(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-89679(P2017-89679A)
(43)【公開日】2017年5月25日
(54)【発明の名称】電磁連結装置
(51)【国際特許分類】
F16D 27/112 20060101AFI20170421BHJP
F16D 27/01 20060101ALI20170421BHJP
F16D 67/06 20060101ALI20170421BHJP
F16D 65/16 20060101ALI20170421BHJP
F16D 121/22 20120101ALN20170421BHJP
【FI】
F16D27/112 H
F16D27/112 G
F16D27/112 X
F16D27/01
F16D67/06 B
F16D65/16
F16D121:22
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-216673(P2015-216673)
(22)【出願日】2015年11月4日
(71)【出願人】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074332
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100114432
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 寛昭
(74)【代理人】
【識別番号】100138416
【弁理士】
【氏名又は名称】北田 明
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健太
【テーマコード(参考)】
3J058
【Fターム(参考)】
3J058AA78
3J058AA88
3J058BA67
3J058CC13
3J058CC14
3J058CC72
3J058CC77
3J058FA50
(57)【要約】
【課題】 大型化させることなく、且つ消費電力を抑えることのできる電磁連結装置の提供。
【解決手段】 磁性を有する磁性対向面どうしが同一の軸線上に隙間を置いて対向配置され、それぞれが電磁コイルを有する電磁クラッチ部および電磁ブレーキ部と、隙間にあって電磁クラッチ部の磁性対向面および電磁ブレーキ部の磁性対向面の何れかに当接可能なように隙間を移動可能で磁性体からなる一つのアーマチュアと、アーマチュアを両磁性対向面の間において軸線方向で案内する案内部とを備え、アーマチュアは、案内部に案内されるアーマチュア本体と、両磁性対向面に磁気的に吸引される永久磁石と、永久磁石のアーマチュア本体内における短絡磁路を遮断する非磁性部を備え、永久磁石および非磁性部は、アーマチュア本体の内部に設けられている電磁連結装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性を有する磁性対向面どうしが同一の軸線上に隙間を置いて対向配置され、それぞれが電磁コイルを有する電磁クラッチ部および電磁ブレーキ部と、前記隙間にあって前記電磁クラッチ部の磁性対向面および前記電磁ブレーキ部の磁性対向面の何れかに当接可能なように前記隙間を移動可能で磁性体からなる一つのアーマチュアと、該アーマチュアを前記両磁性対向面の間において前記軸線方向で案内する案内部とを備え、
前記アーマチュアは、前記案内部に案内されるアーマチュア本体と、前記両磁性対向面に磁気的に吸引される永久磁石と、該永久磁石の前記アーマチュア本体内における短絡磁路を遮断する非磁性部を備え、
前記永久磁石および非磁性部は、前記アーマチュア本体の内部に設けられていることを特徴とする電磁連結装置。
【請求項2】
前記アーマチュア本体は、前記軸線を中心とした環状に形成され、
前記永久磁石は、前記アーマチュア本体の内部において、前記電磁ブレーキ部側、あるいは電磁クラッチ部側の何れか一方側寄りに配置され、
前記アーマチュア本体は、前記永久磁石に対する前記他方側の領域を、前記非磁性部により径方向内外方向で分断されている請求項1に記載の電磁連結装置。
【請求項3】
前記アーマチュア本体に、前記永久磁石の取付凹部が形成され、該取付凹部は、前記アーマチュア本体の何れかの側面に開口されている請求項1または請求項2に記載の電磁連結装置。
【請求項4】
