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特開2017-91875透明電極、透明電極用積層体及びそれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-91875(P2017-91875A)
(43)【公開日】2017年5月25日
(54)【発明の名称】透明電極、透明電極用積層体及びそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/00 20060101AFI20170421BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20170421BHJP
   H05B 33/28 20060101ALI20170421BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20170421BHJP
   H01L 31/0224 20060101ALI20170421BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20170421BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20170421BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20170421BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20170421BHJP
【FI】
   H01B13/00 503B
   H05B33/14 A
   H05B33/28
   H05B33/10
   H01L31/04 266
   H01B1/22 A
   H01B1/00 H
   H01B5/14 A
   B32B27/18 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-222189(P2015-222189)
(22)【出願日】2015年11月12日
(71)【出願人】
【識別番号】000206473
【氏名又は名称】大倉工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(72)【発明者】
【氏名】後藤 圭亮
(72)【発明者】
【氏名】川村 憲史
(72)【発明者】
【氏名】結城 敏尚
(72)【発明者】
【氏名】仲田 仁
(72)【発明者】
【氏名】向殿 充浩
【テーマコード(参考)】
3K107
4F100
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5G307
5G323
【Fターム(参考)】
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(57)【要約】
【課題】導電性繊維を含む導電層を備える透明電極に関し、表面導電性及び平滑性の良好な透明電極、それに用いられる透明電極用積層体及び、生産性を向上させる透明電極の製造方法を提供する。
【解決手段】導電性繊維121、分散剤及び溶媒を含む導電性繊維インクを離型性基材130に塗工してウェット膜140を形成する工程と、ウェット膜140を乾燥させて離型性基材130に乾燥膜150を形成する工程と、を備える、透明電極用積層体100の製造方法において、導電性繊維インクにおける導電性繊維121に対する分散剤の重量比が0.24以下である。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性繊維、分散剤及び溶媒を含む導電性繊維インクを離型性基材に塗工してウェット膜を形成する工程と、前記ウェット膜を乾燥させて前記離型性基材に乾燥膜を形成する工程と、を備える、透明電極用積層体の製造方法において、
前記導電性繊維インクにおける前記導電性繊維に対する前記分散剤の重量比が0.24以下であることを特徴とする、透明電極用積層体の製造方法。
【請求項2】
前記離型性基材に乾燥膜を形成する工程の後、前記乾燥膜と透明基材を接着性樹脂を介して貼合し、導電層を形成する工程をさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載の透明電極用積層体の製造方法。
【請求項3】
前記離型性基材に乾燥膜を形成する工程の後、前記乾燥膜にオーバーコート剤を塗工して導電層を形成する工程をさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載の透明電極用積層体の製造方法。
【請求項4】
