【課題】プラスチックの射出成形や、真空成形、圧空成形、TOM成形などの製造工程において簡便に使用することができる、熱可塑性不織布よりなる加飾シートであって、成形後にも、元の不織布の風合いを維持することができる加飾シートを提供する。
【解決手段】加飾成形品製造用の加飾シートであって、熱可塑性不織布よりなり、前記熱可塑性不織布を構成する繊維の周囲に、熱可塑性樹脂の粒子が付着していることを特徴とする加飾シート。前記熱可塑性不織布は、湿式不織布であることが好ましい。
加飾成形品製造用の加飾シートであって、熱可塑性不織布よりなり、前記熱可塑性不織布を構成する繊維の周囲に、熱可塑性樹脂の粒子が付着していることを特徴とする加飾シート。
前記熱可塑性不織布が、長さ1mm〜30mm、繊度0.35dtex〜5.0dtexの熱可塑性繊維を65重量%以上含む湿式不織布であることを特徴とする、請求項1記載の加飾シート。
前記熱可塑性樹脂の粒子が0.5μm〜50μmの粒径を有すること、前記熱可塑性不織布100重量部に対し、当該粒子が35〜65重量部付着していること、坪量が10〜200g/m2であることを特徴とする、請求項1または2に記載の加飾シート。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、プラスチックの射出成形や、真空成形、圧空成形、TOM成形などの製造工程において簡便に使用することができ、且つ、成形後も不織布が有する外観と風合い(手触り感)を維持することができる加飾シート、及び成形用シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決するために検討を繰り返した結果、熱可塑性不織布を利用し、その構成繊維に、熱可塑性樹脂の粒子を付着することによって、前記課題を解決することに成功し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち本発明は、加飾成形品製造用の加飾シートであって、熱可塑性不織布よりなり、前記熱可塑性不織布を構成する繊維の周囲に、熱可塑性樹脂の粒子が付着していることを特徴とする。
【0009】
本発明の加飾シートは、熱可塑性不織布よりなるため、加飾成形品製造時の熱で加熱延伸され、しわや破損を生じることなく金型に沿った形状となる。また、熱可塑性不織布を構成する繊維に、熱可塑性樹脂の粒子が付着しており、構成繊維間の隙間の目止めの役割を果たすため、当該加飾シートを射出成形用金型にインサートして、溶融樹脂を射出成形した場合にも、溶融樹脂が加飾シートの反対面(金型に接している面)まで滲み出てくることがなく、熱可塑性不織布の外観と風合いが維持される。また、前記粒子により、構成繊維同士がより接着(熱溶着)されるため、加飾シート表面のケバ立ちが抑制され、且つ、樹脂成形品とも強固に接着されるため、樹脂成形品と加飾シートの界面剥離が生じにくい。
また、本発明の加飾シートは、耐水性にも優れる。
【0010】
特に、前記熱可塑性不織布が、長さ1mm〜30mm、繊度0.35dtex〜5.0dtexの熱可塑性繊維を65重量%以上含む湿式不織布であることが好ましく、湿式抄紙によって製造された湿式不織布は、和紙の特長である繊維の流れ目を持った外観(和紙様の外観)を有するため、和紙様の外観を持つ加飾成形品を製造することができる。
【0011】
また、前記熱可塑性樹脂の粒子が0.5μm〜50μmの粒径を有し、前記熱可塑性不織布100重量部に対し、当該粒子が35〜65重量部付着しており、加飾シートの坪量が10〜200g/m
2であることが好ましい。
【0012】
