【解決手段】シリンダボアを有する内燃機関のシリンダブロックの溝状冷却水流路に設置され、全シリンダボアのボア壁のうちの片側半分のボア壁を保温するための保温具であり、該溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面に接触し、該溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面を覆うためのゴム部と、該溝状冷却水流路の片側半分の形状に沿う形状を有し、該ゴム部又は該ゴム部が固定されている部材が固定される基体部と、該ゴム部全体が背面側から該溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面に向かって押し付けられるように付勢するための弾性部材と、を有し、基体部の各ボア部の境界近傍、且つ、冷却水の流れ方向で、基体部の各ボア部の境界の手前側に縦壁を有することを特徴とするシリンダボア壁の保温具。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のシリンダボア壁の保温具及び本発明の内燃機関について、
図1〜
図7を参照して説明する。
図1〜
図3は、本発明のシリンダボア壁の保温具が設置されるシリンダブロックの形態例を示すものであり、
図1は、本発明のシリンダボア壁の保温具が設置されるシリンダブロックを示す模式的な平面図であり、
図2は、
図1のx−x線断面図であり、
図3は、
図1に示すシリンダブロックの斜視図である。
図4は、本発明のシリンダボア壁の保温具の形態例を示す模式的な斜視図である。
図5は、
図4中のシリンダボア壁の保温具20を上から見た図である。
図6は、
図4中のシリンダボア壁の保温具20を横から見た図であり、ゴム部22の接触面側から見た図である。
図7は、
図4中のシリンダボア壁の保温具20を横から見た図であり、背面側から見た図である。
【0017】
図1〜
図3に示すように、シリンダボア壁の保温具が設置される車両搭載用内燃機関のオープンデッキ型のシリンダブロック11には、ピストンが上下するためのボア12、及び冷却水を流すための溝状冷却水流路14が形成されている。そして、ボア12と溝状冷却水流路14とを区切る壁が、シリンダボア壁13である。また、シリンダブロック11には、溝状冷却水流路11へ冷却水を供給するための冷却水供給口15及び冷却水を溝状冷却水流路11から排出するための冷却水排出口16が形成されている。
【0018】
このシリンダブロック11には、2つ以上のボア12が直列に並ぶように形成されている。そのため、ボア12には、1つのボアに隣り合っている端ボア12a1、12a2と、2つのボアに挟まれている中間ボア12b1、12b2とがある(なお、シリンダブロックのボアの数が2つの場合は、端ボアのみである。)。直列に並んだボアのうち、端ボア12a1、12a2は両端のボアであり、また、中間ボア12b1、12b2は、一端の端ボア12a1と他端の端ボア12a2の間にあるボアである。端ボア12a1と中間ボア12b1の間の壁、中間ボア12b1と中間ボア12b2の間の壁及び中間ボア12b2と端ボア12a2の間の壁(ボア間壁7)は、2つのボアに挟まれる部分なので、2つのシリンダボアから熱が伝わるため、他の壁に比べ壁温が高くなる。そのため、溝状冷却水流路14のシリンダボア側の壁面17では、ボア間壁7の近傍が、温度が最も高くなるので、溝状冷却水流路14のシリンダボア側の壁面17のうち、各ボア部の境界6及びその近傍の温度が最も高くなる。
【0019】
また、本発明では、溝状冷却水流路14の壁面のうち、シリンダボア13側の壁面を、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面17と記載し、溝状冷却水流路14の壁面のうち、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面17とは反対側の壁面を壁面18と記載する。
【0020】
図4〜
図7に示すシリンダボア壁の保温具20は、基体部21と、ゴム部22と、金属板バネ23と、からなり、基体部21の背面側に、縦壁28を有する。
【0021】
ゴム部22は、上から見たときに、4つの円弧が連続する形状に成形されており、ゴム部22の接触面25側の形状は、溝状冷却水流路14のシリンダボア側の壁面に沿う形状である。ゴム部22は、溝状冷却水流路14のシリンダボア側の壁面に直接接触して、溝状冷却水流路14のシリンダボア側の壁面の保温箇所を覆い、保温するための部材である。ゴム部22は、基体部21の上側及び下側に形成されている折り曲げ部24が折り曲げられて、基体部21と折り曲げ部24の間に挟み込まれることにより、基体部21に固定されている。ゴム部22では、基体部21側とは反対側のゴム部22の面が、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面17に接する接触面25である。
【0022】
基体部21は、金属板からなり、上から見たときに、4つの円弧が連続する形状に成形されており、基体部21の形状は、ゴム部22の背面側(接触面25側とは反対側の面)に沿う形状である。
【0023】
シリンダボア壁の保温具20のゴム部22は、溝状冷却水流路14のボア側の壁面うち、一端の端ボア12a1側の壁面に接するゴム部の各ボア部35a1と、他端の端ボア12a2側の壁面に接するゴム部の各ボア部35a2と、中間ボア12b1、12b2側の壁面に接するゴム部の各ボア部35b1、35b2と、からなる。ゴム部の各ボア部35a1は、一端の端ボア12a1側の壁面を保温するためのゴム部であり、ゴム部の各ボア部35a2は、他端の端ボア12a2側の壁面を保温するためのゴム部であり、ゴム部の各ボア部35b1、35b2は、それぞれ、中間ボア12b1、12b2側の壁面を保温するためのゴム部である。
【0024】
シリンダボア壁の保温具20の基体部21は、一端の端ボア12a1側から他端の端ボア12a2側までが1つの金属板で形成されている。よって、シリンダボア壁の保温具20の基体部21は、一端の端ボア12a1側の基体部の各ボア部29a1と、中間ボア12b1、12b2側の基体部の各ボア部29b1、29b2と、他端の端ボア12a2側の基体部の各ボア部29a2とが、繋がっている。基体部の各ボア部29a1と29b1との境目が、基体部の各ボア部の境界30aであり、基体部の各ボア部29b1と29b2との境目が、基体部の各ボア部の境界30bであり、基体部の各ボア部29b2と29a2との境目が、基体部の各ボア部の境界30cである。
