【解決手段】血液中からサイトカイン及びハイモビリティグループボックス1(HMGB1)を除去するための多孔質吸着体は有機高分子樹脂及び無機イオン吸着体を含み、外表面開口率が3%以上40%未満であり、水銀ポロシメーターで測定したメディアン径が0.05μm以上であり、水銀ポロシメーターで測定した比表面積が2〜100m2/cm3である。
前記有機高分子樹脂が、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリスルホン(PS)、ポリエーテルスルホン(PES)及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる群から選ばれる少なくとも一種を含有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の多孔質吸着体。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0017】
〔多孔質吸着体〕
本実施形態の多孔質吸着体は、血液中からサイトカイン及びハイモビリティグループボックス1(HMGB1)を除去するための多孔質固体構造を有する吸着体であって、多孔質吸着体は有機高分子樹脂及び無機イオン吸着体を含み、外表面開口率が3%以上40%未満であり、水銀ポロシメーターで測定したメディアン径が0.05μm以上であり、水銀ポロシメーターで測定した比表面積が2〜100m
2/cm
3である。多孔質吸着体は、連通孔を有し多孔質な構造を有する。
【0018】
本実施形態の多孔質吸着体は、外表面開口率が3%以上40%未満であり、5%以上30%以下であることが好ましく、7%以上28%以下であることがより好ましい。
本実施形態において、外表面開口率とは、走査型電子顕微鏡で多孔質吸着体の外表面を観察した視野の面積中に占める全ての孔の開口面積の和の割合を意味する。
外表面開口率が3%以上であれば、サイトカインやHMGB−1等の吸着対象物質の多孔質吸着体内部への拡散速度が速くなる。外表面開口率が40%未満であれば、多孔質吸着体外表面に存在する吸着対象物質を、血液を高速で通液処理しても確実に吸着できる。
本実施形態においては、10,000倍で多孔質吸着体の表面を観察して外表面開口率を実測する。具体的には、実施例に記載の方法により、外表面開口率を測定することができる。
【0019】
本実施形態の多孔質吸着体は、水銀ポロシメーターで測定したメディアン径が0.05μm以上であり、水銀ポロシメーターで測定した比表面積が2〜100m
2/cm
3である。
水銀ポロシメーターは、水銀圧入法によって多孔性材料の細孔の大きさを評価する装置で、ガス吸着法(BET法)では測定ができないような比較的大きな細孔分布(メソポア(数nm)〜マクロポア(数百μm))の測定に適している。
本実施形態においては、多孔質吸着体における無機イオン吸着体が有する細孔の情報(マイクロポア(<nm))を測定しないため、多孔質吸着体中の有機高分子樹脂からなる多孔構造(骨格構造)の特徴をより詳細に測定することができる。
【0020】
本実施形態の多孔質吸着体は、水銀ポロシメーターで測定したメディアン径が0.05μm以上であり、0.1μm以上であることが好ましく、0.2μm以上であることがより好ましい。
本実施形態において、メディアン径とは、積算細孔容積分布における積算細孔容積の最大値と最小値の範囲の中央値に対する細孔直径を意味し、体積基準である。
メディアン径が0.05μm以上であれば、血液流れ性に優れ、また、血中の吸着対象物質を選択し確実に吸着することができる。
具体的には、実施例に記載の方法により、メディアン径を測定することができる。
【0021】
本実施形態の多孔質吸着体は、水銀ポロシメーターで測定した比表面積が2〜100m
2/cm
3であり、10〜100m
2/cm
3であることが好ましく、11〜90m
2/cm
3であることがより好ましい。
比表面積が2m
2/cm
3以上であれば、無機イオン吸着体の担持量が多くかつ細孔表面積が大きいため、高速通水時の十分な吸着性能が得られる。比表面積が100m
2/cm
3以下であれば、無機イオン吸着体が強固に担持されるため多孔質吸着体の強度が強い。
本実施形態において、比表面積は、次式で定義される。
比表面積(m
2/cm
3)=S(Hg)(m
2/g)×かさ比重(g/cm
3)
S(Hg)は、多孔質吸着体の単位重量あたりの細孔表面積(m
2/g)を意味する。細孔表面積の測定方法は、多孔質吸着体を室温で真空乾燥した後、水銀ポロシメーターを用いて測定する。具体的には、実施例に記載の方法により、細孔表面積を測定することができる。
かさ比重の測定方法は、以下のとおりである。
多孔質吸着体が、粒子状、円柱状、中空円柱状等であり、その形状が短いものは、湿潤状態の多孔質吸着体を、メスシリンダー等を用いて、1mLを1cm
3としてみかけの体積を測定する。その後、室温で真空乾燥して重量を求め、重量/体積として、かさ比重を算出する。
多孔質吸着体が、糸状、中空糸状、シート状等であり、その形状が長いものは、湿潤時の断面積と長さを測定して、両者の積から体積を算出する。その後、室温で真空乾燥して重量を求め、重量/体積として、かさ比重を算出する。
【0022】
本実施形態の多孔質吸着体は、水銀ポロシメーターで測定した最頻細孔径が0.08〜0.70μmであり、0.10〜0.60μmであることが好ましく、0.20〜0.50μmであることがより好ましい。
本実施形態において、最頻細孔径(モード径)とは、水銀ポロシメーターで測定した細孔直径に対して対数微分細孔容積(dV/d(logD)、ここでVは水銀圧入容積、Dは細孔直径を示す。)をプロットした図上において、対数微分細孔容積の値が最大となる細孔直径を意味し、体積基準である。具体的には、実施例に記載の方法により、最頻細孔径を測定することができる。
本実施形態おいては、水銀ポロシメーターで最頻細孔径を測定することにより、多孔質吸着体における有機高分子樹脂からなる多孔構造(骨格構造)の特徴を詳細に測定することができる。