また、本発明は、前記加飾シートに、熱可塑性樹脂フィルムを少なくとも1枚接着貼合してなる成形用シートに関する。当該成形用シートは、大気圧を利用して成形品を製造する方法(真空成形、圧空成形、TOM成形等)で使用するのに好適である。本発明の成形用シートを真空成形等に用いた場合にも、前記加飾シートと同様に、熱により金型の形状に追従する効果や、ケバ立ちの抑制効果が得られる。また、本発明の成形用シートは耐水性にも優れる。
【0013】
また、本発明は、上述した加飾シートにより表面の少なくとも一部が加飾されている樹脂成形品(加飾成形品)に関する。本発明の加飾シートを利用することにより、熱可塑性不織布の外観と風合いを生かした加飾成形品を得ることができる。
前記加飾成形品は、例えば、本発明の加飾シートを、射出成形用金型内にインサートし、その後、溶融樹脂を射出成形することによって製造することができる。
また、前記加飾成形品は、上述した成形用シートを加熱軟化させ、大気圧を利用して金型あるいは樹脂基材(あらかじめ一定形状に成形した樹脂製品)へ密着させることによっても製造できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の加飾シートは、様々なプラスチックの成形に使用することができるため、家庭用品や車両室内用品、照明器具や家電品等、汎用の用途として使用されている樹脂成形品の外観を加飾する目的で使用することができる。特に、和紙様の外観を有する加飾シートを使用することにより、樹脂成形品からなるインテリア用品等の外観面(加飾された面)へ、日本の伝統工芸である和紙様の外観やその風合いを付与することが出来るため、高級感のある美麗な外観を持つ樹脂成形品の製造が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の加飾シートは、熱可塑性の不織布よりなる。本発明に使用する熱可塑性不織布は、熱可塑性繊維を20重量%以上含んでいれば本発明の効果を発揮することができ、本発明の加飾シートを使用して3次元形状の加飾成形品を得る為には、特に熱可塑性繊維を50重量%以上含む熱可塑性不織布を使用するのが好ましい。
本発明で使用する熱可塑性不織布を構成する繊維としては、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維、ウレタン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、アセテート繊維が挙げられるが、溶融温度や疎水性の観点から、ポリエステル繊維が最も好適である。
本発明で使用する熱可塑性不織布としては上記の特徴を満足する化繊紙が使用でき、特に、和紙様の外観を有する熱可塑性不織布とするには、湿式不織布を使用することが好ましい。
【0017】
また、熱可塑性不織布を構成する繊維として、長さ1mm〜30mm、繊度0.35dtex〜5.0dtexの繊維を使用し、湿式製紙機により抄紙された湿式不織布は、和紙様の外観と風合いを有する。より好ましい熱可塑性繊維は、長さ3.0mm〜20.0mm、繊度1.0dtex〜2.5dtexの繊維である。
【0018】
上記和紙様の外観と風合いを有する熱可塑性不織布は、その構成繊維の65重量%以上(より好ましくは75重量%以上、特に好ましくは90重量%以上)が前記繊維長と繊度を有する熱可塑性繊維であることが好ましく、前記熱可塑性繊維のみで構成されてもよく、あるいは他の長繊維、例えば他の化学繊維や植物繊維を、35重量%以下の割合で含んでもよい。
例えば、本発明で使用される熱可塑性不織布を、前記熱可塑性繊維100重量部に対し、長さ1mm〜30mm、繊度0.35dtex〜5.0dtexの抄紙用のパルプ繊維、麻繊維、杉皮繊維、靭皮繊維から選択される少なくとも1種の植物繊維を5〜50重量部の割合で含む熱可塑性不織布とすれば、より和紙様の外観と風合いもった湿式不織布とすることができる。
【0019】
