【解決手段】刷毛塗装又はローラー塗装により、ノンリーフィングタイプのアルミニウム顔料を6〜20質量%含む塗料組成物で建築物又は構築物を塗装し、メタリック塗膜を形成させる工程であって、塗装時の塗料組成物の粘度が岩田粘度カップ(NK−2)で測定したとき20〜80秒の範囲内である工程を含むことを特徴とする構造物の塗装方法である。
刷毛塗装又はローラー塗装により、ノンリーフィングタイプのアルミニウム顔料を6〜20質量%含む塗料組成物で建築物又は構築物を塗装し、メタリック塗膜を形成させる第1の工程であって、塗装時の塗料組成物の粘度が岩田粘度カップ(NK−2)で測定したとき20〜80秒の範囲内である第1の工程を含むことを特徴とする構造物の塗装方法。
前記第1の工程の前に、下塗り塗料で建築物又は構築物を塗装し、下塗り塗膜を形成させる第2の工程を更に含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の構造物の塗装方法。
前記第1の工程の後に、クリヤー塗料でメタリック塗膜を塗装し、クリヤー塗膜を形成させる第3の工程を更に含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の構造物の塗装方法。
【背景技術】
【0002】
高輝度で高意匠の塗膜を形成できるメタリック塗料は、建築物や構築物といった構造物等に幅広く利用されている。メタリック塗料は、一般的にアルミ等の鱗片状の金属顔料が配合されるが、この鱗片状金属顔料が基材に対して平行に配列された状態で塗膜中に存在していると、高輝度な塗膜となる。鱗片状金属顔料を平行に配列させる最も一般的な方法は、スプレー塗装により鱗片状金属顔料の配向を制御する方法である。
【0003】
特開2013−139508号公報(特許文献1)は、水酸基含有アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、光輝性顔料及び硬化剤を含むメタリック塗料組成物を記載し、該メタリック塗料組成物によれば、1コート塗装によってもメタリック外観、光沢度等の意匠性に優れ、更に被塗物との付着性、耐薬品性、耐水性、耐候性等の塗膜性能にも優れたメタリック塗膜を得ることができることを報告している。
【0004】
特開2014−79674号公報(特許文献2)は、アルミフレーク顔料及び樹脂成分を含むメタリック塗料組成物によりボカシ塗装を行い、形成される補修メタリック塗膜上にトップクリヤー塗料組成物を塗装する補修塗装方法を記載し、該補修塗装方法によって、補修メタリック塗膜と旧メタリック塗膜との色味やメタリック感が一致し、旧メタリック塗膜に対して違和感のない補修メタリック塗膜を形成できることを報告している。
【0005】
特開2008−222909号公報(特許文献3)は、鱗片状金属顔料及び含フッ素(メタ)アクリル共重合体を含むメタリック塗料を記載し、該メタリック塗料によれば、高輝度感と良好なレベリング性を実現できることを報告している。
【0006】
特開平6−145585号公報(特許文献4)は、架橋型含フッ素樹脂、鱗片状アルミニウム顔料及び硬化剤を含んだメタリック光沢感を呈する塗料組成物を記載し、該塗料組成物によれば、耐候性等の諸性能に優れた塗膜が得られることを報告している。
【0007】
しかしながら、鱗片状金属顔料を含む塗料組成物は、スプレー塗装により、光輝感のある塗膜を形成することが可能であるが、既に建築・建設された構造物(建築物及び構築物)を塗り替える場合、塗装が困難になる問題があった。例えば、スプレー塗装の中でも、塗着効率の観点から、静電スプレー塗装が好適であるが、屋外での塗装は困難であり、建築物や構築物の塗り替えに対しては不適である。また、エアスプレー塗装やエアレススプレー塗装を屋外で行うと、周囲への塗料の飛散も大きく、コストや環境の面から好ましくない。このため、スプレー塗装を採用する際には屋内での塗装が好ましく、スプレー塗装は屋外での塗装に不適であると言える。
【0008】
一方、塗装手段としては刷毛塗装やローラー塗装があり、これら塗装手段は、スプレー塗装と比較して屋外での塗着効率に優れることが知られている。しかしながら、鱗片状金属顔料を含む塗料組成物を刷毛塗装やローラー塗装により基材上に塗布すると、メタリック塗膜にムラが出てしまい、輝度を低下させる問題があった。