【0025】
基体部21には、基体部21と共に一体成形されることにより形成される金属板バネ23が付設されている。この金属板バネ23は、材質が金属であり且つ板状の弾性体である。そして、金属板バネ23は、一端側26が基体部21から離れるように、基体部21に繋がっている他端側27で、基体部21から折り曲げられることにより、基体部21に付設されている。
【0026】
そして、シリンダボア壁の保温具20は、背面側に縦壁28を有する。縦壁28が設置される位置は、シリンダボア壁の保温具20が、シリンダブロックの溝状冷却水流路に設置されたときに、冷却水の流れ方向で、基体部21の各ボア部の境界30の手前側である。また、縦壁28の上下方向の設置範囲は、下端は、基体部21の下端までであり、また、上端は、基体部21の上端より少し下までである。
【0027】
シリンダボア壁の保温具20の使用形態について、
図8〜
図11を参照して説明する。シリンダボア壁の保温具20は、例えば、
図8に示すように、
図1に示すシリンダブロック11の溝状冷却水流路14に挿入され、
図10及び
図11に示すように、全溝状冷却水流路のうちの、一方の片側半分の溝状冷却水流路14aに設置される。また、
図10及び
図11中、他方の片側半分の溝状冷却水流路14bに設置されている保温具は、シリンダボア壁の保温具40であり、このシリンダボア壁の保温具40を
図9に示す。
図9中、シリンダボア壁の保温具40は、シリンダブロックの溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面を覆うためのゴム部42と、ゴム部42が固定される基体部41と、基体部41がゴム部42を溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面に向かって押し付けるように付勢するための金属板バネ43と、からなり、基体部21の一方の端部に、冷却水流れ仕切り部材38を有する。そして、シリンダボア壁の保温具40と、シリンダボア壁の保温具20とは、前者は、一方の端部に冷却水流れ仕切り部材38を有するのに対し、後者は、冷却水流れ仕切り部材を有さない点、及び前者は、基体部の背面側に縦壁を有さないのに対し、後者は、基体部の背面側に縦壁を有する点は、相違するものの、両者は、その他の点、すなわち、基体部、ゴム部及び金属板バネは、同様である。
【0028】
なお、本発明において、溝状冷却水流路のシリンダボア側の全壁面のうちの片側半分側の壁面とは、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面を、シリンダボアが並んでいる方向で垂直に二分割したときの片側の半分の壁面を指す。例えば、
図10では、シリンダボアが並んでいる方向がZ−Z方向であり、このZ−Z線で垂直に二分割したときの片側半分の壁面のそれぞれが、溝状冷却水流路のシリンダボア側の全壁面のうちの片側半分の壁面である。また、片側半部の溝状冷却水流路とは、全溝状冷却水流路を、シリンダボアが並んでいる方向で垂直に二分割したときの片側の半分の溝状冷却水流路を指す。例えば、
図10では、Z−Z線で垂直に二分割したときの片側半分の溝状冷却水流路のそれぞれが、片側半分の溝状冷却水流路である。つまり、
図10では、Z−Z線の171a側半分の壁面が、溝状冷却水流路のシリンダボア側の全壁面17のうちの一方の片側半分の壁面17aであり、171b側半分の壁面が、溝状冷却水流路のシリンダボア側の全壁面17のうちの他方の片側半分の壁面17bである。また、Z−Z線の171a側半分の溝状冷却水流路が、一方の片側半分の溝状冷却水流路14aであり、Z−Z線の171b側半分の溝状冷却水流路が、一方の片側半分の溝状冷却水流路14bである。
【0029】
このとき、シリンダボア壁の保温具20では、ゴム部22の接触面25から金属板バネ23の一端側26までの距離が、溝状冷却水流路14の幅よりも大きくなるように、金属板バネ23が付設されている。そのため、シリンダボア壁の保温具20が、溝状冷却水流路14に設置されると、金属板バネ23が、基体部21及びゴム部22と壁面18との間に挟まれることにより、金属板バネ23の一端側26には、基体部21に向かう方向に力が加えられる。このことにより、金属板バネ23は、一端側26が基体部21側に近づくように変形するので、金属板バネ23には、元に戻ろうとする弾性力が生じる。そして、この弾性力により、基体部21は、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面17に向かって押され、その結果、基体部21により、ゴム部22が、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面17に押し付けられる。つまり、シリンダボア壁の保温具20が、溝状冷却水流路14に設置されることにより、金属板バネ23が変形し、その変形が戻ろうとして生じる弾性力により、ゴム部22を溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面17に押し付けるように、基体部21が付勢される。このようにして、シリンダボア壁の保温具20は、ゴム部22が、溝状冷却水流路のシリンダボア側の全壁面17のうちの一方の片側半分の壁面17aに接触する。また、シリンダボア壁の保温具40についても同様である。
【0030】
図12は、シリンダボア壁の保温具20及びシリンダボア壁の保温具40が、シリンダブロック11の溝状冷却水流路14に設置されて、溝状冷却水流路14内に、冷却水が流されたときの様子を示す図である。冷却水の流れ方向を符号39の矢印で示すが、冷却水は、先ず、冷却水供給口15より、溝状冷却水流路14内に供給される。そして、溝状冷却水流路14の冷却水供給口15と冷却水排出口16との間には、冷却水流れ仕切り部材38が設置されているので、冷却水供給口15より供給された冷却水は、
