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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-9093(P2017-9093A)
(43)【公開日】2017年1月12日
(54)【発明の名称】ばね荷重調整装置とばね荷重調整方法
(51)【国際特許分類】
   F16F 1/12 20060101AFI20161216BHJP
   F16K 31/06 20060101ALI20161216BHJP
【FI】
   F16F1/12 B
   F16K31/06 305K
   F16K31/06 305L
   F16K31/06 305S
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-127906(P2015-127906)
(22)【出願日】2015年6月25日
(71)【出願人】
【識別番号】000220505
【氏名又は名称】日本電産トーソク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(72)【発明者】
【氏名】坂下 純一
【テーマコード(参考)】
3H106
3J059
【Fターム(参考)】
3H106DA04
3H106DA23
3H106DB02
3H106DB12
3H106DB23
3H106DB32
3H106DB37
3H106DC09
3H106DD09
3H106EE07
3H106GC15
3H106JJ03
3H106JJ06
3H106KK03
3H106KK17
3J059AD03
3J059AE01
3J059BA01
3J059BC01
3J059BD01
3J059CA01
3J059CB02
3J059CC01
3J059DA33
3J059EA15
3J059GA39
(57)【要約】
【課題】加締め処理における作業性とアジャスタの位置決め精度を向上したばね荷重調整装置およびばね荷重調整方法を提供する。
【解決手段】スリーブ21の内部に被押圧部材22とばね24を挿入し、スリーブの端部にアジャスタ25を設ける。スリーブ21とアジャスタ25には螺合するねじ26,27を設ける。ねじ26,27の締め付けによるアジャスタ25の軸方向の移動に従って、アジャスタ25が被押圧部材22に向かってばね24を押圧する。複数の加締め部30a,30bがスリーブ21の軸方向に沿って所定の間隔を保って設けられ、複数の加締め部30a,30bによる押圧力が、ねじ26,27における異なる方向に傾斜したねじ山の斜面を押圧する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に伸びる中空部を有するスリーブと、
前記スリーブの内部に収納された被押圧部材と、
前記スリーブの端部に対して、前記スリーブの軸方向に移動可能に設けられたアジャスタと、
前記スリーブと前記アジャスタのそれぞれに設けられて互いに螺合するねじと、
前記スリーブ内部における前記被押圧部材と前記アジャスタとの間に収容され、前記ねじの締め付けによる前記アジャスタの軸方向の移動に従って、前記被押圧部材に向かって加圧されるばねと、
前記スリーブの外周から中心軸に向かって加圧され、前記スリーブ側ねじおよびアジャスタ側ねじの少なくとも一方のねじ山を変形させる複数の加締め部を備え、
前記複数の加締め部が前記スリーブの軸方向に沿って所定の間隔を保って設けられ、前記複数の加締め部による押圧力が、前記ねじにおける異なる方向に傾斜したねじ山の斜面を押圧するものであるばね荷重調整装置。
【請求項2】
前記複数の加締め部が、前記スリーブの軸方向に前記ねじ山のピッチの1.5倍の整数倍の距離をもって配置された請求項1に記載のばね荷重調整装置。
【請求項3】
前記複数の加締め部が2箇所であり、前記ねじ山のピッチの1.5倍である請求項1または請求項2に記載のばね荷重調整装置。
【請求項4】
