特開2017-85768(P2017-85768A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-85768(P2017-85768A)
(43)【公開日】2017年5月18日
(54)【発明の名称】DC−ACインバータ装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20170414BHJP
【FI】
   H02M7/48 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-211527(P2015-211527)
(22)【出願日】2015年10月28日
(71)【出願人】
【識別番号】392026888
【氏名又は名称】京都電機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福谷 勝洋
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA02
5H770AA05
5H770CA02
5H770DA01
5H770DA41
5H770EA02
5H770HA03Y
(57)【要約】
【課題】キャリア周波数可変形のDC-ACインバータにおいて周波数切替えに起因する高調波ノイズを抑制する。
【解決手段】電圧検出部13は電力変換部10において直流電力から変換された交流電力の電圧値をリアルタイムで検出する。キャリア周波数設定部21は該電圧値が予め定めた複数の電圧値範囲のいずれに入るのかを判定し、電圧値範囲に割り当てられている周波数をキャリア信号の周波数としてキャリア信号生成部22に指示する。PWM信号生成部24は三角波キャリア信号と基準正弦波信号とに基づいて、スイッチング回路11中のFETをオン・オフするPWM信号を生成する。検出された電圧値が正弦波波形のピークトップに近いほどキャリア周波数を下げることでスイッチング周波数を下げることができる。また、キャリア周波数の切替えタイミングは基準正弦波信号と完全には同期していないので、高調波ノイズが特定の周波数に集中しにくくなる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)複数のスイッチング素子がブリッジ接続されたスイッチング回路、及び、該スイッチング回路の出力側に接続されたフィルタ回路を含み、直流電力を交流電力に変換する電力変換部と、
b)三角波キャリア信号を生成するキャリア信号生成部と、
c)前記電力変換部で変換された交流電力の電圧波形の基準となる基準正弦波信号と前記三角波キャリア信号とに基づいて前記複数のスイッチング素子を駆動するためのPWM信号を生成するPWM信号生成部と、
d)前記電力変換部で得られた交流電力の電圧値を検出する電圧検出部と、
e)前記キャリア信号生成部により生成される三角波キャリア信号の周波数を決定し該キャリア信号生成部を制御するキャリア周波数設定部と、
を備え、前記キャリア周波数設定部は、前記電圧検出部により検出された電圧値に応じて、その電圧の絶対値が大きくなるに従って周波数が低下するように前記三角波キャリア信号の周波数を変化させることを特徴とするDC−ACインバータ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のDC−ACインバータ装置であって、
前記キャリア周波数設定部は、前記電圧検出部により検出された電圧値が予め決められた絶対的な又は相対的な複数の電圧閾値で区分される複数の電圧値範囲のいずれに含まれるのかを判定する判定部を有し、該複数の電圧値範囲にそれぞれ割り当てられている周波数に応じて三角波キャリア信号の周波数を決定することを特徴とするDC−ACインバータ装置。
【請求項3】
請求項2に記載のDC−ACインバータ装置であって、