図12中、矢印39で示すように、他方の片側半分の溝状冷却水流路14bを、冷却水供給口15の位置とは反対側の端に向かって流れ、他方の片側半分の溝状冷却水流路14bの冷却水供給口15の位置とは反対側の端まで来ると、一方の片側半分の溝状冷却水流路14aに回り、次いで、一方の片側半分の溝状冷却水流路14aを、冷却水排出口16に向かって流れ、最後に、冷却水排出口16から排出される。
【0031】
このとき、一方の片側半分の溝状冷却水流路14aには、シリンダボア壁の保温具20が設置されている。そして、このシリンダボア壁の保温具20の背面側には、縦壁28が設置されている。基体部の各ボア部29b2に着目すると、基体部の各ボア部の境界30cから境界30bまでが、基体部の各ボア部29b2である。縦壁28bは、基体部の各ボア部29b2の背面側に設置されている。また、一方の片側半分の溝状冷却水流路14aでは、冷却水は、境界30cから境界30bに流れているので、縦壁28bは、冷却水の流れ方向で、基体部の各ボア部の境界30bの手前側に設置されている。そして、基体部の各ボア部29b2の背面側を流れる冷却水の大部分が、基体部の各ボア部の境界30bの手前に設置されている縦壁28b当たることになる。
【0032】
なお、
図10に示す形態例では、一方の片側半分の溝状冷却水流路14aを端まで流れた冷却水が、シリンダブロック11の横側に形成されている冷却水排出口16から排出される形態のシリンダブロックを記載したが、他には、例えば、冷却水供給口15より供給された冷却水が、他方の片側半分の溝状冷却水流路14bを、冷却水供給口15の位置とは反対側の端に向かって流れ、他方の片側半分の溝状冷却水流路14bの冷却水供給口15の位置とは反対側の端まで来ると、一方の片側半分の溝状冷却水流路14aに回り、次いで、一方の片側半分の溝状冷却水流路14aを一方の端から他方の端まで流れ、一方の片側半分の溝状冷却水流路14aを一方の端から他方の端まで流れた冷却水が、シリンダブロックの横側から排出されるのではなく、シリンダヘッドに形成されている冷却水流路に流れ込む形態のシリンダブロックがある。
【0033】
シリンダボア壁の保温具20が設置されている溝状冷却水流路14a内の基体部21の背面側の冷却水の流れを詳細に説明する。
図13は、縦壁28bが設置されている位置の近傍の冷却水の流れを示す図であり、(A)は斜視図であり、(B)は背面側の横から見た図である。
図13中、基体部の各ボア部29b2の背面側を流れた冷却水47は、冷却水47の流れ方向で境界30bの手前に設置されている縦壁28bに当たる。縦壁28bに当たった冷却水47は、上方に流れを変えて、縦壁28bに沿って上方へと流れる。そして、縦壁28bの上端まで流れた冷却水47は、溝状冷却水流路の上部を流れ、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面17の上部の各シリンダボアのボア壁の境界6に向かって流れていく。このように、基体部の各ボア部29b2の部分では、溝状冷却水流路の中下部46を流れた冷却水47が、縦壁28bにより、上方に流れを変え、縦壁28bに沿って上方に流れ、縦壁28bの上端まで来ると、溝状冷却水流路の上部45を流れ、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面17の上部の各シリンダボアのボア壁の境界6に向かって流れる。
【0034】
そして、シリンダボア壁の保温具20の背面側、言い換えると、溝状冷却水流路の中下部を流れる冷却水は、溝状冷却水流路の上部を流れる冷却水に比べ、温度が低いので、シリンダボア壁の保温具20によれば、縦壁28により、温度が低いシリンダボア壁の保温具20の背面側の冷却水を、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面のうち、最も温度が高くなる上部の各シリンダボアのボア壁の境界6及びその近傍に流れ込ませることができる。そのため、シリンダボア壁の保温具20は、溝状冷却水流路の上部のシリンダボア側の壁面の冷却効率が高くなる。
【0035】
なお、
図12に示すように、縦壁28と溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面とは反対側の壁面18との間には、隙間があるので、一方の片側半分の溝状冷却水流路14aでは、シリンダボア壁の保温具20の背面側、すなわち、溝状冷却水流路の中下部を流れる冷却水の全てが、縦壁28により流れを変えて、溝状冷却水流路の上部へ流れるのではなく、溝状冷却水流路の中下部を流れる冷却水のうち、少量は、縦壁28と壁面18との隙間を通って、溝状冷却水流路の中下部を流れ続ける。また、
図12中、他方の片側半分の溝状冷却水流路14bの中下部に設置されているのは、シリンダボア壁の保温具40であり、このシリンダボア壁の保温具40は、背面側に縦壁を有さない。そのため、シリンダボア壁の保温具40の背面側、すなわち、溝状冷却水流路14bの中下部を流れる冷却水の大部分は、溝状冷却水流路14bの中下部を流れ続ける。
【0036】
シリンダボア壁の保温具20は、例えば、
図14〜
図18に示す方法により製造される。なお、本発明のシリンダボア壁の保温具は、以下に示す方法により製造されるものに限定されるものではない。
【0037】
先ず、
図14に示す矩形の金属板34から、点線で示す切り落とし部分32及び33を切り落とし、
図15に示す成形前の基体部21を作製する。基体部21には、上側及び下側に、折り曲げ部24が形成されており、中央部に、金属板バネ23が、基体部21と一体になって形成されている。
【0038】
次いで、
図16に示すように、成形前の基体部21を、ゴム部22の背面側(
図14に示すゴム部22の背面33側)に沿う形状に成形する。
【0039】
次いで、
図17に示すように、基体部21の背面側の所定の位置に、縦壁28をかしめて固定して設置する。そして、接触面25側が溝状冷却水流路14のシリンダボア側の壁面17に沿う形状に成形されたゴム部22と、成形後の基体部21を合わせる。
【0040】
次いで、
図18に示すように、折り曲げ部24をゴム部側に折り曲げて、折り曲げ部24と基体部21とでゴム部22を挟み込むことにより、基体部21にゴム部22を固定する。また、金属板バネ23を折り曲げる。なお、
図18中、二点鎖線で囲んだ部分Aに、折り曲げ部24及び金属バネ23を折り曲げる前の位置を、点線で示した。
