して、前記γ線に含まれる、前記中性子と前記冷却水中の水分子の酸素とが核反応することで生成された放射性窒素N−16から放出されるγ線を計測することにより前記中性子を検出することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の中性子検出装置は、容器内に冷却水とともに格納された核燃料物質から発生した中性子を検出する中性子検出装置であって、
前記冷却水と、
前記冷却水内または冷却水近傍に配置された放射線検出器と、
この放射線検出器によって検出されたγ線の信号を分析して、このγ線に含まれる、前記中性子と前記冷却水中の水分子の酸素とが核反応することで生成された放射性窒素N−16から放出されるγ線を計測することにより前記中性子を検出するγ線エネルギー分析装置とを備えたことを特徴とする。
【0010】
本発明においては、容器内に格納された冷却水内または冷却水近傍に配置された放射線検出器によって検出されたγ線の信号をγ線エネルギー分析装置によって分析して、前記γ線に含まれる、核燃料物質から発生した中性子と冷却水中の水分子の酸素とが核反応することで生成された放射性窒素N−16から放出されるγ線を計測することにより前記中性子を検出するので、核燃料物質から発生した中性子を容易かつ確実に検出できる。
また、容器内の冷却水が中性子検出装置の一部を構成するので、中性子検出装置としては巨大な検出装置となり、核燃料物質から発生する中性子を漏れなく検出することができる。
また、放射性窒素N−16のγ線の最大エネルギーが7.12MeVであるため核分裂生成物から放出されるγ線エネルギーに対して格段に大きくバックグランドとの弁別が容易となる。
【0011】
また、本発明の前記構成において、前記放射線検出器は、NaI(Tl)シンチレーション検出器、CsI(Tl)シンチレーション検出器、LaBr3(Ce)シンチレーション検出器、CeBr3シンチレーション検出器、Ge半導体検出器のうちの少なくとも一つの検出器であることが好ましい。
また、前記容器は、原子炉格納容器および/または核燃料貯蔵槽であってもよい。
また、前記容器に接続されて、当該容器内の冷却水を循環させる配管に隣接して、前記γ線検出装置が配置されていてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、核燃料物質から発生した中性子を容易かつ確実に検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る中性子検出装置を示すもので、その概略構成を示す図である。
【
図2】同、γ線エネルギー分析装置の概略構成図である。
【
図3】同、γ線エネルギー分析装置の他の第1例を示す概略構成図である。
【
図4】同、γ線エネルギー分析装置の他の第2例を示す概略構成図である。
【
図5】同、γ線エネルギー分析装置の他の第3例を示す概略構成図である。
【
図6】本発明の第1の実施の形態に係る中性子検出方法を説明するためのもので、γ線スペクトルの一例を示す図である。
【
図7】同、放射性窒素N−16のγ線ピークの内、特定のピークを選択し、そのピークのバックグランドを差し引いた正味値を求めて中性子束密度を評価することを示す図である。
【
図8】同、放射性窒素N−16のγ線ピークの内、特定のピークを選択し、バックグランドを含めたグロス値を求めて中性子束密度を評価することを示す図である。
【
図9】同、3000keV付近にしきい値を設け、それ以上のエネルギーのγ線カウント全体を求めて中性子束密度を評価することを示す図である。
【
図10】本発明の第2の実施の形態に係る中性子検出装置を示すもので、その概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。
先ず、本発明の原理について説明する。
核燃料物質が核分裂を起こすと、核分裂生成物と2〜3個の中性子を生成する。生成直後の中性子は高エネルギーであるため、大きな運動エネルギーを持ち、高速中性子と呼ばれている。この高速中性子は、U−235に吸収されにくく核分裂を起こしにくい。このため、軽元素を多く含む媒質と弾性散乱することにより、エネルギーを失い、U−235に吸収されやすい熱中性子に変換すると核分裂が連鎖して生じるようになる。軽水炉で使用される軽元素を多く含む媒質が水である。
【0015】
水は、水素と酸素からなる化合物であるが、酸素は、中性子と(1)式に示す核反応によって放射性窒素N−16を生成することが知られている。
16O+
1n→
1p+
16N (1)
生成したN−16は、β崩壊によって再び、酸素O−16になる。
N−16のβ崩壊に伴って、表1に示す3種類のγ線が放出される。
N−16から放出されるこれらのγ線は、核分裂生成物から放出されるγ線より遥かにエネルギーが高く、容易に弁別することができる。
【0017】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態に係る中性子検出装置の概略構成を示すものである。