前記複数の電圧値範囲にそれぞれ割り当てられている三角波キャリア信号の周波数はその大小関係を維持しつつ変更可能であることを特徴とするDC−ACインバータ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電力を交流電力に変換するDC−ACインバータ装置に関し、さらに詳しくは、商用交流電源と同等の電力を負荷に供給する小型のインバータ発電機などに搭載するために好適なDC−ACインバータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アウトドアなどのレジャーや屋外での各種工事・作業などのために、或いは非常用の電源として、軽油、ガソリン、LPガス等を燃料とする小型の発電機が従来から利用されている。特に、DC−ACインバータを搭載したインバータ発電機は小型・軽量でありながら高効率であって出力電圧の安定性も良好であるという特徴を有しており、可搬型の発電機の中で主流になりつつある。
【0003】
こうしたインバータ発電機に搭載されるDC−ACインバータは、目標とする商用周波数(50Hz又は60Hz)の出力交流電圧波形である基準正弦波信号と所定周波数(通常十kHz〜数十kHz程度)の三角波キャリア信号とに基づいてパルス幅変調(PWM)信号を生成し、該PWM信号を用いて複数のスイッチング素子を含むブリッジ回路を駆動することにより直流電力を商用交流電力に変換する構成を有している。従来一般的に三角波キャリア信号の周波数は一定であったが、近年、基準正弦波信号の1周期中で三角波キャリア信号の周波数を変化させるようにしたインバータも知られている。
【0004】
特許文献1に記載のDC−ACインバータでは、三角波キャリア信号の周波数に同期した制御周期毎にスイッチング素子を駆動するが、基準正弦波信号の1周期中で制御周期を単位とする所定の区切りの範囲毎に三角波キャリア信号の周波数を変化させる。具体的に言えば、基準正弦波信号の1周期中には384個の制御周期(ステップ)が設けられるが、正弦波波形の電圧ゼロを起点とする0〜60番目のステップの範囲では三角波キャリア信号の周波数は21.6kHz、60〜72番目のステップの範囲では三角波キャリア信号の周波数は19.8kHz、72〜92番目のステップの範囲では三角波キャリア信号の周波数は18.0kHz、92〜109番目のステップの範囲では三角波キャリア信号の周波数は19.8kHz、…と、正弦波波形の電圧ゼロを起点としたステップのカウント値に応じて三角波キャリア信号の周波数を4段階に変化させるようにしている。
【0005】
これによって、基準正弦波信号のカーブの傾きが大きいつまりは単位時間当たりの電圧変化が大きいときには三角波キャリア信号の周波数は高く、そのカーブの傾きが小さくなるに従い三角波キャリア信号の周波数は低くなる。三角波キャリア信号の周波数が低いほど制御周期は長くなる。そのため、三角波キャリア信号の周波数を高い値に保った場合に比べて基準正弦波信号の1周期中の制御周期の数が少なくなり、その分だけスイッチング素子を駆動する回数が減ってスイッチング損失の軽減に繋がる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−35260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来のキャリア周波数可変形のDC−ACインバータには次のような問題がある。
上記インバータでは、基準正弦波信号の1周期中のステップ(制御周期)の数は固定的であり、同1周期中で三角波キャリア信号の周波数を切替えるステップ数も固定的である。即ち、三角波キャリア信号の周波数つまりはスイッチング素子を駆動するスイッチング周波数は変化するものの、基準正弦波信号の1周期中で三角波キャリア信号の周波数が切り替わるタイミングは常に同じである。そのため、スイッチングに伴って発生する高調波ノイズは特定の周波数に集中することになり、高調波ノイズのピークが大きくなり易い。その結果、電磁ノイズの放射が増大し、EMI(Electro-Magnetic Interference)を引き起こすおそれがある。
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、三角波キャリア信号の周波数を可変することでスイッチング損失を軽減して高い電力変換効率を実現しつつ、三角波キャリア信号の周波数の切替えに伴う高調波ノイズを低減して電磁ノイズの放射を抑えることができるDC−ACインバータ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明に係るDC−ACインバータ装置は、