前記永久磁石は、前記アーマチュア本体よりも小径に形成されるとともに、該アーマチュア本体と同心に配置した複数の円弧状磁石部を備えて、前記アーマチュア本体の、前記永久磁石を境界とした径方向内外部は一体的に形成されている請求項3に記載の電磁連結装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁クラッチ部および電磁ブレーキ部を備えた電磁連結装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の電磁連結装置として、下記特許文献1に記載の技術が提案されている。特許文献1に記載の電磁連結装置では、同軸線上に対向配置された電磁クラッチ部および電磁ブレーキ部と、電磁クラッチ部および電磁ブレーキ部の間に配置されており、電磁クラッチ部と電磁ブレーキ部との間の隙間を前記同軸線上で移動可能なアーマチュアとを備えている。
【0003】
特許文献1の電磁連結装置では、電磁クラッチ部が備えた電磁コイルに電圧を印加すれば、アーマチュアが電磁クラッチ部に磁気吸着され、電磁クラッチ部(ロータ)とアーマチュアが一体に回転する。電磁クラッチ部とアーマチュアを一体に回転させる、すなわち、アーマチュアを電磁クラッチ部に磁気吸着させ続けるためには、電磁コイルに電圧を印加し続ける。
【0004】
また、電磁クラッチ部の電磁コイルへの電圧の印加を停止すると同時に、電磁ブレーキ部の電磁コイルに電圧を印加すると、アーマチュアが電磁クラッチ部(ロータ)から離れ、同時に電磁ブレーキ部に磁気吸引されて、電磁ブレーキ部(摩擦部材)に磁気吸着される。アーマチュアを電磁ブレーキ部側に磁気吸着させ続けるには、電磁コイルに電圧を印加し続ける。
【0005】
このように、特許文献1の電磁連結装置では、アーマチュアを電磁クラッチ部あるいは電磁ブレーキ部側に磁気吸着させ続けるには、何れかの電磁コイルに電圧を印加し続けなければならならないといった課題がある。
【0006】
そこで、電磁コイルへの電圧の印加時間を短くする技術として、下記特許文献2に記載の電磁連結装置(動力伝達装置)が提案されている。特許文献2に記載の電磁連結装置は、永久磁石の磁力を利用することで、電磁連結装置での消費電力を抑えるよう構成されている。すなわち、永久磁石がアーマチュアに設けられており、永久磁石はアーマチュアの厚み方向(移動方向)両側面である電磁ブレーキ部側、および電磁クラッチ部側に、各側面から突出するよう配置されている。具体的には、各永久磁石は、吸引力発生部材(コア)の、電磁ブレーキ部側の吸着面、電磁クラッチ部側の吸着面に対向するよう配置されている。なお、吸引力発生部材は、電磁ブレーキ部側、および電磁クラッチ部側に、それぞれ電磁石を備えている。
【0007】
特許文献2の電磁連結装置では、各永久磁石の磁力により、アーマチュアを電磁ブレーキ部側の吸着面に吸引させるか、電磁クラッチ部側の吸着面に吸引させるかを選択することで、電磁連結装置を、電磁ブレーキとして、あるいは電磁クラッチとして機能させる。
【0008】
電磁ブレーキ部側から電磁クラッチに切替える場合では、電磁ブレーキ部側の吸着面に電磁ブレーキ部側の永久磁石が吸引されている状態で、電磁ブレーキ部側の電磁石に、該永久磁石の磁力を打消すように電圧を印加する。そうすると、電磁クラッチ部側の永久磁石の磁力により、アーマチュアが電磁クラッチ部側に吸引され、電磁連結装置が電磁クラッチとして機能する。
【0009】
逆に、電磁クラッチから電磁ブレーキ部側に切替える場合では、電磁クラッチ部側の吸着面に電磁クラッチ部側の永久磁石が吸引されている状態で、電磁クラッチ部側の電磁石に、該永久磁石の磁力を打消すように電圧を印加する。そうすると、電磁ブレーキ部側の永久磁石の磁力により、アーマチュアが電磁ブレーキ部側に吸引され、電磁連結装置が電磁ブレーキとして機能する。
【0010】
何れの場合でも、永久磁石の磁力を利用することで、電磁ブレーキから電磁クラッチ、あるいは電磁クラッチから電磁ブレーキに切替える場合にのみ、各電磁石に電圧を印加すれば、電磁連結装置を電磁ブレーキ、あるいは電磁クラッチとして機能させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】実開昭59−66038号公報
