特開2017-89866(P2017-89866A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-89866(P2017-89866A)
(43)【公開日】2017年5月25日
(54)【発明の名称】差動装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 48/40 20120101AFI20170421BHJP
   F16H 48/14 20060101ALI20170421BHJP
【FI】
   F16H48/40
   F16H48/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-224973(P2015-224973)
(22)【出願日】2015年11月17日
(71)【出願人】
【識別番号】000238360
【氏名又は名称】武蔵精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002192
【氏名又は名称】特許業務法人落合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂田 翔平
(72)【発明者】
【氏名】松岡 慎弥
【テーマコード(参考)】
3J027
【Fターム(参考)】
3J027HC01
3J027HC07
3J027HC08
3J027HC30
(57)【要約】
【課題】ヘリカルリングギヤを通してデフケースに動力が入力される差動装置において、リングギヤに因るデフケースの重量増加を抑制し、併せてデフケースの剛性強度アップも図る。
【解決手段】デフケースCは、リングギヤCgと、ボス部Bを内周端部に有し且つ外周端部がリングギヤCgの軸方向両端部に接合される一対の側壁板部Ca,Cbとを備え、両側壁板部Ca,Cbは、その両者の外側面間の軸方向距離が径方向内方に向かうにつれて長くなると共に、各側壁板部Ca,Cbの、径方向でリングギヤCg寄りの所定中間部mから外周端部までの第1部分a1の肉厚が外周端部に近づくにつれて漸増し、各側壁板部Ca,Cbの第1部分a1の内側面が、リングギヤCgに向かって軸方向内方側に彎曲している。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デフケース(C)と、このデフケース(C)内に収容された差動機構(3)とを備え、その差動機構(3)が、デフケース(C)に入力される回転トルクを、デフケース(C)に支持した一対のドライブ軸(S1,S2)に分配可能な差動装置であって、
前記デフケース(C)は、前記回転トルクを受けるヘリカルギヤよりなるリングギヤ(Cg)と、前記一対のドライブ軸(S1,S2)を支持するボス部(B)を内周端部に有し且つ外周端部が前記リングギヤ(Cg)の軸方向両端部にそれぞれ接合される一対の側壁板部(Ca,Cb)とを備え、
前記両側壁板部(Ca,Cb)は、その両者の外側面間の軸方向距離が径方向内方に向かうにつれて長くなると共に、各側壁板部(Ca,Cb)の、径方向でリングギヤ(Cg)寄りの所定中間部(m)から前記外周端部までの第1部分(a1)の肉厚が外周端部に近づくにつれて漸増し、
前記各側壁板部(Ca,Cb)の前記第1部分(a1)の内側面が、前記リングギヤ(Cg)に向かって軸方向内方側に彎曲していることを特徴とする差動装置。
【請求項2】
前記各側壁板部(Ca,Cb)の、前記所定中間部(m)から前記ボス部(B)までの第2部分(a2)の肉厚がボス部(B)に近づくにつれて漸増していることを特徴とする、請求項1に記載の差動装置。
【請求項3】
前記各側壁板部(Ca,Cb)の外周端部と前記リングギヤ(Cg)との相互の接合面には段差(s)を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の差動装置。
【請求項4】