【0009】
特開2007−262294号公報(特許文献5)は、鱗片状物質を含む特定の意匠用塗料をゴム鏝で塗布する方法を記載するものの、規模の大きな構造物に対して適用することは現実的ではない。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の構造物の塗装方法を詳細に説明する。本発明の構造物の塗装方法は、刷毛塗装又はローラー塗装により、ノンリーフィングタイプのアルミニウム顔料を6〜20質量%含む塗料組成物で建築物又は構築物を塗装し、メタリック塗膜を形成させる第1の工程であって、塗装時の塗料組成物の粘度が岩田粘度カップ(NK−2)で測定したとき20〜80秒の範囲内である第1の工程を含むことを特徴とする。
【0022】
本発明の構造物の塗装方法においては、刷毛塗装又はローラー塗装により、ノンリーフィングタイプのアルミニウム顔料を6〜20質量%含む塗料組成物で建築物又は構築物を塗装し、メタリック塗膜を形成させる(本発明においては、この工程を第1の工程又はメタリック塗膜形成工程ともいう)。本発明によれば、ノンリーフィングタイプのアルミニウム顔料を6〜20質量%含む塗料組成物で建築物又は構築物を塗装することによって、刷毛塗装やローラー塗装により塗装を行う際にムラなく高輝度なメタリック塗膜を形成することができる。
【0023】
上記メタリック塗膜形成工程に用いる塗料組成物は、ノンリーフィングタイプのアルミニウム顔料を6〜20質量%含む。塗料組成物中における該アルミニウム顔料の含有量が6質量%以上であれば、刷毛塗装やローラー塗装により塗装を行う際にムラなく高輝度なメタリック塗膜を形成することができる。塗料組成物中における上記アルミニウム顔料の含有量が高いと、該アルミニウム顔料の自由度が低くなり、基材に対して平行に配列された状態で塗膜中に存在することで、このような効果が達成できるものと推定される。一方、塗料組成物中における上記アルミニウム顔料の含有量が20質量%を超えると、該アルミニウム顔料の量が多くなりすぎ、その他の塗膜物性を悪化させることになる。なお、上記塗料組成物において、ノンリーフィングタイプのアルミニウム顔料の含有量は6.5〜19質量%であることが好ましい。
【0024】
上記塗料組成物に用いるアルミニウム顔料は、ノンリーフィングの性質を持つアルミニウム顔料(ノンリーフィングタイプ)であるが、これとは別に、リーフィングの性質を持つアルミニウム顔料(リーフィングタイプ)も知られている。リーフィングとは、塗膜を作製したとき、塗膜表面にアルミニウム顔料が浮上し平行に配列する現象を指し、ノンリーフィングとは、塗膜を作製しても塗膜表面にアルミニウム顔料が浮上せず塗膜中に分散している現象を指す。このため、メタリック塗膜を形成する目的で塗料組成物を調製する際には、通常、リーフィングタイプのアルミニウム顔料の使用が好ましい。しかしながら、塗膜表面にアルミニウム顔料が浮上すると、塗膜からアルミニウム顔料が剥がれ易くなるため、人が触れた場合に衣服や身体にアルミニウム顔料が付着しやすい。このため、通常人の触れない用途に使用される。また、メタリック塗膜上にクリヤー塗膜を形成させる場合に、リーフィングタイプのアルミニウム顔料を使用した場合にはクリヤー塗膜が付着しにくいという不具合を生じることがある。一方で、ノンリーフィングタイプのアルミニウム顔料は、平行に配列された状態で塗膜中に分散させることが困難であるため、メタリック塗膜にムラが出てしまい、輝度を低下させる問題がある。しかしながら、上記塗料組成物によれば、ノンリーフィングタイプのアルミニウム顔料を高含有量で配合することによって、かかる問題を解決することができる。
【0025】
ノンリーフィングタイプのアルミニウム顔料は、市販品を好適に使用できるが、これらアルミニウム顔料は、通常、脂肪酸で表面処理することによって、ノンリーフィングの性質を付与されている。具体例としては、オレイン酸で表面処理したアルミニウム顔料がノンリーフィングタイプとして使用されている。
【0026】
ノンリーフィングタイプのアルミニウム顔料は、箔のような薄く平らな形状をしたアルミニウム顔料であることが好ましく、該アルミニウム顔料の50%体積平均径は0.1〜60μmであることが好ましく、5〜50μmであることが更に好ましい。アルミニウム顔料の50%体積平均径が60μm以下であれば、金属光沢により優れる塗膜を形成することができる。一方、アルミニウム顔料の50%体積平均径が0.1μm未満では、アルミニウム顔料のアスペクト比が小さくなる傾向にあり、金属光沢が十分に得られない場合がある。
