【解決手段】神経P5に電気刺激を行う神経刺激電極1であって、弾性を有する材料で形成され、縮径するように弾性的に変形された状態で所定の脈管P1内に留置されることで脈管を付勢する固定部10と、固定部に設けられた刺激電極である第一刺激陽極26、第一刺激陰極27、第二刺激陽極28及び第二刺激陰極29と、先端部が固定部に接続されたリード部とを備え、リード部は、第一刺激陽極及び第二刺激陽極に接続された陽極配線と、第一刺激陰極及び第二刺激陰極に接続された陰極配線とを有し、脈管内に留置されることで固定部が縮径したときに、第一刺激陽極と第一刺激陰極との距離L1よりも第一刺激陽極と第二刺激陰極との距離L2の方が長く、第二刺激陽極と第二刺激陰極との距離L3よりも第二刺激陽極と第一刺激陰極との距離L4の方が長い。
前記第一刺激陽極、前記第一刺激陽極、前記第二刺激陽極、及び前記第二刺激陽極は、複数の前記弾性部材の一に設けられていることを特徴とする請求項4に記載の神経刺激電極。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る神経刺激電極の一実施形態を、
図1から
図17を参照しながら説明する。
図1に示すように、本実施形態の神経刺激電極1は、図示しない迷走神経(神経)に電気刺激を行うものである。本神経刺激電極1は、弾性を有する材料で形成された固定部10と、固定部10に設けられた刺激電極である第一刺激陽極26、第一刺激陰極27、第二刺激陽極28、及び第二刺激陰極29と、先端部が固定部10に接続されたリード部40と、を備えている。
神経刺激電極1のリード部40は、後述する刺激発生装置60に着脱可能になっている。神経刺激電極1及び刺激発生装置60で、神経刺激システム2を構成する。
以下では、リード部40に対する固定部10側を先端側、固定部10に対するリード部40側を基端側とそれぞれ称する。
【0015】
図1及び2に示すように、リード部40は、ポリアミド樹脂等の生体適合性を有する材料で管状に形成されたリード本体41と、リード本体41内に挿通された陽極配線42及び陰極配線43と、リード本体41の先端部に設けられた支持部材である交差ブロック44とを有している。
リード本体41の外径は1〜2mm、全長500mm程度である。
陽極配線42は、
図2に示すように陽極主配線42aの先端部に、第一陽極配線42bの基端部及び第二陽極配線42cの基端部が接続されて構成されている。陽極主配線42a、第一陽極配線42b、及び第二陽極配線42cは、耐屈曲性を有するニッケルコバルト合金(35NLT28%Ag材)からなる撚り線を、電気的絶縁材(厚さ20μmのETFE〔四フッ化エチレン−エチレン共重合体樹脂〕等)で被覆したものが用いられる。
【0016】
陰極配線43は、陽極配線42と同様に構成されている。すなわち、陰極配線43は、陰極主配線43aの先端部に、第一陰極配線43bの基端部及び第二陰極配線43cの基端部が接続されて構成されている。
陽極配線42の陽極主配線42a、及び陰極配線43の陰極主配線43aは、リード本体41内で保護チューブ46内に挿通されている。保護チューブ46の先端部は、リード本体41に固定部47により固定されている。
保護チューブ46、陽極配線42、及び陰極配線43は、リード本体41内を通して基端側に延びている。
【0017】
交差ブロック44は、例えばチタンで筒状に形成されている。交差ブロック44の中心には貫通孔44aが形成され、この貫通孔44aには前述の陽極配線42及び陰極配線43が挿通されている。
リード本体41や交差ブロック44の表面に抗血栓コーティングを施すことが有効であることは、言うまでも無い。
リード本体41の基端部には、
図1に示すように刺激発生装置60に着脱可能な電気コネクタ45が設けられている。前述の陽極配線42及び陰極配線43はこの電気コネクタ45に接続されている。
【0018】
自然状態で、固定部10は、
図1及び3に示すように3本の線状の弾性部材11A、11B、11Cがリード部40の軸線C周りに略等角度ごと(等角度ごとも含む)に配置されて構成されている。ここで、自然状態とは、固定部10に外力が作用しないか、作用しても変形が無視できる状態である。
以下では、特に断らない限り、弾性部材11Aの形状について符号として数字や英小文字に英大文字「A」を付して説明し、弾性部材11B、11Cの説明は、同形状の部位に数字や英小文字に英大文字「B」、「C」をそれぞれ付して説明を省略する。
