【発明が解決しようとする課題】
【0013】
(ベンダーとクライアント企業との力関係の問題)
クライアント企業にとっては、KPIやSLAを用いての目標達成が妥当なのかどうか、という判断が難しい。
ベンダーにおいては、多数のクライアント企業に対する業務による経験があれば、その経験との比較による相対的な比較くらいはできるものの、客観化することは困難である。
それでも、ベンダーのほうがクライアント企業よりも経験、知見があるため、KPIやSLAの設定においてはベンダー主導で決定されることが多い。そのため、クライアント企業に納得感が不足する事態がしばしば発生する。
【0014】
(ゴール不存在の問題)
ITILには、「継続改善」という項目が存在する。この継続改善とは、クライアント企業が事業活動を継続する限り、クライアント企業の顧客に対する商品やサービスについての質の向上や価格の低減(改善)を継続する(すべきである)、という趣旨である。つまり、ITILは、最終到達点(ゴール)を持っていない。
しかし、事業活動において改善を継続し続ける、ということは、現実的ではない(少なくとも、事業の現場にいる担当者や事業の経営者は、実感している)。いつ終了するのかが不明では、日常の作業が単調化する一方、目に見えた成果を実感できないため、担当者のモチベーションは下がってしまうからである。ここに、ITILと現実の事業活動とのギャップが存在するのである。
そこで、クライアント企業としては、ITILからは離れて自前のゴールを定めなければ、長期間の運用は現実的ではない。しかし、どのようなゴールを定めれば合理的なのか、クライアント企業の経営者が判断できない。
【0015】
(適正なバランスが不明であるという問題)
たとえば、あるクライアント企業がその顧客に対して、あるサービスを提供しているとする。そのクライアント企業にとって、そのサービスのレベルを向上させること(効果性)と、そのサービスの提供に際してのコストを削減すること(効率性)の両方を達成することが理想的である。しかし、こうした課題は二律背反であることが多く、効果性と効率性とを同時に向上させることが困難であるとのが一般的である。
そこで、効果性と効率性とをどのようにバランスさせればよいのか、が課題となる。ところが、そのバランスについての適正さは客観化されておらず、不明である、という問題が存在する(
図11参照)。
【0016】
(説明責任が果たせないという問題)
ITの導入によって、どのような効果があったのか(改善がなされたのか)、という説明を求められる場面があったとする。その場合、ITの導入や投資に関する責任者が経営者に対して、あるいは経営者が株主に対して、論理的で説得力のある説明ができない、という問題がある。管理が適正にされているか、という説明を求められる場合も同様である(
図10参照)。
ITの導入によって、導入前と導入後をある指標によって数値化することはできる。しかし、その数値が世間的に妥当な数値なのか、ということは、誰にも判断できないのである。その結果、たとえば、到達不可能な目標が設定されてしまって現場のモチベーションが低下したり、到達が極めて容易な目標が設定されてしまって現場の士気が上がらなかったり、という事態が生じてしまう。
【0017】
(IT運用において強い部分や弱い部分を把握できないという問題)
システムの運用は、一般的に、ヘルプデスク(HD)、ネットワーク(NW)、パーソナルコンピュータやスマートフォンやプリンタなどの端末類(EUC)、サーバ(SV)、メインフレーム(MF)、アプリケーションの保守(AMO)などに分類できる。その分類において、どこが弱いのか、どこが強いのか、ということを、そのシステムを採用した組織が自覚できない、という問題がある。
【0018】
本発明が解決すべき課題は、ITの導入や運用に関して、ベンダーとクライアント企業との力関係をより良いものとし、ITにおけるゴールをより明確とし、二律背反の課題の解決についてバランスを取りやすくし、説明責任をより果たしやすくし、強みや弱みを自覚しやすくする技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前述した課題を解決するため、本願では、複数の組織から収集したデータに基づいて相対的な評価を出力するデータ処理装置およびコンピュータプログラムに係る発明を提供する。
また、この発明の提供と同時に、「ゴール不存在」という前述の問題に対しては、指標を設定して仮のゴールを定めるとともにそのゴールに到達した場合には、そのゴールとした指標における所定レベルを維持することも可能となる。
【0020】
(第一の発明)
第一の発明は、
情報技術に基づく各種データを複数のクライアント企業のサーバから受信するデータ受信手段と、
そのデータ受信手段が受信した各種データを用いて、相対的な評価を出力するのに適した評価指標およびその評価指標に基づいた評価値を演算するための評価指標演算手段と、
その評価指標演算手段が算出した相対評価をクライアント企業ごとに出力する相対評価出力手段と、を備え、
その相対評価出力手段は、クライアント企業ごとに異なる相対評価データへ加工して出力することとしたデータ処理装置に係る。
【0021】
(用語説明)
「クライアント企業」とは、法人格を備えた企業の他、法人格の有無に関わらない組織も含む。
「情報技術に基づく各種データ」とは、代表的には、ITILの各ツールに基づいてクライアント企業が収集蓄積したデータである。具体的には、以下の「評価指標」を演算するのに必要なデータである。より具体的には、たとえば、投資効率を算出するのに必要なデータは、投資金額およびその投資金額を投入した期間、その投資金額によってもたらされたと考えられる削減経費、売り上げ増加額、インシデント件数、MTBF、バックログなどとなる。
【0022】
「相対的な評価を出力するのに適した評価指標」とは、たとえば、以下のようなものがある。
第一に、投資効率またはコストの削減効果をひとつの指標とし、商品の品質やサービスレベルの向上をもうひとつの指標とし、効果性および効率性を二次元の座標軸を設定し、プロットしていくというものである(
図4参照)。
第二に、管理が適切になされているかという管理性をひとつの指標とし、改善が確実に進んでいるかという改善性をもうひとつの指標とし、管理性および改善性を二次元の座標軸を設定し、プロットしていくというものである(
