特開2017-9033(P2017-9033A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2017-9033静圧気体軸受用の円筒状複合部材及びこの円筒状複合部材の製造方法並びにこの円筒状複合部材を具備した静圧気体軸受
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-9033(P2017-9033A)
(43)【公開日】2017年1月12日
(54)【発明の名称】静圧気体軸受用の円筒状複合部材及びこの円筒状複合部材の製造方法並びにこの円筒状複合部材を具備した静圧気体軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 32/06 20060101AFI20161216BHJP
   F16C 33/14 20060101ALI20161216BHJP
   F16C 33/12 20060101ALI20161216BHJP
   C22C 9/06 20060101ALI20161216BHJP
   B22F 7/08 20060101ALI20161216BHJP
   B22F 5/00 20060101ALI20161216BHJP
   C22C 1/08 20060101ALI20161216BHJP
【FI】
   F16C32/06 B
   F16C33/14 A
   F16C33/12 B
   C22C9/06
   B22F7/08 E
   B22F5/00 C
   C22C1/08 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-125157(P2015-125157)
(22)【出願日】2015年6月22日
(71)【出願人】
【識別番号】000103644
【氏名又は名称】オイレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098095
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 武志
(72)【発明者】
【氏名】平山 琢哉
【テーマコード(参考)】
3J011
3J102
4K018
【Fターム(参考)】
3J011BA02
3J011DA01
3J011DA02
3J011KA02
3J011LA01
3J011MA01
3J011QA01
3J011QA11
3J011SB02
3J011SB03
3J011SB05
3J011SB15
3J011SB19
3J011SB20
3J011SE05
3J102AA02
3J102CA05
3J102CA36
3J102EA02
3J102EA17
3J102EA18
3J102EA29
3J102FA02
3J102FA03
3J102FA08
3J102FA09
4K018AA04
4K018BA02
4K018BA04
4K018BA20
4K018BC12
4K018CA02
4K018CA09
4K018CA11
4K018DA32
4K018DA33
4K018FA06
4K018HA03
4K018JA29
4K018KA03
4K018KA53
(57)【要約】
【課題】小径の裏金の内周面であっても接合不良を惹起することがない上に、圧縮気体の漏出の虞をなくし得る静圧気体軸受用の円筒状複合部材及びこの円筒状複合部材の製造方法並びにこの円筒状複合部材を含む静圧気体軸受を提供すること。
【解決手段】静圧気体軸受用の円筒状複合部材1は、円筒状の銅管2と、円筒状の外周面3において銅管2の内周面4に一体的に拡散接合されていると共に円筒状の内周面5を備えており、且つ銅を含んだ円筒状の多孔質金属焼結体6と、径方向において銅管2の外周面7から多孔質金属焼結体6の一部まで伸びて銅管2及び多孔質金属焼結体6に形成された環状溝8とを備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の銅管と、この銅管の内周面に一体的に拡散接合されていると共に銅を含んだ円筒状の多孔質金属焼結体とを備えた静圧気体軸受用の円筒状複合部材。