例えば、弾性部材11B(11C)における基端側線状部11bB(11bC)は、弾性部材11Aにおける基端側線状部11bAと対応する同一形状の部位を表す。
【0019】
弾性部材11Aは、弾性を有する1本の線状の部材を折り曲げることにより、立体的なループ形状が形成された部材である。以下では、
図4から7を参照して、弾性部材11A単体の自然状態の形状について説明する。
弾性部材11Aは、
図4から6に示すように、一端部から他端部に向かって、連結端部11aA、基端側線状部11bA、先端側線状部11cA、基端側線状部11dA、及び連結端部11eAを、この順に備える。
【0020】
連結端部11aA、11eAは、弾性部材11Aを交差ブロック44に固定し、交差ブロック44を介してリード本体41と係合するための部位である。連結端部11aA、11eAは、それぞれ第1軸線O1に沿って直線状に延ばされ、第1軸線O1を挟んで平行かつ互いに近接して配置されている。
連結端部11aA、11eAは、軸線Cに対して第1軸線O1が平行となるように配置される。
連結端部11aA、11eAと交差ブロック44との固定方法は特に限定されず、交差ブロック44の材質に応じて、例えば、接着、溶接、カシメ等の固定方法を適宜選択することができる。
【0021】
基端側線状部11bA、11dAは、第1軸線O1を含み、連結端部11aA、11eAの中心軸線を通る平面S1において、第1軸線O1に関して互いに線対称をなして配置され、全体としてU字状とされた部位である。
すなわち、
図5に示すように、基端側線状部11bA、11dAは、それぞれ、連結端部11aA、11eAに接続する端部から、先端側に向かうにしたがって互いに離間するように斜め方向に延ばされ、それぞれ第1軸線O1から漸次離間している。基端側線状部11bA、11dAの先端側の端部の近傍では、第1軸線O1と略平行(平行の場合を含む)になっている。
【0022】
基端側線状部11bAは、第1軸線O1から離間する方向に向かって凸となる曲線部、折れ線部、又はこれら曲線部と折れ線部との組み合わせによって構成することができる。
本実施形態では、基端側線状部11bAの形状は、一例として、連結端部11aAに近い基端側領域b1(
図5参照)では、先端側線状部11cAに近い先端側領域b2に比べて、第1軸線O1に対する傾斜の平均変化率がより大きくなる曲線形状を採用している。
基端側線状部11dAは、基端側線状部11bAと同様に構成されている。
本実施形態では、基端側線状部11bA、11dAは、先端側に向かうにつれて互いに離間するように傾斜する形状を採用している。このため、基端側線状部11bA、11dAの先端側端部は、自然状態において、弾性部材11Aの第1軸線O1と直交する方向の最大幅となる部位になっている。
第1軸線O1を含み平面S1と直交する平面S2を規定すると、基端側線状部11bA、11dAは、平面S2に対して対称である。
【0023】
先端側線状部11cAは、
図4に示すように、基端側線状部11bA、11dAの先端部から、さらに先端側に向かうにつれて、平面S1の側方に向かって、張り出す凸状に湾曲した部位である。
本実施形態では、先端側線状部11cAは、一例として、平面S1内の第2軸線O2を含み平面S1に対して角度θ1をなして交差する平面S3上に配置されるとともに平面S2に関して面対称なC字状に形成されている。
ここで、第2軸線O2は、平面S3内にあって、基端側線状部11bA、11dAの先端部を通り第1軸線O1に直交する軸線である。
このため、平面S2、S3の交線からなる第3軸線O3が、先端側線状部11cAと交差する位置に、先端側線状部11cAの頂部11gAが形成されている。
平面S3の角度θ1は、5°以上90°以下が好ましい。
【0024】
先端側線状部11cAは、第2軸線O2から離間する方向に凸となる曲線部、折れ線部、又はこれら曲線部と折れ線部との組み合わせによって構成することができる。
本実施形態では、
図5に示すように、先端側線状部11cAの形状は、一例として、基端側線状部11bA(11dA)に近い基端側領域c1(c3)では、基端側線状部11bA(11dA)の先端側端部から平面S2に向かって傾斜する曲線状又は直線状に延ばされている。
また、基端側領域c1、c3の間の先端側領域c2では、頂部11gAを頂点とする山形の形状を有する。先端側領域c2における山形は、例えば、円弧、楕円弧などの曲線からなる山形や、複数の折れ線で形成された山形も可能である。本実施形態では、一例として、頂部11gAの曲率半径が最小となり頂部11gAの近傍に屈曲状の部位が形成された曲線形状を採用している。