a)複数のスイッチング素子がブリッジ接続されたスイッチング回路、及び、該スイッチング回路の出力側に接続されたフィルタ回路を含み、直流電力を交流電力に変換する電力変換部と、
b)三角波キャリア信号を生成するキャリア信号生成部と、
c)前記電力変換部で変換された交流電力の電圧波形の基準となる基準正弦波信号と前記三角波キャリア信号とに基づいて前記複数のスイッチング素子を駆動するためのPWM信号を生成するPWM信号生成部と、
d)前記電力変換部で得られた交流電力の電圧値を検出する電圧検出部と、
e)前記キャリア信号生成部により生成される三角波キャリア信号の周波数を決定し該キャリア信号生成部を制御するキャリア周波数設定部と、
を備え、前記キャリア周波数設定部は、前記電圧検出部により検出された電圧値に応じて、その電圧の絶対値が大きくなるに従って周波数が低下するように前記三角波キャリア信号の周波数を変化させることを特徴としている。
【0010】
本発明に係るDC−ACインバータ装置は例えば、エンジンを駆動源とし交流発電機で発生された三相交流電力をサイリスタブリッジ回路等で一旦、直流電力に変換したあと、その直流電力を商用交流電力に変換するために利用することができる。この場合、フィルタ回路を通して出力される交流電力は例えば、周波数が50Hz又は60Hz、定格電圧が100V、120V、220V、240Vなどである。
【0011】
本発明に係るDC−ACインバータ装置において電圧検出部は、電力変換部において直流電力から変換された交流電力の電圧値をほぼリアルタイムで検出する。キャリア周波数設定部は、検出された上記電圧値に応じて、その電圧の絶対値が大きいほど周波数が低くなるように三角波キャリア信号の周波数を定め、キャリア信号生成部で生成される信号の周波数を変更する。PWM信号生成部は例えば基準正弦波信号と三角波キャリア信号とを比較することでPWM信号を生成するから、スイッチング素子のオン・オフ動作を制御する制御周期は三角波キャリア信号に同期しているが、この三角波キャリア信号の周波数を切替えるタイミングは基準正弦波信号の周期とは基本的に非同期である。即ち、特許文献1に記載のインバータのように、基準正弦波信号の周期と完全に同期したタイミングで三角波キャリア信号の周波数が切替えられるわけではない。そのため、スイッチングに伴う高調波ノイズが基準正弦波信号の1周期中で或る程度分散し、それによって高調波ノイズを低減することができる。
【0012】
もちろん、三角波キャリア信号の周波数は固定ではなく可変であるので、スイッチング周波数も可変であり、それによっても高調波ノイズを低減することができる。また、交流電力の出力電圧がその正弦波波形のピークに近く単位時間当たりの電圧変化が小さいときにはスイッチング周波数が下がりスイッチング回数が減少するので、スイッチング周波数が一定である場合に比べてスイッチング損失を低減することができる。
【0013】
本発明に係るDC−ACインバータ装置の一実施態様において、キャリア周波数設定部は、電圧検出部により検出された電圧値が予め決められた絶対的な又は相対的な複数の電圧閾値で区分される複数の電圧値範囲のいずれに含まれるのかを判定する判定部を有し、該複数の電圧値範囲にそれぞれ割り当てられている周波数に応じて三角波キャリア信号の周波数を決定する構成とするとよい。
こうした構成によれば、検出された電圧値から適切な周波数を迅速に決めることができる。
【0014】
ここで、絶対的な複数の電圧閾値とは例えば、20V等の電圧値そのものを意味する。また、相対的な複数の電圧閾値とは例えば、ピークトップの電圧値の20%等、ピークトップ電圧値等に対する相対値で表されるものを意味する。例えば出力交流電力の定格電圧が100V、220V等複数切り替え可能である場合には、電圧閾値を相対的に決めておくほうが都合がよい。
【0015】
また本発明に係る上記実施態様によるDC−ACインバータ装置において、複数の電圧値範囲にそれぞれ割り当てられている三角波キャリア信号の周波数はその大小関係を維持しつつ変更可能である構成とするとよい。その周波数の変更は例えばユーザ(インバータ発電機の使用者)が可変抵抗器等の操作によって行えるようにすればよい。