【請求項2】
多孔質金属焼結体は、銅に加えて、4〜10質量%の錫と、10〜40質量%のニッケルと、0.1〜0.5質量%の燐と、2〜10質量%の黒鉛とを含んでいる請求項1に記載の静圧気体軸受用の円筒状複合部材。
【請求項3】
径方向において銅管の外周面から多孔質金属焼結体の一部まで伸びて銅管及び多孔質金属焼結体に形成された少なくとも一つの溝を更に備えた請求項1又は2に記載の静圧気体軸受用の円筒状複合部材。
【請求項4】
(a)円筒状の銅管を準備する工程と、(b)電解銅粉末に加えて、アトマイズ錫粉末4〜10質量%、電解ニッケル粉末10〜40質量%、銅燐(燐14.5質量%)合金粉末0.7〜3.5質量%及び黒鉛粉末2〜10質量%を含む混合粉末から圧縮成形された円筒状の圧粉体を銅管の内部に挿入して圧粉体及び銅管を具備した第一の複合体を作製する工程と、(c)第一の複合体を還元性雰囲気又は真空中で850〜1000℃の温度で30〜90分間加熱し、この加熱により第一の複合体における圧粉体から多孔質金属焼結体を生成すると共にこの生成過程での銅管の内周面への圧粉体の拡散で一体化させた多孔質金属焼結体及び銅管を具備した第二の複合体を作製する工程とを具備した静圧気体軸受用の円筒状複合部材の製造方法。
【請求項5】
作製された第二の複合体における銅管の外周面から多孔質金属焼結体の一部まで伸びる少なくとも一つの溝を第二の複合体に形成する工程を更に具備した請求項4に記載の静圧気体軸受用の円筒状複合部材の製造方法。
【請求項6】
(a)円筒状の銅管を準備する工程と、(b)電解銅粉末に加えて、アトマイズ錫粉末4〜10質量%、電解ニッケル粉末10〜40質量%、銅燐(燐14.5質量%)合金粉末0.7〜3.5質量%及び黒鉛粉末2〜10質量%を含む混合粉末から圧縮成形された複数個の円筒状の圧粉体を銅管の内部に順次挿入して該銅管の内部に当該銅管の長手方向に沿って配列された複数個の圧粉体及び銅管を具備した第一の複合体を作製する工程と、(c)第一の複合体を還元性雰囲気又は真空中で850〜1000℃の温度で30〜90分間加熱し、この加熱により第一の複合体における圧粉体から多孔質金属焼結体を生成すると共にこの生成過程での圧粉体同士の相互拡散及び銅管の内周面への圧粉体の拡散で一体化させた多孔質金属焼結体及び銅管を具備した第二の複合体を作製する工程と、(d)第二の複合体を切断して、複数個の第二の複合体を作製する工程とを具備した複数個の静圧気体軸受用の円筒状複合部材の製造方法。
【請求項7】
作成された複数個の第二の複合体の夫々における銅管の外周面から多孔質金属焼結体の一部まで伸びる少なくとも一つの溝を複数個の第二の複合体の夫々に形成する工程を更に具備した請求項6に記載の複数個の静圧気体軸受用の円筒状複合部材の製造方法。
【請求項8】
混合粉末には、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ゼラチン、アラビアゴム及びスターチから選択される粉末結合剤の1〜15質量%水溶液が0.1〜5.0質量%配合されている請求項4から7のいずれか一項に記載の静圧気体軸受用の円筒状複合部材の製造方法。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の円筒状複合部材と、この円筒状複合部材の銅管の外周面が密接されている円筒内周面を有している筒状の裏金とを具備した静圧気体軸受。
【請求項10】
