【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0010】
<フェナントロリン化合物>
フェナントロリンは、分子中に2つの窒素原子を持つ化合物であり、ビピリジル系の配位子として、従来から、分析化学及び機能性錯体化学などの分野で広く用いられている。フェナントロリンの骨格は、キノフタロン化合物の合成に用いられる2−メチルキノリン(キナルジン)におけるキノリン環に類似しているが、顔料として活用された例は今までになかった。
【0011】
本発明者らは、黄色顔料として利用可能な新規化合物に関して鋭意研究を行っていたところ、キナルジンと同様に、フェナントロリンの2位に導入されたメチル基が活性であるとの知見を得て、それに着目した。そして、その2−メチル−1,10−フェナントロリンから顔料を形成しうることを本発明者らは見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の一実施形態に係るフェナントロリン化合物は、下記一般式(1)で表される。
【0014】
一般式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素原子、又は置換基を有していてもよい、アルキル基、アリール基若しくはインダンジオン基を表す。ただし、R
1及びR
2のうちの少なくとも一方は、置換基を有していてもよいインダンジオン基である。R
3及びR
4は、それぞれ独立に、水素原子又はフェニル基を表す。
【0015】
フェナントロリンは、キノリンに比して、ピリジン環が縮環しており、耐熱性が向上し得る。また、フェナントロリンは、フェナントロリンにおけるピリジン環同士が対称性を示し、単純な縮環による効果に加えて、さらに、着色力、耐熱性、及び耐光性などの顔料特性が良好となる。
【0016】
従来、キノフタロン系の顔料特性を向上させる方法として、キノフタロン化合物の合成に用いられるキナルジンにおけるキノリン環にヒドロキシ基やアミノ基を導入する方法が提案されている。これらの官能基をキナルジンにおけるキノリン環に導入すると、耐熱性は向上するが、国際照明委員会(CIE)で規格化され、JIS Z8781−4:2013で採用されているCIE L
*a
*b
*表色系におけるb
*の値(b
*の値は、負の値であると青みを表し、正の値であると黄みを表す。)が低くなってしまい、色がくすんでしまうという問題点があった。
【0017】
本実施形態のフェナントロリン化合物は、L
*a
*b
*表色系におけるb
*の値が、およそb
*>100であり、黄色顔料として十分に使用可能である。なお、本明細書において、「黄色顔料」には黄色系の顔料が含まれ、その「黄色系」には例えば橙色や黄緑色などの黄みのある色が含まれる。本実施形態のフェナントロリン化合のL
*a
*b
*表色系におけるa
*の値(a
*の値は、負の値であると緑みを表し、正の値であると赤みを表す。)は、−10.0<a
*<30.0であることが好ましい。b
*>100であり、かつa
*>0であるフェナントロリン化合物は、鮮やかな赤みの黄色顔料として使用することができる。また、b
*>100であり、かつa
*<0であるフェナントロリン化合物は、鮮やかな緑みの黄色顔料として使用することができる。本実施形態のフェナントロリン化合物のL
*a
*b
*表色系における明度L
*の値は、50以上が好ましく、60以上がより好ましく、70以上がさらに好ましい。
【0018】
本実施形態のフェナントロリン化合物は、彩度、明度、及び着色力などに優れ、黄色顔料として有用なものであり、また、良好な耐熱性及び耐光性を有することも可能である。以下、本実施形態のフェナントロリン化合物について、顔料特性や色相などの黄色顔料としての有用性の観点から、好ましい構成などを挙げて、さらに詳細に説明する。
【0019】
本実施形態のフェナントロリン化合物の構造を表す上記一般式(1)において、R
1及びR
2で表される、置換基を有していてもよいアルキル基は、直鎖状でもよく、分岐していてもよい。アルキル基の炭素数は、1〜20であることが好ましく、1〜15であることがより好ましく、1〜10であることがさらに好ましい。アルキル基の具体例として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ペンタデシル基、及びイコシル基などを挙げることができる。
【0020】
R
1及びR
2で表される、置換基を有していてもよいアリール基におけるアリール基の具体例としては、フェニル基、メチルフェニル基、キシリル基、ビフェニリル基、及びナフチル基などを挙げることができる。