最頻細孔径が0.08μm以上であれば、リンやホウ素等の吸着対象物質が多孔質吸着体内部へ拡散するための連通孔の孔径として十分であり、拡散速度が速くなる。最頻細孔径が0.70μm以下であれば、多孔質吸着体の空隙が小さくなり、単位体積中に占める無機イオン吸着体の存在量が密になるため、高速通水処理時に多くのイオンを吸着するのに適している。
【0023】
本実施形態の多孔質吸着体は、水銀ポロシメーターで測定した最頻細孔径とメディアン径の比(最頻細孔径/メディアン径)が0.80〜1.30であることが好ましく、0.85〜1.25であることがより好ましく、0.90〜1.20であることがさらに好ましい。
最頻細孔径/メディアン径の比が1.0に近いと多孔質吸着体の細孔径分布が均一であり、高速通水処理に適している。
多孔質吸着体の外表面付近に孔径が小さいち密層(スキン層)が存在する場合、スキン層の内側(成形体の内部方向)には大きな空隙(最大孔径層)が形成しやすい。最頻細孔径/メディアン径の比が0.80〜1.30であることは、多孔質吸着体にスキン層が存在していないことを意味する。
【0024】
本実施形態の多孔質吸着体は、平均粒径が300〜1000μmで、実質的に球状であることが好ましく、平均粒径は400〜800μmであることがより好ましく、500〜800μmであることがさらに好ましい。
本実施形態の多孔質吸着体は、球状粒子であることが好ましく、球状粒子として、真球状のみならず、楕円球状であってもよい。
平均粒径が300μm以上であれば、多孔質吸着体をカラムやタンク等へ充填した際に圧カ損失が小さいため高速通水処理に適している。平均粒径が1000μm以下であれば、多孔質吸着体をカラムやタンクに充填したときの表面積を大きくすることができ、高速で通液処理してもイオンを確実に吸着することができる。
本実施形態において、平均粒径は、多孔質吸着体を球状とみなして、レーザー光による回折の散乱光強度の角度分布から求めた球相当径のメディアン径を意味する。具体的には、実施例に記載の方法により、平均粒径を測定することができる。
【0025】
血液組成は血漿成分と血球成分に分かれ、血漿成分は水91%、タンパク質7%、脂質成分及び無機塩類で構成されており、血液中でリンは、リン酸イオンとして血漿成分中に存在する。血球成分は赤血球96%、白血球3%及び血小板1%で構成されており、赤血球の大きさは直径7〜8μm、白血球の大きさは直径5〜20μm、血小板の大きさは直径2〜3μmである。
本実施形態の多孔質吸着体は多孔質吸着体外表面の吸着対象物質の存在量を考慮して、高速で通液処理しても吸着対象物質を確実に吸着でき、また吸着対象物質の多孔質吸着体内部への浸透拡散吸着性にも優れる。
本実施形態においては、水銀ポロシメーターで測定したメディアン径が0.05μm以上であることから血球成分等の目詰り等による血液流れ性が低下することもない。また、血中の吸着対象物質を選択し確実に吸着することで、体内に戻る吸着対象物質の濃度は相当低くなり、血液循環を繰り返すことによりほとんど0に近いものとなる。多孔質吸着体は通常、適当なカラム等に充填して使用する。
【0026】
インターロイキン(IL)−8、IL−1β及びIL−6に代表されるサイトカインや、HMGB1は分子量に応じて分子直径が大きくなる(HMGB1について、Biochemistry,34,p.12983−12990,1997、Proc Natl Acad Sci USA,93,p.3477−3481,1996及びJ Cryst Growth,90,p.180−187,1988における解析結果を参照。)。IL−8のような分子量が10kDa以下のサイトカインは4〜5nm、IL−1βのような分子量が10〜20kDaのサイトカインでは5〜7nm、IL−6のような分子量が20〜30kDaのサイトカインやHMGB1では10nm以上の分子直径を有している。吸着材に細孔径が1nm未満のミクロ孔が多く存在しても、サイトカイン分子自体が細孔よりも大きいために、吸着材に吸着されない。実際、薬物中毒治療用の活性炭を用いてのサイトカイン吸着能を検討した結果では、活性炭に存在する細孔のほとんどが細孔径が1nm未満のミクロ孔であるため低い吸着率しか示していない(Circulatory Shock,38,p.182−188,1992を参照。)。
【0027】
本実施形態の多孔質吸着体においては、分子量6〜30kDa程度の多種のサイトカイン及びHMGB1を吸着除去するということ及びIL−12や腫瘍壊死因子(TNF)−αのような分子量が30kDa以上のサイトカインをも除去すると言う観点から、血液通過時に多孔質吸着体の内部でのサイトカイン及びHMGB1の吸着を促すため、ある程度比表面積を確保できること、及び、多孔質吸着体として必要な強度を担保できることから、多孔質吸着体の外表面開口率は、3%以上40%未満が適している。また、それぞれのサイトカインの分子直径から、多孔質吸着体の中を通過、吸着される環境、吸着する量を考慮すると、多孔質吸着体の水銀ポロシメーターで測定した細孔メディアン径が0.05μm以上であり、水銀ポロシメーターで測定した比表面積が2〜100m
2/cm
3であることが適している。
多孔質吸着体に血液が流れる時にサイトカイン及びHMGB1等の吸着対象物質を多孔質吸着体の表面及び内部に吸着・固定させるのであるが、そのような作用を有機高分子樹脂と、無機イオン吸着体とその構造が備えている。
【0028】
人の血液のpH(水素イオン濃度指数)は科学的な中性よりもわずかにアルカリ性であり、正常な場合にはpH=7.35〜7.45で推移し、大きく揺れる範囲としてpH=6.8〜7.8であると言われている。無機イオン吸着体として、例えば、金属酸化物は表面電位がpH値によりマイナスイオン側かプラスイオン側に振れているが、各金属により等電点は異なるものの、pH=7.40だと若干マイナスイオン側にあると考えられる。有機高分子樹脂もその構造によりそれぞれ親水性と疎水性に分けられ、先の金属酸化物との混合割合により、多孔質吸着体においてはある程度幅を持った表面電位状態であると考えられる。