【0027】
本発明において、50%体積平均径は、体積基準粒度分布の50%粒子径(D
50)を指し、粒度分布測定装置(例えばレーザ回折/散乱式粒度分布測定装置)を用いて測定される粒度分布から求めることができる。そして、本発明における粒子径は、レーザ回折・散乱法による球相当径で表される。
【0028】
また、ノンリーフィングタイプのアルミニウム顔料は、アスペクト比が1以上であることが好ましく、3以上であることが更に好ましい。アルミニウム顔料のアスペクト比が1以上であれば、塗膜の金属光沢を更に向上させることができる。なお、アルミニウム顔料のアスペクト比の上限は通常400程度である。ここで、アルミニウム顔料のアスペクト比は、50%体積平均径(D)と平均厚み(T)との比(D/T)である。なお、本発明においては、SEM(走査電子顕微鏡)を用いてアルミニウム顔料の厚みを測定し、100個以上の粒子を対象にして平均厚みを求める。
【0029】
上記メタリック塗膜形成工程に用いる塗料組成物は、塗装時の粘度が岩田粘度カップ(NK−2)で測定したとき20〜80秒の範囲内である。塗装時の粘度が上記特定した範囲内にあれば、そのときの塗料組成物は、刷毛塗装及びローラー塗装のいずれの塗装手段に対しても好適である。岩田粘度カップ(NK−2)による粘度の測定方法は一般的であり、具体的には以下のようにして測定される。まず、塗料組成物を十分に攪拌した後、塗料組成物中に岩田粘度カップ(NK−2)を埋没させる。次いで、塗料組成物から岩田粘度カップ(NK−2)を引き上げ、同時に時間の計測を開始する。そして、岩田粘度カップ(NK−2)からの塗料組成物の流出が途切れるまでの時間(秒)を計測し、計測した時間を粘度とする。
【0030】
上記メタリック塗膜形成工程に用いる塗料組成物は、建築物又は構築物に対して塗装を行うための塗料組成物であり、好ましくは土地に定着した構造物の塗り替えに対して適用する観点から、常温乾燥型の塗料組成物であることが好ましい。ここでいう「常温」とは5〜35℃である。
【0031】
また、上記メタリック塗膜形成工程に用いる塗料組成物は、少なくともポリオールを含む主剤と、少なくともポリイソシアネートを含む硬化剤から構成される2液型の塗料組成物であることが好ましい。このような塗料組成物は、塗装時に主剤と硬化剤とを混合することで使用され、ポリオールとポリイソシアネートとの反応によってウレタン結合を有する樹脂が形成されるものであるが、常温乾燥型の塗料組成物として容易に使用可能である。上記メタリック塗膜形成工程に用いる塗料組成物としては、2液型に限定されず、1液型の塗料組成物も使用できるが、好適な2液型の塗料組成物に基づきメタリック塗膜形成用塗料組成物について以下に説明する。
【0032】
上記メタリック塗膜形成工程において、塗料組成物を構成する主剤は、ポリオールの他、ノンリーフィングタイプのアルミニウム顔料及び有機溶剤を少なくとも含むことが好ましい。
【0033】
ポリオールは、水酸基を2個以上有する化合物であり、ポリイソシアネートのイソシアネート基と反応することでウレタン結合を形成するが、上記主剤に用いるポリオールは、水酸基含有アクリル樹脂、水酸基含有アクリルシリコーン樹脂及び水酸基含有ふっ素樹脂よりなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含むことが好ましい。これら水酸基含有樹脂は、市販品を好適に使用できるが、例えばアクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂又はふっ素樹脂の合成の際に、水酸基含有モノマーを用いることで容易に得られる。
【0034】
上記メタリック塗膜形成工程に用いる塗料組成物において、ポリオールに占める上記水酸基含有樹脂(即ち、水酸基含有アクリル樹脂、水酸基含有アクリルシリコーン樹脂及び水酸基含有ふっ素樹脂)の割合は、50質量%以上であることが好ましく、その上限は100質量%である。なお、上記水酸基含有樹脂以外のポリオールとしては、特に限定されるものではなく、従来から公知の各種ポリオール、例えばポリエステルポリオール、ポリウレタンポリオール、ポリエーテルポリオール等を使用できる。