前記乾燥膜における前記導電性繊維の量をX(mg/m)、前記導電性繊維インクにおける前記導電性繊維に対する前記分散剤の重量比をYとした場合に下記式(1)を満たすことを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の透明電極用積層体の製造方法。
Y≦0.0008X+0.04(1)
【請求項5】
前記導電性繊維インクにおける前記導電性繊維に対する前記分散剤の重量比が0.04以下であることを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の透明電極用積層体の製造方法。
【請求項6】
前記導電性繊維は金属ナノワイヤであることを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の透明電極用積層体の製造方法。
【請求項7】
請求項2から6のいずれかに記載の透明電極用積層体の製造方法と、前記導電層から前記離型性基材を剥離する工程と、を有することを特徴とする、透明電極の製造方法。
【請求項8】
前記透明電極はエレクトロニクスデバイスに用いられることを特徴とする、請求項7に記載の透明電極の製造方法。
【請求項9】
前記エレクトロニクスデバイスは有機エレクトロルミネッセンス素子であることを特徴とする、請求項8に記載の透明電極の製造方法。
【請求項10】
前記エレクトロニクスデバイスは太陽電池であることを特徴とする、請求項8に記載の透明電極の製造方法。
【請求項11】
導電性繊維、分散剤を含む導電層を備え、前記導電層表面の算術平均粗さ(Ra)が10nm以下である、透明電極において、
前記導電層における前記導電性繊維に対する前記分散剤の重量比が0.24以下であることを特徴とする、透明電極。
【請求項12】
請求項11に記載の透明電極と、前記導電層表面に位置する離型性基材と、を有することを特徴とする、透明電極用積層体。
【請求項13】
請求項11に記載の透明電極を有することを特徴とする、エレクトロニクスデバイス。
【請求項14】
請求項11に記載の透明電極を有することを特徴とする、有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項15】
請求項11に記載の透明電極を有することを特徴とする、太陽電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明電極、それに用いられる透明電極用積層体及びそれらの製造方法に関する。詳しくは、透明基材に導電性繊維を含む導電層が形成された透明電極、それに用いられる透明電極用積層体及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透明電極は、有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子、太陽電池、液晶表示素子、電磁波シールド、電子ペーパー、タッチパネル等のエレクトロニクスデバイスに広く用いられている。一般的な透明電極としては、透明基材に酸化インジウムスズ(ITO)膜が形成されたものが知られているが、ITO膜はフレキシブル性に乏しく、またインジウムは高価なレアメタルであるなどの理由から、代替品の開発が盛んに行われている。
【0003】
これらの問題を解決するものとして、透明基材に、銀ナノワイヤなどの導電性繊維のネットワークによる導電層が形成された透明電極が注目されている(例えば特許文献1)。透明電極は、その特性として表面導電性及び平滑性が要求されることから、導電性繊維を含む導電層が形成された透明電極において、表面導電性及び平滑性を良好にさせる製造方法として、例えば特許文献2には、離型性基材に銀ナノワイヤインクを塗工し(工程1)、これを乾燥させて離型性基材に乾燥膜を形成し(工程2)、その上からポリビニルアルコール水溶液を塗工し、乾燥させ(工程3)、さらにその上から紫外線硬化型樹脂を塗工して透明基材と貼合し、紫外線を照射して硬化させ(工程4)、離型性基材を剥離して銀ナノワイヤを透明基材に転写させ(工程5)、最後に表面のポリビニルアルコールを水洗除去する(工程6)ことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2009−505358号公報
【特許文献2】特許第5472290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載される透明電極の製造方法では、工程6において、銀ナノワイヤによるネットワークを維持しつつ、数nmオーダーでポリビニルアルコールを水洗除去しなければならず、生産性に問題があった。また、ポリビニルアルコールは透明電極として必要とされるものではなく、ポリビニルアルコールを塗工・除去することで、銀ナノワイヤを表面に露出させて、表面導電性を良好にするためのものであることから、それ以外の方法で表面導電性を良好にすることができれば、例えば工程3及び6を省略することもでき、生産性を大幅に向上させることができる。