前記差動機構(3)は、前記両ボス部(B)の中心を通る第1軸線(X1)を中心軸線として一方の前記側壁板部(Ca)に一体的に設けられた第1伝動部材(5)と、一方の前記ドライブ軸(S1)に接続されて前記第1軸線(X1)回りに回転可能な主軸部(6j)、および前記第1軸線(X1)から偏心した第2軸線(X2)を中心軸線とする偏心軸部(6e)が互いに一体に連結された偏心回転部材(6)と、前記第1伝動部材(5)に対向配置されて前記偏心軸部(6e)に回転自在に支持される第2伝動部材(8)と、その第2伝動部材(8)に対向配置されると共に他方のドライブ軸(S2)に接続されて前記第1軸線(X1)回りに回転可能な第3伝動部材(9)と、前記第1及び第2伝動部材(5,8)間で変速しつつトルク伝達可能な第1変速機構(T1)と、前記第2及び第3伝動部材(8,9)間で変速しつつトルク伝達可能な第2変速機構(T2)とを備えており、
前記第1変速機構(T1)は、第1伝動部材(5)の、第2伝動部材(8)との対向面に在り且つ第1軸線(X1)を中心とする波形環状の第1伝動溝(21)と、第2伝動部材(8)の、第1伝動部材(5)との対向面に在り且つ第2軸線(X2)を中心とする波形環状で波数が第1伝動溝(21)とは異なる第2伝動溝(22)と、第1及び第2伝動溝(21,22)の複数の交差部に介装され、第1及び第2伝動溝(21,22)を転動しながら第1及び第2伝動部材(5,8)間の変速伝動を行う複数の第1転動体(23)とを有し、
前記第2変速機構(T2)は、第2伝動部材(8)の、第3伝動部材(9)との対向面に在り且つ第2軸線(X2)を中心とする波形環状の第3伝動溝(24)と、第3伝動部材(9)の、第2伝動部材(8)との対向面に在り且つ第1軸線(X1)を中心とする波形環状で波数が第3伝動溝(24)とは異なる第4伝動溝(25)と、第3及び第4伝動溝(24,25)の複数の交差部に介装され、第3及び第4伝動溝(24,25)を転動しながら第2及び第3伝動部材(8,9)間の変速伝動を行う複数の第2転動体(26)とを有し、
前記第1伝動溝(21)の波数をZ1、前記第2伝動溝(22)の波数をZ2、前記第3伝動溝(24)の波数をZ3、前記第4伝動溝(25)の波数をZ4としたとき、次式 (Z1/Z2)×(Z3/Z4)=2
が成立することを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載の差動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デフケースと、このデフケース内に収容された差動機構とを備え、その差動機構が、デフケースに入力される回転トルクを、デフケースに支持した一対のドライブ軸に分配可能な差動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記差動装置としては、例えば特許文献1に示されるようにデフケースの外周部にギヤ取付用フランジを連設し、このフランジにリングギヤをボルトで締結することでデフケースにリングギヤを取付けるようにしたものがよく知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−72524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところがこのような従来装置では、デフケースとは別個独立の部品とした大径のリングギヤをデフケース(ギヤ取付用フランジ)に後付けでボルト結合するため、そのデフケース及びリングギヤの全体重量が増え、延いては差動装置の重量増大を招いている。
【0005】
本発明は、上記に鑑み提案されたものであり、リングギヤに因るデフケースの重量増加を抑制し、併せてデフケースの剛性強度アップも図ることができる差動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、デフケースと、このデフケース内に収容された差動機構とを備え、その差動機構が、デフケースに入力される回転トルクを、デフケースに支持した一対のドライブ軸に分配可能な差動装置であって、前記デフケースは、前記回転トルクを受けるヘリカルギヤよりなるリングギヤと、前記一対のドライブ軸を支持するボス部を内周端部に有し且つ外周端部が前記リングギヤの軸方向両端部にそれぞれ接合される一対の側壁板部とを備え、前記両側壁板部は、その両者の外側面間の軸方向距離が径方向内方に向かうにつれて長くなると共に、各側壁板部の、径方向でリングギヤ寄りの所定中間部から前記外周端部までの第1部分の肉厚が外周端部に近づくにつれて漸増し、前記各側壁板部の前記第1部分の内側面が、前記リングギヤに向かって軸方向内方側に彎曲していることを第1の特徴とする。
【0007】