前記ばねがコイルばねである請求項1から請求項3のいずれかに記載のばね荷重調整装置。
【請求項5】
前記スリーブ側のねじ部が前記スリーブの中空部の内面に設けられ、前記アジャスタ側のねじ部が前記アジャスタの外周面に設けられている請求項1から請求項4のいずれかに記載のばね荷重調整装置。
【請求項6】
前記アジャスタの一部に筒状部が設けられ、この筒状部の内側に前記スリーブの端部が収納され、
前記スリーブ側のねじ部が前記スリーブの端部の外周面に設けられ、前記アジャスタ側のねじ部が前記アジャスタの内面に設けられている請求項1から請求項4のいずれかに記載のばね荷重調整装置。
【請求項7】
前記スリーブが電磁弁の胴部であり、
前記被押圧部材が電磁弁のスプール弁であり、
前記スリーブの軸方向の基端側には、前記スプール弁の一端側に当接するプランジャを有する電磁ソレノイドが固定され、
前記スリーブの軸方向の先端側には、前記ばね、アジャスタ、ねじ部および加締め部が設けられている請求項1から請求項6のいずれかに記載のばね荷重調整装置。
【請求項8】
軸方向に伸びる中空部を有するスリーブ内部に被押圧部材を挿入する工程と、
前記スリーブの内部にばねを挿入して、その一端を前記被押圧部材の端部に当接させる工程と、
前記スリーブの端部に対して、軸方向に移動可能にアジャスタを取り付ける工程と、
前記スリーブと前記アジャスタのそれぞれに設けられて互いに螺合するねじを締め付けて、前記アジャスタを前記スリーブの軸方向に沿って移動させ、前記ねじを前記被押圧部材に向かって押圧し、前記被押圧部材に加わるばね圧を調整する工程と、
前記スリーブの軸方向に沿って所定の間隔を保って設けた複数の加締め部により、前記ねじにおける異なる方向に傾斜したねじ山の斜面を押圧するように加圧し、前記スリーブ側ねじおよびアジャスタ側ねじの少なくとも一方のねじ山を変形させる工程と、
を有するばね荷重調整方法。
【請求項9】
前記複数の加締め部が、前記スリーブの軸方向に前記ねじ山のピッチの1.5倍の整数倍の距離をもって配置された請求項8に記載のばね荷重調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、電磁弁の弁体のばねセット荷重を調整するのに適したばね荷重調整装置とばね荷重調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気信号に応じて流体の圧力を制御する電磁弁として、スプール弁を用いたスプール弁型電磁弁が知られている。この電磁弁は、印加する電流に応じて供給する油圧が変化するものであり、例えば、車両の自動変速機の油圧回路で使用される。
【0003】
この種の電磁弁の油圧特性は規格幅を持っており、電流−油圧特性が規格の範囲内にあれば問題ないが、規格の中央値を基準に車両の開発を行うため、規格の中央に近いほど良性能となる。当然ながら、規格外は正常に機能しなくなるため、最悪でも電流−油圧特性の規格内に入れなければならない。
【0004】
この種の電磁弁では、油圧特性を規格幅内に調整するためにアジャスタが設けられている。アジャスタは、電磁弁を構成するスリーブの内部に、弁体となるスプールと共に収容されている。アジャスタの外径は雄ねじに加工されており、スリーブの内径は雌ねじに加工されている。アジャスタとスプールの間にばねが設置されており、アジャスタのねじを締めたり緩めたりすることで、ばねのセット荷重を調節できる。最適なセット荷重の位置に調整した後、アジャスタの緩みを防止するために、雄ねじと雌ねじのねじ山を潰すための加締めを行っている。
【0005】
電磁弁を製造する際には、調圧ポイントの圧力を計測しながらアジャスタの締め込み度合いを調整し、圧力が規格の中央値になった時点で加締めを行うことで、アジャスタの位置を固定している。しかし、加締めの際にアジャスタの位置ズレが起こると、設定した圧力も中央値からずれるため、加締めズレは小さいほど良い。また、電流−油圧特性の傾きのバラツキもあるため、加締め後の圧力ズレがあると、規格を外れる場合もある観点からも、加締めズレは小さいほど良い。