図1に示すように、中性子検出装置は、放射線検出器(γ線検出器)1と、電気ケーブル2と、γ線エネルギー分析装置3と、中性子束密度評価部4と、表示装置5と、原子炉圧力容器(容器)6と、燃料プール(核燃料貯蔵槽)7と、原子炉圧力容器6内に充填されている冷却水8とを備えている。
なお、適用箇所は一般的な原子力発電所である。また、本実施の形態では、炉心が溶融し、核燃料物質が原子炉圧力容器6の下部に燃料デブリ(核燃料物質)9として存在しているものとする。この場合、既存の中性子計測系は、燃料デブリ9と一緒に溶融し、消失している。
また、燃料デブリ9周りの冷却水8は、燃料デブリ9の冷却、燃料デブリ9からの放射線の遮蔽のため原子炉圧力容器6および燃料プール7まで満たされている。
そして、放射線検出器1は電気ケーブル2に接続され、電気ケーブル2はγ線エネルギー分析装置3に接続され、γ線エネルギー分析装置3で解析された結果を基に中性子束密度評価部4で中性子束密度に変換し、結果が表示装置5に表示されるようになっている。
【0018】
燃料デブリ9には、核燃料が存在し、自発核分裂によって微弱ではあるが中性子場も存在する。現状は、生成する中性子に対して核燃料以外の物質(制御材等)に吸収される割合が多く、未臨界の状態となっている。
【0019】
燃料デブリ9に含まれる核燃料物質の自発核分裂を含む核分裂によって生成した中性子は、燃料デブリ9周りの冷却水8によって高速中性子から熱中性子に変換され、再び核燃料物質に吸収されて核分裂を起こしたり、中性子吸収材に吸収されたりする。この減速過程で冷却水8中の酸素と中性子が反応すると放射性窒素N−16が生成する。すなわち、燃料デブリ9周りの冷却水8が巨大な中性子検出器になるのである。
【0020】
放射線検出器1は、核種分析可能なセンサを搭載しており、例えば、適用されるセンサとしては、半導体検出器であれば、CdTe、CZT、TlBrのいずれかが用いられ、シンチレーション検出器であれば、LaBr3(Ce)、LaCl3(Ce)、LSO、LYSO、GAGG(Ce)、LuAG(Pr)、NaI(Tl)、CsI(Tl)、YAP(Ce)、GSOのいずれかが用いられる。
これらのセンサのいずれかを搭載した放射線検出器1の出力信号は、同軸ケーブル等の耐ノイズ性が高い電気ケーブル2を介して、後段のγ線エネルギー分析装置3に伝送される。また、放射線検出器1に隣接してプリアンプを介して信号のインピーダンスを下げて伝送すればノイズを効果的に下げることができる。
【0021】
そして、本実施の形態では、放射線検出器1によって検出されたγ線の信号をγ線エネルギー分析装置3によって分析して、前記γ線に含まれる、中性子と冷却水8中の水分子の酸素とが核反応することで生成された放射性窒素N−16から放出されるγ線を計測することにより中性子を検出する。
【0022】
生成した放射性窒素N−16からは表1に示すγ線が放出され、それを放射線検出器1で検出する。
放射線検出器1とHe−3型中性子検出器の検出効率の比較を表2に示す。
【0024】
本実施の形態に係る放射線検出器1による放射性窒素N−16生成の中性子捕獲断面積は小さいが、中性子検出器となる冷却水8の体積が巨大であるため、総合効率では、He−3検出器のそれを上回っている。また、燃料デブリ9の周りを放射線検出器1が覆っている構造なので、偏りの無い平均的な中性子測定が可能である。
【0025】
本実施の形態において、中性子との核反応で生成した放射性窒素N−16を検出するには、N−16から放出されるγ線を放射線検出器1で検出する。原子炉内には、バックグランドとして、核分裂生成物であるCs−137等や炉内構造物の放射化で生成したCo−60等が分布を持って至る所に存在する。これらのバックグランド環境下で測定対象であるN−16を検出するには、上述したような核種分析可能なセンサを搭載した放射線検出器1を適用する。
【0026】
図2に、
図1に示す中性子検出装置を構成するγ線エネルギー分析装置3と中性子束密度評価部4等の構成図を示し、
図6にγ線エネルギー分析装置3から出力されるγ線スペクトルの例を示す。
図2に示すように、γ線エネルギー分析装置3は、電気ケーブル2を介して放射線検出器1から伝送された出力信号を増幅・波形整形する比例増幅器10と、この比例増幅器10で出力されたパルスの波高値をデジタルに変換するA/D変換器11と、このA/D変換器11の出力値からγ線スペクトルを作成するパルス波高分布記憶器12とを備え、更にγ線スペクトルを評価することにより中性子束密度を評価する中性子束密度評価部4でγ線スペクトル中のN−16のγ線ピークから中性子束密度に変換され、表示装置5で結果が表示されるようになっている。
【0027】
また、γ線エネルギー分析装置3として、
図3に示すようなものも使用できる。このγ線エネルギー分析装置3は、前記比例増幅器10に代えて増幅器13を備えるとともに、前記パルス波高分布記憶器12に代えて、デジタル波高演算器14を備えている。そして、放射線検出器1から伝送された出力信号を増幅器13で増幅後、直接A/D変換器11でA/D変換した後、デジタル波高演算器14でデジタル処理によって波形整形、波高分析を行うことも可能である。
【0028】