【0021】
R
1及びR
2で表される、アルキル基、アリール基及びインダンジオン基は、置換基を有していてもよい。アルキル基、アリール基及びインダンジオン基が有していてもよい置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アミノ基、及びニトロ基などを挙げることができる。これらの置換基は、さらに、ここで挙げた置換基によって置換されていてもよい。
【0022】
置換基としてのハロゲン原子の具体例としては、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素などを挙げることができる。置換基としてのアルキル基及びアリール基の具体例としては、前述したものと同様のものを挙げることができる。
【0023】
置換基としてのアルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、ペンチルオキシ基、及びヘキシルオキシ基などを挙げることができる。置換基としてのアリールオキシ基の具体例としては、フェニルオキシ基、メチルフェニルオキシ基、キシリルオキシ基、ビフェニリルオキシ基、及びナフチルオキシ基などを挙げることができる。
【0024】
置換基としてのアルキルチオ基の具体例としては、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、イソプロピルチオ基、ブチルチオ基、イソブチルチオ基、ペンチルチオ基、及びヘキシルチオ基などを挙げることができる。置換基としてのアリールチオ基の具体例としては、フェニルチオ基、メチルフェニルチオ基、キシリルチオ基、ビフェニリルチオ基、及びナフチルチオ基などを挙げることができる。
【0025】
本実施形態のフェナントロリン化合物は、一般式(1)中のR
1及びR
2のうちの少なくとも一方として、置換基を有していてもよいインダンジオン基を有することを特徴とする。置換基を有していてもよいインダンジオン基は、後記合成方法の説明で述べる通り、2−メチル−1,10−フェナントロリン又はその誘導体と、フタル酸無水物又はその誘導体とを縮合させることによって導入することができる。この場合、置換基を有していてもよいインダンジオン基は、フタル酸無水物又はその誘導体に由来する骨格の基(1,3−インダンジオン骨格の基)といえる。
【0026】
置換基を有していてもよいインダンジオン基は、下記一般式(2)で表される基であることが好ましい。
【0028】
一般式(2)中、R
5乃至R
8は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アミノ基、又はニトロ基を表す。これらの基(アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アミノ基、及びニトロ基)は、前述したように、ここで挙げた原子又は基によって置換されていてもよい。一般式(2)中の*は、一般式(1)中の芳香族環との結合部位を表す。
【0029】
一般式(2)中のR
5乃至R
8の具体例は、前述のインダンジオン基などが有していてもよい置換基の具体例として挙げたものと同様である。一般式(2)中のR
5乃至R
8は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、又はニトロ基であることが好ましく、水素原子、ハロゲン原子、又はアルキル基であることがより好ましく、水素原子又はハロゲン原子であることがさらに好ましい。
【0030】
一般式(2)中のR
5乃至R
8のうちの少なくとも1つに、ハロゲン原子を有する場合、そのハロゲン原子としては、フッ素、塩素、及び臭素が好ましく、塩素及び臭素がより好ましい。一般式(2)中のR
5乃至R
8のうちの少なくとも1つに、アルキル基を有する場合、そのアルキル基としては、直鎖状でもよく、分岐していてもよい。アルキル基の炭素数は、1〜10であることが好ましく、1〜5であることがより好ましい。さらに好ましいアルキル基として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、及びtert−ブチル基を挙げることができる。
【0031】
一般式(2)で表されるインダンジオン基は、R
5乃至R
8のうちの少なくとも1つがハロゲン原子である、ハロゲン原子で置換されているインダンジオン基(ハロゲノインダンジオン基)であることが好ましい。一般式(2)に示す通り、1つのインダンジオン基に置換されうるハロゲン原子の数(ハロゲン置換数)は最大で4個である。一般式(1)中のR
1及びR