【特許文献2】特許第4992384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献2に記載の電磁連結装置では、永久磁石の磁力を利用することで、電磁ブレーキから電磁クラッチ、あるいは電磁クラッチから電磁ブレーキに切替える場合にのみ、各電磁石に電圧を印加すれば、電磁連結装置を電磁ブレーキ、あるいは電磁クラッチとして機能させることができるから、電磁連結装置での消費電力を抑えることができる。
【0013】
しかしながら、特許文献2の電磁連結装置では、永久磁石をアーマチュアの厚み方向(移動方向)両側面である電磁ブレーキ部側、および電磁クラッチ部側に、各側面から突出するようそれぞれ設けているから、その分だけ電磁連結装置が、アーマチュアの移動方向で大型になるという課題がある。
【0014】
そこで本発明は上記課題に鑑み、大型化させることなく、且つ消費電力を抑えることのできる電磁連結装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の電磁連結装置は、磁性を有する磁性対向面どうしが同一の軸線上に隙間を置いて対向配置され、それぞれが電磁コイルを有する電磁クラッチ部および電磁ブレーキ部と、前記隙間にあって前記電磁クラッチ部の磁性対向面および前記電磁ブレーキ部の磁性対向面の何れかに当接可能なように前記隙間を移動可能で磁性体からなる一つのアーマチュアと、該アーマチュアを前記両磁性対向面の間において前記軸線方向で案内する案内部とを備え、前記アーマチュアは、前記案内部に案内されるアーマチュア本体と、前記両磁性対向面に磁気的に吸引される永久磁石と、該永久磁石の前記アーマチュア本体内における短絡磁路を遮断する非磁性部を備え、前記永久磁石および非磁性部は、前記アーマチュア本体の内部に設けられていることを特徴としている。
【0016】
上記構成における本発明の電磁連結装置では、両電磁コイルに電圧を印加していない状態では、永久磁石の磁力により、アーマチュアは電磁ブレーキ部側、電磁コイル側の何れかの磁性対向面に吸着されている。
【0017】
電磁連結装置を、電磁ブレーキから電磁クラッチに切替える場合では、電磁ブレーキ部側の磁性対向面に永久磁石が吸引されている状態で、電磁ブレーキ部側の電磁コイルに、永久磁石の磁力を打消すように電圧を印加すると、永久磁石の磁力により、アーマチュアが電磁クラッチ部側に吸引されて案内部に案内され、電磁連結装置が電磁クラッチとして機能する。
【0018】
電磁連結装置を、電磁クラッチから電磁ブレーキに切替える場合では、電磁クラッチ部側の磁性対向面に永久磁石が吸引されている状態で、電磁クラッチ部側の電磁コイルに、永久磁石の磁力を打消すように電圧を印加すると、永久磁石の磁力により、アーマチュアが電磁ブレーキ部側に吸引されて案内部に案内され、電磁連結装置が電磁ブレーキとして機能する。
【0019】
何れの場合でも、永久磁石の磁力を利用することで、電磁連結装置を、電磁ブレーキから電磁クラッチ、あるいは電磁クラッチから電磁ブレーキに切替える場合にのみ、各電磁コイルに電圧を印加すれば、電磁連結装置を電磁ブレーキ、あるいは電磁クラッチとして機能させられる。
【0020】
そして、永久磁石をアーマチュア本体の内部に設け、永久磁石の短絡磁路を遮断する非磁性部をアーマチュア本体の内部に設けていることで、アーマチュア本体の電磁ブレーキ部側の側面、電磁クラッチ部側の側面から突出する物がなく、特許文献2の構成に比べてアーマチュアの厚みが小さくなり、永久磁石をアーマチュア本体の内部に設けていても、併せて非磁性部をアーマチュア本体の内部に設けて永久磁石の短絡磁路を遮断していることで、その分だけ電磁ブレーキ部側の磁性対向面、あるいは電磁クラッチ部側の磁性対向面に向かう磁力を増大させているから、アーマチュアが電磁ブレーキ部側あるいは電磁クラッチ部側へ容易に吸引される。
【0021】
本発明の電磁連結装置では、前記アーマチュア本体は、前記軸線を中心とした環状に形成され、前記永久磁石は、前記アーマチュア本体の内部において、前記電磁ブレーキ部側、あるいは電磁クラッチ部側の何れか一方側寄りに配置され、前記アーマチュア本体は、前記永久磁石に対する前記他方側の領域を、前記非磁性部により径方向内外方向で分断された構成を採用できる。
【0022】
上記構成のように、永久磁石をアーマチュア本体の一方側寄りに配置しても、アーマチュア本体の、永久磁石に対する他方側の領域を、非磁性部により径方向内外方向で分断すれば、永久磁石による短絡磁路を確実に遮断して、アーマチュアが円滑に他方側へ吸引される。