【0025】
このような構成により、弾性部材11Aは、第一刺激陽極26及び第一刺激陰極27以外は、平面S2に関して面対称な形状になっている。
ここで、弾性部材11Aの内部構造と、第一刺激陽極26及び第一刺激陰極27の構成について説明する。
【0026】
弾性部材11Aは、
図7に示すように、形状記憶合金で形成されたワイヤ本体14Aと、ワイヤ本体14Aの外周面を覆って絶縁する内部被覆15Aと、内部被覆15Aの外周面を覆って絶縁する外部被覆16Aとを有している。
ワイヤ本体14Aは、固定部10の外径を変化させる外力によっても塑性変形せず、外力が解除されると自然状態に戻る良好な弾性を有する。
なお、ワイヤ本体14Aは形状記憶合金以外にも、超弾性ワイヤ等で形成することができる。
【0027】
内部被覆15Aは、ワイヤ本体14Aとともに変形可能であって電気絶縁性を有する適宜の合成樹脂材料、例えば、ポリウレタン樹脂などを採用することができる。
外部被覆16Aは、第一刺激陽極26及び第一刺激陰極27の露出部位を除いては、弾性部材11A最外周面を形成する被覆部材である。したがって、外部被覆16Aは、血管(脈管)内に導入されると、外部被覆16Aの外周面が血液、血管の内壁等の生体組織と接触する。このため、外部被覆16Aは、ワイヤ本体14A及び内部被覆15Aとともに変形可能な絶縁性材料であって、生体適合性に優れる材料で形成される。外部被覆16Aに好適な材料としては、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂等を採用することができる。
【0028】
前述の第一刺激陽極26は、白金イリジウム合金等の生体適合性を有する金属で管状に形成されている。第一刺激陽極26内には、内部被覆15Aが挿通されている。第一刺激陽極26の寸法は、例えば外径が0.8mm、長さが4mm程度である。本実施形態では、第一刺激陽極26は全周にわたり外部被覆16Aの外部に露出している。
なお、第一刺激陽極は、固定部10の径方向外側となる向きだけ外部被覆16Aの外部に露出するように構成してもよい。この場合の弾性部材11Aの軸線に直交する方向から見たときの第一刺激陽極の形状は特に限定されず、矩形状、長円形状、及び楕円形状等でもよい。
【0029】
第一刺激陽極26の内部には、ワイヤ本体14Aとの短絡を防止するための管状の絶縁部材18Aが挿通されており、この絶縁部材18A内に内部被覆15A及びワイヤ本体14Aが挿通されている。
また、第一刺激陽極26の内周面には、前述の第一陽極配線42bが溶接等により電気的に接続されている。第一陽極配線42bは、外部被覆16A内に配置されてワイヤ本体14Aに沿って基端側に向かって延びている。
第一刺激陰極27は第一刺激陽極26と同様に構成されている。第一刺激陰極27には、第一陰極配線43bが接続されている。この例では、
図4及び5に示すように、第一刺激陽極26及び第一刺激陰極27は、基端側線状部11bAにおいて第一刺激陰極27が第一刺激陽極26よりも先端側に配置されるように構成されている。後述するように第一刺激陽極26はプラス(+)極として機能し、第一刺激陰極27はマイナス(−)極として機能する。
第一刺激陽極26及び第一刺激陰極27で、後述する電気力線Fを生じる補助刺激電極対25aを構成する。
【0030】
弾性部材11Bは、弾性部材11Aに対して第一刺激陽極26、第一刺激陰極27、及び絶縁部材18Aを備えないことのみ異なる。
弾性部材11Cは、弾性部材11Aに対して第一刺激陽極26、第一刺激陰極27に代えて第二刺激陽極28、第二刺激陰極29を備えている。第二刺激陽極28及び第二刺激陰極29は、第一刺激陽極26と同様に構成されている。第二刺激陽極28には第二陽極配線42cが接続され、第二刺激陰極29には第二陰極配線43cが接続されている。
この例では、
図1に示すように第二刺激陽極28及び第二刺激陰極29は、基端側線状部11dCにおいて第二刺激陰極29が第二刺激陽極28よりも先端側に配置されるように構成されている。後述するように第二刺激陽極28はプラス極として機能し、第二刺激陰極29はマイナス極として機能する。第二刺激陽極28及び第二刺激陰極29で、後述する電気力線Fを生じる主刺激電極対25bを構成する。
すなわち、第一刺激陽極26及び第一刺激陰極27は、弾性部材11A、11B、11Cのうちの一の弾性部材である弾性部材11Aに設けられている。第二刺激陽極28及び第二刺激陰極29は、弾性部材11A、11B、11Cのうちの他の一の弾性部材である弾性部材11Cに設けられている。