2がともに置換基を有していてもよいインダンジオン基である場合、フェナントロリン化合物におけるインダンジオン基に置換されうるハロゲン原子の数は合計で最大8個である。1つのインダンジオン基において、ハロゲン原子の数は2以上であることがより好ましい。さらに、R
5乃至R
8のいずれもハロゲン原子である、テトラハロゲノインダンジオン基も好ましい。
【0032】
一般式(1)で表されるフェナントロリン化合物は、一般式(1)中のR
1及びR
2のうちの少なくとも一方が、前述のハロゲノインダンジオン基であることが好ましく、前述のテトラハロゲノインダンジオン基であることがより好ましい。さらに、一般式(1)中のR
1及びR
2がともにテトラハロゲノインダンジオン基であるフェナントロリン化合物も好ましい。一般式(1)中、インダンジオン基がハロゲン原子で置換されている場合、一般的な顔料と同様に、フェナントロリン化合物は、耐溶剤性及び耐熱性などが良好となる。
【0033】
一般式(1)中のR
1及びR
2のうちのいずれか一方が、置換基を有していてもよいインダンジオン基である場合、いずれか他方は、水素原子、又は置換基を有していてもよい、インダンジオン基若しくはアルキル基であることが好ましく、置換基を有していてもよい、インダンジオン基又はアルキル基であることがより好ましい。
【0034】
本実施形態の一般式(1)で表されるフェナントロリン化合物の好適な具体例として、下記式(1−1)〜(1−8)で表される化合物を挙げることができる。下記式(1−1)〜(1−8)で例示されるような、ノンハロゲン(ハロゲンフリー)のフェナントロリン化合物は、環境負荷が小さく、安全であるという利点がある。
【0039】
また、本実施形態の一般式(1)で表されるフェナントロリン化合物のうち、ハロゲノインダンジオン基を有するフェナントロリン化合物の好適な具体例として、さらに、下記式(1−9)〜(1−16)で表される化合物を挙げることができる。下記式(1−9)〜(1−16)で例示されるような、ハロゲン原子で置換されているインダンジオン基を有するフェナントロリン化合物は、着色力、耐熱性、及び耐溶剤性などにさらに優れ、黄色顔料としてさらに好適に利用することができる。
【0044】
本実施形態のフェナントロリン化合物の合成方法は特に限定されない。例えば、下記一般式(3)で表される2−メチル−1,10−フェナントロリン又はその誘導体を溶媒(高沸点溶媒)中でフタル酸無水物又はその誘導体と縮合することによって、一般式(1)で表されるフェナントロリン化合物を合成することができる。
【0046】
一般式(3)中、R
3及びR
4は、それぞれ独立に、水素原子又はフェニル基を表し、R
9は、水素原子、又は置換基を有していてもよい、アルキル基若しくはアリール基を表す。
【0047】
一般式(3)中のR
9で表される、置換基を有していてもよいアルキル基及びアリール基は、それぞれ、前記一般式(1)の説明で述べた、置換基を有していてもよいアルキル基及びアリール基と同様である。
【0048】
一般式(3)中、R
9がメチル基である場合(すなわち、一般式(3)で表される化合物が2,9−ジメチル−1,10−フェナントロリン又はその誘導体である場合)、フェナントロリン環の2位及び9位のいずれのメチル基もフタル酸無水物又はその誘導体と縮合し、1分子中にインダンジオン基を2つ有するフェナントロリン化合物を得ることができる。
【0049】
なお、一般式(3)で表される2−メチル−1,10−フェナントロリン又はその誘導体は、塩酸塩などの塩であってもよく、水和物であってもよい。
【0050】
フタル酸無水物又はその誘導体の具体例として、例えば、フタル酸無水物、3−メチルフタル酸無水物、4−メチルフタル酸無水物、4−tert−ブチルフタル酸無水物、4−クロロフタル酸無水物、4,5−ジクロロフタル酸無水物、テトラクロロフタル酸無水物、4−ブロモフタル酸無水物、テトラブロモフタル酸無水物、3−フルオロフタル酸無水物、4−フルオロフタル酸無水物、4,5−ジフルオロフタル酸無水物、テトラフルオロフタル酸無水物、4−カルボキシフタル酸無水物、3−ニトロフタル酸無水物、及び4−ニトロフタル酸無水物などを挙げることができる。
【0051】
高沸点溶媒の具体例として、例えば、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン、及びクロロナフタレンなどの芳香族炭化水素、並びに安息香酸及び安息香酸メチルなどの安息香酸誘導体などを挙げることができる。
【0052】
一般式(1)で表されるフェナントロリン化合物を合成する際、前述の一般式(3)で表される2−メチル−1,10−フェナントロリン又はその誘導体、フタル酸無水物又はその誘導体、及び高沸点溶媒は、それぞれ1種又は2種以上を用いることができる。