【0041】
本発明のシリンダボア壁の保温具の他の形態例について、
図19〜
図22を参照して説明する。
図19〜
図22に示すシリンダボア壁の保温具56は、4つの各ボア壁保温部55と、各ボア壁保温部55が固定される基体部54と、を有する。つまり、シリンダボア壁の保温具56では、基体部54の4か所に、各ボア壁保温部55が1つずつ固定されている。そして、シリンダボア壁の保温具56では、各ボア壁保温部55は、各ボア壁保温部55に形成されている折り曲げ部57が折り曲げられて、基体部54の上下端部を、折り曲げ部57が挟み込むことにより、基体部54に、各ボア壁保温部55が固定されている。
【0042】
シリンダボア壁の保温具56は、例えば、
図10に示すシリンダブロック11の一方の片側半分の溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面17aを保温するための保温具である。シリンダブロック11の一方の片側半分の溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面17aには、4つの各シリンダボアのボア壁がある。そして、シリンダボア壁の保温具56には、各シリンダボアのボア壁毎に、各ボア壁保温部55が設けられる。そのため、シリンダボア壁の保温具56には、4つの各ボア壁保温部55が設けられている。
【0043】
シリンダボア壁の保温具56では、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面側に、ゴム部51の接触面46が向き、ゴム部51の接触面46が、溝状冷却水流路14のシリンダボア側の壁面17に接触できるように、各ボア壁保温部55が固定されている。また、シリンダボア壁の保温具56の背面側では、各ボア壁保温部55に付設されている金属板バネ59が、基体部54の開口62を通って、ゴム部51とは反対側に向けて張り出している。そして、金属板バネの59の張り出した先端63が、溝状冷却水流路14のシリンダボア側の壁面17とは反対側の壁面18に接触する。
【0044】
シリンダボア壁の保温具56に固定されている各ボア壁保温部55は、
図20に示すように、ゴム部51と、背面押し付け部材52と、金属板バネ付設部材53と、からなる。なお、
図20では、保温具56に固定されている各ボア壁保温部55のうち、右端の各ボア壁保温部については、構成部材毎に分離して示した。
【0045】
ゴム部51は、上から見たときに、円弧状に成形されており、ゴム部51の接触面46側の形状は、溝状冷却水流路14のシリンダボア側の壁面に沿う形状である。ゴム部51は、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面の各ボア部に直接接触して、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面の各ボア部の保温箇所を覆い、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面の各ボア部を保温するための部材である。また、背面押し付け部材52は、上から見たときに、円弧状に成形されており、ゴム部51の全体をゴム部51の背面側から押し付けることができるように、ゴム部51の背面側(接触面46側とは反対側の面)に沿う形状である。また、金属板バネ付設部材53は、上から見たときに、円弧状に成形されており、背面押し付け部材52の背面側(ゴム部材51とは反対側の面)に沿う形状であり、弾性部材である金属板バネ59が付設されている。金属板バネ59は、縦長の長方形の金属板であり、長手方向の一端が金属板バネ付設部材53に繋がっている。金属板バネ59は、先端63が金属板バネ付設部材53から離れるように、金属板バネ付設部材53に繋がっている他端側64で、金属板バネ付設部材53から折り曲げられることにより、金属板バネ付設部材53に付設されている。そして、ゴム部51及び背面押し付け部材52は、金属板バネ付設部材53の上側及び下側に形成されている折り曲げ部60が折り曲げられて、金属板バネ付設部材53と折り曲げ部60の間に挟み込まれることにより、金属板バネ付設部材53に固定されている。ゴム部51では、背面押し付け部材52側とは反対側のゴム部51の面が、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面17に接する接触面56である。
【0046】
各ボア壁保温部55は、各シリンダボアのボア壁を保温するための部材であり、シリンダボア壁の保温具56が、シリンダブロック11の溝状冷却水流路14に設置されたときに、溝状冷却水流路14のシリンダボア側の壁面17に、ゴム部51が接触して、ゴム部51で溝状冷却水流路14のシリンダボア側の壁面17を覆い、且つ、弾性部材である金属板バネ59の付勢力で、背面押し付け部材52が、ゴム部51を背面側から溝状冷却水流路14のシリンダボア側の壁面17に向けて押し付けて、ゴム部51を溝状冷却水流路14のシリンダボア側の壁面17に密着させることにより、各ボア壁保温部55が各シリンダボアのボア壁を保温する。
【0047】
基体部54は、上から見たときに、4つの円弧が連続する形状に成形されており、基体部54の形状は、溝状冷却水流路14の片側半分に沿う形状である。また、基体部54には、各ボア壁保温部55に付設されている金属板バネ59が、シリンダボア壁の保温具56の背面側から、基体部54を通り抜けて、溝状冷却水流路14のシリンダボア側の壁面17とは反対側の壁面18に向かって張り出すことができるように、開口62が形成されている。
【0048】
基体部54は、各ボア壁保温部55が固定される部材であり、各ボア壁保温部55の位置が溝状冷却水流路14内でずれないように、各ボア壁保温部35の位置を定める役割を果たす。基体部54は、上から見たときの一端側から他端側まで、連続した金属板で形成されている。
【0049】
そして、シリンダボア壁の保温具56は、背面側に縦壁28を有する。縦壁28が設けられる位置は、シリンダボア壁の保温具56が、シリンダブロックの溝状冷却水流路に設置されたときに、冷却水の流れ方向で、基体部54の各ボア部の境界30の手前側である。また、縦壁28の上下方向の設置範囲は、下端は、基体部54の下端までであり、また、上端は、基体部54の上端より少し下までである。