インバータから放射される電磁ノイズの周波数スペクトルは三角波キャリア信号の周波数によって変化する。したがって、上記構成のDC−ACインバータ装置では、例えば電磁ノイズの影響によって周囲で使用しているテレビ、ラジオ等の視聴に障害が発生する場合でも、ユーザが三角波キャリア信号の周波数を適宜変更することによって障害を解消できる可能性がある。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るDC−ACインバータ装置によれば、従来のDC−ACインバータ装置に比べて高調波ノイズを低減することができ、それによってEMIを抑制することができる。また、ノイズ発生源自体からのノイズの発生を抑えることで、例えばノイズ除去フィルタや電磁シールドやなどのEMI対策に要するコストを抑えることができる。また、本発明に係るDC−ACインバータ装置によれば、三角波キャリア信号の周波数を出力交流電力の電圧波形に応じて変化させるので、その周波数が一定である場合に比べてスイッチング回数を減らしスイッチング損失を抑えることができる。それによって、高い変換効率を実現できるとともに発熱を抑え、装置の小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係るDC−ACインバータ装置を搭載したインバータ発電機の一実施例の概略構成図。
図2図1中のインバータのブロック構成図。
図3】本実施例のインバータ発電機における基準正弦波信号、三角波キャリア信号、PWM信号、及びスイッチング回路の出力電圧の関係を示す概略波形図。
図4】本実施例のインバータ発電機における三角波キャリア信号の周波数切替え方法の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るDC−ACインバータ装置を搭載したインバータ発電機の一実施例について、添付図面を参照して説明する。
図1は本実施例のインバータ発電機の概略構成図、図2図1中のインバータの詳細なブロック構成図、図3は基準正弦波信号、三角波キャリア信号、PWM信号、及びスイッチング回路の出力電圧の関係を示す概略波形図、図4は三角波キャリア信号の周波数切替え方法の説明図である。
【0019】
図1に示すように、本実施例のインバータ発電機1は、ガソリン、軽油、LPガスなどを燃料とするエンジン2と、エンジン2により回転駆動される駆動軸を介して回転駆動力を受ける三相交流発電機3と、三相交流発電機3で発生させた三相交流電力を一旦直流電力に変換する整流回路4と、直流化された電力の電圧を平滑化する平滑回路5と、平滑化された直流電力を商用周波数(50Hz又は60Hz)で定格電圧が100V(或いはそのほかの電圧)である商用交流電力に変換するインバータ6と、を含み、インバータ6により得られた商用交流電力が出力される交流電力出力端子8に、電力供給先である負荷9が接続される。
【0020】
このインバータ発電機1では、エンジン2が作動すると、交流発電機3は数千rpm程度の回転速度で安定的に回転駆動され、これにより電圧が百〜二百数十V、周波数が数百Hz程度である三相交流電力が生成される。整流回路4は、例えば複数のサイリスタと複数のダイオードを含むサイリスタブリッジ回路であり、三相交流電力を直流電圧に変換する。なお、サイリスタブリッジ回路ではサイリスタの導通角を制御することで、直流電圧の電圧値を調整することができる。平滑回路5は平滑用コンデンサを含み、直流電力の電圧に乗っているリップル等を除去して一定電圧である直流電力をインバータ6に出力する。
【0021】
次に、インバータ6の構成及び動作を図2により詳述する。
上述したように平滑回路5から出力された直流電力は、直流電圧入力端7から電力変換部10に含まれるスイッチング回路11に入力される。スイッチング回路11は、スイッチング素子である4個の電力用MOSFETがブリッジ接続されたFETフルブリッジ回路を含み、後述するように、その4個の電力用MOSFETがそれぞれFET駆動部14から入力されるゲート制御信号によってオン・オフ制御されることで、入力された直流電力を単相の交流電力に変換する。この交流電力はリアクトルL1、L2とコンデンサC1、C2、C3とを含むフィルタ回路12に入力され、フィルタ回路12で高周波成分が除去される。これにより、所望の商用周波数で定格電圧が100V(又はそれ以外の電圧)である正弦波交流電力が得られ、これが交流電力出力端子8から負荷9に供給される。