有機高分子樹脂の種類と無機イオン吸着体の種類により様々な表面電位状態を形成するため、吸着対象物質の種類により吸着率も変化することとなる。サイトカイン及びHMGB1を除去するための吸着材として、複数の多孔質吸着体を混合して用いてもよい。例えば、複数種類の粒状の多孔質吸着体を混合して用いてもよく、吸着対象物質に合わせて最適な混合割合で用いることができる。サイトカイン及びHMGB1の両者を効率的に吸着させられる混合割合に設定するために、個々の多孔質吸着体の混合割合を20〜80%にすること等が考えられる。
サイトカインに含まれる約8〜10kDaであるケモカインは、白血球の遊走を引き起こし炎症の形成に関与することで注目されているが、ケモカインについても本実施形態の多孔質吸着体は高い吸着率を備えている。
【0029】
〔有機高分子樹脂〕
本実施形態の多孔質吸着体を構成する有機高分子樹脂は、特に限定されないが、湿式相分離による多孔化手法が可能なものが好ましい。
有機高分子樹脂としては、例えば、ポリスルホン系ポリマー、ポリフッ化ビニリデン系ポリマー、ポリ塩化ビニリデン系ポリマー、アクリロニトリル系ポリマー、ポリメタクリル酸メチル系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ポリイミド系ポリマー、セルロース系ポリマー、エチレンビニルアルコール共重合体系ポリマー及び多種類等が挙げられる。
中でも、水中での非膨潤性と耐生分解性、さらに製造の容易さから、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリスルホン(PS)、ポリエーテルスルホン(PES)及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)が好ましい。
ポリエーテルスルホンは、末端に水酸基を有しているものが好ましい。末端基として水酸基を有していることによって、本実施形態の多孔質吸着体において、優れた無機イオン吸着体の担持性能が発揮できる。加えて、疎水性が高い有機高分子樹脂が、末端に水酸基を有しているため親水性が向上し、多孔質吸着体にファウリングが発生しにくい。
【0030】
〔無機イオン吸着体〕
本実施形態の多孔質吸着体を構成する無機イオン吸着体とは、イオン吸着現象又はイオン交換現象を示す無機物質を意味する。
天然物系の無機イオン吸着体としては、例えば、ゼオライト及びモンモリロナイト等の各種の鉱物性物質等が挙げられる。
各種の鉱物性物質の具体例としては、アルミノケイ酸塩で単一層格子をもつカオリン鉱物、2層格子構造の白雲母、海緑石、鹿沼土、パイロフィライト、タルク、3次元骨組み構造の長石、ゼオライト及びモンモリロナイト等が挙げられる。
合成物系の無機イオン吸着体としては、例えば、金属酸化物、多価金属の塩及び不溶性の含水酸化物等が挙げられる。金属酸化物としては、複合金属酸化物、複合金属水酸化物、金属の含水酸化物等を含む。
【0031】
無機イオン吸着体は、吸着性能の観点で、下記式(I)で表される金属酸化物を含有することが好ましい。
MN
xO
n・mH
2O ・・・(I)
上記式(I)中、xは0〜3、nは1〜4、mは0〜6であり、M及びNは、Ti、Zr、Sn、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Si、Cr、Co、Ga、Fe、Mn、Ni、V、Ge、Nb及びTaからなる群から選ばれる金属元素であり、互いに異なる。
金属酸化物は、上記式(I)中のmが0である未含水(未水和)の金属酸化物であってもよいし、mが0以外の数値である金属の含水酸化物(水和金属酸化物)であってもよい。
上記式(I)中のxが0以外の数値である場合の金属酸化物は、含有される各金属元素が規則性を持って酸化物全体に均一に分布し、金属酸化物に含有される各金属元素の組成比が一定に定まった化学式で表される複合金属酸化物である。
具体的には、ペロブスカイト構造、スピネル構造等を形成し、ニッケルフェライト(NiFe
2O
4)、ジルコニウムの含水亜鉄酸塩(Zr・Fe
2O
4・mH
2O、ここで、mは0.5〜6である。)等が挙げられる。
無機イオン吸着体は、上記式(I)で表される金属酸化物を複数種含有していてもよい。
【0032】
無機イオン吸着体としては、優れた吸着性能の観点から、下記(a)〜(c)のいずれかの群から選ばれる少なくとも一種を含有することが好ましい。
(a)水和酸化チタン、水和酸化ジルコニウム、水和酸化スズ、水和酸化セリウム、水和酸化ランタン及び水和酸化イットリウム
(b)チタン、ジルコニウム、スズ、セリウム、ランタン及びイットリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属元素と、アルミニウム、珪素及び鉄からなる群から選ばれる少なくとも一種の金属元素との複合金属酸化物
(c)活性アルミナ
(a)〜(c)群のいずれかの群から選択される材料であってもよく、(a)〜(c)群のいずれかの群から選択される材料を組み合わせて用いてもよく、(a)〜(c)群のそれぞれにおける各材料を適宜組み合わせて用いてもよい。組み合わせて用いる場合には、(a)〜(c)群のいずれかの群から選ばれる2種以上の材料の混合物であってもよく、(a)〜(c)群の2つ以上の群から選ばれる2種以上の材料の混合物であってもよい。
無機イオン吸着体は、安価で吸着性が高いという観点から、硫酸アルミニウム添着活性アルミナを含有してもよい。
【0033】
無機イオン吸着体としては、上記式(I)で表される金属酸化物に加え、上記M及びN以外の金属元素がさらに固溶したものは、無機イオンの吸着性や製造コストの観点から、より好ましい。
例えば、ZrO
2・mH
2O(mが0以外の数値である。)で表される水和酸化ジルコニウムに、鉄が固溶したものが挙げられる。
【0034】
多価金属の塩としては、例えば、下記式(II)で表されるハイドロタルサイト系化合物が挙げられる。
M
2+(1-p)M
3+p(OH
-)
(2+p-q)(A
n-)
q/r ・・・(II)
上記式(II)中、M