本発明で使用される熱可塑性不織布は、その熱可塑性のため、加熱することで柔軟性・延伸性を示す。そのため、射出成形や真空・圧空成形など、樹脂を加熱して3次元形状の加飾成形品を製造する分野で使用することが可能である。
【0020】
和紙の外観を表現するための湿式抄紙では、一般的にはパルプや植物繊維、靭皮などの1mm〜20mmの長繊維を水に分散し、水中より網状のネットで繊維を漉き上げ、フェルトで加圧脱水しドライヤーで乾燥することで和紙状のシートを得ることが出来る。天然繊維の場合には繊維そのものの水素結合を利用した自己接着作用を利用してシート化がなされるが、化繊紙の場合には天然繊維結束の特長である水素結合を活用出来ないため、バインダーと呼ばれる接着効果を持つ樹脂で繊維を結束してシート化が行われる。
【0021】
例えば、化繊紙の製造法においては、ポリエステルの長繊維のみを湿式抄紙機の水中に分散し、網状のネットで水中から漉き上げ、フェルトで加圧脱水しドライヤーで乾燥しても繊維同士の結束がなされないためシート状の形態を得ることは出来ないが、低融点ポリエステルを混抄する(例えば、前記ポリエステル長繊維100重量部に対し、融点90〜120℃の低融点ポリエステルを5〜30重量部混抄する)ことによって、乾燥ドライヤーの熱で低融点ポリエステルのみが溶融し、ポリエステルの繊維同士を結束することで和紙様の外観と風合いを持った熱可塑性の湿式不織布の製造が出来ることが公知の技術として知られている。
本発明で使用する熱可塑性不織布にも同様に低融点の熱可塑性繊維を混抄しても構わない。
【0022】
この湿式抄紙法で製造された和紙様の外観と風合いを持つ熱可塑性不織布に代表される従来の熱可塑性不織布は、その構成繊維間に隙間を有しており、空気の通過が可能である。この熱可塑性不織布を水に沈めると水がこの隙間に入り込み、構成繊維間の隙間に水が充填されるため、外観はウェット状の透明感のある熱可塑性不織布になってしまう。溶融した樹脂が構成繊維間の隙間に含浸しても同じ現象が起きるため、この熱可塑性不織布をこのまま射出成形等に用いると、熱可塑性不織布に接触した溶融樹脂が熱可塑性不織布の反対面まで滲み出し、和紙様の外観と風合い等の熱可塑性不織布の外観や風合いを損ねテカリが発生する。これらを防止するためには、この熱可塑性不織布の表面に撥水性や目止めを付与することが必要である。
【0023】
又、この熱可塑性不織布で樹脂成形品を加飾するために、樹脂成形用の金型内へインサートを行い、その後溶融樹脂を金型内へ射出し、加飾成形品を製造する場合、熱可塑性不織布と射出された溶融樹脂との接着が弱いと、熱可塑性不織布と樹脂成形品との界面で層間剥離が生じるおそれがあるため、両者を強固に接着させる必要がある。
【0024】
これらの課題を解決するために、熱可塑性不織布の裏面に、市販の合成接着剤等を塗布ローラー等で塗布することも考えられるが、この方法では接着剤の塗り厚みが厚くなり、熱可塑性不織布の表面(外観面)まで浸透して表面のテカリとなり、熱可塑性不織布の外観と風合いが維持できない。
【0025】
そこで、本発明では、2つの問題点である熱可塑性不織布の構成繊維間の隙間の適切な目止めと、市販の合成接着剤等の塗布を行った時のテカリを解消するために、熱可塑性不織布を構成する繊維の周囲(繊維の表面)に、熱可塑性樹脂の粒子を付着させることにより、不織布の元の外観を損なわずに、熱可塑性不織布の構成繊維間の隙間を目止めすることに成功した。