【0031】
このように構成された弾性部材11A、11B、11Cは、各第1軸線O1が軸線Cに重なるとともに、頂部11gA、11gB、11gCが、軸線C周りに等間隔(120°間隔)に離間するようにして配置されている。
図3に示すように、各弾性部材11A、11B、11Cは、それぞれの先端側線状部11cA、11cB、11cCの張り出し方向が軸線Cに関して径方向外側に向くように配置され、
図3に示す先端側から見たときに、時計回りに弾性部材11A、11B、11Cの順で配置されている。
【0032】
隣り合う弾性部材11A、11B、11Cは、互いに交差している。
図1及び3に示すように、弾性部材11A、11B、11Cにおける軸線C方向の中間部は、互いに連結部材19で接続されている。より詳しくは、弾性部材11Aの基端側線状部11bAの先端部と弾性部材11Bの基端側線状部11dBの先端部とが連結部材19により接続されている。連結部材19は、例えば弾性部材11Aの外部被覆16A及び弾性部材11Bの外部被覆が溶融接合により互いに接合されて形成されたものである。
同様に、弾性部材11Bの基端側線状部11bBの先端部と弾性部材11Cの基端側線状部11dCの先端部とが連結部材19により接続されている。弾性部材11Cの基端側線状部11bCの先端部と弾性部材11Aの基端側線状部11dAの先端部とが連結部材19により接続されている。固定部10には、3つの連結部材19が設けられている。
固定部10の自然状態における外径は、固定部10を留置する上大静脈等の血管(脈管)の内径よりも大きな、例えば35mmである。固定部10の軸線C方向の長さは例えば35mmである。
【0033】
固定部10の弾性部材11A、11B、11Cの基端部は、
図2に示すリード部40の交差ブロック44に溶接接合、接着接合、又はカシメ接合により接続されている。
図1及び3に示すように、固定部10は、先端側が円筒形で、基端側は基端側に向かうにしたがって外径が小さくなる釣鐘形(バスケット形)に形成されている。固定部10は、リード部40の軸線Cに対して回転対称(3回転対称)な形状に形成されている。
【0034】
図1に示すように、第一刺激陽極26及び第二刺激陽極28は、軸線C方向において略等しい(等しいも含む)位置に配置されている。言い換えれば、第一刺激陽極26及び第二刺激陽極28は、軸線C周りに位置をずらして配置されている。
第一刺激陰極27及び第二刺激陰極29は、軸線C方向において略等しい(等しいも含む)位置に配置されている。言い換えれば、第一刺激陰極27及び第二刺激陰極29は、軸線C周りに位置をずらして配置されている。
刺激陽極26、28、及び刺激陰極27、29は、固定部10の径方向外側に配置されている。
自然状態において、連結部材19よりも基端側の固定部10(以下、基端側領域10aと称する)の外径よりも連結部材19よりも先端側の固定部10(以下、先端側領域10bと称する)の外径の方が小さい。
【0035】
このように構成された固定部10は、
図1及び8に示すように、自然状態における固定部10の外径よりも小さい上大静脈P1内に留置される。上大静脈P1の内径は、例えば15〜23mmである。
このとき、弾性部材11A、11B、11Cは、上大静脈P1の内面によって縮径するように弾性的に変形する。弾性部材11A、11B、11Cは、上大静脈P1の内面を付勢する。このときに、外径の大きい基端側領域10aが上大静脈P1からより大きな反力を受けて縮径する。以下では、固定部10の動作を、弾性部材11Aの動作で代表して説明する。
【0036】
基端側領域10aが縮径すると、弾性部材11Aのうち連結部材19よりも基端側の基端側線状部11bA、11dAが上大静脈P1からの反力により軸線Cに近づくように移動する。
図4及び5に示すように、基端側線状部11bAと基端側線状部11dAとの距離が近づくように基端側線状部11bAが位置Q1に、基端側線状部11dAが位置Q2に移動する。各連結部材19が位置Q3に移動することで、一対の連結部材19間の距離が短くなる。各連結部材19は、弾性部材11Aだけでなく弾性部材11B又は弾性部材11Cに接続されていることで、各連結部材19を基準に考えると、
