特開2017-88736(P2017-88736A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-88736(P2017-88736A)
(43)【公開日】2017年5月25日
(54)【発明の名称】鋼材とFRP材の接着方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 163/02 20060101AFI20170421BHJP
   C09J 5/00 20060101ALI20170421BHJP
   C09J 175/04 20060101ALI20170421BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20170421BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20170421BHJP
【FI】
   C09J163/02
   C09J5/00
   C09J175/04
   C09J11/04
   C09J11/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-220700(P2015-220700)
(22)【出願日】2015年11月10日
(71)【出願人】
【識別番号】591084207
【氏名又は名称】サンライズ・エム・エス・アイ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089152
【弁理士】
【氏名又は名称】奥村 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】東向 優昇
(72)【発明者】
【氏名】新田 正喜
【テーマコード(参考)】
4J040
【Fターム(参考)】
4J040EC061
4J040EF001
4J040GA05
4J040HB14
4J040HB43
4J040JA01
4J040JB02
4J040KA16
4J040KA24
4J040KA42
4J040LA06
4J040MA02
4J040MA10
4J040NA16
4J040PA30
(57)【要約】

【課題】 鋼板とFRP板とを加熱硬化型接着剤で接着しても、両者に歪みが生じにくい接着方法を提供する。
【解決手段】 この接着方法は、鋼板とFRP板とを接着するに際し、(a)化1の構造式を持つ変性エポキシ樹脂、(b)ブロックウレタン樹脂、(c)化2の構造式を持つ反応性希釈剤及び(d)硬化剤を含有する加熱硬化型接着剤を用いるものである。
【化1】

(式中、nは1〜10である。)
【化2】

(式中、Rは炭化水素残基又はカルボン酸残基である。)
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材とFRP材とを接着するに際し、下記の(a)、(b)、(c)及び(d)を含有してなる加熱硬化型接着剤を用いることを特徴とする鋼材とFRP材の接着方法。
(a)化1の構造式を持つ変性エポキシ樹脂
【化1】
(式中、nは1〜10である。)
(b)ブロックウレタン樹脂
(c)化2又は化3の構造式を持つ反応性希釈剤
【化2】
(式中、Rは炭化水素残基又はカルボン酸残基である。)
【化3】
(式中、Rは炭化水素残基又はカルボン酸残基である。)
(d)硬化剤
【請求項2】
さらに、(e)充填材を含有してなる加熱硬化型接着剤を用いる請求項1記載の鋼材とFRP材の接着方法。
【請求項3】
鋼材として鋼板を用い、FRP材としてFRP板を用いる請求項1記載の鋼材とFRP材の接着方法。
【請求項4】
FRP材は、炭素繊維強化プラスチック材である請求項1記載の鋼材とFRP材の接着方法。
【請求項5】
自動車のボデー組み立ての際に適用する請求項1記載の鋼材とFRP材の接着方法。
【請求項6】
硬化後の接着剤皮膜の伸び率が200%以上で、初期弾性率が0.1〜3MPaである請求項1記載の鋼材とFRP材の接着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FRP材(繊維強化プラスチック材)と鋼材を接着する方法に関し、特に、自動車のボデー組み立て時に、FRP板と鋼板を接着するのに適した方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車のボデー組み立て時に、鋼板同士を接着する接着剤として、加熱硬化型のエポキシ樹脂が用いられている。エポキシ樹脂は硬化後において、硬くて脆いという欠点があり、柔軟性を付与するために種々の改良がなされている。たとえば、特許文献1には、エポキシ樹脂に柔軟性を付与するため、ウレタン変性キレートエポキシ樹脂とブロックウレタン樹脂と硬化剤を含有する自動車用接着剤が提案されている。