【0006】
そこで本発明は、導電性繊維を含む導電層を備える透明電極に関し、表面導電性及び平滑性の良好な透明電極、それに用いられる透明電極用積層体及び、生産性を向上させる透明電極の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の透明電極用積層体の製造方法は、導電性繊維、分散剤及び溶媒を含む導電性繊維インクを離型性基材に塗工してウェット膜を形成する工程と、ウェット膜を乾燥させて離型性基材に乾燥膜を形成する工程と、を備える、透明電極の製造方法において、導電性繊維インクにおける前記導電性繊維に対する前記分散剤の重量比が0.24以下である。
【0008】
この製造方法によれば、導電性繊維インクにおける導電性繊維に対する分散剤の重量比が0.24以下であるため、離型性基材上に導電性繊維が横たわり、離型性基材を剥離した際、形成した導電層の表面導電性が良好となる。このように、導電性繊維インクにおける導電性繊維に対する分散剤の重量比を調整するだけで、表面導電性が良好な透明電極を提供することができ、生産性を向上させることができる。
【0009】
本発明の透明電極用積層体の製造方法は、離型性基材に乾燥膜を形成する工程の後、乾燥膜と透明基材を接着性樹脂を介して貼合し、導電層を形成する工程をさらに備えることができる。この製造方法によれば、乾燥膜が接着性樹脂に覆われるため、導電性繊維によるネットワークを保護することができる。
【0010】
また、本発明の透明電極用積層体の製造方法は、離型性基材に乾燥膜を形成する工程の後、乾燥膜にオーバーコート剤を塗工して導電層を形成する工程をさらに備えることができる。この製造方法によれば、導電性繊維の保護に加え、透明基材を貼合する工程を省略することができるため、生産性を向上させることができる。
【0011】
さらに、本発明の透明電極用積層体の製造方法は、導電性層における導電性繊維の量をX(mg/m)、導電性繊維インクにおける導電性繊維に対する分散剤の重量比をYとした場合に下記式(1)を満たすようにすることができる。これにより、表面導電性をより良好にすることができる。
Y≦0.0008X+0.04(1)
【0012】
そして、本発明の透明電極用積層体の製造方法は、導電性繊維インクにおける導電性繊維に対する分散剤の重量比を0.04以下にすることができる。これにより、表面導電性をさらに良好にすることができる。
【0013】
本発明の透明電極用積層体の製造方法は、導電性繊維として金属ナノワイヤを選択することができる。
【0014】
そして、本発明の透明電極の製造方法は、導電層から離型性基材を剥離する工程を有する。これにより、表面導電性及び平滑性の良好な透明電極を提供することができる。
【0015】
本発明の透明電極は、導電性繊維、分散剤を含む導電層を備え、導電層表面の算術平均粗さ(Ra)が10nm以下であって、導電層における導電性繊維に対する分散剤の重量比が0.24以下である。
【0016】
この透明電極によれば、表面導電性及び平滑性が良好である。
【0017】
本発明の透明電極用積層体は、本発明の透明電極と、導電層表面に位置する離型性基材と、を有する。このように離型性基材を剥離せず、貼合したままにすることで、導電層を保護するプロテクトフィルムの代わりにすることができる。
【0018】
本発明による透明電極は、エレクトロニクスデバイスに用いることができる。
【0019】
また、本発明による透明電極は、有機EL素子に用いることができる。この場合において、透明電極の表面導電性が良好なため、発光効率が向上し、さらには全体を均一に発光させることができる。そして、本発明の透明電極によれば、有機EL素子において正孔注入層の膜厚が例えば10nm以上100nm以下、正孔輸送層の膜厚が例えば40nm以上100nm以下(正孔注入層と正孔輸送層の合計膜厚が例えば50nm以上200nm以下)のような薄い膜厚の構成にすることができ、これにより低廉で生産性の良好な有機EL素子を提供することができる。
【0020】
また、本発明による透明電極は、太陽電池に用いることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、導電性繊維を含む導電層を有する透明電極に関し、表面導電性及び平滑性が良好な透明電極、それに用いられる透明電極用積層体及び、生産性を向上させる透明電極の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係る透明電極用積層体の断面模式図である。
図2】本発明の一実施形態に係る透明電極の表面を、SEMを用いて5000倍で観察したときの画像である。
図3】従来の透明電極の表面を、SEMを用いて5000倍で観察したときの画像である。