【0022】
電圧検出部13は、フィルタ回路12により平滑化された正弦波状の交流電圧の電圧値を繰り返し検出し、検出された電圧値データを制御部20に含まれるキャリア周波数設定部21へ送る。制御部20はハードウエア回路で構成することもできるが、通常、CPU、ROM、RAM等を含むマイクロコンピュータを中心に構成されるものであり、機能ブロックとして、キャリア周波数設定部21、キャリア信号生成部22、正弦波信号生成部23、PWM信号生成部24、周波数切替えスイッチ25などを含む。
【0023】
制御部20において、キャリア周波数設定部21は後述するように三角波キャリア信号の周波数を決定し、該周波数をキャリア信号生成部22に指示する。キャリア信号生成部22は指示された周波数を有する三角波キャリア信号を生成する。一方、正弦波信号生成部23は、周波数切替えスイッチ25によってユーザにより指定された商用周波数(50Hz又は60Hz)、及び、予め指定された定格電圧に応じて、基準となる正弦波信号を生成する。図3(a)に三角波キャリア信号と基準正弦波信号との関係を示す。ただし、図3では実際よりも三角波キャリア信号の周期を長く描いており、実際にはより多くの数の三角波キャリア信号が基準正弦波信号の1周期中に存在する。
【0024】
PWM信号生成部24は基準正弦波信号の波形と三角波キャリア信号の波形とを比較して、デューティ比(=オン時間/周期)が変化するPWM信号を生成する。具体的には、図3(a)、(b)に示すように、正相の基準正弦波信号の波形と三角波キャリア信号とを比較して互いに逆位相である2系統のPWM信号Q1、Q2を生成し、逆相の基準正弦波信号の波形と三角波キャリア信号とを比較して互いに逆位相である2系統のPWM信号Q3、Q4を生成する。この4系統のPWM信号がFET駆動部14に入力され、FET駆動部14はこのPWM信号に基づいてゲート制御信号を生成してスイッチング回路11に含まれる電力用MOSFETをそれぞれオン・オフ動作させる。図3(b)に示したPWM信号に基づいてスイッチング回路11が駆動されるときに該回路11から出力される電圧を図3(c)に示す。この電圧をフィルタ回路12に通すことで基準正弦波信号とほぼ同じ波形状の交流電圧が得られる。
【0025】
図3から明らかであるように、スイッチング回路11の電力用MOSFETがオン・オフ動作するスイッチング周波数は三角波キャリア信号の周波数に対応している。したがって、三角波キャリア信号の周波数を下げればスイッチング周波数は下がり、同じ時間中のスイッチング回数は減少する。ただし、スイッチング周波数を下げると交流電圧波形にリップルが現れ易くなる。そこで、ここでは、リップルの影響がでにくい、単位時間当たりの電圧変化の小さな範囲では三角波キャリア信号の周波数を下げるようにしている。そのために、本実施例のインバータ発電機では、電圧検出部13で検出された、その時点での出力交流電圧の電圧値に応じて、電圧値がピークトップ(正負とも)に近いほど周波数を低くし、逆に電圧ゼロに近いほど周波数を高くするように制御する。
【0026】
具体的には、ここでは図4に示すように、F1(=±141V)、F2(=±123V)、F3(=±89V)、F4(=±35V)、F5(=±0V)という5段階の閾値を定め、F5以上F4未満、F4以上F3未満、F3以上F2未満、F2以上F1未満、F1以上という五つの電圧値範囲を設定する。そして、その五つの電圧値範囲それぞれに、20kHz、18kHz、15kHz、13kHz、12kHzという周波数を割り当てる。キャリア周波数設定部21は与えられた電圧値が予め定められた上記五つの電圧値範囲のいずれに入るのかを判定する判定部211を有しており、電圧検出部13で検出された電圧値が上記五つの電圧値範囲のいずれに入るかのかを判定部211により判定し、その電圧値範囲に割り当てられている周波数をその時点での三角波キャリア信号の周波数設定値として決定する。