図4から6に示すように、弾性部材11Aのうち連結部材19よりも先端側の先端側線状部11cAが連結部材19に対して軸線Cから離間するように位置Q4に移動する。より詳しくは、先端側線状部11cAは、第2軸線O2に沿う方向の長さが短くなるとともに、平面S3に沿って平面S1から離間するように延びる。
【0037】
このため、基端側領域10aが縮径するのにしたがって先端側領域10bの頂部11gA、11gB、11gCが基端側領域10aに比べて拡径するように移動する。すなわち、基端側領域10aが縮径しても、頂部11gA、11gB、11gCは、あまり縮径しない。この結果、
図8に示すように先端側領域10bの頂部11gA、11gB、11gCが上大静脈P1の内面に当接する。
固定部10は回転対称な形状であるため、上大静脈P1の長手軸周りには比較的回転しやすい。一方で、上大静脈P1内に固定部10を留置したときに頂部11gA、11gB、11gCが上大静脈P1に当接することで、上大静脈P1の長手軸周りの方向に比べて、上大静脈P1の長手軸に沿う方向には移動しにくい。
【0038】
図9に示すように、上大静脈P1内に固定部10を留置したときに、第一刺激陽極26と第一刺激陰極27との距離L1よりも第一刺激陽極26と第二刺激陰極29との距離L2の方が長い。第二刺激陽極28と第二刺激陰極29との距離L3よりも第二刺激陽極28と第一刺激陰極27との距離L4の方が長い。
距離L1、L3は、1mm〜6mm程度が望ましく、2mm以下であることがより望ましい。
【0039】
刺激陽極26、28及び刺激陰極27、29は、それぞれ上大静脈P1の内面に接触する。上大静脈P1の組織の単位長さ当たりの電気抵抗(電気抵抗率)は、ほぼ等しいと考えられる。このため、
図10に示す等価回路において、第一刺激陽極26と第一刺激陰極27との間の電気抵抗R1の抵抗値よりも第一刺激陽極26と第二刺激陰極29との間の電気抵抗R2の抵抗値の方が大きくなる。
すなわち、刺激陽極26、28はプラス極、刺激陰極27、29はマイナス極である。電気力線Fは、プラス極からマイナス極に向かって生じる。
図11に示すように、刺激陽極26、28間、及び刺激陰極27、29間には、電気力線Fは生じない。
距離L1よりも距離L2の方が長いことで、電気抵抗R1の抵抗値よりも電気抵抗R2の抵抗値の方が大きくなり、第一刺激陽極26と第二刺激陰極29との間では電気力線Fの密度が低く、第一刺激陽極26と第一刺激陰極27との間では電気力線Fの密度が高くなる(第一刺激陽極26と第二刺激陰極29との間の電気力線Fの密度が低いため、
図11ではこの電気力線Fを記載していない)。
【0040】
同様に、
図10に示す等価回路において、第二刺激陽極28と第二刺激陰極29との間の電気抵抗R3の抵抗値よりも第二刺激陽極28と第一刺激陰極27との間の電気抵抗R4の抵抗値の方が大きくなる。
すなわち、距離L3よりも距離L4の方が長いことで、電気抵抗R3の抵抗値よりも電気抵抗R4の抵抗値の方が大きくなり、
図11に示すように密度が高い電気力線Fは第二刺激陽極28と第一刺激陰極27との間ではなく第二刺激陽極28と第二刺激陰極29との間に生じる。
【0041】
刺激発生装置60は、不図示の電気刺激供給部を有しており、定電流方式又は定電圧方式による、電気刺激を印加させるための神経刺激信号を生成することができる。この例では、神経刺激信号として、
図12に示すように、定電流方式であって位相が切り替わるバイフェージック波形群を、所定の間隔を有して発生させる。具体的な波形としては、例えば周波数2Hz(ヘルツ)〜20Hz、パルス幅50μs(マイクロ秒)〜400μsで、プラス数ボルト〜マイナス数ボルトの間で電圧が変化するものを挙げることができる。
刺激発生装置60は、このようなバイフェージック波形を1分間あたり任意の秒数の間印加する。例えば3秒〜20秒間、集中的に印加したい場合には60秒間等である。
刺激発生装置60は、リード部40の電気コネクタ45が接続されたときに、刺激陽極26、28をプラス極として機能させ、刺激陰極27、29をマイナス極として機能させる。
刺激発生装置60は、リード部40の電気コネクタ45、陽極配線42、及び陰極配線43を介して刺激陽極26、28及び刺激陰極27、29に接続される。このため、刺激陽極26、28及び刺激陰極27、29には、神経刺激信号が同時に印加される。
【0042】
次に、以上のように構成された神経刺激電極1の固定部10を上大静脈P1内に留置する治療(手技)について説明する。
術者は、
図8に示す患者Pに対して、図示はしないが、頚部の近傍を小切開して開口を形成する。この開口に、公知のイントロデューサやダイレータ等の挿入具を取付ける。