図4】本発明の一実施形態に係る透明電極の製造方法を示す概略工程図である。
図5】本発明の一実施形態に係る透明電極を有機EL素子に用いたときの評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態に係る透明電極、透明電極用積層体及びそれらの製造方法について、図面を参照しながら説明する。図1は、透明電極用積層体100の断面模式図である。図1に示すように、透明電極用積層体100は、透明基材110と、透明基材110上に位置する導電層120と、導電層120上に位置する離型性基材130によって構成される。導電層120から離型性基材130を剥離することによって、透明電極200を得ることができる。各構成要素について、順に説明する。
【0024】
<透明基材>
透明基材110は、可視光に対して透過性を有する材料で構成されたもので、例えば無機材料又はプラスチック材料で構成される。
【0025】
透明基材110を構成する無機材料としては、例えば、石英、サファイア、ガラスなどが挙げられる。また、透明基材110を構成するプラスチック材料としては、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)、ジアセチルセルロース、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、ポリアクリレート、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、などが挙げられる。
【0026】
また、透明基材110としては、長尺のフィルム状又はシート状のものが使用され、透明基材110の厚みは、生産性の観点から、例えば10〜200μmであることが好ましい。透明基材110には、あらかじめ、導電層、バリア層、反射防止層、防眩層、接着層、障壁層及びハードコート層などの層を1つ以上設けておくことができる。また、プラズマ処理、紫外線処理、コロナ処理などの表面処理を施しておくこともできる。
【0027】
<導電層>
導電層120は、複数の導電性繊維121と、分散剤(図示せず)と、これらを覆う接着性樹脂122から構成される。導電性繊維121と分散剤は、後述のとおり、導電性繊維インクを、離型性基材130に塗工し、乾燥させることで、乾燥膜150として離型性基材130上に形成されたものである。導電層120表面を走査型電子顕微鏡(日本電子製JMS−6510EL)で観察すると、例えば図2に示すように複数の導電性繊維121(白く繊維状に見えるもの)が導電層120表面上で横たわっており、このため表面導電性が良好である。これに対して、従来の透明電極であれば、例えば図3に示すように導電性繊維121の一部分が接着性樹脂122に埋もれたものが複数個所でみられる(接着性樹脂122に埋もれていない部分は白くみえるものの、埋もれている部分は、薄暗く鮮明に見ることができない。有機EL素子に用いた場合、かかる部分が発光ムラとして発現する)。
【0028】
<導電性繊維インク>
導電性繊維インクは、導電性繊維121、分散剤及び溶媒を含むように構成される。導電性繊維インクにおいて、導電性繊維121に対する分散剤の重量比は0.24以下に調整される。さらに、導電性繊維121に対する分散剤の重量比は、表面導電性の観点から、0.04以下が好ましい。この場合、得られた透明電極200を有機EL素子に用いると、発光効率及び均一発光性が良好となる。導電性繊維インクにおける導電性繊維121の含有量は、導電性繊維121に対する分散剤の重量比が0.24以下(好ましくは0.04以下)となるように調整されれば特に制限されないが、導電性繊維121は好ましくは0.05〜1.4重量%含まれる。また同様に、導電性繊維インクにおける分散剤の含有量は、導電性繊維121に対する分散剤の重量比が0.24以下(好ましくは0.04以下)となるように調整されれば特に制限されないが、分散剤は好ましくは0.01〜0.5重量%含まれる。また、導電性インクは適宜、界面活性剤等の添加剤を含むように構成され、界面活性剤としては例えば0.0025〜0.1重量%含まれるように構成される。
【0029】
<導電性繊維>
導電性繊維121は、導電性を有し、かつその繊維長が繊維径に比べて十分に長い形状を持つものである。導電性繊維121は、例えば中空チューブ状、ワイヤ状、ファイバー状のものであり、例えば金属でコーティングした有機繊維や無機繊維、導電性金属酸化物繊維、金属ナノワイヤ、炭素繊維、カーボンナノチューブ等が挙げられる。複数の導電性繊維121が互いに接触し合うことによりネットワークが形成されて、良好な導電性が発現される。また、導電性繊維121の存在しない部分を光が透過するため、良好な透明性が発現される。透明性及び導電性の観点から、導電性繊維121は、金属ナノワイヤが好ましい。導電性繊維121の製造方法としては、特に限定されるものではなく、公知のものが用いられる。