【0035】
ポリオールは、数平均分子量が300〜10,000であることが好ましく、400〜2,000であることが更に好ましい。ポリオールの数平均分子量が300未満であると、不粘着性が十分な塗膜が得られない場合があり、一方、数平均分子量が10,000を超えると塗装作業性が低下する場合がある。なお、数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定されるポリスチレン換算した数平均分子量である。
【0036】
また、ポリオールは、水酸基価が5〜150mgKOH/gであることが好ましい。なお、水酸基価は、試料1g中の遊離水酸基を無水酢酸で完全にアセチル化した後、それを中和するのに要する水酸化カリウムのmg数である。
【0037】
上記メタリック塗膜形成工程に用いる塗料組成物において、ポリオールの含有量は、塗料組成物中20〜42質量%であることが好ましい。
【0038】
上記メタリック塗膜形成工程に用いる塗料組成物において、有機溶剤は、アルミニウム顔料を分散させる観点から、少なくとも主剤に含まれることが好ましい。なお、有機溶剤は、粘度を調整する等の目的で、主剤の他、硬化剤に配合されていてもよいし、塗装時に主剤と硬化剤を混合する際に得られる混合物に対して加えてもよい。有機溶剤としては、特に限定されるものではないが、JIS K 2256に規定される混合アニリン点又はアニリン点が12〜70℃の範囲内にある溶剤が好ましい。かかる溶剤は、環境に対する負荷が比較的少ない有機溶剤であり、塗料業界においては一般的に弱溶剤として分類され、常温乾燥にて除去できる。アニリン点及び混合アニリン点は、溶剤の溶解力を表す指標の一種であり、アニリン点又は混合アニリン点が高いほど溶解力が弱くなる。アニリン点は、等容積の溶剤とアニリンとが均一な溶液として存在する最低温度であり、混合アニリン点は、溶剤1容積、ヘプタン1容積及びアニリン2容積が均一な溶液として存在する最低温度である。混合アニリン点又はアニリン点が12℃未満では、溶剤の溶解力が強すぎるため、塗料組成物を被覆基材に塗装する場合、基材を既に覆っている塗膜(旧塗膜)が溶剤に侵され(具体的には旧塗膜が溶解したり膨潤したりして)、リフティング等の不具合が発生する恐れがあるので好ましくない。また、混合アニリン点又はアニリン点が70℃を超えると、溶剤の溶解力が弱すぎるため、実用的な性能を有する水酸基含有樹脂を溶解し難くなり好ましくない。
【0039】
上記混合アニリン点又はアニリン点が12〜70℃の範囲内にある溶剤には、例えば、脂肪族系溶剤、ナフテン系溶剤、芳香族ナフサ等の炭化水素系有機溶剤が挙げられる。上記炭化水素系有機溶剤の具体例としては、メチルシクロヘキサン(アニリン点:40℃)、エチルシクロヘキサン(アニリン点:44℃)、ミネラルスピリット(アニリン点:56℃)、テレビン油(アニリン点:44℃)が挙げられる。また、上記炭化水素系有機溶剤には、石油系炭化水素として市販されるものがあり、例えば、HAWS(シェルケミカルズジャパン社製、アニリン点:17℃)、LAWS(シェルケミカルズジャパン社製、アニリン点:44℃)、エッソナフサNo.6(エクソンモービル社製、アニリン点:43℃)、ペガゾール3040(エクソンモービル社製、アニリン点:55℃)、ペガゾールAN45(エクソンモービル社製、アニリン点42℃)、Aソルベント(新日本石油社製、アニリン点:45℃)、クレンゾル(新日本石油社製、アニリン点:64℃)、ミネラルスピリットA(新日本石油社製、アニリン点:43℃)、ハイアロム2S(新日本石油社製、アニリン点:44℃)、エクソールD30(エクソンモービル社製、アニリン点:64℃)、エクソールD40(エクソンモービル社製、アニリン点:69℃)、ニューソルDXハイソフト(新日本石油社製、アニリン点:68℃)、ソルベッソ100(エクソンモービル社製、混合アニリン点:14℃)、ソルベッソ150(エクソンモービル社製、混合アニリン点:18.3℃)、スワゾール100(丸善石油化学社製、混合アニリン点:24.6℃)、スワゾール200(丸善石油化学社製、混合アニリン点:23.8℃)、スワゾール1000(丸善石油化学社製、混合アニリン点:12.7℃)、スワゾール1500(丸善石油化学社製、混合アニリン点:16.5℃)、スワゾール1800(丸善石油化学社製、混合アニリン点:15.7℃)、出光イプゾール100(出光興産社製、混合アニリン点:13.5℃)、出光イプゾール150(出光興産社製、混合アニリン点:15.2℃)、ペガゾールARO−80(エクソンモービル社製、混合アニリン点:25℃)、ペガゾールR−100(エクソンモービル社製、混合アニリン点:14℃)、昭石特ハイゾール(シェルケミカルズジャパン社製、混合アニリン点:12.6℃)、日石ハイゾール(新日本石油社製、混合アニリン点:17℃以下)等が挙げられる。なお、これら弱溶剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
【0040】
上記メタリック塗膜形成工程に用いる塗料組成物において、有機溶剤の含有量は、例えば50〜65質量%であることが好ましい。また、上記塗料組成物において、有機溶剤に占める「JIS K 2256に規定される混合アニリン点又はアニリン点が12〜70℃の範囲内にある溶剤」の割合は、50質量%以上であることが好ましく、その上限は100質量%である。なお、その他の有機溶剤は、特に限定されるものではなく、従来から公知の各種有機溶剤、例えばケトン類、エステル類、エーテル類、アルコール類等を使用できる。
【0041】
上記メタリック塗膜形成工程において、塗料組成物を構成する硬化剤は、ポリイソシアネートを少なくとも含む。なお、ポリイソシアネートは、ポリオールの水酸基に対してイソシアネート基が0.5〜1.5当量であることが好ましく、0.8〜1.2当量であることが更に好ましい。このように、ポリイソシアネートの含有量は、ポリオールの官能基の量に応じて適宜調整されるものであるが、例えば、上記塗料組成物中におけるポリイソシアネートの含有量は、0.5〜15質量%であることが好ましい。
【0042】
上記ポリイソシアネートは、イソシアネート基を2個以上有する化合物であり、例えば、脂肪族、芳香族又は芳香脂肪族のポリイソシアネートが含まれ、具体例としては、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の他、これらポリイソシアネートの変性体が挙げられる。変性体の具体例としては、ビウレット変性体、イソシアヌレート変性体、アダクト変性体(例えばトリメチロールプロパン付加物)、アロファネート変性体、ウレトジオン変性体等が挙げられる。これらの中でも、ヘキサメチレンジイソシアネートの各種変性体やイソホロンジイソシアネートの各種変性体が、硬化性や塗膜特性の観点から好ましい。なお、これらポリイソシアネートは、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
上記メタリック塗膜形成工程に用いる塗料組成物には、ノンリーフィングタイプのアルミニウム顔料以外の顔料や、反応触媒、防錆剤、分散剤、消泡剤、脱水剤、レベリング剤、表面調整剤、沈降防止剤、ダレ止め剤、防藻剤、防カビ剤、防腐剤、紫外線吸収剤、光安定剤等を必要に応じて適宜配合してもよい。
【0044】
上記メタリック塗膜形成工程に用いる塗料組成物は、必要に応じて適宜選択される各種成分を混合することによって調製できる。
【0045】
上記メタリック塗膜形成工程に用いる塗料組成物は、塗装作業性や塗膜の仕上がり外観を向上させる観点から、不揮発分含有量が35〜50質量%であることが好ましい。なお、本発明においては、塗料組成物を130℃で60分間乾燥させた際に残存する成分を不揮発分として取り扱う。
【0046】
上記メタリック塗膜形成工程において、塗装方法は、刷毛塗装又はローラー塗装であるが、大規模な構造物を塗装する観点から、圧送刷毛や圧送ローラー等の塗装手段を利用することもできる。
【0047】
上記メタリック塗膜形成工程においては、上記塗料組成物中のアルミニウム顔料の量が3〜20g/m
2となるように該塗料組成物を塗布することが好ましい。塗料組成物中のアルミニウム顔料の量が20g/m
2を超えると、塗料組成物中におけるアルミニウム顔料の自由度が高くなり、塗膜にムラが生じ、輝度が低下する恐れがある。一方、塗料組成物中のアルミニウム顔料の量が3g/m
2未満では、構造物を十分に隠蔽できない場合もある。