【0006】
従来は、円錐状の加締めパンチによってスリーブを外側から押すことで、スリーブを内径側に変形させアジャスタを固定している。しかし、アジャスタの雄ねじとスリーブの雌ねじ間には軸方向にガタがあり、またパンチの押圧位置とねじ山の位置は一定ではないため、パンチとねじ山の位置関係によって、アジャスタが軸方向にずれる場合と、ずれない場合がある。そのため、加締め処理によって固定されたアジャスタの軸方向のずれに大小が生じ、これによりばねのセット荷重が変化し、折角中央値に設定したにもかかわらず、加締め後の油圧特性にバラツキが発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−220013号公報
【特許文献2】特開平9−166238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記のような加締め後のバラツキを解消するため、例えば、特許文献1では、四角形の第1加締めパンチで位置を仮決めした上で、第1加締めパンチより形状の小さい丸形の第2加締めパンチで軸方向位置を決めた状態で加締め処理を行っている。しかし、軸方向の位置ずれはある程度抑制できるが、位置調整と加締め作業を夫々2回行わなければならず、作業工数が増加してしまう。また、第1加締めパンチと第2加締めパンチの2工程になるため、加締めの装置が複雑化する上に、サイクルタイムが長くなり生産性が低下する。
【0009】
特許文献2では、スリーブに予め貫通孔を設けておき、この貫通孔から挿入した加締めピンによってアジャスタのねじ山を潰している。しかし、この技術は、スリーブに予め貫通孔を設けなければならず、加工工数がかかる欠点がある。また、加締めピンの先端がねじ山の斜面に当たった場合に、加締めピンによってアジャスタが軸方向に押されてその位置が変化し、調整したばね圧が微妙にずれる現象が発生する。
【0010】
このような加締め処理による位置決めのバラツキは、スプール弁型電磁弁に限らず他の電磁弁や、ばね荷重を加えながらアジャスタの位置決めを行う機器全般に生じるものである。
【0011】
本発明は、加締め処理における作業性とアジャスタの位置決め精度を向上したばね荷重調整装置およびばね荷重調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のばね荷重調整装置は、次のような構成を有することを特徴とする。
(1)軸方向に伸びる中空部を有するスリーブ。
(2)前記スリーブの内部に収納された被押圧部材。
(3)前記スリーブの端部に対して、前記スリーブの軸方向に移動可能に設けられたアジャスタ。
(4)前記スリーブと前記アジャスタのそれぞれに設けられて互いに螺合するねじ。
(5)前記スリーブ内部における前記被押圧部材と前記アジャスタとの間に収容され、前記ねじの締め付けによる前記アジャスタの軸方向の移動に従って、前記被押圧部材に向かって加圧されるばね。
(6)前記スリーブの外周から中心軸に向かって加圧され、前記スリーブ側ねじおよびアジャスタ側ねじの少なくとも一方のねじ山を変形させる複数の加締め部。
(7)前記複数の加締め部が前記スリーブの軸方向に沿って所定の間隔を保って設けられ、前記複数の加締め部による押圧力が、前記ねじにおける異なる方向に傾斜したねじ山の斜面を押圧する。
【0013】
本発明において、以下の構成とすると良い。
(1)前記複数の加締め部が、スリーブの軸方向に前記ねじ山のピッチの1.5倍の整数倍の距離をもって配置される。
(2)前記複数の加締め部が2箇所であり、前記ねじ山のピッチの1.5倍である。
(3)前記ばねがコイルばねである。
(4)前記スリーブ側のねじ部がスリーブの中空部の内面に設けられ、前記アジャスタ側のねじ部が前記アジャスタの外周面に設けられている。
(5)前記アジャスタの一部に筒状部が設けられ、この筒状部の内側に前記スリーブの端部が収納され、前記スリーブ側のねじ部が前記スリーブの端部の外周面に設けられ、前記アジャスタ側のねじ部が前記アジャスタの内面に設けられている。