2+は、Mg
2+、Ni
2+、Zn
2+、Fe
2+、Ca
2+及びCu
2+からなる群から選ばれる少なくとも一種の二価の金属イオンである。
M
3+は、Al
3+及びFe
3+からなる群から選ばれる少なくとも一種の三価の金属イオンである。
A
n-は、n価のアニオンである。
0.1≦p≦0.5であり、0.1≦q≦0.5であり、rは1又は2である。
前記式(ii)のハイドロタルサイト系化合物は、前記無機イオン吸着体として原料が安価であり、吸着性が高いことから好ましい。
前記不溶性の含水酸化物としては、不溶性のヘテロポリ酸塩、不溶性ヘキサシアノ鉄酸塩等が挙げられる。
【0035】
本実施形態の多孔質吸着体を構成する無機イオン吸着体は、その製造方法等に起因して混入する不純物元素を、本実施形態の多孔質吸着体の機能を阻害しない範囲で含有していてもよい。混入する可能性がある不純物元素としては、例えば、窒素(硝酸態、亜硝酸態、アンモニウム態)、ナトリウム、マグネシウム、イオウ、塩素、カリウム、カルシウム、銅、亜鉛、臭素、バリウム及びハフニウム等が挙げられる。
【0036】
〔多孔質吸着体の製造方法〕
本実施形態の多孔質吸着体の製造方法は、(1)有機高分子樹脂の良溶媒と無機イオン吸着体を粉砕、混合してスラリーを得る工程、(2)工程(1)で得られたスラリーに有機高分子樹脂及び水溶性高分子を溶解する工程、(3)工程(2)で得られたスラリーを成形する工程、及び(4)工程(3)で得られた成形品を貧溶媒中で凝固させる工程を含む。
【0037】
(工程(1):粉砕・混合工程)
工程(1)において、有機高分子樹脂の良溶媒と無機イオン吸着体を、粉砕、混合してスラリーを得る。
無機イオン吸着体を有機高分子樹脂の良溶媒中で湿式粉砕することにより、無機イオン吸着体を微粒子化できる。その結果、成形後の多孔質吸着体に担持された無機イオン吸着体は、二次凝集物が少ないものとなる。
【0038】
<有機高分子樹脂の良溶媒>
工程(1)における有機高分子樹脂の良溶媒としては、多孔質吸着体の製造条件において有機高分子樹脂を安定に1質量%を超えて溶解するものであれば、特に限定されるものではなく、従来公知のものを使用できる。
良溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)及びN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等が挙げられる。
良溶媒は1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0039】
<粉砕混合手段>
工程(1)において、スラリーを得るために用いられる粉砕混合手段は、無機イオン吸着体及び有機高分子樹脂の良溶媒を合わせて粉砕、混合できるものであれば、特に限定されるものではない。
粉砕混合手段として、例えば、加圧型破壊、機械的磨砕、超音波処理等の物理的破砕方法に用いられる手段を用いることができる。
粉砕混合手段の具体例としては、ジェネレーターシャフト型ホモジナイザー、ワーリングブレンダー等のブレンダー、サンドミル、ボールミル、アトライタ及びビーズミル等の媒体撹拌型ミル、ジェットミル、乳鉢と乳棒、らいかい器並びに超音波処理器等が挙げられる。
中でも、粉砕効率が高く、粘度の高いものまで粉砕できることから、媒体撹拌型ミルが好ましい。
媒体撹拌型ミルに使用するボール径は、特に限定されるものではないが、0.1〜10mmであることが好ましい。ボール径が0.1mm以上であれば、ボール質量が充分あるので粉砕力があり粉砕効率が高く、ボール径が10mm以下であれば、微粉砕する能力に優れる。
媒体撹拌型ミルに使用するボールの材質は、特に限定されるものではないが、鉄やステンレス等の金属、アルミナやジルコニア等の酸化物類、窒化ケイ素や炭化ケイ素等の非酸化物類の各種セラミック等が挙げられる。中でも、耐摩耗性に優れ、製品へのコンタミネーション(摩耗物の混入)が少ない点で、ジルコニアが優れている。
【0040】
<分散剤>
工程(1)においては、多孔質吸着体の構造に影響しない範囲で、粉砕、混合する際、無機イオン吸着体を混合した有機高分子樹脂の良溶媒中に界面活性剤等の公知の分散剤を添加してもよい。
【0041】
(工程(2):溶解工程)
工程(2)においては、工程(1)により得られたスラリーに、有機高分子樹脂及び水溶性高分子を溶解させて、成形用スラリーを得る。
有機高分子樹脂の添加量は、有機高分子樹脂/(有機高分子樹脂+水溶性高分子+有機高分子樹脂の良溶媒)の割合が、3〜40質量%となるようにすることが好ましく、4〜30質量%であることがより好ましい。有機高分子樹脂の含有率が3質量%以上であれば、強度の高い多孔質吸着体が得られ、40質量%以下であれば、空孔率の高い多孔質吸着体が得られる。
【0042】
<水溶性高分子>
工程(2)における水溶性高分子は、有機高分子樹脂の良溶媒と有機高分子樹脂とに対して相溶性のあるものであれば、特に限定されるものではない。
水溶性高分子としては、天然高分子、半合成高分子及び合成高分子のいずれも使用できる。
天然高分子としては、例えば、グアーガム、ローカストビーンガム、カラーギナン、アラビアゴム、トラガント、ペクチン、デンプン、デキストリン、ゼラチン、カゼイン及びコラーゲン等が挙げられる。
半合成高分子としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルデンプン及びメチルデンプン等が挙げられる。
合成高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム並びにテトラエチレングリコール及びトリエチレングリコール等のポリエチレングリコール類等が挙げられる。
中でも、無機イオン吸着体の担持性を高める点から、合成高分子が好ましく、多孔性が向上する点から、ポリビニルピロリドン及びポリエチレングリコール類がより好ましい。
ポリビニルピロリドンとポリエチレングリコール類の質量平均分子量は、400〜35,000,000であることが好ましく、1,000〜1,000,000であることがより好ましく、2,000〜100,000であることがさらに好ましい。