また本発明は、第1の特徴に加えて、前記各側壁板部の、前記所定中間部から前記ボス部までの第2部分の肉厚がボス部に近づくにつれて漸増していることを第2の特徴とする。
【0008】
また本発明は、前記第1又は第2の特徴に加えて、前記各側壁板部の外周端部と前記リングギヤとの相互の接合面には段差を有することを第3の特徴とする。
【0009】
また本発明は、前記第1〜第3の何れかの特徴に加えて、前記両ボス部の中心を通る第1軸線を中心軸線として一方の前記側壁板部に一体に設けられた第1伝動部材と、一方の前記ドライブ軸に接続されて前記第1軸線回りに回転可能な主軸部、および前記第1軸線から偏心した第2軸線を中心軸線とする偏心軸部が互いに一体に連結された偏心回転部材と、前記第1伝動部材に対向配置されて前記偏心軸部に回転自在に支持される第2伝動部材と、その第2伝動部材に対向配置されると共に他方のドライブ軸に接続されて前記第1軸線回りに回転可能な第3伝動部材と、前記第1及び第2伝動部材間で変速しつつトルク伝達可能な第1変速機構と、前記第2及び第3伝動部材間で変速しつつトルク伝達可能な第2変速機構とを備えており、前記第1変速機構は、第1伝動部材の、第2伝動部材との対向面に在り且つ第1軸線を中心とする波形環状の第1伝動溝と、第2伝動部材の、第1伝動部材との対向面に在り且つ第2軸線を中心とする波形環状で波数が第1伝動溝とは異なる第2伝動溝と、第1及び第2伝動溝の複数の交差部に介装され、第1及び第2伝動溝を転動しながら第1及び第2伝動部材間の変速伝動を行う複数の第1転動体とを有し、また前記第2変速機構は、第2伝動部材の、第3伝動部材との対向面に在り且つ第2軸線を中心とする波形環状の第3伝動溝と、第3伝動部材の、第2伝動部材との対向面に在り且つ第1軸線を中心とする波形環状で波数が第3伝動溝とは異なる第4伝動溝と、第3及び第4伝動溝の複数の交差部に介装され、第3及び第4伝動溝を転動しながら第2及び第3伝動部材間の変速伝動を行う複数の第2転動体とを有し、前記第1伝動溝の波数をZ1、前記第2伝動溝の波数をZ2、前記第3伝動溝の波数をZ3、前記第4伝動溝の波数をZ4としたとき、次式 (Z1/Z2)×(Z3/Z4)=2 が成立することを第4の特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の第1の特徴によれば、デフケースは、回転トルクを受けるリングギヤと、一対のドライブ軸を支持するボス部を内周端部に有し且つ外周端部がリングギヤの軸方向両端部にそれぞれ接合される一対の側壁板部とを備えるので、リングギヤがデフケースの一部(外周壁部)を構成することとなり、それだけデフケースの軽量化が達成され、差動装置の軽量化に寄与することができる。その上、デフケースの両側壁板部は、その両者の外側面間の軸方向距離が径方向内方、即ちボス部に向かうにつれて長くなるように形成されるので、デフケースの回転軸線を通る縦断面で見てデフケースの、回転軸線に関して片側部分(両側壁板部及びリングギヤの各片側部分)が裾拡がり状の山形状に形成され、これにより、デフケースの倒れ剛性を効果的に高めることができ、特に本発明のようにリングギヤが、ギヤ噛合部を通してスラスト荷重を受けるヘリカルギヤであっても、そのスラスト荷重に抗してデフケースの軸方向倒れを効果的に抑制可能であることから、デフケースの耐久性向上が図られる。更に各側壁板部が、その各側壁板部の、径方向でリングギヤ寄りの所定中間部から外周端部までの第1部分の肉厚を外周端部に近づくにつれて漸増させるように形成され、各側壁板部の第1部分の内側面が、リングギヤに向かって軸方向内方側に彎曲するので、外周端部寄りの第1部分で上記スラスト荷重を効率よく受け止めることができて、各側壁板部の重量増加を極力抑えながらデフケースの倒れ剛性を効率よく強化することができ、しかも各側壁板部(第1部分)の外周端部とリングギヤとの接合面(即ち嵌合代)を軸方向に極力広く確保可能となるから、各側壁板部とリングギヤとの結合強度が効果的に高められる。
【0011】
また本発明の第2の特徴によれば、各側壁板部は、その各側壁板部の、前記所定中間部からボス部までの第2部分の肉厚をボス部に近づくにつれて漸増させるので、ボス部寄りの第2部分においても上記スラスト荷重を効率よく受け止めることができて、各側壁板部の重量増加を極力抑えながらデフケースの倒れ剛性を一層効率よく強化することができる。しかも各側壁板部(第2部分)の、厚肉となる内周端部にボス部を連ねることができるから、各側壁板部とボス部との結合強度が効果的に高められる。
