【実施例】
【0039】
以下に、具体的な実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
(金属皮膜における各層の膜厚測定、及び金属皮膜の表面抵抗率測定)
以下の実施例及び比較例において、金属皮膜の膜厚は、微小部蛍光X線分析装置(株式会社堀場製作所製、XGT−5000)を用いて測定した。金属皮膜の表面抵抗率は、低抵抗率計(株式会社三菱化学アナリテック製、ロレスターGX)、又は高抵抗率計(株式会社三菱化学アナリテック製、ハイレスターUX)を用いて測定した。
【0041】
(ミリ波透過性の評価試験)
以下の実施例及び比較例においては、以下に説明する評価試験方法によって、樹脂部材のミリ波透過性を評価した。高周波ネットワークアナライザー(アジレント・テクノロジー株式会社製、E8362C)に接続した送信アンテナ及び受信アンテナを、互いに対向するように、アクリルレール上に設置した。両アンテナ間の距離は、6cmとした。さらに、両アンテナの筐体間で起こる多重反射を抑制しSN比(信号雑音比)を向上させるため、両アンテナの筐体をアルミホイルで覆った。樹脂基材の片面に金属皮膜を形成した縦5cm、横5cm、厚さ1ないし3mmの平板状の試料を、両アンテナを結ぶ直線の中間地点に設置し、送信アンテナから試料へとミリ波を照射し、試料を透過して受信アンテナへと入射するミリ波の強度を測定した。測定周波数は、75〜110GHzとした。
【0042】
上記の試験方法によりミリ波透過性が定量的に評価できることを確認するため、ミリ波透過性を把握している、又は予測できる試料を用いて、各周波数におけるミリ波の減衰を測定した。樹脂基材には、ABS樹脂(株式会社コクゴ製、ABSシート)を使用した。試料には、ABS樹脂のみ、「インジウム(10nm)」(厚さ10nmのインジウム皮膜を形成した試料)、「インジウム(16nm)」(厚さ16nmのインジウム皮膜を形成した試料)、「クロム(11nm)」(厚さ11nmのクロム皮膜を形成した試料)、及び「クロム(20nm)」(厚さ20nmのクロム皮膜を形成した試料)を用いた。なお、上記の金属皮膜の形成は、RFスパッタリング装置(キャノンアネルバ株式会社製、SPF−332H)を用いて、真空到達0.001Pa以下、Arのガス圧5Pa、出力100Wの条件で実施した。測定結果をグラフにしたものを、
図1に示す。
図1のグラフは、空間をゼロ基準としたミリ波のエネルギーの減衰を表しており、ミリ波のエネルギーが1/10となった場合、減衰は−20dBとなる。
図1において、11はABS樹脂のみ、12は空間、13は「インジウム(10nm)」、14は「インジウム(16nm)」、15は「クロム(11nm)」、16は「クロム(20nm)」のグラフを表す。
【0043】
図1のグラフを見ると、ABS樹脂のみの場合は空間とほぼ変わらない減衰を示し、特に、85GHz近傍では、ほぼ完全に同等である。ミリ波透過性が高いことが知られているインジウムを用いている「インジウム(10nm)」、及び「インジウム(16nm)」は、両者とも、100GHz付近まで、ABS樹脂のみの場合と同様の減衰を示した。一方、金属光沢が認められる程度の厚みになると導体となり、表面抵抗率が下がることが知られているクロムを用いている「クロム(11nm)」では、金属皮膜の膜厚が同程度である「インジウム(10nm)」よりも、大きな減衰を示した。また、「クロム(20nm)」は、「クロム(11nm)」よりもさらに大きな減衰を示した。これらの結果から、上記のミリ波透過性の評価試験により、金属皮膜のミリ波透過性が定量的に測定できていると判断した。
【0044】
なお、以下に記載するミリ波の減衰は、上記の測定方法により測定した各周波数におけるミリ波の減衰を、実際にミリ波レーダ装置で用いられている75〜81GHzの領域で平均したものを表す。また、ミリ波透過率(%)は、ミリ波の減衰(dB)から換算したものである。
【0045】
(金属皮膜の微視的な表面構造の観察)
以下の実施例及び比較例において、金属皮膜の微視的な表面構造は、電界放出型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM−7001F)を用いて5万倍の倍率で実施した。
【0046】
(基材と金属皮膜との密着性評価試験)