【0023】
本発明の電磁連結装置では、前記アーマチュア本体に、前記永久磁石の取付凹部が形成され、該取付凹部は、前記アーマチュア本体の何れかの側面に開口された構成を採用できる。
【0024】
上記構成のように、アーマチュア本体に、永久磁石の取付凹部が形成されていれば、永久磁石をアーマチュア本体に取付け易い。
【0025】
本発明の電磁連結装置では、前記永久磁石は、前記アーマチュア本体よりも小径に形成されるとともに、該アーマチュア本体と同心に配置した複数の円弧状磁石部を備えて、前記アーマチュア本体の、前記永久磁石を境界とした径方向内外部は一体的に形成された構成を採用できる。
【0026】
上記構成によれば、アーマチュア本体の内部に永久磁石が設けられていても、アーマチュア本体は一体であることから、永久磁石を境界とした、アーマチュア本体の径方向内外部の中心を一致させられる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、永久磁石をアーマチュア本体の内部に設けていても、併せて非磁性部をアーマチュア本体の内部に設けて永久磁石の短絡磁路を遮断していることで、その分だけ電磁ブレーキ部側の磁性対向面、あるいは電磁クラッチ部側の磁性対向面に向かう磁力を増大させているから、永久磁石をアーマチュア本体の両側面に設ける必要がなく、したがって、電磁連結装置を大型化させることなく、電磁ブレーキから電磁クラッチへの切替え、あるいは電磁クラッチから電磁ブレーキへの切替えのときだけ、電磁コイルに、永久磁石の磁力を打消すように電圧を印加すればよいから、消費電力を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の一実施形態を表した電磁連結装置において、アーマチュアが電磁ブレーキ部側へ吸着されている状態の断面図である。
【
図2】同アーマチュアが電磁クラッチ部側へ吸着されている状態の断面図である。
【
図5】本発明の別の実施形態を表したアーマチュアにおける永久磁石部分での断面図である。
【
図6】同アーマチュアにおける非磁性部での断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の一実施形態に係る電磁連結装置を、図面を参照しつつ説明する。電磁連結装置1は、例えば産業用モータに組込んで用いられ、直方体形状に形成された筺体2に、同軸線上に配置される電磁ブレーキ部3、および電磁クラッチ部4の一部を内装するように備えている。電磁連結装置1は、電磁ブレーキ部3および電磁クラッチ部4の間に、アーマチュア5をさらに備えている。
【0030】
電磁ブレーキ部3は、筺体2の長手方向中心を基準にして、その一方側に配置されている。電磁クラッチ部4は、筺体2の長手方向中心を基準にして、その他方側に配置されている。
【0031】
電磁ブレーキ部3は、一方側固定部31と、一方側軸受32と、一方側軸体33とを備える。一方側固定部31は、筺体2に内装され、ボルトB1によって筺体2に非回転に固定されている。一方側軸受32は、一方側固定部31の径方向内方に固定されるよう配置されている。一方側軸体33は、一方側軸受32の径方向内方にあって、一方側軸受32に回転可能に支持されている。
【0032】
一方側固定部31は、一方側軸体33に外嵌固定された一方側コア311を備えている。一方側コア311には、一方側電磁コイル312が巻回されている。一方側固定部31は、一方側コア311における電磁クラッチ部4側に、環状の一方側対向部313をさらに備える。
【0033】
一方側対向部313は磁性体であり、環状に形成され、一方側コア311において電磁クラッチ部4側に組込まれている。一方側対向部313の電磁クラッチ部4側端面は、一方側磁性対向面314とされている。一方側磁性対向面314に、環状の一方側制動部材315が、一方側軸体33と同心に埋設されている。一方側制動部材315は、その端面である制動面が一方側磁性対向面314とほぼ面一となるよう設けられている。
【0034】
一方側軸体33の軸方向外側端部は、筺体2の一側壁21から外部へ突出されている。一方側軸体33の軸方向内側端部は、筺体2の内部にあって、環状のロータ316が嵌着されている。ロータ316の外周面、およびアーマチュア5の内周面には長手方向が軸方向に沿うスプライン316aが形成され、スプライン316aを介して環状に形成されたアーマチュア5がロータ316に外嵌され、スプライン嵌合によりアーマチュア5は、ロータ316とともに軸心回りに一体的に回転する。
