特開2017-8336(P2017-8336A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-8336(P2017-8336A)
(43)【公開日】2017年1月12日
(54)【発明の名称】スパッタ装置用電源装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20161216BHJP
   H05H 1/46 20060101ALI20161216BHJP
【FI】
   C23C14/34 U
   H05H1/46 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-121245(P2015-121245)
(22)【出願日】2015年6月16日
(71)【出願人】
【識別番号】392026888
【氏名又は名称】京都電機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 景太
(72)【発明者】
【氏名】木村 智
(72)【発明者】
【氏名】辻本 正志
(72)【発明者】
【氏名】藤吉 敏一
(72)【発明者】
【氏名】伏谷 周一
【テーマコード(参考)】
2G084
4K029
【Fターム(参考)】
2G084AA04
2G084BB06
2G084BB37
2G084CC02
2G084CC08
2G084CC21
2G084EE05
2G084EE18
2G084EE24
2G084EE25
2G084HH19
2G084HH21
2G084HH22
2G084HH23
2G084HH24
2G084HH32
2G084HH42
2G084HH43
2G084HH56
4K029AA06
4K029AA24
4K029BD01
4K029CA05
4K029DC33
4K029DC34
(57)【要約】
【課題】プラズマ着火時に、主電源の出力段のコンデンサに蓄積されていたエネルギに起因する突入電流が負荷に供給されることを防止する。
【解決手段】装置起動時には着火用電源3のみを動作させ、スイッチ4を閉成して着火用電源3による高電圧をチャンバ9内の陽極91−陰極92間に印加する。チャンバ9内でガスの電離が進み着火すると、着火判定部61が出力電圧の変化からこれを検知し、着火時点から所定時間後に主電源1を起動する。そして、主電源1が或る程度立ち上がった時点でスイッチ4を開成し、主電源1のみから負荷93に電力を供給する。着火時点ではコンデンサ12は充電されていないので、着火時に突入電流が流れることを回避できる。また、着火直後には着火用電源3から最小限必要な微小電流が負荷93に供給されるので、主電源1が立ち上がるまでプラズマ放電を安定的に維持することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタ装置のチャンバ内にプラズマを生成するために、該チャンバ内に配設された一対の電極間に電圧を印加するスパッタ装置用電源装置において、
a)定常的なプラズマ維持のために前記一対の電極間に所定の電圧を印加する主電源部と、
b)その電圧出力端が前記主電源部の電圧出力端に並列に接続され、プラズマ着火を行うために該主電源部による出力電圧よりも高い電圧を生成し、且つその出力電流を制限する電流制限機能を有する着火用電源部と、
c)運転を開始してからプラズマ着火状態になったことを検知する着火検知部と、
d)前記着火検知部による検知結果を受けて前記主電源部と前記着火用電源部の動作を制御する制御部と、
を備え、前記制御部は、運転開始時にまず前記着火用電源部のみを動作させて前記一対の電極間にプラズマ着火を行うための電圧を印加し、前記着火検知部により着火状態になったことが検知されたあと、前記主電源部を動作させて、少なくとも所定時間の間、該主電源部と前記着火用電源部との両方を動作させるように各電源部を制御することを特徴とすることを特徴とするスパッタ装置用電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタ装置においてプラズマを生成するために用いられる電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の成膜工程などに用いられるスパッタ装置においては、ターゲットと基板(被成膜対象物)との間に供給された電力によってアルゴン等のガスが電離してプラズマが生成され、主としてこのプラズマ中のイオンの作用によってターゲットからそのターゲット物質が叩き出され、該物質の粒子が基板に到達して基板表面に被膜を形成する。スパッタ装置としては、陰極であるターゲットと陽極である基板との間に、直流電圧を印加する直流(DC)スパッタ装置や、陰極と陽極との間に高周波電圧を印加する高周波(RF)スパッタ装置が広く利用されている。