挿入具を通して、例えば右内頚静脈内に固定部10を挿入する。このとき、固定部10を挿入具に挿入可能な外径まで弾性的に変形(縮径)させてから挿入する。なお、固定部10を右内頚静脈ではなく、右外頚静脈、左内頚静脈、又は左外頚静脈を介して上大静脈P1内に導入してもよい。
挿入時には、X線透視下で神経刺激電極1の固定部10のワイヤ本体14A、刺激陽極26、28、及び刺激陰極27、29等の位置を確認する。
【0043】
リード部40の基端側を把持して押込んだり軸線C周りに回転させたりすると、この作用させた力は固定部10に伝達される。リード部40を押込むと、挿入具から先端側に固定部10が突出し、右内頚静脈内に固定部10が導入される。
術者は、X線透視下でリード部40を押し進め、
図8に示すように固定部10を上大静脈P1内に概略設置する。
このとき、上大静脈P1の内径が固定部10の外径よりも小さいことで、基端側領域10aが縮径するのに対して、頂部11gA、11gB、11gCはあまり縮径しない。頂部11gA、11gB、11gCが上大静脈P1に当接することで、固定部10は、上大静脈P1の長手軸に沿う方向には比較的移動しにくくなる。
上大静脈P1に対する血液の下流側には、心臓P3の右心房P4がある。上大静脈P1に隣接して、刺激対象となる迷走神経P5が並走している。
【0044】
刺激発生装置60にリード部40の電気コネクタ45を取付ける。刺激発生装置60が生成する神経刺激信号を電気コネクタ45、陽極配線42、及び陰極配線43を介して伝達させる。距離L1からL4が前述のように設定されているため、
図11に示すように第一刺激陽極26と第一刺激陰極27との間、及び第二刺激陽極28と第二刺激陰極29との間に電気力線Fが生じる。これにより、第一刺激陽極26と第一刺激陰極27との間、及び第二刺激陽極28と第二刺激陰極29との間に神経刺激信号による電気刺激を印加される。この例では、先端側の刺激陰極27、29がマイナス極として機能し、基端側の刺激陽極26、28がプラス極として機能する。
主刺激電極対25bにより生じる電気力線Fの縁部と補助刺激電極対25aにより生じる電気力線Fの縁部とが重なる程度に、主刺激電極対25bと補助刺激電極対25aとが配置されていることが好ましい。このため、主刺激電極対25bと補助刺激電極対25aとの距離は、4mm〜8mm程度が好ましい。
神経刺激電極1が主刺激電極対25bだけでなく補助刺激電極対25aを備えることで、主刺激電極対25bだけを備える場合に比べて、迷走神経P5に電気刺激を印加できる固定部10の向きがおよそ2倍に広がる。
【0045】
図11中に、領域R6及びR7を示す。領域R6内に電気力線Fがあると、迷走神経P5に電気刺激が印加される。領域R7内に高密度の電気力線Fがあると、右心房P4に電気刺激が印加される。領域R6と領域R7とが重なる領域R8に高密度の電気力線Fがあると、迷走神経P5及び右心房P4に電気刺激が印加される。なお、
図11中の領域R7は便宜上閉じた空間で示されているが、右心房P4よりも下方の心房領域は全て領域R7と考えてよい。
右心房P4に電気刺激を印加して心房ペーシングとならないように、高密度の電気力線Fが領域R6内であって領域R7内でない部分に生じるように刺激陽極26、28、及び刺激陰極27、29を配置することが望ましい。
仮に第一刺激陰極27と第二刺激陰極29との間に電気力線Fが生じると、高密度の電気力線Fが領域R7内に生じて、右心房P4に電気刺激が印加される恐れがある。
【0046】
患者Pに、図示しない心拍計を取付ける。
心拍計で測定される患者Pの心拍数を確認しながら、患者Pの心拍数が低下するように上大静脈P1内における刺激陽極26、28、及び刺激陰極27、29の位置及び向きを調節する。具体的には、術者はリード部40の基端側を操作し、リード部40を押込んだり引き戻したりする。これにより、上大静脈P1内における固定部10、すなわち刺激陽極26、28、及び刺激陰極27、29の上大静脈P1の長手軸に沿う方向の位置を調節する。リード部40の基端側を軸線C1周りに回転させることで、刺激陽極26、28、及び刺激陰極27、29の上大静脈P1の長手軸周りの向きを調節する。
この位置及び向きの調節を行いながら心拍計により患者Pの心拍数を計測する。主刺激電極対25b又は補助刺激電極対25aが迷走神経P5に近づいて対向するように配置され、迷走神経P5に印加される電気刺激が最も大きくなったときに、患者Pの心拍数が最も低下する。迷走神経P5に電気刺激が印加されることで、迷走神経P5が活性化する。