請求項3に記載の円筒状複合部材と、この円筒状複合部材の銅管の外周面が密接されている円筒内周面及び円筒状複合部材の溝に連通する圧縮気体供給用の通路を有している筒状の裏金とを具備した静圧気体軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受隙間に供給される加圧気体の流量を絞るための多孔質金属焼結体を用いた静圧気体軸受用の円筒状複合部材及びこの円筒状複合部材の製造方法並びにこの円筒状複合部材を具備した静圧気体軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ステンレス鋼からなる裏金と、この裏金の少なくとも一方の面に接合層を介して一体にされた多孔質焼結金属層とを具備した多孔質静圧気体軸受用の軸受素材が提案されており、この軸受素材を用いて作製された静圧気体軸受では、多孔質焼結金属層をステンレス鋼からなる裏金に接合層を介して強固に一体化させることができ、多孔質焼結金属層の気孔率が高められているので多孔質焼結金属層を流通する圧縮気体の圧力損失が低下し、結果として多孔質焼結金属層の表面(軸受面)から噴出する給気圧力を高めて、相手材の浮上量を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−143580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1で提案された静圧気体軸受は、耐腐食性(防錆)の観点から用いられるステンレス鋼からなる裏金に多孔質金属焼結層を接合させるために、裏金の表面のニッケルメッキ層とニッケルメッキ層の表面の銅メッキ層との二層のメッキ層からなる接合層を具備しているが、例えば内径が20mm未満の円筒状の裏金の内周面に接合層を介して多孔質金属焼結層を形成する場合においては、裏金の内周面にメッキがのりにくく、メッキ層にむらを生じ、しばしばメッキ不良が問題となり、結果として多孔質金属焼結層の裏金の内周面への接合不良を惹起する虞がある上に、接合不良に起因する裏金と多孔質金属焼結層との接合部からの圧縮気体の漏出の虞がある。
【0005】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、小径の裏金の内周面であっても接合不良を惹起することがない上に、圧縮気体の漏出の虞をなくし得る静圧気体軸受用の円筒状複合部材及びこの円筒状複合部材の製造方法並びにこの円筒状複合部材を含む静圧気体軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の静圧気体軸受用の円筒状複合部材は、円筒状の銅管と、この銅管の内周面に一体的に拡散接合されていると共に銅を含んだ円筒状の多孔質金属焼結体とを備えている。
【0007】
静圧気体軸受における軸受隙間に供給される圧縮気体の流量を絞るための手段である多孔質金属焼結体を具備した本発明の円筒状複合部材によれば、円筒状の銅管にその内周面を介して多孔質金属焼結体が拡散接合されているので、銅管と多孔質金属焼結体との接合が強固になされる結果、小径の銅管の内周面であっても接合不良を惹起することがなく、銅管と多孔質金属焼結体との接合部からの圧縮気体の漏出の虞がなく、また、本発明の円筒状複合部材と裏金とを用いる静圧気体軸受では、多孔質金属焼結体と裏金との間には多孔質金属焼結体よりも軟質な銅管が介在されるために、裏金の腐食による多孔質金属焼結体の気孔の直接的な封止を回避でき、耐腐食性のあるステンレス鋼からなる裏金を用いる必要がなくなる上に、銅管の軟質性により多様な裏金と良好に接合でき、裏金に対しての汎用性が優れている。
【0008】
本発明において、多孔質金属焼結体は、好ましくは、銅に加えて、4〜10質量%の錫と、10〜40質量%のニッケルと、0.1〜0.5質量%の燐と、2〜10質量%の黒鉛とを含んでいる。
【0009】
斯かる円筒状複合部材によれば、多孔質金属焼結体の粒界に黒鉛が含有されているので、軸受面となる多孔質金属焼結体の表面に機械加工を施してもその表面での目詰まりが抑制されて理想的な絞り構造を得ることができる。
【0010】
本発明による円筒状複合部材は、好ましい例では、径方向において銅管の外周面から多孔質金属焼結体の一部まで伸びて銅管及び多孔質金属焼結体に形成された少なくとも一つの溝、好ましくは環状溝を更に備えている。
【0011】