【0003】
直流スパッタ装置は、絶縁性のターゲットが使用できないなどの制約はあるものの、導電性ターゲットに対しては高周波スパッタ装置に比べて装置構造が簡単であり、また比較的低温のプラズマを利用できるため基板表面の損傷を抑えられる、といった利点がある。一方で、直流スパッタ装置はアーク放電が比較的発生し易く、それに起因する成膜不良が発生することがある。直流パルススパッタ装置はこうした点を改良したものであり、直流電圧をスイッチングすることで生成したパルス状の電圧を陰極−陽極間に印加する、或いは、直流電圧の印加中にその直流電圧とは逆極性の電圧をパルス状に陰極−陽極間に印加する。こうしたパルス状電圧の印加により、ターゲット表面の帯電を抑制し、アーク放電の発生を抑えることができる。
【0004】
上述した直流スパッタ装置や直流パルススパッタ装置ではいずれも、陰極と陽極との間に印加する電圧によって、チャンバ内の空間にグロー放電を生起してプラズマを形成する。チャンバ内でプラズマの生成を開始するには着火(「点火」又は「点灯」といわれることもあるが、本明細書では「着火」という)が必要であり、通常、着火時には、陰極−陽極間に−1000V〜−1500V程度の高電圧が印加される。そして、着火した後、つまりプラズマ放電が開始された後には、陰極−陽極間の印加電圧は、−200V〜−800V程度の相対的に低いプラズマ電圧に保たれる。このように、着火時にはプラズマ放電を維持するときに比べて高い電圧を印加する必要がある。着火するまでは電源側から陰極及び陽極をみるとハイインピーダンス状態であって出力電流が流れにくいため、従来の成膜におけるプラズマ放電の維持時に比べて電流容量は小さくてよい。一方、着火後、プラズマ放電を維持するときには、電圧は相対的に低くなり、電源側からみた負荷インピーダンスが下がるため、数A以上の大きな電流を供給する必要がある。
【0005】
即ち、直流スパッタ装置には、安定プラズマ状態に至るまでは高電圧を印加して着火を促し、着火したあとの定常的なプラズマ放電動作時には大電流を供給可能である電源装置が必要である。こうした要求に応えるために、直流スパッタ装置に使用される電源装置として、プラズマ放電を維持するための電力を供する主電源と、プラズマを生成するための着火動作を行う着火用電源とを並列に接続した構成の装置が従来知られている(特許文献1参照)。
【0006】
図3は従来の直流スパッタ装置用電源装置の概略構成図である。本電源装置の正極出力端5aはチャンバ9内に配置された陽極91に、負極出力端5bは同じチャンバ9内に配置された陰極92に接続されている。即ち、陽極91、陰極92を含むチャンバ9内空間全体が電源装置の負荷93である。電源装置は主電源1と着火用電源3とを備える。図3において、主電源1に含まれる直流電源11は例えばAC−DCコンバータなどから成り、コンデンサ12はそのAC−DCコンバータの出力段に設けられる平滑用のコンデンサである。この主電源1はダイオード2を介して本電源装置の出力端5a、5bに接続されている。一方、着火用電源3もAC−DCコンバータなどから成り、スイッチ4を介して出力端5a、5bに接続されている。スイッチ4が閉成すると、主電源1と着火用電源3とが並列に出力端5a、5bに接続された状態となる。なお、一般にスイッチ4は電力用MOSFETなどの半導体スイッチング素子である。
【0007】
図4はこの直流スパッタ装置用電源装置における着火前後の要部のタイミング図及び波形図である。
本電源装置の起動時に、スイッチ4は閉成され、主電源1(PS1)と着火用電源3(PS2)とは同時に起動される(運転状態とされる)。図4(b)、(d)に示すように、主電源1の出力電圧と着火用電源3の出力電圧とはそれぞれ起動開始から徐々に上昇し、所定時間が経過するとそれぞれほぼ一定の電圧に静定する。このとき、着火用電源3の出力電圧Vps2aは主電源1の出力電圧Vps1aよりも高いので、出力端5a、5bからチャンバ9の陽極91−陰極92間には出力電圧Vps2aが印加される(図4(e)参照)。この出力電圧Vps2aは例えば−1500V程度である。減圧されたチャンバ9内にはアルゴンなどの不活性ガスが供給されており、このガスの分子は高電圧によって電離してイオンが生成され、微小な暗電流が流れる暗放電状態となる。そして、さらにイオン密度が高くなるとグロー放電が始まり、プラズマ放電開始状態つまり着火状態となる。