熱可塑性不織布を構成する繊維の周囲に、前記粒子を付着させる好ましい方法として、熱可塑性樹脂の粒子を含むエマルジョンに、前記熱可塑性不織布をディッピング(浸漬)する方法が挙げられる。本発明で使用するエマルジョンは、水中に熱可塑性樹脂の粒子を分散させてなる懸濁液(通常、白濁している)を意味する。このような懸濁液は、接着剤や塗料等の分野において、水性エマルジョンと呼ばれて市販されており、本発明の加飾シートは、このようなエマルジョンに熱可塑性不織布をディッピング等することで、熱可塑性不織布を構成する繊維の周囲へ、熱可塑性接着剤として機能する熱可塑性樹脂の粒子を付着させることにより製造することができる。前記エマルジョンは、水と熱可塑性樹脂の粒子の他に、他の成分(油分等)を含んでいてもよく、水性エマルジョン接着用樹脂として市販されている製品を使用することができる。熱可塑性不織布を構成する繊維の周囲に前記熱可塑性樹脂の粒子を付着させるためには、水100重量部に対して熱可塑性樹脂の固形分が10〜100重量部、特に30〜70重量部となるように調節したエマルジョンを使用すること、あるいは100〜2000cps、特に300〜500cpsの粘度に調節したエマルジョンを使用することが好ましい。なお、本明細書における粘度は、B型回転型粘度計を用い、温度20℃にて、回転数20rpmで200秒間測定した際の粘度を意味する。
【0026】
通常の白濁したエマルジョンに分散されている熱可塑性樹脂の粒子の粒径は、0.5μm〜50μmであり、この粒径が更に小さくなっていくと溶液は半透明状態となる。また、エマルジョンに分散される熱可塑性樹脂の粒子が微細であるほど、熱可塑性不織布の外観と風合いを阻害しないが、その粒径が0.5μm未満になると、エマルジョンの粘度が増大するため、希釈率を上げなければならない。その場合、熱可塑性不織布への熱可塑性樹脂の粒子の付着量が少なくなり、目止め効果や熱可塑接着性の面で実用的ではなくなる。また、粒径が0.5μm〜50μmの熱可塑性樹脂の粒子は、光の乱反射効果があると考えられる。そのため熱可塑性不織布の外観と風合いを損なわず、且つ、光の乱反射効果でテカリを低減させるためには、粒径が0.5μm〜50μmの熱可塑性樹脂の粒子を含むエマルジョンを使用することが好ましい。より好ましい熱可塑性樹脂の粒子の粒径は1μm〜10μmである。
本発明において、前記熱可塑性樹脂の粒子の粒径は、デジタルマイクロスコープで熱可塑性樹脂の粒子を観察し、無作為に抽出した視野の写真に含まれる全粒子(少なくとも10以上)の直径を測定し、その相加平均を算出することによって求めることができる。デジタルマイクロスコープとしては、例えば、キーエンス社製 デジタルマイクロスコープVHX−100Fを使用することができる。
【0027】
前記熱可塑性樹脂の粒子は、本発明で使用される熱可塑性不織布100重量部に対して、35〜65重量部付着していることが好ましく、40〜60重量部付着していることがより好ましく、45〜55重量部付着していることが特に好ましい。
また、本発明の加飾シートの坪量は、10〜200g/m
2が好ましく、70〜170g/m
2がより好ましい。
【0028】
本発明のエマルジョンに分散される熱可塑性樹脂の粒子に使用する樹脂は、極性の高い樹脂が好適であり、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂などが使用可能であるが、作業性や成形後の製品特性などから、アクリル系樹脂エマルジョン形接着剤がもっとも好適である。
また、本発明のエマルジョンに分散される熱可塑性樹脂の粒子に使用する樹脂は、熱可塑性不織布に使用する熱可塑性繊維よりも融点が低い樹脂を使用することが好ましい。
【0029】
上述のようにして製造された本発明の加飾シートの厚みは、0.1mm〜0.5mm程度が好ましく、0.2mm〜0.4mmがより好ましい。厚みが0.1mm未満であると、射出成形時に溶融樹脂が加飾シートの外観面に滲み出してテカリが発生する可能性があり、他方厚みが0.5mmを超えると射出成形時に金型の型じめが不十分となり、溶融樹脂が金型外に漏れ出てしまい加飾成形品を所望の形状に成形することが困難になる可能性があり、また、真空・圧空成形時に成形用シートを加熱する際にも、成形用シートが十分に軟化せずに成形されてしまい加飾成形品を所望の形状に成形することが困難になる可能性がある。より好ましい厚みは0.25mm〜0.38mmである。