【0050】
シリンダボア壁の保温具56の作製手順について説明する。
図23に示すように、ゴム部51に、その背面側から、背面押し付け部材52と、金属板バネ59が付設され且つ折り曲げ部60及び折り曲げ部57が形成されている金属板バネ付設部材53と、を順に合わせ、次いで、折り曲げ部60を折り曲げて、
図24に示すように、折り曲げ部60で、背面押し付け部材52及びゴム部51を挟み込ませることにより、金属板バネ付設部材53に、背面押し付け部材52及びゴム部51を固定して、各ボア壁保温部55を作製する。そして、
図25に示すように、支持部54の背面に縦壁28をかしめて設置する。また、各ボア壁保温部55を4つ作製し、基体部54の固定箇所に、折り曲げ部57を折り曲げて、折り曲げ部57で、基体部54を挟み込ませることにより、基体部54に、各ボア壁保温部55を固定して、シリンダボア壁の保温具56を作製する。
【0051】
本発明のシリンダボア壁の保温具は、シリンダボアを有する内燃機関のシリンダブロックの溝状冷却水流路に設置され、全シリンダボアのボア壁のうちの片側半分のボア壁を保温するための保温具であり、
該溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面に接触し、該溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面を覆うためのゴム部と、該溝状冷却水流路の片側半分の形状に沿う形状を有し、該ゴム部又は該ゴム部が固定されている部材が固定される基体部と、該ゴム部全体が背面側から該溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面に向かって押し付けられるように付勢するための弾性部材と、を有し、
冷却水の流れ方向で、基体部の各ボア部の境界の手前側に縦壁を有することを特徴とするシリンダボア壁の保温具である。
【0052】
本発明のシリンダボア壁の保温具は、内燃機関のシリンダブロックの溝状冷却水流路に設置される。本発明のシリンダボア壁の保温具が設置されるシリンダブロックは、シリンダボアが直列に2つ以上並んで形成されているオープンデッキ型のシリンダブロックである。シリンダブロックが、シリンダボアが直列に2つ並んで形成されているオープンデッキ型のシリンダブロックの場合、シリンダブロックは、2つの端ボアからなるシリンダボアを有している。また、シリンダブロックが、シリンダボアが直列に3つ以上並んで形成されているオープンデッキ型のシリンダブロックの場合、シリンダブロックは、2つの端ボアと1つ以上の中間ボアとからなるシリンダボアを有している。なお、本発明では、直列に並んだシリンダボアのうち、両端のボアを端ボアと呼び、両側が他のシリンダボアで挟まれているボアを中間ボアと呼ぶ。
【0053】
本発明のシリンダボア壁の保温具が設置される位置は、溝状冷却水流路である。内燃機関の多くでは、シリンダボアの溝状冷却水流路の中下部に相当する位置が、ピストンの速さが速くなる位置なので、この溝状冷却水流路の中下部を保温することが好ましい。
図2では、溝状冷却水流路14の最上部9と最下部8の中間近傍の位置10を、点線で示しているが、この中間近傍の位置10から下側の溝状冷却水流路14の部分を、溝状冷却水流路の中下部と呼ぶ。なお、溝状冷却水流路の中下部とは、溝状冷却水流路の最上部と最下部の丁度中間の位置から下の部分という意味ではなく、最上部と最下部の中間位置の近傍から下の部分という意味である。また、内燃機関の構造によっては、ピストンの速さが速くなる位置が、シリンダボアの溝状冷却水流路の下部に当たる位置である場合もあり、その場合は、溝状冷却水流路の下部を保温することが好ましい。よって、溝状冷却水流路の最下部からどの位置までを本発明のシリンダボア壁の保温具で保温するか、つまり、ゴム部材の上端の位置を溝状冷却水流路の上下方向のどの位置にするかは、適宜選択される。よって、溝状冷却水流路の最下部からどの位置までを本発明の保温具で保温するか、つまり、ゴム部材の上端の位置を溝状冷却水流路の上下方向のどの位置にするかは、適宜選択される。
【0054】
本発明のシリンダボア壁の保温具は、溝状冷却水流路のシリンダボア側の全壁面のうち、片側半分の壁面を保温するための保温具である。つまり、本発明のシリンダボア壁の保温具は、全シリンダボアのボア壁のうち、片側半分のボア壁を保温するための保温具である。
【0055】
本発明のシリンダボア壁の保温具は、ゴム部と、基体部と、弾性部材と、を有する。
【0056】
ゴム部は、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面に直接接して、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面を覆い、シリンダボア壁を保温する部材であり、弾性部材の付勢力で、ゴム部の背面側を覆う部材が押され、その部材により、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面に押し付けられる。そのため、このゴム部は、上から見たときに、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面に沿う形状に成形されている。また、ゴム部を横から見たときの形状は、ゴム部で覆わせようとする溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面の部分に合わせて、適宜選択される。
【0057】
ゴム部の材質としては、例えば、ソリッドゴム、膨張ゴム、発泡ゴム、軟性ゴム等のゴム、シリコーン系ゲル状素材等が挙げられる。シリンダボア壁の保温具を溝状冷却水流路内に設置するときに、ゴム部材がシリンダボア壁に強く接触して、ゴム部材が削られるのを防ぐことができる点で、シリンダボア壁の保温具の設置後に、溝状冷却水流路内でゴム部材部分を膨張させることができる感熱膨張ゴム又は水膨潤性ゴムが好ましい。
【0058】
ソリッドゴムの組成としては、天然ゴム、ブタジエンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、ニトリルブタジエンゴム(NBR)、シリコーンゴム、フッ素ゴム等が挙げられる。