以下の実施例及び比較例において、基材と金属皮膜との密着性は、JIS K5600−5−6に定められているクロスカット法試験に準じて評価した。密着性評価試験の概要は以下の通りである。まず、鋭利なカッターを用いて、試料に、試料の基材まで達する碁盤目状(1マス:1mm×1mm)の切り込みを入れた。次に、規定の付着力のテープを貼り、そのテープを引き剥がした。10マス×10マス内において、金属皮膜の剥離が生じているクロスカット部分の表面の状態を観察し、表1に示す評価基準に従い、基材と金属皮膜との密着性を評価した。
【0047】
【表1】
【0048】
(金属皮膜の耐久性評価試験)
以下の実施例及び比較例において、金属皮膜の耐久性は、金属皮膜上にトップコート層を形成した後に、ヒートサイクル試験を行なうことにより評価した。ヒートサイクル試験は、JIS H8502に定められているめっきの耐食性試験方法の中性塩水噴霧サイクル試験に準じて行なった。ヒートサイクル試験の概要は以下の通りである。まず、温度35±1℃の条件下で2時間、試料に5%塩化ナトリウム水溶液(pH7)を噴霧した。次に、温度60±1℃、相対湿度20〜30%の条件下で4時間、試料を乾燥させた。次に、温度50±1℃、相対湿度95%の条件下で2時間、試料を湿潤させた。上記を1サイクルとして、3サイクルで試験を行ない、金属皮膜の耐久性を評価した。
【0049】
(スパッタリング条件)
以下の実施例及び比較例において、金属皮膜の形成は、RFスパッタリング装置(キャノンアネルバ株式会社製、SPF−332H)を用いて、真空到達度0.001Pa以下、Arのガス圧5Pa、出力100Wの条件で実施した。
【0050】
(実施例1)
ABS樹脂(株式会社コクゴ製、ABSシート)を用いて、縦5cm、横5cm、厚さ1mmの平板状の透明樹脂基材を作製した。次に、該樹脂基材の一方の面に錫を5秒間スパッタリングし、A層を形成した。次に、A層の上に、アルミニウム合金(Al:94.8質量%、Cu:4質量%、Si:0.5質量%、Mg:0.7質量%)を12秒間スパッタリングしてB層を形成し、実施例1の樹脂部材を得た。A層の厚さは8nm、B層の厚さは4nmであった。上記の方法により、ミリ波の減衰を測定し、測定されたミリ波の減衰からミリ波の透過率を算出した。結果を表2に示す。なお、透明樹脂基材のみについて、ミリ波の減衰を測定したところ、ミリ波の減衰は−0.19dBであり、ミリ波の透過率は、97.8%であった
【0051】
(実施例2〜3)
A層を形成する際のスパッタリング時間を表2に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法を用いて、実施例2〜3の樹脂部材を製造した。実施例2〜3の樹脂部材における各層の膜厚、ミリ波の減衰、及びミリ波の透過率について、表2に示す。実施例2については、上記の高抵抗率計を用いて、表面抵抗率の測定も行なった。表面抵抗率の測定結果についても表2に示す。
【0052】
(実施例4〜6)
A層を形成する金属として錫・9質量%亜鉛合金(Sn9Zn)を用い、A層及びB層を形成する際のスパッタリング時間を表2に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法を用いて、実施例4〜6の樹脂部材を製造した。実施例4〜6の樹脂部材における各層の膜厚、ミリ波の減衰、及びミリ波の透過率について、表2に示す。
【0053】
(比較例1〜3)
B層を形成しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法を用いて、比較例1の樹脂部材を製造した。また、A層を形成する際のスパッタリング時間を、表2に示すように変更したこと以外は、比較例1と同様の方法により、比較例2〜3の樹脂部材を製造した。
【0054】
(比較例4〜9)
A層を形成する金属として錫・9質量%亜鉛合金を用い、A層を形成する際のスパッタリング時間を表2に示すように変更したこと以外は、比較例1と同様の方法を用いて、比較例4〜9の樹脂部材を製造した。
【0055】
(比較例10)
実施例1と同様の透明樹脂基材の一方の面に、インジウムを10秒間スパッタリングして金属皮膜を形成し、比較例10の樹脂部材を得た。
【0056】
比較例1〜10の樹脂部材における金属皮膜の膜厚、ミリ波の減衰、及びミリ波の透過率について、表2に示す。比較例1、2、5、及び10については、上記の高抵抗率計を用いて、また、比較例3については上記の低抵抗率計を用いて、表面抵抗率の測定も行なった。表面抵抗率の測定結果についても表2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