【0035】
ロータ316は、アーマチュア5を軸方向(長手方向)に案内する案内部でもある。具体的に、前記スプライン嵌合は遊嵌状態にあって、アーマチュア5はスプライン316aに沿って軸方向(一方側から他方側、あるいは他方側から一方側)に移動可能である。
【0036】
アーマチュア5は、
図3および
図4に示すように、全体として偏心のない環状に形成されており、軸方向の厚みは同一に形成されている。アーマチュア5は、内径部511、および外径部512を備えるアーマチュア本体51と、内径部511および外径部512の間に挟持された環状に一体的に形成された永久磁石513と、非磁性部の一例である銅ろう部514とを備える。
【0037】
アーマチュア本体51は磁性材から形成された磁性体であり、永久磁石513および銅ろう部514を配置した位置を境界として、内径側を内径部511とされ、外径側を外径部512とされている。すなわちアーマチュア本体51は、永久磁石513、銅ろう部514によって、内径部511と外径部512とに分断されている。換言すれば、アーマチュア5は内径部511と外径部512とが、永久磁石513および銅ろう部514を介して一体的に構成されている。永久磁石513は内径部511の外周面に嵌合され、銅ろう部514によって固定され、そのうえで外径部512が嵌められている。すなわち、アーマチュア本体51の内径部511と外径部512とは別体であり、永久磁石513が組込まれて一体化されている。ロータ316にはアーマチュア本体51の内径部511が外嵌されており、アーマチュア5は、前述したように、ロータ316を案内部として、スプライン316aに沿って軸方向に移動可能とされている。
【0038】
永久磁石513の径は、アーマチュア本体51の径に比べて小さく形成されている。永久磁石513の一方側端面が、アーマチュア本体51の一方側端面51aとほぼ面一となるよう、永久磁石513がアーマチュア本体51に埋設されている。すなわち、永久磁石513は、アーマチュア本体51の内部に設けられている。永久磁石513の軸方向幅は、アーマチュア本体51の軸方向幅の半分程度に形成されている。永久磁石513の径方向断面形状は矩形であり、この断面形状では、軸方向に沿う長さが径方向に沿う長さに比べて大きく形成されている。
【0039】
銅ろう部514は、永久磁石513をアーマチュア本体51に固定するためのろう付け部分である。銅ろう部514の一方側端面は、永久磁石513に対して他方側に隣接され、且つ銅ろう部514は永久磁石513の周方向に沿うよう環状に形成されている。銅ろう部514の他方側端面は、アーマチュア本体51の他方側端面51bとほぼ面一となるよう、アーマチュア本体51に埋設された形態となっている。すなわち、銅ろう部514は、アーマチュア本体51の内部に設けられている。
【0040】
銅ろう部514の径方向厚みは、永久磁石513の径方向厚みに比べて薄く形成されている。銅ろう部514は、永久磁石513と同心で、且つ永久磁石513の他方側端面が、銅ろう部514の一方側端面に対して径方向内外に外れるよう、永久磁石513の径方向に対して位置付けられている。換言すると、永久磁石513の径方向幅が、銅ろう部514の径方向幅に比べて大きく設定されている。
【0041】
電磁クラッチ部4は、筺体2の長手方向中心を基準にして、その他方側に配置されている。電磁クラッチ部4は、筺体2に内装されボルトB2によって非回転に固定された他方側コア411と、他方側コア411の径方向内方に固定するよう配置された他方側軸受42と、他方側軸受42の径方向内方にあって、他方側軸受42に回転可能に支持された他方側軸体43とを備える。
【0042】
この他方側軸体43と一方側軸体33とは直接的に連結されていないが、アーマチュア5が一方側から他方側へ移動することで、他方側軸体43と一方側軸体33とが連結して、一体回転するよう構成されている。
【0043】
他方側コア411には、他方側電磁コイル412が巻回されている。他方側コア411における電磁ブレーキ部3側に、環状の他方側対向部413が配置されている。他方側対向部413は、環状の内径部413Aと、内径部413Aの径方向外側に配置された環状の外径部413Bとを一体に備えている。