【0059】
膨張ゴムとしては、感熱膨張ゴムが挙げられる。感熱膨張ゴムは、ベースフォーム材にベースフォーム材より融点が低い熱可塑性物質を含浸させ圧縮した複合体であり、常温では少なくともその表層部に存在する熱可塑性物質の硬化物により圧縮状態が保持され、且つ、加熱により熱可塑性物質の硬化物が軟化して圧縮状態が開放される材料である。感熱膨張ゴムとしては、例えば、特開2004−143262号公報に記載の感熱膨張ゴムが挙げられる。ゴム部材の材質が感熱膨張ゴムの場合は、本発明のシリンダボア壁の保温具が溝状冷却水流路に設置され、感熱膨張ゴムに熱が加えられることで、感熱膨張ゴムが膨張して、所定の形状に膨張変形する。
【0060】
感熱膨張ゴムに係るベースフォーム材としては、ゴム、エラストマー、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の各種高分子材料が挙げられ、具体的には、天然ゴム、クロロプロピレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ニトリルブタジエンゴム、エチレンプロピレンジエン三元共重合体、シリコーンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム等の各種合成ゴム、軟質ウレタン等の各種エラストマー、硬質ウレタン、フェノール樹脂、メラミン樹脂等の各種熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0061】
感熱膨張ゴムに係る熱可塑性物質としては、ガラス転移点、融点又は軟化温度のいずれかが120℃未満であるものが好ましい。感熱膨張ゴムに係る熱可塑性物質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリル酸エステル、スチレンブタジエン共重合体、塩素化ポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン酢酸ビニル塩化ビニルアクリル酸エステル共重合体、エチレン酢酸ビニルアクリル酸エステル共重合体、エチレン酢酸ビニル塩化ビニル共重合体、ナイロン、アクリロニトリルブタジエン共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリクロロプレン、ポリブタジエン、熱可塑性ポリイミド、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、熱可塑性ポリウレタン等の熱可塑性樹脂、低融点ガラスフリット、でんぷん、はんだ、ワックス等の各種熱可塑性化合物が挙げられる。
【0062】
また、膨張ゴムとしては、水膨潤性ゴムが挙げられる。水膨潤性ゴムは、ゴムに吸水性物質が添加された材料であり、水を吸収して膨潤し、膨張した形状を保持する保形性を有するゴム材である。水膨潤性ゴムとしては、例えば、ポリアクリル酸中和物の架橋物、デンプンアクリル酸グラフト共重合体架橋物、架橋カルボキシメチルセルロース塩、ポリビニルアルコール等の吸水性物質がゴムに添加されたゴム材が挙げられる。また、水膨潤性ゴムとしては、例えば、特開平9−208752号公報に記載されているケチミン化ポリアミド樹脂、グリシジルエーテル化物、吸水性樹脂及びゴムを含有する水膨潤性ゴムが挙げられる。ゴム部材の材質が水膨潤性ゴムの場合は、本発明のシリンダボア壁の保温具が溝状冷却水流路に設置され冷却水が流されて、水膨潤性ゴムが水を吸収することで、水膨潤性ゴムが膨張して所定の形状に膨張変形する。
【0063】
発泡ゴムは、多孔質のゴムである。発泡ゴムとしては、連続気泡構造を有するスポンジ状の発泡ゴム、独立気泡構造を有する発泡ゴム、半独立発泡ゴム等があげられる。発泡ゴムの材質としては、具体的には、例えば、エチレンプロピレンジエン三元共重合体、シリコーンゴム、ニトリルブタジエン共重合体、シリコーンゴム、フッ素ゴム等が挙げられる。発泡ゴムの発泡率は、特に制限されず、適宜選択され、発泡率を調節することにより、ゴム部材の含水率を調節することができる。なお、発泡ゴムの発泡率とは、((発泡前密度−発泡後密度)/発泡前密度)×100で表される発泡前後の密度割合を指す。
【0064】
ゴム部の材質が水膨潤性ゴム、発泡ゴムのように、含水することができる材料の場合、本発明のシリンダボア壁の保温具が、溝状冷却水流路内に設置され、溝状冷却水流路に冷却水が流されたときに、ゴム部が含水する。溝状冷却水流路に冷却水が流されたときに、ゴム部の含水率を、どのような範囲とするかは、内燃機関の運転条件等により、適宜選択される。なお、含水率とは、(冷却水重量/(充填剤重量+冷却水重量))×100で表される重量含水率を指す。
【0065】
なお、ゴム部は、
図4に示す形態例にように、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面の各ボア部の複数に渡って覆う形状であっても、
図19に示す形態例のように、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面の各ボア部毎に覆う形状であってもよい。
【0066】
ゴム部材の厚みは、特に制限されず、適宜選択される。
【0067】
基体部は、ゴム部又はゴム部が固定される部材が固定される部材である。つまり、基体部は、ゴム部が直接又は他の部材を介して間接的に固定される部材である。基体部にゴム部が直接固定されている形態例としては、
図4に示す形態例のように、基体部にゴム部を固定するための部位(
図4に示す形態例では、折り曲げ部)を設け、その部位により、基体部にゴム部が直接固定されている形態例が挙げられる。また、基体部にゴム部が他の部材を介して間接的に固定されている形態例としては、
図19に示す形態例にように、ゴム部が金属バネ付設部材に固定され、そして、ゴム部が金属板バネ付設に固定されて作製される保温部が、基体部に固定されることにより、基体部にゴム部が他の部材を介して間接的に固定される形態例が挙げられる。
【0068】