【0014】
(6)前記スリーブが電磁弁の胴部であり、前記被押圧部材が電磁弁のスプール弁であり、前記スリーブの軸方向の基端側には、前記スプール弁の一端側に当接するプランジャを有する電磁ソレノイドが固定され、前記スリーブの軸方向の先端側には、前記ばね、アジャスタ、ねじ部および加締め部が設けられている。
【0015】
本発明のばね荷重調整方法は、次のような工程を有することを特徴とする。
(1)軸方向に伸びる中空部を有するスリーブ内部に被押圧部材を挿入する工程。
(2)前記スリーブの内部にばねを挿入して、その一端を前記被押圧部材の端部に当接させる工程。
(3)前記スリーブの端部に対して、軸方向に移動可能にアジャスタを取り付ける工程。
(4)前記スリーブと前記アジャスタのそれぞれに設けられて互いに螺合するねじを締め付けて、前記アジャスタをスリーブの軸方向に沿って移動させ、前記ねじを前記被押圧部材に向かって押圧し、前記被押圧部材に加わるばね圧を調整する工程。
(5)前記スリーブの軸方向に沿って所定の間隔を保って設けた複数の加締め部により、前記ねじにおける異なる方向に傾斜したねじ山の斜面を押圧するように加圧し、前記スリーブ側ねじおよびアジャスタ側ねじの少なくとも一方のねじ山を変形させる工程。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、複数の加締め部が異なる方向に傾斜したねじ山の斜面を押圧するため、複数の加締め部で押圧力が加わる方向が反対になるため、アジャスタに加わる軸方向の力が相殺される。その結果、加締め部でねじ山を押圧した場合に、アジャスタの軸方向のずれが少なくなり、ばねのセット荷重の変動が低減される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施形態の縦断面図である。
図2】第1実施形態における加締め部の作用を示す断面図。
図3】加締め部の位置ずれがない状態の断面図。
図4】加締め部が右に0.1ピッチずれた状態の断面図。
図5】加締め部が右に0.2〜04ピッチずれた状態の断面図。
図6】加締め部が右に0.5ピッチずれた状態の断面図。
図7】加締め部が右に0.6ピッチずれた状態の断面図。
図8】加締め部が右に0.7ピッチずれた状態の断面図。
図9】加締め部が右に0.8〜1ピッチずれた状態の断面図。
図10】従来技術における加締め部の作用を示す断面図。
図11】第1実施形態におけるアジャスタの位置ずれを示すグラフ。
図12】従来技術におけるアジャスタの位置ずれを示すグラフ。
図13】第1実施形態の電流−油圧特性を示すグラフ。
図14】第2実施形態の縦断面図である。
図15】第3実施形態の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[1.第1実施形態]
[1.1 構成]
以下、本発明の第1実施形態について、図面を参照して説明する。第1実施形態は、電磁弁におけるスプール弁の移動量を規制するコイルばねの荷重調整装置として、本発明を適用したもので、本発明の被押圧部材がスプール弁に相当する。なお、本実施形態において軸とは、スプール弁を内蔵したスリーブの長手方向に沿った中心軸をいい、単に周方向あるいは軸方向と言った場合は、中心軸の周方向あるいは中心軸の軸方向を示す。
【0019】
図1は本実施形態の電磁弁の縦断面図を示す。本実施形態の電磁弁は、駆動部10と、これに一体に設けられたノズル20とから構成される。
【0020】
駆動部10は、筒形のハウジング11の内部に固定されたコイル12と、このコイル12を被覆する樹脂層13と、コイル12の内周に設けられてハウジング11に固定された筒状のコア14を有する。コア14の中心部には、コイル12に吸引されてコア14内を移動するプランジャ15が挿入され、プランジャ15のノズル20側にはプランジャ15と共に移動するピン16が挿入されている。
【0021】