本発明において、銅管は、多孔質金属焼結体よりも軟質な銅又は銅合金からなっていればよく、好ましくは、無酸素銅、リン脱酸銅、タフピッチ銅、青銅及び黄銅のうちのいずれから選択されたものからなり、水素脆性を生じさせる還元性雰囲気で複合体を作製する場合には、好ましくは、無酸素銅又はリン脱酸銅からなる。
【0012】
本発明の静圧気体軸受用の円筒状複合部材の製造方法は、(a)円筒状の銅管を準備する工程と、(b)電解銅粉末に加えて、アトマイズ錫粉末4〜10質量%、電解ニッケル粉末10〜40質量%、銅燐(燐14.5質量%)合金粉末0.7〜3.5質量%及び黒鉛粉末2〜10質量%を含む混合粉末から圧縮成形された円筒状の圧粉体を銅管の内部に挿入して圧粉体及び銅管を具備した第一の複合体を作製する工程と、(c)第一の複合体を還元性雰囲気又は真空中で850〜1000℃の温度で30〜90分間加熱し、この加熱により第一の複合体における圧粉体から多孔質金属焼結体を生成すると共にこの生成過程での銅管の内周面への圧粉体の拡散で一体化させた多孔質金属焼結体及び銅管を具備した第二の複合体を作製する工程とを具備している。
【0013】
本発明の斯かる製造方法は、好ましい例では、作製された第二の複合体における銅管の外周面から多孔質金属焼結体の一部まで伸びる少なくとも一つの溝、好ましくは、環状溝を第二の複合体に形成する工程を更に具備している。
【0014】
複数個の静圧気体軸受用の円筒状複合部材の本発明の製造方法は、(a)円筒状の銅管を準備する工程と、(b)電解銅粉末に加えて、アトマイズ錫粉末4〜10質量%、電解ニッケル粉末10〜40質量%、銅燐(燐14.5質量%)合金粉末0.7〜3.5質量%及び黒鉛粉末2〜10質量%を含む混合粉末から圧縮成形された複数個の円筒状の圧粉体を銅管の内部に順次挿入して該銅管の内部に当該銅管の長手方向に沿って配列された複数個の圧粉体及び銅管を具備した第一の複合体を作製する工程と、(c)第一の複合体を還元性雰囲気又は真空中で850〜1000℃の温度で30〜90分間加熱し、この加熱により第一の複合体における圧粉体から多孔質金属焼結体を生成すると共にこの生成過程での圧粉体同士の相互拡散及び銅管の内周面への圧粉体の拡散で一体化させた多孔質金属焼結体及び銅管を具備した第二の複合体を作製する工程と、(d)第二の複合体を切断して、複数個の第二の複合体を作製する工程とを具備している。
【0015】
複数個の静圧気体軸受用の円筒状複合部材の斯かる本発明の製造方法は、好ましい例では、作製された複数個の第二の複合体の夫々における銅管の外周面から多孔質金属焼結体の一部まで伸びる少なくとも一つの溝、好ましくは、環状溝を複数個の第二の複合体の夫々に形成する工程を更に具備している。
【0016】
本発明の製造方法において、混合粉末には、好ましくは、粉末結合剤の1〜15重量%水溶液が0.1〜5.0質量%配合されており、斯かる水溶液で湿潤性が付与されて均一に混合された混合粉末を使用することにより、混合粉末を圧縮成形して作製される円筒状の圧粉体の保形性を高めることができる。
【0017】
粉末結合剤としては、好ましくは、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ポリビニルアルコール(PVA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、メチルセルロース(MC)、ゼラチン、アラビアゴム及びスターチから選択され、中でもヒドロキシプロピルセルロース(HPC)がより好ましい。
【0018】
粉末結合剤の溶媒として水溶液には、単独の水以外に、エチルアルコール等の親水性化合物の5〜20質量%の水溶液を使用することもできる。粉末結合剤は、斯かる水溶液に対して1〜15重量%配合するのが好ましく、粉末結合剤の水溶液は、混合粉末に対して0.1〜5.0質量%配合されていることが好ましい。
【0019】