【0003】
自動車の軽量化を図るために、自動車のボデーを構成する材料として、鋼板と共にアルミニウム板が用いられることがある。鋼板とアルミニウム板を接着する場合、両者の線膨張係数が異なるため、加熱硬化時と冷却時において、両者の寸法が異なることになり、鋼板又はアルミニウム板に歪みが生じることがある。したがって、使用する接着剤としては、硬化後において、柔軟なだけではなく、良好な伸び及び低い初期弾性率を持つものを採用する必要がある。かかる接着剤として、特許文献2には、ウレタン変性エポキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂、単官能性脂肪族エポキシ樹脂、ポリプロピレングリコール含有エポキシ樹脂及び硬化剤を含有するものが提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開2008−239890号公報(請求項1)
【特許文献2】特許第5086774号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかるに、近年、自動車のさらなる軽量化を図るために、アルミニウム板に代えてFRP板を用いようとする試みがなされている。鋼板とアルミニウム板の場合は、鋼板に対して、アルミニウム板の線膨張係数が約2倍高いだけであるが、鋼板とFRP板の場合は大きく異なる。すなわち、FRP板の線膨張係数は極めて小さいか又は膨張せずに収縮する場合もある。したがって、硬化後において、より伸びが大きく且つより低い初期弾性率を持つ接着剤を採用しなければ、鋼板及び/又はFRP板に歪みが生じることになる。
【0006】
よって、本発明の課題は、鋼板とFRP板とを加熱硬化型接着剤で接着しても、両者に歪みが生じにくい接着方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、特定の加熱硬化型接着剤を用いることにより、前記した課題を解決したものである。すなわち、本発明は、鋼材とFRP材とを接着するに際し、下記の(a)、(b)、(c)及び(d)を含有してなる加熱硬化型接着剤を用いることを特徴とする鋼材とFRP材の接着方法に関するものである。
(a)は、化1の構造式を持つ変性エポキシ樹脂である。ここで、化1は、
【化1】
なる構造式を持つものであり、式中のnは1〜10である。
(b)は、ブロックウレタン樹脂である。
(c)は、化2又は化3の一般式を持つ反応性希釈剤である。ここで、化2は、
【化2】
なる一般式を持つものであり、式中のRは炭化水素残基又はカルボン酸残基である。また、化3は、
【化3】
なる一般式を持つものであり、式中のRは炭化水素残基又はカルボン酸残基である。
(d)は、硬化剤である。
【0008】
本発明に係る接着方法で用いる鋼材とは、炭素を所定量含有する鉄合金材料のことである。鋼材の形状としては、一般的に板状の鋼板が用いられるが、棒状等の他の形状であってもよい。本発明に係る接着方法で用いるFRP材としては、プラスチック母体中に各種繊維を含有させ強度を高めた複合材料である。各種繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維又はアラミド繊維等が用いられる。特に、炭素繊維強化プラスチックは、安価で軽量であるので、本発明において好ましく用いられる。また、母体としては、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂又はフェノール樹脂等が用いられる。本発明で用いる接着剤はエポキシ樹脂系樹脂の範疇に属するので、FRPの母体としてもエポキシ樹脂を用いるのが好ましい。
【0009】
本発明に係る接着方法で用いる加熱硬化型接着剤は、上記した(a)の変性エポキシ樹脂、(b)のブロックウレタン樹脂、(c)の反応性希釈剤及び(d)の硬化剤を含有するものである。
【0010】