ノズル20は、円筒状のスリーブ21と、その内部に軸方向にスライド可能に挿入されたスプール弁22を有する。スリーブ21には、その壁面を貫通するように、複数のポート21a,21b,21cが設けられている。スプール弁22には、ポート21a,21b,21cを開閉する弁部22a,22b,22cが設けられている。スプール弁22の駆動部10側の端部には、ピン16のプランジャ15とは反対側の端部が突き当たっている。スプール弁22の駆動部10とは反対側の端部には凹部23が設けられ、凹部23内にコイルばね24の一端が挿入されている。
【0022】
スリーブ21の駆動部10と反対側の端部にはアジャスタ25がねじ込まれている。すなわち、スリーブ21の端部の内周に雌ねじ26が形成され、アジャスタ25の外周に雄ねじ27が形成され、雄ねじ27を雌ねじ26の内周にねじ込むことで、スリーブ21の端部にアジャスタ25が取り付けられる。アジャスタ25の駆動部10側の端面には、凹部28が設けられ、この凹部28内にコイルばね24の他端が挿入されている。
【0023】
アジャスタ25の外方の端面、すなわち、コイルばね24と反対側の端面には、溝29が設けられ、この溝29内に工具の先端を差し込んで回転することにより、アジャスタ25の締め付け量を調整する。なお、溝29の代わりに、指先でアジャスタ25を回転することができるようなつまみを設けることもできる。
【0024】
スリーブ21の外周には、スリーブ21の外周からその中心軸に向かって加圧される2箇所の加締め部30a,30bが設けられている。加締め部30a,30bは、スリーブ21の軸方向に沿って所定の間隔、具体的には、図2の拡大図に示すように、アジャスタ25に設けた雄ねじ27のねじ山のピッチの1.5倍の間隔で設けられている。2箇所の加締め部30a,30bの間隔をねじ山のピッチの間隔の1.5倍とすることは、2箇所の加締め部30a,30bによる押圧力が、雄ねじ27における異なる方向に傾斜したねじ山の斜面を押圧することを意味する。
【0025】
[1.2 作用]
上記のような構成を有する第1実施形態の作用は、以下のとおりである。
本実施形態において、コイルばね24の荷重の調整を行う場合は、図1に示すアジャスタ25の溝29に工具の先端を差し込んで回転させ、アジャスタ25の締め込み度合いを調整することで、所定のばね荷重を設定する。
【0026】
所定のばね荷重に達した時点で、図2(a)に示すように、先端に2つの押圧部P1,P2を有する加締めパンチを使用して、スリーブ21の外周から中心軸に向かってプレスする。すると、2つの加締めパンチP1,P2の押圧部により、スリーブ21の壁面が塑性変形し、その部分に位置する2箇所の雌ねじ26のねじ山の先端部が、アジャスタ25の雄ねじ27のねじ山の斜面に押し付けられる。
【0027】
この場合、2つの加締めパンチP1,P2の押圧部によって形成される2箇所の加締め部30a,30bは、ねじ山のピッチの1.5倍であるため、加締めパンチの位置に応じて、図2(b)のように隣接する2つのねじ山の外側の斜面か、あるいは図2(c)のように3つのねじ山の両端のねじ山の内側の斜面のいずれかに押圧される。図2(b)(c)の何れであっても、2つの加締め部30a,30bは、ねじ山の両側面を押す、又は引っ張る方向に変形させるので、アジャスタ25に加わる2つの加締め部30a,30bの押圧力は相殺されることになり、ばね荷重をセットした位置からのアジャスタ25のずれ量が少なくなる。
【0028】
次に、図3図9を用いて、2箇所の加締め部30a,30bがアジャスタ25の軸方向のどの箇所においても、アジャスタ25のずれが抑制されることを説明する。図3に示すように、加締めパンチの片方が、雌ねじ26の谷の頂点から、雄ねじ27の山の頂点までの間(図中Aの範囲)にある場合は、図2(a)〜(c)に記載の理由から、雄ねじ27およびそれを設けたアジャスタ25は加締め処理によって動くことはない。
【0029】