本発明の円筒状複合部材の製造方法は、黒鉛粉末を含有した圧粉体の焼結時の熱膨張を利用しており、圧粉体の外周面を銅管の内周面によって覆い、圧粉体焼結時の圧粉体の熱膨張を拘束して銅管の内周面に焼結時の圧粉体の熱膨張による圧粉体からの接触押圧力を与え、この接触押圧力によりその接触界面において相互の金属成分の拡散を生ぜしめて多孔質金属焼結体を銅管の内周面に接合一体化させるようにしている。
【0020】
混合粉末において、アトマイズ錫粉末の錫は、多孔質金属焼結体の生成において、主成分をなす電解銅粉末の銅と合金化して青銅を形成し、多孔質金属焼結体の地の強度、靭性及び機械的強度の向上に寄与する上に、電解ニッケル粉末のニッケルと共に多孔質金属焼結体の多孔性を増大せしめ、そして、その配合量が4質量%以下では上記した効果を十分発揮できず、また10質量%を超えて配合すると、多孔質焼結金属体の焼結性に悪影響を及ぼす虞があり、したがって、混合粉末には、アトマイズ錫粉末は、4〜10質量%、就中5〜8質量%配合される。
【0021】
混合粉末において、電解ニッケル粉末のニッケルは、多孔質金属焼結体の生成において、主成分をなす電解銅粉末の銅に拡散して多孔質金属焼結体の地の強度の向上に寄与し、加えて、銅管の内周面に拡散して多孔質金属焼結体と銅管の内周面との接合界面を合金化し、多孔質金属焼結体の銅管の内周面への接合強度を増大させると共に銅燐合金粉末の燐と一部合金化して液相のニッケル−燐合金(NiP)を形成し、ニッケル−燐合金が多孔質金属焼結体と銅管の内周面との接合界面に介在して、当該接合界面でのニッケルの銅管の内周面への拡散による合金化と相俟って多孔質金属焼結体を銅管の内周面に強固に接合一体化させ、そして、その配合量が10質量%以下では上記した効果が発揮されず、また40質量%を超えて配合しても上記した効果に顕著な差が現れないため、混合粉末には、電解ニッケル粉末は、10〜40質量%配合される。
【0022】
混合粉末において、銅燐合金粉末の燐は、多孔質金属焼結体の生成において、主成分をなす電解銅粉末の銅と、また電解ニッケル粉末のニッケルと一部合金化して多孔質金属焼結体の地の強度を向上させる一方、その強い還元力で銅管の内周面を清浄化し、ニッケルの銅管の内周面への拡散による合金化を助長し、また、焼結後の冷却時の多孔質焼結金属体の収縮量を低く抑えて多孔質焼結金属体の収縮に起因する多孔質焼結金属体の銅管の内周面からの剥離等を抑止する。なお、多孔質金属焼結体の生成過程において液相のニッケル−燐合金(NiP)の生成量を少なくして多孔質焼結金属体の気孔率を高めて多孔質焼結金属体を流通する圧縮気体の圧力損失を低下させることによって、多孔質焼結金属体から噴出する給気圧力を相対的に大きくして浮上量を高めることができる。斯かる観点から、銅燐合金粉末は、0.7〜3.5質量%(燐0.1〜0.5質量%)配合される。
【0023】
混合粉末において、多くの金属材料と異なり機械加工によって塑性変形することがない無機物質である黒鉛粉末の黒鉛は、得られた多孔質焼結金属体の錫、ニッケル、燐及び銅からなる金属部分の素地(粒界)の機械加工における塑性変形を分断し軽減し、機械加工における多孔質焼結金属体の目詰まりを抑止し、そして、その配合量が2重量%以下では斯かる効果を十分発揮できず、また10重量%を超えて配合すると、多孔質焼結金属体の焼結性を阻害する虞があり、したがって、混合粉末には、黒鉛粉末は、2〜10重量%配合される。
【0024】
複数個の静圧気体軸受用の円筒状複合部材の本発明の製造方法では、銅管と複数個の圧粉体とは、複数個の圧粉体の外周面と銅管の内周面とで互いに拡散接合して一体化すると共に、複数個の圧粉体は、夫々の継ぎ目で互いに拡散接合して継ぎ目の無い多孔質金属焼結体となる結果、斯かる鋼管及び多孔質金属焼結体を具備した第二の複合体から複数個の同じ円筒状複合部材を作製することができる。
【0025】
本発明の静圧気体軸受は、上記の円筒状複合部材と、この円筒状複合部材の銅管の外周面が密接されている円筒内周面を有している筒状の裏金とを具備している。
【0026】