(実施例7)
樹脂基材として、軟質アクリル樹脂(株式会社クラレ製、パラペットSA−1000NH201)を用いたこと、及び、B層の上に、錫を5秒間スパッタリングしてC層を形成したこと以外は、実施例1と同様の方法を用いて、実施例7の樹脂部材を製造した。C層の厚みは、8nmであった。実施例7の樹脂部材におけるミリ波の減衰、ミリ波の透過率、及び表面抵抗率を、表3に示す。なお、基材として用いた軟質アクリル樹脂は、それ自体が−1.47dBのミリ波の減衰を示すため、表3に示す実施例7のミリ波の減衰は、実際の測定値に、1.47dBを加えた値としている。表3に示す通り、実施例7の樹脂部材は、ミリ波の透過性が良好であり、かつ、金属光沢及び反射率のいずれも良好であった。
【0059】
(実施例8)
軟質アクリル樹脂(株式会社クラレ製、パラペットSA−1000NH201)を用いて、エンブレムを成形した。成形したエンブレムの一方の面に、アクリルウレタン樹脂(藤倉化成株式会社製、フジハードVB3218A−2)を乾燥後の膜厚が15μmとなるようにスプレー塗布し、75℃、60分間の条件で乾燥させ、アンダーコート層を形成した。アンダーコート層の上に、錫を5秒間スパッタリングしてA層を形成し、A層の上に実施例1で用いたアルミニウム合金を15秒間スパッタリングしてB層を形成して、実施例8の樹脂部材を製造した。
【0060】
(実施例9〜10)
A層を形成する金属として錫・9質量%亜鉛合金を用いたこと、及びA層及びB層を形成する際のスパッタリング時間を表3に示すように変更したこと以外は、実施例8と同様の方法を用いて、実施例9〜10の樹脂部材を製造した。
【0061】
実施例8〜10の樹脂部材におけるミリ波の減衰、及びミリ波の透過率を、表3に示す。なお、基材として用いたエンブレムは、それ自体が−0.77dBのミリ波の減衰を示すため、表3に示す実施例8〜10のミリ波の減衰は、実際の測定値に、0.77dBを加えた値としている。また、実施例10については、表面抵抗率の測定も行なった。表面抵抗率の測定結果を、表3に示す。
【0062】
(比較例11〜14)
金属皮膜の構成を表3に示すように変更したこと以外は、実施例8と同様の方法を用いて、比較例11〜14の樹脂部材を製造した。比較例11〜14の樹脂部材におけるミリ波の減衰、及びミリ波の透過率を、表3に示す。なお、実施例8〜10と同様に、表3に示す比較例11〜14のミリ波の減衰は、実際の測定値に、0.77dBを加えた値としている。
【0063】
【表3】
【0064】
アンダーコート層の有無によって、ミリ波の透過性や金属皮膜の耐久性が変化するか否かを確認するため、以下のような試験を行なった。実施例8、比較例11、及び比較例14の樹脂部材について、金属皮膜の上にアクリルウレタン樹脂(藤倉化成株式会社製、フジハードVT3265A)を乾燥後の膜厚が15μmとなるようにスプレー塗布し、70℃、60分間の条件で乾燥させ、トップコート層を形成した。これらの樹脂部材について、ミリ波の減衰の測定、及びクロスカット試験を実施した。その後、ヒートサイクル試験を実施し、ヒートサイクル試験後の樹脂部材についても、ミリ波の減衰の測定、及びクロスカット試験を実施した。結果を表4に示す。
【0065】
【表4】
【0066】
実施例8、比較例11、及び比較例14の樹脂部材を、アンダーコート層を形成せずに製造した。これらの樹脂部材及び実施例7の樹脂部材について、上記と同様の方法を用いてトップコート層を形成した。得られた樹脂部材について、ミリ波の減衰の測定、及びクロスカット試験を実施した。その後、ヒートサイクル試験を実施し、ヒートサイクル試験後の樹脂部材についても、ミリ波の減衰の測定、及びクロスカット試験を実施した。結果を表4に示す。
【0067】
【表5】
【0068】
表5に示した実施例8についての結果から、金属皮膜の最外層にアルミニウム合金からなる層が存在すると、ヒートサイクル試験後に、金属皮膜の表面が褐色化しやすい傾向にある。しかし、このような金属皮膜の表面における状態の変化は、実施例7のように、さらにその上に、錫からなる層を形成することで改善できる。
【0069】
実施例2、7、及び10、並びに、比較例1〜3、5、及び10について、金属皮膜の微視的な表面構造を観察した。得られた顕微鏡写真を、それぞれ
図2〜9に示す。
図4と
図8とを比較すると、錫合金層の上にさらにアルミニウム層を形成した
図4では、島状構造がさらに顕著になっていることがわかる。