【0048】
上記メタリック塗膜形成工程において、塗装対象は、建築物又は構築物である。なお、本発明において、建築物とは、人間が居住又は滞在する目的で建築された構造物を意味し、例えば住宅やビル、工場等が挙げられ、構築物とは、人間が居住又は滞在する目的以外のために建設された構造物を意味し、例えば煙突、立体駐車場等が挙げられる。
【0049】
本発明の構造物の塗装方法は、上記メタリック塗膜形成工程(第1の工程)の前に、下塗り塗料で建築物又は構築物を塗装し、下塗り塗膜を形成させる第2の工程(下塗り塗膜形成工程ともいう)を更に含むことが好ましい。この場合、上述したメタリック塗膜形成用の塗料組成物による塗装が、下塗り塗膜上で行われる。これにより、メタリック塗膜をより均一な表面上に形成できるため、メタリック塗膜のムラをより確実に防ぐことができる。また、メタリック塗膜と構造物の間に下塗り塗膜を設けることで、塗膜全体の構造物に対する密着性を向上でき、また、下塗り塗料としてエナメル塗料を使用すれば、構造物をより確実に隠蔽することが可能であり、メタリック調の意匠を向上できる。本発明において、エナメル塗料とは着色剤を含む塗料を指す。
【0050】
下塗り塗料には、溶媒として有機溶剤を用いる有機溶剤系塗料、主溶媒として水を用いる水系塗料、無溶剤系塗料、粉体塗料の各種エナメル塗料又はクリヤー塗料等の従来から公知の各種塗料が利用可能であるが、有機溶剤系エナメル塗料または水系エナメル塗料が好ましい。また、下塗り塗料に使用できる樹脂としては、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂及びフッ素樹脂等の各種合成樹脂が挙げられる。なお、これら樹脂は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。上記下塗り塗料には、その他の成分として、顔料、硬化剤成分、紫外線吸収剤、光安定剤、レオロジー調整剤、レベリング剤、酸化防止剤、可塑剤、防錆剤、溶剤、充填剤、pH調整剤、消泡剤、荷電制御剤、応力緩和剤、浸透剤、導光材、磁性材、蛍光体、ワックス等の添加剤を必要に応じて使用してもよい。下塗り塗料は、必要に応じて適宜選択される各種成分を混合することによって、調製できる。下塗り塗料の塗装方法は、特に限定されず、既知の塗装手段、例えば、刷毛塗装、ローラー塗装、コテ塗装、ヘラ塗装、スプレー塗装等が利用できるが、刷毛塗装やローラー塗装が好適である。
【0051】
本発明の構造物の塗装方法は、上記メタリック塗膜形成工程(第1の工程)の後に、クリヤー塗料でメタリック塗膜を塗装し、クリヤー塗膜を形成させる第3の工程(クリヤー塗膜形成工程ともいう)を更に含むことが好ましい。メタリック塗膜上にクリヤー塗膜を形成させることで、塗膜の光沢を向上させることができる。本発明によれば、ノンリーフィングタイプのアルミニウム顔料を高含有量で含む塗料組成物からメタリック塗膜を形成しており、塗膜のつやが低下する傾向にあるため、塗膜の光沢を確保する目的からクリヤー塗膜の形成は好ましい。また、炭酸カルシウム、タルク、クレー、シリカ、ホワイトカーボン、アモルファスシリカ、珪砂、バライト、沈降性硫酸バリウム等の体質顔料や、樹脂ビーズをクリヤー塗料に配合することで、塗膜のつやを容易に調整することができる。
【0052】
本発明において、クリヤー塗料とは着色剤を含まない塗料を指す。クリヤー塗料には、溶媒として有機溶剤を用いる有機溶剤系塗料、主溶媒として水を用いる水系塗料、無溶剤系塗料、粉体塗料等、従来から公知の各種塗料が利用可能である。また、クリヤー塗料に使用できる樹脂としては、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂及びフッ素樹脂等の各種合成樹脂が挙げられる。なお、これら樹脂は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。上記クリヤー塗料には、その他の成分として、硬化剤成分、紫外線吸収剤、光安定剤、レオロジー調整剤、レベリング剤、酸化防止剤、可塑剤、防錆剤、溶剤、充填剤、pH調整剤、消泡剤、荷電制御剤、応力緩和剤、浸透剤、導光材、磁性材、ワックス等の添加剤を必要に応じて使用してもよい。クリヤー塗料は、必要に応じて適宜選択される各種成分を混合することによって、調製できる。クリヤー塗料の塗装方法は、特に限定されず、既知の塗装手段、例えば、刷毛塗装、ローラー塗装、コテ塗装、ヘラ塗装、スプレー塗装等が利用できるが、刷毛塗装やローラー塗装が好適である。