【0030】
本発明は、熱可塑性不織布の中でも特に、和紙独特の製法である流し漉きと呼ばれる製法によって得られる和紙様の外観と風合いを持った湿式不織布に、3次元形状の良好な成形性を付与することに重点を置いており、本発明の加飾シートは、特に3次元形状を持つ樹脂成形品の外観を加飾するのに適する。本発明は、熱可塑性繊維を湿式抄紙法でシート化した化繊紙とも呼ばれる湿式不織布を、熱可塑性樹脂の粒子を含むエマルジョンに浸漬させることによって、熱可塑性の湿式不織布の構成繊維の周囲に熱可塑性樹脂の粒子を付着させて、良好な成形性と繊維の目止めを可能にし、更に樹脂成形品への接着性を付与することができる。
【0031】
本発明の加飾シートは、様々な形状や大きさの樹脂成形品を製造するための金型内へ、予めインサートを行い、その金型内へ溶融樹脂を射出する射出成形を行うことで、樹脂成形品の外観面に、熱可塑性不織布の外観と風合いを付与することが可能である。
【0032】
また、本発明の加飾シートに、熱可塑性樹脂フィルムを接着剤等で貼り合わせてなる成形用シートは、シートを加熱軟化し大気圧を利用して金型あるいは樹脂基材へ密着させる工法(真空成形、圧空成形、TOM成形など)において使用でき、熱可塑性不織布の外観と風合いを持つ3次元形状の加飾成形品を製造することが出来る。
前記熱可塑性樹脂フィルムとして、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ABSフィルム、アクリルフィルム、ポリビニルアルコール(PVA)フィルム、ポリ塩化ビニルフイルム、ナイロンフイルム、ウレタンフイルム、ポリカーボネートフイルムから選択される熱可塑性樹脂フィルムを少なくとも1枚用いることができる。特に、PETフィルムが好ましい。また、熱可塑性樹脂フィルムの厚みは、10μm〜500μm程度が好ましく、特に50μm〜300μmが好ましい。
【0033】
本発明に係る加飾成形品とは、樹脂成形品の表面の少なくとも一部が本発明に係る加飾シートで加飾された樹脂成形品であり、ここで樹脂成形品は、射出成形によって形成されたものであってもよく、熱可塑性樹脂フィルムから形成されたものであってもよく、樹脂基材と熱可塑性樹脂フィルムからなるものであってもよい。
なお、加飾成形品は、家庭用品や家電品、自動車の内装パーツや、住宅・商業施設の内装建材として使用されるプラスチック製品(樹脂製品)等に使用できる。
【0034】
以下、本発明を比較例と実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0035】
[比較例1]
一般的に流通し、和紙と呼称される厚紙で、和服の収納などに包装用として使用されているたとう紙を金型内にインサートすることで、射出成形を試みた。その実施内容の詳細を説明する。
【0036】
まず、パルプ長繊維で抄紙された坪量95gのたとう紙を幅120mm、長さ200mmに切り出し、たとう紙シートを作成した。次に、このたとう紙シートを射出成形用の金型内へインサートした後、溶融樹脂を金型内に射出し射出成形を実施した。射出成形機は東洋機械金属株式会社製PLASTER、SI―100、型締め力100TONを使用した。射出溶融樹脂は東レ製ABS樹脂700−X01Nを使用、樹脂射出量は28gとした。加飾成形品の形状を
図1に模式的に示す。
【0037】