【0044】
他方側軸体43の軸方向外側端部は、筺体2の他側壁22から外部へ突出されている。他方側軸体43の軸方向内側端部は、筺体2の内部にあって、他方側対向部413の内径部413Aが嵌着されている。他方側対向部413の外径部413Bは、他方側コア411の電磁ブレーキ部3側に形成された環状の凹部411Aに遊嵌されている。この構成により、他方側対向部413は、他方側軸体43の回転とともに回転する。
【0045】
他方側対向部413における外径部413Bの電磁ブレーキ部3側端面は、他方側磁性対向面414とされている。他方側磁性対向面414に、環状の他方側制動部材415が、他方側軸体43と同心に埋設されている。他方側制動部材415は、その端面である制動面415aが、他方側磁性対向面414とほぼ面一となるよう設けられている。
【0046】
上記構成の電磁連結装置1は、永久磁石513の磁力により、アーマチュア5を電磁ブレーキ部3側の一方側磁性対向面314に吸引させるか、電磁クラッチ部4側の他方側磁性対向面414に吸引させるかを選択することで、電磁連結装置1を、電磁ブレーキとして、あるいは電磁クラッチとして機能させることができる。
【0047】
例えば、永久磁石513の磁力により、電磁ブレーキ部3の一方側磁性対向面314にアーマチュア5が吸引されて、アーマチュア本体51の一方側端面51aが一方側磁性対向面314に吸着されている状態では、アーマチュア5は、電磁クラッチ部4の他方側磁性対向面414に対して、隙間δ分だけ一方側に離れている。これにより、アーマチュア5には電磁クラッチ部4の動作は伝達されない。すなわち、他方側軸体43が回転しても、ロータ316およびアーマチュア5は回転しない。すなわち、アーマチュア5が電磁ブレーキ部3側にあって、電磁連結装置1が電磁ブレーキとして機能している。
【0048】
アーマチュア5が電磁ブレーキ部3側にあって、電磁連結装置1が電磁ブレーキとして機能している状態から、電磁連結装置1が電磁クラッチの機能を発揮するよう切替える場合を説明する。電磁ブレーキ部3側の一方側磁性対向面314にアーマチュア5(永久磁石513)が吸着されている状態で、電磁ブレーキ部3側の一方側電磁コイル312に、永久磁石513の磁力を打消すように電圧を印加する。この場合の永久磁石513の磁力を打消すとは、永久磁石513が電磁ブレーキ部3側へ吸引される磁力を打ち消すことを意味する。
【0049】
永久磁石513はアーマチュア本体51の一方側寄りに配置されているが、その磁路は、電磁ブレーキ部3側へ向けて形成されているだけではなく、電磁クラッチ部4側へ向けても形成されている。アーマチュア5が電磁ブレーキ部3側に吸引されてその位置を維持できるのは、永久磁石513がアーマチュア本体51の一方側寄りに配置されていることで、電磁ブレーキ部3側での磁路による吸引力が、電磁クラッチ部4側での磁路による吸引力より強いからである。そうではあっても、アーマチュア本体51の他方側寄りには、永久磁石513に隣接して銅ろう部514が配置されている。このため、電磁クラッチ部4側では、永久磁石513の短絡磁路を遮断する(あるいは最小に抑える)ことが可能であり、その分だけ電磁クラッチ部4側への吸引力も確保されている。
【0050】
このような状態において、永久磁石513の磁力のうち、電磁ブレーキ部3側での磁路が打消されると、永久磁石513の磁力のうち、電磁クラッチ部4側での磁路による吸引力により、アーマチュア5が電磁クラッチ部4側に吸引されて、アーマチュア5がスプライン316aに沿って軸方向に案内され、アーマチュア本体51の他方側端面51bが他方側磁性対向面414に吸着される。これによって、アーマチュア5が、他方側対向部413とともに、他方側軸体43に一体的に回転可能な状態となり、電磁連結装置1を電磁クラッチとして機能させることができる。
【0051】
逆に、電磁クラッチから電磁ブレーキの機能に切替える場合では、電磁クラッチ部4側の他方側磁性対向面414にアーマチュア5が吸着されている状態で、電磁クラッチ部4側の他方側電磁コイル412に、永久磁石513の磁力となる磁路を打消すように電圧を印加する。そうすると、電磁ブレーキ部3側に配置されている永久磁石513の磁力により、アーマチュア5が電磁ブレーキ部3側に吸引され、電磁連結装置1が電磁ブレーキとして機能する。