本発明の静圧気体軸受によれば、軸受隙間に供給される圧縮気体の流量を絞るための手段としての多孔質金属焼結体は、円筒状の銅管を介して裏金の円筒内周面に固定されているので、当該銅管を緩衝体として作用させることができ、裏金から円筒状複合部材の径方向に加わる圧縮力を緩衝体としての銅管で吸収させることができる結果、斯かる圧縮力による多孔質金属焼結体の変形を回避でき、また、円筒状複合部材は、銅管の軟質性を利用して、裏金の円筒内周面に密接されているので、裏金の円筒内周面と円筒状複合部材の外周面との間からの圧縮気体の漏洩の虞をなくし得る。
【0027】
本発明の静圧気体軸受において、裏金としては、ステンレス鋼からなる裏金であってもよいが、その他の樹脂、無機物からなっていてもよい。
【0028】
本発明の静圧気体軸受の裏金は、好ましい例では、円筒状複合部材の溝、好ましくは円環状溝に連通する圧縮気体供給用の通路を有している。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、小径の裏金の内周面であっても接合不良を惹起することがない上に、圧縮気体の漏出の虞をなくし得る静圧気体軸受用の円筒状複合部材及びこの円筒状複合部材の製造方法並びにこの円筒状複合部材を含む静圧気体軸受を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、本発明の静圧気体軸受用の円筒状複合部材の実施の形態の好ましい例の縦断面説明図である。
図2図2は、図1の側面説明図である。
図3図3は、本発明の円筒状複合部材を含む静圧気体軸受の実施の形態の好ましい例の縦断面説明図である。
図4図4は、図3のIV−IV線矢視断面説明図である。
図5図5は、本発明の円筒状複合部材を含む静圧気体軸受の実施の形態の他の好ましい例の縦断面説明図である。
図6図6は、図5のVI−VI線矢視断面説明図である。
図7図7は、本発明の円筒状複合部材を含む静圧気体軸受の実施の形態の他の好ましい例の正面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
次に、本発明及びその実施の形態を、図に示す好ましい実施例に基づいて更に詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に何等限定されないのである。
【0032】
図1及び図2に示す静圧気体軸受用の円筒状複合部材1は、無酸素銅(JIS合金番号C1020)又はリン脱酸銅(JIS合金番号C1220)からなる円筒状の銅管2と、円筒状の外周面3において銅管2の内周面4に一体的に拡散接合されていると共に円筒状の内周面5を備えており、且つ銅を含んだ円筒状の多孔質金属焼結体6と、径方向において銅管2の外周面7から多孔質金属焼結体6の一部まで伸びて銅管2及び多孔質金属焼結体6に形成された溝としての環状溝8とを備えている。
【0033】
多孔質金属焼結体6は、錫(Sn)4〜10質量%と、ニッケル(Ni)10〜40質量%と、燐(P)0.1〜0.5質量%と、黒鉛(Gr)2〜10質量%と、残部銅(Cu)とからなる。
【0034】
円筒状複合部材1は、次のようにして製造される。アトマイズ錫粉末4〜10質量%と、電解ニッケル粉末10〜40質量%と、銅燐(燐14.5質量%)合金粉末0.7〜3.5質量%と、黒鉛粉末2〜10質量%と、残部電解銅粉末とからなる混合粉末に、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ゼラチン、アラビアゴム及びスターチから選択される粉末結合剤の1〜15質量%水溶液を混合粉末に対し0.1〜5.0質量%配合し、均一に混合して湿潤性を付与した混合粉末を作製する。
【0035】
円筒状の内周面及び外周面を有する円筒状の金型内に混合粉末を装填し、成形圧力3〜5トン/cmの範囲で混合粉末を圧縮成形し、円筒状の内周面及び外周面を有する圧粉体を作製する。
【0036】