質量平均分子量が2,000以上であれば、表面開口性の高い多孔質吸着体が得られ、1,000,000以下であれば、成形する時のスラリーの粘度が低いので成形が容易になる傾向がある。
水溶性高分子の質量平均分子量は、水溶性高分子を所定の溶媒に溶解し、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析により測定できる。
【0043】
水溶性高分子の添加量は、水溶性高分子/(水溶性高分子+有機高分子樹脂+有機高分子樹脂の良溶媒)の割合が、0.1〜40質量%となるようにすることが好ましく、0.5〜30質量%であることがより好ましく、1〜10質量%であることがさらに好ましい。
水溶性高分子の添加量が0.1質量%以上であれば、多孔質吸着体の外表面及び内部に三次元的に連続した網目構造を形成する繊維状の構造体を含む多孔質吸着体が均一に得られる。水溶性高分子の添加量が40質量%以下であれば、外表面開口率が適当であり、多孔質吸着体の外表面の無機イオン吸着体の存在量が多いため、高速で通液処理してもイオンを確実に吸着できる多孔質吸着体が得られる。
【0044】
(工程(3):成形工程)
工程(3)においては、工程(2)により得られたスラリー(成形用スラリー)を成形する。成形用スラリーは、有機高分子樹脂と、有機高分子樹脂の良溶媒と、無機イオン吸着体と、水溶性高分子の混合スラリーである。
本実施形態の多孔質吸着体の形態は、成形用スラリーを成形する方法によって、粒子状、糸状、シート状、中空糸状、円柱状、中空円柱状等の任意の形態を採ることができる。
【0045】
粒子状の形態に成形する方法としては、特に限定されないが、例えば、回転する容器の側面に設けたノズルから、容器中に収納されている成形用スラリーを飛散させて、液滴を形成させる回転ノズル法等が挙げられる。回転ノズル法により、粒度分布が揃った粒子状の形態に成形することができる。
ノズルの径は、0.1〜10mmであることが好ましく、0.1〜5mmであることがより好ましい。ノズルの径が0.1mm以上であれば、液滴が飛散しやすく、10mm以下であれば、粒度分布を均一にすることができる。
遠心力は、遠心加速度で表され、5〜1500Gであることが好ましく、10〜1000Gであることがより好ましく、10〜800Gであることがさらに好ましい。
遠心加速度が5G以上であれば、液滴の形成と飛散が容易であり、1500G以下であえば、成形用スラリーが糸状にならずに吐出し、粒度分布が広くなるのを抑えることができる。粒度分布が狭いことにより、カラムに多孔質吸着体を充填した時に水の流路が均一になるため、超高速通水処理に用いても通水初期からイオン(吸着対象物)が漏れ出す(破過する)ことが無いという利点を有している。
【0046】
糸状又はシート状の形態に成形する方法としては、該当する形状の紡口、ダイスから成形用スラリーを押し出し、貧溶媒中で凝固させる方法が挙げられる。
中空糸状の多孔質吸着体を成形する方法としては、環状オリフィスからなる紡口を用いることで、糸状やシート状の多孔質吸着体を成形する方法と同様にして成形できる。
円柱状又は中空円柱状の多孔質吸着体を成形する方法としては、紡口から成形用スラリーを押し出す際、切断しながら貧溶媒中で凝固させてもよいし、糸状に凝固させてから後に切断しても構わない。
【0047】
(工程(4):凝固工程)
工程(4)においては、工程(3)で得られた成形品を貧溶媒中で凝固させて、多孔質吸着体を得る。
【0048】
<貧溶媒>
工程(4)における貧溶媒としては、工程(4)の条件において有機高分子樹脂の溶解度が1質量%以下の溶媒を使用することができ、例えば、水、メタノール及びエタノール等のアルコール類、エーテル類並びにn−ヘキサン及びn−ヘプタン等の脂肪族炭化水素類等が挙げられる。中でも、貧溶媒としては、水が好ましい。
【0049】
工程(4)では、先行する工程から良溶媒が持ち込まれ、良溶媒の濃度が、凝固工程開始時と終点で、変化してしまう。そのため、あらかじめ良溶媒を加えた貧溶媒としてもよく、初期の濃度を維持するように水等を別途加えながら濃度を管理して凝固工程を行うことが好ましい。
良溶媒の濃度を調整することで、多孔質吸着体の構造(外表面開口率及び粒子形状)を制御できる。
貧溶媒が水又は有機高分子樹脂の良溶媒と水の混合物の場合、凝固工程において、水に対する有機高分子樹脂の良溶媒の含有量は、0〜80質量%であることが好ましく、0〜60質量%であることがより好ましい。
有機高分子樹脂の良溶媒の含有量が80質量%以下であれば、多孔質吸着体の形状が良好になる効果が得られる。
貧溶媒の温度は、工程(5)の空間部の温度と湿度を制御する観点から、40〜100℃であることが好ましく、50〜100℃であることがより好ましく、60〜100℃であることがさらに好ましい。
【0050】
(工程(5):凝固促進工程)
本実施形態において、多孔質吸着体の製造方法において、工程(3)の成形工程と、工程(4)の凝固工程との間に、工程(5)の凝固促進工程を設けてもよい。
工程(5)においては、工程(3)により得られた成形品を貧溶媒中で凝固させるまでの間、成形品が接触する空間部の温度と湿度を制御して凝固を促進させる。
工程(5)により、水銀ポロシメーターで測定した最頻細孔径や外表面開口率を調整することができ、無機イオン吸着体の存在量が高い成形体が得られるため、被処理水中のイオン、中でも、リンイオンを超高速除去でき、かつ吸着容量が大きい多孔質吸着体を提供することができる。
空間部の温度と湿度は、貧溶媒が貯留される凝固槽と回転容器との空間をカバーで覆い、貧溶媒の温度を調整して制御する。
空間部の温度は20〜90℃であることが好ましく、25〜85℃であることがより好ましく、30〜80℃であることがさらに好ましい。
空間部の温度が20℃以上であれば、多孔質吸着体の外表面開口率が高くなり、90℃以下であれば、回転容器に開けたノズルがスラリーで詰まり難く、長時間安定して多孔質吸着体を製造することができる。