成形手順について説明する。まず、金型の型開き時点で外観面となるキャビティ側の可動部金型パート面にたとう紙シートを粘着テープで固定した後、型締めを行ってコア側より射出成形を行った。30秒の冷却時間後に型開きを行い、金型より幅110mm奥行82mm厚み4mmの加飾成形品を取り出し、その外観面(たとう紙側の面)を観察した。
【0038】
観察の結果、加飾成形品の外観面のアール部分に紙の破れ部分が発生した。特に加飾成形品の四隅の3次元形状の部分では皺と破れが発生した。これは加飾成形品の形状が3次元形状のため、たとう紙の構成繊維であるパルプが加飾成形品の形状に延伸追従できずに、溶融樹脂の射出圧により押し広げられた結果であり、皺と破れが発生したものである。また、外観面全体に射出溶融樹脂の滲み出しも見られ、ムラやテカリが発生した。これは射出時の溶融樹脂がたとう紙の構成繊維間の隙間にランダムに含浸してしまい加飾成形品の外観面まで到達しムラやテカリとなったものである。
【0039】
加飾成形品とたとう紙の密着性については、溶融樹脂が表まで含浸してしまった部分では層間剥離は見られなかったが、皺部分については、たとう紙と樹脂成形品との層間で簡単に剥がれてしまい、均一な接着性能を得ることはできなかった。以上のことから、従来のたとう紙(和紙)は、樹脂成形品の外観面に和紙様の外観と風合いを付与することができないことが分かった。
【0040】
[比較例2]
ポリエステル繊維100パーセントで構成される熱可塑性不織布を湿式抄紙機で製造した。熱可塑性不織布の坪量は100g/m
2とし、和紙様の外観と風合いを持った熱可塑性の湿式不織布を製造した。具体的には、株式会社クラレ製の熱可塑性繊維であるポリエステル繊維EP133(1.45dtex・繊維長5mm)を100重量部とし、熱可塑性繊維である低融点ポリエステル繊維N721(1.7dtex・繊維長5mm)を10重量部配合した繊維を水中分散し、機械式抄紙機で漉きあげ、和紙様の外観と風合いを持つ熱可塑性不織布を得た。
【0041】
湿式不織布を幅120mm、長さ200mmに切り出し、これを用いて、比較例1と同じ方法で、射出成形用の金型内へインサートした後、溶融樹脂を金型内に射出し射出成形を実施し、得られた加飾成形品の外観面(熱可塑性不織布側の面)を観察した。
【0042】
観察の結果、加飾成形品の外観面のアール部分や四隅の3次元形状の部分では、皺や破れは発生せず、良好な追従が見られた。これは、ポリエステル製の熱可塑性不織布が射出成形時に溶融樹脂の熱により軟化し、3次元形状への延伸追従が可能になったためと考えられる。
【0043】
しかし、加飾成形品の外観面全体に溶融樹脂が滲み出してしまい、和紙様の外観と風合いは全く見られず、テカリが確認できた。これは射出成形時の溶融樹脂が熱可塑性不織布の構成繊維間の隙間に含浸してしまい、加飾成形品の外観面まで到達してしまった結果であり、和紙様の外観と風合いを得ることができないことが確認された。
【0044】
[実施例1]加飾シートの製造
発明者は比較例1及び2で観察された問題点を解決するために、湿式抄紙法で作成したポリエステル製の熱可塑性不織布へバインダーとして機能する熱可塑性樹脂の粒子の付着を実施した。
【0045】
比較例2と同様、まずポリエステル繊維100パーセントで構成される熱可塑性不織布を湿式抄紙機で製造した。熱可塑性不織布の坪量は100g/m
2とし、和紙様の外観と風合い持った熱可塑性の湿式不織布を製造した。具体的には、株式会社クラレ製の熱可塑性繊維であるポリエステル繊維EP133(1.45dtex・繊維長5mm)を100重量部とし、熱可塑性繊維である低融点ポリエステル繊維N721(1.7dtex・繊維長5mm)を10重量部配合した繊維を水中分散し、機械式抄紙機で漉きあげ、和紙様の外観と風合いを持つ熱可塑性不織布−1を得た。この熱可塑性不織布−1からA4サイズのシート4枚を切り出し、それぞれa、b、c、dとした。