【0012】
また本発明の第3の特徴によれば、各側壁板部の外周端部とリングギヤとの相互の接合面には段差が形成されるので、各側壁板部の外周端部とリングギヤとの軸方向位置決め精度及び結合強度を効果的に高めることができる。
【0013】
また本発明の第4の特徴によれば、差動機構の第1及び第2伝動部材間では、波数が異なる波形環状の第1及び第2伝動溝相互の複数の交差部に介在する複数の第1転動体を介して(即ち周方向で複数箇所に分散して)トルク伝達が行われ、また、第2及び第3伝動部材間では、波数が異なる波形環状の第3及び第4伝動溝相互の複数の交差部に介在する複数の第2転動体を介して(即ち周方向で複数箇所に分散して)トルク伝達が行われるため、その各々の伝動要素の荷重負担が軽減されて強度増及び軽量化が図られる。しかも差動機構を軸方向に扁平に構成可能となるため、デフケース、延いては差動装置の扁平化に寄与することができ、またそのように扁平化しても、本発明のデフケースは前述のように倒れ剛性が高いことから、十分な実用強度を無理なく確保可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る差動装置の縦断正面図
図2】前記差動装置の要部(差動機構)の分解斜視図
図3図1の3−3矢視断面図
図4図1の4−4矢視断面図
図5図1の5−5矢視断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態を添付図面に基づいて以下に説明する。
【0016】
先ず、図1図5に示す本発明の一実施形態を説明する。図1において、自動車のミッションケース1内には、伝動装置としての差動装置Dが変速装置と共に収容される。
【0017】
この差動装置Dは、前記変速装置の出力側に連動回転するリングギヤCgの回転を、差動装置Dの中心軸線即ち第1軸線X1上に相対回転可能に並ぶ左右の駆動車軸S1,S2(即ちドライブ軸)に対して、両駆動車軸S1,S2相互の差動回転を許容しつつ分配する。尚、各々の駆動車軸S1,S2とミッションケース1との間は、シール部材4,4′でシールされる。
【0018】
差動装置Dは、ミッションケース1に第1軸線X1回りに回転可能に支持されるデフケースCと、そのデフケースC内に収容される後述の差動機構3とで構成される。デフケースCは、短円筒状のギヤ本体の外周に斜歯Cgaを設けたヘリカルギヤよりなるリングギヤCgと、そのリングギヤCgの軸方向両端部に外周端部がそれぞれ接合される左右一対の第1,第2側壁板部Ca,Cbとを備える。
【0019】
その両側壁板部Ca,Cbは、各々の内周端部においてボス部Bを一体に有しており、そのボス部Bの外周部は、ミッションケース1に軸受2,2′を介して第1軸線X1回りに回転自在に支持される。またボス部Bの内周部には、第1軸線X1を回転軸線とする第1,第2駆動車軸S1,S2がそれぞれ回転自在に嵌合、支持される。
【0020】
図1に明示したように、デフケースCの第1,第2側壁板部Ca,Cbは、その両者の外側面間の軸方向距離(即ちデフケースCの軸方向幅)が径方向内方に向かう(即ちボス部Bに近づく)につれて長くなるように形成される。しかもその各側壁板部Ca,Cbは、それらの、径方向でリングギヤCg寄りの所定中間部mから外周端部までの第1部分a1の肉厚を外周端部に近づくにつれて漸増させるように形成される。また、各側壁板部Ca,Cbの前記第1部分a1の内側面(即ちデフケースCの内部空間に臨む内面)は、リングギヤCgに向かって軸方向内方側に彎曲している。更に各側壁板部Ca,Cbは、それらの、前記所定中間部mからボス部Bまでの第2部分a2の肉厚をボス部Bに近づくにつれて漸増させるように形成される。
【0021】
第1,第2側壁板部Ca,Cbの外周端部とリングギヤCgとの相互の接合面間は、溶接、接着、かしめ等の適当な結合手段により一体的に接合される。またその接合面には、段差sが形成されており、この段差sにより、各側壁板部Ca,Cbの外周端部とリングギヤCgとの互いの軸方向位置決め精度及び結合強度が効果的に高められる。
【0022】