ここで、(a)の変性エポキシ樹脂は、化1なる構造式を持つものである。この変性エポキシ樹脂は、ビスフェノールAとトリエチレングリコールジビニルエーテルを共重合して得られた中間体のOH基をエポキシ化したものである。かかる変性エポキシ樹脂は、硬化後において、トリエチレングリコールジビニルエーテルに由来する基がソフトセグメントとなり、優れた伸びと低い初期弾性率を実現しうる。加熱硬化型接着剤中における変性エポキシ樹脂の重量割合は、約20〜40重量%程度である。
【0011】
(b)のブロックウレタン樹脂は、ウレタンプレポリマーの末端にあるイソシアネート基を活性水素化合物で保護したものである。したがって、常温において安定であり、加熱により活性水素化合物が脱落して、反応性のあるイソシアネート基によって硬化するものである。そして、硬化物はウレタンプレポリマーに由来する基がソフトセグメントとなり、優れた伸びと低い初期弾性率を実現しうる。加熱硬化型接着剤中におけるブロックウレタン樹脂の重量割合は、約10〜30重量%程度である。
【0012】
(c)の反応性希釈剤は、化2又は化3なる一般式を持つものである。化2は単官能の反応性希釈剤であり、化3は二官能の反応性希釈剤である。化2に属する化合物としては、ラウリルグシジリルエーテルや2−エチルヘキシルグリシジルエーテル等のアルキルグリシジルエーテル又はp−第三ブチルフェノールグリシジルエーテル、p−クレゾールグリシジルエーテル或いは第二級ブチルフェニルグリシジルエーテル等の芳香族系グリシジルエーテルが用いられる。また、化3に属する化合物としては、脂肪族ジオールや脂肪族ジカルボン酸のジグリシジルエーテルが用いられる。化2に属する化合物は単官能であるため、硬化物の網目構造を緩和し、硬化物に優れた伸びと低い初期弾性率を与えることができる。化3に属する化合物は二官能であるため、硬化物の網目構造を促進し、硬化物に硬さを与えることができる。すなわち、反応性希釈剤は、硬化物に所望の伸び、所望の初期弾性率及び所望の硬さを与えることができる。加熱硬化型接着剤中における反応性希釈剤の重量割合は、約5〜10重量%程度である。反応性希釈剤の重量割合によって、加熱硬化型接着剤の粘度を調整することができる。
【0013】
(d)の硬化剤は、エポキシ樹脂の硬化剤として公知のものであれば、どのようなものでも用いることができる。特に、ジシアンジアミドやイミダゾール化合物等を用いることができる。加熱硬化型接着剤中における硬化剤の重量割合は、約1〜10重量%程度である。
【0014】
加熱硬化型接着剤中には、上記(a)〜(d)の化合物の他に、充填材や着色剤等の従来公知の任意の第三成分を含有していてもよい。特に、炭酸カルシウムや酸化カルシウム等の充填材は、増量や粘度調整のために含有しておくのが好ましい。加熱硬化型接着剤中における充填材の重量割合は、約20〜40重量%程度である。
【0015】
加熱硬化型接着剤の性状は任意であるが、一般的にはペースト状である。したがって、被着体である鋼材及び/又はFRP材に塗布した後、100〜200℃程度に加熱して硬化させることにより、鋼材とFRP材を接着させることができる。硬化した接着剤皮膜は、伸びやすく且つ初期弾性率の低いものである。具体的には、伸び率が200%以上で、初期弾性率が0.1〜3MPaである。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る接着方法で、鋼材とFRP材を接着すると、両者を接着している接着剤皮膜が伸びやすく且つ初期弾性率が低いため、加熱硬化時から冷却して常温にしたとき、線膨張係数の相違から鋼材とFRP材の寸法が大きく変化するが、この変化に接着剤皮膜が追随する。よって、鋼材及び/又はFRP材に歪みが発生しにくいという効果を奏する。
【実施例】
【0017】
[加熱硬化型接着剤1]
下記化合物を均一に混合し、ペースト状の加熱硬化型接着剤1を準備した。
変性エポキシ樹脂(化1の構造式を持つもので分子量が900) 80重量部
(DIC社製、商品名;EXA4850−150)
ブロックウレタン樹脂 50重量部
(ADEKA社製、商品名;QR9466)
反応性希釈剤(p−クレゾールグリシジルエーテル) 20重量部
(ADEKA社製、商品名;ED529)
硬化剤(ジシアンジアミド) 5重量部
硬化剤(イミダゾール化合物) 1.5重量部
(四国化成社製、商品名;2MA−OK)
充填材(炭酸カルシウム及び酸化カルシウム) 75.5重量部