基体部は、溝状冷却水流路内でのゴム部の位置がずれないように、ゴム部の位置を定めるための部材である。そのため、基体部は、溝状冷却水流路に沿った形状をしており、一端側から他端側まで連続しており、上から見たときに、円弧が連続する形状に成形されている。基体部の材料としては、ステンレス鋼(SUS)、アルミニウム合金等の金属板、合成樹脂が挙げられる。なお、基体部が金属板からなる場合、基体部は、一端側から他端側まで連続しているのであれば、1つの金属板を成形して作製されたものであっても、複数の金属板を繋ぎ合わせて作製されたものであってもよい。また、基体部が合成樹脂からなる場合、基体部は、通常、一体成形体である
【0069】
弾性部材は、本発明のシリンダボア壁の保温具が、溝状冷却水流路に設置されることにより、弾性変形し、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面に向かって、ゴム部が押し付けられるように、弾性力により付勢するための部材である。
【0070】
弾性部材の形態は、特に制限されず、例えば、板状の弾性部材、コイル状の弾性部材、重ね板バネ、トーションバネ、弾性ゴム等が挙げられる。弾性部材の材質は、特に制限されないが、耐LLC性が良く及び強度が高い点で、ステンレス鋼(SUS)、アルミニウム合金等が好ましい。弾性部材としては、金属板バネ、コイルバネ、重ね板バネ、トーションバネ等の金属弾性部材が好ましい。弾性部材が金属板バネの場合、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面とは反対側の壁面に接する部分及びその近傍が、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面とは反対側の壁面に対して膨出する曲面状に成形されていることが、本発明のシリンダボア壁の保温具を溝状冷却水流路内に挿入するときに、弾性部材の壁面との接触部分により、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面とは反対側の壁面が傷付けられるのを防ぐことができる点で好ましい。つまり、弾性部材である金属板バネのうち、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面とは反対側の壁面に接触する先端部分が、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面とは反対側の壁面に対して膨出する曲面状に成形されている。
【0071】
本発明のシリンダボア壁の保温具では、溝状冷却水流路に設置されたときに、弾性部材により、ゴム部が適切な押し付け力で付勢されるように、溝状冷却水流路の形状等に合わせて、弾性部材の形態、形状、大きさ、設置位置、設置数等が、適宜選択される。
【0072】
図4に示すシリンダボア壁の保温具20では、基体部と弾性部材である金属板バネが一体成形され、金属板バネが形成されている基体部に、ゴム部材が固定されることにより、弾性部材が保温具に付設されており、また、
図19に示すシリンダボア壁の保温具56では、金属板バネ付設部材と弾性部材である金属板バネが一体成形され、金属板バネが形成されている金属板バネ付設部材に、ゴム部材及び背面押し付け部材が固定され保温部が作製され、その保温具が基体部に固定されることにより、弾性部材が保温具に付設されているが、保温具に弾性部材を付設する方法は、特に制限されない。他の方法としては、例えば、金属板バネ、金属コイルバネ、重ね板バネ又はトーションバネ等の金属製の弾性部材を金属板からなる基体部又は背面押し付け部材に溶接するなどして、保温具の背面側に付設し、弾性部材が溶接された基体部又は背面押し付け部材等に、ゴム部材を固定する方法等が挙げられる。
【0073】
そして、本発明のシリンダボア壁の保温具は、基体部の背面側に縦壁を有する。縦壁は、本発明のシリンダボア壁の保温具の背面側を流れる冷却水(言い換えると、溝状冷却水流路の中下部を流れる冷却水)を、冷却水の流れ方向で、基体部の各ボア部の境界手前(言い換えると、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面の各ボア部の境界の手前)で、溝状冷却水流路の上部に向かわせて、本発明のシリンダボア壁の保温具の背面側を流れる冷却水を、溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面の各ボア部の境界の上部又はその近傍に送り込む役割を果たす。
【0074】
本発明のシリンダボア壁の保温具において、上から見たときの縦壁の設置位置は、基体部の背面側であり、且つ、冷却水の流れ方向で、基体部の各ボア部の境界の手前側である。縦壁の設置位置について、
図26を参照して説明する。
図26は、基体部のうち1つ分の各ボア部を拡大した図であり、基体部の各ボア部を上から見た図である。
図26中、冷却水は、符号39の矢印に示すように、基体部の各ボア部29b2の背面側を、境界30cから境界30bに向かう向きに流れる。また、基体部の各ボア部29b2の範囲は、境界30cから境界30bまでで、言い換えると、基体部の各ボア部29b2を上から見たときの、基体部の各ボア部29b2の一端301から他端303までである。そうすると、基体部の各ボア部29b2の1つ分に着目すると、基体部の各ボア部29b2の背面側では、冷却水は、基体部の各ボア部29b2の境界30cを始点として、境界30bに向かって流れている。そして、基体部の各ボア部の一端、すなわち、冷却水流れの始点である基体部の各ボア部29b2の境界30cから、基体部の各ボア部の他端、すなわち、基体部の各ボア部29b2の境界30bに向かう方向において、境界30bの手前側に、縦壁28bが設置されている。
【0075】
本発明のシリンダボア壁の保温具では、上から見たときの縦壁の設置位置は、冷却水の流れ方向で、基体部の各ボア部の境界の手前で、且つ、本発明の効果を奏する程度に、基体部の各ボア部の境界からの距離があればよく、適宜選択される。なお、本発明では、
図26に示すように、基体部の各ボア部の一端301(基体部の各ボア部29b2の背面側の冷却水の流れの始点)から基体部の各ボア部の他端303までの基体部の各ボア部29b2の長さyに対する、基体部の各ボア部の一端301から縦壁28bの設置位置302までの基体部の各ボア部29b2の長さxの比(x/y)が、0.5以上となる範囲を、冷却水の流れ方向で、境界30bの手前側とする。そして、本発明では、