術者は、心拍数が最も低下するように、すなわち、主刺激電極対25b又は補助刺激電極対25aが迷走神経P5側を向くように、刺激陽極26、28、及び刺激陰極27、29の位置及び向きを調節する。
この例では、主刺激電極対25bが迷走神経P5側を向くように、固定部10の位置及び向きを調節する。
【0047】
心拍数が最も低下するように調節した後で、心臓P3の拍動や体外のリード部40に外力が作用すること等により、上大静脈P1に対して固定部10が移動してしまうことがある。なお、上大静脈P1に対して固定部10は上大静脈P1の長手軸に沿う方向には比較的移動しにくい。このため、上大静脈P1に対して固定部10が移動する場合でも、固定部10の長手軸に沿う方向の位置が変わる場合よりも、固定部10の長手軸周りの向きが変わる場合が多い。この場合であっても、第一刺激陽極26及び第二刺激陽極28、第一刺激陰極27及び第二刺激陰極29は、それぞれ軸線C周りに位置をずらして配置されている。したがって、固定部10の長手軸周りの向きが変わっても、例えば補助刺激電極対25aが迷走神経P5側を向くように固定部10の長手軸周りの向きが変わった場合には、迷走神経P5に電気刺激を印加し続けられる。
【0048】
刺激陽極26、28、及び刺激陰極27、29の位置及び向きが決まったら、神経刺激電極1の固定部10を上大静脈P1内に留置する。挿入具をピールアウェイし除去する。
この状態で、一定期間、刺激発生装置60により神経刺激信号を生成して電気刺激を印加させつつ、上大静脈P1内に固定部10を留置する。
【0049】
図13には、比較例の経刺激電極100における、上大静脈P1内に留置されたときの縮径した固定部101の形状を示す。この場合、第二刺激陽極28と第二刺激陰極29との距離L3よりも第二刺激陽極28と第一刺激陰極27との距離L4の方が短い。
電気力線Fは第二刺激陽極28と第二刺激陰極29との間ではなく、第二刺激陽極28と第一刺激陰極27との間に生じる。
【0050】
以上説明したように、本実施形態の神経刺激電極1によれば、上大静脈P1内に固定部10を留置したときに、距離L1よりも距離L2の方が長く、距離L3よりも距離L4の方が長い。このため、第一刺激陽極26と第一刺激陰極27との間、及び第二刺激陽極28と第二刺激陰極29との間に電気力線Fが生じる。主刺激電極対25bだけでなく補助刺激電極対25aによっても電気刺激が印加できるため、上大静脈P1内において、迷走神経P5に電気刺激を印加可能となる刺激陽極26、28、及び刺激陰極27、29の配置範囲を広くすることができる。
迷走神経P5に電気刺激を印加可能となる刺激陽極26、28、及び刺激陰極27、29の配置範囲が広いことで、神経刺激電極1は刺激陽極26、28、及び刺激陰極27、29の移動に対して寛容になる。
【0051】
第一刺激陽極26と第一刺激陰極27との距離L1が短いことで、小さいエネルギーで迷走神経P5を効率的に刺激することができる。
距離L1、L3が短いことで、刺激陽極26、28、及び刺激陰極27、29に無駄に電流が流れない。
固定部10が頂部11gA、11gB、11gCを備えることで、血管内の任意の位置に留まり、神経に電気刺激を行うことができる。
【0052】
第一刺激陽極26及び第二刺激陽極28、第一刺激陰極27及び第二刺激陰極29は、軸線C方向において略等しい位置に配置されている。このため、固定部10の向きが変わっても、迷走神経P5に電気刺激を印加し続けやすくなる。
本実施形態の固定部10は、上大静脈P1内に留置されたときに先端側の先端側領域10bが上大静脈P1に当接する。このため、固定部10が上大静脈P1の長手軸に沿う方向に比較的移動しにくくなる。
第一刺激陽極26及び第一刺激陰極27が弾性部材11Aに設けられ、第二刺激陽極28及び第二刺激陰極29が弾性部材11Cに設けられている。したがって、刺激陽極26、28及び刺激陰極27、29が設けられる弾性部材を複数のものに分けることができる。
【0053】
本実施形態の神経刺激電極1は、以下に説明するようにその構成を様々に変形させることができる。
例えば、
図14に示す神経刺激電極1Aの固定部10Aのように、第二刺激陽極28及び第二刺激陰極29を通る基準線L6と上大静脈P1の長手軸P7とのなす角度θ2が0°以上30°以下であってもよい。なお、この角度θ2は、上大静脈P1の長手軸P7に直交する方向に見たときの角度である。