而して、上記した本実施形態のデフケース構造によれば、リングギヤCgがデフケースCの一部(外周壁部)を構成するため、それだけデフケースC、延いては差動装置Dの軽量化が達成される。その上、デフケースの第1,第2側壁板部Ca,Cbは、その両者の外側面間の軸方向距離が径方向内方に向かうにつれて長くなるように形成されるので、デフケースCの縦断面(図1)で見てデフケースCの、第1軸線X1に関して片側部分が裾拡がり状の山形状に形成され、これにより、デフケースCの倒れ剛性が効果的に高められる。従って、リングギヤCgが、ギヤ噛合部を通して大きなスラスト荷重を受けるヘリカルギヤであっても、スラスト荷重に抗してデフケースCの軸方向倒れが効果的に抑制可能となる。更に各側壁板部Ca,Cbが、それらのリングギヤCg寄りの前記第1部分a1の肉厚を外周端部に近づくにつれて漸増させるように(即ち先拡がり状に)形成され、且つその第1部分a1の内側面がリングギヤCgに向かって軸方向内方側に彎曲するため、外周端部寄りの第1部分a1でスラスト荷重が効率よく受け止められ、従って、各側壁板部Ca,Cbの重量増加を極力抑えつつデフケースの倒れ剛性が効率よく強化可能となる。しかも上記第1部分a1の外周端部とリングギヤCgとの接合面(即ち嵌合代)を軸方向に極力広く確保可能となるから、各側壁板部Ca,CbとリングギヤCgとの結合強度が効果的に高められる。
【0023】
さらに各側壁板部Ca,Cbは、それらのボス部B寄りの第2部分a2の肉厚をボス部Bに近づくにつれて漸増させるので、この第2部分a2においてもスラスト荷重を効率よく受け止めてボス部B側に伝達でき、各側壁板部Ca,Cbの重量増加を極力抑えながらデフケースCの倒れ剛性が一層効率よく強化可能となる。しかも上記第2部分a2の、厚肉となる内周端部にボス部Bを連ねることができるから、各側壁板部Ca,Cbとボス部Bとの結合強度が効果的に高められる。
【0024】
次にデフケースC内の差動機構3の構造を説明する。差動機構3は、第1側壁板部Ca(具体的には厚肉の前記第2部分a2)に一体的に設けられて第1軸線X1回りに回転自在な第1伝動部材5と、第1駆動車軸S1にスプライン嵌合16されて第1軸線X1回りに回転自在な主軸部6j、および第1軸線X1から所定量eだけ偏心した第2軸線X2を中心軸線とする偏心軸部6eを互いに一体に連結してなる偏心回転部材6と、第1伝動部材5に一側部が対向配置され且つ前記偏心軸部6eに軸受7を介して回転自在に支持される円環状の第2伝動部材8と、第2伝動部材8の他側部に対向配置されると共に第2駆動車軸S2にスプライン嵌合17されて第1軸線X1回りに回転自在な円環状の第3伝動部材9と、第1及び第2伝動部材5,8間で変速しつつトルク伝達可能な第1変速機構T1と、第2及び第3伝動部材8,9間で変速しつつトルク伝達可能な第2変速機構T2とを備える。
【0025】
而して、第1軸線X1回りに回転自在に支持される主軸部6jを有した偏心回転部材6の偏心軸部6eに第2伝動部材8が第2軸線X2回りに回転自在に嵌合支持されることで、その第2伝動部材8は、偏心回転部材6の第1軸線X1回りの回転に伴い、それの偏心軸部6eに対し第2軸線X2回りに自転しつつ、主軸部6jに対し第1軸線X1回りに公転可能である。
【0026】
また第2伝動部材8は、偏心回転部材6の偏心軸部6eに軸受7を介して回転自在に支持される円環状の第1半体8aと、その第1半体8aに後述するバランスウェイトWの収容空間SPを挟んで対向する円環状の第2半体8bと、その収容空間SPを囲むようにして両半体8a,8b間を一体的に連結する基本的に円筒状の連結部材8cとを備えていて、第1半体8aと第1伝動部材5との間に前記第1変速機構T1が、また第2半体8bと第3伝動部材9との間に前記第2変速機構T2がそれぞれ設けられる。
【0027】
また第3伝動部材9は、第2駆動車軸S2にスプライン嵌合17されて第1軸線X1回りに回転自在な主軸部9jと、その主軸部9jの内端部に同軸状に連設される円板部9cとを結合一体化して構成される。尚、第2側壁板部Cbの内側面と第3伝動部材9(円板部9cの背面)との間には、スラストワッシャ15が相対回転自在に介装される。
【0028】
更に差動機構3は、第1軸線X1を挟んで偏心回転部材6の偏心軸部6e及び第2伝動部材8の総合重心Gとは逆位相であり且つその総合重心Gの回転半径よりも大なる回転半径を有していて偏心回転部材6の主軸部6jに取付けられるバランスウェイトWを備えている。このバランスウェイトWは、環状の取付基部Wmと、その取付基部Wmの周方向特定領域に固設される重錘部Wwとから構成される。