空間部の湿度は、温度に対する相対湿度で65〜100%であることが好ましく、70〜100%であることがより好ましく、75〜100%であることがさらに好ましい。
相対湿度が65%以上であれば、多孔質吸着体の外表面開口率が高くなり、100%以下であれば、回転容器に開けたノズルがスラリーで詰まり難く、長時間安定して成形体を製造することができる。
【0051】
(多孔質吸着体の製造装置)
本実施形態において、多孔質吸着体の製造装置は、液滴を遠心力で飛散させる回転容器と、凝固液を貯留する凝固槽と、を備える。回転容器と凝固槽の間の空間部分を覆うカバーを具備し、空間部の温度と湿度を制御する制御手段を備えていてもよい。
【0052】
液滴を遠心力で飛散させる回転容器は、成形用スラリーを球状の液滴にして遠心力で飛散する機能があれば、特定の構造からなるものに限定されず、例えば周知の回転ディスク及び回転ノズル等が挙げられる。
回転ディスクは、成形用スラリーが回転するディスクの中心に供給され、回転するディスクの表面に沿って成形用スラリーが均一な厚みでフィルム状に展開し、ディスクの周縁から遠心力で滴状に分裂して微小液滴を飛散させるものである。
回転ノズルは、中空円盤型の回転容器の周壁に多数の貫通孔を形成するか、または周壁に貫通させてノズルを取付け、回転容器内に成形用スラリーを供給すると共に回転容器を回転させ、その際に貫通孔又はノズルから遠心力により成形用スラリーを吐出させて液滴を形成するものである。
【0053】
凝固液を貯留する凝固槽は、凝固液を貯留できる機能があれば、特定の構造からなるものに限定されず、例えば周知の上面開口の凝固槽や、回転容器を囲むように配置した筒体の内面に沿って凝固液を重力により自然流下させる構造の凝固槽等が挙げられる。
上面開口の凝固槽は、回転容器から水平方向に飛散した液滴を自然落下させ、上面が開口した凝固槽に貯留した凝固液の水面で液滴を捕捉する装置である。
回転容器を囲むように配置した筒体の内面に沿って凝固液を重力により自然流下させる構造の凝固槽は、凝固液を筒体の内面に沿わせて周方向にほぼ均等な流量で流出させ、内面に沿って自然流下する凝固液流中に液滴を捕捉して凝固させる装置である。
【0054】
空間部の温度と湿度の制御手段は、回転容器と凝固槽の間の空間部を覆うカバーを具備し、空間部の温度と湿度を制御する手段である。
空間部を覆うカバーは、空間部を外部の環境から隔離して、空間部の温度及び湿度を現実的に制御し易くする機能があれば、特定の構造からなるものに限定されず、例えば箱状、筒状及び傘状の形状とすることができる。
カバーの材質は、例えば、金属のステンレス鋼やプラスチック等が挙げられる。外部環境と隔離する点で、公知の断熱剤で覆うこともできる。カバーには、一部開口部を設けて、温度及び湿度を調整してもよい。
【0055】
空間部の温度及び湿度の制御手段は、空間部の温度と湿度を制御する機能があればよく、特定の手段に限定されず、例えば、電気ヒーター及びスチームヒーター等の加熱機並びに超音波式加湿器及び加熱式加湿器等の加湿器が挙げられる。
構造が簡便であるという点で、凝固槽に貯留した凝固液を加温して、凝固液から発生する蒸気を利用して空間部の温度と湿度を制御する手段が好ましい。
【0056】
〔血液適合性評価〕
本実施形態の多孔質吸着体の血液適合性を反映する指標として、血液中の有用タンパク質濃度の変化が挙げられる。血液中には、生体の維持のために不可欠なタンパク質が多数存在し、多孔質吸着体との接触によりこれら有用タンパク質の濃度が大きく変化することは好ましくない。アルブミン及びフィブリノーゲン等が血液中の有用タンパク質の代表的な例であり、多孔質吸着体に有用タンパク質が吸着することは抑制されることが好ましい。
例えば、アルブミンの吸着率を、血液適合性評価の指標として採用することが可能である。アルブミンの吸着率は、多孔質吸着体に接触させた前後の血液中のアルブミン濃度変化を測定して算出することができる。血液中のアルブミン濃度の測定方法としてはBCG法(ブロムクレゾールグリーン法)による検出方法を用いることができ、BCG法を利用した検出キットとしてA/G Bテストワコー(和光純薬工業株式会社製)等の市販品キットを用いることで簡便に測定が可能である。
血液浄化分野で使用される多孔質吸着体について、アルブミンの吸着率に関する明確な規格基準は定められていないが、血液浄化分野で現在使用されている吸着型血液浄化器(ヘモソーバCHS、旭化成メディカル社製)に用いられている活性炭へのアルブミン吸着率である10%を下回る事が、一般に要求されている。
【0057】
〔サイトカイン及びHMGB1の吸着除去性能評価)
サイトカインは分子量が6〜100kDaのタンパク質であり、種類は多数に及ぶ。例えば、幅広い分子量領域のサイトカインに対する本実施形態に係る多孔質吸着体の吸着除去性能を検証するために、以下の11種のサイトカインについて吸着除去性能を検証してもよい。
IL−8(8kDa);
IL−1β(17kDa);
IL−6(24.5kDa);
血管内皮細胞増殖因子(VEGF、38kDa);
TNF−α(単体では17kDaであるが、3量体を形成しているため、分子量として
は51kDaを用いる);
IL−12(70kDa);
Eotaxin(8.4kDa);
IP−10(8.7kDa);
MCP−1(8.5kDa);
MIP−1α(7.9kDa);及び
MIP−1β(8kDa)
サイトカイン及びHMGB1の吸着除去能は、下記式により吸着率を算出し評価する。
吸着率(%)=(C
B−C
A)/C
B×100
【0058】
上記式において、C
Bは、多孔質吸着体との接触前の血漿中の各サイトカイン及びHMGB1の濃度であり、C
Aは、多孔質吸着体との接触後の血漿中の各サイトカイン及びHMGB1の濃度である。
【0059】
血中サイトカイン濃度の測定方法としては、例えば、各サイトカインについての抗体を固定化した容器へ血液、又は血漿を接触させることでサイトカインと抗原抗体反応により特異的に各サイトカインを捕捉した後、蛍光標識した抗原を再び反応させることで、蛍光強度により血中濃度を測定できるELISA(Enzyme−Linked ImmunoSorbent Assay)法で検出する。