【0018】
[加熱硬化型接着剤2]
硬化材(ジシアンジアミド)の配合量を5重量部から3重量部に変更した他は、加熱硬化型接着剤1と同一の組成の加熱硬化型接着剤2を準備した。
【0019】
[加熱硬化型接着剤3]
反応性希釈剤として、p−クレゾールグリシジルエーテルに代えて、p−第三ブチルフェノールのグリシジルエーテル(ADEKA社製、商品名;ED509E)を用いる他は、加熱硬化型接着剤1と同一の組成の加熱硬化型接着剤3を準備した。
【0020】
[加熱硬化型接着剤4]
反応性希釈剤として、p−クレゾールグリシジルエーテルに代えて、アルキルグリシジルエーテル(ビイ・ティ・アイ・ジャパン社製、商品名;AED−9)を用いる他は、加熱硬化型接着剤1と同一の組成の加熱硬化型接着剤4を準備した。
【0021】
[加熱硬化型接着剤5]
反応性希釈剤として、p−クレゾールグリシジルエーテルに代えて、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル(日油社製、商品名;エピオールEH−N)を用いる他は、加熱硬化型接着剤1と同一の組成の加熱硬化型接着剤5を準備した。
【0022】
[加熱硬化型接着剤6]
反応性希釈剤として、p−クレゾールグリシジルエーテルに代えて、第二級ブチルフェニルグリシジルエーテル(日油社製、商品名;エピオールSB)を用いる他は、加熱硬化型接着剤1と同一の組成の加熱硬化型接着剤6を準備した。
【0023】
[加熱硬化型接着剤7]
反応性希釈剤として、p−クレゾールグリシジルエーテルに代えて、o−フェニルフェノールグリシジルエーテル(阪本薬品工業社製、商品名;SY−OPG)を用いる他は、加熱硬化型接着剤1と同一の組成の加熱硬化型接着剤7を準備した。
【0024】
[加熱硬化型接着剤8]
下記化合物を均一に混合し、ペースト状の加熱硬化型接着剤8を準備した。
NBR変性エポキシ樹脂 45重量部
(ADEKA社製、商品名;EPR2007)
BPA型エポキシ樹脂 60重量部
(DIC社製、商品名;エピクロン850)
反応性希釈剤(1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル)20重量部
(ADEKA社製、商品名;ED503)
硬化剤(ジシアンジアミド) 6重量部
充填材(炭酸カルシウム及び酸化カルシウム) 77重量部
【0025】
実施例1〜7及び比較例1
縦横外辺850mm、縦横内辺680mmで厚さ1.2mmの額縁状鋼板の表面に加熱硬化型接着剤1〜8を塗布した後、縦横850mmで厚さ3.0mmの炭素繊維強化プラスチック(CFRP)板を重ね合わせた。そして、170℃で20分間加熱することにより、両者を接着した後に冷却して、鋼板とCFRP板が接着された複合材料を得た。加熱硬化型接着剤1〜7を用いて得られた複合材(実施例1〜7による複合材)は、加熱硬化型接着剤8を用いて得られた複合材(比較例1による複合材)に比べて、CFRP板の歪みが少ないものであった。また、加熱加工型接着剤1〜8を170℃で20分硬化させて得られた接着剤皮膜の伸び率(%)及び初期弾性率(MPa)を測定した。この測定は、接着剤皮膜をJIS K 6251に記載された1号形ダンベル状に成型して得られた試験片を、オートグラフ(島津製作所社製、型番:AG−IS)を用い引張速度50mm/分で引張試験を行い、試験片が切断するまでの応力ひずみ線図を得た。そして、この応力ひずみ線図に基づき、切断時の伸び率(%)及び初期弾性率(MPa)を測定した。この結果を表1に示した。
【0026】
[表1]
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
伸び率(%) 初期弾性率(MPa)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
実施例1 370 0.6
実施例2 540 0.2
実施例3 330 2.5
実施例4 240 0.9
実施例5 300 0.6
実施例6 340 0.7
実施例7 310 2.8
比較例1 3 2500
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【0027】
表1の結果から理解しうるように、実施例1〜7に係る接着方法で得られた複合材は、比較例1に係る接着方法で得られた複合材に比べて、CFRP板の歪みが少ないものであった。