図5参照)。
第三に、三次元の座標軸を設定し、更にその中でバブルの大小による表現を使って4つの評価指標を一見して把握できるようにする、といったものもある(
図10参照)。
【0023】
「クライアント企業ごとに異なる相対評価データ」とは、他の請求項で限定する場合の他、クライアント企業に係る評価値を強調する、中心に据える、といった見やすさ、分かりやすさの点から加工することを含む。たとえば、管理性および改善性を二次元の座標軸において、対象となるクライアント企業の現状と3年後の目標とを一見して把握できるように加工する、といった相対評価データを出力することとしても良い(
図6参照)。
【0024】
(作用)
情報技術に基づく各種データを複数のクライアント企業のサーバから、データ受信手段が受信する。
そのデータ受信手段が受信した各種データを用いて、相対的な評価を出力するのに適した評価指標およびその評価指標に基づいた評価値を、評価指標演算手段が演算する。
その評価指標演算手段が算出した相対評価を、相対評価出力手段がクライアント企業ごとに異なる相対評価データへ加工して出力する。
【0025】
クライアント企業としては、IT投資とその投資に見合うサービスが享受できているか、というサービスレベル管理において、他社との比較という相対的な見解を入手することができる。そのため、IT投資によって設備やシステムの構築を担当したベンダーや担当社員(役職員)に対して、妥当か否かの判断材料を手に入れることができる。
クライアント企業としては、他社との比較という相対的な見解を入手することによって、どのような到達点を定めれば妥当なのか、という点についても判断材料を入手できることとなる。また、適正なバランスがどの辺りなのかという判断材料、説明責任を果たす上での客観的な指標も、入手することができる。加えて、強みや弱みを自覚しやすくなる。
更に、継続的な評価を例えば一年ごとに実行することで、クライアント企業の評価指標を時系列的に捉えることも可能である。
【0026】
(第一の発明のバリエーション1)
第一の発明は、以下のように形成することができる。
すなわち、前記の相対評価出力手段が出力する前記の相対評価データは、出力先であるクライアント企業以外のクライアント企業に係る指標値を匿名化することとしたものである(
図2参照)。
ここで、「指標値の匿名化」とは、演算された指標値に幅を持たせたり(
図4参照)、隠したり、ダミーとして出力したりすることである。
【0027】
(作用)
クライアント企業としては、入手する相対評価データにおいて自らの相対的なポジションを把握することができる一方で、他のクライアント企業における相対評価データには自らのポジションが明確化されない。そのため、自らは他のクライアント企業に基づく情報を得つつ、ライバル企業への情報流出を抑制できることを期待できる。
【0028】
(第一の発明のバリエーション2)
第一の発明は、以下のように形成することができる。
すなわち、前記のデータ受信手段にて受信する前記の各種データが前記の相対評価データへ反映されることに基づいて、他のクライアント企業へ自らに係る前記の各種データが含まれることに対して許諾の意思表示を求めるための相対評価データ許諾送信手段と、前記の許諾の意思表示を受信するための許諾受信手段と、を備えることとしてもよい(
図1参照)。
【0029】
なお、許諾受信手段が受信した許諾の意思表示については、契約データベースなどの記憶手段において、蓄積保存することが一般的である。その契約データベースは、前記の相対評価出力手段における出力形式などにも影響を与えるデータを蓄積することとなる(
図1参照)。
【0030】
(作用)
前記のデータ受信手段にて受信する前記の各種データが前記の相対評価データへ反映されることに基づいて、他のクライアント企業へ自らに係る前記の各種データが含まれることについて、相対評価データ許諾送信手段が許諾の意思表示を求める送信を実行する。その意思表示の求めに対し、許諾受信手段が、許諾の意思表示を受信する。
許諾の意思表示に基づき、クライアント企業は、自らに係る各種データを提供することとによって、他のクライアント企業との相対評価を得られることを納得、確認したこととなる。
【0031】
(第二の発明)
第二の発明は、第一の発明に掛かるデータ処理装置を制御するコンピュータプログラムに係る。
すなわち、情報技術に基づく各種データを複数のクライアント企業のサーバから受信するデータ受信手順と、
そのデータ受信手順にて受信した各種データを用いて、相対的な評価を出力するのに適した評価指標およびその評価指標に基づいた評価値を演算するための評価指標演算手順と、
その評価指標演算手順にて算出した相対評価を、クライアント企業ごとに異なる相対評価データへ加工してクライアント企業ごとに出力する相対評価出力手順と、を実行させることとしたコンピュータプログラムである。
【0032】
第二の発明は、以下のように形成してもよい。
すなわち、前記の相対評価出力手順にて出力する前記の相対評価データは、出力先であるクライアント企業以外のクライアント企業に係る指標値を匿名化することとしてもよい。
【0033】
第二の発明は、以下のように形成してもよい。
すなわち、前記のデータ受信手順にて受信する前記の各種データが前記の相対評価データへ反映されることに基づいて、他のクライアント企業へ自らに係る前記の各種データが含まれることに対して許諾の意思表示を求めるための相対評価データ許諾送信手順と、前記の許諾の意思表示を受信するための許諾受信手順と、をデータ処理装置に実行させることとしてもよい。
【0034】
第二発明に係るコンピュータプログラムを、記録媒体へ記憶させて提供することもできる。
ここで、「記録媒体」とは、それ自身では空間を占有し得ないプログラムを担持することができる媒体である。例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、CD−R、MO(光磁気ディスク)、DVD−R、フラッシュメモリ、SSD、などである。
また、この発明に係るプログラムを格納したコンピュータから、通信回線を通じて他の端末手段へ伝送することも可能である。