【0053】
一般式(1)で表されるフェナントロリン化合物を合成する際の温度としては、120℃〜250℃が好ましい。一般式(1)中のR
1及びR
2がともに置換基を有していてもよいインダンジオン基である化合物(すなわち、1分子中に置換基を有していてもよいインダンジオン基を2つ有するフェナントロリン化合物)を得るためには、温度は、180℃以上であることが好ましく、180℃〜240℃であることがより好ましい。一般式(1)中のR
1及びR
2のうちのいずれか一方が置換基を有していてもよいインダンジオン基である化合物(すなわち、1分子中に置換基を有していてもよいインダンジオン基を1つ有するフェナントロリン化合物)を得るためには、温度は180℃以下であることが好ましく、より好ましくは120℃〜170℃である。
【0054】
本実施形態のフェナントロリン化合物の構造や分子量は、MALDI(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)などによる質量分析、核磁気共鳴分光分析(NMR)、赤外分光分析(IR)、元素分析などの結果により確認することができる。
【0055】
以上述べた本実施形態のフェナントロリン化合物は、一般式(1)で表される構造を有するため、彩度、明度、及び着色力に優れ、黄色顔料として、後述する広範な分野における着色剤に好適に利用することができる。本実施形態のフェナントロリン化合物は、塗料用の着色剤、カラーフィルター用の着色剤、及び画像記録用の着色剤などに、より好適に利用することができる。また、本実施形態では、一般式(1)で表される構造を有するため、良好な耐熱性を有するフェナントロリン化合物を得ることが可能であり、さらに、良好な耐光性を有するフェナントロリン化合物を得ることも可能である。
【0056】
<着色剤>
本発明の一実施形態に係る着色剤は、前述した上記一般式(1)で表されるフェナントロリン化合物を含有する。着色剤には、一般式(1)で表されるフェナントロリン化合物のうちの1種が単独で含有されていてもよく、2種以上が含有されていてもよい。
【0057】
本実施形態の着色剤は、画像表示用、画像記録用、印刷インキ用、筆記用インキ用、プラスチック用、顔料捺染用、及び塗料用などの着色剤として、広範な分野で用いることができる。本実施形態の着色剤は、塗料用や、画像表示用としてのカラーフィルター用に好適である。また、本実施形態の着色剤は、インクジェット記録用インキ、電着記録液、及び電子写真方式用の現像剤などの画像記録剤用の材料としても有用である。これらの画像記録剤用の材料は、それぞれ、インクジェット記録方法、電着記録方式、及び電子写真方式などの画像記録方法に使用される。本実施形態の着色剤を用いれば、いずれの画像記録方法であっても高品位な画像を提供しうる画像記録剤用の材料を調製することができる。
【0058】
本実施形態の着色剤は、前述のフェナントロリン化合物のみからなるものでもよいが、フェナントロリン化合物以外の成分として、皮膜形成材料をさらに含有することが好ましい。皮膜形成材料は、着色剤により着色される対象となる被着体に対して、皮膜を形成し得る材料である。着色剤が皮膜形成材料を含有する場合の着色剤中のフェナントロリン化合物の含有量は、皮膜形成材料100質量部に対して、5〜500質量部であることが好ましく、50〜250質量部であることがより好ましい。皮膜形成材料を含有する着色剤は、例えば、フェナントロリン化合物と、樹脂(重合体及び共重合体)、オリゴマー、又はモノマーなどの皮膜形成材料とを混合することで調製することができる。
【0059】
また、本実施形態の着色剤は、フェナントロリン化合物と、皮膜形成材料を含有する液とを混合することでも調整することができる。皮膜形成材料を含有する液に用いられる液媒体としては、有機溶剤、水、及び有機溶剤と水との混合液などを挙げることができる。皮膜形成材料を含有する液としては、感光性の皮膜形成材料を含有する液、又は非感光性の皮膜形成材料を含有する液を用いることができる。
【0060】
感光性の皮膜形成材料を含有する液の具体例としては、紫外線硬化性インキや電子線硬化インキなどに用いられる、感光性の皮膜形成材料を含有する液などを挙げることができる。また、非感光性の皮膜形成材料を含有する液の具体例としては、凸版インキ、平版インキ、グラビアインキ、及びスクリーンインキなどの印刷インキに使用するワニス;常温乾燥又は焼き付け塗料に使用するワニス;電着塗装に使用するワニス;熱転写リボンに使用するワニスなどを挙げることができる。
【0061】