図4(a)に示すように、加締めパンチP1,P2の位置を図3の位置から図中右に約0.1ピッチ分ずらした場合には、図4(b)に示すように、右側の加締め部30aの変形がアジャスタ25の雄ねじ27のねじ山の頂点から左側面側にできるため、アジャスタ25のずれは生じない。
【0030】
図5(a)に示すように、加締めパンチP1,P2の位置を図3の位置から図中右に約0.2〜0.4ピッチ分ずらした場合には、図5(b)に示すように、右側の加締め部30aの変形がアジャスタ25の雄ねじ27のねじ山の右側面を押し、左側は雄ねじ27のねじ山の左側面を押すため、アジャスタ25は雌ねじ26と雄ねじ27との隙間の中央付近に移動することになる。すなわち、アジャスタ25の位置ずれは最大でも雌ねじ26と雄ねじ27との隙間の1/2に抑制される。
【0031】
図6(a)に示すように、加締めパンチP1,P2の位置を図3の位置から図中右に約0.5ピッチ分ずらした場合には、図6(b)に示すように、右側の加締め部30aの変形がアジャスタ25の雄ねじ27のねじ山の右側面を押し、左側は雄ねじ27のねじ山の左側面を押すため、アジャスタ25は雌ねじ26と雄ねじ27との隙間の中央付近より左側の位置になりやすい。すなわち、アジャスタ25の位置ずれは雌ねじ26と雄ねじ27との隙間の1/2以下に抑制される。
【0032】
図7(a)に示すように、加締めパンチP1,P2の位置を図3の位置から図中右に約0.6ピッチ分ずらした場合には、図5(b)に示すように、左側の加締め部30aの変形がアジャスタ25の雄ねじ27のねじ山の頂点から左側面側にできるため、アジャスタ25のずれは生じない。
【0033】
図8(a)に示すように、加締めパンチP1,P2の位置を図3の位置から図中右に約0.7ピッチ分ずらした場合には、図8(b)に示すように、左側の加締め部30aの変形がアジャスタ25の雄ねじ27のねじ山の右側面を押し、右側は雄ねじ27のねじ山の左側面を押すため、アジャスタ25は雌ねじ26と雄ねじ27との隙間の中央付近に移動することになる。すなわち、アジャスタ25の位置ずれは最大でも雌ねじ26と雄ねじ27との隙間の1/2に抑制される。
【0034】
図9(a)に示すように、加締めパンチP1,P2の位置を図3の位置から図中右に約0.8〜1ピッチ分ずらした場合には、図9(b)に示すように、左側の加締め部30aの変形がアジャスタ25の雄ねじ27のねじ山の右側面を押し、右側は雄ねじ27のねじ山の左側面を押すため、アジャスタ25は雌ねじ26と雄ねじ27との隙間の中央付近に移動することになる。すなわち、アジャスタ25の位置ずれは最大でも雌ねじ26と雄ねじ27との隙間の1/2に抑制される。
【0035】
この点、図10(a)〜(b)に記載した従来技術では、加締め部30aが1箇所であることから、雌ねじ26のねじ山の先端が雄ねじ27のねじ山の片方の斜面にのみを押圧することになり、アジャスタ25は押圧された方向に移動する。アジャスタ25の移動量は、最大雌ねじ26と雄ねじ27との隙間の寸法と等しいことから、前記図3から図9に示した本実施形態に比較して、2倍のずれ量となる。その結果、従来技術では、本実施形態に比較して、アジャスタの25の移動量が大きくなり、加締め前後の油圧特性のズレのバラツキが大きくなる。
【0036】
この点を、本実施形態と図10に示す従来技術とで、加締め処理前後の油圧値がどの程度変化したかを実測したデータを、図11および図12に示す。図11に示す本実施形態の装置によれば、従来技術に比較して、加締め前後の油圧値のバラツキが約1/2程度まで少なくなっていることが分かる。
【0037】
[1.3 効果]
本実施形態によれば、次のような効果が発揮される。
【0038】
(1)本実施形態では、2箇所の加締め部30a,30bの間隔をねじ山のピッチの間隔の1.5倍としたので、2箇所の加締め部30a,30bによる押圧力が、雄ねじ27における異なる方向に傾斜したねじ山の斜面を押圧する。これにより、加締めパンチを打ち込んだ場合に、加締め部がねじ山の斜面に当たってアジャスタ25を軸方向にずらす力が、2つの方向で相殺され、アジャスタ25の軸方向に対する移動が抑制される。その結果、いったん設定したコイルばね24のばね荷重が設定値からずれる可能性が低くなり、アジャスタ25の固定後における電磁弁の電流−油圧特性が中央値に近くなり、精度が向上する。