【0027】
例えば、電圧検出部13から出力された電圧値が70Vであったとすると、それはF4以上F3未満の電圧値範囲に入ると判定部211により判定され、該電圧値範囲に割り当てられている18kHzが三角波キャリア信号の周波数設定値として決定されてキャリア信号生成部22に指示される。この指示を受けたキャリア信号生成部22は指示に応じた三角波キャリア信号を生成する。もちろん、指示された周波数に変更がなければ、同じ周波数の三角波キャリア信号が継続的にキャリア信号生成部22から出力される。
【0028】
上述したように電圧検出部13はほぼリアルタイムで出力交流電圧の電圧値を検出するから、その出力交流電圧が上記閾値を超える毎に三角波キャリア信号の周波数が変更されることになる。また、出力交流電圧がそのピークトップに近づくほど三角波キャリア信号の周波数は低くなる。それによって、スイッチング周波数もその分だけ下がり、スイッチング損失が低減されて変換効率が向上する。また、出力交流電圧と基準正弦波信号とは完全には同期しておらず、三角波キャリア信号の周波数の切替えはスイッチング回路11の電力用MOSFETをオン・オフ動作させる制御周期とは非同期に行われる。そのため、基準正弦波信号の1周期中における周波数の切り替えのタイミングは固定的ではなく、三角波キャリア信号の周波数が切り替わることによって発生する高調波ノイズは特定の周波数に集中せず、或る程度分散されることになる。その結果、そうした要因による高調波ノイズは特許文献1に記載のインバータに比べて低減されることになる。
【0029】
なお、本実施例のインバータ発電機において、キャリア周波数設定部21は基準キャリア周波数として20kHzが設定された場合に、図4に示したように五つの電圧値範囲に対してそれぞれ周波数を割り当てるが、基準キャリア周波数が変更された場合にはそれに応じて五つの電圧値範囲に対する周波数の割り当てを変更する。例えば、基準キャリア周波数が20kHzから5%増加するように(つまり20kHz→21kHzに)変更されたときには、各電圧値範囲に割り当てられている周波数もそれぞれ同じ比率(5%)だけ増加させるようにする。
【0030】
一般に、三角波キャリア信号の周波数が変わると放射されるノイズの周波数スペクトルが変化する。そのため、このインバータ発電機を使用しているときにその周囲で例えばラジオにノイズが乗る場合、インバータ発電機から放射されるノイズが原因であれば、三角波キャリア信号の周波数を変更することでノイズが下がる可能性がある。そこで、例えば本インバータ発電機にユーザが操作可能な可変抵抗器やスイッチを設けておき、その可変抵抗器やスイッチの操作によって基準キャリア周波数を適宜変更できるように構成しておくとよい。これによって、このインバータ発電機から放射されるノイズによるラジオやテレビの視聴の妨害を、ユーザの操作や調整によって軽減することができる。
【0031】
なお、上記実施例は本発明の一例であり、本発明の趣旨の範囲で適宜変形、修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。
例えば、上記実施例において、スイッチング回路11には電力用MOSFETをブリッジ接続したFETフルブリッジ回路を用いていたが、電力用MOSFETに代えてIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)などの他のスイッチング素子を用いてもよいことは明らかである。
【符号の説明】
【0032】
1…インバータ発電機
2…エンジン
3…三相交流発電機
4…整流回路
5…平滑回路
6…インバータ
7…直流電圧入力端
8…交流電力出力端子
9…負荷
10…電力変換部
11…スイッチング回路
12…フィルタ回路
C1、C2、C3…コンデンサ
L1、L2…リアクトル
13…電圧検出部
14…FET駆動部
20…制御部
21…キャリア周波数設定部
211…判定部
22…キャリア信号生成部
23…正弦波信号生成部
24…PWM信号生成部
25…周波数切替えスイッチ
図1
図2
図3
図4