【0053】
本発明の構造物の塗装方法によって最終的に得られる塗膜は、少なくともメタリック塗膜を含み、好ましくは下塗り塗膜及びクリヤー塗膜の一方又は両方を含む。なお、メタリック塗膜の厚さは、5〜30μmであることが好ましく、下塗り塗膜の厚さは、10〜40μmであることが好ましく、クリヤー塗膜の厚さは、5〜30μmであることが好ましい。
【0054】
本発明の構造物の塗装方法によって最終的に得られる塗膜は、フロップインデックスが8以上であることが好ましい。フロップインデックスの値は、輝度の指標であり、この値が高いと、輝度も高いことを示す。なお、フロップインデックスの上限としては特に制限されるものではないが、塗膜が建築物や構築物上に形成されるものであることから、例えば25以下である。
【0055】
塗膜のフロップインデックスの求め方について図を参照しながら説明する。
図1は、フロップインデックスの求め方を説明する図である。塗膜表面に垂直な垂直方向に対して45°傾けた第1方向から光線Cを照射したとき、正反射方向を0°とし、第1方向を90°とする。このとき、45°(すなわち塗膜表面に対して垂直方向)で受光して求めた明度指数L
*45°と、15°で受光して求めた明度指数L
*15°と、110°で受光して求めた明度指数L
*110°とを測定する。そして、次の(式1)に、各明度指数を代入して、フロップインデックス(FI)を求めることができる。
FI=2.69×(L
*45°−L
*110°)
1.11/L
*45°0.86 ・・・(式1)
【0056】
本発明の構造物の塗装方法によって最終的に得られる塗膜は、明度指数L
*110°、L
*45°及びL
*15°の標準偏差がいずれも1以下であることが好ましい。これらの明度指数は、フロップインデックスを求める際に測定される明度指数であり、この標準偏差が1以下であれば、メタリック塗膜がムラなく形成されていることを示す。なお、本発明においては、塗膜上から無作為に9点を選んで各明度指数の標準偏差を求める。
【実施例】
【0057】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0058】
<主剤1>
混合器に入ったヒタロイド6500B(日立化成社製水酸基含有アクリル樹脂のミネラルスピリット溶液、不揮発分50質量%、不揮発分の水酸基価30mgKOH/g)100質量部の中に、旭化成アルミペーストMH−8801(旭化成メタルズ社製ノンリーフィングタイプのアルミニウムペースト、不揮発分65質量%、D50=15μm)50質量部を攪拌環境下で徐々に投入し20分間攪拌を行った。さらに、フローレンAO−82(共栄社化学社製消泡剤)0.3質量部、ポリフローKL−401(共栄社化学社製レベリング剤)0.6質量部を投入し、10分間撹拌を行い、主剤1を調製した。
【0059】
<主剤2〜6>
上記主剤1の調製方法と同様に、以下の表1に示す配合処方に従って主剤2〜6を調製した。
【0060】
【表1】
【0061】
(注1)ルミフロンLF800(旭硝子社製水酸基含有ふっ素樹脂のミネラルスピリット溶液、不揮発分60質量%、不揮発分の水酸基価35mgKOH/g)
(注2)旭化成アルミペーストMG−01(旭化成メタルズ社製ノンリーフィングタイプのアルミニウムペースト、不揮発分76質量%、D50=32μm)
【0062】
<塗料1>
先に調製した主剤1 100質量部にデュラネートTSA−100(旭化成ケミカルズ社製ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体、不揮発分100質量%)3.6質量部を混合撹拌し、塗料1を調製した。塗料組成物中におけるアルミニウム顔料の含有量は15質量%、不揮発分の含有量は41質量%、不揮発分中におけるアルミニウム顔料の含有量は37質量%であった。
【0063】
<塗料2〜9>
上記塗料1の調製方法と同様に、表2に示す配合処方に従って塗料2〜9を調製した。各塗料組成物中におけるアルミニウム顔料の含有量、不揮発分の含有量、及び不揮発分中におけるアルミニウム顔料の含有量は表2に示す通りであった。