この円筒状の圧粉体を無酸素銅又はリン脱酸銅からなる円筒状の銅管2の内周面4で規定される内部に挿入して銅管2及び圧粉体を具備した複合体を作製したのち、この複合体を還元性雰囲気又は真空に調整された焼結炉内において、850〜1000℃の温度で30〜90分間加熱して圧粉体を焼桔させる。この加熱焼桔過程において、圧粉体に体積膨張(熱膨張)を生ぜしめ、この圧粉体の体積膨張により内周面4と圧粉体の外周面との間に高い接触圧力を生ぜしめ、この接触圧力により内周面4への圧粉体の成分の拡散を生ぜしめて焼結し、それによって外周面3を内周面4に密に接合させた多孔質金属焼結体6及び銅管2を具備した複合体を作製する。
【0037】
多孔質金属焼結体6及び銅管2を具備した複合体に銅管2の外周面7から多孔質金属焼結体6の一部まで伸びる環状溝8を形成することによって、円筒状複合部材1が作製される。円筒状複合部材1の軸方向の両端の銅管2の外周面7にC面取り又はR面取り9が作製されていてもよい。
【0038】
円筒状複合部材1は、無酸素銅又はリン脱酸銅からなる円筒状の長尺の銅管2と複数個の圧粉体とを使用して次のようにして製造されてもよい。
【0039】
まず、無酸素銅又はリン脱酸銅からなる円筒状の長尺の銅管2の内周面4で規定される内部に上記と同様にして作製された圧粉体の複数個を順次挿入して銅管2の内部に銅管2の長手方向(軸方向)に沿って配列された複数個の圧粉体及び長尺の銅管2を具備した複合体を作製した後、この複合体を還元性雰囲気又は真空に調整された焼結炉内において850〜1000℃の温度で30〜90分間加熱して複数の圧粉体を焼結させる。この加熱焼結過程において、複数の圧粉体の夫々に体積膨張(熱膨張)を生ぜしめ、この複数の圧粉体の体積膨張により内周面4と複数の圧粉体の夫々の外周面との間及び複数の圧粉体間に高い接触圧力を生ぜしめ、この接触圧力により内周面4への圧粉体の成分の拡散を生ぜしめると共に圧粉体同志の間で拡散を生ぜしめ、それによって各外周面3を内周面4に密に接合させると共に圧粉体同士を接合させて一体化された多孔質金属焼結体6及び銅管2を具備した長尺の複合体を作製する。
【0040】
そして、この長尺の複合体を切断して複数個の複合体を作製すると共に各複合体の銅管2の外周面7から多孔質金属焼結体6の一部まで伸びる環状溝8を形成することによって、複数の円筒状複合部材1が作製される。斯かる複数の円筒状複合部材1の夫々の軸方向の両端の銅管2の外周面7にC面取り又はR面取り9が作製されていてもよい。
【0041】
以上の円筒状複合部材1によれば、無酸素銅又はリン脱酸銅からなる銅管2に内周面4を介して多孔質金属焼結体6が拡散接合されているので、銅管2と多孔質金属焼結体6との接合が強固になされる結果、小径の銅管2の内周面4であっても接合不良を惹起することがなく、銅管2と多孔質金属焼結体6との接合部からの圧縮気体の漏出の虞をなくし得る。
【0042】
図3及び図4に示す静圧気体軸受10は、円筒状複合部材1と、円筒状の外周面11、外周面7が密接されている円筒内周面12並びに外周面11及び円筒内周面12の夫々で開口していると共に外周面11から円筒内周面12まで径方向に延びた圧縮気体供給用の通路としての孔13を有してステンレス鋼から形成された円筒状の裏金14とを具備しており、円筒状複合部材1は、環状溝8を孔13に連通させるべく、環状溝8を孔13に対応させて円筒内周面12に一体的に嵌合結合されており、静圧気体軸受10は、円筒状の内周面5を軸受面としている。
【0043】
裏金14を形成するステンレス鋼には、オーステナイト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼又はフェライト系ステンレス鋼、好ましくは、クロム(Cr)含有量の少ないマルテンサイト系ステンレス鋼又はフェライト系ステンレス鋼が使用される。
【0044】
静圧気体軸受10によれば、円筒状複合部材1を円筒内周面12で規定される裏金14の内部に圧入(嵌合)して円筒内周面12に固定する際、円筒状複合部材1の径方向に加わる圧縮力は銅管2の展性で吸収され、銅管2は、斯かる圧縮力に対して緩衝体として作用するので、内周面4に拡散接合された多孔質金属焼結体6に圧縮力の影響が及ぶことがなく、軸受面となる内周面5に寸法変化等の不具合を生じることはない。