【0060】
上記11種のサイトカインについては各々専用のELISAキットが販売されており、ELISAキットを用いて個別に測定してもよい。また、例えば、ヒトサイトカインGI アッセイキット(バイオラットラボラトリーズ株式会社)等の様に蛍光標識により区別したビーズ表面上にそれぞれの抗体を固定し、混合したビーズを用いる事でELISA法と同様の原理により多種のサイトカイン濃度を同時に測定する方法を用いてもよい。
HMGB1についても同様に、抗原抗体反応を利用したELISA法により検出定量を行ってもよい。
【0061】
サイトカインやHMGB1は人体内で炎症が発生している際に特異的に産生されるが、健常時にはほとんど産生されないため、健常人の血液中にはほとんど存在しない。このため、多孔質吸着体によるサイトカイン及びHMGB1の吸着除去性能を評価するためには、例えば、炎症状態にある患者の血液と同等の炎症モデル血液を用意する必要がある。
炎症モデル血液の作成方法としては、例えば、健常人より採血した血液へヒト遺伝子組み換えサイトカインやHMGB1を患者血液中の濃度以上となるように添加する方法や、採血した健常人血液へエンドトキシン等を添加することにより白血球からサイトカインやHMGB1を放出させる方法等が挙げられる。
本実施形態の多孔質吸着体のサイトカイン及びHMGB1吸着除去性能を評価する方法においては、炎症モデル血液を、遠心機を用いて、血漿を分離した後に、血漿サンプルと、多孔質吸着体とを、ポリプロピレン(PP)製のチューブ内部で混合し、一定時間振盪接触させることで、多孔質吸着体の吸着除去性能を評価してもよい。また、健常人より採取した血液へエンドトキシンを添加した後に、一定時間インキュベートして得られた炎症モデル血液を、本実施形態の多孔質吸着体が充填された、内径9mm、容量2.5mLのラボラトリーカラム(モビテック社製)にシリンジポンプを用いて通液させて、多孔質吸着体の吸着除去性能を評価してもよい。
実際の臨床に用いるスケールの吸着器として評価する方法としては、
図3に示した断面図を有するようなデバイスに、ペリスタポンプを用いて、炎症モデル血液を循環させる方法等が挙げられる。
【0062】
〔血液処理システム〕
本実施形態において、血液処理システムは、多孔質吸着体を含む。血液処理システムにおいては、吸着器中に多孔質吸着体を含んでいてもよい。
図3は、吸着器の一実施形態を示す断面図である。
図3において、デバイス100は血液体外循環回路に接続する吸着器モジュールである。円筒110の一端開口部内側にフィルター120を貼ったパッキン130を介して、円筒110の一端開口部に入口ポート140を有するキャップ150をねじ嵌合している。さらに、円筒110の多端開口部内側にフィルター120’を貼ったパッキン130’を介して、円筒110の多端開口部に出口ポート160を有するキャップ170をねじ嵌合して容器を形成している。また、当該容器のフィルター120及び120’の間隙に多孔質吸着体を保持させて、サイトカイン及びHMGB1吸着材層180を形成している。
【0063】
サイトカイン及びHMGB1吸着材層180には、本実施形態の多孔質吸着体を単独で充填してもよく、他の基材を混合、又は積層してもよい。他の基材としては、例えば、活性化白血球を除去する基材や近年炎症性メディエイターをして新たに注目が集まるアラーミン等を吸着する吸着材等が挙げられる。他の基材を用いることにより、他の基材の相乗効果による広範な臨床効果が期待できる。サイトカイン及びHMGB1吸着材層180の容積は5〜3000mLとすることができるが、サイトカイン及びHMGB1の吸着容量と血液の体外循環の際の体外の血液量の観点から、50〜1000mLであることが好ましく、100〜500mLであることがより好ましい。
【0064】
吸着器は、血液体外循環回路に接続可能であり、体外循環回路において、治療対象の血液と接触する様に配置され、全身炎症性疾患治療用途等で利用可能である。
吸着器は、サイトカイン及びHMGB1が介在する疾患において、臓器炎症を抑制又は治療するために有効に使用することができる。具体的な疾患名として、敗血症、敗血症性ショック、毒素ショック症候群、虚血再灌流障害、成人呼吸促進症候群(ARDS)、慢性関節リュウマチ、通風性関節炎、乾癬、突発性肺腺維症、炎症性腸疾患、免疫性血管炎、尿路感染症、潰瘍性大腸炎、接触性皮膚炎、ぜんそく、筋変性症、ライター症候群、糖尿病、骨吸収症、アテローム性動脈硬化、脳外傷、多発性硬化症、大脳マラリア並びに発熱及び乾癬による筋肉痛等が挙げられる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により限定
されるものではない。多孔質吸着体の物性は、以下の方法により測定した。
【0066】
〔走査型電子顕微鏡による多孔質吸着体の観察〕
走査型電子顕微鏡(SEM)による多孔質吸着体の観察は、日立製作所製のSU−70型走査型電子顕微鏡で行った。
多孔質吸着体試料をカーボン粘着テープ/アルミナ試料台に保持し、導電処理としてオスミウム(Os)コーティングして外表面SEM観察試料とした。
【0067】
〔外表面開口率〕
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて撮影した多孔質吸着体の外表面の画像を、画像解析ソフト(旭化成エンジニアリング(株)製、A像くん(商品名))を用いて解析して求めた。さらに詳しく説明すると、得られたSEM像を濃淡画像として認識し、色が濃い部分を開口部、色が薄い部分を多孔構造(骨格構造)となるように、しきい値を手動で調整し、開口部分と骨格部分に分割して、その面積比を求めた。しきい値決定の誤差を少なくするため、10枚の画像で同じ測定を行い、平均値を算出した。
【0068】
〔水銀ポロシメーターで測定した最頻細孔径及びメディアン径〕
多孔質吸着体を室温で真空乾燥した後、水銀ポロシメーター((株)島津製作所製、島津オートポアIV9500型)で測定した。