【0030】
<金属ナノワイヤ>
金属ナノワイヤは金属から構成されたものであって、構成元素としては、例えばAg、Cu、Au、Al、Rh、Ir、Co、Zn、Ni、In、Fe、Pd、Pt、Sn、Ti等から選択される1種類以上のものが挙げられる。また、これらの合金、酸化物、メッキされたものであってもよい。
【0031】
金属ナノワイヤは微細なワイヤ状の形状を有する。平均繊維径は、透明性及び導電性の観点から、例えば10〜200nmであることが好ましく、10〜100nmであることがより好ましく、10〜50nmであることがさらに好ましい。平均繊維長は、導電性及び透明性の観点から、例えば1〜100μmであることが好ましく、1〜50μmであることがより好ましく、3〜50μmであることがさらに好ましい。
【0032】
<分散剤>
分散剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、既知の透明な、天然高分子樹脂、合成高分子樹脂、などが挙げられ、熱可塑性樹脂であってもよく、また、熱、光、電子線、放射線で硬化する熱(光)硬化性樹脂であってもよい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。熱可塑性樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリメチルメタクリレート、ニトロセルロース、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、フッ化ビニリデン、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、2−ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、などが挙げられる。熱(光)硬化性樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メラミンアクリレート、ウレタンアクリレート、イソシアネート、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル変性シリケート等のシリコーン樹脂、アジド基やジアジリン基などの感光基を主鎖及び側鎖の少なくともいずれかに導入したポリマー、などが挙げられる。特に、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、2−ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロースなどのセルロースエーテルが好ましい。
【0033】
<界面活性剤>
界面活性剤は、導電性繊維121の腐食を防止するものが用いられ、例えば、フッ素系、ノニオン系、カチオン系の界面活性剤が挙げられ、フッ素系界面活性剤が好ましい。
【0034】
<溶媒>
溶媒は、導電性繊維121を分散させるものが用いられ、例えば、水、アルコール(エタノール、イソプロピルアルコール等)、ケトン、エーテル、炭化水素、芳香族溶剤(ベンゼン、トルエン、キシレン等)及びこれらを組み合わせたものが挙げられる。導電性繊維121を均一に分散させる観点から、50質量%以上の水で構成される水系溶媒が好ましい。
【0035】
<接着性樹脂>
接着性樹脂122は、導電性繊維121と透明基材110が接着できるものが用いられ、例えば、熱硬化型樹脂、紫外線硬化型樹脂、電子線硬化型樹脂などの硬化型樹脂や、熱可塑性型樹脂が挙げられる。また、接着性樹脂122は、例えば、水に分散した水分散系、溶剤に溶かした溶剤系、無溶剤系、フィルム状(シート状)などの形態で用いられる。フィルム状(シート状)の接着性樹脂122としては、光学用透明粘着(OCA)テープが好ましい。接着性樹脂122は、透明基材110上に形成して、透明基材110と乾燥膜150を貼合させることもできるし、また乾燥膜150上に形成して貼合させることもできる。また、あらかじめ透明基材110に接着性樹脂122が形成されたものを用いてもよい。そして、透明基材110と乾燥膜150の貼合は、使用する樹脂に合わせ、例えば、紫外線照射、加圧、ドライラミネート、熱ラミネートなどの公知の方法によって行われる。接着性及び作業性の観点から、無溶剤紫外線硬化型樹脂を用いて、紫外線照射することが好ましい。
【0036】
<離型性基材> 離型性基材130は、導電層120から剥離できるものが用いられ、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などの合成樹脂の単層あるいは複数層からなる基板やフィルムが用いられる。さらにガラス基板や金属基板を用いることもできる。また、離型性基材130の表面には、必要に応じてシリコーン樹脂やフッ素樹脂、ワックスなどの離型剤を塗布して表面処理を施すことができる。