【0008】
着火状態になるとチャンバ9内の負荷93のインピーダンスは下がるため、負荷93に電流が流れ易くなる。着火用電源3では、その目的から放電が維持できる程度の最小の電流容量を確保できるように、例えば出力段に限流抵抗が設けられている。そのため、負荷93に電流が流れ易くなると、図4(e)に示すように電源装置の出力電圧は垂下して急激に下がる。その時点までに主電源1のコンデンサ12は直流電源11による出力電圧によって充分に充電されている。そのため、着火によって負荷93のインピーダンスが下がるとその瞬間に、コンデンサ12にチャージアップされていたエネルギに由来する突入電流がチャンバ9に流れる(図4(f)のA参照)。このような突入電流がチャンバ9に供給されると、チャンバ9内の陽極91であるターゲットや陰極92である被成膜材料に傷を与えるおそれがあるのみならず、例えば異常放電の原因になるパーティクルの発生要因ともなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−279337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のような突入電流を軽減するために、そうした電流を吸収する回路を別途追加することも考えられるが、そうした対策は装置のコストアップに繋がる。
本発明はこうした課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、コスト増加を抑えつつ、プラズマの着火時にチャンバに大きな突入電流が流れることを回避することができるスパッタ装置用電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するためになされた本発明は、スパッタ装置のチャンバ内にプラズマを生成するために、該チャンバ内に配設された一対の電極間に電圧を印加するスパッタ装置用電源装置において、
a)定常的なプラズマ維持のために前記一対の電極間に所定の電圧を印加する主電源部と、
b)その電圧出力端が前記主電源部の電圧出力端に並列に接続され、プラズマ着火を行うために該主電源部による出力電圧よりも高い電圧を生成し、且つその出力電流を制限する電流制限機能を有する着火用電源部と、
c)運転を開始してからプラズマ着火状態になったことを検知する着火検知部と、
d)前記着火検知部による検知結果を受けて前記主電源部と前記着火用電源部の動作を制御する制御部と、
を備え、前記制御部は、運転開始時にまず前記着火用電源部のみを動作させて前記一対の電極間にプラズマ着火を行うための電圧を印加し、前記着火検知部により着火状態になったことが検知されたあと、前記主電源部を動作させて、少なくとも所定時間の間、該主電源部と前記着火用電源部との両方を動作させるように各電源部を制御することを特徴としている。
【0012】
本発明に係るスパッタ用電源装置において制御部は、少なくとも着火検知部によりプラズマの着火が検知されるまでは主電源部を動作させず、着火用電源部による高電圧のみをスパッタ装置の一対の電極間に印加する。なお、着火用電源部による高電圧が主電源部に回り込まないようにするために、ダイオードでブロックする構成とすることが好ましい。例えばAC−DCコンバータなどを含んで構成される主電源部の出力段には平滑用コンデンサが設けられているのが一般的であるが、着火前には主電源部が非運転状態であるため、平滑用のコンデンサにエネルギが蓄えられない。そのため、着火によって負荷のインピーダンスが下がっても該コンデンサの放電による突入電流は生じない。一方、着火後に主電源部は起動されるが、主電源部が起動されたあとも暫時着火用電源部から一対の電極間への電力の供給は継続されるので、主電源部の電圧の立ち上がりが緩慢であっても、最低限プラズマ放電を維持するのに必要な電力を一対の電極間に供給することができる。それによって、着火後、必要に応じた主電源部からの給電に円滑に移行することができ、プラズマを安定状態に保つことができる。
【0013】