【0029】
第2伝動部材8(連結部材8c)の内部空間は、バランスウェイトWを収容する収容空間SPとなっている。そして、偏心回転部材6の主軸部6jは、その内端部が前記収容空間SPに延出しており、その延出端部6jaの外周にバランスウェイトWが装着される。そして、前記取付基部Wmは、主軸部6jの延出端部6ja外周に嵌合されており、その嵌合面間には、その間の軸方向摺動は許容するが相対回転を規制する回り止め用の平坦な係合面14が設けられる。バランスウェイトWの主軸部6jへの固定は、前記取付基部Wmの主軸部6jからの離脱を阻止する抜け止め部材としてのサークリップ等の止輪10を主軸部6jの延出端部6jaに着脱可能に装着することで行われる。その装着のために、主軸部6jの延出端部6jaの外周には、止輪10が弾力的に係止可能な係止溝が凹設される。
【0030】
図1図3に示すように、第1伝動部材5の、第2伝動部材8の一側面(即ち第1半体8a)に対向する内側面には、第1軸線X1を中心とした波形環状の第1伝動溝21が形成され、この第1伝動溝21は、図示例では第1軸線X1を中心とする仮想円を基礎円としたハイポトロコイド曲線に沿って周方向に延びている。一方、第2伝動部材8の、第1伝動部材5に対向する一側面(第1半体8a)には、第2軸線X2を中心とした波形環状の第2伝動溝22が形成される。この第2伝動溝22は、図示例では第2軸線X2を中心とする仮想円を基礎円としたエピトロコイド曲線に沿って周方向に延びており、上記第1伝動溝21の波数よりも少ない波数を有して第1伝動溝21と複数箇所で交差する。これら第1伝動溝21及び第2伝動溝22の交差部(即ち重なり部)には、第1転動体としての複数の第1伝動ボール23が介装されており、各々の第1伝動ボール23は、それら第1及び第2伝動溝21,22の内側面を転動自在である。
【0031】
第1伝動部材5及び第2伝動部材8(第1半体8a)の相対向面間には、円環状の扁平な第1保持部材H1が介装される。この第1保持部材H1は、複数の第1伝動ボール23の、第1、第2伝動溝21,22相互の交差部での両伝動溝21,22への係合状態を維持し得るように、複数の第1転動ボール23をそれらの相互間隔を一定に規制しつつ回転自在に保持する複数の円形の保持孔31を有している。これにより、各々の第1伝動ボール23は、第1、第2伝動溝21,22の各々の曲率急変部を通過する際にも溝内での暴れが効果的に抑制されるため、その曲率急変部でもスムーズに転動可能となり、伝動効率が高められる。
【0032】
また、図1,2,4に示すように、第2伝動部材8の他側面(即ち第2半体8b)には、第2軸線X2を中心とした波形環状の第3伝動溝24が形成され、この第3伝動溝24は、図示例では第2軸線X2を中心とする仮想円を基礎円としたハイポトロコイド曲線に沿って周方向に延びている。一方、第3伝動部材9の、第2伝動部材8との対向面すなわち円板部9cの内側面には、第1軸線X1を中心とした波形環状の第4伝動溝25が形成される。この第4伝動溝25は、図示例では第1軸線X1を中心とする仮想円を基礎円としたエピトロコイド曲線に沿って周方向に延びており、上記第3伝動溝24の波数よりも少ない波数を有して第3伝動溝24と複数箇所で交差する。これら第3伝動溝24及び第4伝動溝25の交差部(重なり部)には、第2転動体としての複数の第2伝動ボール26が介装されており、各々の第2伝動ボール26は、それら第3及び第4伝動溝24,25の内側面を転動自在である。
【0033】
第3伝動部材9及び第2伝動部材8(第2半体8b)の相対向面間には、円環状の扁平な第2保持部材H2が介装される。この第2保持部材H2は、複数の第2伝動ボール26の、第3、第4伝動溝24,25相互の交差部での両伝動溝24,25への係合状態を維持し得るように、複数の第2転動ボール26をそれらの相互間隔を一定に規制しつつ回転自在に保持する複数の円形の保持孔32を有している。これにより、各々の第2伝動ボール26は、第3、第4伝動溝24,25の各々の曲率急変部を通過する際にも溝内での暴れが効果的に抑制されるため、その曲率急変部でもスムーズに転動可能となり、伝動効率が高められる。