感光性の皮膜形成材料の具体例としては、感光性環化ゴム系樹脂、感光性フェノール系樹脂、感光性ポリアクリレート系樹脂、感光性ポリアミド系樹脂、感光性ポリイミド系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂、ポリエーテルアクリレート系樹脂、及びポリオールアクリレート系樹脂などの感光性樹脂を挙げることができる。これらの感光性樹脂を含有する液には、反応性希釈剤として各種のモノマーが含有されていてもよい。
【0062】
感光性樹脂を皮膜形成材料として含有する着色剤に、ベンゾインエーテル、及びベンゾフェノンなどの光重合開始剤を添加し、従来公知の方法により練肉すれば、光硬化性の感光性顔料分散液とすることができる。また、上記の光重合開始剤に代えて熱重合開始剤を用いれば、熱硬化性顔料分散液とすることができる。
【0063】
非感光性の皮膜形成材料には、常温乾燥型の樹脂や焼付け型の樹脂を用いることができる。非感光性の皮膜形成材料の具体例としては、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル系共重合体、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエステルイミド系樹脂、水溶性アミノポリエステル系樹脂、及びこれらの水溶性塩、並びにアルキド系樹脂、メラミン系樹脂、スチレン−マレイン酸エステル系共重合体の水溶性塩、及び(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸系共重合体の水溶性塩などを挙げることができる。
【0064】
本実施形態の着色剤には、前述のフェナントロリン化合物以外の他の顔料が含有されていてもよく、また、用途などに応じて、分散剤、分散助剤、平滑化剤、可塑剤、界面活性剤、消泡剤、及び増粘剤などの従来公知の添加剤が含有されていてもよい。他の顔料や添加剤は、それぞれ1種が単独で用いられてもよく、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【実施例】
【0065】
次に、実施例及び比較例を挙げて、前述の一実施形態に係るフェナントロリン化合物をさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、以下の文中における「部」は、特に断りのない限り、質量基準である。
【0066】
[フェナントロリン化合物の合成]
<実施例1>
安息香酸100部に2,9−ジメチル−1,10−フェナントロリン(以下、ネオクプロイン)塩酸塩一水和物5部、及びフタル酸無水物7部を加え、160℃で4時間加熱した。次いで、安息香酸が固化しないうちにメタノール50部を加え、30分間撹拌した。得られた反応混合物を冷却後にろ過し、ろ物をメタノール及び水で洗浄した。洗浄後のろ物を80℃で乾燥して、下記式(A)で表されるフェナントロリン化合物(A)4部を得た。
【0067】
【0068】
<実施例2>
安息香酸100部にネオクプロイン塩酸塩一水和物5部、及びテトラクロロフタル酸無水物13部を加え、160℃で4時間加熱した。次いで安息香酸が固化しないうちにメタノール50部を加え、30分間撹拌した。得られた反応混合物を水1000部中に注加し、水酸化ナトリウムでpHを11〜12に調整した後に、60℃で1時間撹拌した。このようにして得られた反応混合物を冷却後にろ過し、ろ物をメタノール及び水で洗浄した。洗浄後のろ物を80℃で乾燥して、下記式(B)で表されるフェナントロリン化合物(B)9部を得た。
【0069】
【0070】
<実施例3>
前述の実施例2で使用したテトラクロロフタル酸無水物13部に代えて、テトラブロモフタル酸無水物21部を使用した以外は、実施例2と同様にして、下記式(C)で表されるフェナントロリン化合物(C)12部を得た。
【0071】
【0072】
<実施例4>
前述の実施例2における加熱温度及び加熱時間(160℃及び4時間)を、230℃で4時間の加熱に変更した以外は、実施例2と同様にして、前記式(B)で表されるフェナントロリン化合物(B)と下記式(D)で表されるフェナントロリン化合物(D)の混合物10部を得た。
【0073】
【0074】
実施例1〜4で得られた各フェナントロリン化合物について、MALDIによる質量分析を行ったところ、以下の分子量に相当するピークが検出された。使用した原材料及び質量分析の結果から、目的とする組成の化合物(顔料)が得られたことを確認した。
・フェナントロリン化合物(A):分子量338
・フェナントロリン化合物(B):分子量476
・フェナントロリン化合物(C):分子量654