【0069】
〔水銀ポロシメーターで測定した比表面積〕
多孔質吸着体を室温で真空乾燥した後、水銀ポロシメーター((株)島津製作所製、島津オートポアIV9500型)を用い、多孔質吸着体の単位質量あたりの細孔表面積S(Hg)(m
2/g)を求めた。
次に、水で湿潤状態の多孔質吸着体を、メスシリンダーを用いて、タッピングを行って、みかけの体積V(cm
3)を測定した。その後、室温で真空乾燥して、多孔質吸着体の乾燥質量W(g)を求めた。
多孔質吸着体の比表面積は、次式から求めた。
比表面積(m
2/cm
3)=S(Hg)(m
2/g)×かさ比重(g/cm
3)
かさ比重(g/cm
3)=W/V
前記式中、S(Hg)は多孔質吸着体の単位質量あたりの表面積(m
2/g)であり、Wは多孔質吸着体の乾燥質量(g)、Vはそのみかけの体積(cm
3)である。
【0070】
〔多孔質吸着体の平均粒径及び無機イオン吸着体の平均粒径〕
多孔質吸着体の平均粒径及び無機イオン吸着体の平均粒径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(HORIBA社製のLA−950(商品名))で測定した。分散媒体は水を用いた。無機イオン吸着体に水和酸化セリウムを使用したサンプルの測定時は、屈折率に酸化セリウムの値を使用して測定した。同様に、無機イオン吸着体に水和酸化ジルコニウムを使用したサンプルを測定する時は、屈折率に酸化ジルコニウムの値を使用して測定した。
【0071】
[実施例1]
ポリエーテルスルホン(住友化学(株)、スミカエクセル5003PS(商品名)、OH末端グレード、末端水酸基組成90(モル%))30g、ポリエチレングリコール(PEG35,000、メルク(株))4g、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学(株))220gを、セパラフラスコ中にて、60℃に加温して溶解し、均一なポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液254gに対し、平均粒径30μmの水和酸化セリウム(岩谷産業(株))粉末100gを加え、よく混合してスラリーを得た。
得られたスラリーを40℃に加温し、側面に直径5mmのノズルを開けた円筒状回転容器の内部に供給し、この容器を回転させ、遠心力(15G)によりノズルから液滴を形成し、60℃の水からなる凝固浴槽中に吐出させ、スラリーを凝固させた。
さらに、洗浄、分級を行い、平均粒径605μmの球状の多孔質吸着体を得た。
【0072】
(サイトカインの除去率)
健常人ボランティアより採血した血液へ、血液中濃度が1.0×10
-4mg/mLとなるように大腸菌(Escherichia Coli)O−127由来のリポポリサッカライド(SIGMA−ALDRICH社製)を添加した後、振盪混和しながら、37℃で24時間インキュベートし、炎症モデル血液を調製した。24時間のインキュベートの後、速やかに遠心分離を行い血漿を回収しサンプル血漿(以下、「血漿サンプルA」という。)とした。
多孔質吸着体を、ポリプロピレンチューブ中の血漿サンプルAに添加した。添加前に、多孔質吸着体は、ポリプロピレンチューブ内において、血漿3mLに対して、血漿/多孔質吸着体比が6となるように秤量された。添加後、37℃の条件下において振盪混和しながら1時間インキュベートした後、速やかに血漿(以下、「血漿サンプルB」という。)を回収した。
血漿サンプルA及びBについて、血漿中のサイトカイン濃度をヒトサイトカインGIアッセイキット27Plexパネル(バイオラットラボラトリー株式会社)を用いて、Bio−Plex 200システムにて測定した結果、多孔質吸着体による各サイトカインの除去率は、IL−8;98.9%,IL−1β;89.6%,IL−6;87.1%,VEGF;77.2%,TNF−α;52.5%,IL−12;99.8%,Eotaxin;100%,IP−10;84%,MCP−1;100%,MIP−1α;99.8%,MIP−1β;97%であった。
【0073】
(HMGB−1の除去率)
血漿サンプルA及びBについて、血漿中のHMGB−1濃度をHMGB1 ELISAK Kit II(株式会社 シノテスト製)を用いて測定した結果、多孔質吸着体によるHMGB1の除去率は57%であった。
【0074】
(血液適合性評価)
血漿サンプルA及びBについて、血漿中のアルブミン濃度をA/G Bテストワコーを用いて測定した結果、多孔質吸着体による吸着前後でのアルブミン濃度は、それぞれ6.7g/dL、6.2g/dLであり、吸着率は6.5%であった。
【0075】
[実施例2]
エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH、日本合成化学工業(株)、ソアノールE3803(商品名))20g、ポリビニルピロリドン(PVP、BASFジャパン(株)、Luvitec K30 Powder(商品名))20g、ジメチルスルホキシド(DMSO、関東化学(株))160gを、セパラフラスコ中にて、60℃に加温して溶解し、均一なポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液200gに対し、水和酸化ジルコニウム粉末(第一稀元素(株)、R水酸化ジルコニウム(商品名))120gを加え、よく混合してスラリーを得た。
得られたスラリーを40℃に加温し、側面に直径5mmのノズルを開けた円筒状回転容器の内部に供給し、この容器を回転させ、遠心力(15G)によりノズルから液滴を形成し、60℃の水からなる凝固浴槽中に吐出させ、スラリーを凝固させた。
さらに、洗浄、分級を行い、平均粒径550μmの球状の多孔質吸着体を得た。
【0076】
(HMGB−1の除去率)
血漿サンプルA及びBについて、HMGB1 ELISAK Kit II(株式会社 シノテスト製)を用いて測定した結果、多孔質吸着体によるHMGB1の除去率は84%であった。
【0077】
実施例1〜2で得られた多孔質吸着体の物性を表1に示した。
【表1】