【0034】
以上において、第1伝動溝21の波数をZ1、第2伝動溝22の波数をZ2、第3伝動溝24の波数をZ3、第4伝動溝25の波数をZ4としたとき、下記式が成立するように、第1〜第4伝動溝21,22,24,25は形成される。
(Z1/Z2)×(Z3/Z4)=2
望ましくは、図示例のように、Z1=8、Z2=6、Z3=6、Z4=4とするか、又はZ1=6、Z2=4、Z3=8、Z4=6とするとよい。
【0035】
尚、図示例では、8波の第1伝動溝21と6波の第2伝動溝22とが7箇所で交差し、この7箇所の交差部(重なり部)に7個の第1伝動ボール23が介装され、また6波の第3伝動溝24と4波の第4伝動溝25とが5箇所で交差し、この5箇所の交差部(重なり部)に5個の第2伝動ボール26が介装される。
【0036】
而して、第1伝動溝21、第2伝動溝22及び第1伝動ボール23は互いに協働して、第1伝動部材5及び第2伝動部材8間で変速しつつトルク伝達可能な第1変速機構T1を構成し、また第3伝動溝24、第4伝動溝25及び第2伝動ボール26は互いに協働して、第2伝動部材8及び第3伝動部材9間で変速しつつトルク伝達可能な第2変速機構T2を構成する。
【0037】
次に、前記実施形態の作用について説明する。
【0038】
いま、例えば右方の第1駆動車軸S1を固定することで偏心回転部材6(従って偏心軸部6e)を固定した状態において、エンジンからの動力でリングギヤCgが駆動され、デフケースC、従って第1伝動部材5を第1軸線X1回りに回転させると、第1伝動部材5の8波の第1伝動溝21が第2伝動部材8の6波の第2伝動溝22を第1伝動ボール23を介して駆動するので、第1伝動部材5が8/6の増速比を以て第2伝動部材8を駆動することになる。そして、この第2伝動部材8の回転によれば、第2伝動部材8の6波の第3伝動溝24が第3伝動部材9の円板部9cの4波の第4伝動溝25を第2伝動ボール26を介して駆動するので、第2伝動部材8が6/4の増速比を以て第3伝動部材9を駆動することになる。
【0039】
結局、第1伝動部材5は、
(Z1/Z2)×(Z3/Z4)=(8/6)×(6/4)=2
の増速比を以て第3伝動部材9を駆動することになる。
【0040】
一方、左方の第2駆動車軸S2を固定することで第3伝動部材9を固定した状態において、デフケース(従って第1伝動部材5)を回転させると、第1伝動部材5の回転駆動力と、第2伝動部材8の、不動の第3伝動部材9に対する駆動反力とにより、第2伝動部材8は、偏心回転部材6の偏心軸部6e(第2軸線X2)に対し自転しながら第1軸線X1回りに公転して、偏心軸部6eを第1軸線X1回りに駆動する。その結果、第1伝動部材5は、2倍の増速比を以て偏心回転部材6を駆動することになる。
【0041】
而して、偏心回転部材6及び第3伝動部材9の負荷が相互にバランスしたり、相互に変化したりすると、第2伝動部材8の自転量及び公転量が無段階に変化し、偏心回転部材6及び第3伝動部材9の回転数の平均値が第1伝動部材5の回転数と等しくなる。こうして、第1伝動部材5の回転は、偏心回転部材6及び第3伝動部材9に分配され、したがってリングギヤCgからデフケースCに伝達された回転力を左右の駆動車軸S1,S2に分配することができる。
【0042】
その際、Z1=8、Z2=6、Z3=6、Z4=4とするか、又はZ1=6、Z2=4、Z3=8、Z4=6とすることにより、差動機能を確保しつゝ構造の簡素化を図ることができる。
【0043】
ところで、この差動装置Dにおいて、第1伝動部材5の回転トルクは、第1伝動溝21、複数の第1伝動ボール23及び第2伝動溝22を介して第2伝動部材8に、また第2伝動部材8の回転トルクは、第3伝動溝24、複数の第2伝動ボール26及び第4伝動溝25を介して第3伝動部材9にそれぞれ伝達されるので、第1伝動部材5と第2伝動部材8、第2伝動部材8と第3伝動部材9の各間では、トルク伝達が第1及び第2伝動ボール23,26が存在する複数箇所に分散して行われることになり、第1〜第3伝動部材5,8,9及び第1、第2伝動ボール23,26等の各伝動要素の強度増及び軽量化を図ることができる。
【0044】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0045】