【0037】
離型性基材130は、表面が平滑なものが用いられる。具体的にはJIS B 0601(2001)に準拠し、算術平均粗さ(Ra)について、Ra≦10であることが好ましく、Ra≦5nmであることがより好ましく、Ra≦3nmであることがさらに好ましく、Ra≦1nmであることが特に好ましい。また、最大高さ(Ry)について、Ry≦50nmであることが好ましく、Ry≦40nmであることがより好ましく、Ry≦30nmであることがさらに好ましい。離型性基材130表面の平滑性が導電層120に写ることから、離型性基材130が剥離された後の導電層120表面の平滑性が良好となり、例えばRa≦10となり、好ましくはRa≦5nmであり、より好ましくはRa≦3nmであり、さらに好ましくはRa≦1nmである。
【0038】
次に、本発明の一実施形態に係る透明電極200の製造方法について説明する。図4は透明電極200の製造方法を示す概略工程図である。導電性繊維121に対する分散剤の重量比を調整した導電性繊維インクを準備し、図4(a)に示すように、これを離型性基材130上に塗工し、ウェット膜140を形成する。導電性繊維インクの塗工は、公知のものが用いられ、例えば、スロットダイコータ、ロールコータ、バーコータ、ナイフコータ、スクイズコータ、ファンテンコータ、キスコータが用いられる。導電性繊維インクを均一に塗工する観点から、スロットダイコータが好ましい。ウェット膜140は、厚みが例えば、1〜50μmとなるように塗工される。
【0039】
続いて、図4(b)に示すように、ウェット膜140を乾燥させ、離型性基材130上に、導電性繊維121、分散剤(図示せず)からなる乾燥膜150を形成する。導電性繊維121に対する分散剤の重量比が0.24以下に調整されていると、導電性繊維121は、離型性基材130面上で立ち上がったまま維持されることなく、離型性基材130面上で寝そべり、横たわる。そして、その状態で、導電層120を形成すると、導電層120表面で導電性繊維121が横たわりつつ、導電性繊維121の表面が露出しているからだと考えらえる。これに対し、導電性繊維121に対する分散剤の重量比が0.24以下に調整されていないと、導電性繊維121が立ち上がったまま維持され、これにより導電性繊維121の一部分が接着性樹脂122に埋もれ、横たわっておらず、導電層120表面に露出しない導電性繊維121が多く存在するようになるものと考えられる。導電性繊維121は、乾燥膜150において、例えば、5〜250mg/m、好ましくは50〜200mg/mとなるように塗工される。また、調整した導電性繊維インクのもとにおいては、表面導電性の観点から、乾燥膜150における導電性繊維121の量をX、導電性繊維121に対する分散剤の重量比をYとした場合に、Y≦0.0008x+0.04を満たすように塗工することが好ましい。
【0040】
そして、図4(c)に示すように、乾燥膜150上に接着性樹脂122を形成し、接着性樹脂122を介して乾燥膜150と透明基材110を貼合する。これにより、透明基材110、導電層120、離型性基材130からなる透明電極用積層体100を得ることができる。接着性樹脂122の塗工や、乾燥膜150と透明基材110の貼合は、公知の方法が用いられる。接着性樹脂122は、厚みが例えば、1〜20μmとなるように設定される。
【0041】
最後に、図4(d)に示すように、導電層120表面から、離型性基材130を剥離することにより、透明電極200を得ることができる。このとき、離型性基材130の平滑性が導電層120表面に写っており、良好な平滑性が得られる。
【0042】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の具体的な態様は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態において、接着性樹脂122を介して乾燥膜150と透明基材110を貼合して導電層120を形成したが、乾燥膜150にオーバーコート剤を塗工して、導電性繊維121、分散剤及びオーバーコート剤から構成される導電層を形成してもよい。オーバーコート剤は、各導電性繊維121を固着するものが用いられ、例えば、熱硬化型樹脂、紫外線硬化型樹脂、電子線硬化型樹脂などの硬化型樹脂が挙げられる。そして、オーバーコート剤の塗工厚みを十分に厚くすれば(例えば20μm以上)、接着性樹脂122と透明基材110の機能を果たすことができる。この場合、透明基材110の貼合を省略することができ、代わって、離型性基材130と導電層から構成される透明電極用積層体、導電層から構成される透明電極を得ることができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0044】