なお、本発明に係るスパッタ用電源装置では、制御部の制御の下で、着火後に所定時間の間、主電源部と着火用電源部との両方が運転状態とされたあと、着火用電源部の運転を停止してもよいし、着火用電源部の電圧出力端と主電源部の電圧出力端との間に挿設されているスイッチを開成して着火用電源部を実質的に主電源部から切り離すようにしてもよい。こうしたスイッチとしては電力用の半導体スイッチング素子などを用いることができる。また、負荷のインピーダンスが下がった状態において着火用電源部から負荷に供給される電流は電流制限機能によって制限されるので、その電流は、主電源部が立ち上がってスパッタリングが行われる際に該主電源部から供給される電流に比べて格段に小さい。そのため、主電源部が立ち上がったあとに着火用電源部の出力電圧は垂下して主電源部の電圧に追随する状態になるから、着火用電源部の運転を停止したり着火用電源部を切り離したりせずに、着火用電源部の運転を継続しても構わない。
【0014】
また、着火検知部が着火を検知する方法は特に限定されない。例えば、本電源装置の出力端の電圧つまりは一対の電極間に印加されている電圧、該一対の電流に供給される電流、又は、その電圧と電流の両方、を検出し、その変化に基づいて着火を判断する構成とすることができる。また、チャンバ内でグロー放電が発生したときのプラズマ発光強度を検出して着火を判断するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るスパッタ装置用電源装置によれば、プラズマの着火時に負荷つまりはスパッタ装置の一対の電極間に流れる突入電流を抑制しつつ、確実にプラズマ着火を行うことができる。それによって、突入電流に起因する基板やターゲットなどの損傷を防止することができ、異常放電の原因になるパーティクルの発生も抑えることができる。また、主電源部と着火用電源部の動作の制御によって突入電流の抑制が実現できるため、突入電流の抑制のために特別な回路を付加する必要もなく、コストアップを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施例であるスパッタ装置用電源装置の概略構成図。
図2】本実施例のスパッタ装置用電源装置における着火前後の要部のタイミング図及び波形図。
図3】従来の直流スパッタ装置用電源装置の概略構成図。
図4】従来の直流スパッタ装置用電源装置における着火前後の要部のタイミング図及び波形図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施例である直流スパッタ装置用電源装置について、添付図面を参照して説明する。
図1は本実施例の直流スパッタ装置用電源装置の概略構成図、図2は本実施例の直流スパッタ装置用電源装置における着火前後の要部のタイミング及び波形図である。図1において、すでに図3により説明した従来装置と同じ構成要素には同じ符号を付している。
【0018】
本実施例の電源装置における基本的な構成は従来装置と同じであり、従来装置と異なるのは、主電源1及び着火用電源3の運転、並びに、スイッチ駆動部7を介してスイッチ4の開閉を制御する制御部6の制御動作である。
即ち、本電源装置は従来装置と同様に主電源1と着火用電源3とを備える。着火用電源3は例えばフライバック方式のDC−DCコンバータを含み、その出力が1000V〜1500Vの範囲で定電圧制御されるものである。また、着火用電源3の出力には直列に限流用の抵抗が挿入され、その抵抗によって、外部の負荷が下がっても出力電流はグロー放電を維持できる程度(数十mA程度)に制限される。なお、限流用抵抗の代わりに半導体素子を使用して電流を制限してもよい。また本電源装置において、電圧検出部8は出力端5a、5bから負荷93に印加される電圧を検出する。制御部6は機能ブロックとして着火判定部61を含み、着火判定部61は電圧検出部8により検出される電圧に基づいてチャンバ9内でプラズマ放電が開始されたこと、つまりは着火したことを検知する。
【0019】
なお、制御部6はマイクロコンピュータなどを含み、マイクロコンピュータに組み込まれた又は外付けされたROMなどに書き込まれた制御プログラムに従って制御動作を遂行する。したがって、実質的に従来装置と相違するのはこの制御プログラムである。
【0020】
本実施例の電源装置の動作を、図2を参照しつつ説明する。
本電源装置の起動時に、制御部6はスイッチ駆動部7を介してスイッチ4を閉成し、着火用電源3(PS2)を起動する(図2(c)参照)。従来装置とは異なり、このとき主電源1は起動されない。図2(d)に示すように着火用電源3の出力電圧は起動開始から徐々に上昇し、所定時間が経過するとほぼ一定の電圧Vps2aに静定する。このとき、主電源1は未だ非運転状態であるので、出力端5a、5bからチャンバ9の陽極91−陰極92間に出力電圧Vps2aが印加される(図2(e)参照)。この出力電圧Vps2aは例えば−1500V程度である。チャンバ9内においてアルゴンなどのガスの分子は高電圧によって電離し、イオン密度が高くなるとグロー放電が始まり着火状態となる。