このように神経刺激電極1Aを構成することで、領域R7内に高密度の電気力線Fが生じにくくなり、迷走神経P5に安定して電気刺激を印加することができる。
なお、角度θ2が30°を越えると、領域R7内に高密度の電気力線Fがある可能性が高くなる。
【0054】
図15に示す神経刺激電極1Bの固定部10Bのように、弾性部材11Bに刺激電極である第三刺激陽極51及び第三刺激陰極52を設けてもよい。この変形例では、第三刺激陽極51及び第三刺激陰極52は弾性部材11Bに設けられている。第三刺激陽極51は陽極配線42に接続され、第三刺激陰極52は陰極配線43に接続される。
上大静脈P1内に留置されることで固定部10Bが縮径したときに、第一刺激陽極26と第一刺激陰極27との距離よりも第一刺激陽極26と第二刺激陰極29との距離及び第一刺激陽極26と第三刺激陰極52との距離の方がそれぞれ長くなる。同様に、第二刺激陽極28と第二刺激陰極29との距離よりも第二刺激陽極28と第一刺激陰極27との距離及び第二刺激陽極28と第三刺激陰極52との距離の方がそれぞれ長くなる。第三刺激陽極51と第三刺激陰極52との距離よりも、第三刺激陽極51と第一刺激陰極27との距離及び第三刺激陽極51と第二刺激陰極29との距離の方がそれぞれ長くなる。
【0055】
神経刺激電極1Bは、例えば第一刺激陽極26、刺激陰極27、29、52の間の距離が前述のようであることで、第一刺激陽極26と第二刺激陰極29との間及び第一刺激陽極26と第三刺激陰極52との間では電気力線Fの密度が比較的低く、第一刺激陽極26と第一刺激陰極27との間では電気力線Fの密度が比較的高くなる。刺激陽極28、52についても、第一刺激陽極26と同様である。
神経刺激電極1Bに刺激陽極及び刺激陰極の組を3組備えることで、固定部10Bの長手軸周りの向きが変わっても、迷走神経P5に電気刺激を印加し続けやすくなる。
このように神経刺激電極が備える刺激陽極及び刺激陰極の組の数は、3組でもよいし4組以上でもよい。
【0056】
複数組の刺激陽極及び刺激陰極に同時に電気刺激を印加することが、神経刺激システムの簡易化にとって望ましい。ただし、心房ペーシング等が起きない組数にする必要がある。このために、複数組の刺激陽極及び刺激陰極の配置は第一刺激陽極26及び第一刺激陰極27に対して平行、又は30°以内に配置されていることが好ましい。
図16に示す神経刺激電極1Cの固定部10Cのように、第一刺激陽極26及び第二刺激陽極28は、軸線C方向の位置をずらして配置されていてもよい。同様に、第一刺激陰極27及び第二刺激陰極29は、軸線C方向の位置をずらして配置されていてもよい。
【0057】
図17に示す神経刺激電極1Dの固定部10Dのように、第一刺激陽極26、第一刺激陰極27、第二刺激陽極28、及び第二刺激陰極29の全てを弾性部材11Cに設けてもよい。この例では、第一刺激陽極26、第一刺激陰極27、第二刺激陽極28、及び第二刺激陰極29は、上大静脈P1の長手軸P7に沿って配置される。
このように構成することで、固定部10Dが縮径する前後で第一刺激陽極26、第一刺激陰極27、第二刺激陽極28、及び第二刺激陰極29の相互の間隔が変化しにくくなる。また、固定部10Dが上大静脈P1の長手軸に沿う方向に移動しても、迷走神経P5に電気刺激を印加し続けやすくなる。
また、このように構成することで、第一刺激陽極26、第一刺激陰極27、第二刺激陽極28、及び第二刺激陰極29を流れる電流が、右心房P4や近傍の他の神経を刺激しにくくなる。このため、安定して電気刺激を行うことができる。
【0058】
以上、本発明の一実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせ、削除等も含まれる。
例えば、前記実施形態では、固定部10を構成する弾性部材の数が3であるとしたが、この数は1、2でもよいし、4以上でもよい。
固定部10は、弾性部材11A、11B、11Cにより釣鐘形に形成されているとしたが、固定部の構成はこれに限定されない。固定部は、弾性的に変形された状態で上大静脈内に留置される形状であれば、球形や筒形等でもよい。
【0059】
固定部10において、第一刺激陰極27が第一刺激陽極26よりも先端側に配置されているとした。しかし、第一刺激陰極27は第一刺激陽極26よりも基端側に配置されているとしてもよい。このように刺激電極を配置しても同様の効果を奏することができる。
脈管が上大静脈等の血管であるとしたが、脈管がリンパ管であるとしてもよい。