【0039】
(2)図3から図9に示すように、加締めパンチP1,P2の位置がスリーブ21の軸方向にずれた場合でも、アジャスタ25のずれ量は最大でも雌ねじ26と雄ねじ27との隙間の1/2に抑制されるので、1箇所の加締め部のみによってアジャスタを固定する従来技術に比較して、ずれ量を1/2以下に抑制することができる。
【0040】
(3)アジャスタ25のずれ量が少なくなり、ばね荷重をセット値に正しく保持できるので、電流−油圧特性の精度を向上することができる。
【0041】
(4)図13に示すように、アジャスタ25のねじの締め込み量を調整することで、電流と油圧の出力値の特性がグラフ中上下に移動する。また、電流−油圧特性は、加締め処理によってアジャスタ25が移動し、ばね荷重が変化することでもグラフ中上下に移動する。一方、スプール電磁弁の規格には、電流−油圧特性を一定の範囲内に収めることが要求されている。しかし、アジャスタ25のずれ量があると、そのずれ量を加味して電流−油圧特性を一定の範囲内に収める必要があり、ずれ量の分だけ規格に対する許容度が少なくなり、電流−油圧特性の調整が困難になる。本実施形態によれば、アジャスタのずれ量が抑制されるので、規格に対する許容量を大きくとることができ、調整が容易になる。
【0042】
[2.第2実施形態]
第2実施形態を図14に従って説明する。本実施形態では、スリーブ21の駆動部10とは反対側の端部の外周に雄ねじ27が設けられている。アジャスタ25は、有底円筒状をなし、その内周に雌ねじ26が設けられている。アジャスタ25はスリーブ21の端部に被さるように嵌め込まれ、その雌ねじ26とスリーブ21の雄ねじ27が螺合している。
【0043】
アジャスタ25の内面には、コイルばね24の端部が当接し、アジャスタ25をスリーブに対して締め付けていることで、コイルばね24に対する押圧力が変化し、コイルばねの荷重調整が行われる。複数の加締め部30a,30bは、アジャスタ25の外周から複数の押圧部を有する加締めパンチP1,P2を打ち込むことで形成される。加締め部30a,30bの間隔や、その他の構成については、第1実施形態と同様である。
【0044】
本実施形態においても、第1実施形態と同様な作用効果を得ることができる。また、アジャスタ25の表面にローレット加工などの滑り止めを設けることで、工具を使用することなく、アジャスタ25を回転させて、ばね荷重の調整を行うことができる。
【0045】
[3.第3実施形態]
第3実施形態を図15(a)に従って説明する。本実施形態は、加締め部30aと加締め部30bの位置をスリーブ21の周方向にずらして設けたものである。すなわち、2つの加締めパンチP1,P2をスリーブ21を挟んで反対側に配置し、この2つの加締めパンチP1,P2によってスリーブ21を加圧することで、加締め部30a,30bを形成したものである。軸方向の間隔については、第1実施形態と同様に、ねじ山のピッチの間隔の1.5倍である。
【0046】
本実施形態においても、第1実施形態と同様な作用効果を得ることができる。また、本実施形態によれば、スリーブ21の周方向の同一位置において、加締め部30a,30bを構成する加締めパンチを配置するスペースが少ない場合に、小型の加締めパンチを異なる方向に配置して複数の加締め部を形成することが可能である。また、スリーブ21の周方向の反対側からそれぞれ加締め部30a,30bを設けることで、アジャスタ25を両側から挟み込んで位置決めができ、アジャスタ25の固定強度の向上や位置ずれ防止の効果がある。
【0047】