【0021】
着火状態になり負荷93のインピーダンスが下がると、負荷93に電流が流れ易くなり、図2(e)に示すように電源装置の出力電圧は急激に下がる。着火判定部61は電圧検出部8からほぼリアルタイムで得られる検出結果に基づいて電圧低下を認識すると着火したものと判断する。すると制御部6は、着火検知時点から所定時間が経過したあとに主電源1を起動する(図2(a)参照)。そして、その出力電圧がゼロから目標電圧設定値まで所定のランプアップ時間で上昇するように、主電源1の動作を制御する。これによって、図2(b)に示すように主電源1の出力電圧は起動開始から徐々に上昇し、所定時間が経過するとほぼ一定の電圧Vps1aに静定する。制御部6は主電源部1の起動開始時点から規定の時間が経過した時点でスイッチ4を開成し、着火用電源3を主電源1から切り離すとともに、着火用電源3の動作を停止する。
【0022】
即ち、本電源装置では、着火するまでは主電源1は運転されないため、コンデンサ12は充電されない。そのため、着火して負荷93のインピーダンスが下がっても、コンデンサ12に蓄積されていたエネルギに由来する突入電流は負荷93に供給されない。また本電源装置では、着火が検知されて主電源1が起動された時点からスイッチ4が開成される時点までの期間、主電源1と着火用電源3との両方から負荷93に電流が供給され得る。このとき、負荷93のインピーダンスは下がっているが、上述したように、着火用電源3の出力電流は制限されているため、着火用電源3から負荷93へ供給される電流はグロー放電を維持し得る程度の微小な電流である。そして、図2(b)に示すように主電源1が立ち上がって主電源1から大電流を供給し得る状態になるに従い、負荷93に供給される電流は増加する(図2(f)参照)。
【0023】
このように、着火後暫くするまでは主電源1は立ち上がらないが、その間もプラズマ放電を維持するのには最低限必要な電力が負荷93に供給し続けられるため、着火した後にプラズマ放電を安定的に維持することができる。そして、主電源1から供給される電流の増加に伴い、チャンバ9内でのプラズマ密度を高め、安定した定常的なプラズマ放電によるスパッタリングに移行することができる。
なお、上述したように着火用電源3から供給可能な電流は制限されており、しかもその電流は主電源1から供給可能な電流に比べると格段に小さいため、主電源1を起動したあとに必ずしもスイッチ4を開成し着火用電源3の動作を停止する必要はなく、運転状態にある着火用電源3が主電源1に並列に接続された状態のままとしてもよい。
【0024】
上記実施例では、着火判定部61は電圧検出部8により検出された電圧の変化に基づいて着火を判断していたが、着火によって負荷93が急激に下がって電流が増加することから、電流の変化を検知して着火したと判断するようにしてもよい。また、電圧と電流の両方を利用して着火の検知を行うようにしてもよい。さらに、チャンバ9内でグロー放電が開始したときのプラズマ発光強度を光学的に検出し、これに基づいて着火したと判断してもよい。
【0025】
上記実施例は本発明を直流スパッタ装置用電源装置に適用したものであるが、主電源から供給される直流電力を半導体スイッチング素子等によって所定周波数でオン・オフすることでパルス状の電圧を陽極−陰極間に印加したり、さらには、そのパルス状電圧のオフ期間中の少なくとも一部期間に主電源の出力電圧(上記例のように通常は負極性)とは逆極性(通常は正極性)の電圧を陽極−陰極間に印加したりする直流パルススパッタ装置用の電源装置にも本発明を適用可能であることは明白である。
【0026】
さらにまた、上記実施例は本発明の一例にすぎず、本発明の趣旨の範囲で適宜変形、修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。
【符号の説明】
【0027】
1…主電源
11…直流電源
12…コンデンサ
2…ダイオード
3…着火用電源
4…スイッチ
5a…正極出力端
5b…負極出力端
6…制御部
61…着火判定部
7…スイッチ駆動部
8…電圧検出部
9…チャンバ
91…陽極
92…陰極
93…負荷
図1
図2
図3
図4