図6に中性子が存在する場合のγ線スペクトル18を示す。
図6に示すように、本実施の形態に係る中性子検出装置では、中性子と酸素の核反応による放射性窒素N−16のγ線ピークの他に核分裂生成物であるCs−137等のγ線ピークや炉内構造物の放射化で生成したCo−60等のγ線ピークやそれらのコンプトンがバックグランドとして存在するが、放射性窒素N−16のγ線のエネルギーはバックグランドのγ線エネルギーより遥かに大きいため容易に弁別可能である。
【0029】
γ線ピークの弁別・計量方法としては、下記が考えられる。
(1)
図7に示すように、放射性窒素N−16のγ線ピークの内、特定のピークを選択し、そのピークのバックグランドを差し引いた正味値(
図7に示す領域A)を利用する方法。
(2)
図8に示すように、放射性窒素N−16のγ線ピークの内、特定のピークを選択し、バックグランドを含めたグロス値(
図8に示す領域B)を利用する方法。
(3)
図9に示すように、2000keVまたは、3000keV付近にしきい値を設け、それ以上のエネルギーのγ線のカウント全体(
図9に示す領域C)を利用する方法。
【0030】
このような多様な評価方法が可能なのは、放射性窒素N−16が放出するγ線エネルギーが、核分裂生成物や放射化生成物が放出するγ線が高々2,000keV余りのエネルギーでしかなく、放射性窒素N−16のγ線エネルギー付近には、バックグランドが皆無であるためである。
放射性窒素N−16のγ線ピークの他に約5000keV以下にほぼ平坦なγ線分布が観られるが、これも、放射性窒素N−16γ線のコンプトン効果による分布であり放射性窒素N−16に比例して増減する。このため、核分裂生成物や放射化生成物のγ線によるバックグランドが影響しないエネルギーをしきい値として設定することにより、容易に弁別が可能なのである。すなわち、(2)式が成立するのである。
核分裂数 ∝ 中性子束密度 ∝ 領域A ∝領域B ∝領域C (2)
したがって、
図2、
図3に示すタイプのγ線エネルギー分析装置3は、出力としてγ線スペクトルを出力するので、中性子束密度評価部4でこれら3種類の評価を行うことができる。
【0031】
また、γ線エネルギー分析装置3として、
図4に示すようなものも使用できる。このγ線エネルギー分析装置3は、放射線検出器1から伝送された出力信号を増幅・波形整形する比例増幅器10と、設定したしきい波高値以上パルスを通過させるディスクリミネータ15と、通過したパルスを数えるカウンター16とで構成され、
図9の領域Cに相当する結果を中性子束密度評価部4に出力する。このように、
図4に示すγ線エネルギー分析装置3は、バックグランドと中性子起因の放射性窒素N−16のγ線を電気的に弁別する。
【0032】
また、γ線エネルギー分析装置3として、
図5に示すようなものも使用できる。このγ線エネルギー分析装置3は、放射線検出器1から伝送された出力信号を増幅する増幅器13と、この増幅器13で出力されたパルスの波高値をデジタルに変換するA/D変換器11と、デジタル処理によってディスクリミネート、カウンティングするデジタルディスクリミネータ17とで構成されている。そして
図5に示すγ線エネルギー分析装置3は、バックグランドと中性子起因の放射性窒素N−16のγ線をデジタル的に弁別するのである。
【0033】
本実施の形態によれば、放射性窒素N−16から放出されたγ線を測定することにより、燃料デブリ9から放出された中性子を高感度測定でき、かつバックグランドと容易に弁別可能となる。
したがって、燃料デブリ9から発生した中性子を容易かつ確実に検出できる。
【0034】
(第2の実施の形態)
図10は、第2の実施の形態に係る中性子検出装置の概略構成を示すものである。
図10に示すように、中性子検出装置は、放射線検出器(γ線検出器)1と、電気ケーブル2と、γ線エネルギー分析装置3と、中性子束密度評価部4と、表示装置5と、原子炉圧力容器(容器)6と、燃料プール7と、原子炉圧力容器(容器)6内に充填されている冷却水8とを備えている。
【0035】
また、本実施の形態では、原子炉圧力容器6に接続されて、当該原子炉圧力容器6内の冷却水8を循環させる配管19に隣接して、γ線エネルギー分析装置3が配置されている。
配管19は、例えば、燃料デブリ9の冷却および冷却水8の浄化を行うための本設または仮設配管でもあってもよいし、冷却水の分析に使用するための本設または仮設配管の配管であってもよい。なお、符号20は循環ポンプを示す。
本実施の形態によれば、放射線検出器1を原子炉圧力容器6の外に設置することができ、原子炉圧力容器6にアクセスが困難な場合に適用できる利点がある。
【符号の説明】
【0036】
1 放射線検出器
2 電気ケーブル
3 γ線エネルギー分析装置
4 中性子束密度評価部
5 表示装置
6 原子炉圧力容器(容器)
7 燃料プール(核燃料貯蔵槽)
8 冷却水
9 燃料デブリ(核燃料物質)
10 比例増幅器
11 A/D変換器
12 パルス波高分布記憶器
13 増幅器
14 デジタルパルス波高演算器
15 ディスクリミネータ
16 カウンター
17 デジタルディスクリミネータ
18 γ線スペクトル
19 配管