また、図15(b)は、ねじ山を両側から押圧する複数の加締め部30a,30bを一組とし、各組の加締め部をスリーブ21やアジャスタ25の周囲に(例えば、180度反対側に)それぞれ設けたものである。この場合は、スリーブの各面に2つずつの加締めパンチP1,P2を設けることで、複数組の加締め部をスリーブ21に設けることができる。この場合には、図15(a)よりも、より確実にアジャスタ25の位置決めを行うことができる。
【0048】
[4.他の実施形態]
本発明は、以上の実施形態に限定されるものではない。以上の実施形態は例として提示したものであって、その他の様々な形態で実施されることが可能である。発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲、要旨、その均等の範囲に含まれる。以下、その一例を示す。
【0049】
(1)図示の実施形態は、本発明を電磁スプール弁のばね荷重調整装置として適用したものであるが、本発明はこの種の電磁弁に限定されないもので、他のタイプの電磁弁にも使用可能である。また、電磁弁に限らず、ばね荷重の調整を行った後、その調整量がずれることのないように固定する必要のある装置全般に適用可能である。
【0050】
(2)複数の加締め部の間隔は、ねじ山のピッチの1.5倍に限らず、その整数倍、例えば3倍や4.5倍でも、複数の加締め部による押圧力が、異なる方向に傾斜したねじ山の斜面を押圧することができる。但し、1.5倍の整数倍以外では、複数の加締め部とねじ山の位置関係によっては、複数の加締め部が同じ方向に傾斜したねじ山の斜面を押圧することもあり、そのような場合には、アジャスタのずれが相殺されない。但し、ねじ山の位置と、加締め部の位置、すなわち加締めパンチを常に正確な位置に当てることができる場合には、複数の加締め部が異なる方向に傾斜したねじ山の斜面を押圧する場所を選定して加締め処理を行うことで、アジャスタの位置ずれを相殺できる。
【0051】
(3)加締め部は3箇所以上でも良いが、奇数箇所であると、加締め部によって押圧されるねじ山の数がばね荷重の緩み方向と締め付け方向で均等にならず、加締め部の多い方の力が優ってしまい位置ずれが発生するおそれがある。従って、偶数箇所の方が好ましい。
【0052】
(4)ばねとしては、コイルばね以外にU字ばね、ねじりコイルばね、竹の子ばねを使用できる。また、金属製以外に、樹脂製のばねやブロック状の弾性体からなるばねも使用できる。
【0053】
(5)スリーブの外周に、加締めパンチの位置に合わせて、目印やパンチの先端の位置ずれを防ぐ凹部を形成することができる。このようにすると、常に正確に複数の加締め部を形成することができ、ばね荷重の調整をより精度良く実施できる。
【0054】
(6)複数の加締め部は、加締めパンチなどの治具により同時に形成することが好ましいが、1つずつ加締め部を形成しても良い。すなわち、最初の加締め部の形成時の押圧力によってアジャスタがねじ山の斜面に沿ってずれたとしても、次の加締め部の形成時の押圧力でアジャスタは反対側に押圧されるため、その位置ずれが修正される。但し、最初の加締め部の押圧により、アジャスタが移動しすぎてしまい、次の加締め部によって反対側に移動させることができなくなる場合もあるので、加締め部の位置によっては好ましくない。
【0055】
(7)加締め部によるねじ山の変形は、アジャスタまたはスリーブの何れか一方のねじ山のみを潰すようにしても良いが、一方のねじ山の先端が他方のねじ山の表面に食い込むように、両方のねじ山を変形させても良い。また、アジャスタとスリーブの素材の強度を変えることで、所望の部材のねじ山のみを変形させても良い。
【符号の説明】
【0056】
10…駆動部、11…ハウジング、12…コイル、13…樹脂層,14…コア、15…プランジャ、16…ピン、20…ノズル、21…スリーブ、21a,21b,21c…ポート、22…スプール弁、22a,22b,22c…弁部、23…凹部、24…コイルばね、25…アジャスタ、26…雌ねじ、27…雄ねじ、28…凹部、29…溝、30a,30b…加締め部、P1,P2…加締めパンチ。
図1
図2
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図12