・フェナントロリン化合物(D):分子量744
【0075】
[キノフタロン化合物の合成]
<比較例1>
前述の実施例2で使用したネオクプロイン塩酸塩一水和物5部に代えて、キナルジン3部を使用した以外は、前述の実施例2と同様にして、下記式(E)で表されるキノフタロン化合物(E)8部を得た。
【0076】
【0077】
<比較例2>
前述の実施例2で使用したネオクプロイン塩酸塩一水和物5部に代えて、8−ヒドロキシキナルジン3部を使用した以外は、前述の実施例2と同様にして、下記式(F)で表されるキノフタロン化合物(F)8部を得た。
【0078】
【0079】
[評価]
次に、上記実施例1〜4で得られたフェナントロリン化合物、並びに比較例1及び2で得られたキノフタロン化合物について、顔料としての適性を評価した。具体的には、各化合物の耐熱性、並びに各化合物を顔料として含有させた塗料を用いて形成した塗膜の色相、彩度、明度、及び着色力を評価した。
【0080】
<塗料試験>
(濃色塗料の調製)
実施例1〜4で得られたフェナントロリン化合物、並びに比較例1及び2で得られたキノフタロン化合物を、それぞれ、顔料として単独で使用した。そして、以下に示す各成分を以下に示す配合量にてペイントコンディショナーで90分間混合し、顔料を分散させ、各顔料(各化合物)について、実施例1〜4並びに比較例1及び2の各濃色塗料を調製した。
・顔料 1.5部
・ブチル化メラミン樹脂(*1) 8.5部
・椰子油の短油性アルキド樹脂(*2) 17.0部
・キシレン/1−ブタノール(2/1質量比)混合溶剤 5.0部
(*1)商品名「スーパーベッカミンJ−820」(不揮発分:58〜62質量%、大日本インキ化学工業社製)
(*2)商品名「フタルキッド133〜60」(不揮発分:55〜65質量%、日立化成社製)
【0081】
(1)色相、彩度、及び明度の評価
アプリケーター(3ミル)を用いて、実施例1〜4並びに比較例1及び2の濃色塗料をそれぞれアート紙上に展色し、140℃で30分間焼き付けた。形成された各塗膜について、測色計(大日精化工業社製、商品名「カラコムシステム」)を用いて、L
*、a
*、b
*を計測した。その結果を表1に示す。また、以下に示す基準にしたがって彩度及び明度を評価した。その結果を表2に示す。なお、彩度C
*は、C
*=((a
*)
2+(b
*)
2)
1/2から算出した。
(彩度の評価基準)
○:相対的に彩度が優れていた(C
*が100以上であった)。
△:相対的に彩度が良好であった(C
*が80以上100未満であった)。
×:相対的に彩度が低かった(C
*が80未満であった)。
(明度の評価基準)
○:相対的に明度が優れていた(L
*が70以上であった)。
△:相対的に明度が良好であった(L
*が50以上70未満であった)。
×:相対的に明度が低かった(L
*が50未満であった)。
【0082】
(2)着色力の評価
顔料:チタンホワイト=1:20(質量比)となるように、チタンホワイト(酸化チタン)を含む白色塗料(日本ペイント社製、商品名「オルガネオ ホワイト N」)で各濃色塗料を希釈し、各濃色塗料について、淡色塗料を調整した。アプリケーター(3ミル)を用いて、淡色塗料をアート紙上に展色し、140℃で30分間焼き付けた。形成された塗膜を肉眼で観察し、黄色の発色の強さを比較することで以下の基準にしたがって、着色力を評価した。その結果を表2に示す。
(着色力の評価基準)
○:相対的に黄色の発色が強く、着色力が優れていると評価した。
△:相対的に黄色の発色があり、着色力が良好であると評価した。
×:相対的に黄色の発色がほとんど確認されず、着色力が乏しいと評価した。
【0083】
<耐熱性試験>
(3)耐熱性
実施例1〜4で得られたフェナントロリン化合物、並びに比較例1及び2で得られたキノフタロン化合物のそれぞれについて、示差熱重量分析(TG−DTA)を行い、以下に示す基準にしたがって耐熱性を評価した。結果を表2に示す。
○:耐熱性良好(400℃において、質量減少が5%未満であった。)
△:耐熱性あり(400℃において、質量減少が5%以上10%未満であった。)
×:耐熱性なし(400℃において、質量減少が10%以上であった。)
【0084】
【0085】
【0086】
実施例1〜3で得られたフェナントロリン化合物の色相は黄色であり、実施例4で得られたフェナントロリン化合物((B)及び(D)の混合物)の色相は橙色であり、実施例1〜4で得られたフェナントロリン化合物は、彩度、明度、及び着色力に優れ、黄色顔料として有用であることが確認された。また、実施例2〜4で得られたフェナントロリン化合物は、さらに耐熱性にも優れていることが確認された。