<銀ナノワイヤインク>
導電性繊維として銀ナノワイヤ(平均繊維長15μm、平均繊維径30nm)を0.8重量%、分散剤としてヒドロキシプロピルメチルセルロースを0.25重量%(銀ナノワイヤに対する分散剤の重量比は0.31)、水系溶媒を98.95重量%含む銀ナノワイヤインク(導電性繊維インク)を準備した(インクNo.1)。
【0045】
インクNo.1の銀ナノワイヤインクにおいて、銀ナノワイヤを0.8重量%、分散剤を0.19重量%(銀ナノワイヤに対する分散剤の重量比は0.24)含むように変更した(インクNo.2)。
【0046】
インクNo.1の銀ナノワイヤインクにおいて、銀ナノワイヤを0.8重量%、分散剤を0.11重量%(銀ナノワイヤに対する分散剤の重量比は0.14)含むように変更した(インクNo.3)。
【0047】
インクNo.1の銀ナノワイヤインクにおいて、銀ナノワイヤを0.8重量%、分散剤を0.03重量%(銀ナノワイヤに対する分散剤の重量比は0.04)含むように変更した(インクNo.4)。
【0048】
<透明電極>
離型性基材として厚み100μmの離型性PETであり、Ra=3nm、Ry=22nmのものを準備した。また、透明基材として厚み700μmのガラスを準備した。また、接着性樹脂として、無溶剤紫外線硬化型樹脂を準備した。そして、インクNo.1〜4の銀ナノワイヤインクそれぞれについて、離型性基材上に、銀ナノワイヤの量が73、92、147、183mg/mのそれぞれとなるように塗工し、乾燥させた(合計16種類)。そして、透明基材上に接着性樹脂を塗工し(厚み10μm)、これに乾燥膜を貼合し、離型性基材の上から紫外線を照射して接着性樹脂を硬化させ、透明電極用積層体を作製した。透明電極用積層体から離型性基材を剥離することで、透明電極を得ることができる。
<有機EL素子>
透明電極の表面導電性を評価するために、作製した透明電極を用いて、蒸着装置により、30mm×30mmの大きさの有機EL素子を作製した。有機EL素子は、銀ナノワイヤを用いて作製した透明電極を陽極として、その上に、正孔注入層としてMoO(膜厚10nm)、正孔輸送層としてNPD(膜厚40nm)、発光層としてAlq(膜厚30nm)、電子輸送層としてDPB:Liq=75:25(膜厚43.5nm)、陰極としてAl(膜厚100nm)を順に形成したものである。インクNo.1で銀ナノワイヤの量が73、92、147、183mg/mの透明電極を用いた有機EL素子それぞれを比較例1−1〜4とした。同様に、インクNo.2によるものを実施例1−1〜4、インクNo.3によるものを実施例2−1〜4、インクNo.4によるものを実施例3−1〜4とした。
【0049】
<透明電極の評価>
作製した有機EL素子にソースメータ(ケースレーインスツルメンツ社製、2400)を用いて電流A(mA/cm)を印加し、作製した有機EL素子を発光させた。このとき、ソースメータより駆動電圧V(V)を求め、色彩輝度計(コニカミノルタ株式会社製、CS−200)より有機EL素子の正面輝度L(cd/m)を測定した。そして、これらの値と有機EL素子の発光面積S(m)とから、視感発光効率η(lm/w)を、式η=(π×L×S)/(V×A)より算出した。また、発光する有機EL素子を光学顕微鏡(オリンパス株式会社製、MX50)を用いて倍率50倍で観察し、発光均一性を評価した。全体が均一に発光しているものを○、全体がほぼ均一に発光しているものを△、発光ムラが見られるものを×と評価した。視感発光効率及び発光均一性の評価を表1及び図5にまとめる。
【0050】
【表1】
【0051】
表1より、比較例1−1〜4によれば、視感発光効率が2lm/w以下となった。これに対し、銀ナノワイヤに対する分散剤の重量比が0.24以下である実施例1−1〜3−4によれば、視感発光効率が2lm/w以上となった。これは、銀ナノワイヤに対する分散剤の重量比を0.24以下にすることで、導電層の表面で銀ナノワイヤが横たわり、表面導電性が良好となった結果と考えられる。また、図5より、銀ナノワイヤの量をX、銀ナノワイヤに対する分散剤の重量比をYとした場合に、Y≦0.0008x+0.04を満たすように塗工することで、表面導電性がより良好となり、全体がほぼ均一に発光する結果となった。そして、Y≦0.04にすることで、表面導電性がさらに良好となり、銀ナノワイヤの塗工量に関わりなく、全体が均一に発光した。この均一に発光するという結果は、正孔注入層の膜厚が10nm、正孔輸送層の膜厚が40nmと薄い膜厚にもかかわらず得られたものである。
【符号の説明】
【0052】
100 透明電極用積層体
110 透明基材
120 導電層
121 導電性繊維
122 接着性樹脂
130 離型性基材
140 ウェット膜
150 乾燥膜
200 透明電極

図1
図2
図3
図4
図5