【0046】
次に同様の内容で坪量70g/m
2の熱可塑性不織布を製造し、熱可塑性不織布−2を得た。この熱可塑性不織布−2からA4サイズのシート4枚を切り出し、それぞれe、f、g、hとした。
【0047】
次に、アクリル系樹脂エマルジョンの調合を行った。具体的には床タイル用接着剤として流通している粘度2000cpsのアクリル系樹脂エマルジョン形接着剤(ヤヨイ化学工業株式会社製 プラゾールNP−5000)100重量部に対して150重量部の水を添加して粘度調整行い、分散を促すための界面活性剤を1重量部添加し15分の撹拌を行って400cpsの粘度に調整した。次に消泡剤として微量のシリコンを添加し、軽微の撹拌を行い平均粒径約10μmのアクリル樹脂の粒子の分散が行われた良好なアクリル系樹脂エマルジョンを得た。
【0048】
このアクリル系樹脂エマルジョンを湿式不織布へ含浸する方法としては、ディッピング、スプレー散布、ロール転写などが可能であるが、熱可塑性不織布を構成するポリエステル繊維の周囲にアクリル樹脂の粒子を均一に付着させやすい、ディッピングによる含浸加工を行った。
【0049】
具体的には、前記湿式抄紙法で製造した坪量100g/m
2から切り出したA4サイズのc、d及び坪量70g/平米から切り出したA4サイズのg、hをそれぞれ、前記のエマルジョンに浸漬して十分に含浸し(約5秒間含浸した)、スポンジロールで軽く水分を吸着し、60℃の乾燥炉で1時間乾燥することにより、本発明に係る加飾シートを製造した。熱可塑性不織布a、b、e、fは、比較のため、エマルジョンに浸さず、ブランク品とした。それぞれの重量を次の表に記載する。
【0051】
表1に記載の通り、熱可塑性樹脂の粒子の付着量は、熱可塑性不織布を100重量部としたとき、45重量部〜55重量部となり、本発明の加飾シートの厚みは0.34mm〜0.36mmであった。エマルジョン浸透後の外観は、和紙様の外観を維持していた。外観の変化が見られなかったことは、エマルジョンに分散されたアクリル樹脂の粒子が、熱可塑性不織布の構成繊維の周囲に付着されたことに起因すると思われる。
【0052】
以下の実施例において、表1のa、b、e、fの4枚は比較試験用のブランクとして使用し、c、gはインサート射出成形用の加飾シートとして使用し、d・hは真空成形用の加飾シートとして使用した。
【0053】
[実施例2]射出成形による加飾成形品の製造
次に、表1記載の熱可塑性不織布a・eと本発明の加飾シートc・g 各1枚を射出成形用の金型内にインサートし、射出成形を実施した。比較例1・2と同様、射出成形機は東洋機械金属株式会社製PLASTER、SI―100、型締め力100TONを使用し、射出溶融樹脂は東レ製ABS樹脂700−X01Nを使用、樹脂射出量は28gとした。加飾成形品の形状を
図1に模式的に示し、その寸法は幅110mm奥行82mm厚み4mmであった。
【0054】
図1は、加飾成形品を外観面(不織布側の面)から見た斜視模式図であり、
図2は、
図1のA―A断面の模式図である。
図1及び
図2の符号1は、射出成形品の外観面側の加飾シート(比較例の場合は熱可塑性不織布。以下同じ)である。
図2の符号2は、射出された溶融樹脂(ABS樹脂)からなる樹脂成形品であり、符号3は加飾シート(1)と樹脂成形品(2)の界面である。
得られた各加飾成形品について、表面部分である加飾シート(1)の繊維のケバ立ちの有無を見るために、加飾成形品の表面(外観面)に、セロハンテープ(幅15mm)の粘着層を接着させた後、セロハンテープを剥がす作業を同じ個所で5回繰り返す剥離試験を実施し、加飾成形品の表面を観察した。また、加飾シートと樹脂成形品の界面(3)の接着性を見るため、樹脂成形品の表面から加飾シートを剥がすよう所定の力で引っ張り、加飾シート(1)と樹脂成形品(2)との接着状態の評価検証を行った。その結果を表2に示す。