【0064】
【表2】
【0065】
<実施例1>
アルミ板に下塗り塗料1として「マイティーエポシーラー 白」〔大日本塗料(株)製商品名〕を、塗布量100g/m
2となるようにローラーで塗布し、温度23℃の環境下で24時間自然乾燥させた。その後、下塗り塗料2として「Vトップ N8.0」〔大日本塗料(株)製商品名〕を、塗布量120g/m
2となるようにローラーで塗布し、温度23℃の環境下で24時間自然乾燥させ、下塗り塗膜を作製した。その後、下塗り塗膜上に塗料1を塗布量60g/m
2となるようにローラーで塗布し、温度23℃の環境下で24時間自然乾燥させ、メタリック塗膜を作製し、実施例1の試験板を得た。塗装時のメタリック塗料の温度及び粘度[岩田粘度カップ(NK−2)]、塗装器具といった塗装仕様を表3に示す。また、塗装作業性、仕上がり外観及び輝度、光沢値、隠蔽性、耐候性、L
*110°、L
*45°及びL
*15、フロップインデックス、並びに明度指数の標準偏差を測定及び評価した。結果を表3に示す。
【0066】
<実施例2〜22、比較例1〜7>
実施例2〜22、比較例1〜7についても、実施例1と同様に、表3〜5に示す塗装仕様に従って試験板を作製した。なお、クリヤー塗膜を備える試験板については、メタリック塗膜上に、クリヤー塗料を、塗布量60g/m
2となるようにローラーで塗布し、温度23℃の環境下で24時間自然乾燥させ、クリヤー塗膜を作製した。得られた試験板に対して、各種測定及び評価を行った。なお、クリヤー塗料は、ヒタロイド6500B 100質量部、ミネラルスピリット 50質量部、フローレンAO−82(共栄社化学社製消泡剤)0.3質量部、ポリフローKL−401(共栄社化学社製レベリング剤)0.6質量部を混合した主剤に、硬化剤としてデュラネートTSA−100 5.4質量部を加えて調製した。
【0067】
【表3】
【0068】
【表4】
【0069】
【表5】
【0070】
<塗装作業性>
メタリック塗料を短毛ローラーまたは刷毛で塗装した際の塗装作業性を、下記の基準に従って評価した。
〇:塗装作業に問題がない。
×:ローラーや刷毛が重い、または軽すぎ、塗装しにくい。
【0071】
<仕上がり外観及び輝度>
試験板の塗装面について目視で観察を行い、下記の基準に従って評価した。
〇:全体に輝度があり、ムラなく均一に仕上がる。
×:輝度にムラがあり、均一に仕上がらない。
【0072】
<光沢値>
試験板の塗装面についてJIS K 5600−4−7に従って60°鏡面光沢度を測定し、得られた値を光沢値とした。
【0073】
<隠蔽性>
試験板の塗装面について目視で観察を行い、下記の基準に従って評価した。
○:下地をムラなく隠蔽している。
×:下地の一部もしくは全体が透けて見えている。
【0074】
<耐候性>
試験板をさらに常温で7日間乾燥した後、JIS K5600−7−7サイクルAの条件で1200時間の照射を行い、下記の基準に従って評価した。
○:光沢保持率が80%以上で、色の変化が認識できない。
×:光沢保持率が80%未満、または、色の変化が認識できる。
【0075】
<L
*110°、L
*45°、L
*15、明度指数の標準偏差、及びフロップインデックス>
試験板の色を、BYK−mac(BYKガードナー社製多角度測色機)によって測定し、その明度指数L
*110°、L
*45°、L
*15を求めた。この操作を試験板上の場所を変えながら9回繰り返し、各角度での明度指数の標準偏差(110°、45°、15°)を求めた。さらに、得られた各場所での明度指数を下記式(1)に代入しフロップインデックス(FI)を求め、9点のFIの平均値をその試験板のフロップインデックスとした。
FI=2.69×(L
*45°−L
*110°)
1.11/L
*45°0.86 ・・・(式1)
前記第1の工程の前に、下塗り塗料で建築物又は構築物を塗装し、下塗り塗膜を形成させる第2の工程を更に含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の構造物の塗装方法。
前記第1の工程の後に、クリヤー塗料でメタリック塗膜を塗装し、クリヤー塗膜を形成させる第3の工程を更に含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の構造物の塗装方法。