図26に示すように、縦壁の設置位置は、基体部の各ボア部の一端301から基体部の各ボア部の他端303までの基体部の各ボア部29b2の長さyに対する、基体部の各ボア部の一端301から縦壁28bの設置位置302までの基体部の各ボア部29b2の長さxの比(x/y)が、0.5〜0.9となる位置が好ましく、0.75〜0.9となる位置がより好ましい。
【0076】
本発明のシリンダボア壁の保温具において、上下方向の縦壁の設置範囲は、冷却水によるシリンダボア壁の上部の冷却範囲の設定により、適宜選択される。つまり、冷却水によるシリンダボア壁の上部の冷却範囲を設定し、その冷却範囲より下側の範囲に縦壁を設置する。そのため、縦壁の上端の位置は、基体部の上端より上となることも、基体部の上端と同じ位置又は基体部の上端より下となることもあり、冷却水によるシリンダボア壁の上部の冷却範囲の設定により適宜選択される。また、縦壁の下端の位置は、本発明のシリンダボア壁の保温具の背面側を流れる冷却水のうち、多くが縦壁に当たって上方に流れを変え、本発明の効果を奏する範囲で、適宜選択される。つまり、縦壁の下端の位置は、基体部の下端と同じ位置であってもよいし、基体部の下端より上であってもよい。
【0077】
縦壁と溝状冷却水流路のシリンダボア側の壁面とは反対側の壁面との間に、隙間が全くないか、あるいは、隙間が極めて小さいと、溝状冷却水流路内の圧力損失が大きくなり過ぎるので、本発明のシリンダボア壁の保温具においては、縦壁の幅(
図13(A)中、符号48の長さ)は、本発明のシリンダボア壁の保温具の背面側を流れる冷却水の流れを完全に遮断せず、溝状冷却水流路内の圧力損失が大きくなり過ぎない範囲で、適宜選択される。
【0078】
本発明のシリンダボア壁の保温具において、縦壁の設置数は、適宜選択される。例えば、
図4に示す形態例又は
図19に示す形態例のように、支持部の各ボア部の境界毎に1つずつ縦壁が設けられていてもよい。また、縦壁の設置効果が最もよく発現するところに、1つ縦壁が設置されていてもよい。縦壁の基体部への設置方法は、特に制限されず、例えば、基体部が金属製の場合、縦壁を基体部にかしめて設置する方法や、縦壁を基体部に溶接して設置する方法が挙げられる。
【0079】
本発明のシリンダボア壁の保温具では、基体部及び縦壁が、金属板で形成されていることが、基体部への縦壁の固定が容易になる点で好ましい。
【0080】
図4に示す形態例又は
図19に示す形態例では、縦壁は、冷却水の流れ方向に対して垂直に設置されているが、本発明のシリンダボア壁の保温具では、縦壁の設置角度は、流れ方向に対して垂直な方向より少し傾いていてもよい。そして、本発明のシリンダボア壁の保温具では、縦壁の設置が容易な点で、縦壁が、冷却水の流れ方向に対して垂直に設置されていることが好ましい。
【0081】
本発明のシリンダボア壁の保温具は、一端側に、冷却水流れ仕切り部材を有することができる。
図12では、本発明のシリンダボア壁の保温具には該当しないシリンダボア壁の保温具であるシリンダボア壁の保温具40に、冷却水流れ仕切り部材38が付設されることにより、溝状冷却水流路内の冷却水が、
図12中の矢印39の方向に流れるように制御されているが、言い換えると、冷却水が、冷却水供給口15から冷却水排出口16に直ぐに流れ込まないように制御されているが、例えば、本発明のシリンダボア壁の保温具以外に、冷却水流れ仕切り部材38のような、冷却水の流れ方向を制御するための部材がない場合には、本発明のシリンダボア壁の保温具に、冷却水の流れ方向を制御するための部材を付設することができる。また、本発明のシリンダボア壁の保温具は、その他の冷却水の流れを調節するための部材等を有することもできる。また、本発明のシリンダボア壁の保温具は、基体部に、保温具全体が上方向にずれるのを防止するための部材、例えば、基体部の上側に付設され、上端がシリンダヘッド又はシリンダヘッドガスケットに当接するシリンダヘッド当接部材を有することができる。
【0082】
本発明のシリンダボア壁の保温具は、
図12に示す形態例のように、全溝状冷却水流路のうち、冷却水流れの方向の後半の片側半分の溝状冷却水流路に設置されることが好ましい。シリンダブロックの溝状冷却水流路を流れる冷却水が、先に、全溝状冷却水流路のうち、一方の片側半分の溝状冷却水流路を流れた後、他方の片側半分の溝状冷却水流路を流れるように、冷却水の流れ方向が制御されており、且つ、冷却水が溝状冷却水流路を流れるに従って、少しずつシリンダヘッド側に抜き出されるように(例えば、シリンダボアの各ボアの境界近傍の、シリンダヘッドに設けられた、ドリルパスと呼ばれる冷却水の抜出経路から冷却水が抜き出されるように)、冷却水の流量が制御されている場合、後半の片側半分(他方の片側半分)の溝状冷却水流路では、前半の片側半分(一方の片側半分)の溝状冷却水流路に比べ、冷却水の流量が少なくなる。そこで、このような場合に、本発明のシリンダボア壁の保温具が、後半の片側半分の溝状冷却水流路に設置されることにより、溝状冷却水流路を流れる冷却水の流量が少なくなってくる後半の片側半分(他方の片側半分)の溝状冷却水流路において、ボア壁から熱を受熱していない温度が低い溝状冷却水流路の中下部を流れる冷却水を、溝状冷却水流路の上部に送り込むことができるので、溝状冷却水流路の上部のシリンダボア側の壁面の冷却効率が高くなる。
【0083】
本発明の第一の形態の内燃機関は、シリンダブロックに溝状冷却水流路が形成されており、
該溝状冷却水流路のうち、片側半分の溝状冷却水流路に、本発明のシリンダボア壁の保温具が設置されていることを特徴とする内燃機関である。
【0084】
また、本発明の第二の形態の内燃機関は、シリンダブロックに溝状冷却水流路が形成されており、
該溝状冷却水流路内を流れる冷却水が、先に、一方の片側半分の溝状冷却水流路内を流れた後、他方の片側半分の溝状冷却水流路を流れるように、溝状冷却水流路が区画されており、
該他方の片側半分(後半の片側半分)の溝状冷却水流路に、本発明のシリンダボア壁の保温具が設置されていることを特徴とする内燃機関である。また、本発明の第二の形態の内燃機関は、該一方の片側半分(前半の片側半分)の溝状冷却水流路に、シリンダボア壁の保温具を有していてもよいし、シリンダボア壁の保温具を有していなくてもよい。
【0085】
本発明の自動車は、本発明の第一の形態又は第二の形態の内燃機関を有することを特徴とする自動車である。