【0052】
何れの場合でも、永久磁石513の磁力を利用することで、電磁ブレーキから電磁クラッチ、あるいは電磁クラッチから電磁ブレーキに切替える場合にのみ、各電磁石である一方側電磁コイル312、あるいは他方側電磁コイル412に電圧を印加するだけで、電磁連結装置1を電磁ブレーキ、あるいは電磁クラッチとして機能させることができる。このため、消費電力を抑えることのできる電磁連結装置1となる。
【0053】
しかも、永久磁石513は、アーマチュア本体51に埋設され、その外部に突出していないから、永久磁石513を設けていない電磁連結装置と同様に隙間δを設定すればよいことから、電磁連結装置1の軸方向長さを大きくする必要がない。すなわち、電磁連結装置1を大型化させない。
【0054】
本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではない。例えば、上記実施形態では、永久磁石513、および銅ろう部514は、それぞれ一体的に且つ環状に形成したものを用いた場合を例示した。また、非磁性部として、永久磁石513をろう付けする銅ろう部514を例示した。
【0055】
しかしながら、短絡磁路を遮断するために、銅ろう部514の代わりに、ろう付けではない他の非磁性材(例えば、ステンレスや樹脂)を用いて非磁性部としてもよいことは勿論である。そして、
図5および
図6に示すように、永久磁石513および非磁性部520を同心に配置し、永久磁石513を、同一周方向で互いに離間するよう配置した円弧状の磁石部513Aから構成し、非磁性部520を同一周方向で互いに離間するよう配置した円弧状の非磁性材520Aから構成することもできる。磁石部513Aと非磁性材520Aとは、同一放射方向上に配置される。
【0056】
このように構成する場合では、磁石部513Aどうしの周方向での間、非磁性材520Aどうしの周方向での間を、アーマチュア本体51の一部とすることができる。このため、アーマチュア本体51の内径部511および外径部512を分断することなく、一体に形成することができる。
【0057】
そうなると、永久磁石513、非磁性部520を境界として、アーマチュア本体51の径方向内外部の中心を一致するよう形成することが容易になる。アーマチュア本体51を一体に形成する場合では、アーマチュア本体51に磁石部513A、非磁性材520Aを嵌め込むための取付凹部を形成しておき、各取付凹部において各側面の開口から磁石部513A、非磁性材520Aを嵌め込むという容易な作業で、アーマチュア5を形成することができる。なお、永久磁石513と非磁性部520は軸方向で逆の位置であってもよい。
【0058】
永久磁石513はアーマチュア本体51の一方側端面51a、他方側端面51bから突出しないようアーマチュア本体51の内部に設けられていれば、軸方向一方側、あるいは軸方向他方側に片寄らず、アーマチュア本体51の軸方向中心に配置されていてもよい。この場合、アーマチュア5を初期状態において電磁ブレーキ部3側に位置させるか、電磁クラッチ部4側に位置させるかは、任意である。あるいは、何れの側に位置していてもよい。換言すれば、アーマチュア5は、永久磁石513の磁力により、電磁ブレーキ部3側あるいは、電磁クラッチ部4側の何れかに吸引されている。
【0059】
電磁ブレーキ部3側に位置させる必要がある場合には、一方側電磁コイル312に短時間だけ電力を印加してアーマチュア5を電磁ブレーキ部3の一方側対向部313に吸着させて、アーマチュア5が吸着すれば印加を停止する。あるいは、電磁クラッチ部4側に位置させる必要がある場合には、他方側電磁コイル412に短時間だけ電力を印加してアーマチュア5を電磁クラッチ部4の他方側対向部413に吸着させて、アーマチュア5が吸着すれば印加を停止する。このようにすることで、消費電力をできるだけ抑えることができる。
【符号の説明】
【0060】
1…電磁連結装置、2…筺体、3…電磁ブレーキ部、4…電磁クラッチ部、5…アーマチュア、51…アーマチュア本体、51a…一方側端面、51b…他方側端面、312…一方側電磁コイル、313…一方側対向部、314…一方側磁性対向面、316…ロータ、316a…スプライン、412…他方側電磁コイル、413…他方側対向部、413A…内径部、413B…外径部、414…他方側磁性対向面、511…内径部、512…外径部、513…永久磁石、514…銅ろう部、δ…隙間