例えば、前記実施形態の差動装置Dとしては、動力源からデフケースC(第1伝動部材5)に入力された動力を、第2伝動部材8や第1,第2変速機構T1,T2を介して偏心回転部材6及び第3伝動部材9に差動回転を許容しつつ分配するようにしたものを示したが、本発明は、実施形態以外の種々の差動装置、例えばピニオン(差動ギヤ)とこれに噛合する一対のサイドギヤとを含む従来周知の歯車式の差動装置に適用してもよい。
【0046】
また、前記実施形態では、差動装置Dを自動車のミッションケースM内に収容しているが、本発明の差動装置は自動車用の差動装置に限定されるものではなく、種々の機械装置用の差動装置として実施可能である。
【0047】
また、前記実施形態では、差動装置Dを、左・右輪伝動系に適用して、左右の駆動車軸S1,S2に対し差動回転を許容しつつ動力を分配するものを示したが、本発明では、差動装置を前・後輪駆動車両における前・後輪伝動系に適用して、前後の駆動車輪に対し差動回転を許容しつつ動力を分配するようにしてもよい。
【0048】
また前記実施形態の第2伝動部材8は、第1,第2半体8a,8b及び連結部材8cから構成されていたが、第2伝動部材8は、単一の部材の一方の面に第2伝動溝22が、他方の面に第3伝動溝24がそれぞれ設けられたものであってもよい。
【0049】
また、前記実施形態では、第1,第2変速機構T1,T2として何れも転動ボール式変速機構を用いたものを示したが、本発明の第1,第2変速機構のうちの少なくとも一方の変速機構は、前記実施形態の構造に限定されない。即ち、偏心回転部材と、それの回転に連動して第2軸線回りの自転及び第1軸線回りの公転が可能な第2伝動部材とを少なくとも含む種々の変速機構、例えば内接式遊星歯車機構や、種々の構造のサイクロイド減速機(増速機)或いはトロコイド減速機(増速機)を、本発明の第1,第2変速機構のうちの少なくとも一方に適用するようにしてもよい。
【0050】
また、前記実施形態では、バランスウェイトWを第2伝動部材8の内部空間SPに収容したものを示したが、バランスウェイトWの配設部位は実施形態に限定されず、例えば、第2伝動部材8の外側等に配設してもよい。
【0051】
また、前記実施形態では、第1,第2変速機構T1,T2の各伝動溝21,22;24,25をトロコイド曲線に沿った波形環状の波溝としているが、これら伝動溝は、実施形態に限定されるものでなく、例えばサイクロイド曲線に沿った波形環状の波溝としてもよい。
【0052】
また、前記実施形態では、第1,第2変速機構T1,T2の第1及び第2伝動溝21,22間、並びに第3及び第4伝動溝24,25間にボール状の第1及び第2転動体23,26を介装したものを示したが、その転動体をローラ状又はピン状としてもよく、この場合に、第1及び第2伝動溝21,22、並びに第3及び第4伝動溝24,25は、ローラ状又はピン状の転動体が転動し得るような内側面形状に形成される。
【0053】
また前記実施形態では、偏心回転部材6及び第3伝動部材9を、デフケースCに支持される駆動車軸S1,S2に接続(スプライン嵌合)して、これら駆動車軸S1,S2を介してデフケースCに支持させるようにしたものを示したが、本発明では、偏心回転部材6及び第3伝動部材9をデフケースCに直接支持させるようにしてもよい。
【0054】
また前記実施形態では、第1,第2転動ボール23,26を円滑に転動させるために第1,第2保持部材H1,H2を用いたものを示したが、第1,第2保持部材H1,H2無しでも第1,第2転動ボール23,26が円滑に転動可能な場合は、第1,第2保持部材H1,H2を省略してもよい。
【符号の説明】
【0055】
a1,a2・・第1,第2部分
B・・・・・ボス部
C・・・・・デフケース
Ca,Cb・・第1,第2側壁板部
Cg・・・・リングギヤ
D・・・・・差動装置
m・・・・・所定中間部
S1・・・・一方のドライブ軸としての右方の第1駆動車軸
S2・・・・他方のドライブ軸としての左方の第2駆動車軸
T1,T2・・第1,第2変速機構
X1,X2・・第1,第2軸線
3・・・・・差動機構
5・・・・・第1伝動部材
6・・・・・偏心回転部材
6j・・・・主軸部
6e・・・・偏心軸部
8・・・・・第2伝動部材
9・・・・・第3伝動部材
23・・・・・第1転動体としての第1伝動ボール
24,25・・第3,第4伝動溝
26・・・・・第2転動体としての第2伝動ボール
図1
図2
図3
図4
図5