【0045】
そして、静圧気体軸受10では、孔13に供給された圧縮気体を孔13に対応する環状溝8から多孔質金属焼結体6へ供給でき、外周面7が円筒内周面12に密接して一体的に結合されているので、内周面5、すなわち軸受面から圧縮気体を略均等に噴出できる。
【0046】
図5及び図6に示す静圧気体軸受10の例では、円筒状複合部材1は、一つの環状溝8に代えて、軸方向に離間された二つの環状溝8を具備しており、裏金14は、軸方向の一方の環状の端面15から他方の環状の端面16に向けて軸方向に延びた行き止まり孔17と、円筒内周面12から径方向に延びて行き止まり孔17に開口する圧縮気体供給用の孔18とを更に具備しており、孔13は、一方の環状溝8と行き止まり孔17とに連通しており、円筒状複合部材1は、外周面7を円筒内周面12に密接させると共に環状溝8を夫々孔13及び孔18に連通させるべく、環状溝8を夫々孔13及び孔18に対応させて円筒内周面12に一体的に嵌合結合されており、本例の静圧気体軸受10でも、円筒状の内周面5を軸受面としている。
【0047】
行き止まり孔17は、その軸方向の一端19で栓20により閉塞されており、栓20は、行き止まり孔17の軸方向の一端19において裏金14に形成された雌螺子21に螺合されており、行き止まり孔17の軸方向の他端22は、一方の孔13に開口している。
【0048】
図5及び図6に示す静圧気体軸受10では、孔13に対応する一方の環状溝8と、孔13に連通する行き止まり孔17に開口する孔18に対応する他方の環状溝8とから孔13に供給された圧縮気体を多孔質金属焼結体6へ供給でき、外周面7が円筒内周面12に密接して銅管2と円筒状複合部材1とが一体的に結合されているので、内周面5、すなわち軸受面から圧縮気体を略均等に噴出できる。
【0049】
図7に示す静圧気体軸受10は、二つの円筒状複合部材1と、一方の端部23の円筒状の外周面11で径方向に開口していると共に外周面11から円筒内周面12に向けて径方向に延びて円筒内周面12で開口している一方の孔13及び他方の端部24の円筒状の外周面11で径方向に開口していると共に外周面11から円筒内周面12に向けて径方向に延びて円筒内周面12で開口している他方の孔13を備えた裏金14とを具備しており、円筒状複合部材1の夫々は、外周面7を円筒内周面12に密接させると共に環状溝8を夫々裏金14に形成された圧縮気体供給用の孔13及び13に対応させて円筒内周面12に一体的に結合されており、図7に示す静圧気体軸受10は、二つの円筒状複合部材1の夫々の多孔質金属焼結体6の円筒状の内周面5を軸受面としている。
【0050】
以上の静圧気体軸受10によれば、軸受隙間に供給される圧縮気体の流量を絞るための手段としての多孔質金属焼結体6は、多孔質金属焼結体6を内周面4に一体的に拡散接合した無酸素銅又はリン脱酸銅からなる銅管2を介してステンレス鋼からなる裏金14の円筒内周面12に固定されているので、従来の多孔質金属焼結体をステンレス鋼からなる裏金の内周面に接合するにあたり必須とされたニッケルメッキ層及び銅メッキ層からなる二層のメッキ層が不必要となり、二層のメッキ層に起因する問題を解決し得る上に、裏金14と多孔質金属焼結体6との間に介在する銅管2が緩衝体として作用するので、裏金14から円筒状複合部材1の径方向に加わる圧縮力は、銅管2に吸収される結果、斯かる圧縮力による多孔質金属焼結体6の変形を回避でき、また、円筒状複合部材1は、裏金14の円筒内周面12に密接されているので、円筒内周面12と外周面7との間からの圧縮気体の漏洩の虞をなくし得る。
【符号の説明】
【0051】
1 円筒状複合部材
2 銅管
5 内周面
6 多孔質金属焼結体
8 環状溝
10 静圧気体軸受
13 孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7