【0056】
表2から分かるように、本発明に係る加飾シートcとgは、通常の射出成形を行うことで、外観面のケバ立ちも見られず、界面剥離も無い良好な加飾成形品を作る事ができた。これは、本発明の加飾シートの構成繊維周囲に付着した熱可塑性樹脂の粒子により、構成繊維同士がより接着したためケバ立ちが抑制され、また、前記粒子が、樹脂成形品と加飾シートの接着剤の役目を果たすため、界面剥離が抑制されたためと考えられる。また、加飾シートcとgは、射出成形後も外観が変化せず、和紙様の外観と風合いを維持することができた。これは、構成繊維の周囲に付着した熱可塑性樹脂の粒子が繊維の隙間の目止めの役割を果たし、射出成形された溶融樹脂が、加飾シートの外観面まで含浸してくるのを防止したためと考えられる。
【0057】
これに対して、熱可塑性樹脂の粒子が不織布の構成繊維表面に付着していない熱可塑性不織布aとeは、表面にケバ立ちが発生し、場所によっては界面剥離が発生した。さらに、射出成形された溶融樹脂が、熱可塑性不織布の表側まで含浸しており、和紙様の外観と風合いが損なわれた。
【0058】
[実施例3]真空成形による加飾成形品の製造
表1に記載の加飾シートd、hに、熱可塑性樹脂フィルムとして厚み0.2mm(200μm)のPETフィルムをアクリル系接着剤で貼りあわせて、本発明の成形用シートd、hを製造した。
その後、表1に記載の熱可塑性不織布b、f及び、本発明の成形用シートd、h 各1枚を用いて、真空成形機による真空成形を行った。真空成形機はSANWAKOUGYU製単発真空成形機PLAVAC、SD−26を使用した。熱可塑性不織布b・f及び成形用シートd・h それぞれに対して、ヒーター予備加熱は12秒行い、直後に真空引きを行いトレー状の金型に成形用シート(または熱可塑性不織布)を沿わせた。得られた加飾成形品について、前記と同様の方法により、外観面のケバ立ちの発生を観察し、また、加飾成形性の良・不良を判断した。表3に結果を示す
【0060】
表3から分かるように、熱可塑性不織布bとfは、熱可塑性不織布の目開きによる空気の流通があるため、真空引きを行っても全く所定の成形ができず、熱可塑性不織布の繊維の毛羽立ちも発生した。これに対して、本発明に係る成形用シートdとhは、通常の真空成形において加飾成形品の外観面にケバ立ちも見られず、裏面にはPETフィルムの貼合を行ったため、成形用シートの加熱、真空引き後に金型形状に密着し、金型に沿った良好な形状を得ることが出来た。
図3はd、hの真空成形品の斜視模式図である。また、本発明に係る成形用シートは、真空成形後も和紙様の外観と風合いを維持した。
【0061】
[実施例4]
次に、実施例2で製造した本発明に係る加飾成形品(加飾シートc、gを用いた射出成形品)と、実施例3で製造した本発明に係る加飾成形品(加飾シートd、hを用いた真空成形品)それぞれについて、耐水試験を実施した。耐水試験では、室内において、常温の水道水を入れた容器を準備し、各加飾成形品を水に沈め、水面に厚さ3cmの親水性スポンジを浮かべることで加飾成形品が完全に水没するようにした。そのまま10日間水没状態を継続することで、水の影響を調べた。結果を表4に記載する。
【0063】
表4から分かるように、本発明に係る加飾成形品を完全に水没させた後10日経過しても、外観への影響は全く見られず、本発明に係る加飾成形品が耐水性も兼ね備えていることが確認された。
【0064】
以上の試験結果から、溶融樹脂を使用する射出成形や、空気圧を利用した樹脂成形法である真空・圧空成形やTOM成形においても、本発明の加飾シートや成形用シートを使用することで、和紙様の外観と風合いを持つ本発明の加飾成形品の製造が可能となることが分かった。